(2022/01/22 23:13登録)
(ネタバレなしです) セイヤーズの生前に発表された短編集は3冊あり、1928年発表の本書はピーター・ウィムジー卿シリーズの短編12作を収めた第1短編集ですと紹介したいところですけどあれ、論創社版は「アリババの呪文」を欠いて11作しかありません。というのは同じ論創社が独自編集で先に出版した短編集「モンタギュー・エッグ氏の事件簿」の方に「アリババの呪文」を収めたためです。独自編集を否定するつもりは毛頭ありませんけどこのために本書は微妙に中途半端になってしまったし、「モンタギュー・エッグ氏の事件簿」の方は全11作書かれたモンタギュー・エッグシリーズを6作しか収めておらず(他は「アリババの呪文」と非シリーズ6作)、一体どういう編集方針なんでしょうね?さて本書の感想ですが短編であってもピーター卿の饒舌ぶりはしっかり描かれており、時に謎解きから脇道にそれ気味なのは同時代のアガサ・クリスティーの無駄の少ない謎解きプロットとは対照的な個性ですね。本格派推理小説というよりスリラーの作品もあります。個人的に好きなのは頭のない御者と頭のない馬が音もたてずに走らせる馬車が幻想的効果を生み出す中編「不和の種をめぐる卑しき泣き笑い劇」とピーター卿を名乗る2人のどちらが本物なのかの人物鑑定がユーモラスで楽しい「嗜好の問題をめぐる酒飲み相手の一件」です。
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