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Tetchyさん
平均点: 6.74点 書評数: 1617件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.457 4点 雲なす証言- ドロシー・L・セイヤーズ 2009/02/22 01:06
セイヤーズの長編の特徴は発端の事件自体はシンプルなのだが、その事件の周辺に関わる些事や各関係者の行動についてそれぞれどういう意味があったのかを解明する事で実はこんな事件だったのだという予想以上に混迷した姿を見せる所にあると思う。
で、今回は中盤、ゴイルズあたりが登場する所は俄然乗ってきたのだが、最後には仮説の一つが淀みなく証明されたに過ぎなかったという結末がシンプルに収束したのが残念である。特に最後の最後で新しい、しかも登場人物表に載っていない重要人物が出てくるあたりは興醒めである。

No.456 8点 誰の死体?- ドロシー・L・セイヤーズ 2009/02/20 22:34
初めの方は読んでも読んでも全然頭に入らず、どうにもこうにもつまらないという感じだったが、後半辺りから何かしら事件の実態が見え始めたせいか、グイグイと惹き寄せられた。
事件は至ってシンプルで、一見何の変哲もない設定のように思えたが、真相が徐々に明かされるにつれ、これが実に練り上げられた設定であることに気付かされる。
死体の処理方法にこんな方法があるのかとそのロジックに感嘆した。

しかし本書の白眉はピーター卿が犯人と直接対峙するシーン。
こんな緊張感のある犯人との対決シーンもなかなかない。
しかもここで犯人を直接告発せずに去る所が騎士道精神溢れて、カッコいいのだ。

No.455 7点 ピーター卿の事件簿- ドロシー・L・セイヤーズ 2009/02/19 22:59
セイヤーズの初読作品として本作を手にしたが、これが間違いだった。
こういう短編集はやはりシリーズをある程度読んでいないと十二分に楽しめない。
これで2点はマイナスだ。

しかし、島田氏が本格の定義として提唱している「冒頭の怪奇的・幻想的な謎、そして後半の論理的解明」を正に実践しているのに驚いた。
こんな本格が過去、西洋にあったのかと再認識させられた次第。
ドッペルゲンガーに悪霊憑き、そして首のない馬車とゴシック風味満載である。
真相自体はずば抜けた物はないが、こういう正道作品があったことが素直に嬉しい。

No.454 8点 原罪- P・D・ジェイムズ 2009/02/03 21:57
マンディ・プライスという従来の作者の作品にはいなかった現代的な娘を要所要所に活用する事で、何か軽快なテンポのいいストーリー展開が生まれ、非常に愉しく読み進めることが出来た。
とは云え、改行の少ない文字のぎっしり詰まった文章は相変わらずだし、最後の最後に来て救済のない結末を持ってくる所などは、ああ、やはりP.D.ジェイムズか、と嘆息してしまった。しかし、ある種吹っ切れた感があるのは確か。
やはり今回のように出版業界のような勝手知ったる世界を舞台に扱う方が俄然物語に勢いがついてくる。

No.453 7点 策謀と欲望- P・D・ジェイムズ 2009/02/02 21:22
連続殺人鬼の登場をメインの殺人事件の単なる小道具として扱う辺り、やはり大作家の構成力は只ならぬものがあるなと感心したが、終わってみれば犯人は予想外だったけど、動機としては単純なもの。
いや寧ろ深くまで語られなかったため、抽象的であり浅薄だ。
今回は連続殺人鬼、原子力発電所という2つのモチーフが物語にあまり溶け込んでいなかったように思う。2つの短編を組み合わせて作られた、そんな乖離を感じた。

今回、読んでいて気付いたのはアダム・ダルグリッシュという存在を作者は暗鬱な日常性から解放する導き手に想定しているのではないかということ。悲劇が繙かれた後、関係者それぞれに変化が扉を叩く、その役目を彼が負っている、そんな気がした。

No.452 1点 グルジェフの残影- 小森健太朗 2009/02/01 19:11
『神の子の密室』がイエス・キリストの復活の真相を探るミステリであったように、ロシアの神秘思想家ゲオルギイ・グルジェフの正体と彼と親交の深かった哲学者ピョートル・ウスペンスキーの関係を探る歴史ミステリだ。
しかし本作では作者もあとがきで自戒しているように、かなり自身の趣味に走りすぎて、果たしてこれはミステリなのか?と首を傾げざるを得ない。
物語もようやく終盤になって殺人事件が起きるが、これが本当に取って付けたかのような事件で、物語に溶け込んでいない。

とにかく彼ら2人の哲学論議が終始物語を覆いつくしており、読者もそれなりの覚悟が強いられる。
さらに驚くのは本作は文藝春秋の「本格ミステリーマスターズ」叢書の1冊として刊行されたことである。これほどまでにエンタテインメント性を排した作品をこのシリーズで刊行した同社の担当者は商業性やシリーズの特性を全く無視して刊行したのではないかと勘ぐらざるを得ない。

No.451 9点 死の味- P・D・ジェイムズ 2009/01/30 22:44
重厚かつ濃厚とはまさにこの作品を指す。
実に読みでのある作品だ。
今回の特色はワンマンで捜査に当っていたダルグリッシュに仲間が登場することだろう。
というよりも今までなぜこういう設定が無かったのかが不思議だが・・・。
その中でも出色のキャラクターは27歳の若き女性警部ケイト・ミスキン。彼女自身に個人的なある事情を持っているというのが設定として映えているし、さらにそれが終盤になって痛烈に響くのがすごい。

ミステリとしても面白いが、事件の全容が解明された後に更なる人間ドラマが展開される。
よくもまあ、こんな物語を書けるものである。
ジェイムズの人間洞察の深さにはほとほと畏れ入る。
本作はダルグリッシュ警視シリーズでオイラの中では№1の作品だ。

No.450 9点 皮膚の下の頭蓋骨- P・D・ジェイムズ 2009/01/29 22:39
女探偵コーデリア・グレイ2作目は、1作目とは打って変わって、孤島に聳えるお城が舞台。つまりクローズト・サークル物。
そこで開かれる人気女優による古典劇、様々な思惑を秘めた招待客とゴシック風味溢れる本格ミステリ。

いやあ、堪能した。
もう当然のことながら、登場人物全てが女優に悪意を抱いているのがネチッこい^^
こういう趣向だと、誰が犯人でも驚きが薄れるのだが、ある重要な証拠をコーデリアが掴んだ瞬間、思わず声を挙げてしまった。
これほどまで悪意に満ちた作品なのだが、コーデリアが島から脱出した瞬間、自分も悪意から解放された気分になり、読後感は爽やかだ。

No.449 10点 罪なき血- P・D・ジェイムズ 2009/01/28 19:33
実の両親を探し当てたところ、父は少女暴行罪で獄中死、母はその少女を殺害したかどで服役中というショッキングな設定。
そして母の出所が間近である事を知った主人公の女性が、母との生活を決意したところ、なんと娘を殺された父親もまた復讐するためにその母親の出所を待ち構えていたという、もう不幸にしか転がらない設定の話。しかしこれが実に読ませる。

ジェイムズの精緻を極める文体はこういうシンプルな設定の方が存分に活かされると思う。
複雑な事件を更に緻密な背景描写、人物描写に舞台設定、人間相関に筆を割くと、読み手の苦労もかなりの物になる(まあ、これでないとジェイムズを読んだ気にもならないのだが)。
しかしこのノンシリーズである本書はそのシンプルかつ解っている結末を迎えるまでに、主人公の女性と復讐を企む父親の心の移り変わりや再会までの過程が緻密であればあるほど、ドラマを掻き立て、登場人物らの心情が心に染入ってくる。
むしろ人を殺す理由というのは単純な物ではないという事が非常に説得力を持って書かれている。

またこういう作品を是非とも書いて欲しいのだが、御年80を超える今となってはもう無理かなぁ。

No.448 7点 失踪症候群- 貫井徳郎 2009/01/27 23:04
貫井氏といえば、『必殺仕事人』に代表される“必殺”シリーズの大ファンであるが、本作はその趣味を存分に活かしたシリーズと云えるだろう。とにかく環敬吾率いる彼のチームのメンバーの召集シーンからニヤニヤしてしまった。

特に注目したいのは本作に登場する犯罪の片棒を担いだ人々というのが、実は私たちとなんら変わりのない、ごく普通の人々だということだ。彼らは現状に不満を抱きつつ、毎日を過ごし、その現状から脱出したいがために、一線を少しだけ越えてしまった人々なのだ。その一線というのが、誰しも抱く「このくらいなら大丈夫だろう」という軽い気持ちで始めた犯罪行為というのが非常に心苦しい。
こういう作品を読むと、我々の安定した暮らしというものがいかに危うい日常のバランスの上で成り立っているかが実感させられる。

しかし最後の方で物語の軸足がぶれてくるのはちょっとマイナスか。題名が単なる取っ掛かりでしかなくなっている。

No.447 4点 シャム双子の秘密- エラリイ・クイーン 2009/01/25 19:18
カナダからの休暇旅行の帰りに山火事に出くわし、アロー・マウンテン山頂に聳え立つ館へ避難を余儀なくされるクイーン親子。
そこで殺人事件が起き、警察が来られない事で捜査を一任されるというクローズト・サークル物。
クイーンの国名シリーズでも異彩を放つ本書は、なんと定番の“読者への挑戦状”が挿入されていない。
それでも私は推理に挑戦したが、確かにこれは挑戦状を挟めないなぁ。

クイーン親子が館に辿り着く前半は、怪しげな館の住人たち、道中ですれ違った車の存在を誰も知らないこと、クイーン警視が見た蟹の化け物、などなどクイーンらしからぬ怪奇趣味が横溢してあり、新機軸かと思われたが、それらの謎はいとも簡単に明かされ、その後はオーソドックスなミステリに終始している。
もっと魔物の仕業としか思えない殺され方とか、曰くありげな館に纏わる因習など、カーなら絶対に盛り込むであろうオカルト趣味が持続すればよかったのだが、あまりに平凡すぎるし、エラリーは何度も推理を間違うし、最後の決定打は理論的にも押しが弱いしと、物語が進むに連れてスケールが尻すぼみしていった作品だ。

No.446 8点 宿命- 東野圭吾 2009/01/25 00:42
本作は三角関係という恋愛小説の色も持ちながら、青春小説の側面もあり、なおかつ明かされる三人の過去には科学が生んだ悲劇という通常相反する情理が渾然一体となって物語を形作っているのが特徴的だ。
この絶妙なバランスは非常に素晴らしい。特に科学の側面を全面的に押し出さず、あくまで人間ドラマの側面を押し出して物語を形成したのは正解だろう。

そして登場人物3人、特に主人公晃彦と勇作2人に纏わる濃い相関関係は、昨今のお昼のメロドラマのような作りすぎた内容なのだが、東野氏のあっさり味の文体がくどさを解消している。
これがこの作者の最大の長所ですな。

開巻前、なんとも思わなかった表紙絵(文庫版)が読後では印象がかなり違って見え、味わい深い。

No.445 6点 わが職業は死- P・D・ジェイムズ 2009/01/18 19:41
本作は非常にオーソドックスな作りになっている。ジェイムズのミステリ公式に則って、創作された、そんな感じだ。

事件が起き、ダルグリッシュが登場し、関係者一人一人に尋問。しかも登場人物それぞれが重苦しい何がしかの不幸を孕んでいる。ダルグリッシュが捜査を続けていると第2、第3の事件が発生、そしてカタストロフィへ…てな具合だ。

この定型を固執するがため、それぞれに個性が感じられなくなってきているのも確かで、本作においては特にその志向が強い。

ジェイムズには読後、良きにせよ悪きにせよ、いつも心に何かが残るのだが、本作に関してはその辺が全くない。
多分1ヵ月後にはどんな話だったか忘れてしまうだろう。

No.444 6点 黒い塔- P・D・ジェイムズ 2009/01/17 23:34
とにかく重厚かつ陰鬱な内容で、途中何度も投げ出そうかと思った作品。
レジナルド・ヒルの『骨と沈黙』が出るまで、ポケミスでは最厚記録を持っていたらしい。

今までのジェイムズの特徴である緻密な人物描写、風景描写は全く緩まるところがなく、更に登場人物が増えたわけだから、その分量も増え、今までの作品にありがちな、残り少ないページ数で解決シーンへ駆け足で行き着く、などということが全然なく、そこまで終始見開き2ページ、文字で埋め尽くされたページが延々と続く。
最初に手に取るジェイムズ作品としては最も相応しくない作品だろう。

その分、今までになく事件の真相は凝っているように感じた。更にダルグリッシュに魔の手が迫るのもいい。
しかし、これはキツイ!かなり読むのに覚悟がいる1冊。

No.443 6点 女の顔を覆え- P・D・ジェイムズ 2009/01/16 22:54
本作がジェイムズのデビュー作で、本の厚みは薄いものの、やはり第1作目から文章が見開き2ページに渡って毎ページぎっしり詰まって、あたかも真っ黒になっているかのよう。

本作でのテーマは被害者の人と成りが捜査で周辺の人からの聴取により一変していくところでしょう。
こういう話は好きですが、ただもう少し掘り下げてほしかったかな。
しかしデビュー作にしてジェイムズのミステリのスタイルが確立されているのは驚いた。
最初からレベル高いです、この人。

事件の始まりは日常の終わりを告げる始まりである。
デビュー作からこのテーマはジェイムズにとって不変のようだ。

No.442 7点 女には向かない職業- P・D・ジェイムズ 2009/01/14 22:22
ハヤカワ・ミステリ文庫ではP.D.ジェイムズはこの作品から始まる。
というわけでオイラもこの作品から読んだので、最後に出てくるアダム・ダルグリッシュが誰だか全く解らなかった。

これをジェイムズの作風だと思われると大きな誤解が生じる。このコーデリア・グレイシリーズはジェイムズにとって突然変異のような作品であり、未だになぜ唐突にこのような女探偵物を書いたのか、解らない。

事件はシンプルで、実はどんなものだったか全然記憶に残っていない。
しかし若年22歳のコーデリアが奮闘するこの物語は、若い女性がいきなり社会の荒波にもまれながら、自分の立ち位置を常に確認し、懸命に生きていくその姿こそが本作の主眼であり、それが克明に私の記憶に刻まれている。
留意しておきたいのは、キンジー・ミルホーンやウォシャウスキーシリーズに何年も先駆けて本作が出ていた事。
これこそジェイムズの功績だと讃えたい。

No.441 7点 ナイチンゲールの屍衣- P・D・ジェイムズ 2009/01/14 00:52
本作以前の作品のページ数を遥かに凌駕する厚みと重厚な内容。
とにかくそれぞれの登場人物が同僚や友人に抱く憎悪や軽蔑の念がこれほどまでに露骨に表現されているのにまず驚いた。
こういう綿密且つ粘着質な書き方は女流作家ならではの負の感情の発露なのか?

本作では作者初のCWA賞を受賞しているが、まだまだ本領は発揮されたとは云えないだろう。
ページ数は増えても、それは書込みの量が増えただけで、物語の進行はさほど変わっていない。
犯人の動機も単純だし。
力作とは思うが、傑作とまではいかないというのが正直な感想。
なんせP.D.ジェイムズにはこの後、真の意味での傑作が控えているのだから。

No.440 7点 人類の子供たち- P・D・ジェイムズ 2009/01/12 21:56
2,3年前、『トゥモロー・ワールド』という題名で映画化された作品。CM観た感じでは、どうも作品世界とかけ離れている感じがあったので怖くて観ていないが。

ジェイムズにしては全く異色の、子供の生まれない未来の地球を舞台にした物語。
何故子供が生まれないかの謎を解明するとか、その設定でしか成立し得ない事件の解明というようなシチュエーション型ミステリではなく、あくまで世界を設定した上で繰り広げられるヒューマン・ドラマを描いている。
迎える結末はこういった設定で容易に予想されるものであるが、ジェイムズが敢えてこのような母性に満ちた物語を紡いだことに興味を覚えた。

No.439 5点 不自然な死体- P・D・ジェイムズ 2009/01/11 13:44
題名はジェイムズが尊敬してやまないセイヤーズの『不自然な死』を意識してつけられたことは明らかだろう。
ボートに乗せられた両手首のない死体というショッキングな幕開けだが、その導入がこじつけのようになっている感じがするのが惜しい。

とにかくジェイムズの描写は今回も細微に渡るが、ページ数も少ないため、第2の殺人が起こってからは、残りのページで収めようといきなりバタバタするのが残念だった。
動機も至極当たり前なもので、これといって新味が感じられず。

導入として読むのにも以上のような小粒感があり、お勧めできない。
何作か読んで、興味が出たら、どうぞ。

No.438 6点 ある殺意- P・D・ジェイムズ 2009/01/10 23:47
よく出来た小説だと思う。
何一つ過不足無く終末へと向かうし、文章も格調高い。

しかし、目くらましのために容疑者を増やしすぎたのではなかろうか?
以前に比べると登場人物の特性がそのために希薄になってしまっている。
未だにどんな人物だったのか区別がつかない人物が3~4人いる。

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