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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2812件

プロフィール| 書評

No.1972 5点 三十九号室の女
森下雨村
(2018/02/10 22:36登録)
(ネタバレなしです) 代表作の一つと評価される1933年発表の本格派推理小説です。東京駅で呼び出しを受けた弁護士の須藤(主人公の1人)が電話に出ると女の悲鳴が聞こえて電話は切れてしまいます。電話をかけた場所が東京ホテルとわかり駆けつけるとそこの三十九号室で女の死体が発見されます。須藤は新聞記者の幡谷(もう1人の主人公)と一緒に謎解きに取り組みます。物語のテンポが早く、謎が深まる展開もなかなか魅力的です。人間関係もどんどん複雑化するので登場人物リストを作って整理した方がいいかもしれません。ただ本格派といっても論理的に整理された推理説明を期待してはいけません。幡谷が最終章で「一つの仮定の上に立った僕の直感的な解釈に過ぎない」と語っているレベルなのはこの時代の国内ミステリーとしては仕方ないのかもしれません。


No.1971 5点 門番の飼猫
E・S・ガードナー
(2018/02/10 22:08登録)
(ネタバレなしです) 1935年発表のペリー・メイスンシリーズ第7作ですが充実作の多い初期作品の中ではちょっと劣るように個人的には思います。それでも複雑なプロットとサスペンス豊かな展開の組み合わせはまずまず楽しめます。第15章でメイスンが大胆な工作を次々に準備し、これは後でどのような劇的効果を挙げるのかとわくわくさせます。悪徳弁護士が登場したり法廷場面では思わぬ人物が証人になるなど本書ならではの見せ場もいくつかあります。しかし本格派推理小説としての謎解きは真相をひねり過ぎて犯人当てとしては納得しづらいものがあります(気の利いた手掛かりは印象的ですが)。なお最後は夢遊病者が眠ったまま殺人を犯したら犯罪責任は成立するかという謎を提示してシリーズ次作の「夢遊病者の姪」(1936年)が予告されて締めくくられます。


No.1970 5点 死体は沈黙しない
キャサリン・エアード
(2018/02/10 15:15登録)
(ネタバレなしです) 1979年発表のスローン警部シリーズ第8作の本格派推理小説です。定年間近の化学教師(女性)の糖尿病による(と思われる)死、銀行口座には謎の大金があり、さらに行方不明の彼女の飼い犬、逃亡する彼女の甥など色々な謎をばら撒いていますがこの作者らしく展開は地味です。地味といっても例えばF・W・クロフツの地味さとも異なります。クロフツは徒労や失敗に終わった捜査までも緻密に描写しますが本書ではむしろ捜査描写はしばしば省略され、リーエス署長にスローンが随時簡潔に捜査結果のみ報告しています。結構大事な証拠がさらりと語られたりするので油断なりません。動機がかなり持って回ったようなところがありますがこれは後出し気味に説明されており、読者が事前に予想するのは困難でしょう。


No.1969 5点 孤独の罠
日影丈吉
(2018/02/08 23:22登録)
(ネタバレなしです) 1963年発表の本書は「女の家」(1963年)と同じく文学志向を強めた作品です。「冬」に始まり「秋」で終わる4章構成をとりますが「冬」の章で妻と生後6ヶ月の子供を相次いで失った主人公の描写は非常に読者の共感を得やすいと思います。2人の死には犯罪性はなく、この章の終盤で子供の火葬の後に遺骨が2人分になっていたという不思議な事件が起きるまでミステリーらしさがありません。「春」の章になっても謎解きは進まず妹の結婚願望に対する主人公の複雑な思いが描かれ、またもミステリーから離脱するような展開となります(この章の終盤で新たな事件が起きますが)。主人公が推理する場面もありますが基本的には探偵役とは言えないでしょう。最後には謎は解かれるのですが、本格派推理小説でありながら謎解きの面白さを極力抑えることを目指したようなプロットは確かに文学風ではありますが読者の好き嫌いが分かれそうです。


No.1968 5点 邪悪なグリーン
アーロン&シャーロット・エルキンズ
(2018/02/07 11:50登録)
(ネタバレなしです) 1997年発表のリー・オフステッドシリーズ第3作です。今回のリーはプロ競技には参加せず(できないというのが正確)、アマチュアゴルファー相手のインストラクターという役割ですがその直接描写は多くなく、当然ながら登場人物もほとんどがゴルフ関係者ではないのでゴルフミステリーらしさはこれまでのシリーズ作品で最も希薄です。登場人物たちと被害者の秘密の関係が次々に明らかになる展開はそれなりに盛り上がりますが、ちょっと好都合過ぎる設定という気もします。終盤に犯人の不注意な発言にリーが気づくのですがこの発言では決め手として弱く、後は犯人が勝手に暴走しての解決で推理によって謎解き伏線を回収する解決になっていないのが本格派推理小説好きの私としては不満です。


No.1967 5点 空白の逆転殺人
筑波耕一郎
(2018/02/03 14:56登録)
(ネタバレなしです) 1987年発表の本格派推理小説です。3ヶ月前に失踪した女性から謎の電話がかかってくるところが幕開けです。失踪の1ヶ月前には彼女の妹が湖で自殺、さらに妹の恋人が密室で自殺しており最初からややこしい状況です。おまけに雪の上の足跡のない殺人まで起こります。文章は読みやすいですが複数の人間が捜査に参加するのでプロットはますますややこしいです。犯人の正体は早い段階で見えてきますが多くの謎が最終章まで残ります。トリックは小粒な上にこんなに手間をかける必要性があるのか疑問です。これまで作品内容と全く関連のないタイトルをつける傾向の多かった作者ですが本書に関しては内容に合致したタイトルで、これは進歩とみなしていいのかな(笑)。


No.1966 5点 青春迷路殺人事件
梶龍雄
(2018/02/02 22:53登録)
(ネタバレなしです) 1985年発表の旧制高校シリーズ第4作の本格派推理小説でシリーズ最終作となりました。過去のシリーズ舞台が三高、二高、四高と続き、満を持しての一高生の登場ですが三高生も一緒に活躍するのが本書の特徴です(但し学校の直接描写はほとんどありません)。本書の作中時代は1936年で、「リア王密室に死す」(1982年)(こちらの作中時代は1948年)に登場する三高生とは共通する人物はいません。両校のアマチュア探偵が謎解きに挑む2人探偵のスタイルで、競争を期待する周辺人物もいますが主人公2人はそういう意識は全くなく互いに情報を公開し協力しながら捜査します。三高の英彦がモダンな(モダーンとも表記)東京の文化風俗に気圧される描写が印象的です(京都の街灯はガス灯なのに東京(銀座)は電灯という説明があります)。細かいアリバイ調査の地味な展開ですがトリックにはかなり大胆なアイデアが採用されています。容疑者の描写があっさり気味なので動機に関する丁寧な説明が後付けに感じられてしまうのが惜しまれます。


No.1965 5点 スリップに気をつけて
A・A・フェア
(2018/01/31 09:50登録)
(ネタバレなしです) 1957年発表のバーサ・クール&ドナルド・ラムシリーズ第17作です。泥酔して気がついたら女性の部屋にいて、そのことを脅迫されたという情けない男(でも金は持っている)が依頼人になります。身を隠した脅迫者の行方を追ってドナルドがモダン・アートの画家から情報を集めるやり取りがとても印象的でした。一方では色々な意味で手ごわい女性たちとのかけ引きに苦労していますね。ついにはくんずほぐれつ状態になって(笑)、バーサに援護してもらってます。謎解きは巧妙なミスリードが光りますし推理説明は大胆だけどもう少し丁寧さが欲しかったです。最後は犯人自滅で解決してまうのも物足りません。


No.1964 6点 完全犯罪に猫は何匹必要か?
東川篤哉
(2018/01/29 14:24登録)
(ネタバレなしです) 2003年発表の烏賊川市シリーズ第3作の本格派推理小説です。容疑者のほとんどにアリバイが成立する事件ですが、犯人の計画はタイトルに使われている「完全犯罪」を狙ったものとは思えませんでした。とはいえ第4章で砂川警部が列挙する8つの疑問点など謎づくりと謎解きはとても充実しています。ユーモアも一部はすべっていますけどまずまず好調、しかもその中にも謎解き伏線が忍ばせてあったりと油断なりません。


No.1963 5点 無音の弾丸
アーサー・B・リーヴ
(2018/01/27 02:25登録)
(ネタバレなしです) 科学者探偵クレイグ・ケネディが「アメリカのシャーロック・ホームズ」と絶賛され、いくつかの作品が映画化されるほどの成功を得ながら急速に忘れ去られてしまった米国のアーサー・B・リーヴ(1880-1936)。作品に使われている科学知識が時代の進歩と共に古臭くなってしまったことが顧みられなくなった理由とされています。1912年発表のシリーズ第1短編集で出世作でもある本書は12作が収められていますが、犯人のトリックよりもクレイグが捜査で駆使する科学的手法の方が目立つ作品もあって結構バラエティーに富んでいることがわかります。同時代の英国のオースティン・フリーマンの科学者探偵ソーンダイク博士シリーズと比べてもトリック依存度の強い本格派推理小説でプロットがシンプルな分読みやすいのですが、トリックが(当時は読者に驚きを提供したかもしれませんが)陳腐化して救いようがなくなったしまった作品も確かにありますね。でも「瑠璃の指輪」のトリックは後年の某作家の名作を先取りしていて印象的でした。


No.1962 5点 幻の屋敷
マージェリー・アリンガム
(2018/01/23 22:08登録)
(ネタバレなしです) 2016年に日本独自編集された、アルバート・キャンピオンシリーズ第2短編集です。第1短編集の「窓辺の老人」(2014年)が1930年代の作品をまとめていたのに対して本書に収められた短編11作とエッセイ1作は1930年代から1950年代までと時期的に幅広いです。ミステリーと言い難い作品や結末がすっきりしない作品もありますが「窓辺の老人」に比べると本格派推理小説の作品が増えています。家屋消失というエラリー・クイーンの中編「神の灯」(1935年)を連想させる魅力的な謎にクイーンとは全く異なる真相を用意した「幻の屋敷」(1940年)やショート・ショートながら鮮やかな推理が印象的な「キャンピオン氏の幸運な一日」(1945年)などが私の好みです。


No.1961 6点 罪の女の涙は青
日下圭介
(2018/01/20 22:07登録)
(ネタバレなしです) 「奥飛騨山荘の怪火」という副題を持つ1984年発表の本格派推理小説です。恋人からのプロポースを断って自殺した女性は3人もの人間の命を奪ったと遺書に書き残していました。それを信じられない主人公が真偽を確かめるために事件を調べていくプロットです。講談社ノベルス版で作者は「この物語に登場する者達はほとんど全員が罪人である」と紹介していますがどの証言にも嘘や隠し事らしきものが見え隠れして、何を信じればいいのかもどかしい謎解きが続きます。探偵役の主人公が真相の一部を知りながら最終章までずっと隠していたというのは本格派としては読者に対してアンフェアなように感じますが、感情を抑制した描写ながら悲哀感に満ちた人間ドラマとしてなかなかよく出来ていると思います。


No.1960 5点 古都の殺人
高柳芳夫
(2018/01/12 03:55登録)
(ネタバレなし) 法月綸太郎の本格派推理小説「頼子のために」(1990年)がニコラス・ブレイクの「野獣死すべし」(1938年)の影響のもとに書かれたことは有名ですが、全体の1/5にあたる第1章が殺人を犯そうとする男の日記である1980年発表の本書も「野獣死すべし」を意識して書かれたのではと思います。謎解きはどんでん返しの連続がありますが最後の2章を読むと推理が微妙に詰めが甘く、どちらが犯人でもよかったような印象を受けました。もう少し深堀りされた人物描写なら虚しさを残す結末がよりドラマチックになったのではと感じましたが。


No.1959 5点 三つの栓
ロナルド・A・ノックス
(2018/01/06 22:15登録)
(ネタバレなしです) 本格派推理小説でありながら当時としてはかなり規格外的な異色作の「陸橋殺人事件」(1925年)でデビューしたノックス、その後は保険会社の調査員(本書の論創社版では探偵と表記)であるマイルズ・ブリードンのシリーズを5長編発表します。その第1作が1927年出版の本書ですが何とも風変わりな本格派推理小説です。医者から残された寿命は2年と宣言されたと資産家のモットラムが保険会社に契約の見直しを要求します。保険会社はその要求を拒否しますが今度はモットラムが密室状態の部屋でガス中毒死します。ここまではまあ普通の展開ですが、ブリードンが(保険会社の立場として)自殺ではないかと調査するのが異色です。普通のミステリーは殺人を前提として話が進みますから。リーランド刑事は殺人を疑いますが誰が犯人かを絞り込んでおらず何とも緩い筋運びです。怪しい行動をとる事件関係者がいてようやく進展しますけど。結末は図解入りで説明されるのですがわかりにくく(論創社版の巻末解説の補足説明は助かります)、しかも偶然性の強い真相であったことに不満を覚える読者もいるかもしれません。真相がどうかというよりもどのように決着させるかについては結構配慮されていますが。


No.1958 6点 敗者の告白
深木章子
(2018/01/05 22:48登録)
(ネタバレなしです) 2014年発表の睦木怜シリーズ第1作の本格派推理小説ですが本書を読んで探偵役の睦木怜がどういう人物なのかはほとんどわかりません。なぜなら非常に独創的な構成の物語で、会話もなければ地の文もないのです。あるのは手記だったり供述書だったり、決して味気ない報告でなくその中で感情の発露や告発もあるのですが全てが一方通行の形で読者に伝えられます。聞き上手の読者なら受け入れられるでしょうし、話し上手の読者だと読んでて窮屈な思いをするかもしれません。アガサ・クリスティーの名作「五匹の子豚」(1943年)でも事件関係者たちの手記が効果的に使われていますが、全編告白と言っていい本書の意欲的な取り組みは一読の価値ありです。


No.1957 5点 迷路の花嫁
横溝正史
(2018/01/04 17:18登録)
(ネタバレなしです) 1954年から1955年にかけての金田一耕助シリーズは「幽霊男」(1954年)、「三つ首塔」(1955年)、「吸血蛾」(1955年)と本格派推理小説というより通俗スリラー小説に分類すべきではという作品が並ぶのですが、1955年発表のシリーズ第10作である本書もまた異色の作品です。序盤で殺人事件が起きて金田一や警察が捜査に乗り出すところは普通に本格派推理小説風の展開なのですがいつの間にか謎解きは脇に置かれてしまい、主人公の松原(小説家)が悪の心霊術師を退治する物語に置き換わるのです。これがなかなかの読ませ物で、悪人が典型的な弱者いじめ型ということもあってじわじわと追い詰められていく描写にはつい心の中で喝采を贈りたくなります。こちらの物語の方が全体の半分以上を占めており、最後の最後になって唐突に殺人事件が解決されるのですがそういえばそんな事件もあったけなという感じです(笑)。金田一の影が薄い作品なら例えば「八つ墓村」(1951年)もそういう作品ですがあちらはまだ謎解きを放り出してはいません。本書は非ミステリーの物語がメイン(出来もいい)でミステリーはおまけ程度(出来もいまいち)です。


No.1956 4点 満潮に乗って
アガサ・クリスティー
(2018/01/02 06:42登録)
(ネタバレなしです) 第二次世界大戦中も安定した創作を続けていたクリスティー、戦時中の作品でも娯楽に徹した作品が多いのですが1948年発表のエルキュール・ポアロシリーズ第23作の本書は珍しくも戦争の影響が作品背景に見え隠れしている本格派推理小説です。戦中戦後の混乱を巧妙に織り込んだプロットではありますが、りゅうさんや青い車さんのご講評でも指摘されているように複雑に過ぎて読者が完全正解するのは無理ではと思わせる真相なのが辛いです。また本国イギリスでは誰でも知っているのでしょうけどアルフレッド・テニスンの「イノック・アーデン」(1864年)を作品内容の紹介もなしに物語に絡ませているのも個人的には感心できませんでした。せっかく築き上げた重く暗い雰囲気とミスマッチのような幕切れもシリーズ前作の「ホロー荘の殺人」(1946年)と比べると少々見劣りするように思います。


No.1955 7点 陽気な容疑者たち
天藤真
(2018/01/01 00:49登録)
(ネタバレなしです) 千葉県で開拓農民をしていた天藤真(1915-1983)は高木彬光や鮎川哲也よりも年長ながら作家デビューは遅く作品数も多くはありません。おまけに作風がユーモアミステリーと喧伝されることもあってか知名度では大きく劣ります。しかしその実力は非常に高く、ユーモアの影に複雑な仕掛けを潜ませた作品があります。1963年発表の長編第1作である本書でもその実力は十分に発揮されています。三重密室の中で発見された死体を扱った本格派推理小説ですが、殺人の証拠も自殺の証拠もなく自然死としか考えられません。しかしある人物がこれは殺人だと事件関係者たちを告発してからサスペンスが高まります。真相だけを評価すると感心できない読者もいるかもしれませんが、意外なところに謎解き伏線を忍ばせてあったことに気づかされるプロットは軽妙でありながら計算高いです。


No.1954 6点 過去からの声
マーゴット・ベネット
(2017/12/30 22:32登録)
(ネタバレなしです) 本格派推理小説の名作「飛ばなかった男」(1955年)がCWA(英国推理作家協会)のゴールド・ダガー賞(当時はクロスド・レッド・ヘリング賞)の最終候補まで到達しながら惜しくも受賞を逃したベネット、次作である1958年発表の本書で見事受賞に成功します。主人公ナンシーの友人で恋愛経歴の派手なサラが婚約を伝えると同時に過去に関わった男の誰かから殺すと脅かされていると語ります。そしてサラは殺されるのですが、ナンシーの恋人でかつてサラの恋人だったドナルドが死体発見者であったことからナンシーはドナルドをかくまうために探偵役というより事後従犯的な行動に出るという、通常の謎解きプロットパターンから外れる展開を見せます。作者はナンシーのことを「親切でいて容赦がなく、高潔でいて意地が悪い」と評していますが、共感するにしろしないにしろ読者は複雑な性格のナンシーから目が離せません。ナンシーの嘘や証拠隠しのために謎解きがかなり回り道しているところは好き嫌いが分かれるでしょうけど。


No.1953 6点 切られた首
クリスチアナ・ブランド
(2017/12/30 00:17登録)
(ネタバレなしです) 長編作品として2作目にあたる1941年発表の本書は6作の長編といくつかの短編で活躍するコックリル警部シリーズの第1作でもある本格派推理小説です。タイトル通り首を切られる死体が登場するのですが描写はむごたらしさを感じさせません。首切り手段はさりげない説明ながら印象的でしたし、巧妙なミスディレクションもあります。但しブランドの後年の作品を先に読んでいた立場から言わせてもらいますと、本書はブランドならではの謎解きの切れ味がまだ散発的です。コックリル警部が事件関係者と以前からの知り合いだったという設定も上手く活かされていないし、暗く不気味な雰囲気の中に性格の明るい登場人物を配しているのも(容疑者という立場なので難しいところもあるのですけど)十分な対照効果を上げてはいないように感じます。本格派の良作と評価するには値する作品ですが、ブランドの真の実力が発揮されるのはやはり次作の「緑は危険」(1944年)からだと思います。

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