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ミステリの祭典

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緯度殺人事件
ヴァルクール

作家 ルーファス・キング
出版日2016年04月
平均点6.00点
書評数4人

No.4 6点 E-BANKER
(2022/03/22 18:06登録)
全部で10作前後の作品を発表した作者の代表作とも言えるのが本作。
作者自身貨物船の無線技師を務めていたことが、船上ミステリーである本作に取り組む理由になっていたのかも。
1930年の発表。

~十一人の乗客をのせて出航した貨物船「イースタン・ベイ」号。陸上との連絡手段を絶たれた海上の密室で、連続殺人事件の幕が上がる。ルーファス・キングが描くサスペンスフルな船上ミステリー。ヴァルクール警部補シリーズ第三作~

これぞ「船上ミステリー」とでも言うべき作品。
謎めいた多くの乗客、連続殺人事件、そして船の航路を捻じ曲げようとする(?)真犯人の不穏な動き・・・
「船」という密室はやはりミステリーとして絶好の舞台装置なのだろう。数多の作家たちが船上ミステリーにチャレンジする理由も頷ける。

で、本作についてなのだが、他の方も書かれているとおり、序盤から中盤にかけては実に良い。
探偵役となるヴァルクールも序盤こそ動きが鈍かったものの、中盤すぎから面目躍如の活躍で、乗客ひとりひとりに嫌疑をかけ、彼らの怪しい行動や過去を詳らかにしようとする。
殺人事件が続き、ヴァルクールが事件解決の「鍵」を手にして、物語も最高潮に達したところで、残った乗客たちを集めて行われる真相解明の場面。
本格ミステリーのまさに醍醐味なのだが、この真相は、うーん。
決して悪くはない。意外性もまずまずあるし、伏線も回収できている。でもちょっと納得感が薄いというか、真犯人は影の主役とも言われるけど、この真犯人って、ドラマの最後のテロップでいうとその他大勢として出てくる役の人っていうくらいの存在なんだけどな・・・
まぁ、ロジック云々というタイプの作品ではないけど、フーダニットとしてはもう少し工夫があってもよかったような・・・

あとは「緯度」の問題だけど、各章の冒頭すべてで「北緯〇〇度、西経△△度」という船の位置が記され、それが終盤には「・・・」という仕掛けがなされている。でも、それがミステリーのプロットとしては活かされてないような気が・・・
ちょっと難癖っぽいところだけど、その辺は気になった部分。
でも、悪くはないと思う。うん、決して悪くはない。

No.3 5点 nukkam
(2017/02/21 16:21登録)
(ネタバレなしです) 米国のルーファス・キング(1893-1966)は1920年代後半から1930年代までは全11作のヴァルクール警部補シリーズの本格派推理小説が創作の中心を占め、1940年代からはサスペンス小説系の非シリーズ作品や短編ミステリーに力を入れたそうです。1930年発表のヴァルクール警部補シリーズ第3作の本書は船員として働いたこともある作者の経験が活かされた船上ミステリーです。正体不明の殺人犯を追って貨客船に乗り込んだヴァルクールですが冷酷な犯人は無線係を殺害してしまいます。本土から捜査情報をヴァルクールに伝えようとするのですが(無線係が死んだため)連絡できない状況が何度も描かれてサスペンスが盛り上がります。同時代のヴァン・ダインやエラリー・クイーンと比べるとやや通俗的な文体ですが読みやすさは抜群で前半から中盤にかけては文句なく面白いのですが、結末の真相説明は本格派推理小説としては推理が不十分で残念レベルです。他の容疑者を犯人として置き換えても問題ないようにさえ感じてしまいました。

No.2 7点 人並由真
(2016/06/19 04:16登録)
(ネタバレなし)
 今回の完訳・新訳版で初読。

 洋上のクローズドサークルものという大枠の中で、素性を読者に明かさないまま殺人劇を繰り返す犯人の描き方、少しずつ語られていく登場人物の前身への興味の盛り上げ方…など、ストーリーの進め方も好テンポな犯人捜しパズラーで、これはなかなか良い。特に探偵役のヴァルクール警部補が船上の客たちに順番に証言を求めると、それぞれの関係者の証言がまた次の人物にリンクしていくあたりの話の流し方など職人作家的な意味での作者のうまさを感じる。

 最後の真相はやや力技だが意外性は十分に合格点で、ヴァルクールから犯人へのある手際などにもニヤリとさせられる。それと大事なのは、舞台装置である洋上を航行する客船をちゃんとエンターテインメントとしての大道具に使っていることで、このへんの娯楽ミステリとしての上手さは好印象。ヴァルクールも特にプライベートな肖像など語られているわけでもない普通の警察官探偵なんだけど、丁寧で泰然とした捜査ぶりは地味に魅力的。ルーファス・キングはもっと紹介してもらいたい。

No.1 6点 kanamori
(2016/05/16 19:04登録)
ヴァルクール警部補は、バミューダー諸島を出航する貨客船内に、ニューヨークで発生した殺人事件の容疑者が紛れ込んでいると睨み同船に乗り込む。しかし、無線通信士が殺され、陸上と連絡を断たれたことで容疑者の情報が入手できないうえに、あらたに殺人が発生する---------。

バミューダー諸島からアメリカ東海岸沖を北上しカナダに向かう貨客船内が、物語の冒頭から最終章の解決編まで全編にわたり舞台になっている”船上ミステリ”です。陸上と通信を断たれた海上の密室、乗客も11名という小型の貨客船ということが、よりクローズド・サークル物のサスペンスを増しています。
また、各章のタイトルが、船の現在地を示す”北緯と西経”の数値で表されているのもユニークで、そのことが後半になってから効いてきます。
ただ、謎解きミステリとしては、ちょっとモヤモヤ感が残ります。以前読んだ「不変の神の事件」は、けっこう面白かった憶えがあります(内容を忘れているので、どこが面白かったか不明ですw)が、本書の出来はそれにはやや及ばないかなと。船客のうち、重要人物であるプール夫人の過去に関係する”ある人物”を巡る謎や、奇妙な盗難の続発など、途中まではそれなりに惹きつけるものがありますが、解決がいやにあっさりなので、想像で補わなければならない部分があるような。関係者を一堂に集めた丁寧な謎解き説明が欲しかった。

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