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[ 本格/新本格 ]
ぼくらは回収しない
真門浩平 出版月: 2024年03月 平均: 7.00点 書評数: 6件

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東京創元社
2024年03月

No.6 7点 ALFA 2024/07/22 09:10
本格、青春ミステリー、日常の謎など、多彩な5短編。

お気に入りはまず「街頭インタビュー」。一件落着のあとに本当の主題が立ち現れる鮮やかなプロットで、社会派の味わいもある良作。
そして「追想の家」。ごくささやかな日常の謎だが、骨格は本格ミステリー。読後感もいい。
「カエル殺し」はホワイダニットの問題作だが、動機が動機だけに更なる説得力が欲しかった。そこが補強されていれば名作になったはず。
敏感すぎる名探偵速水士郎君はシリーズで活躍してほしいなあ。一ノ瀬をワトソン役にして。

どれも精妙なプロットと整理された文体で楽しめる。
ただわずかな雑味もエグ味もないミネラルウォーターのような文章は、リアリティを少し希薄にする。
「カエル殺し」と「ルナティック・レトリーバー」はいずれも高度なホワイダニットを問う作品。フーダニットやハウダニットに比べて、より深く人間の持つ醜さや矛盾を描かねばならない、とすればもう少し違うアプローチが必要かもしれない。

No.5 7点 sophia 2024/07/19 00:05
これは多くの人が7点評価なのも頷ける実に手堅い独立短編集ですね。純粋な謎解きの部分も優れていますが、各短編にはそれぞれ特色があります。推理のアプローチ法が鍵となった「街頭インタビュー」「速水士郎を追いかけて」。動機が鍵となった「カエル殺し」。過去と未来にテーマを置いた「追想の家」。そして最後の「ルナティック・レトリーバー」はこの3つの集大成と言える作品でした。若手らしからぬ構成力を持っており、今後に期待できる方だと感じました。

No.4 7点 人並由真 2024/07/18 04:41
(ネタバレなし)
 前著『サンタクロース』の評で
「この作者、これ一冊で消えそうな気もしないでもない。」
 などと失敬なことを書いたら、その翌月に本書が出た(汗)。
 真門先生、すみません。

 全5編の中短編のうち4つまでが書き下ろしというのにも軽く驚いたが、それらを含めて全部がノンシリーズだというのにも、さらにいささかビックリ。
 新人作家がこういう形質の著作を紡ぐ場合、なんとなく、5編のうち少なくとも2本くらいは、同じ主人公の連作にしそうな気配があるんだけどね。評者の勝手な予断かもしれんが。

 ほとんどの作品が、二世代若い連城の初期短編みたいな「心のいびつさ」がモチーフにからむ話で興味深かった。
 「追想の家」のみがもっともスタンダードなミステリだと思ったが、これはこれで胸を打つ。
 皆さんに評判のよい(自分も面白く読めたが)『カエル殺し』にしても、最後の『ルナティック・レトリーバー』にしても、雑な生き方をしている自分からすれば(中略)じゃんとも思ったが、読み手の心の中でそういうイクスキューズを手繰り寄せる分、やはり犯人の行動の原動には、ある種の説得力が逆説的にあるのだろう。
 
 ノンシリーズ編ながら一本一本に歯応えがあるので、最初の1~2本を読んだ時点では、これは胃にもたれて、一冊読み終えるまでに時間がかかるだろうな、と思った。
 しかし実際には、リーダビリティの異常に高い文章のサクサク感、そして次の話はどんなだろ? という興味に引っ張られてあっという間に通読してしまった。
 
 こんなレベルの作品、そうそう量産できるわけないとは思うので、作者には良いペースで、今後も執筆活動を続けていっていただきたい。

No.3 7点 メルカトル 2024/07/13 22:19
数十年に一度の日食が起きた日、名門大学の学生寮で女子学生が亡くなった。密室状態の現場から自殺と考えられたが、小説家としても活躍し、才気溢れた彼女が死を選ぶだろうか?
三年間をともに過ごしながら、孤高の存在だった彼女と理解し合えないまま二度と会えなくなったことに思い至った寮生たちは、独自に事件を調べ始める――。第十九回ミステリーズ!新人賞受賞作「ルナティック・レトリーバー」を含む五編を収録。大胆なトリックと繊細な心理描写で注目を集め、新人賞二冠を達成した新鋭による、鮮烈な独立作品集。
Amazon内容紹介より。

本格ミステリでもあり青春ミステリでもあるノンシリーズの短編集。
個人的なベストは『街頭インタビュー』です。探偵役の一方通行では終わらない、その後の意外な展開に驚きを隠せませんでした。正にぼくらは回収しないって事なんですね。それは最終話『ルナティック・レトリーバー』にもよく表れています。こちらも負けず劣らず伏線を見事に回収したかに見せて、実は・・・という逆転の構造が光っています。

とは言え、事件のスケールの大きさやトリックの斬新さには欠けます。その分気の利いた皮肉な結末が訪れるのはほぼ全てに共通しています。『カエル殺し』の動機は過去に読んだある作品に近いものがありました。しかし、それはお前が考える事ではないだろうとの思いが強く、やや説得力に欠けるのが残念です。
あと、気になったのが『速水士郎を追いかけて』に出て来るHSPのことですね。何となく自分にも当て嵌まるところがある気がして、もしかしてと思ったりしてちょっと不安になりました。私には探偵の素質はありませんけどね、勿論。

No.2 7点 まさむね 2024/06/10 21:35
 5作品が収録された短編集。どの短編も無駄に長尺にせず極めて読みやすい流れの中、プロットに趣向を凝らしていて好印象。
 ベストは、お笑い芸人を扱った「カエル殺し」で、フーとホワイの二重奏。テーマも興味深い。第19回ミステリーズ!新人賞受賞作「ルナティック・レトリーバー」も良作。「ぼくらは回収しない」という短編集のタイトルがじんわりと響きます。

No.1 7点 文生 2024/05/09 17:06
全5編の短編集。
徹底したロジックのこだわりはデビュー作の『バイバイ、サンタクロース 麻坂家の双子探偵』と同様ですが、小学生の思考があまりにも大人びていて気持ち悪ささえ覚えたバイバイサンタクロースと比べると小説としてはこちらの方が断然読みやすかったです。本作の最大の特徴は現代の社会問題を謎解きに絡めた一種の社会派本格ミステリになっている点で、純粋な事件の謎とその背景にある謎の二段構えのプロットが良くできています。なかでも個人的に一番気に入っているのがお笑い芸人の世界を描いた「カエル殺し」です。意外な手掛かりから始まる推理がユニークですし、蛙化現象をテーマにした動機に唸らされてしまいました。
全体的に、本格としてのインパクトはバイバイサンタクロースの方が上ですが、こちらもなかなかの良作揃いです。


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真門浩平
2024年03月
ぼくらは回収しない
平均:7.00 / 書評数:6
2023年12月
バイバイ、サンタクロース 麻坂家の双子探偵
平均:7.50 / 書評数:2