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ミステリの祭典

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ピーター卿の遺体検分記
ピーター卿シリーズ

作家 ドロシー・L・セイヤーズ
出版日2021年12月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 6点 クリスティ再読
(2025/11/15 20:25登録)
要するにピーター卿短編というのは既訳すべてで21篇(未訳1篇)になるわけだ。創元の2冊の事件簿では14篇をカバーできて、残りが7。そのうち4篇を本書がカバーできる。残りは創元「大忙しの蜜月旅行」に併録された「トールボーイズ余話」と「モンタギュー・エッグ氏の事件簿」収録の「アリババの呪文」、それに新潮文庫「クリスマス12のミステリー」に収録された「真珠の首飾り」ということになる。なのでついでと言っては何だが、本書をやればとりあえずピーター卿短編のあらかたを読めたことになる(「蜜月旅行」は既にやってるし)。

そういう意味で中途半端な出版である。本来収録されているはずの「アリババの呪文」が収録されなかったことで、本としての意味を薄くしてもいる。まあそれでも収録作が面白いから、いいか。本書からピーター卿短編に親しんだとしても、悪いわけではないよ。セイヤーズの小説の小洒落た良さがあるから、ミステリとして肩透かしでもそう腹は立たないからね。なので本書で読むべき非重複作は...

「口吻をめぐる興奮の奇譚」
駅で見かけたカップルの様子に違和を感じたピーター卿は...フランス語についての文法的な話がキー。まあ日本人にはキッツいが(苦笑)でもそんなちょっとした謎から大きな犯罪を予知するあたり、ヒーロー性の高いホームズ・ライバルらしさがあるよ。「九マイルは遠すぎる」とかに近いテイストかな。
「瓢箪から出た駒をめぐる途方もなき怪談」
暴走する2台のオートバイを追跡することになったピーター卿が見つけたモノは?なかなかアクティヴな話。
「逃げる足音が絡んだ恨み話」
事実上の密室殺人もの、というか凶器の行方かな。面白い趣向。
「竜頭に関する学術探求譚」
古書探求で「宝島」してしまう話。相棒は御年10歳の甥のガーキンス(「学寮祭」でも成長した姿が...)。でも公爵家の相続人である立場から10歳でもセント・ジョージ子爵!そんな少年が古書店で買ったボロボロのセバスチャン・ミュンスター「一般宇宙誌(コスモグラフィア・ウニヴァルサリス:1540年刊の近世ドイツの地理書)」に隠された宝物とは?なんて話。ピーター卿も童心に帰ってワクワク!読んでいてやたらと楽しい。

というわけで、残っていたのは短い作品だけど、大概既訳が雑誌に掲載されていたりもする。ピーター卿長編は1990年代まで訳されなかったものがあるけども、こう見てみると、雑誌レベルでは紹介されていたんだなあ。面白いからねえ。

で本書の特徴は結構訳にこだわったようで、創元事件簿では「因業じじいの遺言」なのが「メリエイガー伯父の遺書をめぐる魅惑の難題」だったりする要領。セイヤーズの凝りっぷりが窺われる。
(訳で?になったのはp.252の古書の「電子版」という言葉。1928年にコピー機があるわけがない。書誌学でいうファクシミリ版のことかな?面白いことに19世紀に既にいわゆるFAXは存在するから、これに引きずられたのかな)

No.1 5点 nukkam
(2022/01/22 23:13登録)
(ネタバレなしです) セイヤーズの生前に発表された短編集は3冊あり、1928年発表の本書はピーター・ウィムジー卿シリーズの短編12作を収めた第1短編集ですと紹介したいところですけどあれ、論創海外ミステリ版は「アリババの呪文」を欠いて11作しかありません。というのは同じ論創社が独自編集で先に出版した短編集「モンタギュー・エッグ氏の事件簿」の方に「アリババの呪文」を収めたためです。独自編集を否定するつもりは毛頭ありませんけどこのために本書は微妙に中途半端になってしまったし、「モンタギュー・エッグ氏の事件簿」の方は全11作書かれたモンタギュー・エッグシリーズを6作しか収めておらず(他は「アリババの呪文」と非シリーズ6作)、一体どういう編集方針なんでしょうね?さて本書の感想ですが短編であってもピーター卿の饒舌ぶりはしっかり描かれており、時に謎解きから脇道にそれ気味なのは同時代のアガサ・クリスティーの無駄の少ない謎解きプロットとは対照的な個性ですね。本格派推理小説というよりスリラーの作品もあります。個人的に好きなのは頭のない御者と頭のない馬が音もたてずに走らせる馬車が幻想的効果を生み出す中編「不和の種をめぐる卑しき泣き笑い劇」とピーター卿を名乗る2人のどちらが本物なのかの人物鑑定がユーモラスで楽しい「嗜好の問題をめぐる酒飲み相手の一件」です。

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