(2021/03/11 21:48登録)
(ネタバレなしです) 1999年発表の修道女フィデルマシリーズ第8作の本格派推理小説で、創元推理文庫版で上下巻合わせて550ページを超します。このシリーズはフィデルマがアイルランド国外で活躍することも珍しくないのでトラベル・ミステリーでもあるのですが本書は船上ミステリーということもあって一層旅行の雰囲気は濃厚です。冷静沈着なキャラクターのイメージが強いフィデルマですが作者もマンネリ打破を狙ったのか本書ではかなり意外な一面が見られます。何とかつての恋人が登場するのです。軽薄なプレイボーイタイプですが、フィデルマの方が熱を上げていて挙句の果てに捨てられたというのですからこれは結構イメージ変わりますね。捜査に私情が挟まって苦労しています。また容疑者の大半が巡礼中の修道士や修道女なのですが彼らから修道女としての資質を批判されてフィデルマが反論できない場面もあるなど弱みを見せているのが新鮮です。謎解き伏線はちゃんと用意されていますが証拠としての決定力は少し弱いように思います。しかし海洋冒険小説要素を織り込むなど起伏のある展開で厚さを気にせず一気に読み通しました。
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