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ミステリの祭典

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黄色の間

作家 M・R・ラインハート
出版日2002年06月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点
(2021/11/26 23:10登録)
ラインハートは1958年に死去していますが、晩年には執筆量は急減して、1945年の本作の後発表された長編は2作だけのようです。
途中までは、これは傑作ではないかと思いながら読み進んでいたのです。別荘での身元不明の女の死体発見に続き、山火事、ある人物のショック死、容疑者逮捕など様々な出来事が起こり、ともかく飽きさせません。主役の二人、キャロルとデイン少佐との視点の描き分けも堂に入ったもので、どうまとめて来るのかと期待していたのですが。
確かに事件全体の流れは相当複雑ではあるものの、納得できるようにできています。しかし、そのまとめ方がちょっと釈然としないのです。なんといっても、探偵役が入手した手がかりはすべて読者に開示することという意味でのフェアプレイが守られていません。完全にサスペンス調であれば問題ないのですが、構成がパズラー風なだけに、どうしても多少不満が出てきます。

No.1 6点 人並由真
(2017/06/17 19:56登録)
(ネタバレなし)
 終戦の兆しも見えない太平洋戦争中のアメリカ。名門スペンサー家の令嬢キャロル(24歳)は、一年前に婚約者ドナルド(ダン)・リチャードソンが戦死した心の傷みからようやく癒えようとしていた。そんなキャロルは、メーン州にある実家の別荘に赴き、家族との避暑の準備を始めようとしたが、その別荘の二階<黄色の間>で無惨に焼かれた、素性不明の若い女性の死体を見つける。しかもこれと前後して別荘では下働きの女性ルーシー・ノートンが何者かに襲われたらしい形跡もあった。近隣に住む傷痍の青年軍人ジェリー・デイン少佐とともに、キャロルは怪事件の謎に関わっていくが、そんな彼らの周辺では矢継ぎ早に予想外の事態が…。

 HIBK派の巨匠ラインハート(1876~1958)が1945年に著した長編。日本ではHMMの2001年5~9月号に発掘翻訳=連載されたのち、ポケミスに収録された。
 メインの素人探偵役はデイン少佐で、彼がキャロルを伴いながら怪事件に踏みこみ、同時に両人の恋模様も進んでいく。
 仕様としてはラブロマンスサスペンスの趣だが、それ以上になかなかこってりした謎解き(犯人捜し)パズラーの要素も強く、特に謎の被害者の正体とそれに関わる人間関係が見えてきてからは読み手を飽きさせないまま、興味を牽引していく。
 それにしても直接は戦場の描写のない作品ながら、一般市民に関わる戦時下のもろもろの厳しさが見え隠れする一冊であり、こういう時代の少し先にマクロイの『逃げる幻』(ほぼ終戦直後のリアルタイムの事件)などもあったと思うと、なんとなく感慨深い。
 真相はほど良いバランスで込み入っており、理解が追いつく程度に意外性もなかなか。作家歴を重ねた晩年の作者としての力作だったのだろうと窺い知れる。

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