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ミステリの祭典

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見知らぬ人
ハービンダー・カー部長刑事

作家 エリー・グリフィス
出版日2021年07月
平均点5.50点
書評数6人

No.6 6点 ROM大臣
(2023/03/09 13:32登録)
クレアは、イギリスの中等学校タルガース校で英語教師を務めながら、ヴィクトリア朝時代の作家、R・M・ホランドの伝記を執筆している。実はこの学校の旧館は、怪奇短編「見知らぬ人」で知られるホランドの邸宅だったのだ。ある日、クレアと親しい同僚のエラが自宅で何者かに刺殺される。遺体の傍らには、「地獄はからだ」のメモ書きが。それは「見知らぬ人」に繰り返して出てくるフレーズだった。そしてクレアの日記にも「ハロー、クレア。あなたはわたしを知らない」という謎の書き込みが。
クレア、事件を担当する部長刑事ハービンダー、クレアの娘ジョージアの三人の視点と作中作「見知らぬ人」を駆使して語られ、やがて連続殺人事件へと発展していく本作における一番の読みどころは、フーダニットミステリとしての完成度の高さ。裏をかいて見せる手際には脱帽。さらに最後に用意されたある趣向にもご注目。

No.5 5点 人並由真
(2022/02/04 18:56登録)
(ネタバレなし)
 2017年10月。英国のウェスト・サセックス。そこにある中等学校タルガース校の旧館はヴィクトリア朝時代の怪奇小説作家M・R・ホランドの屋敷だった。その周辺で、同校の40歳代の女性教師エラ・エルフィックが何者かに殺害される。さらにエラの僚友でホランド研究家の美人教師クレア・キャシディの周辺にも異常な事件が生じた。サセックス警察の女性捜査官でインド系のハービンダー・カー部長刑事は、同僚のニール・ウィンストン部長刑事とともに事件の真相を探るが。

 2018年の英国作品。2020年度のMWA最優秀長編賞受賞作品。
(どうでもいいが、2018年に刊行されてなぜ2019年度の受賞作品ではなく、さらに翌年の2020年度の扱いなのだ? どっかの国の「このミス」みたいに、年末の刊行物なんかは、運営側の都合や事情で翌年の扱いにズレこんでいるのか?)

 でまあ、評判がいいので読んでみたが……正直、ムダになげぇ(長い)! 
 登場人物もウザいくらいにモブキャラにまで名前をつけてあり(メモを取ったら120人以上の名前ありキャラがいた。本そのものの人物名一覧にあるのは30人弱だが)、作者が自分の創作物という箱庭の神になる作業を、読者不在で楽しんでいるようだ。

 ストーリーも面白いようなつまらないような、あるいはその真逆かどっちか本気でわからないレベルで微妙。特に一人称の語り手を章ごとに変えるのはいいとして、クレアが先に語ったのと同じタイムラインでの出来事をもう一度ハービンダー側から語りなおしたりする構成は、その狙いを一応は理解した上で、大した効果が出ていると思えない。『ジキルとハイド』とかの共通ネタなんか、たぶんもっと面白いドライユーモアに出来たはずと思うが。

 序盤の50ページを読んだところで一度中座し、残りは翌日にいっぺんに通読したが、これはイッキ読みするほど面白かったとかそういうのでは決してない。こんな、有象無象のキャラの名前をこまめに憶えてくれと読み手に要求してくるような作者本位な作品は、半ば以降で中断しちゃうと、もう何が何だか話の流れも人物配置もわからくなってしまうに決まっているから。
 だから無理やり、ほぼ徹夜して最後までいっぺんに読んだ。決してそれほど惹きこまれたから、ではない。

 んでウリの? 意外な犯人だけど、たしかに「意外」ではあった。ただこういう文芸設定で犯人のキャラクターを最後に明かしていいのなら、本当にいろいろできちゃうよね? という感じ。だって当人が(中略)とすればいいのだから。

 シリーズ化されるようだけど、次作が翻訳されてもあまり積極的には読む気はしない。先にヒトの評判を聞いて面白そうだったら、あるいは手に取るかもしれない。
 まあ今回も、面白いらしいとのウワサを認めて、この流れではあるが。 

No.4 6点 猫サーカス
(2022/02/03 18:48登録)
ゴシック風の怪奇小説が作中作として挿入され、その小説を模したような殺人が起きる。ゴシックホラー風の趣向は確かにあるものの、あくまでも物語を支える脇役。本書の小説としての面白さを作り上げているのは、主人公とその娘、そして事件を捜査する刑事の、それぞれの視点からの語りである。母と娘、お互いに知っているつもりで知らないこと。刑事が見た母娘の印象。母娘から見た刑事の姿。視点を変えて同じ出来事を語るので、決して展開はスピーディーではないけれど、三者それぞれのキャラクターと語りの妙で読ませる。主人公が英語教師で、英語圏の文学への言及も多く、小説好きを引きつける仕掛けがあちこちに施されている。ミステリとしてはもちろん、現代の英国を描いた小説として楽しめる一冊。

No.3 6点 文生
(2021/09/18 19:21登録)
本作は本格というより、サスペンスに近い作品です。
したがって、「この犯人は絶対に見抜けない!」という帯の煽り文に釣られて読むと失望することなります。
犯人は意外といえば意外ですが、真相を隠蔽するような仕掛けやあっと驚くどんでん返しの要素は皆無です。
その代わり、古いゴシックホラー小説と現代の事件がリンクし、ヒロインの日記に犯人のものらしき書き込みが次々と見つかっていくといったサスペンス展開はよくできています。
MWA賞最優秀長編賞受賞もその辺が評価されてのことでしょう。
ただ、物語のスケール感に対していささか話が長いのが難といえば難。

No.2 5点 HORNET
(2021/09/12 20:48登録)
 バツイチで一人娘をもつ45歳のクレア・キャシディは、中等学校タルガース校の英語教師。ある日、同僚で親友のエラが殺害される事件が起きる。警察は内部犯を疑い、同校の教師や生徒を調べ始めるが、犯人はなかなか明らかにならず、そんな中第2の殺人が。事件現場に残されたメモや、関係者の言動にたびたび現れる、往年の作家・ホランドの作品「見知らぬ人」からの引用は何を意味するのか。女性刑事ハービンダー・カーは独自の感性から事件の真相を暴きにかかる。

 現校舎に住んでいたという地元作家の、代表作からの不気味な引用句、学校に流れる霊のうわさ、バツイチ女性の母娘関係、閉鎖的な教師の職場関係、などいろんな要素が織り込まれて退屈しない展開ではあるのだが、ミステリとしては平均水準かな。

No.1 5点 nukkam
(2021/08/21 20:06登録)
(ネタバレなしです) 英国の女性作家エリー・グリフィス(1963年生まれ)のミステリー作品は法医考古学者ルース・ギャロウェイシリーズとエドガー・スティーヴンス警部&魔術師マックス・メフィストシリーズが知られますが、2018年発表の本書はそのどちらでもない本格派推理小説です(とはいえハービンダー・カー部長刑事の登場する次作も書かれたので新シリーズかも)。現代的でありながらゴシック小説風な場面(降霊会)があり、3人の女性が何度も語り手役を交代したり、伝説のホラー作家の作品が作中作として挿入されて見立て殺人演出があり、英語教師(つまり国語教師)が大勢登場するからか文学作品の引用も多く、日記へのストーカー行為、学園ドラマに家族ドラマと実に多彩な面をもつ作品で、それがMWA(アメリカ推理作家協会)の最優秀長編賞の理由かもしれません。もっとも作中作を細切れにして挿入しているのは効果としては賛否両論あると思うし(最後にまとめ版が読めるようにしてはありますが)、文学作品の引用も散発的でとてもビブリオ・ミステリーとはいえないです。確かに多彩な作品なので色々な楽しめ方があるとは思いますが、犯人当てとしては謎解き伏線はあるけれど読者を納得させるには少ないように思えます。手広いけど浅いという印象のミステリーです。

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