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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2810件

プロフィール| 書評

No.2370 5点 殺人の仮面
ブレット・ハリデイ
(2021/05/10 00:16登録)
(ネタバレなしです) 米国のブレット・ハリディ(1904-1977)は1920年代後半から非ミステリーも含む様々なタイプの作品を書いていましたが出世作は赤毛の私立探偵マイケル・シェーンシリーズ第1作の「死の配当」(1939年)です。このシリーズ、大変な人気を誇りハリディ自身はシリーズ長編を29作発表して1958年に実質断筆したようですがその後もゴーストライターによる(ハリディ名義の)シリーズ続編が40作近くも書き続けられました。さて本書は1943年発表のシリーズ第7作ですがハヤカワポケットブック版の裏表紙では「タフ・ガイ探偵マイケル・シェーン!」とか「ハードボイルドの傑作!」とか紹介されていてこれだけだと本格派好きでハードボイルドやサスペンス苦手の私にとっては敬遠候補なのですが、本サイトで人並由真さんが謎解きミステリとして評価できるとのご講評なので試し読みしました。第6章や第8章の描写は紛れもなくハードボイルドだし、第14章でシェーンに「ぼくは犯人を知っていて、サスペンスをもりあげるためにわざと黙っている小説の探偵とは違う」と語らせたりと本格派とは一線を引いていますが、力ずくではなく謎解き伏線の回収に配慮しながら事件を解決しています。犯人の正体よりも大胆な犯行計画の方が印象的な作品でした。


No.2369 6点 赤死病の館の殺人
芦辺拓
(2021/05/09 23:10登録)
(ネタバレなしです) 2001年発表の森江春策シリーズ第2短編集です。趣向を凝らした本格派推理小説の中短編4作品が収められていますが、光文社文庫版で150ページ近い中編の「赤死病の館の殺人」はトリックが印象的ですけど目撃者が気づかなかったというのはどうも信じにくいですね。あと謎解き議論の中で森江が「いただけない」と却下した推理の説明が中途半端。先人トリックのネタバレに配慮したのかもしれませんが、「星影龍三」を引き合いに出しているだけでは置いてきぼりの読者も多いのではないでしょうか。(エラリー・クイーンの某作品を意識した?)締め括りの説明も読者に対してちょっと不親切な気がします。個人的なお気に入りはプロットの独自性が光る「深津警部の不吉な赴任」です。


No.2368 6点 最後の賭
ハロルド・Q・マスル
(2021/05/08 04:13登録)
(ネタバレなしです) スカット・ジョーダンの行動は弁護士というよりも私立探偵を印象づけることが多いのですが、1958年発表のシリーズ第7作である本書の前半ではいかにも弁護士らしい活躍を見せています。依頼を受けた事件はバーで殴られた男が意識不明の重傷を負うというもので加害者も明快にわかっています。ジョーダンの役割は加害者を保釈させるというのですからこれは確かに弁護士ならではの仕事ですけどミステリーのネタとしては面白くありません(テンポのいい文章のおかげで退屈はしませんが)。ところが中盤になって様相は一変し、ジョーダンは私立探偵向きの依頼まで引き受けることになります。この後半では行動範囲が広がり登場人物も増えますが、ジョーダンは解決へのアイデアも思い浮かばぬまま終盤を迎えます。しかしこの終盤で劇的な展開があり、そこからジョーダンが怒涛の推理で大胆なトリックを見破り犯人を一気に追い詰める場面はまさに謎解きのクライマックスです。リーガル・サスペンス、ハードボイルド、本格派推理小説を上手にブレンドしており、シリーズ代表作と言ってもよいのでは。


No.2367 6点 鎖された夏
大西赤人
(2021/05/07 17:10登録)
(ネタバレなしです) 大西赤人(おおにしあかひと)(1955年生まれ)は中学卒業後に14歳から書き溜めた短編をまとめた「善人は若死にする」(1971年)で文壇デビュー、その後も短編作家として活躍しますが1983年に発表された長編作品の本書(当時は「熱い眼」というタイトル)は何と本格派推理小説でした。光文社文庫版の巻末解説を土屋隆夫が書いていますがそこでは「論理の面白さ」と「文学精神」を賞賛しています。大黒柱を失い誰が後継者になるかを巡って微妙な関係にある財閥一族が山荘に集い、一族を抹殺するという脅迫状が舞い込むという古典的な設定は私の好むところですが物語のテンポが案外と遅いです(最初の事件がなかなか起きない)。犯人を特定する手掛かりはそつなく織り込んでいますが推理説明よりも犯人の自白の方が長いのが特徴です。この自白は印象的ですがそこに至るまでは他の容疑者も含めて登場人物の心理描写にはほとんど踏み込んでおらず(20人以上に300ページ少々のボリュームでは人物描き分けには十分でないのでは)、個人的には本書は普通の本格派推理小説で、文学性は特に感じませんでした。ミステリーと文学性の融合を追求した土屋ならではの思い入れは解説から伝わってきましたけど。


No.2366 7点 世界ミステリ作家事典[ハードボイルド・警察小説・サスペンス篇]
事典・ガイド
(2021/05/06 14:35登録)
2004年発表の本書は「世界ミステリ作家事典 [本格派篇] 」(1998年)と同等、むしろこのジャンル(つまり本格派以外)に焦点を当てたという点で希少性では上回るのではと思います。但しTetchyさんがご講評で述べられているように本格派篇とは温度差があるように感じます。本格派篇の方ではそれぞれの作家のここがいいんだというアピールに熱意があり本格派ファン読者を開拓しようという意気込みまでが伝わってきたのですが、ジャンルの幅が広がった本書が分業制で制作されたのはやむを得ないにしろ、本格派篇のような熱意は少ないように思います。まあ私自身が本格派篇や本書と出会う以前から本格派ばかりを追い求めている偏屈な読者なので、本書に対する姿勢がどこか冷めていたのも否定できませんけど(笑)。


No.2365 4点 秘密の多いコーヒー豆
クレオ・コイル
(2021/05/03 14:49登録)
(ネタバレなしです) 2007年発表の「コクと深みの名推理」シリーズ第5作のコージー派ミステリーですがやはりコージー派らしく推理要素は薄く、場当たり的な事件解決は物足りません。今回は本物のコーヒーと遜色ない味わいのカフェインレスコーヒーとそれを巡る秘密めいたビジネスが物語の中核です(本書に登場するカフェインを含まないコーヒーの木は架空の話ですけど)。そこに相変わらずの複雑な家族ドラマが絡みます。女性にだらしないくせにクレアとクィン警部補の関係には神経を尖らすマテオは個人的に好きになれませんが、クレアの根掘り葉掘りの質問責めにうんざりするのも何となく共感します(笑)。日常生活よりもビジネスにフォーカスしているプロットなのでコージー派にしてはやや硬い印象を受けました。


No.2364 5点 第三の女
アガサ・クリスティー
(2021/05/03 08:29登録)
(ネタバレなしです) 1966年発表のエルキュール・ポアロシリーズ第30作の本格派推理小説です。タイトルに使われている「サード・ガール」については当時の英国の生活スタイルと関わっていることが作中で紹介されていますが、大御所(悪く言えば過去の作家)のクリスティーなりに現代性を織り込んでいることをアピールしたかったのかもしれません。なかなか事件らしい事件が起きず、過去の(起こったかもしれない)殺人についてもはっきりしないという設定で引っ張る展開は了然和尚さんがご講評されているように退屈と感じる読者も多いのではと思います。大きな事件が起きるのがかなり後半で、起きたかと思うとあっという間に解決で長編作品としてはバランスが悪い印象を受けました。解くべき謎が定まらないままに謎解きを進めるプロットは斬新と言えば斬新なのですが、成功かというと微妙ですね。


No.2363 5点 ホック氏・香港島の挑戦
加納一朗
(2021/05/01 08:33登録)
(ネタバレなしです) 1988年発表のサミュエル・ホックシリーズ第3作でシリーズ最終作です(正確には2018年にシリーズ短編が1作出版されてますが)。前作の「ホック氏・紫禁城の対決」(1988年)の後日談にあたりますが前作を読んでいなくても十分に楽しめます。本書では本格派推理小説の要素は全くなく、純然たる冒険スリラーと分類してよいのではと思います。本格派好きの私としてはそこが個人的に残念なのと、ホックを助ける張警補の無双ぶりは頼もしい限りですがあまりにも活躍が目立ってホックの存在感が準主役級に降格してしまったように思えます。エピローグではついにホックの正体について(シリーズ第1作の「ホック氏の異郷の冒険」(1983年)からみえみえではありますけど)言及されます(証拠はないと予防線張ってますが)。


No.2362 6点 家政婦は名探偵
エミリー・ブライトウェル
(2021/04/30 07:40登録)
(ネタバレなしです) 米国のエミリー・ブライトウェル(1948年生まれ)は複数のペンネームでロマンス小説やヤングアダルト小説を書いていますが、ミステリーは1993年発表のジェフリーズ夫人シリーズ第1作の本書が最初の作品です。舞台はヴィクトリア朝英国で(作者の夫が英国人なのでその影響でしょうか?)、人は好いが探偵能力には疑問符が付くウィザースプーン警部補を家政婦のジェフリーズ夫人を筆頭に使用人集団がサポートする本格派推理小説です。アマチュアですから捜査や警察情報の入手には工夫が必要、ウィザースプーンに恥をかかせぬようストレートに真相を伝えるのではなく自分で気づくよう誘導するのにも工夫が必要というのがこのシリーズの特色のようです。この特色だとストーリーが回りくどくなりかねないですがテンポはスムーズで非常に読みやすかったです。警察の信じがたい落ち度がありますけど(第10章で判明)、シャーロック・ホームズが活躍したヴィクトリア朝ということで許容範囲?


No.2361 5点 豪華客船エリス号の大冒険
山口芳宏
(2021/04/25 22:51登録)
(ネタバレなしです) 2008年発表の本書は「雲上都市の大冒険」(2007年)の続編にあたる作品で本格派推理小説と冒険スリラー小説のジャンルミックス型であるところも共通してますが、前作が本格派要素の方が強かったのに対して本書は冒険スリラー要素の方が強いように思います。それは探偵のライバル的存在として伝説の犯罪者を登場させたことも一因でしょう。前半は抑え気味ですが中盤からは怒涛の展開です(相当にご都合主義な展開に感じましたが)。使われているトリックに既視感があり、チェスタトンや島田荘司の焼き直しに感じられてしまうのが残念です。最後の活劇シーンも明らさまにコナン・ドイルのパロディーでしょう。ワトソン役の殿島が「これはフェアじゃない」と怒った挙句に読者に対して「代わって」謝るのは作者としても色々な意味でやり過ぎたことを意識したのかもしれません。


No.2360 6点 <羽根ペン>倶楽部の奇妙な事件
アメリア・レイノルズ・ロング
(2021/04/19 22:03登録)
(ネタバレなしです) 米国のアメリア・レイノルズ・ロング(1904?-1978)は1930年代後半から1950年代前半にかけて約30作のミステリーを書いた女性作家です。本書は1940年発表の犯罪心理学者トリローニーシリーズの本格派推理小説で、キャサリン・パイパー(女性なのにピーターと呼ばれる理由が本書で紹介されています)と初めて出会います。というかピーターを語り手役にして彼女の視点で描かれる物語のため、トリローニーの出番はかなり抑えられています。作品のほとんどが貸本出版社からの出版ということからか日本では「B級アメリカン・ミステリの女王」というレッテルを貼られてしまったようですが、派手な展開と雑な仕上げの安手のスリラー作家とは違うように思います(別名義も含めれば30作近く書いたので、中にはB級臭い作品があるのかもしれませんが)。本書で事件が起きるのは中盤近く、それまでは何かが起きそうな雰囲気をじっくりと醸成する地味な展開でB級らしくありません。16章のようにスリラー要素が強烈な場面もあるとはいえ、推理による謎解きにしっかり取り組んでいて伏線も結構豊富です。作者はピーターを気に入ったのかトリローニーとの共演作を本書を含めて4作書き、更にはピーターが単独で活躍する作品もあるそうです。


No.2359 5点 ファイナル・オペラ
山田正紀
(2021/04/19 08:27登録)
(ネタバレなしです) 2010年から2011年にかけて雑誌連載されて2012年に単行本化されたオペラ三部作の最終作である本格派推理小説ですが、過去2作が回想されることもなく探偵役の黙忌一郎もいつのまにか登場していつのまにか退場するところも変わらず最終作的な演出は感じられません(第4作が書かれてもおかしくない)。タイトルにオペラを使っていますが西欧的な要素は皆無で、むしろ本書では能の世界が濃厚に描かれて和風テイストが非常に強いです。謎や怪現象が沢山提出されているところはいいのですが語り手の証言がとらえどころがなくて幻覚ではないかと思わせており、その幻想性も作者らしいのではありますがミステリーとしては勘違い系の腰砕け真相の可能性を残して物語が進むのは賛否が分かれそうな気もします。登場人物の名前が非常に覚えにくいのも辛いところです。それでも合理的な推理で謎が次々に解けていきますが最後は幻想の彼方にという幕切れです。私の理解力ではハードルが高過ぎる作品でした。


No.2358 3点 ゆがんだ光輪
クリスチアナ・ブランド
(2021/04/14 19:10登録)
(ネタバレなしです) コックリル警部シリーズ第6作の「はなれわざ」(1955年)は地中海に浮かぶ架空の島国サン・ホアン・エル・ピラータを舞台にしていましたが本格派推理小説としての謎を全面に押し出していて島社会の描写はほとんど目立ってませんでした。しかし1957年発表の続編的な本書(但しコックリル警部は登場しません)はサン・ホアンの社会問題を巡って様々な思惑が交差します。とはいえハヤカワポケットブック版は半世紀以上も前の古い翻訳だし、そもそも架空の国ですから読者は何の予備知識もないし、肝心の社会問題が宗教問題なのでとっつきにくく、何よりもミステリーらしくないプロット展開なのが私には苦痛でした。ようやく第8章で大公が大司教につきつけたとんでもない難題と徐々に準備される陰謀計画で少しずつ盛り上がり、最後の宗教劇的な締め括りも印象的ではありますがもやもやした謎ともやもやした推理の謎解きですっきり感がありません(そもそも私は十分に理解できませんでした)。雪さんのように真価を見出せる読者がうらやましいです。


No.2357 3点 女子高生探偵シャーロット・ホームズ最後の挨拶
ブリタニー・カヴァッラーロ
(2021/04/07 21:59登録)
(ネタバレなしです) 2018年発表のシャーロット・ホームズ三部作の最終作のスリラー小説です(もっともシリーズ第4作(番外編?)が発表されたそうですが)。シリーズ前作の「女子高生探偵シャーロット・ホームズの帰還<消えた八月>事件」(2017年)のネタバレが作中にあって問題と言えば問題ですが、仮に本書を先に読むとなるとこのネタバレがないと物語についていけないことになってしまうと思います(後日談的設定のジレンマですね)。過去2作と違うのは語り手をシャーロットとジェイミー・ワトソンの2人体制にして1章ごとに語り手を交代させる構成にしていることです(最後の2章のみは例外的にシャーロットが続けて語り手)。どちらが語り手になってもドライな語り口ながら何ともうじうじした心理描写が続くのにうんざりさせられます。仇敵モリアーティーとの決着編のはずなのになかなか事件が起きないし、ようやく起きた事件もジェイミーに対する嫌がらせとかせいぜいが盗難の濡れ衣といった程度でこれではなかなか盛り上がりません。最後は劇的と言えば劇的ですが意外とあっさりした決着です。いくら作中時代が離れているとはいえコナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズの世界とはあまりにもかけ離れた雰囲気、人物描写、そして何よりも探偵らしさの希薄さが私の好みには全く合いませんでした。


No.2356 6点 眠れる森の惨劇
竹本健治
(2021/04/03 22:20登録)
(ネタバレなしです) 後年に「緑衣の牙」に改題された1993年発表の牧場智久シリーズ第7作で、類子&智久シリーズとしては第3作となる本格派推理小説です。深い森に囲まれた女子高で起こった悲劇の謎解きを扱っており、建物配置図と三姉妹館の見取り図があるのが読者サービスになっていますがそこまでやってくれるなら森の地図も欲しかったですね。死体の発見された鐙沼と女子高の位置関係が私にはよくわかりませんでした(文章から読み取れるのかもしれませんが)。作者が「最も透明度の高い作品に仕上がった」と自己評価しているように、人物の心理描写が時に幻想的になりますがこの作者の作品としてはわかりやすく、トリックの使い方の巧さが印象的でした。とはいえ最後に類子が発した「本当にそれでいいの」という質問に対する智久の答えは個人的には納得できるものではなく、後味はよくなかったです。


No.2355 5点 レディーズ・メイドと悩める花嫁
マライア・フレデリクス
(2021/03/31 07:09登録)
(ネタバレなしです) 2019年発表のジェイン・プレスコットシリーズ第2作の本格派推理小説です。作中時代(本書では1911年)の社会問題としてタイタニック号の悲劇、女性参政権問題、そして移民問題がきめ細かく描かれています。結婚目前の2人とその家族間の人間関係も決して順風満帆状態ではありませんけど、英語原題が「Death of a New American」であることからも推測できるでしょうがイタリア系移民にろくな人物がいないと見据えている当時の米国社会の偏見が作品を重苦しいものにしています。人間関係は複雑で登場人物リストに載っていない人物も多くて少々読みにくいですが、容疑者数はそれほど多くありません。犯人当てとしては推理説明が十分でありませんが、犯行に至る経緯の悲劇性が印象に残る作品でした。


No.2354 6点 改訂・受験殺人事件
辻真先
(2021/03/24 21:52登録)
(ネタバレなしです) 1977年発表のスーパー&ポテトシリーズの青春三部作の最期を飾る本格派推理小説です。創元推理文庫版で300ページに満たないですが仕掛けは一杯です。今回はキリコ(スーパー)の視点と薩次(ポテト)の視点で交互に物語を語らせる構成を採用し、両者が何を考えているかも読者に明示しながら真相は最後まで伏せる芸当をやってのけています。この青春三部作は実験的手法を取り入れていることでも有名ですが、最後に紹介されている海外古典ミステリーの引用で何を狙っていたかをきちんと説明しています。とはいえ引用が抜粋形式ということもあってこの古典ミステリー(ややマニアックな作品です)を読んでいないと何が実験的なのかわかりくいと感じる読者がいるかもしれませんが。


No.2353 5点 紀ノ国殺人迷路
草野唯雄
(2021/03/24 21:19登録)
(ネタバレなしです) 草野唯雄(そうのただお)(1915-2008?)のおそらく最後の作品と思われる、1995年発表の尾高一幸シリーズ第12作の本格派推理小説です。非常にシンプルな謎解きで、犬を轢き殺してしまったという運転者の証言と人を轢き殺したという目撃者の証言が真っ向対立です。どちらかを真とすればもう一方が犯人であろうことは明々白々で、意外性を生み出しようがありません。推理要素も少なく、捜査による証拠・証言探しが主体となっています。読みやすい作品ですし、トラベルミステリー要素もありますが読み終えた後に記憶に残るとしたら尾高の激怒シーンが珍しいことぐらいでしょう。


No.2352 4点 令嬢探偵ミス・フィッシャー 華麗なる最初の事件
ケリー・グリーンウッド
(2021/03/24 21:10登録)
(ネタバレなしです) オーストラリアの女性作家ケリー・グリーンウッド(1954年生まれ)が1920年代のオーストラリアを舞台にしたフライニー・フィッシャーシリーズはテレビドラマ化され、さらには映画化されるほどの大ヒット作です。1989年発表の本書がシリーズ第1作ですがハヤカワ文庫版の日本語タイトルから連想されるような華麗さは感じられません。英語原題が「Cocaine Blues」とあるように麻薬組織との対決を描いたスリラー小説で、サイドストーリーでは違法中絶手術をする医者とその被害者が描かれるなどハードボイルドの暗黒世界の雰囲気が漂います。フライニー自身も武器を忍ばせて時にアクションヒロインになったり男性とベッドインしたりしています。メリハリあるプロットで読みやすいし、やや誇張気味ながらも人物の描きわけもしっかりしていますが個人的には好みの作風ではありませんでした。


No.2351 5点 退職刑事3
都筑道夫
(2021/03/24 20:55登録)
(ネタバレなしです) 1978年から1982年にかけて発表された退職刑事シリーズの7作の本格派推理小説を収めて1982年に出版された第3短編集です。前半の4作品が楽しめました。現代では珍しくなったガラス張りの電話ボックスの中でガラスに傷も穴もないのに射殺された死体、人形に殺されたかのような死体、殺人犯人は自白して事件は解決したはずなのに被害者の顔に仮面をかぶせたのは誰、死後に歩き回ったとしか思えない死体と、トリックはそれほどのインパクトはありませんが魅力的な謎と論理的推理による解決を堪能できました。しかし後半の3作品は論理的推理とは相性の悪そうなダイイング・メッセージ系です。「乾いた死体」で「ひとつの解釈をしてみただけなんだ」と言い訳させてますが、唯一の真相だという説得力がありません。しかし作者はこの種の謎解きに挑戦意欲が湧いたのでしょうか、第4短編集の「退職刑事4」(別題「退職刑事健在なり」)(1986年)ではメッセージの謎解き路線を更に推し進めることになります。

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