皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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弾十六さん |
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平均点: 6.13点 | 書評数: 522件 |
No.502 | 5点 | 電話の声- ジョン・ロード | 2025/04/29 07:38 |
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1948年出版。プリーストリー博士もの。国会図書館デジタルコレクションで読みました。原書を入手できず翻訳の質を正確に判断できないが鮎川先生なら大丈夫だろう。
犯罪のディテールがとても良いなあ、と思ったら、実在のジュリア・ウオレス殺人事件(1931)をほぼそのまま忠実になぞっている。著者前書きにも「有名な殺人事件の裁判」より、とあった。この事件の分析が、セイヤーズ「ジュリア・ウォレス殺し」(『ピーター卿の事件簿Ⅱ 顔のない男』に収録)として邦訳あり。手っ取り早く知りたい方はWebサイト『殺人博物館』の「ウォーレス事件」を参照されたい。 実話準拠なので、作者が詳しい説明無しで唐突な事実の提示もある。電話の「Aボタン」(p62)についてはWebサイト『十六 x 二十』「エービー シャラララ」参照。 作中現在は「1月26日月曜日」ということで、1931年、1942年、1948年の可能性あり。実際の事件ではこの日付が「1月19日月曜日」である。何で微妙にずらしたんだろう。 実話準拠だと知らなかったので、ジョン・ロードなかなかやるじゃん!と思ったが、性格づけとかディテールが借り物ならオリジナル作品ではここまでやれるかな? ミステリとしてはちょっと微妙。プリーストリー博士が未解決事件に挑戦、という事?それにしちゃ解決の仕方が不思議なんだよね… ああそうそう。英国では誰もが知ってる未解決事件なので、それを知らない日本人じゃ評価が低いよね!という説があるらしいけど、同時代の新聞書評(The Scotsman 1948-08-19)では「ウォレス事件」への言及が全くなかったよ。サンプル1件なので、この書評家だけだったのかも、だけどね。 トリビアは後ほど。 |
No.501 | 8点 | 列のなかの男―グラント警部最初の事件- ジョセフィン・テイ | 2025/04/29 07:09 |
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1929年出版。翻訳は引っかかるところがちょっとあった。読みにくい文章がところどころ見受けられるが、ちょっと素直じゃないテイさんの表現をわかりやすい日本語に上手く変換できてないだけである。全体的に意味をちゃんと捉えてる良い翻訳だと思う。
面白い小説。記述も時々面白いテクニックを使っている。物語の流れ、登場する多くのキャラ描写が非常に良い。(第4章、第7章、第8章、第16章のシチュエーションと登場人物を見よ!) 大ネタも好み。クロフツやブッシュが好きな人におすすめ。 ミステリとして本格を期待するとハズレだろう。でも、私にはとても良い小説だった。最近、ヘッポコ工夫のミステリに飽き飽きしてるので、こういうのが良い。無理をすると全体が台無しになる。 ところで読んでて急に思ったのだが、スコットランド系って警官に多かったのかな? (今更ですか?) 本書のグラント警部もロラックのマクドナルド警部もスコットランド系。米国警官にアイルランド系が多い、というのは聞いたことがあるけど。後でちょっと調べてみよう。警官というあんまり歓迎されない職業にマイノリティが多くなるのは納得がいく話だと思う。 テイさんは元々劇作志望だったようだ。本書はMethuenの企画したミステリ・コンテスト(賞金250ポンド)に応募したもの。賞金がなかったら探偵小説なんて書かなかった、とテイさんは後年話している。当時はそう言うコンテストばやりだったのだ。劇作ではリチャード2世の戯曲Richard of Bordeaux(1933)が当たって主演のジョン・ギールグッドがスターになり、演劇界で注目を浴びたが、その後はパッとしなかった。しばらく戯曲に注力していたのでミステリ第二作『ロウソクのために一シリングを』(1936)まで時間があいているのだろう。本作にも冒頭に劇場が出てくる。『一シリング』や『美の秘密』にも女優が登場する。 1925年からGordon Daviot名義でデビュー。本作もDaviot名義。1936年の『一シリング』からミステリ関係ではJosephine Tey名義を使っている。戯曲などミステリ以外は後年でもDaviot名義を使い続けている。 以下トリビア。 作中現在はp91,p118,p123から三月十三日火曜日が冒頭の場面。1928年が該当。 英国消費者物価指数基準1928/2025(80.28倍)で£1=15366円。1s.= 768円、1d.=64円。 p(該当なし) 献辞 TO BRISENA / WHO ACTUALLY WROTE IT◆ 気になる表現。アイディアを提供してくれた人なのかな?(追記: WebサイトLeaves&Pagesによるとテイさんのタイプライターの愛称とのこと!そして本作は1959年(テイさんの死後)初めてThe Man in the Queue by Josephine Teyとして出版されたようだ) p1 三月(March) p2 『知らなかったの?』(Didn’t You Know?) p2 一階正面席(ストール)と二階正面席(ドレスサークル) The stalls and the circle p2 歯磨きの広告(dentifrice advertisements) p3 『あなたがきたから』(Because you came to me)◆ Guy d'Hardelot作詞作曲の"Parce que"にEdward Teschemacherが英語の歌詞をつけた"Because"(1902)の歌い出し。 p4 整列本能(place-keeping instincts)◆ イングランド人のもので スコットランド人にはないらしい。 p4 あえてイングランド人と言おう(I say Englishman advisedly)◆ ここですでに「私」が登場している。ノックスでも地の文に「私」が急に出てきて驚いた記憶あり。ここは翻訳でも「私はあえていうのだが…」と強調した方が良かった。 p5 窓口(ギシェイ) guichet◆ フランス語式だとギシェ。劇場の切符売り場 p5 今日、群衆の中で人にお節介を焼かないのは、カメレオンの七変化と同じくらい人間の本能となっている(Minding one’s own business in a crowd today is as much an instinct of self-preservation as a chameleon’s versatility)◆ 「防衛本能」としないとカメレオンと繋がらない p13 小銭◆ 原文だけ提示。two half-crowns, two sixpences, a shilling, four pennies, and a half-penny p13 クリーニング店のつけた印(no laundry mark)◆ これ、よく出てくるけど、どんな感じのなんだろう。写真が見てみたい。 p13 拳銃は完全に充填されていた(The revolver was fully loaded)◆ 「完全に」ではなく「全部」。趣旨は「撃った形跡なし」リボルバーと訳してほしいなあ。 p15 軍用拳銃(service revolver)◆ ありふれたもの、と書かれているのでWebley Revolverなのだろう。 p16 イギリス人が使う凶器(his habitual weapon)◆ 面白い意見 p16 こん棒(bludgeon) p36 私服刑事は、警部はダニーから情報がほしいだけだとは思っていなかった(The plain-clothes man did not think that the inspector wanted anything but some information from him)◆ not... anything... but なので「何らかの情報を得ること以外何も望んでいないと考えていた」 p41 はい。色黒で(Yes; he was dark)◆ 黒髪で。この翻訳者さんも浅黒派のようだ。 p43 身元不明の人間に対する殺人事件に対して、当然ながら有罪の判決が出ると(When the inevitable verdict of murder against some person or persons unknown had been given)◆ インクエストはよほど知られてないんだね。試訳「未知の単独犯又は複数犯による殺人という順当な評決が出ると」 person or persons unknownが出てきたらインクエストの評決である。 p44 イギリスの五ポンド紙幣(Bank of England five-pound notes)◆ 試訳「英国銀行の五ポンド紙幣」 内容はあえてぼかすが相場はクロフツ『スターヴェル』(1927)によると最低レベルで£12だった。 p45 ワトソン… 『まだらの紐』(The Speckled Band)◆ 黄金時代の特徴。探偵小説への言及。 p45 足がつきやすい五ポンド紙幣(as easily traced as English five-pound notes)◆ このイメージは広く行き渡っているようだ。 p54 コンタルメゾンでジェリーにやられた以外(except a Jerry at Contalmaison)◆ このJerryは「ドイツ野郎」のこと。第一次大戦のソンム戦の一コマ。 p54 かなり長身で色黒(fairly tall, dark)◆ 黒髪 p56 警視庁(スィルテ) Sûreté◆ 話者はフランス人。フランス語式に「シュルテ」といきたい。 p56 とても色が黒くて黒髪で(He was very dark)◆ 浅黒警察としては、興味深い表現。目も髪も黒い、という趣旨か。 p57 よくしゃべる男だ(That was too glib)◆ こいつ適当に話を作ってるのでは?という疑念を込めた文にしないと後に繋がらない。試訳「舌がまわり過ぎだと感じた」 p58 色黒で黒髪(very dark in complexion and hair)◆ p56の解釈がこれ。試訳「暗めの容貌で黒髪」 浅黒警察としてcomplexionを多数検討してきたが、眉と目の色を疑わせる例がちらほらあった。辞書には「肌」としか書かれていないのだが。 p60 路面電車(trams)◆ ミッドランドの象徴だと言う。ロンドンには似合わないらしい。 p69 二ペンス(tuppence)◆ 公衆電話の料金 p72 早朝版(the early-morning editions)◆ 新聞の p74 細く浅黒い顔(thin dark face)◆ p58と同じ人物の形容。faceも「髪、眉、目」の意味ではないかと思わせる例あり。これも辞書には載ってない。 p83 三十五年間(his thirty-five years)◆ グラントの年齢だろう p84 クリスチャン(Christian)◆ ここでは英国教会の意味のようだ。 p84 ベーコンエッグ(bacon and eggs)◆ unchristianな朝食? p91 今月三日(the 3rd of the month)◆ 事件の日の十日前。 p92 たいへん色黒で(very dark)◆ p58と同一人物。ここは黒髪で良いだろう。 p93 もじゃもじゃペーター(Struwwelpeter)◆ 英Wikiに項目あり。Der Struwwelpeter(1845) by Heinrich Hoffmanはドイツの絵本。同時期に英訳あり。Gutenbergで米国版が見られる。楽しそうな絵 p100 名刺(his card) p106 クリスマスカードに描かれた、雪の中、郵便馬車を走らせる男(the man who drives mail coaches through the snow on Christmas cards)◆ ヴィクトリア時代に流行っていた図柄のようだ。"christmas card mail coach"で検索。もちろんコカコーラで一世を風靡したサンタ画像はまだ先の話。 p110 何人もわたしを攻撃して害を受けずにはいない(Nemo me impune lacessit)◆ ラテン語。少なくとも16世紀に遡るスコットランドのモットー。国章にも記されている。 p112 浅黒い顔(dark face)◆ p58と同一人物。p74参照。 p118 三月十三日夜(on the evening of the 13th of March)◆ 事件の日 p123 先週の火曜の晩の事件(what happened last Tuesday night)◆ 事件の日 p124 スコットランドのプラットフォームは誰でも入りこめるようになっている(The Scotch platform is open to any one who wants to walk on)◆ イングランドでは欧州と違い、検札口があるらしい。スコットランドは欧州風なのだろう。未調査。 p151 法定紙幣(Treasury notes)◆ この訳語は他でも見かける。ググったが「法定紙幣」なんてヘンテコ用語は経済用語などでも見当たらなかった。legal tender(法定通貨)と紛らわしいから不適当だと思う。確かに英国銀行は1946年まで民間銀行であり、政府発行紙幣は当時はTreasury notesだけだったから、そう訳したくなる気持ちもわかる。私は訳語として「財務省紙幣」を提案したい。せっかくの訳註はちょっと間違っている。発行は金の流出を防ぐのが主目的だった。ここで訳註をつけるなら「少額で番号が記録されず追跡不可能な紙幣」だろう。 p151 文学はカトリック趣味(a catholic taste in literature)◆ 「広範囲」では?最後の以外、宗教味は全然ないよ。参考まで蔵書リストを原文で。Wells, O. Henry, Buchan, Owen Wister, Mary Roberts Rinehart, Sassoon’s poems, many volumes of the annual edition of Racing Up-to-Date, Barrie’s Little Minister. p158 芝居や映画によく出てくる仲働きの"手伝い"(a “help,” who looked just like every stage and cinema Tweeny) p176 ◆参照した原文には、ここに付近の略図あり。翻訳でも入れて欲しかったなあ。(読書メーターの本つぶやきにアップしました) p183 タイヤ手当(a tire-allowance)◆ 自転車を使う警官に出ていたらしい。 p188 人数が奇数になって投票にかけられる(that makes an uneven number, and so we can put it to the vote)◆ 集まりが奇数になると、こういう利点があるのか! p189 ギリシャのコロス(訳註 同じ意見を述べる様子をコロスに喩えている) a Greek chorus p190 鱒のフライ(the fried trout)◆ 五時半のお茶のメインディッシュ p201 そして二度と現れるな(And have one less next time)◆ 次で「俺はsoberだよ」と反論してるので、ここは「次は(酒を)もっと控えるよ」という趣旨だろう。 p211 that uneasiness which ruined the comfort of his twelve mattresses of happiness proved on investigation to be merely the pea of the fairy-tale. p228 コヴェントリ・ストリート・ライオンズ(Coventry Street Lyons)◆ PicadillyのはLyon’s Corner Houseの一号店。 p247 ウォータールーという名前自体が終焉と死を思わせる(the very name of it reeks of endings and partings)◆ ウォータールー駅はロンドン最大なので「[旅に出発する際の]終りと別れ」のイメージがある、という趣旨だろう。 p250 ギニー◆ 贈り物はポンドではなくギニー単位 |
No.500 | 6点 | 海外ミステリ 誤訳の事情- 評論・エッセイ | 2025/04/29 07:07 |
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2003年出版。直井さん、亡くなってたんだ… 「マルタの鷹協会」月報の文章を再構成したもの。誤訳の指摘の本だが、書名や訳者はほぼ書いていない。双葉、清水の両御大のはすぐわかっちゃうけどね。
文章の端々に、誤訳をからかうような表現があって嫌。まあ読む方からすれば、せっかく買って読んでるのにヘンテコなところがあったら頭に来るのはわかるが、300ページの小説をノーミスで走るのは無理な話。毎ページに変な翻訳が散りばめられてれば別だが、数か所の誤訳や勘違いを大袈裟に咎めるのはどうかと思う。 って全部、私に当てはまっちゃうんじゃない? 私はここが違ってるよ、となるべく指摘だけにしてるつもりだが、まあそれでも営業妨害だ、とか、こっそり指摘しろよ、という非難はあるだろう。そうは言っても立派に公表している翻訳作品なのだから、ある程度の批評を受けるのは仕方ないのでは?と思っている。他にめんどくさいこんな誤訳指摘をしてる人はあんまりいないのだし… というわけで500冊記念は言い訳になっちゃいました。チャンチャン。 |
No.499 | 5点 | ウィーンの殺人- E・C・R・ロラック | 2025/04/17 08:48 |
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1956年出版。マクドナルド警部第42作。創元社版を元にした国会図書館デジタルコレクションで読みました。中村保男さんの翻訳は安定しています。
ウィーン観光案内、という感じで、きっと作者は取材旅行に行ったんだろう、と思います。でも普通の観光地を巡ってる感じで、裏道とか隅っこが好きな私には不満が残ります。でもまあそういう普通な感じがロラックさんの取り柄でしょう。 ミステリ的には、前も書きましたが、筋を編むのに一往復でいいのに三往復くらいさせちゃうところが、ごたついて好きじゃありません。でもマクドナルドの愚直な捜査の進め方は結構好み。 まあでも最初にこれを翻訳紹介するってさあ。これじゃ次に続かないよね。 面白いネタはあるけどトリビアは気が向いたら。 |
No.498 | 6点 | 囁く影- ジョン・ディクスン・カー | 2025/04/17 08:13 |
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1946年出版。フェル博士第16作。ハヤカワ文庫(1981年6月初刷)で読了。斎藤数衛さんの翻訳は安定感があります。
ダグラスグリーンは当時英国と米国で妻と離れて暮らしてたJDCの不倫行為が大きく影を落としてるように書いてるけど、元々、JDCって『夜歩く』からヘンテコで色っぽい女に弱い主人公を描いてるじゃないか… ミステリとしては私の好きなネタが出てくる。まだ英国では一般的では無かったのかなあ。 以下トリビア。 英国消費者物価指数基準1945/2025(55.16倍)で£1=10359円。 p5 殺人クラブ(Murder Club) p5 六月一日金曜日(Friday, June 1st)◆1945年と合致。 p6 一九四五年◆ヨーロッパ戦線の終結は1945年5月15日のようだ。 p7 戦車部隊ではドイツ兵(ジェリー)が投げつける爆弾… ディーゼル油中毒(Dieseloil-poisoning) p7 街灯はつけられたが燃料節約のために、再び、すぐ消されてしまうロンドン(a London still pinched by shortages; a London of long queues, erratic buses, dry pubs; a London where they turn on the street-lights, and immediately turn them off again to save fuel) p8 人びとは熱狂的に勝利を祝わなかった(People didn't celebrate that victory hysterically)◆ ロンドンの戦後すぐの風景。JDCの実感なのだろう。 p8 クリケットの試合の結果が新聞にのり、地下鉄の構内から簡易寝台が片付けられはじめると(when the cricket results crept back into the papers and the bunks began to disappear from the Underground) ◆平時の象徴が英国らしくクリケット。地下鉄を防空壕に使ってる映像は戦時中に作成された映画『恐怖省』(1944 監督フリッツ・ラング)が印象に残っている。 p10 一九三八年にノーベル歴史学賞を受けて(won the Nobel Prize for History in nineteen-thirty-eight)◆現実には存在しない部門。 p15 探偵小説(detective stories) p17 “優先権”を理由に、寝台車の席もとれなかった(could not get a sleeper on the train, either, because of 'priority.’)◆戦争中は軍務関係の輸送にpriorityが設定されていたようだ。 p22 一九三九年 p25 カリョストロ◆ 現在では「カリオストロ」表記が一般的。 p25 プラス・フォアーズ p25 主任司祭(キユレ)のスカート(as a curé's skirts)◆curéはフランスの司祭。このファッションはCuré Antoine Labelleで検索すると出てくるようなものだろう。 p26 ゴルフ… テニス p28 五月三十日の午後 p28 イギリス人の家庭はどこでも犬がいる(In English households there is always a dog) p29 シトロエンのタクシー(a Citroen taxi)◆Citroën Traction Avant Taxi 1939で検索。 p30 まさしく“レディ”そのもの(in every sense of your term, a lady)◆ JDCの「レディ」の概念はどういうものなのか。そもそもLadyについて私がよく分かっていないだけなのだろう。 p30 ブリッジ p31 ローレルとハーディが完全なフランス語でしゃべる映画(to the cinema to hear MM. Laurel and Hardy speaking perfect French)◆字幕じゃなくて吹き替え版、という事か。なおMM.はMessieurs(ムッシューの複数形)のフランス流略語。 p31 アナトール・フランスの小説…[略](in the delicious description of Anatole France's story: ‘I love you!What is your name?’)◆なんとなく馬鹿にしてる感じ p40 八月十二日 p40 ルヴュー・デ・ドゥー・モンド(Revue de Deux Mondes)◆1829年創刊の評論月刊誌。Wiki「両世界評論」 p40 二十ポンド紙幣(twenty-pound notes)◆ White noteの£20紙幣は発行1725-1943、白黒印刷で裏は白紙、サイズ211x133mm。 p59 ジョッキのようにむきだし(as bare as a jug) p66 アグネス・ソレル… パメラ・ホイト(Agnes Sorel… Pamela Hoyt)◆ アニェス・ソレル(Agnès Sorel, 1421-1450)は、フランス王シャルル七世の愛妾。急病で死んだが現在では水銀中毒死と鑑定されており、殺されたとする見解もある。パメラ・ホイトは架空人物のようだ。 p72 家に行くだけのガソリン◆戦時下はガソリン不足だった。 p77 車を待っていた8人のGIたち p81 職業紹介所(民間)(employment agency)◆p89との対比でこの注釈 p81 フランスから送還(Repatriated from France) p87 配給通帳を持ってくるように(to bring her ration-book)◆英国政府は1940年1月から配給制を導入。ration book uk ww2で検索すると当時のration bookを見ることが出来る。 p89 職業安定所(労働省)(Labour Exchange) p97 電動力装置(the electric power-plant)… 灯はすべてパラフィン・ランプ(paraffin lamps) p103 “赤い王”と呼ばれていたウィリアム・ルーファスが狩猟中に射殺… “ザ・ホワイト・カンパニー”(William Rufus, the Red King, was killed with an arrow while he was out hunting… The White Company)◆ イングランド王William II of England (1056c-1100)のこと。殺された場所はニュー・フォレストのBrockenhurst近郊。 p128 暖炉棚の上にはレオナルド・ダ・ヴィンチの小さな油絵 p133 民間のいいつたえによれば、あかいかみ、ほっそりとしたからだ、青い目… (The physical characteristics, the red hair and the slender figure and the blue eyes, are always in folklore associated with …. ) p135 オールド・キング・コール(Old King Cole) p149 アイヴス=グラントの32口径の拳銃(a .32 calibre Ives-Grant revolver)◆このメーカーは架空だがJDCは『猫と鼠の殺人』(1941)で既に使用している。多分Iver Johnsonのことだと思う。なぜ架空名にしているのかは良くわからない。 p153 ロンドンの二冊の電話帳(with two London telephone directories)◆ こういう時に役立つKelly’s directory p159 ばかでかい海泡石(メヤシヤム)パイプ p166 電撃的空襲やV兵器(the blitzes or the V-weapons) p167 “シックス・アッシズ”の殺人犯や、ソドベリー・クロス(the Six Ashes murderer… Sodbury Cross)◆『死が二人をわかつまで』(1944)と『緑のカプセルの謎』(1939) p170 ジョリューの3番(Jolyeux number three)◆架空のフランス香水のようだ p175 スラボニア地方(In Slavonic lands)◆Slavicと同じ。スラヴ地方、と言ったほうがわかりやすいか。 p176 中世ラテン語◆原文では英語訳なし。 p189 釣鐘(ベル)顔負けの丈夫さ(as sound as a bell)◆ 翻訳だけだと何のこっちゃ?だがsoundの連想でbellなのだろう。 p205 サー・マルコム・キャンベルのようにすっとばす(drove like Sir Malcolm Campbell)◆英国人自動車レーサー(1885-1948)。当時、数々の最高速度記録を樹立していた。 p208 一等車のコンパートメントは名目上六人分の座席◆ここに10人がぎゅう詰めになっている、という情景 p208 チェスターフィールド卿の書簡からの金言(a maxim from the letters of Lord Chesterfield)◆ 調べつかず p209 ドライ・レザーでひっかくように顔をごしごしこすって(scraped himself raw with a dry razor)◆翻訳を読んで「洗顔用に乾いた荒皮みたいなものを使ったのか」と思った。dry razorとは「電気剃刀」のこと。Webで探すと、当時、電気剃刀用のコンセントが客車に整備され始めたという記述があった(米国の話のようだが)。ここではあらかじめ旅行の準備をしていたみたいなので自分用のを列車に持ちこんだ、という事だろう。電気剃刀自体は1930年代から普及し始め、バッテリー式は1940年代後半の登場。試訳「電気剃刀でざっと顔をあたった」 p209 三等の乗車券を持った数名の太った婦人たちは、一等のコンパートメントの中に割り込んで… (except those fat women with third-class tickets who go and stand in first-class compartments, radiating reproachfulness, until some guilty-feeling male gives them his scat)◆ 自由に一等車のコンパートメントに入ってくる描写をピーター卿とかノックスの作品でも読んだことがある。 p210 朝食がわりにポケットにビスケットを詰め込んで(engaged in cramming biscuits into Miles's pockets to take the place of breakfast) p214 防水外とう(マツク)(a mackintosh) p215 うまくやれる手札を一枚、二点か三点よりももっと点の高いカードを一回回してください(Give me just one proper hand to play, one card higher than a deuce or a three!)◆ここで想定しているカード・ゲームは何だろう? p226 それがどうしたね?(エ・アロール) p236 雨外套(マッキントッシュ) p239 窓ガラスの一枚は破れたボール紙が打ちつけてあった(a window, one of its panes mended with cardboard) p248 あるテスト… 溶かしたパラフィンを使う… ゴンザレス検査法(you used melted paraffin… the Gonzalez test) p263 日曜日でもライオンズかABCの店があいているか… サンドウィッチをおいているパブ(Shall we go out and see if there's a Lyons or an A.B.C open on Sunday? Or a pub where they might have a sandwich?)◆西欧では安息日に店を閉めてる場合が多い。「日曜日でも開いているライオンズかABCが近くにあるか」という趣旨だろうか。パブは日曜でも開いてるものなのか。 p268 ダルタニアンが知っていた英語… “さあ、こい“と”こん畜生“(the only two words of English known to D'Artagnan were 'Come' and 'God damn.') p295 特にイギリス人の場合には、かなり身分の高い紳士階級でも、レインコートはひどく目障りにならない限り、できるだけ古くなり、よれよれになるまで着るのを一種のほこりとしている(Among Englishmen especially it is a point of pride, even of caste and gentlemanliness, for his raincoat to be as old and disreputable as possible without becoming an actual eyesore)◆よれよれのコロンボのコートは英国流だったのか? ロンドンのコロンボではどう描かれていたっけ? p301 デヴィル島(Devil's Island)◆映画『パピヨン』(1973)で有名。(知ってるのは古い世代だけ?) Wiki “ディアブル島”参照。 p327 車掌車(guard's van)◆ 当時、英国の客車にはブレーキがついておらず、列車全体のブレーキ力を補うために最後尾にブレーキ専用車(guard's van)を付けるのが当たり前だったようだ。英Wiki “Brake van”参照。 |
No.497 | 6点 | 家蝿とカナリア- ヘレン・マクロイ | 2025/04/17 07:49 |
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1942年出版。ウィリング第5作。創元推理文庫版で読みました。翻訳は上質。
演劇ものなんですけど、マクロイさんの視点がアウトサイダーなので、クウェンティン『俳優パズル』やバウチャー『ゴルゴタの七』のような舞台を作り上げる情熱が感じられないのがちょっと残念。 最後の展開は、三流映画みたいでいただけない。もっと盛り上げられると思う。残念。 いつものように納得のゆく物語を作りあげてるけど、最後はお馴染みコレジャナイ。私が線路を外れて欲しいだけなのかも。 以下トリビアちょっとだけ。 献辞は、To A. D. 誰だろう? p16 四十四歳以下だし… [略](I’m under forty-four, I have no wife or children, and I’ve been in the Medical Reserve Corps ever since the last war. I went straight from Johns Hopkins to a casualty clearing station, and it was through shell-shock cases that I first became interested in psychiatry)◆ ベイジルの自己紹介。 p29 四十をいくつか越えているはず… 1916年にジョンズ・ホプキンズ大学で… 翌年には大学を去って、軍の衛生部隊にはいった…(he must be a year or so over forty now; for she knew he had been in her father’s class at Johns Hopkins in 1916 and had left it for the Medical Corps in 1917)◆ これは他人から見たベイジルのプロフィール。1916年が大学時代なので1890年代半ばの生まれだろう。 |
No.496 | 5点 | エドウィン・ドルードの失踪- ピーター・ローランド | 2025/04/16 17:08 |
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1991年出版。翻訳は上々。
準備として『エドウィン・ドルード』の訳者解説を読み、標準的謎解きを把握。実によくまとまった解説だが、おっさんさまが『エドウィン・ドルード』評で書いている評論集『ディケンズの小説とその時代』を読んでビックリ。 有名な実在犯罪(ウェブスター/バークマン事件1847年)にディケンズが興味津々だったとは! さて本書。贋作ってやっぱり本家を読みたくなっちゃう。名曲アレンジを聴くとオリジナルが聴きたくなって、やっぱりオリジナルって良いよねってなる、あの感じ。 ホームズ時代とディケンズ時代が数十年しか離れてないのがちょっと意外。良い工夫もあって素直に読めた。 まあ頑張りましたね、という評価。 |
No.495 | 5点 | ルパン対ホームズ- モーリス・ルブラン | 2025/04/16 16:41 |
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1908年出版。原題Arsène Lupin contre Herlock Sholmès。早川文庫で読みました。
(1) La Dame blonde (初出Je sais tout 1906-11-15〜1907-04-15) 「金髪の女」 (2) La Lampe juive (初出Je sais tout 1907-07-15〜08-15) 「ユダヤのランプ」 私はルルーの怪盗は完全にルパンを意識してると思うし、ルブランの密室って大抵機械仕掛けなので、それに対抗して完全密室の『黄色い部屋』(初出1907-09〜11)を発案したのだろう、と考えている。 Herlock Sholmèsの初出については『怪盗紳士ルパン』に詳しく書いたが、Je sais tous 1906-12-15である。(単行本版第3章以降。第2章までは雑誌ではSherlock Holmesとなっていた) なぜか初出誌と単行本版では作中の日付がずれている。 p9 去年の12月8日 初出誌では違う(メモし忘れた)。 p34 3月12日火曜日 1907年が該当。初出誌では「六月五日火曜日」le mardi 5 juin (1906年が該当) フランス人がホームズとワトソンのような友人関係を理解できない人種だ、とよく分かる。カミのワトソンもホームズを先生と崇めてる。 (以下2025-04-17追記) 仏Wiki "Je sais tout"を見てたら、この雑誌でもコナン・ドイル作のシャーロック・ホームズものの翻訳を載せていた。最初は1905-06(創刊5号)「踊る人形」でルパン初登場の1号前である。そして次がドイルとウィリアム・ジレット共作の舞台劇Sherlock Holmes: The Strange Case of Miss Faulkner, 1899 (Je sais tout連載1908-02〜04)、この翻訳権を取得する際に、Sherlock Holmesの名前をそのまま使うのはまずいと自主規制したか、ドイルの文芸代理人に「テメーいい加減にしろよ!」と怒られたか、という事だったんだろう。雑誌でHerlock Sholmèsに変えた時、全く説明が無かったので、自主規制だった可能性が高いかなぁ(抗議されたなら謝罪も兼ねて何らかのステートメントがあって然るべきだろうから)。 |
No.494 | 6点 | 怪盗紳士ルパン- モーリス・ルブラン | 2025/04/16 16:04 |
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1907年出版。Arsène Lupin, gentleman-cambrioleur (Laffitte) 初版準拠の早川文庫版で読みました。翻訳は上々です。
初出の雑誌Je sais toutを全部読み込んで、ルパン懸賞クイズのページも全部インデックスをつけたり、英訳版を調べたり、結構面白いネタを拾ってたのですが、記録が全部飛んでしまってやる気を全く無くしました。やっとショックも治ったのですが、再度やり直す気持ちも無くなったので、記憶に頼ってここでは適当に書きますよ。 収録作品は以下の9篇。(初出順に並べました) (1) L'Arrestation d'Arsène Lupin (初出Je sais tout 1905-7-15 挿絵Georges Leroux)「アルセーヌ・ルパンの逮捕」 (2) Arsène Lupin en prison (初出Je sais tout 1905-12-15 as “La Vie extraordinaire d'Arsène Lupin en prison”)「獄中のアルセーヌ・ルパン」 (3) L'Évasion d'Arsène Lupin (初出Je sais tout 1906-1-15 as “La Vie extraordinaire d'Arsène Lupin : L'Évasion d'Arsène Lupin”)「アルセーヌ・ルパンの脱獄」 (4) Le Mystérieux Voyageur (初出Je sais tout 1906-2-15 as “La Vie extraordinaire d'Arsène Lupin : Le Mystérieux Voyageur”)「謎の旅行者」 (5) Le Collier de la reine (初出Je sais tout 1906-4-15 as “La Vie extraordinaire d'Arsène Lupin : Le Collier de la reine”)「王妃の首飾り」 (7) Le Coffre-fort de madame Imbert (初出Je sais tout 1906-5-15 as “La Vie extraordinaire d'Arsène Lupin : Le Coffre-fort de madame Imbert”)「アンベール夫人の金庫」 (9) Herlock Sholmès arrive trop tard (初出Je sais tout 1906-6-15 as “La Vie extraordinaire d'Arsène Lupin : Sherlock Holmes arrive trop tard”)「遅かりしシャーロック・ホームズ」 (8) La Perle noire (初出Je sais tout 1906-7-15 as “La Vie extraordinaire d'Arsène Lupin : La Perle noire”)「黒真珠」 (6) Le Sept de cœur (初出Je sais tout 1907-5-15 as “Comment j'ai connu Arsène Lupin : Le Sept de cœur”)「ハートの7」 出版人Pierre Laffitteがストランド誌を理想とした雑誌Je sais tout(「皆んな知ってんで」、下手な大阪弁ごめん)を出版し、シャーロックのような目玉を探していた。そこに現れたのがルブラン。創刊6号に(1)が発表され、創刊11号からほぼ7号続けて(2)(3)(4)(5)(7)(9)(8)が発表された(3月号にルパンは登場していない)。それぞれに懸賞付き(金額忘れた)のルパンクイズがついていて、例えば「遅かりしシャーロック・ホームズ」では、発表前の号に「次の号では有名なdetectiveが登場するよ!誰でしょう?」というクイズ。つまり、次の号の内容を書かせるクイズだったのだ。このクイズは連続で出すよ!とあらかじめ広告されてたので、ルブランは短期間の間に7作書いたんだろう(3月号が飛んでるのはネタ詰まりで締切に間に合わなかったからかも)。雑誌Je sais toutを見ておどろいたのだが、賞金付きクイズが1号に10本くらい載ってて、賞金で読者を釣っていたのだ。ラフィットはルパンに最初からとても肩入れしており「ルブランはフランスのコナン・ドイルだ!」と初登場時から持ち上げている。 あとはシャーロック・ホームズ問題。世間一般には「遅かりしシャーロック・ホームズ」で苦情が来たように言われているが、実は初出誌をちゃんと見るとホームズが登場する二回目の作品『ルパン対ホームズ』の「金髪の女」連載第1回(初出Je sais tout 1906-11-15)でも性懲りなくSherlock Holmesの名前を再び堂々と使っている。だが連載第2回でしれっとHerlock Sholmesに直して、何の説明もないのだ。なので苦情は1906年10月ごろ(雑誌発売時)に来たのだろう。なお英国での翻訳はThe Story-teller 1907-11 "The Adventures of Arsène Lupin No. 8. Holmlock Shears Arrives too Late" (A. Teixeira de Mattos翻訳)が早い。たぶん雑誌からの翻訳なので独自にHolmlock Shearsという変名を使ったのだろう。 翻訳上の問題を一つ。「王妃の首飾り」で事件の日が「今世紀初頭(p138)」と書かれているが原文には具体的年代は書かれていない。少なくとも1880年ごろの話のはず。多分、p149の「十八世紀末(=1785)… その百二十年後」を誤解しているのだろう。この文章は「その事件の後日談は二十世紀初頭のことだよ」 ということ。(2025-04-17訂正) あと、他にも色々あるけど、調べるのがめんどくさいので、このくらいにしておこう。 作品の感想は他の評者さんにお任せいたします… フランス語が読める人はWebサイトAgence Lupin & Cieがオススメ。読んでないけど『ルパンの世界』ジャック・ドゥルワールが当時のフランス日常生活を扱ってるらしくいろいろ面白そう。 |
No.493 | 4点 | 伯母殺人事件- リチャード・ハル | 2025/04/16 14:46 |
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1935年出版。東京創元社世界推理小説全集版で読みました。月報、葉書、紙栞、カバービニール、箱付きの美品(人並由真さまに対抗…って)。やっぱり歳をとると液晶より紙の本が良いですね。国会図書館デジタルコレクションでも全集版(1957)と創元推理文庫版(1960)も読めます。
三大倒叙とは全く言えない作品。ミステリ界、三大「おば」と再定義したいです。(一つは『伯母の死』、残りの一つはファイロヴァンスのOh, my Aunt!) 英国人って、ダメな奴が足掻くのを笑って眺める、という嫌な性格があるのかなあ… 全然主人公に感情移入出来ないので、ちょっと辛い読書。 ウェールズの田舎が舞台なんだけど、なんでウェールズなのかがよくわからない。英国人なら分かるんだろうか。 ミステリとしても軽め。これを名作にあげてる英米の著名評論家ってどういうつもりなのか。そんなに目新しかったのか。 リチャード・ハルは執筆時40歳くらいか。最近の嫌な若者をモデルにふざけた作品を書きたかったんでしょうね。笑えないけど。 さてトリビア。以下ページ数は文庫版のもの。 p62 オークション・ブリッジ… コントラクト・ブリッジ… ◆ 世間的には1930年ごろにコントラクト・ブリッジが主流となっている。違いは良く調べてない。 p63 二回も反則(revoke twice)◆ 日本の公式訳では「リボーク」 p64 ぼくは、伯母がやるように、スペードがクィーン以下六枚、他のマークではキングが一枚、最高札としてあるだけで、「フォア・スペード」を宣言したりはしない。ぼくにやらせれば、伯母がいつもやるようなぐあいに、空席に一枚札とエース三枚を見いだすことはあるはずがない(I don’t go “four spades” on six to the queen with one king outside as my aunt does. If I did, I shouldn’t find three aces and a singleton in dummy as she always does)◆ 何が正しいのか、よくわからないが、ちゃんと理解したいなあ。 (追記) 他の評者さんが書いてる目次問題。原文では単にPostscript。翻訳者の余計な付加じゃん。困った困った。良い子は目次を見ないこと! |
No.492 | 6点 | 伯母の死- C・H・B・キッチン | 2025/04/15 05:38 |
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1929年出版。国会図書館デジタルコレクションにも登録されてますが、昔買っていた書籍で読みました。やっぱり液晶画面は目が疲れますからね。宇野先生の翻訳は安定感抜群です。
タイトルと冒頭から、ああこうなるのかな?という予想は裏切られ、展開が面白い。途中にリン・ブロックが言及され『ゴア大佐の推理』の意外な影響がうかがえます。エドガー・ウォーレスも高く評価されていますよ! 親戚相関図が豪華。当時の英国の日常生活がうかがえる小説で満足しました。 ミステリ的にはガチガチの本格ものを期待するとガッカリするかも。 トリビアは気が向いたら。 (追記) 他の方の評価は後で読むのですが、またしてもクリスティ再読さまに完敗です。(乾杯か?) 人並由真さまとはミステリ作家への言及が被りました。 ところで人並由真さまが心配されていますがマシューズもマシウスも原綴はDr. Mathewsでした。 |
No.491 | 5点 | 殺されたのは誰だ- E・C・R・ロラック | 2025/04/14 04:31 |
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1945年出版。マクドナルド警部第26作。Kindle版で読みました。翻訳は、前回ボワーズ『謎解きのスケッチ』でがっかりした方。その後の翻訳のようで、気になる変な日本語表現はほとんどなくて、ちょっと安心してたら、なんだかモヤモヤが香る文章。確かめてみたら最初からやらかしていました… (詳しくは後述)
私が参照した原文Dover2015(Collins1945の再発と書いてあった)と翻訳の底本は違うらしく、翻訳版の方では結構削除ありです。削除は固有名詞がらみが多いので米版かも。(これも後述) 発端はすごく良くて、興味深い感じで登場人物が犯罪に巻き込まれます。不可能味もあり。地道なマクドナルド警部なので愚直に捜査が始まって、ああなってこうなって、結構な大きなヤマ場もあって、解決になだれ込みます。 ミステリとしては、わりと面白いのですが、糸の絡ませ方が気に入らない筋でした。重ならせすぎじゃないかなあ。一往復で良いのに三往復くらい編み込みすぎな印象。 でも戦時中のロンドンの日常生活が切り取られてて、結構満足しましたよ。 ただし翻訳がちょっと困りものです。一見ちゃんとしてるけど、ところどころでやらかしてる。それで話もぼんやりしちゃってるのだろうと思いました。こういうことで翻訳書が敬遠されちゃうのは非常に残念です。 以下トリビア。翻訳についてが多いです。 p(1%) とにかく戦争は終わって、あのいまいましい柵はなくなった(WELL, the war’s done one thing at any rate. It’s got rid of those damned awful railings)◆ 冒頭の文からこれです。戦時中であることは中身を読めば明白なのに!疑問に思わないのが不思議です。試訳「戦争で一つ良かったのは、あの忌々しい柵が無くなったことだな」金属供出でしょうかね。 p(1%) マレーグは一杯飲むと、リージェンツ・パークへやって来たのだった。 湖に架かった橋を渡るとき◆ 文章の間にDover2015では“Some bloke wrote a book called ‘Outer Circle’,” he said to himself. “I’ll write one one day and call it ‘Inner Circle.’ Jolly good title.”という文があります。訳し抜け?と思ったら、他にも結構な訳文に無い文章があるので、翻訳の底本が違うんだろうと思います。The Outer Circle (1921) by Thomas Burkeのことでしょうね。 p(2%) 小声で歌を口ずさみ始め(humming a little air to himself)◆ 音楽は不明 p(3%) ブル巡査は緊急事態に適切に対応した(Constable Bull of D. division, proved himself quite equal to an emergency)◆ 「D管区の」が抜けてるが、これも底本違いだろう。 p(4%) マレーグは中断して、先ほど供述した男の顔から耳や鼻といった顔の付属物を取り除いた顔を思い描こうとした。彼の話に懐疑的な聞き手に、より明確に伝えられそうな気がしたからだ(“He broke off, realising that he had already described one face—minus the appendages of a face—and denied hearing the arrival of the feet which presumably belonged to the disembodied face. He began to realise more clearly than ever what his story must sound like to a sceptical hearer)◆底本違い? ここは訳者が繊細な意味を汲み取っていないだけだと思う。翻訳の印象を一言で言うと「雑」。試訳「マレーグは一瞬、話すのをやめた。もうすでに男の顔について供述している… 顔の細々したところを除いてだが… 近づく足音を聞かなかったと言ったので、身体のない顔だけの出現だと相手に思わせてしまうだろう。彼は、疑い深い聞き手が、この話をどう思うのか、はっきりと自覚し始めた」 p(5%) できるだけ協力します(You can find me whenever you want me)◆ 試訳「あなたが希望した時は、いつでも対応しますよ」 逮捕されるような連想が働いて「不吉」と言ってるのかな? p(6%) 「よく知っている」 「電話がつながるまで…」◆ この文の間にDover2015には(“Why did you choose a call-box there, I wonder?” Wright asked himself.)あり。 p(6%) ティムだ――ティモシーだ(Just say it’s Tim—Timothy you know)◆ 原文からは、電話を受けたほうから「誰ですか?」と聞いてる雰囲気。試訳「ただティムと伝えてくれ… ティモシーだよ」 p(6%) そのことは気の毒だったと思う(Never mind about that)◆ 試訳「今それは関係ないよ」 p(8%) それぞれ玄関や台所などを備えて住居が独立している、一人部屋のアパートだ(This house was divided up into six self-contained single-room flatlets) p(8%) どちらかといえば、人付き合いを避けるほうでした(and’e kep’’isself to’isself)◆ 試訳「一匹狼タイプでした」 人付き合い(たかり)はしてたからなあ… p(9%) 住人は概ね専門家揃い(The tenants are mostly in the profession—variety folk)◆ 試訳「住人は芸能関係がほとんどです… 寄世に出てるような」 p(11%) 洗濯屋の印が縫いつけられていた(The only markings on it were those stitched in by a laundry) p(11%) 食料配給手帳(Ration Book) p(11%) 四シリングと六ペンス、マッチの箱(four sillings and sixpence, a packet of Players, a box of matches)◆ 何故か「プレイヤーズ1箱」が抜けている。固有名詞省きか? p(11%) 二つの鍵(two latch keys)◆ ラッチキーと訳して欲しいなあ。多分フラットの表玄関と自室の鍵。昔の邸宅を改造してフラットにする時は、外付けのラッチキーが安くて設置しやすいので、フラットの鍵=ラッチキーだという印象がある。 p(12%) 市民防衛隊(Civil Defence) p(13%) 何者かが頭を強打したのです(Someone got biffed over the head)◆ 試訳「頭を殴られた人がいるのです」 p(13%) ロンドン警視庁犯罪捜査部の警部です(I’m a C.I.D. man)◆ この後数行の脱落あり。底本違いだろう。「ランベスの1941年5月10日の事件を覚えていますよ」と言う台詞あり。シリーズ中に該当事件があるのかも。 p(13%) ボーンシェーカーかと思いました(Real bone shaker) p(14%) 捜査の基本だが、証拠のない思いつきよりも、思いつきのない証拠のほうが価値がある(Child’s guide to detection—evidence without ideas is more valuable than ideas without evidence)◆ マクドナルド金言集 p(14%) あまり理に勝ちすぎてはいかんよ、巡査(Losh, don’t be too intellectual, Drew)◆ この後数行の脱落あり。底本違いだろう。「この歌なんだっけ‘Can your mother ride a bike . . . in the park after dark . . .’と言う台詞あり。歌は調べつかず。 (以下2025-04-15記載) p(14%) 住人はほとんどが専門家のようだ(the tenants... were mostly ‘in the profession’—on the stage in other words)◆ 試訳「住人はほとんどが"芸能関係... 言葉を変えればステージ関係"だ」 p(14%) 信号機の明かりが、暗闇を切り裂くように浮かび上がった(a darkness slashed by the incredible brightness of the traffic lights)◆ 灯火管制でも信号機は点いているのか! p(14%) マクドナルド警部は、顔つきは五十歳に見える(Macdonald was looking fifty in the face) p(14%) 「懐かしい曲ですね」警部は小声で口笛を吹いた。(“Let the great round world keep turning . . .” Macdonald whistled the tune under his breath)◆ Dover2015では具体的な曲の歌詞の一部が書かれていた。Let the great big world keep turning(1917) by Clifford Grey & Nat D. Ayer。続く文にも省略あり。第一次大戦はたくさんの歌を生んだのに今回の戦争はさっぱり、と嘆いてる。 p(14%) 別の鍵(another latch key)◆ やはりこのフラットはラッチキーだ。 p(15%) 昨日、やっとやれそうな仕事に就くことができた、と言っていたんです。そして、来週、一緒に外で夕食を食べるつもりだったんです(It was only yesterday he said to me ‘Reckon I’m on to a good thing this time, Rosie. You and me, we’ll have supper at Oddy’s next week, you see if we don’t)◆ そいつは仕事をするタマじゃないし、話者も承知している。変だなあ、と思ったよ。試訳「つい昨日、言っていました。「今回は上手くいきそうだよ、ロージー、来週オディの店で夕飯を一緒にできるはずさ」 p(15%) 仕事を持つことができないんです。彼は頼りになりませんから(He couldn’t have held a job down for five minutes. The only thing about him you could rely on was that he was unreliable)◆ 試訳「仕事を五分と続けられなかったでしょう。彼について確実に言えることは、彼が全く信用出来ない、ということだけです」 p(15%) 彼はちょこちょこ稼いでいますよ。大金を得たときなんか、あっという間に使ってしまいました(He made a bit here and there, and when he’d got a note in his pocket he blewed it at once)◆ a noteで大金? ここは多分10シリング(5000円)か1ポンド(1万円)という趣旨だろう。 p(15%) 食料配給券や割引券(coupons and ration cards) p(16%) 寄席に(in vaudeville) p(17%) コーラスグループ(in the chorus at the Frivolity)◆ 「コーラスガール」のコーラスだろう。Frivolityは劇場名かな?多分架空。 p(17%) XXXの身分証明書は使い古されたものだったが、住所は読みとれた(XXX’S Identity Card—a much worn document—showed two addresses)◆ 今までXXXの身分証明書の住所をあたってたんじゃないの?突然、別の住所が出てきて、読んでる時に混乱したが、Dover2015の原文では、身分証明書には二つの住所が書かれていて、今までは新しい方の住所をあたっていたのだが、今度は古い方の住所の方をあたる、という流れが読み取れる。翻訳では、困ったことに全くそのような説明は無い。底本でもそうなってるかは不明。 p(17%) スリラー小説や中編小説が(a few obscure thrillers and some “Wild West” novelettes)◆ novelettesは「薄い冊子」という趣旨か。 p(18%) 去年の二月(Last Februrary)◆ 多分1942年。すぐ後に「二月十日」と書いてある。 p(18%) この通りが破壊されなかったのは驚きです(Funny thing—that street survived all through the’40-’41 blitz—never touched)◆ 試訳「驚きですが… この通りは40年から41年の爆撃をずっと無傷で過ごしてたんです」 多分底本ではthe’40-’41 blitzが削除されて意味がとりにくかった? p(19%) かあちゃん(Ma) p(19%) 今朝の検視結果(morning's inquiry)◆ ここはインクエストではなく「調査活動」の意味。ズレてるなあ。 p(20%) なにかと大げさにしたがる人たちにとって(To theatrical folk)◆ まあずっと「専門家」と翻訳してたので、わからないのも無理は無いが、面白翻訳になっちゃった。試訳「劇場関係者にとって」 p(20%) ぽっちゃりとした有色人種の女性(a plump highly coloured lady)◆ 試訳「ぽっちゃりとした派手な色彩の女性」 カールした髪の毛で誤解? p(23%) 私はある映画会社の歴史についての考察を請け負っていますので、許可されている範囲でいろいろな情報に接することができるのです(I am employed in an advisory capacity by the Superb Film Company: I vet their historical sets—as far as they’ll allow me—and I’m always ready to pick up information)◆ 試訳「映画会社で歴史セットの時代考証の仕事をしてます。私の意見を聞かない時もありますけどね。だからいつも細かい所に気づくんですよ」 p(24%) 仲間との連絡がいつ途絶えたとしても、不思議ではありません(and I shan’t be at all surprised if his sudden end was connected with his compatriots)◆ 試訳「彼の突然の結末が、彼の仲間との関係に原因があったとしても、私は全く驚きません」 まあ、こんなふうなズレた翻訳がたくさんです。これ以上はネタバレが多くなるのでやめておきましょう。 問題翻訳ってどう対応したら良いのでしょうね… |
No.490 | 9点 | グランド・バビロン・ホテル- アーノルド・ベネット | 2025/04/13 03:35 |
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1902年出版。Kindle私家版で読みました。翻訳は素晴らしい。読みやすくて、リズムがある。
いけすかないわがままな米国人大富豪とさらにわがままな娘(もちろん美人)が英国超一流ホテルで巻き起こす大冒険!全てはヒレステーキとバス・ビールから始まった! すごく面白い極上エンタメ。展開はスピーディで目まぐるしく、登場人物もエッジが効いている。作者のエンタメ作品は『クイーンの定員2』で読んで感心したけど、長篇の長さでここまでチープで(褒め言葉)スリリングに(ジャニス)出来るんだ! 翻訳者さんによると、この長篇が著者の「ファンタジア」(著者用語でエンタメ作品のこと)の最高傑作らしい。 なおホテルのモデルはThe Savoy。作中で比べられてる他2箇所はThe RitzとCecilだろう。 トリビアは気が向いたら。 |
No.489 | 5点 | 謎解きのスケッチ- ドロシー・ボワーズ | 2025/04/12 05:03 |
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1940年出版。kindle版で読みました。翻訳は結構問題あり。後で細かく指摘するが、一番ガッカリしたのは『ダンサーの冒険』(the Adventure of the Dancing Men)、ミステリ関係者でこれを知らないの?と驚いた。
他にも「停電」(blackout、正しくは「灯火管制」)とか、「管理人」(warden、灯火管制を破っていないか見回る人、罰金あり)とか、今は戦争が始まってるんだか、戦争間近なんだか、不明瞭な表現が混じってるのだが、原文では明白で、作中現在は英国が宣戦布告した後の1939年10月である。 数ページに一度は首を傾げる表現があり、ストレスを覚える人がいるはず。 まあ大体の内容はちゃんと把握できるのだが… 細かいところが気にならない人向けの翻訳だね。 なので解決篇が薄ぼんやりしてるのも、翻訳のせいかなあ… と疑ってしまった。 なかなか面白そうな作品なんだけど、翻訳で損してるかも。(まだ詳しく分析してません。読むなら原文もkindle版があるので入手した方がイライラしないだろう、と思いました。) 以下、トリビア。 原題The Deed Without A Name、マクベス第4幕 第1場より。マクベスが魔女たちに会って「お前ら何してる?」に対する返事。「名前の無いワザじゃよ…」 翻訳されていないが献辞あり。To May◆ 誰でしょうね? こちらも翻訳されていないが注意書きあり。「Chelsea 地域で変な空想してごめんなさい。もちろん Pentagon Square, Rossetti Terrace, Hammer Street & Mulberry Fountain は過去にも現在にも存在しませんよ」と書いている。 p(1%) お茶のカップを四つ持ってきて… 暖炉のそばにゆったりと座ってから同意を示した(He was finding it agreeable after four cups of tea to lounge by a good fire)◆ 試訳「あたたかい暖炉のそばで、お茶を四杯飲み、すっかりくつろいで座っていた」 p(2%) 今後は、手紙でやりとりしよう(Hence an attempt through the post, I suppose)◆ 試訳「したがって、郵便での試みとなったんだろうな」 p(2%) 素人探偵のまね事(amateur snooping) p(3%) まだ明るいから、車の運転も大丈夫だ(I’d like a run while it’s still light)◆ 夜になると照明が無く、ヘッドライトもつけられないから自動車は使えないのだろう。 p(3%) 円熟するような過程(mellowing process)◆ 試訳「角が取れるような時間経過」 p(3%) 六十代の頃、ダウニング・ストリートのガードレールの設置に再三にわたって力を尽くした(in her sixtieth year she had repeatedly attached herself to the railings of Downing Street)◆ 試訳「60歳の時には、首相官邸前の抗議運動に何度も参加した」 p(3%) このような骨折りで、肉体的な面では男にかなわないことを、夫人は自覚した(Such exertions had at least expressed her sense of masculine inferiority)◆ 試訳「そのような過激な活動は、少なくとも彼女が、男性は劣等種であると思っていることを示していた」 次の文もちょっとヘンテコだけど、ここでは省略。 p(4%) 明かりが街をぼんやりと照らし、ネオンサインが火の小川のようにロンドンの街を彩っていた(Then the lamps might prick it, the sky signs burn it with rivulets of fire 以下略)◆ 原文では、ここら辺は動詞の前にmightがついてるので、「かつて、灯火管制前なら、明かりが灯ってネオンサインギラギラだったよなあ」という主人公の想像。 p(4%) 二回目の停電の日(the second month of the blackout)◆ 試訳「灯火管制二か月目」 p(4%) タクシーを運よく拾う(he had the luck to pick up a taxi)◆ 灯火管制下、夜走ってるタクシーは稀だったろう。夜八時半でもまだぼんやり明るさが残っているようだ p(5%) 裏口のドアも他と同じように施錠されているが、鍵がついたまま(That door, locked like the rest, had its key... on the inside)◆ 「内側に」が抜けている p(6%) おばが戦時中の規則に従って取り付けた黒いカーテン(the black curtains his aunt had provided in compliance with the rule)◆ 戦時中って補い訳してるのにblackoutが灯火管制だと気づかない… 残念。 p(6%) 玄関ドアの掛け金(the latch of the front door) p(7%) 十月十五日の日曜の朝(Sunday morning, October 15) p(7%) 彼女はいつもどおりに、こぼれた塩の後片づけをしたり、カラスを見張ったり、歩道をまたいでいる梯子を確認したりした(It was true that she dutifully observed certain procedures following the spilling of salt, the sight of a single crow or the presence of a ladder straddling the pavement)◆ ここは迷信の列挙。試訳「塩こぼし、単独カラスの目撃、歩道に立てかけた梯子に対して、必ず迷信破りの対処法を行うのが常だった」 p(7%) ヒトラー… ルーズベルト大統領… シャーリー・テンプル◆ 取り合わせが面白い p(9%) 女中は軽んじられてはいなかった。それというのも、女中はいちいち「旦那様」とか「奥様」といった言い方をしていなかった(She was not the less respectful because for the most part “sirs” and “madams” did not figure in her vocabulary)◆ 試訳「彼女に尊敬の念が足りないわけではなかった。「旦那様」とか「奥様」という語が大抵の場合、口から出てこないだけだった」 p(10%) 初めからずっと変なことばかり続いて(There’s something queer, like. I said there was all along)◆ 試訳「何か変みたい。わたしずっと言ってました」 p(10%) 男が倒れていた(There’s a man there)◆ ここでは倒れているはずがない。試訳「男がいた」 p(10%) 「これは自殺だな」◆ 原文の警察医のセリフはもっと長い。“Pretty how-de-do for a soo’cide, ain’t it?” (かわいらしい自殺のやり方じゃねーか)&集まってる警官たちを眺めて “Proper gathering of the vultures, eh?”(お馴染みの禿鷹の集会だな?) p(10%) 取引などには応じない(with the police surgeon’s usual lack of conciliation in his manner)◆ 試訳「警察医によくある全く空気を読まない態度の」 p(10%) 警察医はざっと死体を検査した(the divisional surgeon was carrying out a swift examination preliminary to the autopsy that would follow)◆ 試訳「地区警察の医者は、その後の解剖に先立ち、迅速な検査を行っていた」 p(10%) もっとも若い警部(The youngest chief inspector)... 四十歳(forty years) p(10%) 彼はもはや臆病者ではなかった(He was no more of a sissy than the next man)◆ 昔の事件で女々しかったのだろうか? p(11%) 二本の鍵(two latchkeys)◆ ここは「ラッチキー」と訳して欲しいなあ。 p(11%) 安物の懐中電灯(A torch of the sixpenny-battery size)◆ サイズ、と言っているので、6ペンス貨の直径(19.41mm)の懐中電灯か? 調べつかず。 p(11%) コナン・ドイルの小説... 過労の事務員がずっと以前から漠然と抱いていた殺人の心象が、鏡によって夜ごとはっきりとしていくのだ(Conan Doyle’s fine story in which a mirror had nightly revealed to an overworked clerk the cloudy image it had received of murder long ago)◆ これはThe Silver Mirror(初出Strand 1908-08)のことだろう。 ---------- (以下2025-04-13追記) p(12%) 彼はポケットに玄関のドアの鍵を(he had the latchkey of the front door in his pocket)... 玄関のドアには鍵のほかにかんぬきまでかかっていたので(the front door was found bolted as well as latched)… 庭から入った(got in by forcing the door into the garden)◆ 玄関ドアはlatchkeyで開くlatch&ボルトで二重に施錠されており、ボルトは鍵では開かない。庭ドアはforcedなので「無理に押し破った」と訳さないと後の文がわからなくなる。 p(12%) この場合、外から鍵をかけなくてよいですから。庭のドアは閉まると、外側からは開けられなくなります(he must'a turned the key from the outside, because it was inside when it was forced)◆ 適当訳。前述のforcedに気づいていない。試訳「やつは外から鍵を回したことになっちゃいます。だってドアが押し破られた時に、鍵は内側にあったんですから」 p(13%) 一枚も紙はちぎられていなかった(The top was virgin white and untorn)◆ 試訳「一番上の紙は真っ白で、破られてはいなかった」 p(13%) 二シリングと半ペニーの切手(a two-shilling book of stamps with a single halfpenny stamp remaining)◆ 2シリング切手(1569円)は高額過ぎるよ! 試訳「合計2シリングの切手シートには一枚の半ペニー切手だけが残っていた」 半ペニーだと48枚綴りで2シリング。 p(16%) パン屋とガス会社がくれた何の変哲もないカレンダー(the innocent calendars a thoughtful baker and gas company had provided) p(17%) 二冊の安物のスリラー小説(two sixpenny thrillers)◆ 英国thrillerなら「ミステリ小説」と訳した方が適切かも p(22%) 小人閑居して不善をなす(Satan finds some mischief for) p(23%) いつ戦争が始まってもおかしくありません(none of us knew there was going to be a war)◆ こういう文章が混じってるので、作中現在は戦争前?と誤解してしまう。試訳「誰も戦争が始まるなんて知りませんでした」 p(34%) 悪評の高い検視… 検視官は自分が全能の神だと思っている(a notorious inquest and a coroner who thought he was the Almighty)◆ 検死官は終身制で、インクエストの進行では全権を握っている。そして監督官庁がないからねえ… こういうことが起こりうるのよ。 p(35%) 去年、試験勉強で共に苦労しました(were co-sufferers in the last year we swotted in the Sixth)◆ 話者はもう就職する年頃なのに、去年? 試訳「高校(Sixth)最後の年は、二人とも猛勉強で共に苦労しました」 p(37%) 最近は、灯火管制が敷かれるようになりました(the fresh habits the blackout)◆ なんだい、ちゃんとわかってんじゃん! ---------- まあこんな感じで、ちょいズレの翻訳がたっぷり。これ以上は長くなり過ぎるし、疲れたので、ここでやめておきます。 謎解き部分がどうなってるかは、ネタバレになるので控えます。まあでも、ざっとみたところ、今まで示したようなちょっと外した文章がチラホラでした。 小説自体は、1939年10月前後の英国の日常生活が細かに描かれていて、非常に良かった。ミステリとしては、展開が面白いし、大ネタ、小ネタもなかなか良い感じ。これで翻訳がちゃんとしてればなあ、という感じです。 |
No.488 | 7点 | 不可能からの脱出―超能力を演出したショウマン ハリー・フーディーニ- 伝記・評伝 | 2025/04/11 10:34 |
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国会図書館デジタルコレクションで読了(2ページ分の欠落あり)。松田道弘さんの本、結構NDLdcに登録されている。
フーディニの手錠はずしなどのトリックを(多分こうだろうと)解説。松田さんだけに、頷ける説明。『フーディーニ!!』と合わせて読むと尚更面白いと思う。 |
No.487 | 6点 | ドラゴン殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2025/04/10 21:03 |
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1933年出版。初出Pictorial Review 1933-06〜11, 挿絵Carl Agnew。創元推理文庫で読みました。
不可能犯罪めいたオープニングと、お互いを「あいつが怪しい」と罵り合うパーティの出席者たち。類型的すぎてサイコーです。 怪奇現象の盛り上げ役もいて楽しい。幕切れも大胆で良いのですが、真相がアレなら登場人物たちの動きが違和感あり。ヴァンスも、知ってたなら、もっと最初からアレすれよ… はいつものパターンですね。 でもまあ楽しめるオハナシでした。 舞台装置は実在のものらしくて、図面が広めに展開、どうなるのかな?と思ってたら、ああ、そうなんだ… というのが最大の意外性でしたよ。 トリビアは気が向いたら。暑い八月は1928年だろうか?データを見つけられなかった… |
No.486 | 6点 | 猿来たりなば- エリザベス・フェラーズ | 2025/04/09 06:10 |
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1942年出版。トビー&ジョージ第4作。
このコンビのシリーズを読んでると、だいたい先行きが想像出来ちゃうのが欠点。 冒頭は「ほほう」と唸る出来だけれど、もっと田舎ってどんよりしてるのでは?と思った。 キャラは全員ヘンテコで、まあメリハリという意味では良いのだが、ドラマという点ではなんだわざとらしいかなあ、と感じてしまった。 トビーの一人称もあんまり効果はなかった気がする。目先を変えただけ? |
No.485 | 5点 | ブラック・マスクの世界3 ブラック・マスクの栄光- アンソロジー(国内編集者) | 2025/04/06 02:11 |
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1986年出版。国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。
---------- (1) Close Call by Erle Stanley Gardner (初出Black Mask 1933-01) 「はなれわざ」E・S・ガードナー作、堀内静子 訳: 評価7点 弁護士ケン・コーニング第三作。原題close callは「ギリギリセーフ」の意味。いつもながら工夫された強引な展開が良い。やりすぎだが、当時なら有り得そうな話。 ---------- (2) 「殺人狂騒曲」フレデリック・ネベル (3) 「重要証拠」エド・ライベック (4) 「強盗クラブ」トム・カリー (5) 「美人コンテスト殺人事件」デイル・クラーク (6) 「死のストライキ」フランク・グルーバー (7) 「シャム猫の謎」ラモン・デコルタ (8) 「拷問以上」C・P・ダネル・ジュニア (9) 「沈黙は叫ぶ」フレドリック・ブラウン ---------- (10) 「裏切りの街」(3)ポール・ケイン <長篇連載> ---------- <インタビュー>ジョー・ゴアズ (構成: 木村二郎) 1985-03-28サン・アンセルモの自宅にて。EQ1985-09記事に加筆。 ハメット伝について: ジョンソンはシンパシーが無いが、ノーランとレイマンはシンパシーがありすぎて客観的ではない。三冊合わせてハメットの全貌がわかる。 コンチネンタル・オプの捜査方法はリアルだ。 DKAのラリー・バラードのモデルは自分だろう。 ---------- <解説> 本書出版時には、「東京の東武デパートで<ミステリー・ミステリアス展>というわけのわからぬ名称の催し物が開催されているはず(1986年7月31日~8月12日)」と書いている。ハードボイルドもここまで来たか、という密かな感慨が伺える。 |
No.484 | 5点 | ブラック・マスクの世界2 ブラック・マスクの英雄たちⅡ- アンソロジー(国内編集者) | 2025/04/05 15:37 |
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1986年出版。国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。
---------- (1) 「ウェイドを救え」ジョージ・ハーモン・コックス (2) 「リンカーンの口ひげ」シオドア・ティンズリー (3) 「ボストンから来た女」フレデリック・ネベル (4) 「賭博師の厄日」W・T・バラード ---------- (5) Blackmailers Don't Shoot by Raymond Chandler (初出Black Mask 1933-12) 「ゆすり屋は撃たない」レイモンド・チャンドラー作、小鷹信光 訳: 評価7点 私立探偵マロリー。ハメットを真似た徹底的客観描写、と小鷹さんが書いていて、ああそうなのか、と初めて気づいた。無茶苦茶な話だが、なんとか成立してるように感じられるのがチャンドラー・マジックなのだろう。マロリーの拳銃はルガー。第一次大戦に従軍して、そのお土産、という設定かも。 ---------- (6) 「雪原の追跡」L・R・シャーマン (7) 「ウインク」J・M・ベル (8) 「初舞台」ドナルド・バー・チドシー ---------- (9) 「裏切りの街」(2)ポール・ケイン <長篇連載> ---------- <インタビュー>ビル・プロンジーニ (構成: 木村二郎) 1985-03-27SF近郊の自宅にて。HMM1985-09掲載のものを再編成。 十六、七年前(1969年くらい?)、オークランドの古本屋でパルプマガジンは一冊10セントで売られていた。誰も買わなかった時代。(米国消費者物価指数基準1969/2025(8.66倍)で$1=1292円) 名無しのオプは良い名前を思いつかなかったから、と話している。昔のタフな主人公に比べて、現在の人間はより「人間的」だという。humanの訳?最後はすべて上手くいく、という小説を読みたいから、最近の私立探偵もの人気があるのでは?と分析している。 ---------- <解説> ノーラン調べでブラックマスクの最高部数は1930年の10万3000部だったという。1934年末にはスター寄稿者(デイリイ、ガードナー、ネベル、チャンドラー、ポール・ケイン)がたくさんいたが部数は6万部少々だったようだ。 |
No.483 | 5点 | ブラック・マスクの世界1 ブラック・マスクの英雄たちI- アンソロジー(国内編集者) | 2025/04/02 23:22 |
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1986年出版。国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。このシリーズ、買おうか迷ってたけど、NDLdcで読めるようになっていたとは!
---------- (1) Straight from the Shoulder by Erle Stanley Gardner (初出Black Mask 1929-10) 「ネックレスを奪え」E・S・ガードナー作、堀内静子 訳: 評価7点 エド・ジェンキンズもの。テンポが良くて実に素晴らしい作品。「探偵雑誌を読む少年は見込みがある」とさりげなく雑誌販促してる。 ---------- (2) 「賭に勝った女」ロジャー・トリー (3) 「黒い手帳」ホレス・マッコイ (4) 「新しいボス」N・L・ジョーゲンセン (5) 「KKKの町に来た男」キャロル・ジョン・デイリイ (6) 「帰路」ダシール・ハメット (7) 「帰ってきた用心棒」ノーバート・デイヴィス (8) 「最後のしごと」L・V・アイティンジ (9) 「白い手の怪」スチュワート・ウェルズ (10) 「裏切りの街」(1)ポール・ケイン <長篇連載> ---------- <インタビュー>ウィリアム・F・ノーラン (構成: 木村二郎) 1985-03-22LAの自宅にて。HMM1985-10掲載のものを再編成。 ノーランは「心はいつも27歳」と言っているが、どうしてそのトシなんだろう。1969年当時、ブラックマスクが一冊2ドルで買える古本屋があったらしい。(米国消費者物価指数基準1969/2025(8.66倍)で$1=1292円) ---------- <解説>で小鷹さんはブラックマスク一時離脱前のハメットの稿料が「破格の…一語三セント」(p232)だった、としているが、ほんとうかなあ。ブラックマスク創刊号の表紙が当時はビル・プロンジニーニもノーランも見たことが無い、という話題で盛り上がっているが、現在はFictionMags Indexでちゃんと見ることが出来る。 |