nukkamさんの登録情報 | |
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平均点:5.44点 | 書評数:2812件 |
No.1852 | 6点 | 完全恋愛 牧薩次 |
(2017/03/10 08:44登録) (ネタバレなしです) 新進作家の2008年発表のデビュー作と紹介しそうになりますが実は1970年代にデビューしたベテラン作家の別名義による作品で、作者の正体については本書の終盤と巻末解説を読めば判明するようになっています。makomakoさんのご講評の通り、私のようなおじさん読者には気恥ずかしくて手を出すのがためらわれるタイトルですが勇気(?)を出して読んでみると、ある画家の人生記と謎解き本格派推理小説を融合させた意欲作でした。恋愛要素もありますがミステリーですから犯罪は発生しますし憎悪描写もそれなりにあって決して甘い内容ではありません。作中時代が1945年から2007年まで続く壮大なプロットですし、人物関係も複雑な上にしばらく退場してかなり後になって再登場というのもあるので人物リストを作りながらじっくり読むことを勧めます。謎解きとしては問題点も多く、特に最後の事件のトリックの「最後の2つの難関」の真相にはがっかりしましたがパズル性だけでなく物語性も重視する読者なら本書は高く評価できるかもしれません。 |
No.1851 | 5点 | 紙片は告発する D・M・ディヴァイン |
(2017/03/04 09:02登録) (ネタバレなしです) 1970年発表の第9作となる本格派推理小説です。創元推理文庫版の巻末解説で語られているように英語原題の「Illegal Tender」(直訳すれば不正入札)というタイトル、主要舞台は不正疑惑や出世争いの渦巻く町議会、主人公は上司(書記官)と不倫中の女性議員(副書記官)と国内ミステリーならまず社会派推理小説と認識されそうなプロットで、そういうのが好きな読者ならわくわくするでしょうけど本格派好きの私にはちょっと辛い筋運びです(笑)。それでも主人公の探偵役としての行動が活発になる後半は謎解きのサスペンスが盛り返してきますが推理はやや弱く、犯人指摘には有力ではあっても決定的とは思えませんでした(警察も疑惑だけだったと認めています)。 |
No.1850 | 6点 | 歳時記(ダイアリイ) 依井貴裕 |
(2017/03/01 12:25登録) (ネタバレなしです) 1990年発表の多根井理(たねいさとし)シリーズ第2作の本格派推理小説です。自殺した(らしい)女性が書き遺した推理小説(その中にも理が登場します)を理が読んで謎を解くという作中作の構成を採用し、作中作を読み終えたところで「読者への挑戦状」が待ち構えています。論理の積み重ねが圧巻で一体どれだけの謎解き伏線が張ってあったのか、余裕と根気があるなら手掛かり脚注を作成してみるのも一興かもしれません。「読者への挑戦状」の中で「意外性を追求するあまり、無理な作品になってしまいました」とコメントされていますが、なるほど意外というよりも複雑に過ぎて不自然さが目立った感があります(シーマスターさんや江守森江さんのご講評で紹介されている国内作家Tの某作品を連想させる仕掛けは細部までよく説明されていますけど私の読解力レベルでは漠然としか理解できませんでした)。エピローグの犯人メッセージにも矛盾を感じないわけではありません。しかし作者の謎解きへの熱意が十分以上に伝わってくる作品でもあります。余談ですが作中で作者の依井貴裕や探偵役の多根井理のネーミングの由来が紹介されています。 |
No.1849 | 5点 | お菓子の家 カーリン・イェルハルドセン |
(2017/02/26 18:38登録) (ネタバレなしです) カーリン・イェルハルドセン(1962年生まれ)はスウェーデンの女性作家で、デビュー作は1992年発表の非ミステリー作品ですがこれは失敗に終わったらしいです。しかし2008年発表のハンマルビー署シリーズ第1作の本書以降は順風満帆、もともとは三部作の予定だったそうですがこのシリーズは4作目以降も書き続けられています。本書はどこかアガサ・クリスティーの「ABC殺人事件」(1935年)を連想させます。違うところも沢山あります。クリスティー作品は本格派推理小説ですが本書は警察小説で読者が推理に参加する要素はありません。犯人が探偵に殺人予告を送るなど派手でテンポの早い展開のクリスティー作品と比べると本書は同一犯による連続殺人であることに警察が気がつくのさえも物語の後半ですし、何よりも作品全体が(タイトルはメルヘンチックなのに)殺伐として重苦しい雰囲気を漂わせています。でも(ネタバレになるので詳しく書けませんが)やっぱちょっと似ているところがあるんですよね。 |
No.1848 | 4点 | 殺人二都物語 矢島誠 |
(2017/02/23 09:59登録) (ネタバレなしです) 1991年発表の犯罪小説と本格派推理小説のジャンルミックス型の作品です。オースティン・フリーマンやF・W・クロフツの倒叙本格派推理小説とは異なり、犯人の正体は明かしても犯人のトリックについては読者に対して謎のままにしています。14年前の学生時代に人を殺してしまった男がその事実を知る何者からの脅迫状を受け取るところから物語は始まります。殺人犯は脅迫者と思われる人物を殺害し、探偵役(男女の記者コンビ)が真相を追究します。第4章や第5章で予期せぬ出来事に殺人犯を巻き込んで物語にアクセントを付けているのが工夫ですが、全般的には平凡な出来の印象です。人物描写に生彩がなく、気の利いた謎解き手掛かりもなく、最後に明かされるアリバイトリックは強引かつあまりにも好都合的な仕掛けでした。何を長所として紹介すればいいのか困ってしまいました。 |
No.1847 | 5点 | 緯度殺人事件 ルーファス・キング |
(2017/02/21 16:21登録) (ネタバレなしです) 米国のルーファス・キング(1893-1966)は1920年代後半から1930年代までは全11作のヴァルクール警部補シリーズの本格派推理小説が創作の中心を占め、1940年代からはサスペンス小説系の非シリーズ作品や短編ミステリーに力を入れたそうです。1930年発表のヴァルクール警部補シリーズ第3作の本書は船員として働いたこともある作者の経験が活かされた船上ミステリーです。正体不明の殺人犯を追って貨客船に乗り込んだヴァルクールですが冷酷な犯人は無線係を殺害してしまいます。本土から捜査情報をヴァルクールに伝えようとするのですが(無線係が死んだため)連絡できない状況が何度も描かれてサスペンスが盛り上がります。同時代のヴァン・ダインやエラリー・クイーンと比べるとやや通俗的な文体ですが読みやすさは抜群で前半から中盤にかけては文句なく面白いのですが、結末の真相説明は本格派推理小説としては推理が不十分で残念レベルです。他の容疑者を犯人として置き換えても問題ないようにさえ感じてしまいました。 |
No.1846 | 5点 | 死を奏でるギター 大谷羊太郎 |
(2017/02/20 01:06登録) (ネタバレなしです) 大谷羊太郎の出世作は乱歩賞を獲得した「殺意の演奏」(1970年)ですが、それよりも前に書かれて乱歩賞に挑戦した(そして受賞を逃した)本格派推理小説が3作もあります。その1作「美談の報酬」(1967年)に陽の目を見させたいと考えたのか、改訂して「死を運ぶギター」(1968年)として雑誌掲載しました。それをさらにまた改訂して1986年に「死を奏でるギター」として発表しています(私が読んだのはこれです)。作中時代は1985年、主人公の若杉は殺人事件の容疑者となっただけでなく34年前の学生時代に起きたギターの盗難事件の謎解きもしなくてはなりません。ミュージシャン出身の作家だけあって音楽界描写には非常に力がこもっています。謎解きは1960年に起きた密室殺人まで追加される複雑な展開を見せ、盗難トリックに密室トリックさらには通信トリックまで登場します。若杉が自分の無実を証明しようと推理に推理を重ね、その推理が次々に否定される(とまではいかないまでも容疑は晴れない)プロットは独特のサスペンスを生み出しています。粗い印象も受けますが初期作品ならではの力作であることを確かに感じさせます。 |
No.1845 | 5点 | アジアン・ティーは上海の館で ローラ・チャイルズ |
(2017/02/16 08:54登録) (ネタバレなしです) 英語原題が「Ming Tea Murder」の2015年発表の「お茶と探偵」シリーズ第16作のコージー派ミステリーです。チャールストンにわざわざ移築された18世紀の中国の茶館で起こった殺人事件にセオドシアが巻き込まれます。アジア風を意識した演出はそれほど強くなく、どちらかといえば後半の大人のハロウィーンの雰囲気の方が印象に残りました。コージー派らしく謎解きはあっさり目ですが、それでもセオドシアが動機だけでなく手段(凶器)についても捜査しているのがこのシリーズとしては珍しいです(少々中途半端になってしまいましたが)。サスペンスの盛り上げ方もなかなかで、近作ではおなじみになりましたがセオドシアの犯人追跡シーンも劇的です。最後にちょっと危ない場面がありますが意外な人が助けてくれましたね。 |
No.1844 | 3点 | どちらかが彼女を殺した 東野圭吾 |
(2017/02/13 09:54登録) (ネタバレなしです) 多彩な作風の東野には実験的と言えるような作品もありますが1996年発表の加賀恭一郎シリーズ第3作の本書はそんな一冊です。あまりにも有名なので私は読む前に問題の箇所をうっすらと知っていました。普通なら先にネタを知ってしまうのは読書の楽しみを減らしてしまうのですが本書の場合はむしろ失望を減らしたと言う点でよかったのかも。もし何の予備知識もなしで読んでいたら私は失望どころか激怒したかもしれません(私は袋綴じ付きの講談社文庫版で読みました)。主要登場人物は1人の被害者と2人の容疑者と2人の探偵役の少数です。探偵役の1人である主人公は同時に犯人への復讐者でもあり、もう1人の探偵役である加賀刑事の捜査を妨害するというプロットは大変充実していて終盤までは十分に楽しめる内容だったのですが結末の仕掛けであーあです(笑)。当然この仕掛けゆえに有名になったので成功作とは言えるでしょうし、高く評価している人が多いのもわからなくもないのですが本格派推理小説としてこれは読者を馬鹿にしてると感じる人もいるのではないでしょうか。 |
No.1843 | 6点 | 摩天楼のクローズドサークル エラリイ・クイーン |
(2017/02/12 01:43登録) (ネタバレなしです) エラリー・クイーンの代作者たちの中でリチャード・デミング(1915-1983)は10作もクイーン名義の作品を発表しています。その1作である1968年発表の本書は全6作のティム・コリガン警部シリーズ(4作はデミング、2作はタルメッジ・パウエル(1920-2000)の執筆です)の第6作の本格派推理小説です。1965年に実際に起こった北アメリカ大停電と同様の事故を作中で発生させ、しかも高層ビルの高層階での殺人といういかにもアメリカならではの舞台描写が実に魅力的です。ハードボイルド要素など真正クイーン(ダネイとリー)の作品とは異質なところもありますが、ハードボイルドと本格派推理小説の高度な両立という点でJ・C・S・スミスの「摩天楼の密室殺人」(1984年)に匹敵する内容だと思います。 |
No.1842 | 4点 | 毒草師 パンドラの鳥籠 高田崇史 |
(2017/02/09 08:37登録) (ネタバレなしです) 2012年発表の御名形史紋シリーズ第3作です。本格派推理小説としては「魔女の鳥籠」で起きる前半の不思議な出来事の描写が怪異に満ちて魅力的なだけに真相の腰砕け感が極めて残念です。犯人当て要素はほとんどなく、動機の解明に1番力を入れています。御名形は「その人間にとって何が大切なことか、それは、人によって違うのです」ともっともらしいことを言っていますが、この異常な動機を一般読者がどこまで納得できるかは微妙だと思います。 |
No.1841 | 6点 | 厚かましいアリバイ C・デイリー・キング |
(2017/02/05 06:27登録) (ネタバレなしです) 1938年に発表されたABC三部作の第2弾で、英語原題は「Arrogant Alibi」です。アリバイ崩しではありますが容疑者全員にアリバイが成立しているので犯人探しの面白さも両立しており終盤のどんでん返しが鮮やかです。このアリバイ、論創社版の巻末解説で紹介されているように「とうてい読者に解明できるとは思えない」のが弱点ではありますが、トリックが「実行不可能では」と思わせた前作の「いい加減な遺骸」(1937年)と比べるとかなり改善されていて、トリック成立のための伏線が(私は十分に理解できませんでしたけど)細か過ぎるぐらいに用意してあります。人並由真さんのご講評で「ほほえましい」と述べられているのに私も賛同します。もし同時代に山村美沙が活躍していたらきっと自作にアイデアを採用しただろうなと想像しました。 |
No.1840 | 5点 | 灰の迷宮 島田荘司 |
(2017/02/04 22:40登録) (ネタバレなしです) 1987年発表の吉敷竹史シリーズ第7作で本格派推理小説と社会派推理小説のジャンルミックス型ですが事故死した人間の不思議な行動の謎解きという、とらえどころのないプロットで引っ張ります。吉敷の推理は論理的な組み立てが乏しく、「みんなあいつにやられた」の「あいつ」の正体なんかあまりにも飛躍し過ぎの真相にしか感じられませんでした。大胆なトリックを用意してはいるもののトリックの効果がインパクト不足なのも惜しまれます。シリーズ前作の「Yの構図」(1986年)のような社会問題描写の息苦しさがないのは個人的には好みですけど、その分特徴の見えにくい地味な作品になってしまったような気もします。 |
No.1839 | 7点 | 聖エセルドレダ女学院の殺人 ジュリー・ベリー |
(2017/02/01 13:27登録) (ネタバレなしです) 子供向け或いはヤングアダルト向けの作品を得意とする米国の女性作家ジュリー・ベリーが2014年に発表した本格派推理小説です。時代は1890年、舞台は英国の聖エセルドレダ女学院(寄宿学校です)、主人公は7人の女生徒(最年少は12歳)です。彼女たちの目の前で校長先生とその弟が毒死するのですが家に戻りたくない少女たちが死体を隠してしまうことから事件隠蔽と犯人探しが複雑に絡み合う、ユーモアとスリル溢れるプロットになりました。活躍が目立つのは気転のキティ、たくましいアリス、あばたのルイーズですが他の少女たちもなかなかに個性的です。大人読者が読んでも十分楽しめる内容です。 |
No.1838 | 4点 | FBIの殺人 マーガレット・トルーマン |
(2017/01/25 13:05登録) (ネタバレなしです) ドナルド・ベイン代作による1985年発表の警察小説で、FBIで起きた殺人事件(被害者もFBI局員です)をFBI捜査官が調べていくプロットです。捜査担当の男女が実は恋人同士(組織ルールではご法度らしいです)というのが物語としてのアクセントになっており、後半になるとこの関係がややこしくなるのですが主人公に共感できるかは微妙な気がします。読者が推理に参加できる要素はなく、組織の都合に左右される捜査を地味に描いています。結末もやはり組織の論理優先的なところがあってどうもすっきりしませんが、こういうのが現実的なのかなと思わせる結末です。 |
No.1837 | 5点 | 首なし男と踊る生首 門前典之 |
(2017/01/19 08:38登録) (ネタバレなしです) 2015年発表の蜘蛛手啓司シリーズ 第4作の本格派推理小説です。トリックメーカーの作者らしくトリックは複雑かつ豊富です。生首描写がそれほど生々しくないのはありがたいのですが全般的にもやもや感の強い展開で、一体どういう順番で何回首が出現したのか私の読解力レベルではなかなか理解できませんでした。26章の終わりでの自白も中途半端な印象です。 |
No.1836 | 6点 | 誰もがポオを読んでいた アメリア・レイノルズ・ロング |
(2017/01/16 04:58登録) (ネタバレなしです) 1944年発表の犯罪心理学者トリローニーシリーズの本格派推理小説で、ミステリー作家キャサリン・パイパーも登場しています。エドガー・アラン・ポオの作品に見立てたような連続殺人という派手な設定の事件を扱ってはいますが、抑制の効いた文章表現のためか「安っぽい」とか「パルプ調の」とかの通俗スリラー色はそれほど強くありません。同時代のセオドア・ロスコーやハリー・スティーヴン・キーラーやアンソニー・アボットらの典型的なB級ミステリーに比べれば端正な本格派推理小説です。それでも後半になるほど不気味な雰囲気は盛り上がりますし、推理に次ぐ推理(その中には巧妙なミスリーディングもあります)が楽しめます。 |
No.1835 | 5点 | 函館五稜郭の闇 長井彬 |
(2017/01/14 22:20登録) (ネタバレなしです) 1986年発表の本格派推理小説です。主人公のカメラマンが崖から男が海に落下するのを目撃するが、後に死体は山中で発見された上に墜落死や水死の特徴が全くなかったというユニークな謎が提供されます。この作者らしくプロットは凝っており、第6章で主人公が「ひとつのナゾを解けばさらに大きなナゾが奥に隠れている」と語るほど複雑な展開で、全11章なのに第10章のタイトルが「10の謎が残った」という始末です。最終章で明らかになる真相はそれなりの衝撃はあるのものの読者に対して謎解き手掛かりが事前に十分に与えられてたと感じられないのが残念です(自白頼りの説明になっているからかも)。 |
No.1834 | 6点 | 駆け出し探偵フランシス・ベアードの冒険 レジナルド・ライト・カウフマン |
(2017/01/13 09:16登録) (ネタバレなしです) 米国のレジナルド・ライト・カウフマン(1877-1959)は小説家、映画作家として活躍していますがミステリー作品はわずかに2作のみです。1906年発表の本書は女性探偵フランシス・ベアードの1人称形式の本格派推理小説です。冒頭では数々の事件を解決していて名探偵らしいことが紹介されています。しかし本書で描かれているのは探偵社で働くようになって2年ほど経過した時期のフランシスで、失敗続きで解雇される危機を迎えており最初から名探偵というわけではなかったようです。宝石の警備の任務を与えられますが何者かに盗まれてしまう上に殺人事件にも巻き込まれます。フランシスは感情の起伏が大きくてプロの探偵らしさがありませんし、推理も直感的に過ぎますがかなりの回り道をしながらもこの時代の本格派としてはまずまずの出来映えではないでしょうか。なおカウフマンは1910年にフランシスを主役にした2作目を発表していますがそちらはスパイ・スリラー系のミステリーのようです。 |
No.1833 | 6点 | 探偵宣言 芦辺拓 |
(2017/01/10 01:36登録) (ネタバレなしです) 「殺人喜劇の」で始まるタイトルを付けた7作品を収めた1998年発表の森江春策シリーズ第1短編集です。森江の高校生時代から弁護士時代までの年代記的な要素があり、最後の「殺人喜劇の森江春策」では短編集全体にまたがる趣向が用意されている連作短編集でもあります。講談社文庫版のあとがきによると当時は連作短編集が次々に発表されていたらしく、後発ゆえの挑戦意欲がにじみ出ている力作です。過去の古典的ミステリーの懐古或いは発展を意識しているのではと思わせる作品があるのはこの作者ならでは。「殺人喜劇の時計塔」は高木彬光の「わが一高時代の犯罪」、「殺人喜劇の迷い家伝説」は泡坂妻夫の「砂蛾家の消失」を連想させます。もっとも「殺人喜劇のニトロベンゼン」あたりになるとアントニイ・バークリーの「毒入りチョコレート事件」(1929年)のパロディー趣向が楽しいものの、バークリー作品を読んでいない読者だと置き去りにされてしまいそうです。中編の「殺人喜劇のXY」も大胆な仕掛けはなかなか印象的なのに難解なダイイング・メッセージの謎解きが蛇足に感じられてしまうなど、作者の意欲が時に空回りしています。 |