home

ミステリの祭典

login
ラスキン・テラスの亡霊
ジョン・バイパー&クインシリーズ

作家 ハリー・カーマイケル
出版日2017年03月
平均点5.00点
書評数2人

No.2 5点 人並由真
(2017/10/06 16:16登録)
(ネタバレなし)
 論創のHPやAmazonの告知でも、刊行前のしばらくの間、作者名が「マーマイケル」と書かれていた不遇の一冊。多くの人が関わって作られる一冊が送り手側にも軽んじられているようで、あんまり楽しくない。

 冒頭、服毒による変死を遂げた人気作家ペインの妻エスター。これは自殺か何者かによる殺人か? 
 うーん……。とにかく地味。
 当然ながらこの設定だから、死んだエスターに自殺の可能性や動機があったのかの検証が為され、それゆえ『ヒルダよ眠れ』(1950年作品~本書の3年前の原書刊行)的な一種の被害者小説の側面も見せていくんだけれど、そちらへの踏み込みも中途半端。最後の真相への経緯まで含めて、もっととんがった人物造形にすればいいのに、と思う(これでも、たぶんネタバレにはなってないハズだ)。
 あと第二の事件の方は、この決着でいいのかね。いやミステリ的に、というよりは、ストーリー的に××××じゃないかと。
 まあラストのまとめ方は悪くなかった。
 評点は4点にかなり近いこの点数。  

No.1 5点 nukkam
(2017/03/14 19:23登録)
(ネタバレなしです) 1950年代から1970年代にかけて活躍した英国のハードボイルド作家であるハートリー・ハワード(1908-1979)はハリー・カーマイケルという別名義で本格派推理小説を発表しています。ハワード名義で長編44作、カーマイケル名義で長編41作というかなりの多作家です。本書は1953年発表のジョン・バイパー&クインシリーズ第3作の本格派推理小説です。海外本格派推理小説の黄金時代は1920年に始まり第二次世界大戦の終結と共に終わったという説がありますがなるほどカーマイケルの作品はプロットは地味だし文章表現も抑制が効いていてしかもやや暗めで(論創社版の巻末解説では「内省的でウエット」な作風と評価しています)、黄金時代の派手なミステリーとは対照的です。自殺の可能性も十分ある怪死事件を保険会社の調査員であるバイパーが丹念に調べていきます(新聞記者のクインの出番は案外と少ないです)。秘められた悪意を探り出すようなバイパーの尋問と感情の爆発をぎりぎりこらえているような容疑者たちの態度が不思議なサスペンスを生み出しています。謎解き伏線はそれなりに揃っているようですがバイパーが推理の過程をそれほど詳細には説明しないので、謎解きパズル要素を求める読者は少し消化不良を感じるかもしれません。

2レコード表示中です 書評