海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

弾十六さん
平均点: 6.14点 書評数: 529件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.529 6点 なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?- アガサ・クリスティー 2025/09/11 06:08
原題Why Didn't They Ask Evans? 日刊紙News Chronicle 1933-09-19〜11-01 (37回, 挿絵画家不明)、米国初出: 月刊誌Redbook 1933-11 (1回 挿絵Joseph Franké、短縮版、掲載タイトルThe Boomerang Clue)、単行本: 英版Collins(1934-09) 米版(1935 The Boomerang Clue)
楽しい軽スリラー。アガサさんお得意の若い娘の冒険物語。男は助手的な役割。意外と女性が活躍する話は当時は少なかったのでは?ロマンスもあり、めでたく新聞連載に採用された。
オハナシとしては『秘密組織』のノリを再現したような感じ。ロマンス部分の緊張感が足りないけど、謎を上手に処理していて、楽しい感じを保っている。アガサさんは基本的に無邪気なヒトなのだ。
以下トリビア。
小説中に月日と曜日の組み合わせや季節などの記載が全くないが、作中現在はp12, p18, p49, p89から推測可能。ウェールズで日没が18:00なのは3月10日か10月18日(Webサイトtimeanddate.com、天体アプリSteralliumでCardiffの1930年3月10日18:00を再現してみたが日没で間違いなかった)、事件の日は5日なので3月5日水曜日が冒頭。直近では1930年が該当。
英国消費者物価指数基準1930/2025(83.53倍)で£1=16304円、1s. =815円、1d. =68円。
p10 ボビイ・ジョーンズ(Bobby Jones)◆ 球聖Bobby Jones(1902-1971)は1920年代に大活躍している。
p12 太陽はまさに沈みかけていた(The sun was on the point of setting)
p18 六時のミサにオルガンを(to play the organ at the evening service at six o'clock)◆ evening serviceは英国国教会の公式訳語では「晩祷」らしい。「ミサ」は内容が異なる用語のようだが、詳しく調べていません…
p21 ショパンの葬送行進曲(Chopin's funeral march)◆ ピアノソナタ第2番 変ロ短調 作品35の第三楽章。
p25 切符の色(My ticket's the wrong color)◆ 客車の一等、二等、三等の切符の色は違うようだ。鉄道各社で共通だったのだろうか? ググって画像を探したが、よくわからなかった。
p26 五シリングのチップをはずむ(habits of tipping everybody five shillings)
p26 バスルームはいつまでたってもあんなふう(the bathrooms in the state they are)◆ ここの意味は良くわからない。
p27 バルリング(Bullring)◆ クラブ?の名前のようだ。バーミンガムのBull Ringに関係あり?
p28 テニスをする(play tennis)◆ 第13章でもテニスをやっている。
p29 検死廷(インクエスト)
p40 事故死(misadventure)◆ Inquest用語としてはan accidental death caused by a risk taken voluntarily(リスク承知の行動が引き起こした不慮の死)。これに対してaccidentという評決は「故人が無分別な故意のリスクを冒していない」という含意があるようだ。(英Wiki "Death by misadventure"より)
p45 日曜新聞の通信欄(a correspondence in a Sunday paper)
p49 六日付の手紙(Your letter of 6th)◆ 事件の次の日
p50 十五ポンドで五台(five cars... for fifteen pounds the lot)… オースチン(Austin)… モリス(Morris)… ロベル(Rover)◆ 中古車の仕入れ値。かなり安いので、大きな修理が必要なボロ車だろう。1920年代のAustin Sevenの広告では145ポンド〜。
p51 ヴエノス・アイレス(Buenos Aires)◆ なぜ「ヴ」?
p59 ベントレー(Bentley)◆ Bentley 4½ Litreだろう。p268ではthe green Bentleyと色指定があった。
p60 へびの歯の話に効果を与えるために、シェークスピアを引用(quoted Shakespeare on how sharper than a serpent's tooth)◆ 翻訳はちょっとズレている。"King Lear" Act I, Scene 4の、親が子どもに感謝されないことの辛さや悲しみはserpent's toothの痛みより酷いというセリフから。
p63 お墓参り(a graveyard suggestion)
p66 不景気時代(in these hard times)
p69 『第三の血痕』(The Third Bloodstein)◆ 架空の探偵小説
p69 ソーンダイク張り(running on Dr. Thorndyke)
p71 クイダの小説(a novel by Ouida’s)◆ 「ウ」と書いたつもりの手書き翻訳原稿を「ク」と読み違えたか。英国女流作家Marie Louise de la Ramée(1839-1908)のペンネーム。代表作はUnder Two Flags(1867)だが、日本では『フランダースの犬』(A Dog of Flanders(1872)が圧倒的に知られている。日本アニメの前に英米でも4回(1914,1924,1935,1959)映画化されている。
p71 『ジョン・ハリファックス氏』(“John Halifax, Gentleman”)◆ Dinah Craik作の小説(1856)。作者Dinah Maria Craik(1826-1887、旧姓Mulock)はMiss Mulock とかMrs. Craikと呼ばれる。アガサさんはこの後で"Mrs. Mulock Craik's John Halifax"と書いていて、作者名をちょっと勘違い。
p71 {ボビーが傑作だと考えている探偵小説}◆ いずれも架空。タイトルのみ。The Case of the Murdered Archduke & The Strange Adventure of the Florentine Dagger
p77 単独犯のほうがずっと高級(A single-handed murder is much higher class)◆ あの作品を書いた作者もちゃんとこういう考えを持っていたのだ。
p83 シャーロック・ホームズ君(Sherlock)◆ 「シャーロック」で十分通じるはず。
p88 フレンチというのは小文字でfがふたつ(Two small f's)◆ 翻訳では何のことか分からなかった。原綴はBassington-ffrench。ffrench姓はアイルランド系のようだ。
p89 水曜日(Wednesday)◆ 事件があった日
p91 お札… 札もばらのまま(a couple of Treasury notes —loose, not in a case)◆ 「小額紙幣」という趣旨だろう。1ポンド札&10シリング札は、元々はTreasury発行だったが、1928年以降、イングランド銀行からSeries A (1st issue)が発行されている。
p92 濃紺のタルボット(Dark-blue Talbot)◆ 1926年発表の高級車Talbot 14-45か。
p94 軍隊用の拳銃(a Service revolver)◆ 当時ならWebley revolver一択。
p102 クライスラー(Chrysler)
p102 スタンダード(Standard)... エセックス(Essex)◆ どちらも自動車のブランド。
p108 治安判事(a J. P.)◆ Justice of the Peaceの略。古い由緒ある語magistrateと同じ。
p109 半クラウン(a half-crown)
p111 クリスチャン・サイエンスの信者(a Christian Scientist)◆ 医療否定のイメージは世間に広く知られていたんだね。
p116 『風来坊』(the ne'er-do-well of the family)
p116 今年の春(this Spring)◆ 作中時点で、まだ春は終わってないのでthisという解釈で良いかなあ。
p117 去年の冬(last winter)
p128 十六日(16th)
p129 先月(last month)◆ この時点で、事件の翌月になっている。p128でlastもthisもつけず、単に16thと言っているので、ここの作中現在は1日〜15日なのだろう。
p133 アドルフ・ベック(Adolf Beck)◆ ノルウェー生まれの英国人(1841-1909)。1895年と1904年の2度も人違いで逮捕され2回とも有罪とされた。2回目の有罪宣告の10日後、両事件の真犯人Wilhelm Meyerが逮捕され事件は解決、不当逮捕の補償金として五千ポンドが与えられたらしい(英wikiより)。 『検察側の証人(戯曲版)』、セイヤーズ『誰の死体?』でも言及されていた有名人。
p133 リヨン・メイル(the Lyons Mail)◆ Charles Reade作の劇The Courier of Lyons(1854)を作者自身が改作した劇がThe Lyons Mail(1877)。登場人物が非常に似た悪党と取り違えられる、というプロットなので、ここで言及されているのだろう。英国で1931年10月公開で映画化されている。なお演劇の方は1923年と1930年10月〜11月にリバイバル上演あり。
p137カルチュア(a culture)◆ 「培養」という意味もあるんだね。ここは「育成」と訳すと上手くいくかなあ。
p139 メッセンジャー・ボーイ(the messenger boy)
p139 探偵のまね(sound like a detective)
p144 ハロッズ(Harrod’s)
p144 ダイムラー(Daimler)
p144 二人乗り(two-seater)
p146 一九〇二年型の二人乗りのフィアト(a two-seater Fiat dating from 1902)◆ レーシング・カー仕様のFiat 24 HP Corsaだろうか。
p153 くねくねと曲がっているその小道… まったく、ボビイは 「ふしぎの国のアリス」のなかの人物をおもい出していた(the path, which twisted a good deal — in fact it reminded Bobby of the one in "Alice Through the Looking-Glass")◆ oneは人物ではなく「小道」のこと。「鏡の国」第2章冒頭に出てくるコルク抜きのように曲がりくねったpathの連想だろう。
p156 ベイコン・エッグ(bacon and eggs)… コーヒー(coffee)◆ 宿の朝食
p165 電話帳(a telephone directory)
p166 いちどきに六シリング八ペンスもの手紙を出して(write letters at six-and-eight-pence a time)◆ 「時給6シリング8ペンス(約5400円)で」という事だろうか。弁護士の悪口を言っている場面なので数値は適当だろう。昔、弁護士の相談料は30分5000円だった記憶あり(今も変わってないみたい)。
p174 ドル相場がだいぶぐらついている(you know there's rather a serious fluctuation in the dollar just now—)◆ 1926-1930は£1=約$4.86、1931が$4.54、1932が$3.51、1933が$4.24。大恐慌の影響でポンド安に振れている。この記述は、執筆時の状況を反映したものか。
p225 ピストル(a revolver)◆ 「回転式拳銃」と訳して欲しいなあ…
p234 女子福祉委員会に話を持ち込む(you were recommending a case to the Girls' Friendly Society)◆ GFSは1875年創立の英国国教会関連の慈善団体。
p235 「なにをするにしても、早くやったほうがいい… このことば、なにかにあった?」 "... whatever we're going to do we'd better do it quickly. Is that a quotation?" / 「なにかの本にあったよ。それで?レディ・マクベス」 "It's a paraphrase of one. Go on, Lady Macbeth."◆ 原典をさりげなく示す良い工夫。"Macbeth" Act I, Scene VII より。元は"If it were done when 'tis done, then 'twere well it were done quickly."
p237 検死廷(インクエスト)(The inquest)◆ この訳語も良いなあ。
p243 「よき時代」(better days)
p243 売・貸家、家具なし(it was to be sold or let unfurnished)
p244 政党勧誘員(the political canvasser)
p244 「保証人?」"References?" /「… 前金でお払いになった… 電気代とガス代は供託した…」 "He paid the quarter's rent in advance and a deposit to cover the electric light and gas."◆ 貸家は、借り手の身分確認の照会先を求めるようだが、家賃などを前払いするなら、照会先を問わずに貸してしまう場面が探偵小説では多く見られる。
p245 家具つきの貸家でなければ同行しないのが習慣らしい(perhaps they only did that [accompany XXX] when it was a question of a furnished tenancy)◆ 不動産屋が、ただ貸家の鍵を渡して勝手にご覧ください、という場面。
p246 ABC鉄道案内(A.B.C. railway guide)◆ 正式名称はピリオド無しの"The ABC or Alphabetical Railway Guide"
p248 ロンドンに… 一シリング払うと遺書を読ませてくれるところがある(in London, … was a place where you went and read wills if you paid a shilling)... サマセット・ハウス(Somerset House)
p256 去年の十一月(in November of last year)
p258 『精神異常時における自殺』… 例の如く同情的な評決(the usual sympathetic verdict of 'suicide while of unsound mind')◆ unsoundに裏付けは全くないが、教会での埋葬を可能にするための付け足し。sympathticと表現されている。
p261 貴族年鑑(a Peerage)
p264 軍隊用のピストル(Service revolver)◆ 回転式拳銃… (しつこいよ!)
p272 検死官の権限というものは、大したものなのです(He [the Coroner] has wide powers)◆ インクエストにおいては、あらゆる権限を独占している。だが評決は陪審員の専決であるところが面白い。
p305 たらに卵にベイコン、コールド・ハム(haddock and eggs and bacon and cold ham)◆ 宿の朝食
p311 ばかの扱い方(with nitwits)
p321 二シリングの切手(a two-shilling book of stamps)◆ 正しくは「2シリングの切手シート」。たぶん半ペニー切手48枚綴り。当時の手紙料金(国内)は重さ2オンスまで1+1/2ペニー(three halfpennyという)。
p321 この間の銀行休日(バンク・ホリデイ) last Bank Holiday◆ 今は日数が増えているようだが、当時のイングランドではEaster Monday(3月~4月)、Whit Monday(5月~6月)、8月第1月曜日、Boxing Day(12/26)の四日のみ。「つい先日も」というニュアンスの発言と受け取ると、ここはEaster Mondayのこと? 1930年のEaster Mondayは4月21日。ここまでの時間経過は明確ではないが、日にちが少々経ち過ぎてる感じ。去年のBoxing Dayのことを言ってるのかも知れない。
p331 『悪いやつ』(wrong 'un)

No.528 7点 推定相続人- ヘンリー・ウエイド 2025/07/20 04:49
1935年10月出版。岡さんの翻訳は文句なしです。
本作はハラハラドキドキ。主人公も憎めないキャラなので、皆さん気にいるでしょう。ダメな分家が気取った本家を見返してやろう、と右往左往。いろいろ趣向があって、途中でトーンが変わるのも良い。鹿猟の場面が印象的。初心者にあそこまでさせるってホスト役も大変だなあ、と思いました。
本作にも相続のこととか、インクエストとか、イングランドとスコットランドの違いとか、英国独特のネタが満載で、むしろそっちに興味がある私も十分満足。メインのお話の流れも面白く、ラストも実に良い。
ちょっと気になったのは、三人称のフォーカスが、一瞬主人公から外れるところ。視点は固定してた方が効果的だと思うけどなあ…
トリビアねたは豊富なんだが、原文が入手出来ず、どうしようかなあ。

No.527 7点 警察官よ汝を守れ- ヘンリー・ウエイド 2025/07/15 03:41
1934年7月出版。鈴木さんの翻訳は上質でした。
ウエイドさんは組織人なんだなあ、という感想。組織の中の軋轢とか、地方自治体の上部団体との関係とか、上司部下の関係とかをたくみに描く。こういうのは、そういう経験がないと書けないと思う。CIDと地方警察の捜査協力も、クロフツが描くのとは一味違った細やかなリアリティがある。個人主義、と言われる英国だが、けっこう周りにいろいろ配慮しているのだ。そして、当時の銃器特定検査が出てくる。コニントン『キャッスルフォード』(1932)では覚束ない科学鑑定のように描かれていたが、ここではちゃんとした確認が出来る法科学となっている感じ。旋条痕も顕微鏡で確認している。ほかに検死廷で犯人と名指しされたら、警察はホンボシは違うと思っていても逮捕しなければならないなど、興味深い制度上の問題も書かれていた。
ミステリとしては、アクロバットより納得感を大切にしている作者である。今まで読んだ作品も皆、無理矢理作ったところがあんまり無い。それでいて、いろいろ引っ張り回して悩ませてくれる。一見、これはあからさますぎ?と感じたところも、なるほどね感を重視していると思えば、むしろ良い工夫かも。最近よく言われる伏線回収の妙、というやつだ。
トリビアは後ほど。今回は原文が入手出来た。
先出しで銃関係を一件だけ。
p14 ドイツ軍の機関砲(a German machine-gun)◆ 言及されているのは第一次大戦なのでMG08(使用弾は8mmモーゼル)。「砲」は大口径(20mm以上)の用語であり、機関砲(autocannon)はmachine gunとは違う。訳者は「機関銃」と訳すと手で持ってバリバリやるトンプソン・サブマシンガンみたいなものだと誤解されると思ったのかも。それなら「重機関銃」とする手もあった。だが第一次大戦当時、手持ち式マシンガンはまだ開発されておらず、据え付けの(今でいう)重機関銃が一般的なので「機関銃」が実は一番良い訳語である。

No.526 6点 リトモア少年誘拐- ヘンリー・ウエイド 2025/07/11 23:31
1957年3月出版。初出は英国週刊誌John Bull 1957-02-02〜02-23(四回連載) 連載タイトル"The Stolen Boy"、挿絵Ostrick。国会図書館デジタルコレクションの創元推理文庫版で読みました。中村保男さんの翻訳、植草甚一さんの解説です。
英国では誘拐事件は米国ほど流行ってないらしく、そこが面白い。しかも田舎警察なので対応にも悩みが伺える。報道に対する扱いも興味深かった。日本のトニー谷の息子誘拐事件が1955年である。要求された身代金は200万円。米国だと1953年カンサス州のGreenlease少年誘拐事件があり、身代金は$600,000(米国消費者物価指数基準1953/2025で$1=1773円)だった。
本作は、派手さはないけど、たくさんの警察官たちが親身に描かれている。作者の友人に関係者が多かったのかなあ。
まあそれでも『塩沢』と同じくケレンが好きな人には合わない小説ですね。私は英国っぽさを感じられたので実に楽しい読書でした。これも数日かけてゆっくり読みましたよ。
トリビアはどうしようかなあ。原文が入手できないのでやる気が半減しちゃうのだ…
作中現在は小説中に明記されている。英国消費者物価指数基準1955/2025(33.53倍)で£1=6665円
ウエイドさんが気に入ったので、翻訳書をたくさん購入中。原文が入手困難なのが残念。

No.525 6点 塩沢地の霧- ヘンリー・ウエイド 2025/07/07 03:07
1933年10月出版。駒月さんの翻訳は非常に素晴らしい。
私はなるべく出版社が提示しているあらすじとか帯とか一切読まずに、事前情報ゼロで読むのが楽しみ。犠牲者は誰かなあ、この話の進み方ならこういう流れになるのかなあ、とかあれこれ想像しながら読み進めるのが良い。本作は、そういう読み方にピッタリの作品。
じっくりと読ませる文章で数日かけてゆっくり読みました。
まあでも最終的な感想はうーん、これはこれで良いけど傑作とは言えないなあ… 第十四章で緊張を一旦切ってしまっているのがどうもなあ、という印象です。
月日と曜日が記されているので(七月二十八日木曜日(p252)など)作中現在は1932年なのだろう。
原文は入手困難。トリビア一か所だけ。
昔、フィルポッツ『溺死人』で書いたけど、本作にも「"溺死体発見"(p186)」という表現が出てくる。原文はfound drownedだろう。ちょっとググったらAIがわかりやすく説明してくれる時代となりました。"Found drowned" refers to the formal verdict given when a person's body is discovered in water, with no evidence of foul play.などなど。「ヴィクトリア朝やエドワード朝の検死官報告や新聞記事によく見られる表現」といたれりつくせりです。なので、この箇所は「"溺死と評決される事件"」と翻訳するのが良いでしょうね。

No.524 6点 プレード街の殺人- ジョン・ロード 2025/06/28 02:44
1928年出版。国会図書館デジタルコレクションの「Ondori Mysteries」(表紙にも奥付にも日本語の表記無し)で読みました。森下雨村訳は日本語として、こなれてるなあ。
さて人並由真さまが(ネタバレ有りなので、事前に読むのは慎重にしていただきたい)もしかしたら、原書やおんどり版は… と書かれておられます。どちらもチェックしましたけど、もちろんそんな描写はありません。
雨村訳にはちょっとした誤りがあります。結構大事なポイントなので、あらかじめ書いておきますね。「第四章 毒のパイプ」の後半で、「半ペニーくらいの大きさの、原料に骨片を交ぜた白いカード」が登場するのですが、半ペニーなんて直径25.48mmですよ。カードにしてはずいぶん小型だし「骨片」入り、というのも気になる。原文はa white bone counter, about the size of a halfpennyでした。「ゲーム用のチップ」ですね。bone game counter antiqueで検索すると出てくるような物でしょうね。
さて、お話自体は本格物ではなくて軽スリラーですね。プリーストリー博士が意外と、かなり行動的なのでちょっとビックリ。物語の最初の方は、英国中流層で叩き上げの父親が上流階級に憧れてるのですが、妻と娘とは考え方が異なり、少々波乱あるホームドラマを予感させます。なかなか良い感じですが、ここら辺の掘り下げが足りないかなあ…
まあでも、展開が面白くて満足です。
トリビアは後ほど。

No.523 7点 銀のサンダル- クリントン・H・スタッグ 2025/05/25 02:12
1916年出版。初出People's 1914-07〜11(5回連載)、挿絵J. A. Lemon。ヒラヤマ探偵文庫(2025)。アガサ・クリスティ『二人で探偵を』に登場する忘れられた探偵シリーズを発掘する試み。平山先生は次々と精力的に古い探偵小説を翻訳されておられ、実に素晴らしい。本作のようなストレートな文体は平山先生の文章にピッタリ。同人誌だと数量限定なので、値段は同じで良いから電子本で出して欲しいです…
本書の内容は、怪奇風味のある無茶苦茶な冒頭で、目まぐるしいスピード展開が素敵な軽スリラー。手がかりは盲人探偵コルトンがどんどん勝手に見つけて、推理も直感的かつ自由闊達にズバズバ、本格ものとは言えないでしょうね。
本文レイアウトに苦情を一つ。割注の文字が小さすぎて読みにくいです!
------------
以下トリビア。翻訳はヘンテコなのがほぼ無くて上々。誤植や気になった所を書いておきます。同人本なので訂正はめんどくさいですからね。いずれもうっかりレベルで、たいした誤りではありません。平山先生におかれましては、これからもたくさん翻訳をお願いいたします!
原文はHaitiTrustでW. J. Wattの初版が一冊丸ごと読めます。Will Fosterの素敵なイラスト二枚入り。
p7 点字で書かれた手紙(the raised Braille letters)◆ 試訳「盛り上がったブライル式点字の文字」
p10 ビューモンド(Beaumonde)◆ 高級ホテルの名前。気取ってフランス風に「ボーモンド」なのでは? beau mondeなら英語でも「ボー・モンド」と発音する。
p12 「お前はわれらの命令を知っているだろう。注意せよ」(You have our order. Attend to it)◆ 試訳「注文は伝えた。その通りで頼む」
p13 ポール・ロジェ五六年もの(Pol Roger '56)
p14 連れがいない女性に関するブロードウェイのルール(Broadway rule regarding unescorted women)◆ まだ女性には窮屈な時代。淑女が「お一人様」を獲得するのはいつ頃から?
p24 マクマン警部(Captain McMann)◆ 短篇集には登場しない。
p26 検死官(coroner)◆ この時代、ニューヨーク市はまだ検死官制度を維持していた。
p27 バイアーバウアー(Bierbauer)◆ 検死官。短篇集には登場しない。
p33 第四章 試行錯誤(Trail)◆ ケアレス・ミス。「追跡」
p34 ゲインズバラ風帽子(Gainsborough hat)◆ フリーマン「青いスパンコール」(1908)で被害者が被っていたような帽子だろう。ここの書きっぷりだと、当時はやや流行遅れだったか。
p36 タクシーのエンジンをかける係が車のドアを開けて待っていた(The cab starter held open the door of a taxi)◆ cab starterとはタクシーへ乗客を誘導するのと、クランクを回してエンジンをかけるのを兼ねた仕事なのだろうか? ググっても出てこなかった。
p36 コルトンの長くて黒い車(Colton's long, black car)◆ 短篇集ではbig black automobileと形容されているだけ。ロールスロイス・シルバーゴーストだと推定しておきましょう。
p36 三十三丁目◆ ブロードウェイのビューモンド・ホテルは、ここより北か南か。
p37 ガチャガチャと音を立てている高架鉄道L線の下、三番街を下った(down Third Avenue, under the clank and clatter of the L trains)◆ L線(L train)とは高架鉄道(Elevated Train)の愛称。"El"とも言う。ここら辺の記述から三番街を南下してマディソン街(23丁目?)からチャタム広場の方へ行ったようだ。この区間は1955年に廃線となっている。
p39 牛乳配達のワゴン(a milk wagon)◆ この時代は馬引きかも。
p41 Shrimp◆ フィー(The Fee)の別名。コルトンはここで2回、Shrimpと呼びかけているが翻訳では省略。翻訳では煩わしいので、他のShrimpも「フィー」で統一している。アガサさんの『二人で探偵を』では「フィー」と「シュリンプ」に言及してるので、原文に忠実にしてほしかったなあ。なお、地の文でもThe FeeとShrimpを併用している。第一作目の短篇The Keyboard of Silence(初出1913-02)の設定はテムズがThe Feeと呼ぶ、となっている。
p43 自動車免許局(Bureau of automobile licenses)◆ 車のナンバーから持ち主を調べられるようだ。
p48 黄金の錠前(Golden Locks)◆ 「金色の巻毛」かも。錠前に関連した働きはしていない。
p54 心霊主義者のありとあらゆるトリック(all the tricks of the spiritualist charlatan)◆ 原文では一応charlatan(ペテン師)に限定している。
p60 ブロードウェイ最大のホテル(one of the biggest Broadway hotels)◆ ブロードウェイの大きなホテルを探したら、名前が似た感じのHotel Belleclaireと言うのがあった。西77丁目ブロードウェイの建物で1903年開業。
p64 シャーロック・ホームズ
p68 夕刊の早刷り(early evening papers)◆ 臨時大ニュースなので、夕刊紙でも早朝号外を出すのだろう。ここの感じだと朝7時ごろの発売か?日刊紙の早刷りはそれより早いようだ。あるWeb記事で日刊紙の記者が「午後版を同じ日に数回出したこともあるよ」と書いていた。
p71 ベルティヨン法(Bertillon measurement)◆ 現役の犯人特定方式である。
p76 そちらの時間で真夜中になる一時間前(for an hour before your time of midnight)
p77 よろしければただちに捜査を開始し(Kindly proceed at once to make your official investigation)◆ 検死審問が終わらないと埋葬出来ないため。
p79 所収者◆ 「所有者」の誤植だろう。
p83 十二月八日(December 3)... 六十八歳(age 63)◆ 冒頭の日付と年齢。どちらも8に見間違えそうな書体だが、参照した初版のファクシミリでは間違いなく「3」である。
p86 赤毛の少年(A red-haired boy)◆ フィーは赤毛なんだ。
p88 一ドル◆ 鳥を入れる箱(a bos to put the bird in)の値段。
p92 チェス(chess)... 犯罪ゲーム(crime game)◆ 面白い光景
p92 十セント銀貨(silver dime)
p96 身分証明書(his papers)
p100 電話番号を交換台に告げた(gave a number over the phone)◆ 当時の電話にはダイヤルは無い。全て交換手に番号を告げ、接続してもらう方式。多分キャンドルスティック型。
p115 最新の流行歌(one of the latest songs)
p117 m中に入るとわずかに肩を落とした(inside the door, his shoulders dropped a trifle)◆ 「m」は誤植。「ドアの」が欠けているが、無くても意味は通じる。
p117 セレスティン(Célestins)
p120 ソーンさん(Thorn)◆ テムズがソーンレイを呼ぶ時の愛称。
p121 第二十七分署(Twenty-seventh Precinct)◆ コルトンの住所から車を北に飛ばして十分の距離。27分署は実在しないようだが、番号付けのルールから考えると、もしあれば山手のハーレム地区(155丁目〜96丁目)だろう。
p138 三回切り込みを入れました(It was then the three slashes on the wrist were made)◆ 原文では動作主が不明なので「切り込みが入れられた」と受動態にすべきだろう。
p139 コルトンはそれが何かすでにわかっていた。◆ その後のパラグラフが丸ごと抜けている。ちょっとネタバレなので、未読の方は飛ばしてくださいね。
Father intended that the truth should be known the day after his death. He did everything he could to protect us. He sent the notes, with the bottle of wine. He knew that it could be easily proved that he had written them. The notes to the
police and the coroner were Philip's idea. Father sent the death notices. He posed for the photograph in the robes he always wore at home. They seemed, to us, the things that would convince any one that there had been no foul play.
[概要] 父は死後に全てが判明するように計画した。ワイン・ボトルを添えてメモを送った。警察と検死官宛のメモはフィリップのアイディア。父は死亡広告を新聞に送り、いつも着ているローブ姿で写真を撮った。これで誰もが不正なことはないとわかってくれるものと思われた。
p141 誰かが慎重に計画を練り、彼を冷血そのものに殺害した(Some one had taken advantage of the carefully laid plans. Some one had murdered him, killed him in cold blood)◆ 試訳「誰かが慎重に練った計画を利用した。彼を冷酷に殺したのだ」
p146 ではおやすみなさい(アウフビーターゼーエン) Auf wiedersehen◆ なぜドイツ語?
p148 大型のフェアフィールド(Big Fairfield car)◆ デトロイトのPaige社のブランドだが1915年からの発売なので作者としては架空メーカーのつもりだろう。
p148 二十四時間営業のドラッグストアにある電話ブース(an all-night drug-store 'phone booth)
p152 流行曲の合間に(between two bars of one of the latest musical atrocities)
p159 ポーの小説に登場する、文字の出現頻度を数える方法(The Poe method of counting letters)
p159 残した暗号も、コルトンの頭脳ならなんということもなかった(Colton's brain could make nothing of the cryptogram that old man had left to be solved)◆ コルトンの頭脳でも歯が立たなかった、という意味だろう。
p162 フェアフィールド60(A Fairfield sixty)
p171 ナディン(Nadine)◆ Nadine Nelson、短篇The Ringing Goblet(初出People's 1913-09)に登場する。
p178 警察官は… 手を振り回した(Policemen... took a step forward with upraised hand)◆ ニューヨークで信号機が整備されるのは1930年ごろからなので、交通整備は警官がハンドサインや手動のGo&Stop回転棒を持って交差点で指示していた時代。
p183 補助椅子(the rumble seat)
p183 運転◆ いくら何でもヤバすぎるでしょう。だが当時、運転免許制度は無かったようだ。地下鉄サムが自動車を初めて買った時(1919)、ディーラーから数時間チョチョイと教えられただけで公道に出ている。
p188 第二十章の表題 (Carl's Story)◆ うーん…

No.522 7点 地下鉄サム(平凡社)- ジョンストン・マッカレー 2025/05/17 18:10
地下鉄サムを追っかけて、いろいろ判明したつもりになっていたが、Aga-Searchさんの「地下鉄サム」のページを見ていたら、『平凡社 世界探偵小説全集7』(1929年、横溝正史 訳)に創元推理文庫にもグーテンベルク21にも未収録の短篇があることに気付いた!
お馴染み国会図書館デジタルコレクションで読めるので、早速調査しましたよ。
収録全15作中、6作がダブり。9作が新たに読めることが判明した(この数はAga-Searchさんの推定どおり)。従来、私が推定した原題が誤っていると思われるものも数篇あった(こっそり修正済み)。これで現在、日本で気楽に読めるのは41+1+9の邦訳51篇、英文28篇、合わせて全79篇である。(2025-05-18修正: Internet Archiveに初出雑誌DSMが大量に登録されていた。英文の数字を修正)
----------
以下、平凡社版の収録作品。年代順に読んだ方が良い作品もある、と思う。
原題を同定しようと頑張ったけど、原文が入手できず、推定がほとんど。記号なしは確定、☆は「たぶん」、?は「決めてに欠けるがそれっぽい」DSM= Detective Story Magazine、#️⃣表示はシリーズ通算番号、MegaPakは電子本"Thubway Tham MegaPack"収録、WikiTextはWiki sourceに英文あり(リンクはJohnston McCulleyから) ◉はグーテンベルクor創元文庫とのダブり作品
横溝正史の翻訳も坂本義雄、乾信一郎と同様、ちゃきちゃきの江戸弁である。ダブりの数篇の翻訳は微妙に違っていて、読み比べるのも面白い。
(1)「サムと田舎者」 ?"Thubway Tham and the Rube" (初出DSM 1927-11-12) #️⃣86
ニューヨークは初めて、と言う田舎者と知り合ったサム。下心満々で地下鉄見物に案内してやるが…
(2)「サムの不景気」 ☆"Thubway Tham’th Buthinethth Thlump" (初出DSM 1923-01-20) #️⃣57
◉グーテンベルク続(10)「サムの不景気」と同じ作品。
(3)「サムの双生児」 ?"Thubway Tham’s Double" (初出DSM 1918-12-03) #️⃣8
ノエルが「縄張りを荒らすな!」と文句をつけてきた。何のことだかわからないサム。
(4)「サムの恐怖」 ☆"Thubway Tham’s Terror" (初出DSM 1928-05-05) #️⃣91
つい獲物を追いすぎて大学のある北ターミナルまで来たサム。知らない土地だが、放心家の教授が膨らんだ財布を持っているのに気づき…
(5)「サムの愛國者」 ☆"Thubway Tham, Patriot" (初出DSM 1928-02-25) #️⃣88
明日はワシントンの誕生日。サムは新しい下宿人が建国の父を悪く言うのを聞く。
(6)「サムの正直」 "Thubway Tham’th Honethty" (初出DSM 1922-10-21) #️⃣ 54 MegaPak4
◉創元文庫(6)「サムの紳士」と同じ作品。
(7)「サムのクロスワード」 ☆"Thubway Tham’s Crothword Puthle" (初出DSM 1925-08-29) #️⃣73
◉グーテンベルク正(5)「サムのクロス・ワード」と同じ作品。
(8)「サムの御奉公」 ?"Thubway Tham’s Underground Loyalty" (初出DSM 1925-07-04) #️⃣72
サムは地下鉄で偶然、悪党二人が何か企んでるのを見つけたが、チクる訳にはいかない。
(9)「サムの手術」 "Thubway Tham’s Operation" (初出DSM 1921-03-12) #️⃣36 MegaPak6
◉グーテンベルク続(4)「サムの手術」と同じ作品。
(10)「サムと悪童(チンピラ)」 ☆"Thubway Tham’s Pupil" (初出DSM 1926-10-09) #️⃣83
マディソン広場のいつものベンチに15歳くらいのガキがいて、何か絵を描いている。
(11)「サムとペテン師」 ?"Thubway Tham and the Con Man" (初出DSM 1926-02-13) #️⃣77
ノエルがシカゴから来たペテン師をサムに紹介する。スリを馬鹿され、サムの心に火がついた。
(12)「サムの合資会社」 ☆"Thubway Tham Meetth Elevated Elmer" (初出DSM 1925-06-13) #️⃣70
エルマーがサムに持ちかけた相談とは?なお翻訳で「昇降機(エレベーター)」となっているのはElevated Train(高架鉄道)の事ですね。
(13)「サムと魔法財布」 ?"Thubway Tham’s Puzzling Leather" (初出DSM 1927-11-26) #️⃣87
サムが「ご立派な男」からスった財布は不思議な細工だった。
(14)「サムの友情」 ☆"Thubway Tham’th Chrithmath Thpirit" (初出DSM 1922-12-23) #️⃣56
◉グーテンベルク続(9)「サムの友情」と同じ作品。
(15)「サムの自動車」 "Thubway Tham’s Flivver" (初出DSM 1919-07-15) #️⃣20 WikiText
◉グーテンベルク続(7)「サムの自動車」と同じ作品。

No.521 7点 下宿人- ベロック・ローンズ 2025/05/16 10:37
1913年8月末出版。初出Daily Telegraph連載1913-08-02〜(終了日、回数不明)。元々は英国Nash's Magazine 1911-01 挿絵A. C. Michael 及び 米国McClure's Magazine 1911-01 挿絵Henry Raleighの短篇を長篇化したもの。マクルーア誌の短篇版はWikiSourceにあり(英Wiki “The Lodger (novel)”にリンク)。短篇版の邦訳は無さそう。(2025-05-26追記: おっさんさまに邦訳ありと教えていただきました!『幻想と怪奇1 ヴィクトリアン・ワンダーランド 英國奇想博覧會』(新紀元社2020)収録です)
私は無料でダウンロード出来る林清俊さんの新訳で読みました。端正な文章が非常に良いです。他にも面白そうな翻訳作品がありますよ!http://classicmystery.web.fc2.com
----------
同じような内省を繰り返してる部分があって、どうかなあ、という印象があったのだが、成立過程を知って、なるほど、と思った。でもディテールを膨らませたおかげで、当時の金銭感覚や生活実態が読めて良かった。インクエストのシーンも短篇版には出てこないし。
じんわりくるホラーというよりサスペンス。グロい描写は一切なし。短篇版はざっと見た程度で、熟読してない。オハナシとしては短篇の長さで十分だろうと思う。
ヒッチ映画を見たら、感想を書きますよ。
トリビアもたくさん拾えた。これも後ほど。

No.520 6点 招かれざる客たちのビュッフェ- クリスチアナ・ブランド 2025/05/15 16:53
1983年出版。
クリスティアナ・ブランド書誌付き。
私は(5)英国ヴァージョン目当て。
----------
(5) Murder Game 「ジェミニー・クリケット事件」深町眞理子訳: 評価7点
米国バージョン(EQMM 1968-08 as "The Gemminy Crickets Case")は早川書房 世界ミステリ全集18『37の短篇』で読めます。
英国バージョン初出は短篇集"What Dread Hand"(1968-10出版)のようだ。出版年月と米国版初出を考慮すると、二つのヴァージョンは当初から存在していたようである。作者としては英国版が本筋だったらしい。なお出版月は英国The Bookseller1968年10月新刊リストで確認しました。
私の好みは米国版の方かなあ…
ワールドカップについては蟷螂の斧さまの評文に詳しく載っていました。英国バージョンだと「数か月前の事件」と思われるのでフットボール・ワールドカップで間違い無さそうだが、米国バージョンだと「少し前の事件」なので1960年のラグビー・ワールドカップ決勝戦の可能性もあるかもです…
---------
他の短篇についてはおいおいと。

No.519 6点 地下鉄サム選集- ジョンストン・マッカレー 2025/05/14 15:35
2016年発行。ヒラヤマ探偵文庫の電子本。
ごく初期の作品を収録。
#️⃣表示はシリーズ通算番号、DSM= Detective Story Magazine、MegaPakは電子本"Thubway Tham MegaPack"収録、WikiTextはWiki sourceに英文あり(リンクはJohnston McCulleyから)
(1)「地下鉄サム、魔が差す」 "Thubway Tham's Inthane Moment" (初出Detective Story Magazine 1918-11-19) #️⃣6 MegaPak13 WikiText
創元推理文庫(9)「サムと贋札」と同じ作品。未訳のを収録して欲しかったなあ。
(2) 「地下鉄サムの感謝祭のご馳走」"Thubway Tham's Thanksgiving Dinner" (初出Detective Story Magazine 1918-11-26) #️⃣7 MegaPak14 WikiText
派手に五ドルのディナー(午後1時)を二十人招待する、友達のいないサム。誰を選んで、どうやって金を工面する?
(3)「洒落者サム」"Thubway Tham, Fashion Plate" (初出Detective Story Magazine 1919-10-07) #️⃣21 MegaPak1
本字旧仮名に挑戦した意欲的な翻訳。

No.518 7点 地下鉄サム(グーテンベルク21)- ジョンストン・マッカレー 2025/05/14 15:03
『地下鉄サム 第1〜第3』坂本義雄 訳、日本出版協同(1952〜1953)全29篇を再構成したもの。創元推理文庫とはカブリ無し。
⚫️数字は日本出版共同版の収録巻。原題を同定しようと頑張ったけど、原文入手できず、ほとんど推定。記号なしは確定、☆は「たぶん」、?は「決めてに欠けるがそれっぽい」#️⃣表示はシリーズ通算番号、DSM= Detective Story Magazine、MegaPakは電子本"Thubway Tham MegaPack"収録、WikiTextはWiki sourceに英文あり(リンクはJohnston McCulleyから) 、IntAr(MGZN)はWebサイト"InternetArchiveに初出当該号のPDFあり。
発表順に読んだ方が面白い作品あり。特に続(3)→正(8)は続きものである(実は全5作のシリーズ)。正(15)は創元(10)で言及されてる、など。
----------
『地下鉄サム』収録作品
正(1)「サムの魚釣」❶ "Thubway Tham’s Fithing Trip" (初出DSM 1921-05-28) #️⃣38 WikiText
正(2)「サムのラジオ」❸ "Thubway Tham Tunes In" (初出DSM 1926-04-10) #️⃣79 MegaPak3
ラジオを買って夢中になるサム。ある日ムーアが頼み事にやって来た。
正(3)「サムと猿公」❷ ☆"Thubway Tham’s Monkey Pal" (初出DSM 1926-08-07) #️⃣82
正(4)「サムの良心」❶ ?"Thubway Tham’th Better Thelf" (初出DSM 1922-11-25) #️⃣55
路上で良心を説く男の話を受け売りしてクラドックに話すサム。だが縄張りを荒らされてると聞いて…
正(5)「サムのクロス・ワード」❸ ☆"Thubway Tham’s Crothword Puthle" (初出DSM 1925-08-29) #️⃣73
正(6)「サムと詐欺師」❶ "Thubway Tham Meets Mr. Clackworthy" (初出DSM 1922-02-18) MegaPak21 #️⃣50
Christopher B. Boothのシリーズ・キャラクターであるシカゴのクラックウォーシー&早起き鳥(DSM連載)と共演する企画もの。お返しにBoothは"Mr. Clackworthy and Thubway Tham" (初出DSM1922-03-04)を書いている。
正(7)「サムの誕生日」❸ "Thubway Tham’s Birthday" (初出DSM 1920-04-13) #️⃣27 IntAr(MGZN)
正(8)「サムの覚醒」❷ "Thubway Tham’s Dithilluthionment" (初出DSM 1921-10-15) #️⃣44 IntAr(MGZN)
正(9)「サムの競馬見物」❷ "Thubway Tham Goeth to the Ratheth" (初出DSM 1921-10-29) #️⃣45 MegaPak10
初めて競馬場に行き、レースに賭けたサム。
正(10)「サムの義侠」❷ ?"Thubway Tham, Hero" (初出DSM 1924-11-01) #️⃣66
女は嫌いだが、若い母娘と乗り合わせたサム。
正(11)「サムの陪審員」❶ ☆"Thubway Tham’th Jury Thervithe" (初出DSM 1923-02-10) #️⃣58
正(12)「サムと犬」❶ "Thubway Tham’s Dog" (初出DSM 1922-07-01) #️⃣52 MegaPak2
正(13)「サムとクリスマス」❶ ☆"Thubway Tham’s Merry Christmas" (初出DSM 1918-12-24) #️⃣9
ポーカーに負けて素寒貧だがクリスマス・プレゼントをあげたいサム。登場キャラ: ノエル
正(14)「サムの悪日」❸ ☆"Thubway Tham’s Tough Day" (初出DSM 1924-11-29) #️⃣67
なんだか運の悪い日。登場キャラ: ノエル
正(15)「サムの新弟子」❶ ☆"Thubway Tham’th Apprentithe" (初出DSM 1922-09-30) #️⃣53
----------
『続地下鉄サム』収録作品
続(1)「サムの女嫌い」❷ ?"Thubway Tham’s Female Petht" (初出Detective Story Magazine 1930-08-23) #️⃣96
上流夫人が道楽でスリの実態調査を希望し、サムが付き合わされる。登場キャラ: 鼻のムーア
サムが南極探検のバード少将と同じくらい知られている、と冒頭にあるので時事ネタと判断。1930年くらいの作品か?
続(2)「サムの礼装」❸ ☆"Thubway Tham Dons a Dinner Jacket" (初出DSM 1923-10-27) #️⃣60
ノエルに唆されてタキシードを着てみたサム。いつもと勝手が違って戸惑うばかり。
続(3)「サムの初恋」❶ "Thubway Tham and Cupid" (初出DSM 1921-08-06) #️⃣41 IntAr(MGZN)
めかしこむサムをからかう大家。どんな娘と知り合った?
続(4)「サムの手術」❷ "Thubway Tham’s Operation" (初出DSM 1921-03-12) #️⃣36 MegaPak6
体調不良で耐えられず医師に行くサム。
続(5)「サムのロマンス」❸ ☆"Thubway Tham’s Romance" (初出DSM 1918-07-09) #️⃣3
地下鉄で見かけた気になる女の子。これが恋だなんて言言いたかねぇよ!
続(6)「サムの慈善家」❸ "Thubway Tham, Philanthropist" (初出DSM 1919-04-01) #️⃣14 MegaPak17
続(7)「サムの自動車」❸ "Thubway Tham’s Flivver" (初出DSM 1919-07-15) #️⃣20 WikiText
続(8)「サムの百ドル」❶ ☆"Thubway Tham’th Honetht Hundred" (初出DSM 1923-03-10) #️⃣59
正直に稼ぐ、と宣言し25ドルの賭け。
続(9)「サムの友情」❸ ☆"Thubway Tham’th Chrithmath Thpirit" (初出DSM 1922-12-23) #️⃣56
クリスマスだというのに、サムが近所の犯罪者仲間たちと何か企んでいる様子。
続(10)「サムの不景気」❷ ☆"Thubway Tham’th Buthinethth Thlump" (初出DSM 1923-01-20) #️⃣57
クラドックが元気が無い。誕生日を明日迎えるのだが、歳をとった、と憂鬱のようだ。
続(11)「サムの美顔術」❷ ☆"Thubway Tham Gets a Mud Pack" (初出DSM 1924-03-08) #️⃣62
何か良くない予感。そんな日には「仕事」をしちゃいけないんだが…
続(12)「サムと特ダネ」❸ ?"Thubway Tham’th Thcoop" (初出DSM 1924-03-22) #️⃣63
続(13)「サムの鬱憤」❶ "Thubway Tham, Delegate" (初出DSM 1921-06-11) #️⃣39 IntAr(MGZN)
ワシントンの高級ホテルでぼられ、田舎者扱いされて憤慨するサム。原文では「アトランティック・シティ」になっている。馴染みがないので訳者が変えたんだろうね。
続(14)「サムと遺産」❷ "Thubway Tham’s Legathy" (初出DSM 1921-04-30) #️⃣37 IntAr(MGZN)

No.517 7点 地下鉄サム- ジョンストン・マッカレー 2025/05/14 14:28
元は『地下鉄サム 第4』日本出版協同(1953)→『世界大ロマン全集第6巻』東京創元社(1956)→創元推理文庫(1959)という流れ。全10篇収録(全て国会図書館デジタルコレクションで読める)。
『地下鉄サム 第1〜第3』日本出版協同(1952〜1953)坂本義雄 訳はグーテンベルク21で『地下鉄サム』&『続地下鉄サム』として電子本になっている。全29篇収録。
他、ヒラヤマ探偵文庫『地下鉄サム選集』に3篇収録されてるが1篇ダブりなので、日本では手軽にこのシリーズ全百三十数篇中、41篇が読める。古いファンはEQアンソロジー『完全犯罪大百科(下)』に1篇収録されていたのをご記憶だろう。英語が出来る人ならあと28篇読める(MegaPack[Thubway Thamに10篇、Victorian Roguesに1篇]、WikiSourceに数篇、Internet Archiveに11篇)。なので頑張れば70篇のThubway Thamシリーズが読めますよ!(2025-05-17追記: あと9篇の邦訳が『平凡社 世界探偵小説全集7』に見つかった。なので日本語と英語で現在79篇が読めます!)
----------
以下、創元推理文庫の収録作品。年代順に読んだ方が良い作品もある、と思う。
原題を同定しようと頑張ったけど、原文が入手できず、推定がほとんど。記号なしは確定、☆は「たぶん」、?は「決めてに欠けるがそれっぽい」DSM= Detective Story Magazine、#️⃣表示はシリーズ通算番号、MegaPakは電子本"Thubway Tham MegaPack"収録、WikiTextはWiki sourceに英文あり(リンクはJohnston McCulleyから)
(1)「サムの放送」 ☆"Thubway Tham on the Air" (初出DSM 1930-12-06) #️⃣99
(2)「サムと厄日」 ☆"Thubway Tham’s Ides of March" (初出DSM 1928-03-24) #️⃣89
クラドックが明日は三月十五日、シーザーが殺された悪い日だ、と講釈。次の日、サムは仕事をしに出かけるが…
(3)「サムと指紋」 ?"Thubway Tham—Framed" (初出Street & Smith’s DSM 1931-05-09) #️⃣101
クラドックの様子がおかしい。何かたくらんでいるのか。
(4)「サムと子供」 ☆"Thubway Tham—Kidnaper" (初出DSM 1930-11-22) #️⃣98
最近誘拐が多くて憂鬱なクラドック、手柄を立てようとサムに張り付いてうるさい。
(5)「サムとうるさがた」 ?"Thubway Tham’s Ignoble Patht" (初出DSM 1930-12-13) #️⃣100
昔、旅先で知り合った田舎者がNYに来た。言うことがことごとくむかつく。
(6)「サムの紳士」 "Thubway Tham’th Honethty" (初出DSM 1922-10-21) #️⃣54 MegaPak4
(7)「サムと名声」 "Thubway Tham and Elevated Elmer" (初出DSM 1919-03-04) #️⃣12 WikiText
地下鉄は高架線より優秀か?大きな顔はさせないぜ!登場キャラ: エルマー
(8)「サムと大スター」 ?"Thubway Tham Shakes a Star" (初出DSM 1928-03-31) #️⃣90
映画を楽しみに行ったら、意外なものを観た。映画スターを狙え。
(9)「サムと贋札」 "Thubway Tham's Inthane Moment" (初出DSM 1918-11-19) #️⃣6 MegaPak13 WikiText
たばこ屋で働くサム。クラドックは怪しむが…
(10)「サムと南京豆」 ?"Thubway Tham’s Skyrocket" (初出DSM 1926-07-03) #️⃣81
不景気がスリ業界にもやって来た。他業種の男がサムのところに来て…

No.516 6点 死体をどうぞ- ドロシー・L・セイヤーズ 2025/05/12 13:33
1932年出版。創元文庫で読みました。浅羽さんのお陰で上質な翻訳のピーター卿シリーズが読めるのは、本当にありがたいことだと思います。
皆さんの評価が何故か高い。これがオッケーなら前作『五匹の赤い鰊』も同じくらいの作品では?と思いました。あっちは方言(の翻訳)が足を引っ張ってるのかな?
私の不満は、ちゃんと絶体絶命シチュエーションを作ってるのに、そっちにフォーカスせず、スリルを盛り上げていないこと。どう考えても最重要容疑者はあの人だよね… 当初は、そこから救出、という話だったのでは?と思うのだが(その片鱗が第13章にある)、それじゃ『毒』の二番煎じだし、そんな関係を繰り返したくない!という事だったんだろう。それで、ピーター卿の振る舞いがワザと自己模倣してるみたいで乗れないし、ハリエットの反応もなんだか空々しい。無理にわちゃわちゃしてる、という結果になっちゃった。
犯人の計画もなんだか詰めが甘いし、訴追側もこれではヒヤヒヤものの裁判になるだろう。まあ何かの証拠が後から出てくるんだろうね…
トリビアはとりあえず項目だけ。あとで膨らませますよ。
p31 六月十八日、木曜日◆ 1931年が該当。
p61 女らしさへの回帰
p63 週に十二ギニ
p63 外科医の手術代が百ギニ
p63 地方税やら国税やら
p66 体の在り無し
p68 新聞の渾名
p70 コーナー・ハウス
p70 マフェット嬢の話
p81 デ・レシュケ
p81 バーリントン・アーケード
p84 デブレット
p94 オートバイに乗る
p97 結婚許可証… 二週間後には結婚… しばらく教区に住む必要がある
p98 フローラ
p102 ボルシェヴィキの仕業
p125 あくび… にきび
p131 速度制限が廃止されて
p170 モーガン
p176 ソブリン金貨
p178 インドの王さま
p180 イングランド銀行券
p180 紙幣のほうが確かに安全
p195 あおひげごっこ… 塔の上のアン姉さん
p195 お茶の時間(四時)
p195 六ペンス◆ 子どもへの情報料
p198 映画館に改造する
p211 クォーンやパイチリー
p211 ロシアの小麦がばかすか、安値で輸入され
p211 手間賃や国税、地方税や教区税や保険料
p211 小麦… 一エーカーあたり九ポンドの経費… [収入は] 運がよくて五ポンド
p251 五ポンド… 銀行券で
p251 F・ハルム
p251 一回二ペンス半で
p264 トーキー映画
p271 賄いこみで週に二ギニ半、もしくは家賃だけで十二シリング
p272 おばさん
p273 国会制定法
p274 パントマイム
p275 プリンシパル・ボーイ
p285 煙草のカード
p310 年収三千ポンド◆ 13万ポンドの利子か?
p315 旅券… 査証
p345 結婚許可証
p347 赤いベントレーのオープンカー
p357 コンサート
p383 多数評決(A majority verdict is sufficient)◆ インクエスト
p396 チェンバース英語辞典
p402 フリス写真館
p402 ドレ&シー社
p416 付加税だの相続税だの
p458 出典不明
p465 All is known, fly at once
p474 わしが十八の時ゃ、週に五シリングの給料で
p528 聖マーティンズ・イン・ザ・フィールズ教会の地下
p529 エドガー・ウォレスの小説
p529 離婚沙汰
p531 ほんとに機能する電気式の通話装置
p531 十シリング札
p532 フロリン銀貨
p532 コーナー・ハウス
p533 流行り歌
p534 映画館… 三シリング六ペンス席
p535 背中をごまかす
p546 金本位制
p580 探偵作家
p584 ジョン・ロード
p586 ベルサイズ・ブラッドショー

No.515 6点 Murder at Sea- リチャード・コネル 2025/05/10 13:17
1929年出版。初出The Elks Magazine 1928-06〜10 (5回連載)。最近Kindleで入手しやすくなりました。
マシュー・ケルトン探偵シリーズ、唯一の長篇。
出版時期から、もしかしてストークス社と新マクルーア誌が開催した賞金$7500(現在価値約2000万円)の探偵小説長篇コンテストに応募した作品では?と思ったが、募集は1928年8月12日あたりが開始時期なので、本作の雑誌連載の方が先。コネルさん、このコンテストのニュースを見て「失敗した!もう少し待てば良かった!」と思ったのでは?
こういう応募できなかった組も、次回のコンテストを期待して探偵小説のアイディアを練り、それが1930年代の探偵小説ブームを呼んだのだろうか(長篇デビューの有名どころ: ディクスン・カー1930、スチュアート・パーマー1931、ロラック1931、ESガードナー1933)。でもまあ不況化で売れそうなのはミステリ分野だった、という理由の方が強いと思います。
さて私が苦手なあらすじ。
第一章は、事件解決のため、ずぶ濡れで捜査したケルトン探偵、お陰で解決に至ったものの風邪をひいちゃいます。それでバミューダへバカンスを目論み、SSペンドラゴン号に乗り込みます。ツテを使って船長とよしみを通じ、気楽な旅が始まった、と思ったら船長から呼び出しが… 人が死んでるのじゃ!どう見ても殺人じゃ!
あとは目次で我慢してくださいね。
第一章 知りたがりの男
第二章 船室Bの悲劇
第三章 骸骨との饗宴
第四章 恐ろしい眼
第五章 再び眼が
第六章 悪魔がうろつく
第七章 追い詰められる
第八章 新たなもつれ
第九章 夜遅くの訪問
第十章 ヴァルガ
第十一章 声
第十二章 誰がやった?
第十三章 死より強いもの
第十四章 有能な船員ゲイブ・フェストの運命
第十五章 ジュリア・ロイドが知ったこと
第十六章 マシュー・ケルトンが知ったこと
第十七章 その後
本格ものとしては手がかりがところどころ隠され、フェアプレイ重視ではありません。怪奇風味ありです。登場人物の掘り下げも弱い。解決もまあまあレベル。残念ながら傑作じゃなかったです…

No.514 7点 長いお別れ- レイモンド・チャンドラー 2025/05/09 01:44
この作品、ずっと懸案だったのだが、⼭形浩⽣センセーがチョチョイと翻訳を開始したので、(今のところまだ6章まで)読み始めた。(2025-05-15追記: もう第15章まで進んでいた!)
清水俊二訳でかなり昔に読んでるが、内容はもうすっかり忘れてた。
⼭形センセーは村上訳のダメさに憤慨して、趣味的に始めたらしい。ぜひ終わりまでやって欲しいなあ!
https://cruel.hatenablog.com/entry/2025/05/07/015430
引き締まった良い翻訳。商業としたらブラッシュアップが必要な細かい誤りやもっと推敲した方が良いところが残ってるけど、タダだから、一見の価値あり、と思います。
もうチャンドラーも著作権が切れてるんだなあ、と驚いた。
小説の内容は、マーロウとレノックスの変な関係性が面白いけど、チャンドラーの性格の弱さがハッキリ出てるねえ… 小さいことで無闇にムカついてるし。こういう大人はカッコ良いとはとても思えないなあ。
続きが早く読みたいけど、山形センセーの気まぐれにかかっている。
我がブログでもあの名文句やテリーの拳銃について語っていますよ!
https://danjuurock.hateblo.jp/entry/2023/08/20/204714
https://danjuurock.hateblo.jp/entry/2023/08/13/000601

No.513 5点 闇の中から来た女- ダシール・ハメット 2025/05/06 03:18
初出Liberty 1933-04-08〜22(三回連載)。別冊宝石79号(乾信一郎訳、昭和33年9月発行)で読みました。あまりに短いので抄訳だろうなあ、と思って、原文と比べたらかなり抜いており全体の六割ほどの翻訳でした。
元々、梗概みたいな、骨組みだけのオハナシ。ハメットは手を抜いて真面目に書いてない感じです。ディテールを膨らませるのもめんどくせー、というような作品を三回分載してもらえるなんて、当時のハメットはよっぽど売れっ子だったんだなあ、と変に感心しちゃいました。
空さまが言及してる主人公の最後のセリフ?は原文には無し。多分船戸先生の創作でしょう(彼女の最後のセリフは"All men are"なんですが、空さまがこれを指してるとは思えませんでした)。
まあこの出来ならちゃんとした全訳は望めないですね。どこかでハメット短篇全集を企画して欲しいなあ…
なお、船戸与一訳については小鷹信光『翻訳という仕事』のなかで24ページにわたって誤訳が指摘され、クズ本、と結論されている。原文をカットしている箇所も多く、その上、原文に無い言葉がたくさん加えられ、ふやかされているようだ。誤訳指摘の公開後に小鷹さんが深町真理子さんから贈られた言葉が良い。「他人の欠陥は目につきやすい」
(以下2025-05-07追記)
RKO映画(1933)も見ました。映画権は$5000ですぐ売れたらしい。米国消費者物価指数基準1934/2025(24.60倍)で$1=3505円。1753万円か… ちょろい商売だと作者が思っちゃうよね。
フェイ・レイとラルフ・ベラミー。非常にわかりやすいB級ノワール。某Tubeで見られます。まあでもハメット・ファンが参考のために見れば良い程度の内容だった…

No.512 5点 恐怖通信- アンソロジー(国内編集者) 2025/05/05 00:40
1985年出版(河出文庫)。国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。
SF系の作家が多い怪奇小説アンソロジー。見慣れない作品が多いので、編者がちゃんと選んでる感じがします。翻訳者は耕治さん主催の翻訳教室に所属していた人たち、ちゃんと弟子の面倒を見る良い師匠ですね。
収録短篇を発表年順に並び替えました。
----------
(8) Rose Garden by Montague Rhodes James (1911)「バラ園」モンタギュ・R・ジェームズ作、長井裕美子訳: 評価7点
ご婦人を怪奇小説に絡めるのが上手なMRJ。物語の流れが巧みです。そしてエンディングも素敵。
(2025-05-04記載)
----------
(4) The Ghost of Versailles by Frank Usher (1940)「ヴェルサイユの幽霊」フランク・アッシャー作、南波喜久美訳: 評価6点
マリー・アントワネットの幽霊譚。ちょっと変わったアプローチが面白かった。
(2025-05-05記載)
----------
(12) The October Game by Ray Bradbury (1950)「十月ゲーム」レイ・ブラッドベリ
(7) Devil's Henchman by Murray Leinster (1952)「悪魔の手下」マレイ・ラインスター作、成田朱美訳
----------
(5) Poor Little Saturday by Madeleine L'Engle (初出Fantastic Universe 1956-10)「愛しのサタデー」マデリーン・レングル作、笹瀬麻百合訳: 評価4点
基本、ファンタジーは好きじゃないのです。魔女が出てくる話。サタデーは面白いが、概ね凡庸。
(2025-05-04記載)
----------
(11) Operation Salamander by Paul Anderson (1957)「サラマンダー作戦」ポール・アンダースン作、川勝彰子訳
----------
(3) Victim of the Year by Robert F. Young (初出Fantastic Stories of Imagination 1962-08)「犠牲の年」ロバート・F・ヤング作、風間英美子訳: 評価6点
失業と職安とハロウィン。楽しげで面白い話だけど、ちょっとピンとこない。
(2025-05-05記載)
----------
(6) Unholy Hybrid by William Bankier (1963)「おぞましい交配」ウィリアム・バンキアー作、中山伸子訳
(1) The Ghost by August Derleth(1966)「幽霊」オーガスト・ダーレス作、羽田詩津子訳
(9) My Mother was a Witch by William Tenn (1966)「ぼくのママ魔女」ウィリアム・テン作、大久保庸子訳
(2) Bradley's Vampire by Roger. W. Thomas (1968)「ブラッドレー家の客」ロジャー・W・トーマス作、坂崎麻子訳
(10) Charles Kean’s Ghost Story: “Nurse Black” by Michael & Molly Hardwick (1969?)「ブラック乳母」マイクル・M[sic]・ハードウィック作、伊藤美帆訳
この人だけ作者の紹介が無かった。色々調べると "50 Great Horror Stories" ed. John Canning (Hamlyn/Odhams, 1969)にマイケル&モリー・ハードウィックの作品が多数収録されており、その中の一篇。タイトルも微妙にヘンテコに紹介(Chavles Keau’s Ghost)されていた。

No.511 5点 15人の推理小説- アンソロジー(海外編集者) 2025/05/04 22:37
1956年出版のCWAアンソロジー。原題Butcher’s Dozen。編者はJosephine Bell, Michael Gilbert & Julian Symonsのようである。国家図書館デジタルコレクションで読んでいます。
( )内の数字は翻訳本の順番。【 】内の数字は原書の順番。
「あとがき」によると、この手のCWAアンソロジーの最初のものだったようだ。
----------
(1) Dinner for Two by Roy Vickers 【14】(初出EQMM 1949-01) 「二人前の夕食」ロイ・ヴィカーズ作、井上一夫訳: 評価6点
迷宮課もの。1933年の事件。面白いアリバイだが成立するかなあ。解剖でわかるはず。
(2025-05-04記載)
----------
(2) Money Is Honey by Michael Gilbert【4】「お金は蜂蜜」マイケル・ギルバート作、橋本福夫訳 [Henry Montague Bohunもの]
----------
(3) Diamonds for the Million by Maurice Procter【10】 (初出Collier's 1952-11-01 as “The Bowstring Murder”)「百万ドルのダイヤモンド」モーリス・プロクター作、中田耕治訳: 5点
なんだか語り口が下手くそでわかりにくい話になっている。英国警察と米国警察が共同して犯人を追い詰めるのだが…
(2025-05-06記載)
----------
(4) The Tallest Man in the World by Janet Green【5】「世界一背の高い人間」ジャネット・グリーン作、橋本福夫訳
(5) Portrait of Eleanor by Marjorie Alan 【1】(初出EQMM1947-12)「エリナーの肖像」マージャリー・アラン
(6) The Thimble River Mystery by Josephine Bell【2】(初出The Evening Standard 1950-05-08 as "The Thimble River Murder")「シンブル川の謎」ジョジフィーン・ベル[Dr. David Wintringhamもの]
----------
(7) A Death in the Black-Out by Mary Fitt【3】(BBCラジオドラマ)「灯火管制中の死」メアリー・フィット作、井上勇訳: 評価5点
田舎の開業医フィッツブラウンFitzbrownもの。作中現在は1944年11月。オートバイ事故で呼ばれた医師。三人ブリッジをしている場面あり。ミステリ度は普通。
(2025-05-05記載)
----------
(8) Strange Journey by Frank King 【7】(初出Britannia and Eve 1949-09)「奇妙な旅行」フランク・キング作、中田耕治訳
(9) The Killer by Vivian Stuart【12】「殺人者」ヴィヴィアン・ステュアート
----------
(10) Death at the Wicket by Bernard Newman【9】「打席に死す」バーナード・ニューマン作、井上一夫訳: 評価5点
田舎のクリケット試合で起きた出来事。専門用語たくさんだけど、さすが井上先生は上手く処理している。ミステリ度は低いなあ。
(2025-05-04記載)
----------
(11)Rubber Gloves by L. A. G. Strong【11】「ゴムの手袋」L・A・G・ストロング作、中田耕治訳
(12) The Dupe by Julian Symons【13】「かも」ジュリアン・シモンズ
(13) The Lost Village by Cecil M. Wills【15】「失われた村」セシル・M・ウィルス
(14) He Got What She Wanted by Nigel Morland【8】「魔につかれて」ナイジェル・モーランド
----------
(15) Remote Control by Alan Kennington【6】(初出Esquire 1950-02 as “Fingerprints Can’t Talk”)「遠隔操作」アラン・ケニングトン作、橋本福夫訳: 評価6点
ちょっと面白い工夫。戦後の話。三角関係の顛末は…
(2025-05-06記載)

No.510 8点 裁かれる花園- ジョセフィン・テイ 2025/05/03 23:30
1946年出版。テイ名義第二作。翻訳は上質。
この時点では戯曲家Gordon Daviotと同一人物だと明かされていない。
この作品はミステリを期待せず、普通小説として読んだ方が良いだろう。卒業間近の体育大の女学校で、とある事件が起こる物語。
登場人物(ほぼ女性ばかり、たまに出てくる男たちも良い仕事)が生き生きとしてとても良い作品だと感じた。いつものように話の流れが良い。このまま事件が起きないで欲しい、と思うくらい、キャラに感情移入してしまった。京都アニメーションでアニメ化して欲しいくらい。
テイさんは体育学校での経験を書き留めておきたくなったのだろう。
伝記を読んでいて1949年にセイヤーズがテイさんをデテクション・クラブに誘っていた、という事を知った。残念ながら父の介護でロンドンになかなか自由に行けないのでテイさんが断ったようだが。
トリビアは後ほど。

キーワードから探す
弾十六さん
ひとこと
気になるトリヴィア中心です。ネタバレ大嫌いなので粗筋すらなるべく書かないようにしています。
採点基準は「趣好が似てる人に薦めるとしたら」で
10 殿堂入り(好きすぎて採点不能)
9 読まずに死ぬ...
好きな作家
ディクスン カー(カーター ディクスン)、E.S. ガードナー、アンソニー バーク...
採点傾向
平均点: 6.14点   採点数: 529件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(96)
ジョン・ディクスン・カー(29)
A・A・フェア(29)
アガサ・クリスティー(19)
カーター・ディクスン(19)
雑誌、年間ベスト、定期刊行物(19)
アントニイ・バークリー(13)
R・オースティン・フリーマン(12)
ダシール・ハメット(12)
ドロシー・L・セイヤーズ(12)