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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2901件

プロフィール| 書評

No.1941 6点 謎解きはスープが冷める前に
コニー・アーチャー
(2017/11/25 23:12登録)
(ネタバレなしです) 様々な職業を経験した米国のコニー・アーチャーが2012年に発表したデビュー作であるラッキー・ジェイミソンシリーズのコージー派の本格派推理小説です。故郷を離れていたラッキーが冒頭で両親を事故死で失い、唯一の家族となった祖父のジャックは認知症の疑いがあり、両親が残したスープ・レストラン(シチューやサンドイッチも出ます)は赤字経営と、のっけから不幸のオンパレードでコージー派ならではの明るく楽しい雰囲気は期待できません(過度に暗くもありませんけど)。そして殺人事件容疑者でレストランスタッフが逮捕となりレストランは閑古鳥状態。やむを得ずラッキーはにわか探偵となって事件関係者を問い詰めていきますが当然のごとく空回りと混乱の連続です。お世辞にも有能には見えないネイト警察署長から「突拍子もない想像」とまで言われてしまう始末。でも運任せでなく一応は推理で犯人を当てましたね。


No.1940 5点 宇宙神の不思議
二階堂黎人
(2017/11/19 21:43登録)
(ネタバレなしです) 幽霊とか伝説の呪いとかを謎解きにからめたオカルト本格派推理小説ならジョン・ディクスン・カーの作品群を筆頭にそれなりの数が出回っていますが、宇宙人の仕業ではという謎解きにSFでない合理的な回答を用意する本格派推理小説は(私の極めて限られた読書経験範囲内ですが)珍しいと思います。2002年発表の水乃サトルシリーズ第4作(学生サトルとしては第2作)の本書でそれに挑戦した作者の意欲は高く評価したいのですが、その出来栄えとなると個人的には微妙な感想になってしまいます。角川文庫版で700ページを越す分量がまずきつかったです。同じ作者でも例えば二階堂蘭子シリーズの「悪霊の館」(1996年)とか「人狼城の恐怖」(1998年)などは登場人物数もページ数も本書以上の大作ですが冗長な感じはしなかったのですけど。宇宙神を信仰する宗教団体を登場させたのが問題だったかもしれません。プロット上の重要な役割を与えてはいるのですがせっかくの宇宙の謎がぼやけてしまったような気がします。また宇宙人による(と思われる)誘拐トリックは「そこまで万能なトリックなの?」と突っ込みたくなるような好都合な使い方で、かえって腰砕けの印象が残ってしまいました。


No.1939 5点 シャーロック・ホームズの事件録 芸術家の血
ボニー・マクバード
(2017/11/16 08:53登録)
(ネタバレなしです) アメリカのボニー・マクバートはハリウッド映画界で脚本家やプロデューサーとして活躍、女優でもあり水彩画の画家でもある多才ぶりです。小説としてのデビュー作がシャーロック・ホームズのパスティーシュ三部作の第1作として2015年に発表された本書です。作中時代はワトソンが結婚したばかりの頃で、ホームズが取り組む事件は国際規模の芸術品盗難事件(それに付随して4人もの人間が殺されてます)と少年の行方不明事件、どちらも背後には有力な貴族の存在が見え隠れしています。ハーパーBOOKS文庫版の巻末で解説されているように(過激にグロテスクな描写ではありませんが)犯罪の暗黒面の描写や派手なアクション場面はコナン・ドイルの原作の雰囲気とは異なるマクバートの個性です。結末で思い切ったどんでん返しがありますが、(本格派推理小説でないとはいえ)伏線が少ないので唐突感しかありませんでした。登場人物では実在した(世界最初の)探偵フランソワ・ヴィドックの子孫を自称するジャン・ヴィドックが印象的です。ホームズからは用心されていますがどこか憎めないキャラクターで、25章で彼の語る物語はユーモアがにじみ出ています。ホームズはもう少しかっこよく描いてほしかったですね。


No.1938 6点 心霊は乱れ飛ぶ
九鬼紫郎
(2017/11/15 08:59登録)
(ネタバレなしです) 1956年発表の本格派推理小説で、東方新書版の巻末の作者コメントでは「初の長編本格派作品」のように紹介されています。この作者には九鬼澹(くきたん)名義の「動く屍体」(1950年)という作品もあるのですが短めなので長編作品という意識がなかったのかもしれません。このコメントで作者は本格派への志向を前面に出し、「チャンドラーやガードナーのハードボイルド探偵小説から私の学ぶものはない」とまで宣言してますが後年にはハードボイルド小説を発表するようになるのですけどね(笑)。前首相が拘置所にいる心霊術師の予言通りに死んでしまうという怪事件で本書は幕開けします。正体不明の殺人鬼「影」の仕業ではという疑惑も生じて謎は混迷の度合いを増していきます。警察の活躍はようやく終盤になってからで、それまでは怪しげな容疑者が他の容疑者を怪しいと主張するなど誰の言うことを信じればいいのかわからない状況が続きます。トリックには強引過ぎではと思えるのもありますがプロットはそれなりに楽しめました。文章も意外と古臭くなくて読みやすいです。


No.1937 5点 <サーカス・クイーン号>事件
クリフォード・ナイト
(2017/11/12 20:06登録)
(ネタバレなしです) 1940年発表のハントゥーン・ロジャーズシリーズ第8作の本格派推理小説です。東洋の国々を<サーカス・クイーン号>で巡業するサーカス団の団長が死んで水葬されるところから物語が始まります。その死因は飼っているゴリラに殴り殺された(と思われている)というのが衝撃的で、私は思わずE・S・ガードナーの「嘲笑うゴリラ」(1952年)を連想しました。その後も何者かによる侵入、新たな殺人未遂や殺人、証拠品の盗難、脅迫と事件は相次ぎます。舞台も船上だったり陸上だったりと変化します。惜しいのはこの作者の文章力(平明だがメリハリがない)ではサスペンスもいまひとつ、舞台や異国情緒の描写もいまひとつです。探偵役のロジャーズが何と道化師になる場面もありますがこれも盛り上がらず、せっかくいい材料を揃えているのに生煮えに終わってしまった料理みたいです。肝心の謎解きもロジャーズがそれなりのページ数を費やして説明しているにも関わらず、あっけない解決に感じられます。


No.1936 6点 公園には誰もいない
結城昌治
(2017/11/11 22:30登録)
(ネタバレなしです) 松本清張監修による10冊から成る「新本格推理小説全集」の1冊として1967年に発表された真木三部作の第2作です。本格派推理小説としての謎解きもしっかりしていますが、空さんのご講評の通りハードボイルドに分類すべき作品でしょう。無駄のない簡潔でドライな文章は紛れもなくハードボイルドですが生々しい暴力、低俗に過ぎる言動、麻薬や婦女暴行のような卑しい犯罪、マフィアや暴力団のような犯罪組織といった要素はほとんどありませんのでそういうのが合わない読者にも勧められます。tider-tigerさんやkanamoriさんのご講評で評価されているように「公園には誰もいない」は作中の悲劇のヒロインであるシャンソン歌手の持ち歌のタイトルでもあるのですが、事件の虚しさと哀しさを読者に訴えるのに実に効果的に使われています。


No.1935 5点 U路線の定期乗客
クロード・アヴリーヌ
(2017/11/11 16:08登録)
(ネタバレなしです) 書かれたのは1940年から1942年にかけてながら第二次世界大戦のため出版が1947年になったフレデリック・ブロシリーズ第3作です。シリーズ第1作ながらブロ最後の事件であった「ブロの二重の死」(1932年)に対して本書は作中時代的には1番最初のようです。シリーズ異色作でもあった「ブロの二重の死」に比べれば本書はある意味対極的に普通の本格派推理小説といえるのですが、ビギナー読者向けとは思えません。「ブロの二重の死」の創元推理文庫版(300ページに満たない)と比べて本書(やはり創元推理文庫版)のページ数は約500ページの厚さがあり、しかも「ブロの二重の死」のよりも活字が小さいため実質的には倍以上の分量です。登場人物が単に多いだけでなく登場人物リストに載っていない人物も多数入り乱れます。第一部第3章のタイトルについて第5章でやっと読者に説明されたり、第二部で番号外の章を挿入したりしているのは作者のお遊びかもしれませんが無駄に冗長にしているだけという気がします。文章もまわりくどい表現が多くて読みにくいです。第二部10章から14章にかけてブロ(ともう1人の重要人物)によって謎解き説明されますがそこで解明されるのは謎の半分だけ。残りは後の章に持ち越されますが、それは(本格派の)推理による謎解きでないという展開も読者の好き嫌いが分かれそうです。


No.1934 4点 砧最後の事件
山沢晴雄
(2017/11/04 23:35登録)
(ネタバレなしです) 山沢晴雄(1924-2013)が79歳にして書き上げた2004年発表の砧順之助シリーズ第4長編でシリーズ最終作となった本格派推理小説です。高齢ゆえ筆が淡白になるというのはこの作者は当てはまりません。緻密で難解な謎解きプロットが持ち味ですが本書は構成までもが入り組んでます。作中作である「見えない通路」で始まり、これの問題編が終わったところでやはり作中作として諏訪警部が手掛ける「唄う白骨」が続きます。これが相当もつれたところで今度は隠岐警部が手掛ける現実の事件の謎解きが始まります。どの謎解きも複雑難解な上に、モジュール型警察小説のように入れ替わり立ち替わりとなるプロットには頭がくらくらします。さらに終盤にとどめとばかりに新たな作中作として「密室1952」が挿入されます。おまけに過去のシリーズ作品を読んでないとわからない仕掛けまであるのです(私は読んでましたがよくわかりませんでした)。砧はシリーズ後期になるほど存在感が薄まってしまいますが本書に至ってはもうシリーズ番外編といってもいいのでは。


No.1933 5点 絶版殺人事件
ピエール・ヴェリー
(2017/11/04 22:29登録)
(ネタバレなしです) 森英俊がフランス最良のミステリー作家と評価したピエール・ヴェリー(1900-1960)は大人になっても夢やロマンを追い続けた作家で、30冊ほど書いたミステリーに対しても「詩的でユーモアに富んだものにすること」を目指していたそうです。1929年発表のデビュー作は非ミステリー作品ですがミステリーデビュー作は1930年発表の本格派推理小説である本書です。船上での毒殺事件は一見単純で、第1章の第9部で警察が挙げた仮説ぐらいしか可能性がなさそうに思えますがなかなか大胆な真相を用意しています。謎解き伏線もそれなりに用意してあります。後半になるともつれにもつれる展開となりますが、前半の事件と後半の事件の関連性が思ったより弱いのが惜しいです。これなら2つの作品に分けてもよかったのでは。


No.1932 5点 無人島の首なし死体
藤原宰太郎
(2017/11/04 21:56登録)
(ネタバレなしです) 1988年発表の久我京介シリーズ第2作の本格派推理小説です。この作者ですと古今のミステリーのネタバレが気になるところですが果たして作中でネタバレの大盤振る舞い(笑)。首なし死体はエラリー・クイーンの「エジプト十字架の謎」(1932年)にクレイトン・ロースンの「首のない女」(1940年)、アリバイ・トリックはアガサ・クリスティーの「シタフォードの謎」(1931年)にロイ・ウインザーの「死体が歩いた」(1974年)、密室トリックは斎藤栄の「国会議事堂殺人事件」(1978年)がネタバレされていますのでまだ未読の方はお覚悟を。トリックが小粒なのはまあ仕方がないところでしょうが、手掛かりに基づく推理というよりは思いつきが当たったレベルの謎解きにしか感じられないのが少々不満です。


No.1931 5点 殺意のバックラッシュ
ポーラ・ゴズリング
(2017/11/04 01:13登録)
(ネタバレなしです) 1989年発表のストライカーシリーズ第2作の警察小説です。連続警官殺し(序盤で早々と4人殺されます)の犯人探しプロットです。冒頭で犯人が自分の賢さを自画自賛しているような場面がありますが、殺人手段のほとんどが遠距離からの狙撃ということでは知能犯らしさが感じられません。姿の見えない犯人相手にストライカーたちの捜査は後手に回ることが多く、特に肝心のストライカーのミスが目立つありさまで他の捜査官の方がお手柄ではという気がします。ハヤカワ文庫版の巻末解説ではこのシリーズを「クラシックパズラーに近い」と評価していますが本書に関しては、登場人物の1人が「確信は正しかった。だが、間違っていた可能性もある」と述懐しているように丁寧な推理で犯人を絞り込む本格派推理小説の味わいは少なく、作者都合でいくらでも(他に)犯人を仕立てられるような気がします。サスペンスがなかなかの切れ味でどんでん返しも上手く嵌っています。


No.1930 6点 コール
結城恭介
(2017/10/29 17:13登録)
(ネタバレなしです) 1995年発表の雷門京一郎シリーズ第2作の本格派推理小説です。シリーズ前作の「殺人投影図」(1994年)と比べるとユーモアはほとんど見られず、理系要素が格段に強くなります。第2章で登場人物の1人が(当時の)ハイテクの産物として「留守番電話、ファクス、ポケットベル、携帯電話、PHS、パソコン通信、インターネット」を語っていますが、本書に登場するフォンフリーカと名乗る大胆な知能犯がこれらを駆使したトリックの数々で京一郎や警察をきりきり舞いさせます。京一郎以上に「頭がクラシック」な私には完全には理解できませんがトリック説明はとても丁寧で、その中では携帯電話で話している被害者を飛び降り自殺させるトリックがデジタルトリックとアナログトリックを組み合わせたもので印象的です。トリックだけでなく犯人当ての謎解きにもきちんと配慮されています。本書と同年発表で、ネット社会が産み出した犯罪を描いた本格派推理小説の栗本薫の「仮面舞踏会」と読み比べるのも一興かもしれません。


No.1929 6点 とりすました被告
E・S・ガードナー
(2017/10/28 00:12登録)
(ネタバレなしです) 1956年発表のペリー・メイスンシリーズ第50作の本格派推理小説です。麻酔薬を使った治療を受けていた女性が何と殺人を犯したことを告白するという冒頭がなかなか刺激的です。告白は真実なのか、真実だとしたらこの告白は法廷で証拠になるのかというだけでも興味深いですがこの作者はまだまだひねりを加えます。ビン詰めにして湖に捨てられた毒薬、有能な秘書デラの意外なおせっかい、被害者と被告の意外な関係などが複雑に絡み合いますが、これでもメイスンシリーズの中では地味なプロットです。それでも嘘(であることは読者には明白)の証言でメイスンが追い詰められる法廷場面では緊張感が頂点に達します。ここぞとばかりにかさにかかる宿敵ハミルトン・バーガー検事に対してメイスンが被告人の権利を放棄するかのような勝負手を打ち、一気にどんでん返しの謎解きが繰り広げられます。


No.1928 5点 偽りの墳墓
鮎川哲也
(2017/10/25 12:23登録)
(ネタバレなしです) 1962年発表の短編版(私は未読です)を長編化して1963年に出版された鬼貫警部シリーズ第7作の本格派推理小説です。時刻表や地図が登場するのはこのシリーズらしいのですが単なるアリバイ崩しプロットではありません。重要そうに思えない証拠品で容疑者が顔色を変えたのはなぜかとか、嘘らしい証言だが何のためにそんな嘘をつくのかわからないとか、結構ひねりのある謎が用意されています。しかしりゅうさんのご講評でも指摘されているように、第一の事件の謎解きと第二の事件の謎解きのつながりが弱く、どこか間延びしたプロットに感じられるのは長編化の問題点かもしれません。また鬼貫警部の登場場面が最後の2章だけの上に、斎藤警部さんのご講評で指摘されているようにアリバイトリック説明のかなりの部分が犯人自白によるものという締めくくりも本格派としてはどこか消化不良に感じられました。


No.1927 4点 ヴォスパー号の遭難
F・W・クロフツ
(2017/10/22 13:55登録)
(ネタバレなしです) ジュリアン・シモンズが評論集「ブラッディ・マーダー」(1992年)で「フレンチ警部物のうちでは秀作に属する」と評価した、1936年発表のフレンチシリーズ第14作の本格派推理小説です。序盤は好調です。大西洋を航行中の貨物船ジェイン・ヴォスパー号の船倉で爆発が起き、船員たちの奮闘むなしく沈没してしまう第1章はなかなか劇的です。その後海事審問が開かれ、事故ではなく何者かによる犯罪の可能性が濃厚になり保険会社が探偵を使って調査を開始しますが、その探偵が行方不明になってフレンチの登場になるまでの展開にもよどみがありません。しかしフレンチが失踪者の足どりを追跡する、文字通り「足の探偵」らしさを発揮すると物語の流れは一気にスピードダウンします。捜査が順風満帆でないところがリアリティ重視派の読者にはたまらないのでしょうけど個人的には結構辛かったです。第14章でフレンチが「つぎの三日間はこの事件にかかわって以来もっともつまらない、もっともみのりの薄い日々だった」と述懐してますが、いやいやそこに至るまでも十分じりじりさせられましたよ(笑)。フレンチが最初から「悪党ども」と呼んでいるように複数犯による事件の可能性が高いことも本格派の謎解きとしては好き嫌いが分かれそうです。


No.1926 6点 葬送行進曲殺人事件
由良三郎
(2017/10/21 21:52登録)
(ネタバレなしです) 1985年発表の本書はタイトルから結城鉄平シリーズを期待する読者もいるかもしれませんが非シリーズの本格派推理小説で、音楽に関する描写もありません。とはいっても名探偵役の飄々としたキャラクターは結城鉄平に通じるところがありますが。最初の4章で企業秘密が漏洩し、金庫の中から指紋が発見されたことから守衛の逮捕、そして判決が出たところで一段落します。5章からは舞台ががらりと変わり、葬儀場で棺の中から頭が2つと胴体が1つ、押入れから胴体が1つ発見されるという怪事件の謎解きが始まります。両方の事件に関係する人物がいたことから2つの事件の謎解きは融合し、容疑も転々とします。トリックもありますが一番印象に残るのは犯人の計画の緻密さでした。あまりに細部までこだわり過ぎて間抜けな警察を上手くミスリードできなかったところまで丁寧に謎解き説明されます。


No.1925 6点 雪と毒杯
エリス・ピーターズ
(2017/10/19 13:21登録)
(ネタバレなしです) 1960年発表のシリーズ探偵が登場しない本格派推理小説です。往年のオペラ名歌手が死去するのを看取った遺産関係者たちが帰途で飛行機事故に会い、雪の山村にたどり着きますがその中の1人が毒殺されます。警察の介入はかなり後半になってからで、それまでは容疑者同士が謎解きに取り組むプロットです。最後のアクション場面以外は派手な場面はありませんが思わぬ証言で緊張感が一気に高まるなどサスペンスは十分あり、人物描写にも配慮されていてなかなかの良作です。後年の修道士カドフェルシリーズの謎解きに物足りなさを感じる読者にもお勧めです。


No.1924 4点 牧場に消える
佐野洋
(2017/10/10 16:11登録)
(ネタバレなしです) 1975年発表の本格派推理小説とサスペンス小説のジャンルミックスタイプですが評価に悩む作品でした。ほれ込んだ競走馬の生涯をフィルムに収めようとしている主人公のフィルムが未使用のフィルムとすり返られる事件、そしてその競走馬を育てている牧場を調査していたらしい記者の失踪事件、この2つを中心にした謎解きプロットですがミステリーの謎としては魅力に欠けます。D・M・ディヴァインの作品のように地味な謎でも読み応えのある本格派はあるのですが、本書は残念ながらその域に達していないように思います。動機、トリック、人間ドラマなどそれぞれの要素で最低限の仕事はしていますが、逆に最低限以上のものを感じられず個人的には退屈でした。


No.1923 6点 死者はふたたび
アメリア・レイノルズ・ロング
(2017/10/05 10:01登録)
(ネタバレなしです) シリーズ探偵の登場しない、1949年発表の本格派推理小説です。論創社版の巻末解説で「ハードボイルド風の異色作」と紹介されていますが、周到に用意された謎解き伏線に推理に次ぐ推理と本格派推理小説としての基本はしっかりしています。確かに古典的ハードボイルド作品に登場しそうな私立探偵を主人公にしていて「探偵が何者かに後頭部を殴られて気絶」する常套的な場面までありますけど。死んだと思われた夫が生きていたらしいが果たして本物なのか、という謎で始まるプロットは地味過ぎの感もありますが妻が本物だと証言しても本物か偽者か容易には決着しません。本物なら今までどうしていたのか、偽者ならどんな目的があるのか、偽者なら妻は巧妙に騙されたのかそれとも偽者に脅されて偽証したのかそれとも偽者と知りつつ自ら嘘をついているのかと謎はどんどん膨れ上がり、殺人が中盤まで起きない展開であっても退屈しませんでした。


No.1922 5点 QED 諏訪の神霊
高田崇史
(2017/10/04 19:01登録)
(ネタバレなしです) 2008年発表の桑原崇シリーズの第14作の本格派推理小説です。このシリーズは歴史ミステリーと評価できますが史実の謎解き、文学作品の謎解き、伝説の謎解きなどなかなかバラエティーに富んでおり、後期作品になると神事の謎解きが増えてきます。本書は諏訪大社と祭り(御柱祭や御頭祭)に関する謎解きがメインで、現実の殺人事件(しかも連続殺人事件)の謎解きは扱いが小さいのですがそれもこのシリーズならですね。崇以外に諏訪の人間も議論に加わってなかなか盛り上がりますが崇をもってしてもかなりの難題だったようです(そもそも私は何が謎なのかさえも理解できてないのですが)。しかしその謎が解けると同時に現実の事件も一気に解明されるという展開がなかなか印象的です。俗人の私は十分に理解も納得もできなかったのですが、神事の謎解きと事件の謎解きの絡ませ方は巧妙だと思います。ところで酒を飲みながらの議論場面が多いのですが、最初こそ日本酒でしたが途中からリキュールやカクテルなど洋酒系に走っているのは和風の謎解きにそぐわないと思うのは考え過ぎでしょうか?(笑)

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