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ミステリの祭典

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善意の代償
チェビオット・バーマンシリーズ

作家 ベルトン・コッブ
出版日2023年01月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 人並由真
(2024/03/12 15:50登録)
(ネタバレなし)
「わたし」こと、スコットランドヤードの女性刑事キティー・パルグレーヴは同僚の刑事ブライアン・アーミテージと婚約中だ。キティーたちはともに、多くの難事件を解決した名警部チェビオット・バーマンの部下でもある。そんななか、バーマン警部のもとに、彼の旧知の元(?)金庫破りジョゼフ(ジョー)・ウィッキーから密告があった。内容は、奇特な資産家の老婦人ミセス・マンローが営む、入居者は家賃も食費も払わなくていい無償の下宿屋「ストレトフィールド・ロッジ」で殺人が起きそう、というものだった。だがやがてその情報には疑義があるとわかり、スコットランドヤードは気を緩めるが、やはり何かあるそうだと考えたキティーは独断で、当該の下宿屋に女中志願の娘を装って潜入捜査を始めるが。

 1962年の英国作品。
 バーマン警部シリーズのなかでも女性刑事キティーが主人公を務める、後期のシリーズインシリーズの路線のなかの一作、ということらしい。
(種々の事情はどうあれ、本シリーズは日本への紹介の順番が見た目、実にランダムなので、その辺はいささか困りものだ。)

 奇特なお人好し大家の老婆……というにはいささかぶっとびすぎた婆さん、妙な生活態度のその息子夫婦、変人揃いの入居者のなかに飛び込む、変装潜入女性捜査官の若手主人公……と、なんか連続テレビドラマのシチュエーションコメディみたいな設定で、なかなか楽しい。
 すでに読んだ海外ミステリなら、アン・オースチンの『おうむの復讐』が、若手捜査官のアパートへの潜入捜査とそこで起きる殺人事件、という趣向で、本作とよく似ている。『おうむの復讐』が好きな評者としては、この作品も結構楽しかった。

 紙幅は論創のいつものハードカバーで200ページちょっとと短め。登場人物の頭数も少なく、巻頭の一覧表以外に出て来るキャラクターは本名不明の警官がひとりだけ、だと思う(名前だけ出て来るとかなら、もうちょっといたかも)。それゆえ、犯人は作中の探偵や読み手の視野のなかにまずおさまるハズ(?)で、意外性は演出しにくい(?)が、最後にはそれなりのサプライズと(中略)面での面白い文芸があり、なかなか良かった。

 良くも悪くも、お話の細部やストーリーの見せ方をちょっといじくれば、まんま舞台劇にもできそうだよね、というくらいに<コンパクトにまとまった物語の場>でのフーダニットパズラー。そういう意味で地味目ではあるが、物語の流れにおいてキャラクターの出し入れが手際よく、最後まで心地よく読める。
 評者が読んだ邦訳のあるコップ作品(評者は初期作の『悲しい毒』だけ読んでないので、これで三冊目)の中では、いちばんよい意味でライトだったけど、いちばん手堅く楽しめたかも。
 最後に真相がわかって、犯人のキャラクターにはちょっと思うものがあった。もちろんここでは詳しくは書かないけれど。
 ラストのオチというか、クロージングで語られる今後の下宿の展望はステキ。ぜひとも成功するといいですね。

No.1 6点 nukkam
(2023/04/23 21:01登録)
(ネタバレなしです) 1962年発表のチェビオット・バーマンシリーズ第28作の本格派推理小説です。バーマン警部も十分に活躍しますが本書の主役はバーマンの部下のブライアン・アーミテイジ巡査の婚約者で女性捜査部のキティー・パルグレーブ巡査です。冒頭で彼女が「さすがのチェビオット・バーマン警部も、寄る年波で判断力が鈍ったせいで失敗するのではないか」とどきっとするような考えにとりつかれています。それはある男の命が狙われているとのタレコミ情報をバーマンがでたらめと判断したことにキティーが疑問を抱いたことがきっかけで、キティーは休暇を取って(バーマンには内緒で)狙われたとされる人物の住む下宿屋を女中に扮して偵察することになります。家主の家族や個性豊かな下宿人たちを相手にキティーがどう立ち回るのか、そしてついに殺人事件が起きてバーマンたちが乗り込んできた時にキティーの立場はどうなるのか、派手さのない展開を物足りなく思う読者もいるかもしれませんが個人的にはなかなか興味深いネタを上手くつなぎ合わせたストーリーだと思います。終盤のどんでん返しの連続はそこそこ劇的です。

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