皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
sophiaさん |
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平均点: 6.93点 | 書評数: 379件 |
No.279 | 6点 | 密室殺人ゲーム2.0- 歌野晶午 | 2021/05/08 01:52 |
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続編を作るようなものではないですね。前作との関連性が判明した中盤がピークでした。しかもこれは実質的に前作のリブートのようなものですし、各出題も前作の二番煎じです。最後どうなるのかだけを期待して読み進めましたが、またしても消化不良の終わり方でした。やはり前作だけで綺麗に完結させた方が良かったと思います。
「相当な悪魔」の犯行当日の生配信で出題者が堂々と嘘を吐いているのはいいんですかねえ。このゲームのフェア-アンフェアのラインが未だによく分からないんですよ。 |
No.278 | 7点 | スケルトン・キー- 道尾秀介 | 2021/04/22 23:50 |
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この手の作品としてはネタばらしが随分早かったので心配しましたが、失速することなく最後まで緊迫感を維持できています。ある意味でこの作品の肝だと思いますが、反転の芸が細かいですねえ(笑)綾辻行人の某作品のアレみたいなものですが大変分かりにくく、恐らく多くの読者はしばらく気付きません。そして頃合いになったところで分かりやすいやつが出てきてまさかと思いページを戻る、作者の狙い通りの読み方をさせられるでしょう。いや、久しぶりに騙されました。ジャンルはサスペンスにしましたが、取りようによってはクライムかもしれません。 |
No.277 | 5点 | 月と蟹- 道尾秀介 | 2021/04/18 00:26 |
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「球体の蛇」を純文学寄りと評しましたが、本作はもはや純文学の域ではないでしょうか。「球体の蛇」に増して心情描写が多く、終盤になってやっと面白くなってきたと思ったら特に何もなく終わりました。直木賞より芥川賞の方が合っているような気さえします。手紙の犯人など予想通りでしたが、さしたる理由もなかったことの方に驚きました。昭和の終わりの時事ネタが主人公世代の自分には懐かしく感じられたのですが、そもそもなぜ時代設定を昭和にしたのでしょうか。 |
No.276 | 6点 | 球体の蛇- 道尾秀介 | 2021/04/08 22:36 |
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読んでいる最中は「ラットマン」のような過去の事件の反転を目指した作品なのかなと思っていましたが、それとはまたちょっと違うリドルストーリーでした。一応ミステリーではありますが、主人公の心情描写がメインで純文学寄りなのですかね。「球体の蛇」というタイトルはあまり的を射ていないように思います。 |
No.275 | 6点 | 逆ソクラテス- 伊坂幸太郎 | 2021/04/06 00:34 |
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ノスタルジックで切ない前半の2つ「逆ソクラテス」「スロウではない」がよかったですね。後半の話はちょっと物騒でした。こういう連作短編集の常として、そして特に伊坂幸太郎という作家の特性を考えると、最後にそれまでの話に登場した人物を再登場させて締めるのだろうなと予想はしていたのですが、あの人物ですか。うーん、あの人物は違うんじゃないですかねえ。そんなに改心するようなことがありましたっけ。最後をもっとふさわしい人物が締めていればプラス1点というところでした。他にも複数の話に登場する先生がいますが、この先生を使い回す必然性があまり感じられませんでした。リンクをもっと効果的に使って欲しかったです。 |
No.274 | 7点 | 密室殺人ゲーム王手飛車取り- 歌野晶午 | 2021/04/02 21:30 |
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五人のキャラが立っていて掛け合いが面白かったです。オフにも舞台が広がっていくのは予想の内でしたが、それでもやはり驚きが待っていました。問題なのはやはり終わり方です。オフ会にはちょっと醒めましたし、訳の分からないゲームも不要でしょう。Q7後の独白パートでサプライズと同時に終わっていれば綺麗だったのではないでしょうか。 |
No.273 | 6点 | 蒼海館の殺人- 阿津川辰海 | 2021/03/21 18:48 |
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災害を犯行計画に取り入れてきたところなどは「紅蓮館」より優れた点なのですが、事件の全容があまりにも複雑すぎましたね。そう犯人の思惑通りに事が運ぶとは思えませんし、状況設定や推理も穴だらけ、更には攪乱戦術を用いすぎたことで結局何が真実であったのか読者の頭に残りにくくなってしまったと思います。そして犯人の意外性を出そうとし過ぎたあまり、問題編と回答編で完全に別の人格になってしまっています。中盤あたりでは9点、10点の予感を感じていただけに残念です。なお今作で葛城は前作の痛手から立ち直ったという体ですが、むしろ逆にもっと深い傷を負ったのではないですか?
以下ネタバレでこの作品の大きな傷(?) 196ページの中ほどの文章で、あの人物の身代わりの線は完全に否定してあるように思えるのですが。 |
No.272 | 6点 | 雨の降る日は学校に行かない- 相沢沙呼 | 2021/03/15 23:55 |
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「教室に並んだ背表紙」が割とよかったので、似た系統と思われる本作にも手を出してみましたが、こちらは更にミステリー要素がありません。そして「教室に並んだ背表紙」のように各エピソードの関連性があまりないので(一部を除き舞台が同じ学校なのかも不明)、連作短編集としての厚みという点では落ちますかね。ただ、各タイトルを聞いて話の中身を思い出せるのはこっちだろうなと思います。「死にたいノート」と「プリーツ・カースト」の卵の殻にヒビが入ったような終わり方が好きです。 |
No.271 | 5点 | 月下美人を待つ庭で 猫丸先輩の妄言- 倉知淳 | 2021/03/11 00:25 |
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●ねこちゃんパズル 4点・・・話の中身のなさに驚き。八木沢(&みゆき)を登場させたかっただけでしょうか。
●恐怖の一枚 5点・・・猫丸先輩の推理通りだと状況設定に無理があるような。人物関係をひねらない方がホラーに振り切れたのではと考えたりもします。 ●ついているきみへ 7点・・・この短編集の中では一番面白いですが、ラジオの公開収録の設定にもっと意味があってほしかったです。 ●海の勇者 4点・・・何も推理していないです。 ●月下美人を待つ庭で 6点・・・真相は取るに足りないものですが、しみじみとした読後感の作品です。 このシリーズは大好きなんですが、甘めに評価してもこんなものですね。猫丸先輩ってここまでおしゃべりでしたっけ。それでミステリーとしての中身の薄さを補おうとしている感じを受けました。前作から間隔が15年も空いたせいで時代設定に齟齬が生じてしまっていますが、そこは気にしない方がいいのでしょうね。 |
No.270 | 7点 | あと十五秒で死ぬ- 榊林銘 | 2021/03/02 23:21 |
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●十五秒 8点・・・被害者と犯人の攻防を視点の切り替えのみならず、時系列の操作も用いて意外な着地点へ誘った傑作。
●このあと衝撃の結末が 5点・・・構成が凝り過ぎていていまいち入り込めませんでした。 ●不眠症 5点・・・ガラッと趣向を変えてヒューマンドラマ寄りにしてきましたが、後味がよくない。もっと希望を感じさせるオチにしてほしかったです。 ●首が取れても死なない僕らの首無殺人事件 8点・・・当初思っていたよりもコミカルな話で楽しく読めました。 個人的に評価の二分される四編となりました。「このあと衝撃の結末が」は作者が作った複雑な迷路をゴールまでクネクネ引っ張って行かれているようで疲れました。推理も予定調和かつ牽強付会な感じがします。特に電話番号の件にもっと根拠が欲しかったです。「首が取れても死なない僕らの首無殺人事件」はミステリーとしても友情物語としても面白かったです。××の指紋は採取してなかったのかという疑問はありますが。しかしまあ、この島の犯罪捜査において指紋やDNAに意味はあまりなさそうですね(笑) |
No.269 | 7点 | 教室に並んだ背表紙- 相沢沙呼 | 2021/02/21 21:36 |
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中学校の図書室を舞台にした連作短編です。毎話主人公が変わり、それぞれに悩みを抱えて図書室を訪れます。ミステリー色はほぼありませんが、司書の「しおり先生」の言葉が心に染みるいい作品だと思います。以前登場した人物を再び違う視点から描く構造も効いています。しかし女子校かと思うぐらい、ほとんど女子しか登場しません(笑) |
No.268 | 10点 | 孤島の来訪者- 方丈貴恵 | 2021/02/18 00:13 |
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まずこの世界観で想起するのは「ターミネーター」「プレデター」「寄生獣」あたりです。前作「時空旅行者の砂時計」もそうでしたが、ともすれば何でもありになってしまいかねないSF要素に制約を設けて、本格ミステリーの枠に収めるのに長けています。話も前作ほどの難解さはなく、それでいてサバイバルゲームの要素も増え一層引き込まれました。「読者への挑戦」の前にちょっと考えてみましたが、断片的には当てることの出来た部分もありましたが全容解明はとても無理でした。いや、よく練られたプロットで伏線の配置も見事です。敢えて挙げる難点は、人類の存亡まで懸かった事態の深刻さの前に、主人公の復讐計画が霞んでしまったことぐらいでしょうか。前作にはサービスしての9点を付けましたが、今作は正真正銘の10点を差し上げます。 |
No.267 | 9点 | 時空旅行者の砂時計- 方丈貴恵 | 2021/02/10 18:23 |
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中盤にマリスやらカシオペイアやらが出てきたときには、ここまで細かく積み重ねてきた伏線が無視されてほぼSFになってしまうのではないかと危惧しましたが、最後まできちんと本格ミステリーをしていました。世界観はスケールが大きく難解で、事件に関する情報量も多くて整理していくのが大変にも関わらず、一気に読ませる力があります。この作品の全てを理解できたわけでもありませんし、こじつけのような見立てが必要なのかなどと考えると点数を付けるのは非常に難しいのですが、SFマニアであろう著者の意欲を買ってこの点数とします。 |
No.266 | 8点 | 楽園とは探偵の不在なり- 斜線堂有紀 | 2021/02/06 00:07 |
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天使崇拝や探偵の存在意義などその辺りの話は抽象的でよく分からないのですが、ミステリー部分は設定の枠内で最大限の意外性を作り出しており、良く出来ていると思いました。ただ残念な点がひとつ。それは解決編における犯人の名指しが早すぎることです。もっと引っ張ることが出来たでしょう。 |
No.265 | 7点 | 検察側の罪人- 雫井脩介 | 2021/01/31 23:59 |
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最上が私情と職責の狭間で苦悩する姿が描かれるものと思っていたところが私情一直線の大暴走で、ちょっぴり安いクライムノベルになってしまった気がします。罪の露見もあっさりとしたもので、こうなるだろうなあという予定調和で終わってしまいました。テーマは深いものがありますし熱い作品なのですが、惜しい仕上がりでした。とにかくもう少し最上に共感させてほしかったです。 |
No.264 | 8点 | 蟬かえる - 櫻田智也 | 2021/01/18 17:08 |
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●蝉かえる 9点・・・モチーフは2016年の熊本地震ですかね。
●コマチグモ 7点・・・よく出来た時系列パズル。 ●彼方の甲虫 8点・・・架空の宗教の設定が上手い。 ●ホタル計画 8点・・・そいつの方ですか(笑) ●サブサハラの蠅 7点・・・メイントリックはそう目新しいものではないですけども。 前作を超える粒ぞろいの作品群。表題作は殊に抜きん出ています。土地の信仰や風習、災害ボランティア活動の在り方など様々な要素が絡み合って謎を作り、ドラマを作っています。他四作も良かったのですが、最初の話が良すぎたというのはあるかもしれません。亜愛一郎とは違い魞沢には自我の描写が増えてきましたが、今後このシリーズをどう展開させていくのか楽しみです。 |
No.263 | 7点 | サーチライトと誘蛾灯- 櫻田智也 | 2021/01/11 02:10 |
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●サーチライトと誘蛾灯 6点
●ホバリング・バタフライ 7点 ●ナナフシの夜 6点 ●火事と標本 6点 ●アドベントの繭 7点 泡坂妻夫の亜愛一郎シリーズへのオマージュの念は否が応でも伝わってきます。神出鬼没のとぼけた探偵のキャラ造形、随所に軽妙なユーモアを交えているのも同じです。そんな中で事件と虫を毎回絡めているのは著者ならではのプラスαです。ミステリーとしての出来はどの話も大差ないのですが、そのプラスαでしみじみとした読後感の作品群に仕上がっています。特に「ホバリング・バタフライ」と「アドベントの繭」の2編が気に入りました。この分なら「蝉かえる」にも期待できそうです。 |
No.262 | 7点 | アウターQ 弱小Webマガジンの事件簿- 澤村伊智 | 2021/01/06 17:55 |
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全7話から成る連作短編集。初めの5話はあまり面白くありませんし、鬱陶しい喋り方のキャラにも苛つかせられますが、途中で投げ出してはいけません。この作品はラスト2話のための作品であり、途中のエピソードを伏線として使うという、連作短編集の見本のような作りです。終わりよければ全てよしで1点プラスしておきます。しかしこれジャンルは何でしょう。ホラーっぽい雰囲気はありますが、日常の謎でしょうか。 |
No.261 | 8点 | 揺籠のアディポクル- 市川憂人 | 2020/12/08 19:07 |
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事件を契機に隔離病棟の主人公が動き始め、外界を知ることで真実が明らかになる構成です。引き込まれます。M・ナイト・シャマラン監督の映画のようです。殺人事件の真相は読者が色々考える内の一つでしょう。何せ登場人物が四人しかいませんから。しかしこの作品の肝は犯人当てではありません。嵐のせいで何が起こったのか、そのせいで登場人物の運命がどう変わったのか、そして何を考えたのかです。初めは9点ぐらい付けようかと思ったのですが、マイナス1点したのは、主人公の××××がちょっと都合よすぎるかなと思ったからです。それでも退廃的な世界観においてのラストは切なく美しいです。美しすぎました。 |
No.260 | 7点 | この本を盗む者は- 深緑野分 | 2020/11/30 17:36 |
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相変わらずの描写の細かさの上、今回はファンタジーなので、斜め読みの技術と想像力が要求されるというなかなか難しいことになっています。何でもありの魔術世界で、なぜそうなるのかなどは深く考えずに雰囲気を味わうというのがこの作品の正しい楽しみ方なのかなと思います。そうです、これは「千と千尋の神隠し」です。真白の役割や正体はハクに通じるものがありますしね。正直に言って一つ一つのエピソードはそう面白いものではないので、この作品に対する評価は全体の骨組みに対するものになり、特に最後に明かされるブック・カースの正体に驚けるかどうかに懸かってくると思います。作者本人の弁の通り自由すぎる作品なので、ミステリーとしての評価はそれ程でもありませんが、読後感のいい作品でした。でも、本嫌いの人にはあまり読ませない方がいいかもしれません(笑) |