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sophiaさん
平均点: 6.95点 書評数: 358件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.338 8点 清里高原殺人別荘- 梶龍雄 2023/07/10 19:18
ネタバレあり

「梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション」と仰々しく銘打たれた本作。こんなに面白い作品がよく今まで未文庫化だったものです。別荘(ビラ)に最初からいた秋江と闖入者の勝浦グループの双方が秘密を抱えており、解決編で2つのサプライズが味わえます。目ぼしいトリックはそう使われていないのですが、唯一と言ってもいいとあるトリックが明かされることで犯人の抱える秘密も明らかになるという技巧が冴えます。また本作は本格ミステリーと恋愛小説が融合しているとも言えるでしょう。難点を挙げるならば、章タイトルである程度結末が予想できてしまったことです。それと序盤から頻繁に名前が出る「川光」という人が何者なのかよく分からなかったので早めに説明してほしかったです。いやしかし、勝浦の女性蔑視がすごいことと呉殺しの動機が酷いこと(笑)

No.337 9点 ヨモツイクサ- 知念実希人 2023/07/02 22:04
ネタバレあり

「エイリアン2」様のパニックホラーとしては大変面白かったのですが、ミステリーの観点から言うと、行動を支配されるという設定にした以上何でもありになってしまいましたし、ヒントが多かったので終盤の丸々1ページを使った満を持した真相開示にも「やっぱりそうなのね」という気持ちが勝ってそこまで驚けませんでした。とはいえ××であることまでは読めませんでしたし、改めて章タイトルを見返すとその真の意味が分かる仕組みが優れており戦慄が走ります。このギミックは目次で「エイリアン2」を思い浮かべた私のような人間に特に有効でしょう。それ故にこの話は第三章で終わっていれば奇麗だったのではないかと思うのですが、エピローグは必要だったでしょうか。

追記 再読すると作者が整合性にとても気を遣っている作品だと分かりましたので1点プラスします。

No.336 8点 逆転美人- 藤崎翔 2023/06/13 22:45
若干ネタバレ気味です

以前某所でこの作品のネタバレ(誰々の何々という作品と同じトリックが使われているという)を見てしまい、その作品を既読の私は興味半減の状態で読むことになったのですが、それでも最後まで気付きませんでした。まあミステリーなんて騙されるために読んでいるようなものなので、まだしも幸運だったと言えるでしょう。前例(遥か昔ではあります)があるとはいえやはりよく頑張りましたし、この作品はこの作品でトリックの必然性が高いので賞賛に値すると思います。特に畳みかけの二つ目には参りましたよ。ただ「紙の本でしかできないトリック」という煽り文句も見かけましたが、そんなことはないですよね。

No.335 6点 七人の証人- 西村京太郎 2023/06/01 17:39
ネタバレあり

無駄な描写を極力排したプロット特化型の文章が大変読みやすいです。これは量産型作家の長所ですね。それで内容ですが、これはちょっと簡単でしたね。1年前の事件に真犯人がいると仮定すると、明らかに矛盾した証言をしている人物がいますし、凶器を手に入れることが出来た人物も限られますからね。これはミステリー小説というよりも推理クイズの域であって、トリックらしいトリックもないですし、文章の読みやすさと設定の面白さを加味しても6点が精々です。しかし「殺しの双曲線」もそうでしたが、最後唐突に終わるんですね。「殺しの双曲線」の方はそれが余白を生むという効果を上げていたと思いますが、本作の方は投げ出したように感じられました。

No.334 7点 栞と噓の季節- 米澤穂信 2023/05/16 23:58
ネタバレあり

まず、前作と同じく連作短編集だと思って読み始めたら長編で不意を突かれました(笑)タイトルに偽りなく主要人物がみんな嘘を抱えており、その嘘が暴かれる度に真相に近付いていくという趣向がよかったです。ラストに明かされる配り手捜しの真の動機にも唸らされました。事件のスケールが大きくなった割に結局は身近な人間ばかりで固まっているところがご都合主義と言えばそうなのですけど。

No.333 6点 キングを探せ- 法月綸太郎 2023/05/02 23:06
ネタバレあり

捜査陣が交換殺人に気付いてからそれが四重であることにまで思い至る過程や、中盤の脅迫状を起点とする捜査陣と犯人グループの攻防の図は凝っていて面白いはずなのですが、終盤で付いて行けなくなってしまいました。著者の過去作「怪盗グリフィン、絶体絶命」もやや複雑な話でしたが、あちらは考える楽しさというものがありました。ですので比較してマイナス1点かなあと。

No.332 8点 雷神- 道尾秀介 2023/04/25 00:07
ネタバレあり

二つの大きな取り違えがストーリーの肝となった作品。何と言っても「二本の線」のミスリードが秀逸で、完全に誤った読みをさせられました。途中に挿入された直筆の手紙が中間的な答え合わせの役割を果たしています。著者が過去作「いけない」でやろうとしたことは、本作において完成したのですね。登場人物の心情描写も作品の物悲しい雰囲気とマッチいていて素晴らしい。最後の最後の毒がなければもうプラス1点したかもしれません。どうしようもなく救いのない話だったので、せめて最後ぐらいは希望を感じさせて欲しかったのです。

No.331 8点 屋上のテロリスト- 知念実希人 2023/04/18 23:25
クライムノベルというかテロ小説としては意外とよく出来ていて面白いけど、この物語において主人公の男子高校生が存在する意味はあるのかと思いながら読んでいました。この点がまさに評価の分かれ目だったのですが、最後に上手くまとめてくれましたのでプラス1点します。

No.330 7点 灰かぶりの夕海- 市川憂人 2023/04/11 23:25
ネタバレあり

「揺籠のアディポクル」と似通っていますが、どこが似通っているのか書くと致命的なネタバレになってしまうのでさすがに書けません。これはみんな騙されるのではないでしょうか。とは言え騙しを成立させるために主人公が情報をかなりの部分隠しているところが文句なしの高評価とはいかなかった所以です。プロローグで語られている前置きも限りなくアウトに近いですし。しかしながら、そのような難点もラストシーンの感動で許しちゃおうかなあと悩むところも「揺籠のアディポクル」と同じです。特に今作は新海誠監督の映画みたいですね、うん。
余談ですが、2021年時点で20歳の主人公が千円札のことを野口英世ではなく夏目漱石と表現することに違和感があったのですが、特に伏線ではなかったようですね。

No.329 7点 サクリファイス- 近藤史恵 2023/03/22 00:00
必要最低限の風景描写しかされていませんし、物語自体もコンパクトにまとまっていて読みやすかったです。過去の事件を絡めて不穏な空気を醸成していくのが上手く、サスペンスとしても読めたのですが、やはり他の選手のためにそこまで自己犠牲の精神を持てるものなのかという大きな疑問は付きまといます。心変わりするに至った経緯をもっと描いてくれると得心がいったかもしれません。

No.328 7点 十字架のカルテ- 知念実希人 2023/03/14 18:53
十字架から逃れようとする者、十字架を背負おうとする者、被疑者の視点、家族の視点、実に色んなパターンが網羅されていて、精神科ミステリーの王道ともいえる連作短編集です。特に最終話のどんでん返しにはぞっとさせられました。注文を付けるとするならば、凛だけではなく、影山が精神科医を志した理由なども語られると物語にもっと深みが出たのかなと思います。

No.327 7点 君のクイズ- 小川哲 2023/01/22 23:44
ネタバレあり

構成はどうしてもアカデミー賞映画「スラムドッグ$ミリオネア」がちらつきましたが、真相は真逆になっているのかなと思いました。クイズという競技の戦い方やプレイヤーたちの矜持なども描かれており、200ページ足らずの作品とは思えないほどの読み応えがあったのですが、「本庄絆は最終問題でなぜあのような答え方をしたのか」という最大の謎の答えが想像を超えてこなかった感じです。

No.326 4点 11 eleven - 津原泰水 2022/11/21 23:57
先日訃報が流れた方。筆力が評価されている方のようですが、私にとっては異様に読みにくい文体で、斜め読みしない限りとても読み進められませんでした。内容も説明不足で起承転結のはっきりしない、言っては何ですが雰囲気だけの独善的なエログロ作品集で、読む人をかなり選ぶ作風だと思われました。幻想的な11の短編と聞き及び、恒川光太郎の「白昼夢の森の少女」のようなものを期待して手に取ったのですが、こうも違いますか。最後の「土の枕」のようなまともな話がもっと読みたかったです。

No.325 6点 此の世の果ての殺人- 荒木あかね 2022/10/23 20:13
世界の滅亡を仕方のないものと受け入れ残りの人生を淡々と生きるハルと、この期に及んでもなお正義の暴走に歯止めがかからないイサガワのコンビには引き付けられるものがありますし、文章も読みやすいのですが、ただいつになったら面白くなるのかと思っているうちに終わってしまった感があります。私のように派手なギミックを期待して読むとがっかりするかもしれない渋い作品です。ミステリーではなく純文学だと思って読んだのなら違う読後感を持ったかもしれません。偶然が幾重にも積み重なって出来たストーリーも賛否が分かれるところだと思います。

No.324 9点 方舟- 夕木春央 2022/09/28 00:04
ネタバレあり

クローズドサークルの出来方も凝っていますし、死地からの脱出と殺人事件の真相究明に相関関係があって、「紅蓮館の殺人」のパワーアップ版という印象を受けました。探偵役の解決も至って論理的で、その時点で7点あげられました。しかしながら各所で絶賛されるほどの作品ではないかなあなどと考えておりましたが、エピローグで脳に雷が落ちました。「全てが反転」というのはまさにこの作品のためにある言葉かと思います。そしてこの作品のなお優れているのは全ては解説しなかったことです。読み返すと犯人の随所の言動が違う意味を持って浮かび上がり一層怖さを感じます。10点があげられないのはたった一点。浸水ペースが結構遅いので、救助を呼んでくる時間があったのではないかという点です。ですがそれを差し引いても論理とどんでん返しの融合した傑作であることは間違いがなく、2022年にもなってまだこのような斬新で鳥肌の立つようなクローズドサークルものが読めることを幸せに思います。

No.323 8点 俺ではない炎上- 浅倉秋成 2022/09/10 00:19
ネタバレあり

SNSでの成りすましによって殺人犯の汚名を着せられるという、浅倉秋成らしくはあるのですが、安っぽい邦画のような題材に手を出したなあと読む前は思っていました。それでもさすがのリーダビリティ。視点人物の入れ替わりのスパンが短くてテンポもよく、ページをめくる手が止まりませんでした。第三者と思われるいわゆるツイ民視点から始めたのもテーマ的によかったと思います。
この作品の目玉である、終盤に待つ構図のひっくり返しは綺麗に決まったと思います。この作者はどんどん技を身に付けていっていますね。ある人物の台詞、「このままだと×××な×××の手によって殺されてしまう」というミスリードだけが引っかかりはするのですけれども。真犯人の正体に驚きと同時に強い違和感(あの人物がこんなことしたの?)が感じられてしまったのもマイナス要素ではありますが、逃亡サスペンスとして総じて出来がよかったので高評価させてもらいました。

No.322 7点 #真相をお話しします- 結城真一郎 2022/09/01 00:38
ネタバレあり

●惨者面談 7点
●ヤリモク 6点
●パンドラ 6点
●三角奸計 7点
●#拡散希望 7点

現代の世相を取り入れたダークな短編集。決して面白くないわけではないのですが、何となく展開が読めてしまう作品が多いです。「三角奸計」は一見傑作のように思えたのですが、知っているかどうかの確認ならば名前を出したり写真を送ったりしない方がよかったのではないかと思い減点。「#拡散希望」は映画「トゥルーマン・ショー」を思い出しましたね。この短編集の中では一番意外性があったのですが、アリバイトリックの粗さで減点。全体的なことを言うと、マッチングアプリやSNSやリモート飲み会やYouTubeなどインターネットに関するものが多い点、さらに5作品全てが現在と過去を織り交ぜる構成なので、もっとバリエーションが欲しかったところです。

No.321 7点 スノーホワイト 名探偵三途川理と少女の鏡は千の目を持つ - 森川智喜 2022/08/23 21:15
三途川による鏡の使い方講座といった具合。特にママエの事務所に乗り込んでからの使い方は目から鱗でした。ほぼワンサイドゲームなところは前作「キャットフード」と同じですね(今回も緋山君の状況理解の早さに助けられた?)。前作に負けず劣らず面白かったのですが、本格ミステリ大賞受賞作という肩書きは不必要にハードルを上げてしまった気がします。なお、三途川はもっと効率的に鏡を使えたはず論争については、言葉は荒いですが平和マンさんの意見に賛同します。第一部でイングラムがママエに対して口を酸っぱくして「少しは自分の頭を使いなよ」と諫めていたのが、鏡を持ちつつ自分の頭で考えたい三途川との対比という点で効果を上げていると思います。鏡に最適解を聞いたところで、その実行は人の手によるものであり、成功することまで保証されるわけではありませんしね。

No.320 7点 キャットフード 名探偵三途川理と注文の多い館の殺人- 森川智喜 2022/07/27 00:16
本格ミステリ大賞受賞作「スノーホワイト」を読む前に前作を軽く読んでおこうと手を伸ばしただけだったのですが、設定が独特な上に論理クイズのようで割と楽しめました。ただ、本作はウィリーと三途川理の頭脳バトルといった趣ですが、ウィリーは終始後手に回っていてほぼワンサイドゲームじゃないですか?(まあ使える駒数が多くて三途川が断然有利なのですけど)そしてメルヘンかつコミカルな雰囲気がだんだん薄れてガッチリした殺し合いになっていき後味が悪い上にラストがちょっと分かりにくいですね。しかしながらアクの強いヒール役の探偵が衝撃的で、「スノーホワイト」を読むのがより楽しみになりました。

No.319 4点 六番目の小夜子- 恩田陸 2022/07/23 22:41
びっくりするぐらい期待外れでした。伏線を逐一メモしていた自分を可哀想に思いました(笑)ホラーなので全てに説明をつける必要はないと私は思いますが、訳の分からなさが怖さを大きく上回ってしまったのは大問題ではないでしょうか(怖かったのは野犬の群れだけ?)。
筆力にも問題があるように思います。雅子と沙世子が仲良くなる過程が全く描かれておらず違和感がありましたし、沙世子の内面だけは描かないのかと思いきや描いてしまっていたり、他にもキーパーソンなのに存在感のない担任などさすがデビュー作で色々と粗いなあと思いました(これでも加筆修正したというから驚きです)。

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sophiaさん
ひとこと
世評の高い物を中心に読んでいっています。点数はミステリーとしてのみならず、読み物として面白いかどうかを考慮して付けています。ジグソーパズルのような複雑な作品は苦手です。
好きな作家
米澤穂信 今村昌弘 方丈貴恵 知念実希人
採点傾向
平均点: 6.95点   採点数: 358件
採点の多い作家(TOP10)
東野圭吾(31)
米澤穂信(16)
道尾秀介(14)
綾辻行人(13)
伊坂幸太郎(13)
島田荘司(12)
倉知淳(10)
泡坂妻夫(9)
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