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ミステリの祭典

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makomakoさんの登録情報
平均点:6.18点 書評数:873件

プロフィール| 書評

No.53 7点 五十万年の死角
伴野朗
(2009/02/07 21:28登録)
江戸川乱歩賞をとった伴野朗の出世作で、得意の中国ものミステリー。初めて読んだときはハードボイルドの要素が強いと感じたが、30年ぶりに再読した今回はほとんど違和感なくよく出来たミステリーとして楽しめた。ただ長く中国にいた作者としては地名人名は中国読みでないといった考えからか、漢字に中国読みのかなが振ってある。日本読みになじんだ者としてはちょっとうっとうしい。伴野朗の作品はどれも読みやすく面白いものが揃っているのだが、なぜかこのサイトには名前が無かったので追加しました。中国物が好きな人には十分に楽しめると思います。


No.52 6点 奇想、天を動かす
島田荘司
(2009/01/21 21:27登録)
作者が力を入れていることは良く分かりますが、このトリックはちょっと無理があるでしょう。吉敷は正義感あふれているのは良いのだが、こんな勝手が通るの?上司の反対を押し切って北海道まで行ってしまうし(この間の仕事は無いのかね)タクシーは乗り放題だし。いっそ金持ちの道楽息子が警察へ入っている設定にしたほうが無理がなさそう。そういった矛盾だらけではあるが作者のやさしさや力いっぱいの迫力は伝わってくるので私としてはこのぐらいの評価としました。


No.51 8点 隠蔽捜査
今野敏
(2009/01/12 18:35登録)
警察小説はあまり好みではない。キャリア官僚は好きでない。がちがちの原則主義者も困ったものだ、この主人公はきっと馬鹿なのだろうと思いつつこの小説を読んでいた。作者は読者がこういった感情を抱くであろうことを想定して書いており、それが途中から強い意志をもった立派な官僚、人間としてもなかなかいいやつではないかという感じになってくる。最後は家族もうまくまとまってきて感動的だし読後感も大変に良い。
 多少減点したのは主人公がはじめは普通の人間なら分かりそうなことまで全く理解できないぐらいへんな人間なのに後半では結構普通っぽくなってくるのがちょっと違和感があるため。


No.50 8点 高層の死角
森村誠一
(2009/01/03 22:14登録)
このサイトで森村誠一へのコメントが少ないのは社会派推理小説への評価が下がっているからだろうか。一世を風靡した人間の証明も採点がない。高層の死角を最初に読んだときはまだ学生で高級ホテルのことなど全く知らなかったためかホテルに関する事柄ばかりが印象に残っていたが、今回再読してみるとホテルの密室殺人はそれほどウエートがあるわけでなくむしろそれ以後のアリバイ崩しの分量が多いのにちょっと驚いた。ホテルでの密室殺人も犯人のアリバイも細かいところまで実に良く考えてあり、一流の推理小説だと思う。読んでいないならおすすめですよ。
 森村誠一は熱く情に流される人間が良く出てくる割には小説全体がとてもクールな印象を受けるところが、大好きな作家とまではいかないところです。でももうちょっと評価されても良いがなあ。


No.49 7点 二の悲劇
法月綸太郎
(2008/12/29 11:56登録)
法月らしい誠実できちんとした本格推理小説。でもこの2人称表現はあまり好きではない。ことに前半は無駄な描写がだらだらと続き意味なく長い感じ。我慢して呼んでいると途中からスピードがついてきて最後は結構面白い。ただストーリーそのものに違和感がある。私は物書きでないから分からないけど小説家から原稿をもらうのに女性編集者はそこまでやるの?この女性ならそのことを悩んでしまうか、絶対拒否して逃げて帰ってきてやっぱり悩んでしまうのではないかという気がしますがね。


No.48 7点 頼子のために
法月綸太郎
(2008/12/28 09:21登録)
推理小説としては良く出来ていると思いますが、終結は何でこんなこととするのですかね。もうちょっと手前で終わってくれれば良かったのに。倫太郎の態度もやっぱり賛成しかねるし、もう少し違った形にいくらでも変えられると思うのだけど。
 法月倫太郎はこれを書くまでは比較的順調に長編を発表していたのに、こんな風にしてしまうから悩んで次がなかなかかけなくなったのじゃないかな。まあいつもうじうじ悩んでいるのがこの作者の持ち味ともいえるからしかたないか。


No.47 10点 占星術殺人事件
島田荘司
(2008/12/21 22:25登録)
20年ほど前に読んだときは人間をばらばらにしてなどという異常な世界への嫌悪感と、御手洗のエキセントリックな性格についてゆけずあまり好きといえない作品であった。今回再読してみると自分が本格物を多く読んでこんな世界に免疫が出来たせいか、これぞ本格推理小説といった感じがすばらしく非常に面白かった。トリックは大体覚えていたにもかかわらず再読した今回のほうがはるかに良い印象。人間の嗜好って変わるものですね。


No.46 7点 一の悲劇
法月綸太郎
(2008/12/15 22:28登録)
この本の評価は私にとっては難しい。プロットは良く考えられているし、過去の名作をストーリーの中にちりばめてあるのも推理小説好みのものにとって楽しい。しかし主人公があまりに自分を責めすぎてとても陰鬱であるうえに、最後には救いようのない悲劇が訪れる。法月の才能は当時の新本格作者のなかでも秀でたものがあることは認めるのだが、このうじうじと暗い雰囲気はちょっとね。よく出来た小説であると思うが評価はちょっと低め。


No.45 7点 カンナ 飛鳥の光臨
高田崇史
(2008/12/14 09:11登録)
QEDと異なる歴史推理シリーズ第1弾。事件のトリックはまあこんなものと言った程度だが、歴史推理は聖徳太子の存在などこの手の話に興味があるものにとってはあまり珍しいものでないなと思っていたら、結論は意外なところに展開して結構面白かった。ちょっとこじつけ風なむりもあるけど。
 男女二人の主人公でQEDと似ているが、甲斐はタタルほどエキセントリックでなく、貴湖はナナチャンよりずっと頼りになる。さらに忍者はっとりくんに出てくるような忍者犬も登場する。漫画チックだが軽く読めて楽しかった。この話はシリーズのようで完結しておらず次回が楽しみ。


No.44 7点 紫の悲劇
太田忠司
(2008/12/07 22:27登録)
霞田兄妹シリーズを順次再読しているが、これは新しいバージョンの第1作。シリーズを短期間に順を追って読んでいくと作者の意図が何となく分かる。登場人物も怪しげだったり、志郎と対立する探偵もかなり変な人間で、良い意味でも悪い意味でも本格推理小説物の雰囲気が強くなってきている。太田忠司の小説は読みやすく読後感も良いのだがやや物足りないところがあったので、個人的にはこういった方向への転換は悪くないと思う。


No.43 7点 東京『失楽園』の謎
太田忠司
(2008/12/07 09:34登録)
霞田兄妹シリーズはいつも目新しい何かを物語に反映させている。薀蓄と言った感じではなく自然に興味をわかせるようになっているところが楽しい。10年前に出てすぐ読んだが、当時あまり興味がなかったパソコン通信とエンジェルがキーとなっているためか、前作の巴里人形の謎と比べて印象が薄かった。トリックも犯人の一人もすぐ分かってしまうが、最終的には意外な結果となる。初読は6点、再読は7点が私の印象です。


No.42 9点 巴里人形の謎
太田忠司
(2008/12/04 21:41登録)
霞田兄妹国名シリーズで最も好きな作品。最初に読んだときはあまり印象に残らずストーリーもすっかり忘れてしまったが、今回再読してとても楽しめた。志朗が襲われた笠寺公園(私の母親はは高射砲陣地と呼んでいる)は通勤でいつも通る場所でもあり、興味がわいたこともプラス要素ではある。大きな謎や派手なトリックはないが、作者の分身のような名探偵の青春時代が描かれていて読後感もとても良い。今回発表順に霞田兄妹シリーズを呼んでいるうちに、登場人物たちをが好きになってしまったのが一番大きいのかもしれない。


No.41 7点 維納音匣の謎
太田忠司
(2008/11/30 07:48登録)
霞田兄妹シリーズも4作目となると読むほうは気軽に物語へ入れる。アンティックオルゴールの話やウイーンのお菓子の話が物語に散らばっているのも楽しい。名探偵霞田志郎はとても優しいため、毎回犯人を特定していくつれて周囲の人や犯人にまで心を痛め最後に落ち込んでしまう。最後に何とか立ち直って物語り終了となり読後感がよいのだが、今回はやや違った終わり方で、犯人は真相があきらかにされた後もまったく反省の色なし。そのため名探偵は大いに怒って落ち込まなくてもすむ。
 初めて読んだときは違和感を禁じえなかったが、今回再読してみると最近のご時勢の先取りのような人間で違和感は前回ほどではなかった。そういえば前々作の倫敦時計の謎でもペットを殺されたのが動機となっており、最近の事件に共通するものがあるようだ。


No.40 7点 伯林水晶の謎
太田忠司
(2008/11/29 13:32登録)
倫敦時計に比べると多少落ちる。トリックめいたものはほとんどないが、でも本格物としてまずまず楽しめる。相変わらず読みやすい文章で読後感も良い。新しい登場人物は後で考えれば怪しげな趣味の人物であり、料理の仕方ではずいぶんおどろおどろしくもなりそうなのであるが、太田忠司らしくするりと軽く仕上げているところが良い。


No.39 9点 倫敦時計の謎
太田忠司
(2008/11/29 13:24登録)
霞田兄妹の第2弾。上海香炉がやや地味だったが、これは白昼の事件あり、連続殺人ありで、登場人物も太田忠司の作品にしては奇人変人が登場するなかなか派手な本格物。今回再読したが十分に楽しめた。高得点はひいきの作者であることも少しはあります。
 1点減点はからくり時計の殺人の解決を霞田志郎に指摘されるまで警察が出来なかった点と(これは簡単に分かるはず)、ロングケースクロックのトリックはよほどの幸運(悪運?)がない限り無理であろうと思われるところ。
 このサイトに書評がないのは寂しい。もっと評価されても良いと思うのだが。


No.38 8点 上海香炉の謎
太田忠司
(2008/11/24 10:29登録)
太田忠司のシリーズものでは、本格志向の高い霞田兄弟シリーズが最も好きだ。本格物としてはトリックがやや小粒であるがとても読みやすい文章で悲しく美しい物語が展開される。素敵な小説だと思う。登場人物が漫画チックな傾向にあるのが好みが分かれるところかもしれない。同郷の人間として名古屋弁や親しんでいる町が舞台のなっているのも好ましいのだが、こちらも他府県の人にはひょっとしたらマイナスなのかな。


No.37 6点 あわせ鏡に飛び込んで
井上夢人
(2008/11/21 20:18登録)
切れの良い短編集だと思います。一番すきなのは「あなたをはなさない」かな。結構長いことかかって書いたものを集めたようで統一性はないが、それなりに面白い。個人的には井上夢人は長編や連作のほうが好みではある。


No.36 8点 君たちに明日はない
垣根涼介
(2008/11/16 10:03登録)
これは面白い。リストラ請負会社などというものが成り立つかどうか不明であるが、とにかく普通に考えればいやな仕事には違いない。実際に大変な仕事が次々と依頼される。ところが冷たそうな主人公はリストラ相手と肉体関係になったりかなりハチャメチャ。エッチな描写も結構ある。しかしストーリーが展開するにつれ彼の人生がさらりと浮かび上がり、リストラ側の人物たちも次の仕事に命がけでがんばったりする勇気と浪花節の世界へと進む。いいぞがんばれと応援したくなる。


No.35 7点 ワイルド・ソウル
垣根涼介
(2008/11/16 09:33登録)
まさか戦後にもこんな移民で日本人が苦しんでいたとはまったく知らなかった。その子供たちが日本へ復讐にやってくるというそのまま書けば陰惨で暗い話なのだが、日系移民の子供たちはまったくの南米人でまさにサンバのリズムにのって行動するがごとく。からりとして悲壮感がない。長い話だが一気に読めてる。多くの賞をとったのもうなずける。


No.34 9点 ミステリーを科学したら
評論・エッセイ
(2008/11/16 09:06登録)
これはミステリーではない。作者はもと東大微生物学の教授という一流の科学者。そして退職後にミステリ小説を書いてしまうほどの長年のミステリーファン兼作家。その作者が膨大な読書暦の中で疑問に思ったことや、医学的にあきらかに間違いと思われることを忌憚なく述べている。ミステリー小説で医学的に、また物理的にあきらかに間違っていると思われる展開は気になるところだ。なんせそこが間違っていると小説そのものが成り立たないこととなってしまうのだから。こういったところを専門家の目で解説し、ファンとしてまた作家としての優しい目で擁護している。いろいろな古典ミステリーも出てきて楽しい。ミステリーファンなら是非一読を。

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