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[ 本格 ]
伯母の死
マルコム・ウォレンシリーズ
C・H・B・キッチン 出版月: 1956年08月 平均: 5.50点 書評数: 4件

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早川書房
1956年08月

早川書房
1986年04月

No.4 6点 クリスティ再読 2024/02/06 10:32
いかにもイギリスっぽい良さがある作品だと思うよ。1929年のパズラーだというのが信じられないくらいに、主要キャラに生彩があって、しかも大恐慌直前のバブリーな時期の有産階級の金銭感覚にリアリティが出ている。
どうだろう、読んでいて一番近い印象なのが評者ご贔屓な、ライオネル・デヴィッドスン?
何と言っても主人公の株式仲買人マルコムの若さ溢れるちょいとケーハクなキャラ付けが印象がいい。一族のヌシみたいな大金持ちの「怖い伯母」に見込まれて株式運用を任せるために呼びつけられた...から始まるこの話、この伯母の毒殺の渦中にイキナリ投げ込まれるマルコムくんが、伯母が使用人扱いし始めた運転手上がりの夫に同情したり、ヘンな思惑から冒険したり、ビビったり、あるいは一族の鼻持ちならない伯父に反感を感じたり...という心情がよく描かれたユーモア・ミステリとして仕上がっている。

パズラーとしては地味だけど、上品なユーモア感覚が古くないあたりがこの作品のいいあたり。親戚って互いに比較されあって「意外に内心憎み合っている」なんて、シビアな観察もあったりする。心理のリアルさとユーモアが矛盾しないのが一番の美質かな。

解説で「約三十年後の本格探偵小説の姿をハッキリ示している」というのは、やはり「早すぎたイギリス教養派新本格」というカラーがあるあたりだし、50年代に流行した「巻き込まれ型パズラー」というべき「非名探偵小説」の先駆という位置づけになっていることだろう。ガーヴとか「二人の妻を持つ男」とかそういう後の展開を予想するのは不思議なことではない。

(作品の発表の年末にはウォール街大暴落が起きるんだよね....バブル真っただ中に書かれた小説だけど、事件後伯母の遺贈から、主人公が自分で買った優良株の配当が2%だというのは、意外なくらいに悪い)

No.3 5点 斎藤警部 2017/06/14 00:33
説明書。。。。。 電話。。。嘘。。微妙に退屈交えながらも、不思議な共同体の視点からパズルのピースは面白く嵌ったり、外れたり、弾かれたり。。
問題の第13章(主人公まさかの行動)をストーリー俯瞰で大化けさせるのがミステリってもんだろ、なんって思わなくもないですが。。 締めの一文は粋。

【ネタバレ&逆ネタバレ】
「伯母の死(DEATH OF MY AUNT)」なる題名が、より有名な「伯母殺し(MURDER OF MY AUNT)」と紛らわしいんですが、こちらもやはりかの作と同様、ダブルミーニングなわけでね。。。。

No.2 6点 人並由真 2017/03/24 12:53
(ネタバレなし)
「僕」こと、ロンドンで株式仲買を職業とする26歳のマルカム・ウォレンは、親類縁者の中で筆頭の金持ちである65歳の伯母キャサリン・カートライトに招かれ、投資の相談を受けることになった。大富豪だった亡き夫ジョン・デニスの莫大な遺産を継承したキャサリンは現在、彼女の愛車の元管理人だった38歳の男性ハンニバル・カートライトと再婚しており、マルカムはそのハンニバルともそれなりに仲が良かった。だがマルカムの訪問中、強壮剤の瓶に入った毒薬で叔母の命が絶たれる事件が起きる。

 正統派の英国風パズラーで、ポケミス200ページ弱という紙幅も手ごろですらすら読める。名前を与えられた登場人物(主に主人公の広義の親類縁者)は50人近いが、本当に重要なのはその内の10人前後。物語上で焦点を当てられたそれらの主要人物たちに関しては、なかなかキャラクターがくっきりと描き分けられて印象に残る。
(一方でマルカムの生意気そうな美人の従姉妹たちなど、もうちょっと活躍させればという面々も多いが。あと、前半でいかにも思わせぶりに登場しかけておいて、結局そのまま消えてしまう看護婦はいったい何だったのだろう?)

 なお解説で編集者のM氏(たぶん都筑道夫)が<本作の時代の先端ぶり>を謳っているものの、この点に関してはnukkamさんのおっしゃるように、実は特に際立った新しさは感じられない。むしろ伝統的な、人間模様の綾のなかにフーダニットを埋め込んだ手堅く愉しめる一冊という感じ。個人的には、真犯人もかなり意外である(伏線や手がかりもそれなりに用意されてはいる)。
 
 あと、これもまたnukkamさんの言われるとおりだが、13章での主人公のぶっとんだ行動にはかなり虚を突かれた。天然ボケのユーモアなら、これはこれで実に味がある。くわえて主人公がミステリファン(ゴア大佐もので有名なリン・ブロックを読んでいたり、ウォーレスを購入したりする)というのも微笑ましい。本作はシリーズものになってるらしいので、論創あたりでできればこの続きを今からでも出してほしい。

 ところで本書の翻訳は大ベテランの宇野利泰らしく、古い訳文ながら総体的にはとても読み易いのだが、名前や人称の表記などの面ではどうも杜撰。
 主人公の名前は、裏表紙のあらすじと登場人物一覧表代りの巻頭の家系図では「マルコム」表記なのに、実際の本文では全編通して「マルカム」だし(……)、一人称の「僕」が時たま地の文で「私」(P62、77)や「おれ」(P66)に変わったりもする。さらに端役の警察医マシューズがあとあとでマシウスと表記されたりしている(同一キャラだよね?)。
 こういうのは訳者ばかりでなく編集の責任でもあったのだろうけど、きっちりとして欲しかった(次の重版の機会がもしあれば、その時はよろしく)。 

No.1 5点 nukkam 2016/01/06 18:25
(ネタバレなしです) イギリスのC・H・B・キッチン(1895-1967)は裕福な家庭出身の上に証券取引などで財産を増やしたおかげでかなり悠々自適な生活をおくったという、何ともうらやましい境遇の作家です。作品数が長編5冊と短編集1冊のみといっても本人にとっては余技程度だったのかもしれません。1929年発表の本書はマルコム・ウォレンシリーズ第1作の本格派推理小説で、「30年後の本格探偵小説のたどりつく姿を示した作品」と極めて高く評価されているようですが、残念ながら私の知能水準では本書の何が時代を先取りしているのか理解できませんでした。主人公のマルコムの1人称形式、しかもマルコムが探偵役であり容疑者でもあるという設定は確かにユニークで、それ以上に珍しさを感じたのがイラスト付きの家系図です。しかし人物描写もストーリー展開も非常に地味です(13章でのマルコムの突拍子もない言動には驚きましたが)。マルコムも色々と推理はしているのですがどこか迷走気味で、解決も唐突感があります。せっかくの家系図も容疑者となる者がほんの一握りでは十分に活用されたとは言えないでしょう。


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1956年08月
伯母の死
平均:5.50 / 書評数:4