(2021/09/01 22:05登録)
(ネタバレなしです) 1940年発表のウエストボロー教授シリーズ第9作の本格派推理小説で、Re-Clam版の巻末解説によればクレイスン自身は全10作が書かれたシリーズ作品の中では後期の5作に満足、そしてその中で本書を3位の出来栄えと評価していたようです。これでは東洋趣味と個性的な不可能犯罪トリックで有名なシリーズ第5作の「チベットから来た男」(1938年)の立場がないですね(笑)。2人の男の決闘(未遂に終わる)という風変わりなプロローグで幕を開け、香水会社を舞台に新開発の香水の命名を巡る議論と中毒事件が続きます。毒殺未遂を訴える社長から殺人を防ぐよう求められるウエストボローという図式は(後年の作品ですが)パトリシア・モイーズの「死の贈物」(1970年)を連想しました。香水や毒の成分、花の名前、美味しそうな料理、ウエストボローの文学作品の引用(これは本書に限りませんが)などの多趣味で作品を彩り、様々な人間模様と変化に富むプロットで謎を深める工夫は「チベットから来た男」とは異なる魅力です。後半に高圧的な警官(首席保安官)を登場させて容疑者と火花を散らしたりウエストボローを侮辱したりしているのも終盤に至る盛り上げ策として効果的だと思います。
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