皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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sophiaさん |
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平均点: 6.92点 | 書評数: 384件 |
No.284 | 7点 | 人魚の眠る家- 東野圭吾 | 2021/06/16 00:04 |
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脳死と植物状態の違いも分かっていなかった私ですのでこの作品は大いに勉強になりました。目次の各章サブタイトルで物語の大まかな流れが分かってしまうにも関わらず、続きが気になって一気に読まされるのはこの作者の力だと思います。ただし、中盤の募金活動のくだりはサプライズを狙い過ぎたあまり本編から浮いてしまった気がします。あれがないと大方の予想通りの起承転結になってしまうので、アクセントの意味でも入れたくなる気持ちは分かるのですが、あの一途な人物がああいう回りくどいことをするのにはやはり違和感がありました。 |
No.283 | 8点 | オーブランの少女- 深緑野分 | 2021/06/06 19:14 |
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●オーブランの少女 8点・・・時代や民族などの背景を隠したのが巧み
●仮面 7点・・・気分が悪い(笑) ●大雨とトマト 7点・・・洒落が利いていてコンパクトにまとまった好編 ●片想い 8点・・・なぜか急に朝ドラに ●氷の皇国 8点・・・展開の読めない一大叙事詩 古今東西を舞台にして少女を主役に立てた粒揃いの短編集。初めの2つを読んだ時点ではいわゆるイヤミス集なのかなと思っていましたが、「大雨とトマト」はコメディタッチで、そして「片想い」は女学生の切なくも爽やかな青春を描いてきました。著者の作風の多彩さには感心するばかりです。「氷の皇国」は「オーブランの少女」と構成が似てしまっているのですが、間に毛色の違う話を挟んだことであまり気にならないようになっています。収録順もよかったですね。著者は近年は専ら長編を書いておりそちらも傑作揃いなのですが、是非またこういう短編集も書いてもらいたいものです。 |
No.282 | 4点 | 密室殺人ゲーム・マニアックス- 歌野晶午 | 2021/05/23 02:12 |
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「2.0」で既にげんなりした部分はあったのですが、毒を食らわば皿まで(?)の精神で3作目にも手を出しました。結果やはりと言うべきか、1作目から順調にクオリティが下がっていって、今作終了後にはもう草も生えない状態となりました。まずゲームの存在が世間に知れ渡ってしまったのが興醒めなんですかね(例えるならば、デスノートの存在を知るのはキラだけであってほしかったというような)。
「王手飛車取り」のコロンボは「出題者の用意した解答ではなくても矛盾がなかったら正解として認めろ」とキレましたが、今作のコロンボは「制作者の意図を汲み取り、制作者が用意した結末に向かうのがゲーム」と随分大人なことを言います(別人だから不思議はないのですが)。「密室殺人ゲーム」はどうあるべきなのか、この命題に読者の私も振り回されたシリーズでした。 |
No.281 | 7点 | ○○○○○○○○殺人事件- 早坂吝 | 2021/05/17 23:32 |
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文庫版を読みました。タイトルだけは当てることが出来ました。どうしようもなく下品でアホな作品ですが、「ミステリマニアの主人公がアレを疑わない理由」という隠し問題を設定するなど、実は高度なことをやっているんですね。漫才コンビの笑い飯を初めて見たときのような衝撃を受けました。この作者の「思い付いたら書く」という精神は大いに評価したいです。 |
No.280 | 5点 | 天使の屍- 貫井徳郎 | 2021/05/14 00:08 |
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自殺するほどのことかと思ってしまうのは20年以上前の作品だからでしょうか。それと優馬がどういう子なのかよく分からなかったので、回想シーンでも随所に挿入して描いてくれるともっと父と子の問題に感情移入できたと思います。 |
No.279 | 6点 | 密室殺人ゲーム2.0- 歌野晶午 | 2021/05/08 01:52 |
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続編を作るようなものではないですね。前作との関連性が判明した中盤がピークでした。しかもこれは実質的に前作のリブートのようなものですし、各出題も前作の二番煎じです。最後どうなるのかだけを期待して読み進めましたが、またしても消化不良の終わり方でした。やはり前作だけで綺麗に完結させた方が良かったと思います。
「相当な悪魔」の犯行当日の生配信で出題者が堂々と嘘を吐いているのはいいんですかねえ。このゲームのフェア-アンフェアのラインが未だによく分からないんですよ。 |
No.278 | 7点 | スケルトン・キー- 道尾秀介 | 2021/04/22 23:50 |
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この手の作品としてはネタばらしが随分早かったので心配しましたが、失速することなく最後まで緊迫感を維持できています。ある意味でこの作品の肝だと思いますが、反転の芸が細かいですねえ(笑)綾辻行人の某作品のアレみたいなものですが大変分かりにくく、恐らく多くの読者はしばらく気付きません。そして頃合いになったところで分かりやすいやつが出てきてまさかと思いページを戻る、作者の狙い通りの読み方をさせられるでしょう。いや、久しぶりに騙されました。ジャンルはサスペンスにしましたが、取りようによってはクライムかもしれません。 |
No.277 | 5点 | 月と蟹- 道尾秀介 | 2021/04/18 00:26 |
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「球体の蛇」を純文学寄りと評しましたが、本作はもはや純文学の域ではないでしょうか。「球体の蛇」に増して心情描写が多く、終盤になってやっと面白くなってきたと思ったら特に何もなく終わりました。直木賞より芥川賞の方が合っているような気さえします。手紙の犯人など予想通りでしたが、さしたる理由もなかったことの方に驚きました。昭和の終わりの時事ネタが主人公世代の自分には懐かしく感じられたのですが、そもそもなぜ時代設定を昭和にしたのでしょうか。 |
No.276 | 6点 | 球体の蛇- 道尾秀介 | 2021/04/08 22:36 |
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読んでいる最中は「ラットマン」のような過去の事件の反転を目指した作品なのかなと思っていましたが、それとはまたちょっと違うリドルストーリーでした。一応ミステリーではありますが、主人公の心情描写がメインで純文学寄りなのですかね。「球体の蛇」というタイトルはあまり的を射ていないように思います。 |
No.275 | 6点 | 逆ソクラテス- 伊坂幸太郎 | 2021/04/06 00:34 |
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ノスタルジックで切ない前半の2つ「逆ソクラテス」「スロウではない」がよかったですね。後半の話はちょっと物騒でした。こういう連作短編集の常として、そして特に伊坂幸太郎という作家の特性を考えると、最後にそれまでの話に登場した人物を再登場させて締めるのだろうなと予想はしていたのですが、あの人物ですか。うーん、あの人物は違うんじゃないですかねえ。そんなに改心するようなことがありましたっけ。最後をもっとふさわしい人物が締めていればプラス1点というところでした。他にも複数の話に登場する先生がいますが、この先生を使い回す必然性があまり感じられませんでした。リンクをもっと効果的に使って欲しかったです。 |
No.274 | 7点 | 密室殺人ゲーム王手飛車取り- 歌野晶午 | 2021/04/02 21:30 |
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五人のキャラが立っていて掛け合いが面白かったです。オフにも舞台が広がっていくのは予想の内でしたが、それでもやはり驚きが待っていました。問題なのはやはり終わり方です。オフ会にはちょっと醒めましたし、訳の分からないゲームも不要でしょう。Q7後の独白パートでサプライズと同時に終わっていれば綺麗だったのではないでしょうか。 |
No.273 | 6点 | 蒼海館の殺人- 阿津川辰海 | 2021/03/21 18:48 |
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災害を犯行計画に取り入れてきたところなどは「紅蓮館」より優れた点なのですが、事件の全容があまりにも複雑すぎましたね。そう犯人の思惑通りに事が運ぶとは思えませんし、状況設定や推理も穴だらけ、更には攪乱戦術を用いすぎたことで結局何が真実であったのか読者の頭に残りにくくなってしまったと思います。そして犯人の意外性を出そうとし過ぎたあまり、問題編と回答編で完全に別の人格になってしまっています。中盤あたりでは9点、10点の予感を感じていただけに残念です。なお今作で葛城は前作の痛手から立ち直ったという体ですが、むしろ逆にもっと深い傷を負ったのではないですか?
以下ネタバレでこの作品の大きな傷(?) 196ページの中ほどの文章で、あの人物の身代わりの線は完全に否定してあるように思えるのですが。 |
No.272 | 6点 | 雨の降る日は学校に行かない- 相沢沙呼 | 2021/03/15 23:55 |
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「教室に並んだ背表紙」が割とよかったので、似た系統と思われる本作にも手を出してみましたが、こちらは更にミステリー要素がありません。そして「教室に並んだ背表紙」のように各エピソードの関連性があまりないので(一部を除き舞台が同じ学校なのかも不明)、連作短編集としての厚みという点では落ちますかね。ただ、各タイトルを聞いて話の中身を思い出せるのはこっちだろうなと思います。「死にたいノート」と「プリーツ・カースト」の卵の殻にヒビが入ったような終わり方が好きです。 |
No.271 | 5点 | 月下美人を待つ庭で 猫丸先輩の妄言- 倉知淳 | 2021/03/11 00:25 |
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●ねこちゃんパズル 4点・・・話の中身のなさに驚き。八木沢(&みゆき)を登場させたかっただけでしょうか。
●恐怖の一枚 5点・・・猫丸先輩の推理通りだと状況設定に無理があるような。人物関係をひねらない方がホラーに振り切れたのではと考えたりもします。 ●ついているきみへ 7点・・・この短編集の中では一番面白いですが、ラジオの公開収録の設定にもっと意味があってほしかったです。 ●海の勇者 4点・・・何も推理していないです。 ●月下美人を待つ庭で 6点・・・真相は取るに足りないものですが、しみじみとした読後感の作品です。 このシリーズは大好きなんですが、甘めに評価してもこんなものですね。猫丸先輩ってここまでおしゃべりでしたっけ。それでミステリーとしての中身の薄さを補おうとしている感じを受けました。前作から間隔が15年も空いたせいで時代設定に齟齬が生じてしまっていますが、そこは気にしない方がいいのでしょうね。 |
No.270 | 7点 | あと十五秒で死ぬ- 榊林銘 | 2021/03/02 23:21 |
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●十五秒 8点・・・被害者と犯人の攻防を視点の切り替えのみならず、時系列の操作も用いて意外な着地点へ誘った傑作。
●このあと衝撃の結末が 5点・・・構成が凝り過ぎていていまいち入り込めませんでした。 ●不眠症 5点・・・ガラッと趣向を変えてヒューマンドラマ寄りにしてきましたが、後味がよくない。もっと希望を感じさせるオチにしてほしかったです。 ●首が取れても死なない僕らの首無殺人事件 8点・・・当初思っていたよりもコミカルな話で楽しく読めました。 個人的に評価の二分される四編となりました。「このあと衝撃の結末が」は作者が作った複雑な迷路をゴールまでクネクネ引っ張って行かれているようで疲れました。推理も予定調和かつ牽強付会な感じがします。特に電話番号の件にもっと根拠が欲しかったです。「首が取れても死なない僕らの首無殺人事件」はミステリーとしても友情物語としても面白かったです。××の指紋は採取してなかったのかという疑問はありますが。しかしまあ、この島の犯罪捜査において指紋やDNAに意味はあまりなさそうですね(笑) |
No.269 | 7点 | 教室に並んだ背表紙- 相沢沙呼 | 2021/02/21 21:36 |
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中学校の図書室を舞台にした連作短編です。毎話主人公が変わり、それぞれに悩みを抱えて図書室を訪れます。ミステリー色はほぼありませんが、司書の「しおり先生」の言葉が心に染みるいい作品だと思います。以前登場した人物を再び違う視点から描く構造も効いています。しかし女子校かと思うぐらい、ほとんど女子しか登場しません(笑) |
No.268 | 10点 | 孤島の来訪者- 方丈貴恵 | 2021/02/18 00:13 |
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まずこの世界観で想起するのは「ターミネーター」「プレデター」「寄生獣」あたりです。前作「時空旅行者の砂時計」もそうでしたが、ともすれば何でもありになってしまいかねないSF要素に制約を設けて、本格ミステリーの枠に収めるのに長けています。話も前作ほどの難解さはなく、それでいてサバイバルゲームの要素も増え一層引き込まれました。「読者への挑戦」の前にちょっと考えてみましたが、断片的には当てることの出来た部分もありましたが全容解明はとても無理でした。いや、よく練られたプロットで伏線の配置も見事です。敢えて挙げる難点は、人類の存亡まで懸かった事態の深刻さの前に、主人公の復讐計画が霞んでしまったことぐらいでしょうか。前作にはサービスしての9点を付けましたが、今作は正真正銘の10点を差し上げます。 |
No.267 | 9点 | 時空旅行者の砂時計- 方丈貴恵 | 2021/02/10 18:23 |
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中盤にマリスやらカシオペイアやらが出てきたときには、ここまで細かく積み重ねてきた伏線が無視されてほぼSFになってしまうのではないかと危惧しましたが、最後まできちんと本格ミステリーをしていました。世界観はスケールが大きく難解で、事件に関する情報量も多くて整理していくのが大変にも関わらず、一気に読ませる力があります。この作品の全てを理解できたわけでもありませんし、こじつけのような見立てが必要なのかなどと考えると点数を付けるのは非常に難しいのですが、SFマニアであろう著者の意欲を買ってこの点数とします。 |
No.266 | 8点 | 楽園とは探偵の不在なり- 斜線堂有紀 | 2021/02/06 00:07 |
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天使崇拝や探偵の存在意義などその辺りの話は抽象的でよく分からないのですが、ミステリー部分は設定の枠内で最大限の意外性を作り出しており、良く出来ていると思いました。ただ残念な点がひとつ。それは解決編における犯人の名指しが早すぎることです。もっと引っ張ることが出来たでしょう。 |
No.265 | 7点 | 検察側の罪人- 雫井脩介 | 2021/01/31 23:59 |
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最上が私情と職責の狭間で苦悩する姿が描かれるものと思っていたところが私情一直線の大暴走で、ちょっぴり安いクライムノベルになってしまった気がします。罪の露見もあっさりとしたもので、こうなるだろうなあという予定調和で終わってしまいました。テーマは深いものがありますし熱い作品なのですが、惜しい仕上がりでした。とにかくもう少し最上に共感させてほしかったです。 |