五十万年の死角 |
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作家 | 伴野朗 |
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出版日 | 1976年01月 |
平均点 | 5.71点 |
書評数 | 7人 |
No.7 | 5点 | クリスティ再読 | |
(2025/08/17 09:06登録) 永瀬三吾「売国奴」をやったから、同じ背景の本作やってみよう。いや実際「売国奴」で扱われる関東軍御用達新聞の社長が2人連続で射殺される天津の事件は、本作でも言及がある。主人公は軍属の通訳だから、軍隊の階級からはちょっと外れたところで、個人的に中将からの密命を受けて、日米開戦直後に接収を逃れて消えた北京原人の化石の行方を追及する。ロックフェラー系財団が運営する医大では秘密裏に化石をアメリカに輸送する計画だったが、その途中で行方が分からなくなる。この化石を巡って、日本軍では特務の松村機関(いわゆる土肥原機関か?)の凄腕エージェント佐々木月心、また国民党のテロ組織として有名な藍衣社では「児女英雄伝」のキャラの名をコードネームとする冷酷な女スパイ「十三妹(シーサンメイ)」、中国共産党からは大人の風格もある国志宏(クオチホン)がこの争奪戦に加わる。 舞台は北京・天津などの華北が主。実在人物としては、ホーチミンが一瞬顔を出すとか、テイヤール・ド・シャルダンにも話を聞きに行く。まあそんな感じで特に後ろ盾のない主人公が、徒手空拳で三つ巴の争奪戦に介入するわけだ。ハードボイルドっぽいという評をされている方はここらへんに反応されたかな。達者に書けているし、歴史デテールはちゃんとしている。その分、飛躍みたいなものはなくて、題材のわりに地味という印象。まあでも特務の佐々木月心と十三妹の直接対決とか、カッコイイ。名前がいいな。ひょっとしたら武田泰淳の「十三妹」で紹介された白玉堂のイメージがあるのかも。 ミステリ的な謎としてダイイングメッセージがあるけど、これネタが有名だから、知っている人多いんじゃないかな。というわけで、謎解き的な興味は比較的薄い。ロマンス要素はちょっとだけあるが、どうでもいいくらいの比重。 ...とはいえ、本作でデビューした伴野朗って、やはり戦時中の中国を舞台にした映画「落陽」で、歴史と伝統ある日活を潰したことでもヘンに有名でもある。まあ原作と名義だけとは言われているが、そのうちにやろうかな。 |
No.6 | 6点 | 麝香福郎 | |
(2025/05/13 19:44登録) 太平洋戦争の開戦のまさにその日、密命を帯びた日本軍兵士が北京協和医科大学の施設を急襲した。貴重な文化財である北京原人の化石骨を接収するためである。だが、大学関係者が厳重な守りに固められた金庫を開けた時、声にならぬ驚きが辺りを支配した。金庫の中には、目指す化石骨が消えていたのである。誰が何のために持ち出したのか、北京原人を追い、日本軍、中国共産党、日本中それぞれの特務機関が激しい暗闘を繰り返しながら行方を探っていく。 手法としては、フォーサイス的手法の作品と言えるだろうか、北京原人の行方をめぐる話を中心としながら、主人公の周囲では藍衣社会や松村機関といった特務機関の人物が派手な活劇を繰り広げ、謎を追う者たちの躍動感が全編に充満している。 |
No.5 | 6点 | ◇・・ | |
(2024/04/02 21:51登録) 太平洋戦争の開戦直後、日本軍は北京原人の化石骨を摂取すべく米国系医科大学の研究所を急襲したが、すでに持ち出されたあとだった。軍医部長の特命を受けて骨の探索に乗り出した主人公は、日本の特務機関、国民党の謀略組織、中国共産党の三つ巴の争奪戦に巻き込まれていく。 当時の大陸情勢を背景に、主人公の瑞々しい探究心と、ヒューマニズムを謳い上げた戦記サスペンスで、この種の謀略ものには珍しく読後感が爽やか。 |
No.4 | 4点 | TON2 | |
(2012/12/11 21:07登録) 講談社文庫「江戸川乱歩賞全集10」 太平洋戦争開戦前夜に中国から消えた北京原人の化石の行方を追う男。中国共産党、国民党、日本軍などの秘密機関が暗闘する。 男が謎を追って動くたびに都合のよい情報が手に入って、ご都合主義じゃないかと感じました。 |
No.3 | 6点 | kanamori | |
(2010/08/02 20:14登録) 当時の乱歩賞作品では珍しい冒険・謀略もののサスペンス小説。 太平洋戦争下の北京を舞台に、消えた北京原人の化石を巡って、日本軍属通訳の主人公を始め、国民党、共産党、日本の特務機関などがスリリングな活劇を繰り広げる。 結末に大きなサプライズはないが、発表当時の国内ミステリにあまりない作風で楽しめた覚えがあります。 |
No.2 | 6点 | 臣 | |
(2009/05/18 17:35登録) 北京原人の化石骨の消失と、それに絡む殺人と、重要人物失踪の謎を、上官の命令で軍事通訳の戸田が追う。舞台は大平洋戦争開始時の中国。 物語は、これらの謎を国民党結社・藍衣社、日本軍・松村機関、中国共産党が同時に追うスリリングな展開(戸田自身も命を狙われスリル満点)であり、しかも謎が絡み合い、1つの謎が解けてもまた新たな謎が生まれるという複雑な内容で、上級サスペンスミステリと言える。しかも歴史的事実にもとづいているから歴史ミステリでもある。 また、伏線もていねいに張られており、解明するつど説明してくれるから、わかりやすい。ただ、どんでん返しはなく、ある程度予想された結末なので、その点は少し不満である。 本作は、文庫化と同時に購入したが、中国読みルビの多さで1、2ページで断念。その後、積ん読状態がつづいたが引越しを重ねるうちに紛失してしまう。当初はハードボイルド、中国物ということもあって読みづらさだけを感じた作品だったが、今回、図書館で借り念願かなって読んでみると、文章自体は意外に平易であった。しかも今では興味の持てる内容であり、30年ぶりにやっと読破できた。この作家はミステリ作家としてスタートし、中国歴史物に移行した人で、陳舜臣と似ている。なんだか興味がわいてきたなぁ。本作以外は絶版のようなので、図書館通いかな。 |
No.1 | 7点 | makomako | |
(2009/02/07 21:28登録) 江戸川乱歩賞をとった伴野朗の出世作で、得意の中国ものミステリー。初めて読んだときはハードボイルドの要素が強いと感じたが、30年ぶりに再読した今回はほとんど違和感なくよく出来たミステリーとして楽しめた。ただ長く中国にいた作者としては地名人名は中国読みでないといった考えからか、漢字に中国読みのかなが振ってある。日本読みになじんだ者としてはちょっとうっとうしい。伴野朗の作品はどれも読みやすく面白いものが揃っているのだが、なぜかこのサイトには名前が無かったので追加しました。中国物が好きな人には十分に楽しめると思います。 |