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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2810件

プロフィール| 書評

No.2570 3点 風刃迷宮
竹本健治
(2022/12/02 00:05登録)
(ネタバレなしです) 1998年発表の牧場智久シリーズ第8作ですが、読解力の弱い私にはとらえどころのない難解な怪作でした。全34章で構成されていますが、断片的な物語が脈絡もなくつながっているような感じです。過去のシリーズ作品の登場人物が大勢登場していて懐かしいと言いたいところですが、武藤類子は22章でちょっと顔見せしただけで一言も発していないなど配役にかなりのばらつきがあります。智久も主役とは言えないと思いますが、では誰が主役かというと特定しにくいです。強いて挙げるなら智久の姉の牧場典子でしょうけど、混乱している場面が多くて活躍したという印象がありません。31章で事件の大まかな輪郭が説明されますが、推理が語られるわけではなく本格派推理小説の謎解きにはなっていませんし、事件現場近くで目撃された智久に似ている少年の真相はアンフェアな印象を読者に与えるでしょう。27章から29章にかけての多重追跡のスリルは優れていると思いますが、最後まで読みにくい、わかりにくい、すっきりしないと私には合わない作品でした。


No.2569 5点 謎まで三マイル
コリン・デクスター
(2022/11/27 18:33登録)
(ネタバレなしです) 1983年発表のモース主任警部シリーズ第6作の本格派推理小説で、犯人当てと被害者当ての謎解きを特徴としています。この紹介でパット・マガーの「七人のおば」(1947年)を連想させてしまったら申し訳ありません、マガー作品とはほとんど共通点がありません。両手両足さらには首まで切断された(残虐描写は一切ありません)死体の素性を巡ってモースとルイス部長刑事が右往左往し、なかなか犯人探しに集中できません。「ジグソー・パズルのまん中に、一つだけ大きく抜けている場所がある」とモースが終盤に述べていますが、結構肝心な部分の説明を後回しにしたままで真相を説明するというのがユニークです。もっとも最後に残したその謎の真相は賛否両論になりそうですね。ミスリードの手法が効果的ではありますけど。


No.2568 4点 恐山「黄金の国」殺人海峡
草野唯雄
(2022/11/20 14:49登録)
(ネタバレなしです) 鉱業会社での勤務経験がある作者には初期作品に「北の廃坑」(1970年)や「影の斜坑」(1971年)などの鉱山を舞台にした作品があり、1991年発表の尾高一幸シリーズ第9作の本格派推理小説である本書ではかつての山師で大鉱脈発見で財を成した男が謎の死を遂げる事件を扱っています。もっとも初期作品の熱気や緊張感は本書ではまるで感じられず、むしろ淡泊な印象が残ります。殺人犯は結構早い段階で絞り込まれ、逮捕するに十分な証拠や証言を探し求めることに多くのページを費やしていて推理物としては物足りません。犯行時刻と関係ない時間帯に犯人がアリバイを用意していたのはなぜかという謎がちょっと珍しいぐらいで、それもあまり大した理由ではないように思えます。


No.2567 5点 偽りと死のバラッド
ルース・レンデル
(2022/11/18 22:58登録)
(ネタバレなしです) 1973年発表のレジナルド・ウェクスフォードシリーズ第8作の本格派推理小説です。8万人の群衆が集まる音楽フェスティヴァルの終焉後に発見された他殺死体という事件を扱ってますが、迫力ある演奏とか会場の熱狂ぶり描写を期待してはいけません。整然たる弦楽四重奏の演奏会と置き換えても違和感ないぐらい抑制が効いています。地味過ぎるぐらいの捜査描写の中で第12章での被害者の服を巡っての刑事たちの意見交換会がちょっとしたファッション評価みたいでユニークです。犯人逮捕は意外と早くて唐突ですが、「もっと奇妙ななにか、実際の彼女の死よりも、もっとおそろしいなにか」の謎をウェクスフォードがなおも追及していきます。その真相にはかなり変わった人間ドラマが隠されていますが、読者に納得させるには伏線不足の感じがします。余談になりますが第7章でバーデン警部の近況が語られますが、「もはや死は存在しない」(1971年)を読んでいる読者は意外な後日談に驚くでしょう。


No.2566 6点 榛名湖殺人事件
中町信
(2022/11/16 05:24登録)
(ネタバレなしです) 1987年発表の本格派推理小説です。主人公の女性が病室で男性に襲われます。ショックで記憶が断片的になり襲撃者の顔は覚えていませんが、親指と人差し指の先がないことは覚えています(三本指の男って横溝正史の「本陣殺人事件」(1946年)みたい)。なぜ自分が狙われたのかを考える主人公はアマチュア探偵として謎めいた死を遂げた姉の事件を調べていくことになります。三本指の男に出会えれば解決などという単純な謎解きでないところが巧妙ですし、ユニークなダイイングメッセージも印象的です。それにしても容疑者たちとのやり取りの中で情報を集めるだけでなく、自分の推理や捜査状況を相手に伝えてしまうのにはびっくり。この主人公、地味なキャラクターのようで案外と図太いというか不注意というか(笑)。


No.2565 6点 デイヴィッドスン事件
ジョン・ロード
(2022/11/10 22:50登録)
(ネタバレなしです) 1929年発表のプリーストリー博士シリーズ第7作の本格派推理小説です。被害者の行動を調べていく過程で多くの地名が登場するので地図は載せてほしかったですね。トリックもあるのですが本書はむしろユニークなプロットが印象に残る作品で、プリーストリ-博士の推理で犯人逮捕となるのですが物語はこれで終わらないのです。某英国作家の本格派推理小説に前例のあるアイデアが使われていますが、あちらでは犯人の目論見が名探偵によって軌道修正を余技されなくなったのに対して本書では目論見が達成されているのが特徴になっています。犯人の目論見通りになってもプリーストリー博士の名探偵としての名誉が傷つかないように仕立てられているのも本書の個性です。


No.2564 4点 急行〈アルプス82号〉の殺人
草川隆
(2022/11/05 06:51登録)
(ネタバレなしです) 1988年発表の本格派推理小説です。誘拐された被害者の生首の発見(残虐描写は一切なし)と身代金の消失という事件が<アルプス82号>で発生という展開になりますが、その後はこの列車が再登場することもなくトラベル・ミステリー要素は希薄です。誘拐ということで早い段階から共犯者ありきの前提で警察の捜査が進むのはまあ自然といえば自然ではあるのですが、謎解きが暗礁に乗り上げると第二の共犯者の可能性まで検討するのはいささか安易な方向に逃げている感があります。それにしても真相を振り返ると、事件のきっかけとなった被害者のあの行動に対して犯人はもっとシンプルで低リスクの手を打つことを考えられなかったんでしょうか。


No.2563 6点 真夏日の殺人
P・M・カールソン
(2022/10/31 21:09登録)
(ネタバレなしです) 1990年発表のマギー・ライアンシリーズ第6作です。私にとってはシリーズ第1作の「オフィーリアは死んだ」(1985年)以来となるシリーズ作品で、まるで異なる雰囲気になっていて驚きました。初登場では独身だったマギーが結婚していて子供が1人いて2人目を身籠っています。そして時代を強く感じさせる描写になっています。作中時代は1975年8月、ヴェトナム戦争帰りの人間が何人か登場して戦争の後遺症が語られており、密室殺人事件の謎解き本格派推理小説でありますが国内ミステリーなら社会派推理小説と評価する人がいるかもしれません。物語の主人公は3人の女性、マギーとその兄嫁でフェミニズムの影響が強い新聞記者のオリヴィア・カー、そして第8章でマギーが「すごく優秀な人だけど、狂気すれすれのところで生きていると思う」と評価するヴェトナム帰りの女性刑事ホリー・シュライナーで、捜査の中で彼女たちが織り成す人間ドラマも読ませどころです。社会問題描写の深刻さのために時に謎解きに集中しにくくなる作品ですが、ユニークな密室トリックや巧妙に散りばめられた手がかりなど本格派推理小説としてもなかなかの作品だと思います。


No.2562 5点 背律
吉田恭教
(2022/10/24 09:06登録)
(ネタバレなしです) 2016年発表の向井俊介シリーズ第4作の本格派推理小説で、この作者らしく複雑な動機が招いた犯罪を描いています。トリックについては古典的な小道具を使っていますが、使い方に細かい工夫を織り込んでいるのもこの作者らしいです。しかし本書で1番印象に残っているのは謎解きよりも向井俊介の描写です。これまでのシリーズ作品と違って第三者(向井とパートナーを組むことになった厚生労働省の女性職員)の視点での描写なのですが、向井ってこんなに口が悪くて軽薄なキャラクターでしたっけ?、と思わせる描写です。まあ女性刑事とのやり取りではあちらもマウントを取りにきているからお互い様なのかもしれませんけど。名探偵らしい実力を発揮して立場が見直されていくとは言え、能力があってもあの社交性では無難な人間関係は築けないでしょうね。


No.2561 5点 キュレーターの殺人
M・W・クレイヴン
(2022/10/22 05:30登録)
(ネタバレなしです) 2020年発表のワシントン・ポーシリーズ第3作で、ハヤカワ文庫版で600ページを超す分量ながら最後までテンションを落とさずに読ませます。パトリシア・モイーズのように色彩的ではありませんけど風景描写も秀逸です。捜査が進むにつれアガサ・クリスティーの某作品やジョン・ロードの某作品を連想させる真相の一端が見えてきますがそこはまだほんの一角、登場人物リストに載っている人物の最後に登場する人物にたどり着いた瞬間からの展開は私の予想を超えていました。巻末解説で「本格謎解きの興趣に溢れた警察小説」として高く評価していますが、なるほど第86章での推理説明での伏線の回収は本格派推理小説を意識したものだと思います。ミスリードも巧いです。もっともかなりのところは自白に頼ってしまったし、第87章の自白であまりにも途方もない「偶然」が説明されると個人的にはちょっと釈然としませんでしたけど。結末のつけ方は警察小説というよりハードボイルド小説的ですね。


No.2560 3点 桜前線殺人事件
浅利佳一郎
(2022/10/07 22:57登録)
(ネタバレなしです) 浅利佳一郎(1940年生まれ)が1994年に発表した本書を私は光文社文庫版で読みましたが、裏表紙には「推理小説の妙味に加え、詳細な桜のデータで列島を旅できる、全く新しい『桜』情報小説」と紹介されていました。もっとも事件が起きるのは高知と東京の2か所のみで、トラベル・ミステリーとしては全く物足りません。主人公がならず者たちに襲撃されるハードボイルド要素を織り交ぜたのは賛否が分かれそうですね。本格派推理小説好きの私としては好ましくない展開でしたが。トリックや証拠に多少は工夫を凝らしていますが、読者が謎解きに挑戦できる作品ではありません。アクションと推理の両方を追及してどっちつかずに終わってしまったような印象を受けました。


No.2559 3点 いけない
道尾秀介
(2022/10/04 11:42登録)
(ネタバレなしです) 2019年発表の本書は全4章から構成されていますが長編作品ではなく連作短編集の本格派推理小説です。どの章も最終ページに写真が掲載されていて、それを見ることで「隠された真相」を発見して下さいと指示されています。これは読者を選ぶ作品で、真相について作者が明快に正解を説明しているわけではないのです。私は読んだだけではまるですっきりできず、ネットの推察サイトの推理を参照してなるほど頭のいい方はいるものだと感心する一方、自分の頭の悪さを再認識する羽目になりました。sophiaさんのご講評で東野圭吾作品が連想されていますが、あちらは犯人当てという命題がクリアなのに対して本書は何が謎なのかさえも時にもやっとしています。騙されるとか驚く以前に読んだだけではわからなかったのが辛いです。


No.2558 5点 死を呼ぶペルシュロン
ジョン・フランクリン・バーディン
(2022/10/03 18:31登録)
(ネタバレなしです) 米国のジョン・フランクリン・バーディン(1916-1981)はサイコ・サスペンスの古典「悪魔に食われろ青尾蠅」(1948年)が当時としてはあまりに前衛的であるとして出版を拒否されて(英国では出版されましたが)長らく不遇だったことで知られています。デビュー作が1946年発表の本書ですが、kanamoriさんやminiさんのご講評で紹介されているように合理的に解決されます。とはいえ殺人現場に登場する馬の謎解きは腰砕けに感じられるし、動機のかなりの部分は後出しの説明と本格派推理小説としてはあまり高くは評価できません。主人公の悪夢のような体験と乱れまくる心理描写が生み出す濃厚なサスペンスが本書の特徴でしょう。人を喰ったような最後の一行もよく考えると怖い運命を暗示しているように思います。


No.2557 6点 五覚堂の殺人~Burning Ship~
周木律
(2022/09/29 07:57登録)
(ネタバレなしです) 2014年発表の堂シリーズ第3作の本格派推理小説です。莫大な財産を巡る不条理な遺言書に翻弄される一族という横溝正史の「犬神家の一族」(1950年)を連想させる設定とこのシリーズならではの風変わりな建物を舞台にした連続殺人事件が特徴です。いくら遺言書の指示があるとはいえ殺人事件が起きても警察に連絡しないというのは不自然で(連絡すると遺産をもらえない)、裁判を起こしたらその指示は無効にできるのではという気がしないでもありませんが、まあそれではプロットが成立しなくなるので目をつぶりましょう(笑)。十和田只人、宮司司、宮司百合子が分担で謎解きに貢献するという設定もなかなか効果的だと思います。最終章の22年前の事件についてのエピソードは中途半端に終わらせていて蛇足のような気がしましたが。


No.2556 5点 埋められた時計
E・S・ガードナー
(2022/09/28 06:55登録)
(ネタバレなしです) 1943年発表のペリイ・メイスンシリーズ第22作の本格派推理小説です。埋められた時計の発見シーンで幕開けし、最後までこの時計の役割が謎としてつきまとう展開でこのタイトル以上のタイトルはありえないでしょう。「十件のうち九件までは有罪にしてしまう」裁判成績をもつ若手のマックネア地方検事の強敵ぶりもなかなかです。空さんや弾十六さんのご講評で紹介されているように戦場から帰還した青年を主人公にした章を挿入していますが、被害者でも容疑者でも探偵役でもなく証人の役割に留めているのであまり効果的ではなかったように思います。2人の被告が告発されたりメイスンが違法な捜査したりと他にもユニークな試みを織り込んだ力作ですが、複雑な真相の説明はそれなりに丁寧ながらあまり論理的な推理でないので強引な解決の感がしてすっきりできませんでした。


No.2555 6点 雪花嫁の殺人
阿井渉介
(2022/09/25 01:02登録)
(ネタバレなしです) 1994年発表の警視庁捜査一課事件簿シリーズ第3作の本格派推理小説です。死体の周囲の雪の上に犯人の足跡がない謎も十分に魅力的ですが、人にぶつかって雪の上に足跡を残して行くのまで目撃されながらその姿が見えない透明人間の謎は私にとっては前代未聞の謎でした。シリーズ前作の「風神雷神の殺人」(1994年)は犯人の超人的活躍(?)が印象的でしたが本書の犯人も負けていません。突っ込みどころを挙げたらきりがありませんけど、雪の中に浮かび上がる白装束の花嫁(犯人?)の幻想的演出も含めて敢闘賞をあげたい意欲作です。探偵コンビの片割れである菱谷刑事が精彩を欠いてしまっているのが少し残念ですが。


No.2554 6点 ロンドン・アイの謎
シヴォーン・ダウド
(2022/09/24 23:28登録)
(ネタバレなしです) 英国の女性作家シヴォーン・ダウド(1960-2007)が生前に発表した小説はわずかに2作。しかしその実力は既に高く評価されていたようで、未発表作品も相次いで死後出版されただけでなく未完の作品までが他作家によって完成されて出版されました。それでも作品数は10作に満たないのですけど。2007年発表の本書は前述の2作の内の1作で、この作者としては珍しいミステリ作品とのことです。序文を寄せたロビン・スティーヴンスが、児童向けのミステリが華やかな黄金時代にあること(へー、そうなんだー)、本書はその先駆けで大胆で魅力に満ちたミステリ作品としていまなお並ぶものがほとんどないと大絶賛です。私は児童向けミステリをほとんど読んでないので比較はできませんけど、失踪事件というミステリのテーマとしては魅力に乏しいネタながら監視状態にあった大観覧車「ロンドン・アイ」からの消失という不可能事件要素を絡めて本格派推理小説としての謎解きを盛り上げます。個性豊かな登場人物たちによる起伏に富んだ人間ドラマもよくできており、大人読者の鑑賞にも耐えられる作品だと思います。


No.2553 5点 ヨーク公階段の謎
ヘンリー・ウエイド
(2022/09/19 19:28登録)
(ネタバレなしです) 英国のヘンリー・ウェイド(1887-1969)は2つの世界大戦では軍人として活躍し、行政長官や治安判事などを歴任し准男爵の地位を継承するなどまさに「名士」と呼ばれるにふさわしい人物でした。ミステリー作家としての活動は余技程度だったそうですが、1926年から1957年の間に長編20冊と短編集2冊をこつこつと発表しています。その作風は一言で言えば質実剛健、警察の捜査を丁寧に描いたクロフツ流の本格派推理小説や倒叙推理小説ですが人物描写ではクロフツを上回っていますし、印象的に物語を締めくくる技術にも長けています。1929年出版の長編第3作である本書は全作品の約1/3(長編7作と短編7作)に登場するプール(Poole)警部シリーズ第1作の本格派推理小説です。医師から健康への警告を受けていた銀行家が歩行中に他人とぶつかり、しばらく後に倒れて死んでしまうという珍しい事件を扱っています。殺人ならどんなトリックが使われたのか、動機はプライヴェート関連かビジネス関連か、誰に犯行機会があったのか、様々な疑問に対して多くの証言が集められ、部下たちを動員しての丁寧な現場検証(現場見取り図は欲しかったです)とプールの捜査は多岐に渡りますがちょっと焦点が定ってない感もあって読みにくく、読者の集中力を求める作品です。エンディングの演出はなかなかユニークです。


No.2552 6点 奥州平泉殺人事件
大谷羊太郎
(2022/09/18 13:16登録)
(ネタバレなしです) 1992年発表の八木沢警部補シリーズ第10作の本格派推理小説です。第1章では密室殺人事件の捜査に取り組む八木沢たちが描かれ、第2章では登場人物たちが変わってぎくしゃくした人間関係が描かれます。第3章以降はこの2グループが並行して描かれ、やがては融合する展開となります。密室の謎解きを織り込んだのはこの作者らしいですけど古い海外本格派作品で使われていたトリックの使い回しに過ぎず、これだけを評価するなら合格点をあげられませんが本書はトリックより人間ドラマを重視しているのが特徴です。凶器が同じなので犯人は同一人物のはずだが、被害者同士の接点がなくて動機から容疑者を絞り込めない連続殺人の真相が明かされる最終章はなかなか印象的です。


No.2551 5点 思い通りにエンドマーク
斎藤肇
(2022/09/16 01:39登録)
(ネタバレなしです) ショート・ショート作家として1980年代前半にデビューした斎藤肇(さいとうはじめ)(1960年生まれ)の初の長編作品が1988年発表の本書です。当時は「十角館の殺人」(1987年)の綾辻行人を皮切りに次々と新本格派推理小説の書き手が登場していますが、ユーモア本格派を意識したものとしては我孫子武丸の「8の殺人」(1989年)と並ぶ作品ではないでしょうか。もっとも肩の力を抜いたかのような雰囲気はあるものの派手などたばたとか丁々発止のやり取りはほとんどなく、主人公の空回り気味の捜査もやや単調な感じがします。「読者への挑戦状」ならぬ「作者への挑戦状」を挿入しているのが作者の工夫ではあるのですが推理は結構強引で、よくあれで犯人が反論しなかったなあと思いました。しかし31章で図解付きで説明されるトリックはなかなかよく考えられていると思います(某ミステリー漫画で流用されてましたね)。余談ですが13章の「普通の生活の上では、ワープロを使う必要はほとんどないと言える」という文章は、ワープロ機能搭載のPCが普及している現代とは隔世の感がありますね。

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