| nukkamさんの登録情報 | |
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| 平均点:5.44点 | 書評数:2900件 |
| No.2400 | 6点 | 異郷の帆 多岐川恭 |
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(2021/07/19 07:56登録) (ネタバレなしです) 多作家の多岐川恭は時代小説もかなりの数を書いていますが1961年発表の本書はその初期作品ではないでしょうか。時代小説でもあり本格派推理小説でもあります。作中時代は元禄4年(1691年)、舞台は長崎の出島です。時代描写と日本でありながら異郷の雰囲気濃厚な描写が特色です。出島という特殊環境の中の複雑な人間模様もよく描けていますが、通詞、ヘトル、甲比丹(カピタン)、乙名など当時の職業肩書がなかなかなじめず、読むのに少し苦労しましたけど。主人公が恋愛や今後の人生について思い悩む姿を描いた物語部分も充実しています。主人公が謎解きのみに集中していないためかプロットがどこかもやもやした感もありますが結末は引き締めており、様々な謎を合理的に解明しています。 |
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| No.2399 | 7点 | パズル・ロック R・オースティン・フリーマン |
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(2021/07/17 22:51登録) (ネタバレなしです) 1922年から1925年にかけて発表された9作の短編を収めて1925年に発表されたソーンダイク博士シリーズ第4短編集です(「ソーンダイク博士短編全集第3巻 パズル・ロック」(国書刊行会版)で読めます)。「パズル・ロック」(1925年)の暗号謎解きとソーンダイクが巧妙さの金字塔と評価した二重三重の仕掛け、「バーナビー事件」(1925年)の有名な毒殺トリック、「フィリス・アネズリーの受難」(1922年)や「バーリング・コートの幽霊」(1923年)の大仕掛けなどトリックの面白い本格派推理小説がずらりと並びます(犯人当てを楽しめる作品ではありませんけど)。「砂丘の謎」(1924年)は中途半端な結末なので読者評価は高くないと思いますが、冒頭の他愛もなさそうな推理が思わぬ犯罪事件を掘り当てる展開はハリイ・ケメルマンの有名短編「九マイルは遠すぎる」(1947年)を連想させて興味深かったです。個人的にはソーンダイク博士短編集で1番好きです。 |
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| No.2398 | 5点 | 「謎解き」殺人事件 筑波耕一郎 |
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(2021/07/17 17:19登録) (ネタバレなしです) 1987年発表の本格派推理小説です。人を撥ねて塀にぶつかった車の中から2人の男女が発見されます。男は即死、女もやがて死亡しますが車にはもう1人女性がいたと言い残します(車に撥ねられた男も死亡しています)。問題の女性はどうなったのか、主人公(死んだ女の兄です)が事件を調べると妹は体調不良で車に拾ってもらったらしいのですが、乗せてもらった立場の妹が事故後に運転席で発見されたのはなぜという謎にもぶつかります。ミステリーのネタとしてはアピールの難しい交通事故の謎を上手く盛り上げているのは感心します。その後の主人公とその恋人による捜査が地味ですが堅実です。ただし明確に犯罪の被害者がいて犯人を捜すというプロットでないので読者が自力で謎解きに挑むのは難しいでしょう。中盤からは過去に起きた複数の事件が絡んできて事態はどんどん複雑化します。印象的などんでん返しもありますが、ここまで錯綜した真相は手掛かりを解決前に揃えていたとしても読者が事前に見破るのはまず無理と思われる謎解きでした。 |
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| No.2397 | 6点 | 虚空に消える ホレーショ・ウィンズロウ&レスリー・カーク |
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(2021/07/17 17:03登録) (ネタバレなしです) 米国のホレーショ・ウィズロウとレスリー・カーク(どちらも作者プロフィールについてはよくわかりません)が1928年に発表した本格派推理小説で、本国でもほとんど忘れられた存在だったようです。摩訶不思議な方法で姿を消して追跡者を煙に巻き続けた犯罪者「セイラム・スクープ」があっけなく列車事故での死亡が確認されて埋葬されたところから物語が始まります。そしてかつて偉大な奇術師として名を馳せた男を招いてイカサマ霊媒のトリック暴く会が開催されるのですが、犯罪学者が持参した石板に「あなたの部屋でお待ちしています」とセイラム・スクープからのメッセージが浮かび上がり、犯罪学者の家にかけつけると家政婦から謎の訪問者が光と煙と共に消え失せたという話を聞かされます。休む間もなく今度はセイラム・スクープの墓を暴くために急行するというハチャメチャな展開に序盤から読者は振り回されます。その後も怪現象、怪事件が相次ぎ、ポール・アルテや小島正樹が得意とする、謎を大盤振る舞いする本格派の先駆的作品といえるかも。トリック説明は後年のクレイトン・ロースンに比べると上手いとは言い難いし、そもそも推理が論理的でなくてかなり粗い謎解きなのは読者の好き嫌いが分かれると思いますが、不可能犯罪の巨匠ジョン・ディクスン・カーがデビューするよりも前にこういう作品が書かれていたのは驚きです。推理小説の読者タイプの分類や消失トリックの分類まで作中でやっているのも先駆的ではないでしょうか。 |
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| No.2396 | 6点 | 奇術師のパズル 釣巻礼公 |
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(2021/07/16 06:54登録) (ネタバレなしです) 1999年発表の本書は刺激的なタイトルもそうですが、作者が「本格ミステリーのつもりで書いた」、「いつかは真正面から密室を扱ってみたいと思っていた」とコメントしていることからガチガチの本格派推理小説かと期待して読みましたが読む前のイメージ(期待値)とは違う内容でした。スクールカウンセラーの女性を主人公にして学校が抱える様々な問題と直面させる社会派要素がとても強い作品です。これはこれで読み応えがありますがパズル性が弱くなった印象が否めません。それでもトリックが非常に凝っていて図解による説明も充実しているのですが、まだ説明不足に感じられます。ネタバレなしで理由を書くのが難しいですが最後の謎解き場面での「ひとときの強制的な眠り」は何のためなのかよく理解できませんでしたし、その後に続く「体育館を出る」はどうやって出たのかについて触れられていません。総合的には5点評価ぐらいなのですがトリックのアイデアに感心したのでおまけ評価します。 |
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| No.2395 | 5点 | 閉じ込められた女 ラグナル・ヨナソン |
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(2021/07/11 22:30登録) (ネタバレなしです) 2017年発表のフルダ・ヘルマンスドッティル三部作の最終作です。この作者の「雪盲」(2010年)を読んだときには自然描写が物足りなく感じましたが本書の厳冬描写はなかなかの迫力を伴っています。第一部での大雪でクローズド・サークル状態となった農家に住む夫婦と道に迷った訪問者の3人の間に緊張感が高まっていく展開は一級のサスペンス小説です。並行してフルダの家族問題も描かれますがこちらはミステリー要素はありませんけどやはり悲劇色が濃厚で、作品の重苦しさに拍車をかけています。そして第二部が捜査編ですが容疑者との事情聴取のない捜査となっているところがユニークです。ここは倒叙本格派推理小説なところもありますが論理的な推理がほとんどなく、感覚的な当て推量に近いので謎解きとしては不満があります。どんでん返しが効果的なだけに惜しまれます。それにしても三部作を通じて描かれるフルダの人生の救いのなさはあまりにも重い、何もここまで重くしなくても。あと余談ですが阿津川辰海による巻末解説で「アイスランドのアガサ・クリスティ」を引用しているのはこのパズル性の弱い作品にはふさわしくないと思うし、そもそも「アイルランド」と誤植しているのはいけませんねえ。 |
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| No.2394 | 6点 | 星読島に星は流れた 久住四季 |
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(2021/07/10 21:50登録) (ネタバレなしです) ライトノベルミステリーの書き手として知られる久住四季(くずみしき)(1982年生まれ)が一般読者向け作品を意識したらしい2015年発表の本書は、第1章が「宇宙を満たすもの」、最終章の第7章が「地球最後の日」という構成ですがSF要素は全くなく、高確率で隕石が落下すると噂の孤島を舞台にした本格派推理小説です。第5章の終わりでは「読者への挑戦状」こそありませんが主人公に「やっとわかったよ、犯人が」と言わせています。「壮大なトリック」は面白いアイデアと思いますが演出的に壮大感が弱いのが惜しまれるのと、「何度でも繰り返す」はいくらなんでも無茶ではないかという気がしないでもありません。でも疑問点や矛盾点を列挙しながらの推理説明が丁寧な本格派として楽しめました。 |
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| No.2393 | 5点 | ネロ・ウルフの災難 外出編 レックス・スタウト |
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(2021/07/08 21:55登録) (ネタバレなしです) ネロ・ウルフが嫌い(苦手)なのは女性と外出ということで本書は日本独自編集でウルフが外出する3つの中編を収めたシリーズ中編集です。もっとも論創社版の巻末解説によると「実際の事件の半分ほどでウルフは外出している」とのこと。私はこのシリーズの良き読者とは到底言えませんけど、そんなに沢山の作品で外出していたという記憶がありません(記憶の自信もありませんが)。どうせなら外出作品一覧を作ってほしかったですね。それはともかく本書に収められたのは本国オリジナルでは第4中編集(1950年)から「死への扉」、第8中編集(1956年)から「次の証人」、第11中編集(1960年)から「ロデオ殺人事件」です。「死への扉」は解決場面に至るまでは文句なしの面白さです。早く解決したいウルフですが事件関係者は非協力的だし警察は堂々と妨害してきます。どんどんページが少なくなってハラハラしますが終盤が残念。はったり(ウルフ曰く「力強い揺さぶり」)での解決です。ここで切れ味鋭い推理を披露できれば傑作だったのに。「次の証人」はウルフが法廷に証人喚問されたというだけでも注目ですが証言台に立つ前に法廷から出ていってしまうびっくり展開、「ロデオ殺人事件」は容疑者の大半がカウボーイ、カウガールとどちらもそれなりに作品個性はありますが本格派推理小説の謎解きとしては推理の説得力が弱いのは残念です。 |
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| No.2392 | 4点 | 三姉妹探偵団 赤川次郎 |
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(2021/07/06 21:22登録) (ネタバレなしです) シリーズ化するか未定だったのか1982年に発表された当時はシンプルに「三姉妹探偵団」というタイトルだった三姉妹探偵団シリーズ第1作です。おっとりした19歳の長女、しっかり者の17歳の次女、金に細かい15歳の三女という姉妹(このキャラクター設定、姉2人と弟1人のトリオですがクレイグ・ライスの「スイート・ホーム殺人事件」(1944年)を連想しました)が父親不在中に家を放火され、父親の部屋から女性の他殺死体が見つかるという事件に巻き込まれます。行方不明の父親が容疑者になったため、三人が真犯人探しに乗りだすというプロットです。決して探偵能力に秀でているとは言い難い三人の心もとない探偵活動が読ませどころです。読みやすいユーモア本格派推理小説でありながらも脳天気なばかりの作品ではありません。危ない目や痛い目にあったり、特に長女・綾子が妻ある男性(容疑者でもあります)に恋してしまうエピソードはハッピーエンドなんかありえないという雰囲気濃厚で読者はハラハラさせられます。謎解きは全く物足りず、私の読んだ講談社文庫版の巻末解説では「奇抜なトリックこそ出てないが」と擁護していますけどトリックどころか気の利いた手掛かりもミスリードの技巧も読者を納得させる推理の積み重ねもありません。犯人自滅で強引に決着させただけの解決にしか感じられませんでした。 |
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| No.2391 | 7点 | マーチン・ヒューイット、探偵 アーサー・モリスン |
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(2021/07/04 06:47登録) (ネタバレなしです) コナン・ドイル(1859-1930)のシャーロック・ホームズシリーズはストランド・マガジンという雑誌に掲載されて大変な人気を誇りましたが、ドイルは「最後の事件」(1893年)でシリーズを強制終了してしまいます。出版社や読者からの要望に応えて1903年からシリーズ連載再開するのですがそれは後の話。人気シリーズの後釜として急遽白羽の矢がたったのがジャーナリスト兼作家だったアーサー・モリスン(1863-1945)です。ミステリー作家としての実力は未知数でしたが、マーチン・ヒューイットを名探偵役にしたシリーズを1894年に7作ストランド・マガジンに発表して同年にはシリーズ第1短編集として本書を出版して見事期待に応えました(最終的には全25作が書かれて4つの短編集を出版)。キャラクターの弱さが指摘されていますが、捜査描写はドイルよりも丁寧に感じられます。その丁寧さが時に冗長に感じられてしまうところもあって一長一短ですが。有名なトリックが印象的な「レントン農園盗難事件」、消えた足跡トリックは残念レベルですが不自然な証言に着目した推理が光る「サミー・スロケットの失踪」、大胆な真相としっかりした推理のバランスがいい「スタンウェイ・カメオの事件」が個人的には好みです。 |
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| No.2390 | 4点 | 「五つの鐘と貝殻骨」亭の奇縁 マーサ・グライムズ |
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(2021/06/21 15:38登録) (ネタバレなしです) 1987年発表のリチャード・ジュリーシリーズ第9作の本格派推理小説です。シリーズ前作の「『独り残った先駆け馬丁』亭の密会」(1986年)でも謎解き説明に曖昧な部分がありましたが、本書はそれ以上に(私の理解力では)わかりにくかったです。殺された女性の素性は結局どっちだったのか、犯人が最後まで否定したままなので何ともすっきりしませんでした。人物描写には定評ある作者ですが本書に関しては書き込み不足に感じられ、ドラマとしても盛り上がりを欠いています。米国では本書が初のベストセラー入りしたシリーズ作品と紹介されていますが、こういうもやもやした作品の方が読者受けするんでしょうか? |
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| No.2389 | 5点 | M8の殺意 長井彬 |
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(2021/06/17 08:22登録) (ネタバレなしです) 1983年発表の長編第3作ですがデビュー作の「原子炉の蟹」(1981年)よりも書かれたのは早く、「M8以前」というタイトルで1980年にミステリー賞に応募して受賞を逃したのが原型だそうです。探偵役の曽我明は本書では部長に昇進しており、何となく風格が出たように感じます。地震予知会議のメンバーである教授の周辺で次々と事件が起きるというプロットですが、どこか不自然に感じられるところも真相を知るとなるほどと納得できるように仕組んであって巧妙な作品だと思います。とはいえ動機に関しては微妙で、丁寧に説明してはいますが被害者側の立場にたつとこれで殺人は到底納得できないと思う読者もいるかと思います。社会派推理小説要素が強いですが、一方で不可能としか思えない人間消失が3回もあるなど本格派推理小説も意識しています。なお長井にとって社会派スタイルの作品は本書が最後で、以降はより本格派スタイルの作品が書かれるようになります。 |
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| No.2388 | 4点 | 抱き人形殺人事件 井口泰子 |
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(2021/06/14 11:11登録) (ネタバレなしです) 1981年発表のラジオ番組キャスター・草深真子シリーズ第1作で、「キャスタードライバー事件簿」というサブタイトルがついています。真子の1人称形式で語られますが、取材を約束した老婦人の死体と腹を裂かれた抱き人形を発見する羽目になり、その直前に被害者の家から出てきた男と少年を目撃したことから事件捜査に乗り出すことになります。キャスター仲間や真子の妹や弟、弟のガールフレンドらも協力し、刑事との情報共有もばっちりととんとん拍子の展開で進みます。現場から失踪した2人の追跡にページの大半を費やしており、殺人犯の正体と人形を殺した理由については最終章で完全な後出しで説明されるだけなので本格派推理小説として評価しようとすると大幅減点です(なので個人的にはスリラー小説に分類しました)。この作者がこういう肩の力を抜いたユーモア豊かな作品を書いていたとは知りませんでしたが、それにしても抜きすぎな気がします。 |
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| No.2387 | 6点 | 裁きの鱗 ナイオ・マーシュ |
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(2021/06/13 22:34登録) (ネタバレなしです) 1955年発表のアレン主任警部シリーズ第18作です。複雑な人間関係に加えて犬猫そして魚まで動員され、動機、アリバイ(地図はほしかったですね)、凶器、ダイイングメッセージと謎解きは多岐に渡り、多くの証拠と多くの証言が揃います。派手な展開こそありませんがじわじわと容疑が絞られる終盤はそれなりに劇的です。論創社版の巻末解説によれば作中の記載に矛盾があるそうですが、私は気づかぬまま王道の本格派推理小説の雰囲気を存分に楽しめました。 |
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| No.2386 | 5点 | ヒポクラテスの初恋処方箋 小峰元 |
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(2021/06/12 23:14登録) (ネタバレなしです) 1978年発表の本書は本格派推理小説ではなく冒険スリラーだと思います。登場人物はそれほど多くはないのですが同じ人物が苗字、名前、あだ名で呼ばれたりするので登場人物リストを作って整理した方がいいかもしれません。ユーモア豊かな展開で軽快な筋運びですが秘宝の盗難、失踪、そして怪死事件の関係が漠とし過ぎていてミステリープロットとして微妙に読みにくいです。私の読んだ講談社文庫版ではイラストが(誰の作画だろう?)挿入されているのはいいのですが、作中場面と合っていないページに掲載しているのは問題だと思います。作中人物が「機動力のない探偵は、推理力のない探偵より劣る」と述べているように行動で(時に危機を招きますが)解決しており、推理もしてますが論理性がなくて空想にしか感じられません。 |
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| No.2385 | 5点 | 無軌道な人形 E・S・ガードナー |
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(2021/06/11 06:51登録) (ネタバレなしです) ペリイ・メイスンシリーズに「瓜二つの娘」(「The Case of the Duplicate Daughter」)(1960年)というタイトルの作品がありますが、1963年発表のシリーズ第69作の本書はDaughterの代わりにWomanを付けた「瓜二つの女」というタイトルでもよかったような本格派推理小説です(紛らわしくなるのでそうもいかんでしょうけど)。「無軌道な人形」というタイトルも的外れではありませんが「無軌道な」という邦訳がちょっとぎごちないですね。これまでの作品でも怪しい依頼人、無礼な依頼人、不注意な依頼人、身勝手な依頼人などメイスンを困らせる依頼人は数多く登場してますがそれでもしっかりフォローするのがメイスンです。しかし本書の第9章での対応は結構意外でした。あと依頼人に包み隠さず全てを話すように説得するのが普通なのに本書では真逆の行動に走ったのも意外です(もちろん理由はあったのですが)。思い切ったどんでん返しの真相にも意表を突かれましたが、犯人の証言はまあ「嘘」で片付くけど他の証言はどうなんだろと釈然としませんでした。依頼人の不思議かつ複雑な行動は無用に大芝居過ぎないかとこちらも釈然としません。被害者の扱いも随分と雑な気がします。 |
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| No.2384 | 6点 | 屋上の名探偵 市川哲也 |
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(2021/06/09 01:54登録) (ネタバレなしです) 2017年発表の蜜柑花子シリーズ第1短編集で、本書での蜜柑は高校2年生から3年生、「名探偵の証明」三部作よりも作中時代は前の設定です。中短編が4作収められてますがいずれも凶悪犯罪のない謎解きで、気軽に読める本格派推理小説です。「みずぎロジック」はタイトル通り論理的な推理が光る好短編です。中編「ダイイング・メッセージみたいなメッセージのパズル」は活発な謎解き議論が楽しいです。メッセージ分類は霧舎巧の「ラグナロク洞」(2000年)のメッセージ講義に比べれば随分とシンプルなものですが中編ならこの程度が丁度いいでしょう。トリッキーな「人体バニッシュ」はトリックの無理矢理感が、「卒業間際のセンチメンタル」は偶然の要素が重なり過ぎの真相が気になりました。評価は2勝2敗ということで6点です。 |
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| No.2383 | 5点 | エイプリル・ロビン殺人事件 クレイグ・ライス&エド・マクベイン |
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(2021/06/06 23:05登録) (ネタバレなしです) 街頭写真師ハンサム&ビンゴシリーズ第3作の本格派推理小説として着手されながらクレイグ・ライス(1908-1957)の急死によって未完に終わり、警察小説の巨匠エド・マクベイン(1926-2005)が遺稿を完成させて1958年に出版されました。どこまでがライスの筆によるものなのかわかりませんが、17章でビンゴがある人物に寄せる同情心や19章のファッション描写などはライスらしさを感じさせます。誰もが知っていると言いながら謎に包まれている女優エイプリル・ロビン、生きているのか死んでいるのかわからない行方不明者、複数の名前を持つ人物たちが織り成す複雑な人間関係で読者を翻弄するのもライスらしいですね。ハンサムの驚異的な記憶力も冴え渡っています。しかし伏線の回収もほとんどなく唐突な解決に終わってしまっているのが残念です。他人の未完成品の完成をいきなり頼まれてマクベインがやっつけ仕事になったとしても同情の余地はあると思いますが、短編集「被告人、ウィザーズ&マローン」(1963年)でライスと共作関係だったスチュアート・パーマー(1905-1968)にこの仕事をやってもらっていたらどうなんだろうと思わないでもありません。 |
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| No.2382 | 5点 | 疑惑のスウィング アーロン&シャーロット・エルキンズ |
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(2021/06/05 22:58登録) (ネタバレなしです) シリーズ前作の「邪悪なグリーン」(1997年)から久しぶりに書かれた2004年発表のリー・オフステッドシリーズ第4作の本格派推理小説です。「邪悪なグリーン」は1番ゴルフ・ミステリーらしくないシリーズ作品だと思いましたが、本書は1番ゴルフ・ミステリーらしい作品ではないでしょうか。英米のトップ・プロがチームで対決する大会に抽選枠で出場することになったリーの緊張ぶりが実によく伝わってきます。謎解きももちろんあるのですがゴルフの方にウエイトを置いたようなプロットで、これはこれで面白いのですがミステリーとしては「悪夢の優勝カップ」(1995年)と比べると物足りなく感じました。 |
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| No.2381 | 5点 | 鉄道回文殺人事件 関口甫四郎 |
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(2021/06/05 16:26登録) (ネタバレなしです) 様々な職歴を持つ関口甫四郎(1928-1993)はミステリー作家を目指して歴史本格派推理小説の「北溟の鷹」で1980年にミステリー賞を狙うも失敗し、天童一馬シリーズ短編集である「旅の事件簿」(1984年)を私家版で出版した後に天童一馬シリーズ長編第1作である本書でようやく1987年にプロ作家デビューしました。ちなみに「北溟の鷹」も1991年に単行本出版されています。本書は仲よし四人組のOLの内、1人が死亡(警察は事故死と判断)、2人が失踪するという事件を残りの1人から天童が相談される展開の本格派推理小説です。タイトルに使われている回文の謎解きがとても凝っていて、明確な理由なしに特定の文字だけ除外するとか推理に感心できない部分もありますが非常に考え抜いて構築された暗号だと思います。ただ暗号以外は高く評価しづらいですね。中町信の作風を意識したのでしょうか、プロローグで思わせぶりに「死体を運ぶ男」、「剽窃」、「脅迫者が襲撃」などが示唆されていますが、どんでん返しの連続は凄いと思わせるものの謎解き伏線の回収という点では全く不足しており、中町信に及ばないのが残念です。総合評価では4点ぐらいですが回文暗号の敢闘に1点おまけします。 |
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