nukkamさんの登録情報 | |
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平均点:5.44点 | 書評数:2865件 |
No.885 | 6点 | 死の部屋でギターが鳴った 大谷羊太郎 |
(2015/12/03 15:05登録) (ネタバレなしです) 1973年発表の本格派推理小説で、似たようなタイトルで「死を運ぶギター」(1968年)(後に改訂されて「死を奏でるギター」(1986年))がありますが本書とは別物です。「殺人予告状」(1972年)に続く、芸能プロダクションのマネージャー松原直人の巡業殺人シリーズ第2作ですが巡業描写はぐっと控え目になり、その代わりに第一容疑者となってしまったためか松原の活躍がより鮮やかになりました。ドアも窓も「鍵のかかっていない」密室という風変わりな不可能犯罪を扱っているのが珍しいです。トリックは成功したとしても犯人を隠すのに有効だったのか疑問ではありますが、アイデア自体はなかなか面白かったです。 |
No.884 | 3点 | 猫は泥棒を追いかける リリアン・J・ブラウン |
(2015/12/03 14:06登録) (ネタバレなしです) 1997年発表のシャム猫ココシリーズ第19作です。非常にミステリー色が薄く、事件が起きてもジム・クィラランは通り一遍の関心しか示さず新聞コラムに載せるネタ探しの方に傾注していて謎解きは全く盛り上がりません。そのネタの方も中にはちょっと面白い小話もあるものの長編作品を支えるには力不足で、だらだらとした物語に感じました。かなり後半になって起きた事件でようやく重い腰を上げたクィラランが強引に犯人を持ち上げて幕引きとなりますが、犯人が冷静に開き直ったらどうしようもないほど根拠薄弱な推理でした。 |
No.883 | 6点 | 亜愛一郎の転倒 泡坂妻夫 |
(2015/12/03 13:52登録) (ネタバレなしです) 1977年から1980年にかけて発表された亜愛一郎シリーズの短編8作を収めて1982年に出版されたシリーズ第二短編集です。派手な謎が印象的な作品では何と言っても「砂蛾家の消失」。折原一の「鬼面村の殺人」(1989年)に影響を与えたのではと思わせる家屋消失はインパクトが強烈。使われたトリックは異なりますが意外な共通点がありましたね。しかも消失以上にインパクトある謎解きまでありました。綱渡り的なトリックの「三郎町路上」や奇想天外な動機の「意外な遺骸」もなかなか面白かったです。一方でちょっとした謎から意外な真相を導こうとした作品は出来不出来があり、他愛もない謎が他愛もない真相で終わってしまったような作品もあります。 |
No.882 | 4点 | 世阿弥殺人事件 皆川博子 |
(2015/12/03 13:11登録) (ネタバレなしです) 1986年発表の本格派推理小説です。作者の特徴である幻想性は微塵もなく、明快なストーリー展開にユーモアも交えて読み易さは抜群です。世阿弥に関する謎解きは古文の文献が私には難解過ぎですが推理はわかりやすく、しかも学説をひっくり返ないところで上手く寸止めしています。これなら学者や研究家からバッシングされることもないでしょう(笑)。一方で殺人の謎解きは残念レベル。第一の殺人の手掛かり説明にはなるほどと感心しかけましたがページをさかのぼって調べるとその手掛かりが見つかりません(私の探し方がまずいのか?)。第二の殺人もトリック説明に唐突感が拭えず、強引な幕引きにしか感じませんでした。 |
No.881 | 5点 | 準急ながら 鮎川哲也 |
(2015/12/03 12:57登録) (ネタバレなしです) 1966年発表の鬼貫警部シリーズ第10作のアリバイ崩し本格派推理小説です(読者が犯人当てに挑戦するタイプの作品ではありません)。全7章で(光文社文庫版で)250ページに満たない短い作品です。犯人のアリバイが成立した時はもう第6章に突入しており、鬼貫警部が前面に出て活躍するのもようやくここからです。残り少ないページ数で時刻表や写真からアリバイを崩そうと試行錯誤するところが本書のハイライトです。トリックもそれを見破られる失敗もそれほどインパクトのあるものではないのですが、その割に鬼貫警部に挑発まがいのことをする犯人の自信はどこから来るのでしょうかね。 |
No.880 | 6点 | 被告人、ウィザーズ&マローン スチュアート・パーマー&クレイグ・ライス |
(2015/12/02 20:38登録) (ネタバレなしです) ユーモア本格派推理小説の人気作家であったクレイグ・ライス(1908-1957)とスチュアート・パーマー(1905-1968)はそれぞれのシリーズ探偵であるジョン・J・マローンとヒルデガード・ウィザーズを共演させた短編を共作発表しました。1950年から1963年にかけて6編が発表されており決して多くはないのですが、友人同士であったとはいえ大物作家同士の共作で両者の持ち味をバランスよく発揮していることは奇跡に近いと評価されています(1963年に短編集として出版もされました)。6編の内2編はライスの死後に書かれていますがライスのアイデアをちゃんと活かしてあるそうで、これも立派な共作と言えるでしょう。短編ながらプロットは複雑でどたばた要素もたっぷり、軽妙でありながら濃厚な作品が揃っています。個人的に好きなのは推理のしっかりしている「エヴァと3人のならず者」と異色の法廷場面のある「ウィザーズとマローン、知恵を絞る」です。 |
No.879 | 4点 | 今をたよりに ジル・チャーチル |
(2015/11/30 00:11登録) (ネタバレなしです) 2005年発表のグレイス&フェイヴァーシリーズ第6作の本書では兄ロバートの活躍が目立つ一方で妹リリーはあまり目だっていません。そのロバートにしても謎解きに関しては解決に貢献している部分は少なく、プロットも推理小説というよりは捜査小説なので本格派推理小説好き読者にはあまりアピールできないと思います。 |
No.878 | 6点 | 白尾ウサギは死んだ ジョン・ボール |
(2015/11/30 00:03登録) (ネタバレなしです) 1966年発表のヴァージル・ティッブスシリーズ第2作です。全員がヌーディストという何とも個性的な一家が登場しますが裸体の直接描写はほとんどなく、人間性の魅力の描写が際立っています。決して官能路線作品ではないのでそちらを期待する読者は他をあたって下さい(笑)。魅力では主役のティッブスも同様で、両者とも社会の中では差別的待遇を受けやすいのですが対立も逃避もせずに上手に世間と向き合っています。それが理想的に過ぎると感じる読者もいるでしょうけど読んでて不快感を覚えさせない手腕を私は高く評価したいです。本格派推理小説としては傑作の「夜の熱気の中で」(1965年)と比べると推理の切れ味がやや鈍っていますが水準は十分クリアしていると思います。 |
No.877 | 6点 | 退職刑事1 都筑道夫 |
(2015/11/29 23:42登録) (ネタバレなしです) 短編ミステリーに定評ある作者ですがその中でも1973年より書かれた退職刑事シリーズは有名です。1975年出版の第一短編集には1973年から1975年にかけて発表された本格派推理小説のシリーズ短編7作が収められています。作者自身のコメントに拠れば、「ストーリーの起伏や遊びの要素を切り捨てた」作品なので時に味気なく感じられることもありますがどんでん返しが鮮やかに決まった作品もあり、「妻妾同居」や「狂い小町」などはその成功例だと思います。 |
No.876 | 6点 | 終列車連殺行 阿井渉介 |
(2015/11/29 21:48登録) (ネタバレなしです) 下り寝台特急の寝台で発見された大量の血痕と上り寝台特急で発見された他殺死体。途中駅で死体または死にかけた被害者が乗り換えたとしか考えられないが、その駅では下り列車の到着より先に上り列車が出発するためそれは不可能だったという事件を扱った1990年発表の列車シリーズ第4作の本格派推理小説です。死体移動の謎だけでなく、空中浮遊や伝説の怪物ヌエによる(と思われる)殺人といった謎も散りばめられています。最後の事件がかなり終盤になって発生して駆け足気味に解決されたのが少し気になりますが、このシリーズの中では謎解きのまとまりはいい方です。犯人像の描写も印象的でした。 |
No.875 | 6点 | 野兎を悼む春 アン・クリーヴス |
(2015/11/29 21:21登録) (ネタバレなしです) 2009年発表のシェトランド四重奏第3作です。第1作の「大鴉の啼く冬」(2006年)では謎解きと物語性のバランスに感心したのですがこのシリーズ、段々と謎解き要素が後退しているような気がします。地味な展開ながらも退屈させない筆力はあるのですが、終盤のペレス警部と犯人のやり取りの中で真相に至る推理プロセスがほとんど語られないのは個人的には不満です。本格派推理小説を読もうとする読者にもう少し配慮してほしいです。 |
No.874 | 6点 | 危険な関係 新章文子 |
(2015/11/29 01:15登録) (ネタバレなしです) 新章文子(1922-2015)は童話や少女小説、占い本なども書いていますがミステリーの第1作は1959年発表の本書です。この人のミステリー作品はどちらかと言えばサスペンス小説に分類されるものが多いようですが、本書は本格派推理小説です。作者の特徴である人物の心理描写の上手さは本書でも十分に発揮されており、単に個々人の性格描写だけでなく互いの関係や生き様にまで踏み込んで物語に深みを与えています。ただミステリーであることに忠実であり過ぎたのか、臣さんのご講評で指摘されているようにどの人物も腹に一物ありのようになっていて、それがサスペンスを盛り上げるのに寄与している一方でどこか物語的に余裕のないようにも感じられます。読者が共感を抱きやすい人物を登場させていた仁木悦子とはそこが作風の違いになっています。じっくり丁寧に作られたプロットではあるのですが謎解き場面はあっけなく終わり、読後の余韻は残りません。 |
No.873 | 5点 | 子どもの国の殺人者 デービッド・カーキート |
(2015/11/27 23:13登録) (ネタバレなしです) 米国の大学助教授であったデービッド・カーキート(1946年生まれ)が1980年に初めて書いた本格派推理小説です。デビュー作ゆえか文章がやや硬すぎるようにも感じましたが、容疑者同士の謎解き議論が暴走してしまう場面などは案外笑えました。残念ながら真相の推理説明が十分ではないように思います。それにしてもアミューズメントパークみたいな日本語タイトルは作品内容と合っていないのでは。英語原題は「Double Negative」で、舞台は5歳児までの言語習得過程の研究所(保育所を付設)です。 |
No.872 | 5点 | クイーンたちの秘密 オレイニア・パパゾグロウ |
(2015/11/27 22:48登録) (ネタバレなしです) 1986年発表のペイシェンス・マッケナシリーズ第3作の本格派推理小説です。「ロマンス作家は危険」(1984年)と同じく出版業界の裏舞台を描き、個性豊かな作家を揃えていますが特記すべきはパパゾグロウの夫であるデアンドリアを登場させていること。作者自身を作品に登場させているのは珍しくありませんが、身内を登場させるのは珍しいですね。やたらと好人物に描いているのが何とも微笑ましいです。プロットが複雑過ぎて全体的に読みにくいのが難点です。 |
No.871 | 6点 | 雪の断章 佐々木丸美 |
(2015/11/27 22:34登録) (ネタバレなしです) 佐々木丸美(1949-2005)はその生涯からして謎めいており、残された作品はわずか17作、「榛(はしばみ)家の伝説」(1984年)を最後に執筆を止めただけでなく自作の再版も禁止するなど世間と距離を置いたまま世を去っています。1975年発表のデビュー作で後に映画化もされた本書は殺人事件があって推理による謎解きもあるのですが、ミステリー部分は全体の10%か20%ではないでしょうか。メインプロットは主人公の飛鳥という少女のおよそ10年間にまたがる青春物語です。飛鳥の心理描写は非常に複雑で、時には理解者にも心を閉ざすなどその行く末は目が離せません。随所で挿入される「雪」の描写も詩的な雰囲気づくりに効果的です。どうもこの作家はミステリー小説家というよりはメルヘン小説家として鑑賞するのがよいように思います。 |
No.870 | 5点 | ロンドン幽霊列車の謎 ピーター・キング |
(2015/11/25 19:27登録) (ネタバレなしです) ピーター・キング(1922年生まれ)は2003年以降作品を発表せず、年齢的にも引退したかと思いましたが2008年に非シリーズ作品の本書を発表しました(今度こそ最後の作品みたいです)。ヴィクトリア朝の英国を作中時代にして洗練された筆致で描いています。いきなり人間消失の謎で始まりますが第1章で明かされたのは脱力もののトリックでした。その後も音だけで姿の見えない幽霊列車や蛙の化け物など、まるで島田荘司が好みそうな謎が登場しますが演出はあっさり目です。前半は殺人犯探しの本格派推理小説風プロットですが後半は冒険スリラーに転じてサスペンスがどんどん高まります(しかし犯人探しは主目的でなくなってしまいます)。終盤以外は派手なアクションは控え目ですが、起伏に富んだストーリー展開でぐいぐい読ませます。 |
No.869 | 6点 | 白魔 ロジャー・スカーレット |
(2015/11/21 22:48登録) (ネタバレなしです) 1930年発表のケイン警視シリーズ第2作の本格派推理小説です。大勢の下宿人が住む豪邸(第9章で見取図があります)という、いかにも古典的な舞台に起きる殺人事件を扱っています。謎解きの魅力では同時代のアガサ・クリスティーの作品と比べても決して劣らないですが(巧妙なミスディレクションもあります)、容疑者たちとケイン警視との単調なやり取りに終始しているところがこの作者の限界でしょうか(クリスティーも人物描写に問題ありと指摘されることがありますが表情づけや会話の抑揚などでメリハリはつけていました)。本書の1番の特色は論創社版の巻末解説でも触れていますが、全24章の第9章で早々とケイン警視に犯人の名前を指摘させながらちゃんと終盤まで犯人探しを成立させているプロットでしょう。 |
No.868 | 5点 | 彼は残業だったので 松尾詩朗 |
(2015/11/18 10:02登録) (ネタバレなしです) 島田荘司の傑作「占星術殺人事件」(1981年)を読んで刺激を受けた松尾詩朗(1960年生まれ)の2000年発表のデビュー作の本格派推理小説です。刺激どころかプロットのあちこちに「占星術殺人事件」の影響が見られますね。島田荘司は江戸川乱歩、高木彬光、そして自分自身の代表作を引き合いに出してまで本書を激賞していますが、本書がそれらと並ぶ古典的地位を将来得られるかは疑問です。軽妙に仕上げることは作者のねらいであり長所でもあるのですが、猟奇的犯罪を扱っているのですから凶悪事件のインパクトをもっとアピールしてもよかったのではと思います。人物描写に軽薄感がつきまとっているのも事件性と微妙に合っていない印象を受けました。大胆なトリックの説明が要を得てわかりやすいのは好印象です。 |
No.867 | 6点 | ネロ・ウルフの事件簿 ようこそ、死のパーティへ レックス・スタウト |
(2015/11/16 00:30登録) (ネタバレなしです) ネロ・ウルフシリーズの「黒い蘭」と「ようこそ、死のパーティーへ」の2つの中編を一つに収めた第一中編集「黒い蘭」(1942年)を、論創社版はそれぞれ他の中編と組み合わせた独自編集で二巻に分けました。「ようこそ、死のパーティーへ」とセットにされたのは第五中編集(1951年)の「翼の生えた銃」と第六中編集(1952年)の「『ダズル・ダン』殺人事件」です。三作品とも本格派推理小説としてしっかり作られていますが、特に切れ味鋭い推理が印象的な「翼の生えた銃」と七つの手掛かりから犯人を追い詰める「『ダズル・ダン』殺人事件」はなかなかの出来栄えです。それにしても鉄面皮のイメージのあるウルフが結構怒ったりどなったりしているのには驚きました。なお「『ダズル・ダン』殺人事件」は1951年に米国で最初に出版された時の原題が「See No Evil」、第六中編集では「The Squirt and the Monkey」に改題、更に後に「The Dazzle Dan Murder Case」へと改題され、日本でも以前に「ヒーローは死んだ」という題で翻訳紹介されていたというややこしい経歴を持つ作品です。 |
No.866 | 5点 | 伊藤博文邸の怪事件 岡田秀文 |
(2015/11/13 17:46登録) (ネタバレなしです) 歴史小説家である岡田秀文(1963年生まれ)が2013年に発表した本書は、明治時代を舞台にした本格派推理小説です。時代背景と謎解きを巧妙に絡めていますが、これはある意味弱みになっているかもしれません。現代の社会常識と大きく異なる時代性描写に優れるほど、そんなの推理のしようがないではないかという不満につながる危険性があるのですから。大胆な真相ですが探偵役の推理よりも自白に頼っているところの多い謎解きも好き嫌いは分かれそうです。 |