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ミステリの祭典

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吸血鬼と精神分析
矢吹駆シリーズ

作家 笠井潔
出版日2011年10月
平均点5.50点
書評数4人

No.4 7点 じきる
(2022/02/08 09:17登録)
矢吹駆シリーズ第6作で、ミステリ部分はよく出来てると感じました。カケルの推理が明かされる解決編は圧巻だし、その後のオチも素晴らしいです。
小説としては助長に感じる部分が多く、そこで完成度を損ねてるような……。

No.3 4点
(2021/02/09 09:57登録)
 バスティーユにある要塞のようなアパルトマンで、ウラジミール・カリーニンと名乗る謎めいた入居者が惨殺される。床には“DRAC”の血文字が残されていた。それから程なくパリ東部のヴァンセンヌの森で女性の焼屍体が発見され、その躰からはすべての血が抜かれていた。連続する第二、第三の失血殺人。果たして亡命者殺害と連続殺人は関連するのか? 
 一方ミノタウロス島での事件以来、慢性的な体調不良の続くナディア・モガールは、旧友シモン・ロチルドの勧めで精神医ジュリア・ヴェルヌイユの診療室(クリニク)を訪れるが、そこでタチアナという来談者から奇妙な依頼を受ける。一連の出来事がつながったとき、そこには意外な真相が――。稀有なる観念論的推理シリーズ、待望の第六作。
 『オイディプス症候群』に続く六番目の矢吹駆登場作品で、『吸血鬼の精神分析』なるタイトルの雑誌「ジャーロ」13号~31号(2008年3月から2003年9月まで)連載分に、大幅加筆して刊行されたもの。今回のテーマ及び哲学者は一人二役/二重人格と精神分析家ジャック・ラカン。フロイト以来の精神分析理論の変遷を軸に、母系制神学と父系制神学の太古からの対立を根底に据え、第三作『薔薇の女』以来の猟奇殺人を扱っているが、手さばきは正直微妙。単行本で800P、文庫本で上下巻1000Pになんなんとする大作だが、ミステリとしての骨格は貧弱で、そこまで量を要求する程の内容ではない。
 全体の1/3ほど来て、カケルの登場からは結構サクサク進むが、ここまででも単行本で260P以上。深夜の射殺事件と連続猟奇殺人は勿論関連するのだが、物語密度の割には一々尺が長い。話が動き出すのは文庫版上巻の後半以降からなので、材料を〈ヴァンピール〉事件のみに絞り不必要な文章を削れば現行の半分程度で済む上に、格段に質も上がるだろう。精神分析云々や神学論も最終的に機能してはいるが適切な分量とはいえず、あえて言うなら枝葉のウンチクが多すぎる。
 20Pに渡るカケルの分身現象の定義と考察は徹底しているが、肝心の結論がしょぼいのでこれも微妙なところ。全否定はしないが、かといって無条件に礼賛するのも難しい。日本編オープニングの『青銅の悲劇 瀕死の王』もこんな感じらしいので、少し悩んでしまう。
 逆に良いのは後半の煮詰まった対峙部分。この辺は処女作以来のノリの良さで、上手く仕上げている。オカルト紛いの最後の展開には眉を顰める人もあるだろうが、久々にカケルの底意地悪さが全開でいい。こういった路線でコンパクトに纏めてくれてれば良かったのだが。
 ストーリーは本来5点相当。ただしくどめの語り口その他のマイナスで4点。『バイバイ、エンジェル』も『サマー・アポカリプス』も一気呵成の書き下ろしだったし、連載終了後の大幅加筆形式は、この人にあまり向いてないのではと思う。

No.2 7点 ことは
(2019/11/17 13:27登録)
精神分析の薀蓄は楽しめた。
ニコライ・イリイチの登場など、シリーズの大きな流れとしても面白い。
ナディアの精神状態についても楽しめる。
でもミステリ部分はどうかなぁ。だんだんミステリの楽しみが減じている気がする。
以降の作品も、連載後、単行本化していないけど、いつになるのやら。読みたいんだけどなぁ。
それにしても、投稿が1件しかないって!? 

No.1 4点 nukkam
(2016/01/08 10:10登録)
(ネタバレなしです) 「オイディプス症候群」(2002年)以来となる2011年発表の矢吹駆シリーズ第6作の本格派推理小説で光文社文庫版で上下巻合わせて1000ページに達する大作です。タイトルにも使われている精神分析、そして宗教に関する知識の説明がとてつもなく多くて読んでて疲れました。それは謎解きとも有機的に関連するのですが、私には専門的過ぎて十分に理解できませんでした。

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