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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2900件

プロフィール| 書評

No.2520 4点 クロームハウスの殺人
G・D・H&M・I・コール
(2022/06/11 21:06登録)
(ネタバレなしです) 1927年発表の本格派推理小説でシリーズ探偵は登場しません。アマチュア探偵(大学講師)が謎解きに挑むプロットですが、彼1人だけでなく弁護士や犯人と疑われた容疑者の婚約者や怪しい人物を見たという証言者などが捜査に参加します(警察はほとんど登場しません)。被害者が銃を突きつけられている2種類の写真(銃を持つ人物が異なっています)など面白そうなネタもあるのですが捜査が進展しているという雰囲気もなく、かといって謎が深まるという感じでもなく、探偵役を複数揃えたわりには謎解き議論も盛り上がらずとメリハリに乏しい謎解きプロットです。解決も推理より自白に頼っている印象を受けました。コール夫妻の代表作と評価されているそうですが、個人的にはぴんときませんでした(あまりこの作者の作品を読んでいないのですけど)。突然始まり突然終わった締め括りのロマンスも何のために挿入されたのか理解できませんでした。余談ですが論創社版の巻末解説で夫婦コンビ作家について「国内では折原一と新津きよみのほかに例がない」と紹介されてますけど松木警察署長シリーズの警察小説を書いた石井竜生と井原まなみは確か夫婦のコンビ作家だったように記憶しています(折原一と新津きよみのコンビを知らなかったので私もエラそうにできませんけど)。


No.2519 5点 能面殺人事件
高木彬光
(2022/06/06 22:35登録)
(ネタバレなしです) 1949年に発表されたミステリー第2作の本格派推理小説です。作中で「世界探偵小説史上に前例のない形式」と豪語するほどの意欲作ではあるのですが、読者の評価は大きく分かれそうな気がします。というのは海外ミステリーの数々が引用され、現代ではマナー違反とされるネタバレもあります。ネタバレ自体が目的なのではなく、それらとは違うアイデアの作品ということを強調したかったのでしょうけどアイデアの根幹部には既視感があります。色々な枝葉を付けて確かに「前例のない形式」に仕立ててはいるのですが、独創ではなくアレンジに過ぎないと評価する読者もいるかもしれません。古典ミステリーを研究し尽くした作者だからこそ書けた作品だとは思いますが。なお作中でネタバレされた作品はヴァン・ダインの「カナリヤ殺人事件」(1927年)、「グリーン家殺人事件」(1928年)、「僧正殺人事件」(1929年)、アガサ・クリスティーの「アクロイド殺害事件」(1926年)でこれらは先に読んでおいた方がいいでしょう。あと殺人方法は某作品の有名トリックを丸パクリしていますが、私の読んだ角川文庫版では巻末解説でその某作品名をばらしているのに笑いました。


No.2518 6点 時計は三時に止まる
クレイグ・ライス
(2022/06/04 21:25登録)
(ネタバレなしです) 米国の女性作家クレイグ・ライス(1908-1957)が1939年に発表したミステリーデビュー作です。作風がユーモア本格派推理小説と認識されていることが多い作者ですが、本書の死体発見場面はまるでゴシック・ホラー風な雰囲気なのに驚かされます。もしも死体発見者で最有力容疑者となったヒロイン視点のまま物語を展開させていたら1級のサスペンス小説に仕上がったかもしれませんが、本書は酔いどれ弁護士マローンシリーズ第1作であります。とんでもない行動でとんでもない展開となるところは早くもライスの個性が発揮されており、ハリウッドを舞台にして派手などたばた要素を織り込んだエラリー・クイーンの「悪魔の報復」(1938年)や「ハートの4」(1938年)を意識したのかもしれません。もっともヘレンを事件関係者に設定したためか、これでも後年作と比べるとユーモアはまだ抑え目ですが。随所で酒の勢いを借りる場面が描かれていますが、下品な方向に走らないのもこの作者ならではです。殺人現場の時計が全て三時で止まっていたという風変わりで魅力的な謎の真相はそれほど印象に残りませんが、犯人を特定するマローンの推理はなかなかの切れ味です。余談になりますが私の読んだ光文社文庫版は5章が尻切れトンボ状態で、文章が終わらないまま次ページへ進むといきなり6章が始まってショックでした。


No.2517 5点 影の鎖
夏樹静子
(2022/05/31 07:44登録)
(ネタバレなしです) 夏樹静子(1938-2016)はデビュー長編の「天使が消えていく」(1970年)以降の活躍が読者層の記憶に残っていると思いますが、1977年出版の短編集である本書に収められている、文春文庫版で100ページ近い中編の「影の鎖」は1962年の作品です(解説の宮部みゆきによると活字化された最初の作品らしいです)。第1章で愛する夫と子供を轢き逃げで殺されて生活のために車のセールスマンとなった久子の物語、第2章では不倫恋愛中に夫が毒殺された菅夫人の物語と続く本格派推理小説です。轢き逃げ犯は唐突な自白で明らかになってしまって推理要素など全くありませんが、それが作品の弱点にはならないプロットが巧妙です。文春文庫版の裏表紙では「五篇の本格推理を収録」と紹介されていますが、トリッキーな「ハプニング殺人事件」はまあ本格派らしさを感じますが、真相自体は印象的ながら読者が推理するための情報が十分に与えられず自白による解決が謎解きとして物足りない作品が多いです。


No.2516 5点 細工は流々
エリザベス・フェラーズ
(2022/05/29 23:21登録)
(ネタバレなしです) 1940年発表のトビー・ダイク&ジョージシリーズ第2作の本格派推理小説です。英語原題は「Remove the Bodies」で、これはおそらく終盤の第13章の手記の中で語られていることを指しているように思われます。しかしそこに至るまで読み進めるのが結構辛かったです。質問に対してまともに答えないシーンが多過ぎて回りくどく、物語のテンポがぎくしゃくして読書への集中力が削がれます。明確に毒殺である事件と(日本語タイトルの元ネタである)数々の殺人装置の組み合わせも焦点の定まってない謎に感じられて謎解き意欲が高まりません。推理は動機と心理分析が多くを占めていますが、(私の読み込みが浅いのも間違いありませんが)犯人はこの人しかありえないという説得力をもった証拠が不足しているように思います。


No.2515 5点 密室館殺人事件
市川哲也
(2022/05/29 10:02登録)
(ネタバレなしです) 2014年発表の「名探偵の証明」三部作の第2作である本格派推理小説です。本書では名探偵(蜜柑花子)のせいで家族を殺されたと逆恨みする人物を登場させて名探偵の役割と責任を考えさせる趣向があるのが「名探偵の証明」である所以でしょうけど、それ以上に「推理小説の犯罪と現実の犯罪の違い」についてを蜜柑に語らせているのが印象的です。とはいえデス・ゲーム要素を織り込んでいるところからして非現実的な作品世界なのは避けようもなく、ごく一部の要素だけ「現実的」にこだわってもあまり意味がないように思います(極端すぎな非現実も困りますけど)。これでは名探偵ジャパンさんのご講評で指摘されているように面白い謎解きを創作できなかった言い訳に感じられてしまうのではないでしょうか。本書のタイトルでリアリティー重視の社会派推理小説を期待する読者はそうはいないと思いますので、もっと羽目を外した謎解き(少なくとも密室には何かこだわりの工夫)に挑戦してほしかったです。


No.2514 5点 アデスタを吹く冷たい風
トマス・フラナガン
(2022/05/27 10:28登録)
(ネタバレなしです) 大学の教員が本職だった米国のトマス・フラナガン(1923-2002)のミステリー作品は「玉を懐いて罪あり」(「北イタリア物語」という邦題もあります)(1949年)から「もし君が陪審員なら」(1958年)までの7作の短編のみです。きちんと確認したわけではありませんが本国では雑誌掲載されたのみのようで、日本で1961年に出版されたハヤカワポケットブック版が世界初の短編集ではないでしょうか。架空の『共和国』を舞台にした4作のテナント少佐シリーズでは密輸トリックの謎解きの「アデスタを吹く冷たい風」(1952年)が有名ですがテナント少佐が自慢するほど「論理的な証明」とは思えず、トリックも平凡に感じました。密輸トリックとしては「国のしきたり」(1956年)の方が巧妙に感じます。非シリーズ作品の「玉を懐いて罪あり」はどんでん返しが印象的で、最後の一文はジョン・ディクスン・カーの某短編を連想させます。「もし君が陪審員なら」は謎解き議論(但し容疑者は1人だけ)がありますが最後は不気味な結末が用意されているところはクリスチアナ・ブランドの某作品に通じますね。推理説明があまり上手くないのが惜しいですが、意外性(犯人の正体とは限らない)の演出が効いた本格派推理小説が多いです。


No.2513 6点 毒の矢
横溝正史
(2022/05/25 07:33登録)
(ネタバレなしです) 1956年に短編版が発表され、同年に長編化した金田一耕助シリーズ第13作ですが角川文庫版で200ページに満たない短さのためか長編としてカウントしていない文献もあるそうです。「幽霊男」(1954年)や「吸血蛾」(1955年)など通俗スリラー作品が目立ち始めている中で本書はきっちりした犯人当て本格派推理小説として仕上がっており、推理説明が丁寧です。空さんがご講評で指摘されている、英国の某作家の某作品のトリックに類似とはああ、多分あれですね。事件解決後の幸福感は横溝の全作品中でも一番ではないでしょうか(そこも某作家の作風に通じるところありますね)。角川文庫版には本書に続けて書かれた短編「黒い翼」(1956年)が一緒に収められていますが、匿名の手紙がきっかけとなる展開が「毒の矢」と同工異曲的な作品ながら暗く重苦しい結末が対照的です。


No.2512 5点 断崖の骨
アーロン・エルキンズ
(2022/05/24 07:31登録)
(ネタバレなしです) 1985年発表のギデオン・オリヴァーシリーズ第3作で、過去のシリーズ作品はスリラー小説でしたが本書は作風変更を意図したか英語原題を「Murder in the Queen's Arms」にした本格派推理小説です。新婚旅行で英国を訪れていたギデオンが第1章で博物館から貴重な古代人の人骨が盗まれているのに気づきます。もっともこの事件の捜査をするわけではなく、旧友が発掘中の遺跡を訪れてそこで殺人事件に巻き込まれるという展開になります(盗まれた人骨もかなり後になってから重要な役割を果たすのですけど)。結構早く容疑者は絞り込まれるのですが、犯人は左利きのはずなのに容疑者は全員右利きという謎にギデオンが悩みます。この真相は専門的知識で解かれて面白い謎解きではなかったし、後半の新たな事件も蛇足の展開に感じます。作者にとって初の本格派ということでまだ試行錯誤中だったのかもしれません。


No.2511 6点 模像殺人事件
佐々木俊介
(2022/05/22 02:40登録)
(ネタバレなしです) デビュー作の「繭の夏」(1995年)からかなりの時間を経て2004年に発表された第2作の本格派推理小説です。8年前に家出した長男を名乗る男が2人帰郷し、しかもどちらも頭部全体を包帯で覆われている包帯男という異常な事態が起こります。果たしてどちらが本物なのかという謎で前半を引っ張りますが片方が失踪するに至ってからどんどんややこしいことになります。会話の中に登場するけど直接描写がほとんどない登場人物が結構いますが、これが謎を深めるのに効果的です。「人物に存在感がない」と書くと通常は否定的評価ですが、本書の場合は当てはまらないでしょう。とらえどころがなくて読みにくいと感じる読者もいるかもしれませんが。何が起こったのかという網羅的な謎解きは読者が当てるのは難しいと思いますが、複雑怪奇な真相を丁寧な推理で説明している力作です。


No.2510 5点 名探偵と海の悪魔
スチュアート・タートン
(2022/05/20 13:36登録)
(ネタバレなしです) SFミステリーの「イヴリン嬢は七回殺される」(2018年)でデビューした英国のスチュアート・タートンが2020年に発表した第2長編です(英語原題は「The Devil and the Dark Water」)。「イヴリン嬢は七回殺される」はジャンルミックス型らしいのですが(私は未読です)、本書も海洋冒険小説、本格派推理小説、歴史小説、怪奇小説がミックスされています。作者は歴史描写については細部にこだわらずフィクションであることを強調していますが、十分に時代性を感じさせていると思います(歴史知見の乏しい私が賞賛しても説得力ないですけど)。船に乗り合わせた船員、兵士、そして船客の関係がどちらかといえば対立的ですし、男尊女卑描写も容赦ないところは現代社会と大きく異なる雰囲気です。前半は物語のテンポが遅過ぎで、後半は劇的に盛り上がりますが色々詰込み過ぎで意外とサスペンスを感じませんでした。冒険小説として人が(結構大勢)死ぬのと本格派の被害者として人が死ぬのをごちゃまぜにしているためか、それなりに推理説明はしているのですが謎解きのすっきり感があまり得られません(なかなか巧妙なミスリーディングがありますけど)。善悪を超越した決着のつけ方がユニークです。


No.2509 5点 北陸翡翠峡殺人事件
関口甫四郎
(2022/05/11 22:26登録)
(ネタバレなしです) 1989年発表のシリーズ探偵の登場しない本格派推理小説です。宝飾品新作発表パーティーの出席者3人が失踪し、その1人が富山県の宮崎鹿島樹叢で他殺死体となって発見されます。失踪者の1人と思われる男が残したノートの暗号謎解きに力が入っており、非常に丹念に解読されています。「鉄道回文殺人事件」(1987年)を読んだ時にも感じましたがこの作者は暗号が得意なようですね。もっともこの暗号、メッセージとしてはあまりにも回りくどい手段にしか思えませんでしたが。第11章の4で最後に明かされる真相は読者が推理しようがなく、謎解きの締め括りとしてはどうにも締まりません。


No.2508 5点 レシピに万歳
アリサ・クレイグ
(2022/05/09 06:32登録)
(ネタバレなしです) 1990年発表のディタニー・ヘンビットシリーズ第4作ですがディタニーは妊娠中でそれほど活躍するわけではなく、夫のオズバートの名探偵ぶりが目立ちます。本書と同年に発表されたP・M・カールソンの「真夏日の殺人」でやはり妊娠中のマギー・ライアンの大活躍ぶりとは対照的な描き方ですね。オズバートの叔母のアシュレーザが訪れていた毛糸店に銃弾で蜂の巣になった自動車を乗り付けた男が飛び込んできてダイイングメッセージを残して死んでしまい、さらに追跡者らしい2人組の男が乗り込んで死体と車を運び去ります。この騒動に巻き込まれて全く動じなかったアシュレーザが凄いです(笑)。被害者はほどなく特定され、ミンスミート製造会社の秘密レシピを狙った事件の犠牲者ではと推測されます。なかなか大胆なトリックが使われていて、やりようによってはインパクトのある謎解きに仕上げられたのではと思われますがコージー派の本格派推理小説プロットなので、真相を見抜いた推理説明はちゃんとありますけどあっさり目です。


No.2507 4点 黒バラ荘殺人事件
関口芙沙恵
(2022/05/07 21:37登録)
(ネタバレなしです) 関口ふさえ名義で「蜂の殺意」(1990年)を発表してデビューした関口芙沙恵(1944年生まれ)のミステリー第2作が1991年発表の本書です(これも関口ふさえ名義)。「蜂の殺意」は(私は未読ですが)悪女の犯罪を描いたサスペンス小説のようですが、本書は趣向をがらりと変えました。タイトルから当時既に4作が発表されていた綾辻行人の館シリーズ的な本格派推理小説を私は連想したのですが、これは全くの勘違いでした。カッパノベルス版の「著者のことば」では「人間を書きたい」と主張され、裏表紙では「政界の暗部に迫っている」と紹介されている社会派推理小説です。政財界絡みの事件を追うルポライターがマンションの自室で殺され、古代ギリシャ風の衣装をまとって拳銃自殺した(らしい)政治家の記事が載っている3年前の週刊誌の間に「ギリシャ神話」の文庫本がはさまっているのが現場で発見されるというプロットです。本格派を期待して読んだのは私の勝手なので社会派だったことに文句を言うつもりはありませんが、タイトルの黒バラ荘は中盤でちょっと登場するだけ、しかもそこでは殺人が起きないというのにはちと文句を言いたいです。感情をあまり表に出さない政財界関係者が多いためか、著者が目指した人間描写もあまり実現できていないように感じました。


No.2506 5点 レオ・ブルース短編全集
レオ・ブルース
(2022/05/04 16:42登録)
(ネタバレなしです) レオ・ブルース(1903-1979)のミステリー短編集は死後出版の「棚から落ちてきた死体」(1992年)が最初で、ビーフ巡査部長シリーズが10作、グリーブ巡査部長シリーズが8作、非シリーズ作品が10作の合計28作で当時はこれがブルースの短編全集という位置づけでした。その後、ビーフ巡査部長シリーズが4作、グリーブ巡査部長シリーズが3作、非シリーズ作品が5作発見され、2022年に全40作の国内独自編集の全集としてまとめられました。その内9作は世界に先駆けての出版らしく編者のドヤ顔が目に浮かぶようです(笑)。驚いたのが2点、1つは大半が10ページ前後のショート・ショートであること(扶桑社文庫版は40作で400ページに満たないです)、もう1つはシリーズ作品は本格派推理小説ですが非シリーズ作品は犯罪小説が多いことです(中にはホラー小説もありました)。謎解き手掛かりが後出し気味の本格派も少なくないですが、その中ではトリックに驚く「休暇中の仕事」(別の短編で使い回しされてます)と「棚から落ちてきた死体」(場面を想像するとおかしな気分になります)が印象に残ります。30ページに達する短編「ビーフのクリスマス」はページが多いだけあって犯人当てとして充実のプロットで、大胆な犯行トリックも面白いです。


No.2505 5点 三千万秒の悪夢
日下圭介
(2022/04/27 12:15登録)
(ネタバレなしです) 1992年発表の倉原真樹シリーズ第5作です。第1章で石川県で起きた殺人事件が描かれますが、第2章から登場する真樹が担当するのは15年前の東京での未解決殺人事件の方です。放火事件、脅迫、轢き逃げ事件、新たな殺人と色々と謎が増えるのですが関連性がなかなか見えてこないのでちょっと散漫な印象ですし、第5章で真樹が「濡れた砂にのめり込んだみたいに、まるで進まなかった」と述懐しているように中盤過ぎまではもやもやした展開なのでいささか退屈でした。第6章でやっと事件の全体像に光が当たり、作者のねらいである「北陸ならではの情感」描写も目立ってきます。真樹が名探偵よろしく謎を見抜いていることを示唆しているのはいいのですが、どうやって推理したのかをきちんと説明していないので本格派推理小説の謎解きとしては不満があります。


No.2504 5点 赤い三角形
アーサー・モリスン
(2022/04/22 08:05登録)
(ネタバレなしです) マーチン・ヒュイーットシリーズのこれまでの短編集が1894年、1895年、1896年と毎年出版されたのに対して、第4短編集でシリーズ最終作である本書はお久しぶりの1903年出版です。1902年から1903年にかけて雑誌掲載された6作品を収めているところは過去の短編集と同じパターンですが、大きく異なるのは全ての作品に同じ犯罪組織が絡む連作短編集を意図して作られたことです。起こった事件の捜査は成功するが黒幕は逃してしまうというパタ-ンの作品が多いです。「レヴァー鍵の事件」(1903年)では「暗号解読に長けているという自信がある読者諸氏は、ぜひ挑戦してみてもらいたい」とまだ本格派推理小説を意識していますが、後半の作品になるほど黒幕の追跡がメインとなる冒険スリラー小説要素が強くなります。短編集でまとめて読む分には問題ありませんが単独作品として読んだ場合には完全解決でなくてすっきり感のない作品が多いです。


No.2503 5点 予告された殺人の記録
高原伸安
(2022/04/20 09:54登録)
(ネタバレなしです) 初めて読んだミステリーがアガサ・クリスティーの「アクロイド殺人事件」(1926年)という高原伸安(1957年生まれ)によってこれを超えることを目論んで1991年に発表されたデビュー作の本格派推理小説です。人並由真さんがご講評で作者による「あとがき」でのネタバレに要注意と警告して下さっていますが、この「あとがき」がないと最終章に当たる33章は一体何なのか悩む読者は私だけではないと思います。私はこの種の仕掛けのもっとシンプルなパターンの先行作品(「あとがき」で紹介されている作品は読んでませんが)でもあまり理解できていなかったのですけど。またこの仕掛けを成立させるためのトリックは早い段階から結構丁寧に紹介されていますが、それでも頭の固い私には実現可能なのか疑問が拭えませんでした。1章のミステリー談話で語られる「読者は定義と一緒で受け入れるしかない」に納得できる読者なら大丈夫でしょうけど。またタイトルがガブリエル・ガルシア=マルケス(1928-2014)の「予告された殺人の記録 」(1981年)(私は未読です)に由来する記述が32章にありますが、殺人予告のない本書のプロットでこのタイトルはぴんと来ませんでした。いずれにしろ相当数のミステリーを読み込んだ読者向けの作品だと思います。


No.2502 5点 放浪処女事件
E・S・ガードナー
(2022/04/17 20:11登録)
(ネタバレなしです) 1948年発表のペリイ・メイスンシリーズ第32作の本格派推理小説です。複雑な人間関係に複雑な真相の謎解きなんですが、プロット整理があまり上手くなくてわかりにくいです。殺人以外の悪だくみの謎解きの方がメインにさえ感じられ、肝心の殺人の謎解きはかなり乱暴な推理を自白に助けてもらっている始末です。英語原題が「The Case of Vagabond Virgin」ですので日本語タイトルを「放浪処女事件」としているのは誤訳とは言えませんけどなんかしっくりきません。ハミルトン・バーガー検事が使った「無垢」という表現の方がまだ合っているように思いました。それにしても当時の米国では18歳はそれなりに保護される年齢だったのですね。


No.2501 4点 料理人は夜歩く
カレン・マキナニー
(2022/04/14 23:54登録)
(ネタバレなしです) 2007年発表のグレイ・ホイール・インシリーズ第2作です。シリーズ第1作の「注文の多い宿泊客」(2006年)と同様、コージー派ミステリーに分類するのがためらわれるほど楽しい要素がなく、美しい風景描写や美味しそうな料理描写があっても雰囲気は明るくなりません。そしてこれまた前作同様に終盤には結構痛々しい場面が用意されています。ヒロインが2人の男性のどちらを選ぶかで揺れ動くというのはロマンス小説の王道パターンの1つではあるのですが、本書の場合は片方の男性があまり魅力的でないのにどっちつかずの態度のナタリーにイライラさせられます(作者の計算の内かもしれませんが)。謎解きも場当たり的で、第25章では「不意にすべてが正しい場所にカチリとはまった」と述べていますがそれほど丁寧に伏線を回収した謎解き説明しているわけではありません。

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