home

ミステリの祭典

login
空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1505件

プロフィール| 書評

No.1305 7点 曇りなき正義
ジョージ・P・ペレケーノス
(2021/10/14 19:52登録)
D.C.カルテットと呼ばれる4部作を終えた後、2001年に開始された新シリーズの第1作で、主役は黒人私立探偵のデレク・ストレンジ。この作家はデビュー作『硝煙に消える』しか読んでいないのですが、本作も重厚な小説になっています。
原題は “Right as Rain”、普通「とても順調で」「絶好調で」という訳が出てきますが、本作の中では「全面的に正しい」と訳されています。デレクが依頼されたのは、黒人警官が非番の日に街角である男を銃で脅していて、顔見知りでない警察官に銃殺された事件で、その黒人警官の汚名をそそぐことです。原題は、発砲した同僚の行為には状況から見て全く問題がなかったということを意味しています。ただこれも、法律的にはともかく心理的には難しいところで、本書のテーマにもなっています。
事件のからくり自体はごく簡単に予想がつきますが、手がかりの提出の仕方はきれいに決め、最後を手堅くまとめてくれます。


No.1304 6点 裁かれる花園
ジョセフィン・テイ
(2021/10/11 21:08登録)
前作『ロウソクのために一シリングを』の8年後、1946年発表です。世界が戦争に突入していった時代には、この作家、長編小説を全く発表していなかったんですね。本作は戦争の影など全く感じさせません。それまでの(次作『フランチャイズ事件』でも脇役で登場する)グラント警部は出てきませんし、そのことを宣言するかのごとき原題(”Miss Pym Disposes”)です。
心理学の本がベストセラーになったミス・ピムが、旧友が学長を務める女子体育大学で講演を行うことになり、そこである事件が起こるという話。日本の法律では、殺人罪は適用できそうにない事件です。
これは最後の4ページが衝撃を与える作品です。それまでは小説としてはおもしろくても、ミステリとしては誉められるべきところがありません。そもそも、事件の原因となった学長の行為に納得のいく理由が最後までつけられていません。しかしこのラストには何とも言えない気分にさせられます。


No.1303 4点 蓼科高原の殺人
三田誠広
(2021/10/08 22:32登録)
祥伝社文庫から、Dramatic Novelette として出た中編シリーズの中の、競作「旅情ミステリー」3冊の中のひとつです。まずこの3冊、すべてミステリの専門作家ではない人(他の2人は笹倉明と岳真也)が書いたものだというのが、妙なところです。3人中、名前を知っていた(読んだこともある)のは本作の三田誠広だけですが。また本作について言えば、タイトルにもかかわらず旅情とは無関係です。蓼科高原にある別荘で起こる連続殺人で、要するに館もの。時間的流れで言えば、最初の毒殺事件があってから3時間もかかっていないのではないかと思える間の出来事です。
140ページかそこらの間に4件もの事件を起こして見せるのですから、どうしても描き込みが不足になります。この事件の動機に関わる過去のある事件についても、そんな事件を起こす必要性が感じられず、全体的には雑な仕上がりとしか思えませんでした。


No.1302 7点 溝の中の月
デイヴィッド・グーディス
(2021/10/04 23:04登録)
日本では1987年に公開されたジャン=ジャック・ベネックス監督のフランス映画『溝の中の月』の原作です。映画は幻惑的な映像美が高く評価されたものの、説明不足、わけがわからないという批判も多かった作品で、実際、だからこそ原作を読んでみたいと思っていたのです。
驚いたことに、映画は原作にほぼ忠実でした。原作でも最後近くなるまでは、中心テーマがよくわかりません。裏町に住むウィリアム・ケリガン(映画ではジェラール・デルマス)の妹をレイプして自殺に追い込んだのは誰かという謎は冒頭からあるのですが、そこにアップタウンの美女ロレッタ(映画も同名)とその兄が登場することにより、妙な展開になってきます。
問題なのはラストです。原作では、映画と違ってケリガンのある種悟りと決意が、ロレッタの兄のエピソードと絡めて明確に示されるのがオチになっていて、ちょっと感動させられたのでした。


No.1301 6点 コヨーテは待つ
トニイ・ヒラーマン
(2021/09/30 19:57登録)
ヒラーマンはミステリに限らず、やはりアメリカ先住民を主題にしたらしい “Indian Country” 等のドキュメンタリーも書いているそうです。
で、その作家初読作は、リープホーン警部補とチー巡査が共演するようになってからは4作目。チー巡査の同僚が射殺される事件です。容疑者の老人はチー巡査によって、現場近くですぐ逮捕され、持っていた拳銃、硝煙反応などから犯人に間違いないと思われるのですが…
チー巡査の恋人(未満と言ったところでしょうかね)がその老人の弁護人になり、チー巡査自身動機など不明な点が気になって独自に捜査を始めることになります。一方リープホーン警部補も全く別ルートからこの事件に興味を持つようになるという筋立て。しかし2人が協力し合ってという感じにはそれほどなりません。ラストはなるほど、こう来たかというところですが、容疑者老人が黙秘を続けていた理由は拍子抜けの感もありました。


No.1300 5点 殺意という名の家畜
河野典生
(2021/09/27 22:52登録)
結城昌治の『夜の終る時』と1964年日本推理作家協会賞(作品発表は前年)を分け合った作品です。この年はハードボイルド系の当たり年というところでしょうか。結城昌治の方はむしろ警察小説と言えますが。
海外作品では『ウィチャリー家の女』翻訳が出版されたのが1962年で、本作もチャンドラーよりロス・マク、それも内省的傾向が強まってきた時代の作品を思わせるところがあります。ただ、プロットがロス・マク的に複雑なのはいいのですが、ロス・マクほど解きほぐし方が鮮やかでないのが不満点です。中心トリックにできるだけ読者の注意を向けさせないように、外側から真相に近づいていくということができていないのです。そのため全体的にもたついた印象になってしまっています。ラストは雰囲気はいいのですが、説明不足でもあります。
なお、主人公が私立探偵ではなく作家だというのは珍しい試みですね。


No.1299 5点 死の拙文
ジル・チャーチル
(2021/09/21 20:32登録)
主婦探偵ジェーン・ジェフリイのシリーズ第3作。今回のタイトル元ネタはもちろんアイラ・レヴィンですが、原題のQuiche(料理のキッシュ)に対し、邦題は元ネタ邦題との語呂合わせを優先して「拙文」。キッシュに毒が入っていたわけですので、邦題をどうするかは議論があったかもしれません。自分史作法の講座での事件ですから、「拙文」もありということでいいでしょうか。
毒殺事件の後、ジェーンに奇妙な贈り物が届けられてくるというのは、クイーンの『最後の一劇』等を想起させますが、クイーンでさえこの手のミッシング・リンクには不自然さを感じるのに、さらに説得力に欠けると思いました。それよりも本作の見どころは動機でしょう。被害者は意地悪ばあさんという可愛げのある表現にはあてはまらない非常に不愉快な人物ですが、それでも殺すだけの動機となると、すぐには見当たらず、なるほどねと思わせられました。


No.1298 7点 春を待つ谷間で
S・J・ローザン
(2021/09/18 07:30登録)
次作『天を映す早瀬』はリディアにとってはいわば実家である香港が舞台でしたが、本作はビルが山小屋で休暇を過ごしているニューヨーク州北部での事件です。つまりこの2作は、その意味で対をなす作品だと言えます。ただし、次作ではビルが最初からリディアについて香港に行くのに対し、本作ではリディアがビルと電話でやりとりして調査結果を知らせるだけでなく、現場にやってくるのは、最後近くになってからです。
今回ビルは内田光子の弾くモーツァルトのピアノ・ソナタを聴きながらの登場。他にも音楽は色々出てきますし、依頼人が有名な画家(登場人物表には本名と分けて両方載っています)なので、芸術的要素は多いです。一方、miniさんも書かれているとおり、シリーズ中でも特にハードボイルドっぽい作品でもあります。基本的な事件の構造は単純ですが、事件決着後判明する事件の一部については、意外性がありました。


No.1297 6点 デイブレイク
香納諒一
(2021/09/15 23:58登録)
自衛隊の空挺団に所属していた佐木が、北海道でのやくざから中央政権の大物まで絡む事件に巻き込まれて、派手に暴れまわることになる話です。彼がパラシュートで降下している夢のシーンから小説は始まりますし、カバーイラストもそのモチーフなので、実際にもパラシュートが使われることになるのかと思っていたら、そうではなかったのは少々残念でした。
佐木が自衛隊をやめなければならなくなった理由は、確かにその後の彼の行動に説得力を持たせているのですが、もう少し密接に結びつくような描き方ができなかったかなとは思えました。彼と敵対することになる悪役のやはり元自衛官である梶についても、彼の思想を形成するに至った過去がじっくり描かれていて、佐木よりも印象に残るキャラクターになっています。ただ梶が過去に囚われてクライマックス部分で出遅れるのはちょっと間抜けな感じがしました。


No.1296 4点 ビンラディンの剣(サーベル)
ジェラール・ド・ヴィリエ
(2021/09/11 23:57登録)
大部分が創元推理文庫から出ていたマルコ・リンゲ殿下シリーズの翻訳は1980年の『エル・サルバドル殺人指令』(翻訳は1983年)以来しばらく途絶えていましたが、2004年に扶桑社ミステリーの文庫から本作が久々に出版されました。突然の復帰理由は言うまでもないでしょう。間のほぼ20年間も、原作は毎年3~4冊ずつ出ていたのですが。
で、正に時事ネタの本作ですが、マルコがビンラディンと過去にも会ったことがあることにしてあったり(その話も作品化されているのでしょうか)、まあもっともらしいことを虚実取り混ぜて書いています。9・11事件にあるCIA内部の人間が関わっていたらしいという設定で、その容疑者の尻尾をつかみ、新たなテロを阻止するのがマルコの使命。
しかし露骨すぎて色気の感じられないセックス・シーン(全部で5回)にもうんざりですが、それより最後のマルコ暗殺計画が間抜けすぎて。


No.1295 6点 仮面の佳人
ジョンストン・マッカレー
(2021/09/06 23:34登録)
マッカレーが1920年に発表した本作は、マダム・マッドキャップと名乗る仮面の女犯罪者を主役とした物語ですから、『快傑ゾロ』のヴァリエーションの一つとして構成されたと見ていいでしょう。ただし、彼女は剣の達人ではありませんし、シリーズ化は難しいプロットです。舞台は当時の都会、第2章に始まり、地下鉄か何度も登場するのは、むしろ『地下鉄サム』をも連想させます。
いかにも通俗的なスリラーという感じで、マッドキャップの行動には意外なところもあるのですが、手下集めから強盗実行など、最終的にどう決着をつけるのかは、すぐ予想のつくことばかりです。しかし作者は本気で読者を騙そうとしているわけでもないでしょうから、特に文句はありません。
私立探偵ウォルドロンが運が良すぎるのと、マッドキャップの手下になったライリーの最終的な扱いは気になりましたが。


No.1294 7点 湖底のまつり
泡坂妻夫
(2021/09/03 23:48登録)
久々の再読で、あの二重写しイリュージョン以外はほとんど覚えておらず、そうか、殺人事件もあったんだっけというぐらいの感じでした。
奇術は「効果がすべて」と言われることが良くありますが、大きく4章とエピローグ(終章)から成る本作の第2章の途中から始まる、その幻想的SFのようなイリュージョンには、驚かされます。仕掛けを知って読んでみると、きめ細かい官能的な第1章の文章の中に、伏線がたっぷり仕込まれていることがわかります。論理的に考えればこれ以外に考えられないということで予測はつきやすいでしょうが、そのことに気づかないかと皆さんの疑問視される部分はともかく、その効果が起こる経緯には、さすがに配慮が行き届いています。第4章における第1章との重複部分でも、第1章の伏線をさりげなく示すというこだわりぶり。
それにしてもラスト・シーンの後、どうなるんでしょうね。


No.1293 5点 真夏日の殺人
P・M・カールソン
(2021/08/31 21:32登録)
1990年発表作ですが、ヴァージニア州モズビー1975年8月4日(月)、5日(火)午前、同午後と、大きく3部に分れた作品です。そんな短期間だからこそ、明確な検死結果も出ないため、成り立つミステリだとは言えます。
名探偵役のマギーは、これまで読んだミステリの中でも最も超人的な探偵の一人でしょう。死体が発見されてからは、異常なまでの名探偵ぶりが示されます。決して冷たい人間ではないのですが、あまりに客観的に、というよりむしろ批判的な立場から描かれすぎ。マギーに反発を覚えるのは、女刑事のホリー・シュライナーで、ベトナム戦争で看護師をしていた彼女の心の傷がじっくり描かれていて、それが事件にも関係してくるところが読みどころと言えます。ただ、それが真相には直結していないのがちょっと…
誉めるべきところも少なくないのですが、正直なところ描き方があまり好きになれない作品でした。


No.1292 5点 ホワイト・バタフライ
ウォルター・モズリイ
(2021/08/25 21:08登録)
イージー(エゼキエル)・ローリンズのシリーズ第3作で、時代設定は1956年。年をとった彼が当時を回想する設定は、ブロックの『聖なる酒場の挽歌』とも同じ手法です。
第2作は読んでいないのですが、驚いたことに、イージーはいくつかの不動産を所有し、結婚もして、ゆったりした生活を送る身分になっていました。しかし違法な商売でもないのに(税金逃れはともかく)、自分の収入源を奥さんに隠したままというのは、何考えてるんだか、という感想しか持てませんでした。そんな秘密主義が奥さんとの諍いの原因にもなっているのですから。しかし読み終えてみると結局のところ、彼の私生活面の方が連続殺人事件の捜査よりむしろ中心テーマになっているように思えました。
殺人事件の方では、被害者の一人ホワイト・バタフライがそのような生活をするようになった理由が、暗示さえされないままなのには、がっかりでした。


No.1291 6点 血蝙蝠
横溝正史
(2021/08/22 17:09登録)
昭和13~16年に発表された短編をまとめたものです。
最初の『花火から出た話』はかぐや姫的な婿選び話に偶然主人公が絡んでくる冒険小説、最後の『二千六百万年後』はタイトルからもわかるとおりウェルズの『タイムマシン』的なSFですが、その他の7編は多かれ少なかれ明確に謎解き要素を持ったミステリになっています。
特に由利先生シリーズの2作は、完全にパズラー系。表題作はわざわざ不可能犯罪にして見せる理由がないのが気になりましたが、蝙蝠の手掛かりにはなるほどと思わせられますし、『銀色の舞踏靴』も最初の部分に少々無理はあるものの海外某有名長編のヴァリエーションとしては悪くありません。
しかし最も気に入ったのは『恋慕猿』でした。由利先生の2作ほどの意外性はありませんが、サスペンスも効いていて、完成度が高いと思います。ただ本全体のタイトルには向きませんね。


No.1290 7点 聖なる酒場の挽歌
ローレンス・ブロック
(2021/08/19 20:10登録)
1986年に発表された本作は、スカダーがなじみのもぐり酒場にいた時にそこで起こる強盗事件が語られた後、第2章の初めに「これらはすべて何年もまえに起きたことである。」と時代背景を明かしています。そのようにして、1975年当時の思い出であることを読者にはっきり示すような表現が、ところどころに出てくるのです。
強盗事件に続いて、酒飲み仲間の奥さん殺害事件、さらに別の酒場の裏帳簿窃盗犯による恐喝事件と、立て続けに起こる事件すべてについて、スカダーは調査を依頼されることになります。スカダーは自分は私立探偵の免許は持っていないことを力説しながらも、結局は3つすべてを解決することになります。ただし犯人逮捕に貢献するということではありません。
最後10ページを切ってからの「私はこれで終わったと思った。そう思おうとした。が、私はまちがっていた。」の後の部分、なんとも複雑な気分にさせられます。


No.1289 4点 隠匿
リンダ・フェアスタイン
(2021/08/16 22:38登録)
これまで読んだ2作は気に入っていた作家なのですが…
途中までは留保つきですがおもしろかったのです。なぜ留保なのかというと、舞台がニューヨークにある世界有数の美術館であるメトロポリタン美術館と、そのすぐ近くにあるアメリカ自然史博物館という実在のミユージアムの内幕を暴くような内容になっているからです。どの程度そんなことがあり得るのかと思いながら、またこんなこと書いて名誉棄損にならないのかと心配もしながらも楽しんで読み進んでいったのです。
しかし、本来ならサスペンスが盛り上がってくる終盤になって、かえってがっかりしてしまったのでした。まるで迷宮のような巨大な自然史博物館の中で、アレックスがあるものを発見する段取りのあまりの偶然性、またその時の彼女の独り相撲の大騒ぎなど、白けてしまったのです。多数の関係者の中に犯人の個性が埋もれてしまって、意外性が感じられのないのも不満です。


No.1288 7点 仮名手本殺人事件
稲羽白菟
(2021/08/10 15:30登録)
この作家の名前って、と思っていたのですが、福山ミステリー文学新人賞の準優秀作のデビュー作『合邦の密室』についてのインタビューを聞くと、やはり「因幡の白兎」を意識しているんですね。「菟」も「うさぎ」と読みます。
そんな神話由来の名前を選ぶだけあって、作者は古典芸能に造詣が深いようで、デビュー作は文楽をテーマにしていたそうですが、この第2作は歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』。舞台上で主役の役者が毒殺される派手な事件の割に、その後の展開や文章は、古典芸能好きな作者らしいじっくり落ち着いたものになっています。蝙蝠形の痣が頬にある男が登場したりして、それもただのこけおどしでないことが次第に明らかになって来るあたり、上方歌舞伎の名門吉岡家の過去の複雑な人間関係とともに、横溝正史の世界を連想させます。不可能犯罪等のトリックではなく人間関係の秘密で読ませてくれる作品です。


No.1287 7点 NかMか
アガサ・クリスティー
(2021/08/07 08:24登録)
第一章はなんだか粗筋だけみたいで、クリスティーにしてはなんだこれ、という感じだったのですが、第二章以降では《無憂荘》の人々の個性も明確になってきて、おもしろ味が出てきます。1941年発表作で、ナチスのスパイを探し出す話ですから、この作者の他のスパイ小説ほど荒唐無稽ではありません。まあ、こういうタイプの作品はリアリティがあればいいというものでもないのですが。
死んだ諜報部員のダイイング・メッセージであるタイトルの言葉は、男女どちらなのかわからなかったからこそ ”or” ではないのかと思ったのですが、その問題点は結局無視されていました。それ以外にも、あの人物は結局外で何をしていたのかとか、あの人物はどうやって《無憂荘》を見つけたのかとか、細かい点では疑問が解消されないままという不満もあるのですが、全体的にはパズラー系を上回るほど意外性を散りばめた作品で、楽しめました。


No.1286 7点 脅える暗殺者
ジョー・ゴアズ
(2021/08/04 19:42登録)
ゴアズはDKAシリーズだけでなく様々な作品を書いていますが、その中でも特に異色作と言っていいでしょう。サンフランシスコ警察組織犯罪捜査班のダンテ・スタグナロ警部補が一応主役であり、〈ラプター〉と名乗る謎の暗殺者の正体を追う話なので、とりあえずジャンルは警察小説としてみました。
しかしこの小説の異色作たるゆえんは、それ以外の点にあります。古人類学者の講演が所々に挿入され、章題もそれに合わせて「白亜紀末期」等地質年代を表す言葉になっているのです。この講演が、宇宙創成から始まり人類誕生まで、旧約聖書と対比しながらかなりのページにわたって語られていきます。そこが本作の哲学的なテーマにもなってくるわけで、力作感はあるものの、ちょっと大げさすぎるようにも感じました。
ところで〈ラプター〉と言えば、本書発表の前年に映画で有名になった恐竜ヴェロキラプトルを連想させます。

1505中の書評を表示しています 201 - 220