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ミステリの祭典

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<羽根ペン>倶楽部の奇妙な事件
エドワード・トリローニー&キャサリン・パイパー

作家 アメリア・レイノルズ・ロング
出版日2021年04月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 人並由真
(2022/01/30 06:01登録)
(ネタバレなし)
 フィラデルフィア州。「わたし」こと20代半ばの若手女流ミステリ作家キャサリン・パイパー(愛称「ピーター」「ピート」「ピエトロ」)は、頭を悩ませていた。毒舌と陰口が不愉快な嫌われ者の人妻マーガリート・イングリッシュが、ピートの参加する土地の文筆家サークル「羽根ペン倶楽部」に再入会する気配があるからだ。かたや倶楽部周辺では、会の創設者の一角で新聞コラムニストの女性マーガレット(ペギー)・ヘールに、匿名の中傷の文書が送られてきて、しかもその複写がほかの会員たちにも送付されているようだ。ピートはイングリッシュ夫人と怪文書が関係あるのではと疑うが、そんななか2年前に自殺した倶楽部尾会員だった青年ティム・ケントについて、秘められていた事実が表面化してくる? 不穏な空気のなか、倶楽部の周囲では殺人事件が発生した。

 1940年のアメリカ作品。
 犯罪心理学者エドワード・トリローニとワトスン役の女性作家キャサリン・パイパーシリーズの第一弾。

 とりあえず翻訳紹介された作者ロングの著作3冊は、これでどれも読んだ評者だが、なかなか好調だった前2冊に続けて、今回もしっかり楽しめた。
 論創海外ミステリではじめて出会い、複数の著作につきあった作家はカーマイケルなど他にもいるが、ロングの場合はなかなか打率が高いというか、こちらとの相性がよろしい。

 解説で浜田知明氏が述べているように、小規模の謎を次々と投げかけては小刻みに真相やネタ割を語っていく作劇が、ストーリーに好調なテンポを獲得している。その辺はよろしい。
 とはいえ全体の紙幅がハードカバーで200ページちょっとと短めな割に、話の中心となる「羽根ペン倶楽部」の会員が12人というのはちょっと頭数が多すぎ、作者も持て余した感じもする。
 さらに犯人については、いかにも(中略)なことをするので、見当をつけたら当たり。フーダニットパズラーとしてはやや物足りない。

 とはいえ論創側のスタッフが謳う「B級アメリカン・ミステリ」としてのライトな楽しさは確かに全開で、トータルとしては前述のようにひと晩しっかり楽しめた。
 130ページ目でピートが探偵&刑事コンビをエラリイ&ヴェリー部長刑事に例えたり、映画版『影なき男』の謎解きシーンの演出を意識したりするのもゆかしい。

 なおこういう軽快な作風の作家なので、日本でこそまだマイナーだが、本国アメリカでは今でもペーパーバックとか、昔のベストセラーの古書とかが入手しやすいのだろうと思っていたら、巻末の訳者あとがきによると意外に稀覯本で、本作の原書も訳者がアメリカ旅行の際に僥倖でレアな古書を発見し、日本に持ち帰って版元に出版を打診したそうな。
 翻訳家がマイナーな作家に傾注し、未発掘の原書を見つけてこれは面白い、として、21世紀の本邦に、クラシックミステリを発掘翻訳紹介してくれるという経緯はまさに理想の展開だね。
 関係者のみなさん、頑張ってください。

No.1 6点 nukkam
(2021/04/19 22:03登録)
(ネタバレなしです) 米国のアメリア・レイノルズ・ロング(1904?-1978)は1930年代後半から1950年代前半にかけて約30作のミステリーを書いた女性作家です。本書は1940年発表の犯罪心理学者トリローニーシリーズの本格派推理小説で、キャサリン・パイパー(女性なのにピーターと呼ばれる理由が本書で紹介されています)と初めて出会います。というかピーターを語り手役にして彼女の視点で描かれる物語のため、トリローニーの出番はかなり抑えられています。作品のほとんどが貸本出版社からの出版ということからか日本では「B級アメリカン・ミステリの女王」というレッテルを貼られてしまったようですが、派手な展開と雑な仕上げの安手のスリラー作家とは違うように思います(別名義も含めれば30作近く書いたので、中にはB級臭い作品があるのかもしれませんが)。本書で事件が起きるのは中盤近く、それまでは何かが起きそうな雰囲気をじっくりと醸成する地味な展開でB級らしくありません。16章のようにスリラー要素が強烈な場面もあるとはいえ、推理による謎解きにしっかり取り組んでいて伏線も結構豊富です。作者はピーターを気に入ったのかトリローニーとの共演作を本書を含めて4作書き、更にはピーターが単独で活躍する作品もあるそうです。

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