皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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クリスティ再読さん |
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平均点: 6.40点 | 書評数: 1379件 |
No.939 | 7点 | 連続殺人事件- ジョン・ディクスン・カー | 2022/02/24 23:25 |
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「連続自殺事件」の新訳ゲット。誰もがツッコむ訳題がオカシい件がこれで解消し、めでたい。
昔読んだ旧訳はもちょっとおどろおどろしい印象があったけども、今風に読みやすい訳文で読むと、軽妙なコメディ路線といった方がいいんじゃないかなあ。ファースじゃないよ、弾十六さんがビリー・ワイルダーを引き合いに出されているけども、そんなスクリューボール・コメディだよね。だからなかなかゴキゲンなもの。自家製のスコッチウィスキーで酔っぱらってバカする話。女性の強さの前に、オトコが情けない(笑) (ややバレるかな?) ミステリとしては、やはり「密室って何のために作るのか?」というあたりをカーが自覚して書いた、というのがポイントじゃないのかな。密室状況で自殺に見えるのならば自殺なんだろう...が世の中のジョーシキ。でもこれがミステリだとその成立上、意図的に無視されることだったりする。 だったら、ミステリがそれを逆手に取る発想をすれば、微妙な状況下なら、自殺と他殺の解釈の出し入れで読者を幻惑できることになる。 それだから本作、リアルとフィクションの狭間でうまいあたりを突いている作品なんだと思う。密室の実現手段は単なるオマケ。ちょっとだけある「怪奇」も小技程度。そういう風にカー本人が「割り切って」書いた作品のように思われる。ちなみにアシモフの指摘の件は新訳では訳注で反映している。気にしなくても成立する話だとは思う。 あと、弾十六さんじゃないけども、トリビアで面白い個所があった。 行儀を知っていると見せつけるような、貴婦人めいたおしとやかな手つきで、エルスパットは注意深く受け皿に紅茶を注いで飲んだ。(新訳p112) ...誤訳じゃないですよ。紅茶はカップに口をつけて飲むのではなくて、受け皿に注いで、受け皿から飲むもの。小野二郎の「紅茶を受皿で」という感動的なエッセイがあるけども、この古臭いマナーをカーの小説の中で発見。スコットランドの田舎の老刀自だから、時代遅れなマナーもキャラ描写になっているわけである。 |
No.938 | 5点 | 透明受胎- 佐野洋 | 2022/02/23 11:34 |
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中学生の評者にとって、「日本ミステリで何を読むか?」の指針になったのが、中島河太郎の「日本作品ベスト30」(昭和42年まで)だった。戦後で20作挙げていて、たとえば本陣高木家不連続刺青というあたりから始まって、「異郷の帆」や「大いなる幻影」や「炎に絵を」「伯林―1888年」あたりで終わる。穏当なベストだったわけだが、これに本作が含まれていた。
当時角川文庫で出てたから、小遣いで購入...でもね、当時は本を親と共有していたから、本作を親に見つかって、叱られて没収、になりました。河太郎先生、恨むよ~~ 皆さんの書評では触れてないけど、濡れ場が連続する、結構エッチな作品だからね(苦笑)。いつまでたっても加齢をみせない女性と、それにそっくりな娘は、同じ指紋を共有している...主人公は危機一髪の事態から不思議にも逃れると、総白髪で老人のような姿に、しかし、30時間寝たら元に戻った。などなどの「ありえない」現象を、SF的アイデアを挿入することで、さらっと解いてみせるような話。 SFミステリ、というよりも、「プロレス的要素ありのミステリ」というくらいの捉え方が有益だと思う。 まあ、今読んでみると、さくっと軽い艶笑SFみたいなもので、あくどくはないから、「オトナの修行」をしたんだったな、と思っておこうか(苦) |
No.937 | 5点 | 刈りたての干草の香り- ジョン・ブラックバーン | 2022/02/22 20:50 |
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ブラックバーンはデビュー作からブラックバーンだった。
主人公はイギリス外務省情報局長のカーク将軍だから、ブラックバーンらしく国際陰謀?というニュアンスで始まる。事件の最初の現われはソ連国内、それも白海沿いの辺鄙な地帯をソ連当局が極秘に封鎖したことの報告を、カーク将軍が受けるところから始まる。イギリス商船の沈没とそれを議題にする国連の会議で、ソ連代表が明らかにしたのは、未知の感染症のアウトブレイクだった...国際謀略は何だったのよ。 で、この病気なかなかエグいんだけど、それは読んでのお楽しみ。ブラックバーンだから、そんな「黙示録的な悪意」は人のかたちも取っている...だから、アウトブレイクものから、分かりやすいスリラーに。でもスリラーになってくると、とたんにスケールダウンして怖さがなくなるんだなあ。そこらへん、改良の余地がある。たぶん「薔薇の環」は、そういう本作の今一つの面の改善版なのだろう。 「薔薇の環」が本作の上位互換だと思う。 まあ、それでもカークの部下の情報局ソ連部長とか、ドイツの諜報部?のフォン・ツーラーとか、スパイ系のキャラに面白味がある。やはりブラックバーン、一癖あるキャラは最初から上手。 |
No.936 | 6点 | ビセートルの環- ジョルジュ・シムノン | 2022/02/20 17:31 |
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初読。タイトルから精神病院を舞台にしたサイコスリラーみたいなものを漠然と想像していたんだけど....病院は病院でも、初老の男が脳血栓で倒れて入院してリハビリする話。ミステリ色はゼロな作品でちょっと、びっくり。
いや、シムノンは一般小説とはいっても、「ミステリを裏側から見た」ような舞台設定やらミステリ手法を駆使した作品やらがきわめて多いから、だいたいはミステリの延長線上で楽しめるようにも感じているんだ。本作の主人公は、記者から新聞経営者にのし上がった男、ルネ・モーグラ。同じようにのし上がった昔からの仲間との月一の昼食会の会場で倒れて、急遽ビセートル病院に入院。思ったほどには重症ではなくて、意識不明は丸1日ちょっとだけ、その後徐々に回復してリハビリして...というのがおおまかな話の流れ。 でもね、そんな話だから「この時期、やはりシムノン自身も倒れた?」なんて想像するのも無理はないんだが、調べてみてもそれらしい形跡は見当たらない。入院していても短期なんだろう。メグレ物だと「メグレと幽霊」とか「メグレと殺された容疑者」のあたりの年で、翻訳はないが別途出版されている本もある。メグレ物の執筆ペースもこの頃はムラがあるし、よくわからないや。マトモな伝記を参照した方がいいのかな。シムノンだもの「想像だけで全部書いた!」でも、みんな納得しちゃう(苦笑、「私的な回想」とか本にならないかな~~) 後記:「EQ」No.43掲載の「シムノン最後の事件」というインタヴューに、シムノンが病院に調査に訪れた、という話が載っているのを偶然見つけた。シムノンは実地調査するのはホント珍しいらしい。でも二時間で調査は終わり。想像力! 本作をシムノンの「イワン・イリイチの死」と喩えたのを見かけたけど、内容は確かにその通り。でもトルストイの理想主義がシムノンにあるじゃなし「回心」しちゃうわけではない。病気という「自身を肉体に還元する体験」、強いられて自身を客体化する作業を、作中では裁判を受けるかのように喩えている個所もあるように、そこで改めて参照される自身の「人生の断片」にモーグラはこだわり、その記憶のリアリティというか、ひねった言い方をすればその「クオリア」(聞こえてくる鐘の音を「環」と捉えるヴィジョンとか..)を通して、自身の生き方を回想する話である。 シムノンの主人公だから、そりゃお盛んと言えばお盛ん。独身時代のアヴァンチュールや、二度の結婚と、その中間に挟まる「結婚しない関係」の話も出る。そういう女性たちも見舞に来て記憶も蘇る。しかも、看護の中での肉体接触に際して、性的な反応も赤裸々に描くあたりが容赦ない。 で、最終盤では、強引に妻にはしたものの、居場所がなくて不幸な結婚生活を送らせていることになっている妻とのなれそめの回想と、このモーグラの再出発に際しての「和解」のようなものがさりげなく描かれているのがいいあたり(でもこの時期にシムノン、離婚しているんだ...) シムノンで「私小説」を読むとは思わなかった。 (ん~ひょっとして、物語冒頭で撃たれて意識不明状態でずっとなロニョン刑事の話の「メグレと幽霊」に「ビセートルの環」が影響している? 評者の妄想w) |
No.935 | 7点 | 聖アンセルム923号室- コーネル・ウールリッチ | 2022/02/16 22:29 |
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ウールリッチというと「甘口」というパブリック・イメージがあるけども、本作は「辛口」。ロマンの陰にある「人生の辛い面」に視線が吸い寄せられてしまうのは、ウールリッチでも晩年の作品に本作がなるからだろうし、また評者もそろそろ歳なこともあるのかもしれない(苦笑)
第一次大戦の開始と終結を描いた第2話・第3話あたり、愛国熱に浮かされて衝動的に結婚した男女が聖アンセルムホテルに宿を取る陰に、敵国となったドイツ系の宿泊客が追い出される犠牲があったりする。終戦後に同じ部屋での再会を約して出征した若者は...そういう人生の興ざめな姿もウールリッチは余さずに描く。この連作にはそういう「カラさ」があるからこそ、不用意にミステリにできなかったんじゃないのかな。「オチ」によって物語が救済しきれない人生が、ホテルの一室に託されているわけだ。 最終話で第一話が回顧されるわけだけども、そこでかつての花嫁が自分を「幸福」と語るのが、いいようもなく読者を揺さぶる。これこそは「オチ」とか「真相」の対極にあるものなのだろう。ウールリッチ節はそのままなのだが、ミステリという「作為」では描けないところをやりたかったのだろうなあ。 |
No.934 | 8点 | 異郷の帆- 多岐川恭 | 2022/02/15 08:10 |
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60年代らしい大名作の一つ。やはりこの時代はミステリの手法が一般化して、他のジャンルとの「フュージョン」が盛んに試みられた時代だ、と捉えるのがいいんじゃないかと思っている。その一つの現われが「社会派」と括られたのだけども、本作だと「捕物帳ではない、時代ミステリ」というのが新境地なのだと思うんだ。
舞台は元禄期の長崎出島。鎖国以前の記憶はかろうじて残るが、鎖国体制に慣れてきて、綱紀もそろそろ緩みだしている頃。主人公は若い小通詞の浦恒助。周囲の閉塞的な状況に苛立つ「若さ」を抱えている....自在に海を押し渡るオランダ人商人に羨望の念は持ちつつも、同僚である「転びバテレン」の西山久兵衛には複雑な感情を持つ。そして長崎貿易を一手に引き受ける大商人の娘分として世話を受ける混血の少女お幸との間に芽生えた恋。 こんな状況で、密貿易の疑惑が濃く評判の悪いオランダ人商館員が殺された!謎の凶器、アリバイ、やり手の奉行を補佐するかたちで浦は事件にかかわっていく... そんなロマンの味わい十分な話。転びバテレンで、今は浦の同僚の通詞になっている西山久兵衛の挫折が、浦の夢に対する反面教師になっているのが趣き深い。オランダ人たちからは背教者と謗られ、日本人からは生理的な嫌悪感で排斥され、心中者の片割れの女性と暮らす元宣教師...この男の虚無と諦念に対比するかたちで、若い浦の恋と夢が描かれる。 久兵衛同様に宣教師として日本に渡り、逮捕されて棄教し幕府に仕えたフェレイラの話も、名前だけだが出る。遠藤周作の「沈黙」で主人公の師であり逮捕された主人公を説得して棄教させる役回りで印象的な、実在の人物である。遠藤周作の「沈黙」よりも、5年ほど「異郷の帆」の方が早かったりする。 多岐川恭の「小説家としてのセンスの良さ」を愉しむには絶好の作品である。評者も「ゆっくり雨太郎」でも読もうかな。 |
No.933 | 7点 | 濡れた心- 多岐川恭 | 2022/02/13 10:42 |
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懐かしい作品。中学生時代のミステリファン初期に読んだんだけど、実は本作が、初めて犯人&トリックをしっかり当てた作品だったことでも思い出深い。女子高校生の同性愛を扱った作品だからこそ、評者の中で何か共振するものがあったのかな。
改めて読むと、物語の中にミステリを融合させる手際がいい作品。50年代だからこそ、はっきりした探偵役なしで、平等多視点でフラットに記述するのが、なかなか斬新でもある。だから「日記」という記述形式にあまりこだわり過ぎない方が、いいんじゃないかな。神視点三人称を使うのはもう「古臭い」。全員がある意味「信頼できない語り手」の錯綜する情報の渦の中、恋愛感情の機微を隠しつつ、誇示しつつの虚実アリで巧みに構成された作品のように感じる。実際、登場人物の誰もが情熱を燃やしながら、日記の体裁を取りながらもそれに素知らぬ顔をして、その真情は意外に他人の方が洞察していたりする記述の妙が出ている。 でいうと、被害者の不良教員の独白的な日記だって、極めて「偽悪的」なもので虚勢を張っているのが読み取れようというものだ(でも、そのダメさ加減に崩れた魅力がある...)。それに対していつでも冷静な少女や、功利的な青年、鋭い洞察力を隠し持つ老婆など、それぞれの何食わぬ記述の交錯が、それ自身「ミステリ」と言えばその通りか。 いや...日記なんて後で読み返すと、自分自身に体裁屋になっているの気づいて、赤面することのが多いものなのさ(苦笑) |
No.932 | 6点 | 世界のかなたの森- ウィリアム・モリス | 2022/02/12 11:35 |
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イギリス世紀末のエンタメの代表格がホームズのなのは言うまでもないのだけども、この時期が実に多産だった、というのは驚くほどだ。いわゆる「ファンタジー」も、この時期に出発点があるわけで、直接「ハイ・ファンタジー」に繋がる系譜の元祖も登場する。
本サイトにもいくつかファンタジー系作品も登録されているので、まあいいか、と思って本作。作者のウィリアム・モリスといえば近代デザインの巨人であり、モリス・デザインの壁紙とか生地なら今でも人気商品。活字まで自作の豪華本もあれば、日本だと民芸運動に強烈な影響もあるし...と「手作り」と「近代以前」へのまなざしで、今でもいろいろと影を落としている重要人物であることは間違いない。 しかもチェスタートンのところで評者は触れたけども、イギリスでのカトリック復興、という面でもラスキン以来の系譜を踏んでいていて、それとこの人独自の労働観から特異な社会主義運動の元祖でもあって、ブラウン神父モノの「共産主義者の犯罪」でも話題になっている..と一言で括れない人物なんだけども、さらに自身の「中世趣味」を生かして、ファンタジーの元祖でもあるわけだ。 中世を思わせる素朴な語り口で語られて、まさに「異世界に遊ぶ」心持ちになる本格的な「ファンタジー」は、まさにこういうモリスの「近代批判」があって成立したものであり、しかもそれが今に至る一大ジャンルを形成した、のも別口のモリスの業績になる。 海辺の町の富裕な商人の息子ウォルターは、家内のトラブルから逃れて船出をしようとしていたが、醜い小人・女奴隷らしいメイド・美しい女王の三人組を幻を繰り返し視た...その旅の途上でウォルターは身を隠して「世界のかなたの森」に紛れ込む。そこは驕慢な女王(レイディ)が、醜い小人を使って侍女(メイド)を監視させる世界だった。美貌だが軽薄な「王の子(キングズ・サン)」が今女王の愛を得ているようだが、女王はウォルターも誘惑する。しかし、ウォルターは女王に虐げられた侍女と心を通わして... と、ウォルターの世界からさらに「異世界」に投げ込まれることもあって、この「世界のかなたの森」のルールが、話が進行してもなかなか見えてこない。女王も侍女も、幻術や予見・治癒程度の軽い魔術は使うようだが、常識の範囲内ではある。それよりも背後の人間関係がウォルターにはなかなか分からないために、ややミステリ的な興味も出てくる。そして侍女とウォルターはこの女王の世界から脱出しさらに運命が変転していく。 絵画を見てるような、登場人物に感情移入を排するような淡々とした書きっぷりから、「枯れた」印象の小説。でも結構味わいはあるし、ちょっとした描写が記憶に残る。 何と、彼女がそう言うと、そのからだのまわりにしおれて垂れ下がっていた花々が、たちまち生命をとりもどし、生き生きと蘇った。うなじとすべすべした肩のあたりの忍冬は、溌溂とその蔓をのばし、編物のように、彼女のからだを包み、その芳しい香りが顔のあたりから薫り始めた。腰に帯のように巻きつけられた百合の花はすっきりと立ち、その黄金色の花芯の束は重たげに垂れていた。瑠璃はこべは鮮やかな青をとりもどし、彼女の衣服の白に映えた。 まさにこんな植物の描写が、モリスのデザインそのものなのである。 |
No.931 | 6点 | メグレ間違う- ジョルジュ・シムノン | 2022/02/07 21:58 |
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本作ホントにメグレ物でよかったのかなあ...なんて思う。教授のキャラは一般小説のシムノンの方が生きたような気がするのだ。してみると「メグレで間違い」?
うん、お二方のおっしゃる通り、教授のキャラがすべての小説。脳外科医としてすべてを献身しているような教授の唯一の悪癖の話である。これによって周囲の人々が傷つくのだけど、教授にはそれがまったくわからない。共感性がそもそも欠落した人間のわけだ。 「メグレ式捜査法」はその共感性がベースなのだから、教授はメグレにとって天敵みたいなものだろう。だからこそ、最後まで対決をメグレはためらい続ける... 周知のようにメグレは愛妻家だから、浮気したらみんな幻滅しちゃう(苦笑)。けど生みの親のシムノンはとんでもない性豪だったらしいからね。そうしてみると、この教授のキャラにもメグレのキャラにも、シムノン自身のなにがしかが投影されて、「等価値の反対」として造型されているのだろう。 (けど教授の秘書さん、さもありなむ...人間、そんなもの) |
No.930 | 6点 | ナヴァロンの要塞- アリステア・マクリーン | 2022/02/06 23:04 |
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そういえば評者、高校受験が終わって春休みのボーっとしていい時期に本作を読んだ記憶がある。映画は好きだったね。当時ご贔屓スターがアンソニー・クイン(アンドレア)とデーヴィッド・ニヴン(ミラー)だったし。オヤジ好きだ。としてみると、スティーヴンズって若造だしさあ、怪我した時点で(泣)が見えてるわけだ。評者ガキだったけど、何かそういう(泣)に反発してた...これも「若さ」って、もんだろう。
だから50年近くぶりの再読になるわけだ。としてみると...だけど、今回は「ダメな子」スティーヴンズにハラハラしながら読んでいる自分に気が付く。スティーヴンズの「失敗」も妙に自意識過剰なところもあるし、そういう「若さ」が今にしてみると愛おしい。 「若い」と「若さ」が目に入らないものなんだな(目から青春の汗が..)。 戦争アクションって評者はガラにもない話。けど本作って「様式美」な世界のようにも感じる。それだけ王道ということだろう。 ちなみに原作登場人物は男ばかり。戦争モノだからね。映画はそれじゃ成立しないので、現地合流のレジスタンスが両方女性。マロリーとちょいとイイ場面もある。でスティーヴンスも若僧じゃなくてマロリーの旧友でそっちが指揮官、と改変。しかもこの件を巡ってはヒロイズムな自己犠牲に流さずに、うまい処理をしている。なので、評者的な原作のポイントとはズレるけども、ご贔屓のニヴン(フケツじゃなくて教授だそう)とかクインを楽しめばいいし。いや、映画の脚色は実によく出来ているよ。島民の結婚式パーティとか、うまいな~と感じさせるシーンが続出。 そして最後に、何千トンにものぼる岩石が豪快に港にくずれおちる。腹にひびくような音―何千トンにものぼる岩石と、ナヴァロンの巨砲が。 とあっさりとした文章で記述されるクライマックスよりも、映画の特撮の方がずっと迫力がある(当たり前)。防風メガネかけて皆一斉に耳を塞ぐとか、巨砲発射のデテールもかっこいいしね。映画屋のド根性を見せつけた映画がちょいと出来過ぎなくらいの出来だから、原作の方が旗色悪いや。 (これ有名な話だけど、続編の「ナヴァロンの嵐」は、本作のラストから続くんだけど、脱出者にしれっとヒロインが入っていたりして、小説の続編じゃなくて映画の続編だったりする。そんなものさ) |
No.929 | 5点 | 零人 大坪砂男全集4- 大坪砂男 | 2022/02/06 10:27 |
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創元砂男全集も4巻で終わり。この巻は幻想篇として「零人」をトップに据えて、あとは掌編のコント、ジュブネイルのSF。これで本の約6割。あとの4割は大坪の雑文と山村正夫などによる大坪と探偵文壇のエピソードの回顧談。
だから、本としてはパッとしない。評者は「零人」はそれほどいいとは思わない...それでも「天狗」っぽい香りはあるけどもね。どっちか言うと「瓶詰の地獄」みたいな味の戦前的秘境小説なのかなあ。 とくにこの人の「作りモノめいた」悪い面が出てしまっている作品が多いとも思うけども、逆に「コント・コントン」とかSFは星新一に近い味わいを感じるところもある。なるほど佐藤春夫が「描写ができない」と大坪の才を裁断した話があるけども、キマジメで外界に目を向ける余裕のなさみたいなものが、ハマった時にはツヨいけど...という不器用さにもつながっているようにも思う。いや「作りモノ」を作ることにかけては、発想の豊かさが強みなんだけども、それを「作品」にするのがどうも下手な印象がある。 だからかこの人、雑文がつまらない。「スタイリッシュ」の引き算ではなくて、雑文は足し算だからだろう。それでも推理小説の「謎解き」を奇術と比較して むしろ、このメカニズム公開という近代性あるが故に、その成功した時の効果こそ期して待つべきだろうではないか。 と、「πの文学」と比喩してみせたのに、評者同感するところがある。πは 22/7 やら 355/113 やら分数でよく近似できるから、論理で「割り切れた」みたいに見えることもあるけども、それでも「割り切れた」わけではなくて、その割り切れる/割り切れないのあわいに一番の魅力があるのではなかろうか。 |
No.928 | 5点 | アリゲーター- イ*ン・フ*ミ*グ | 2022/02/02 20:30 |
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007のパスティーシュというかパロディというか、何とも曰く言い難い作品である。ハーヴァードの学生雑誌に載ったものらしいが、ハヤカワの世界ミステリ全集に本家の「サンダーボール作戦」それに「ナヴァロンの要塞」と並んで収録されたことで有名、といえば有名かも。
いやね、笑いが目的のパロディか、贋作・模作を目的とするパスティーシュか、というのが区別が難しい、というのは、この「アリゲーター」の問題ではなくて、元ネタの007自体の問題だったりするのが奥深いところだ。巻末座談会でも訳者の井上一夫自身が 007のちょっとゲテがかった通ぶりを、逆に大げさにしてミソをつける 作品だと断言しているあたりからもそうなんだけども、考えてみりゃ「マティーニをステアせずにシェイクしろ」と注文を付けるの自体、かなり「ゲテ」な趣向といえばそれまでなんだ。しかしこの気取って逆を突く、わざと列を乱す奇矯さがないと「らしくない」。007らしい派手な粋さが出ないのだ。だから本家の007でさえも、「スパイのパロディ」ではまったくないのだが、パロディにかなり近い批評性をそれ自身に対して向けていて、それこそが「007の魅力」なのだ。 だからこそ「007のパロディ」は大変に難しい。そういうパロディの要素を007自身がどこかしら備えているからだ。パロディをしたとしても、それが目指す「批評」が、本家の自己批評性にまったく太刀打ちできないのだから。 「アリゲーター」自身も、パロディを目指したはずなのに、いつしか「パスティーシュ」臭くなる、と「負け」を認めているようなものだ。だからフレミングという作家は、 でも作風からすると、純文学的なものにも一見識をもっていて、その上で徹底したエンターテイメントを書いている、と想像されるんです。 と稲葉明雄に言わしめる(巻末座談会)曲者だ、というのを改めて認識させられる。 |
No.927 | 5点 | 高貴なる殺人- ジョン・ル・カレ | 2022/02/01 09:58 |
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評者どうもル・カレは肌に合わない。けども行きがかり上はスマイリー全作くらいはしておこうか、とも思いなおした。再開して「鏡の中の戦争」「影の巡礼者」「スパイたちの遺産」はやる予定に入れる。
いや評者イギリス・スパイ小説って大体が大好きなんだけども、ル・カレ嫌い、というのは屈折しすぎてるのかなあ。アンブラー・グリーン・フレミングはおろか、モールやらビンガムあたりまで嗜好に合いまくったにも関わらず、ル・カレはダメ。ホイートリー・ブラックバーン・ラムレイの娯楽版でも好きなんだけどね.... その理由というは、やはりル・カレって「市民的」なんだよね。イギリス特有の階級対立の中で、スパイ小説というジャンルがエスタブリッシュメントの視点での「国家」への屈折した愛憎を描いた小説ジャンルだったのを、ぶち壊しにした「革命家」がル・カレのわけである。そのくせ、「国家」への忠誠心は斜に構えたエスタブリッシュメントよりも妙に「純」だから始末に負えない。そういう大衆性の方が、実は日本でもウケるのだ。 そういう資質が実は一見スパイと関係がない本作でも強く出ているわけで、本作のジャンルは「本格」というよりも実は「社会派」、なんである。 由緒あるパブリック・スクールの教員の妻が殺害された事件でも、平民の警察官では対等に扱ってもらえないこともあって、スマイリーが介入することになるのだが、スマイリー自身も「釣り合わない結婚」をした「成り上がり」の部類でもあるわけだ。この教員もグラマースクール出身の「成り上がった」庶民で、研鑽努力して周囲に合わせようと国教会に改宗までするのだけども、妻は平然と庶民的な非国教会信徒のまま、当てつけのように大学外での慈善活動にいそしむ。格式を重んじる周囲との軋轢もあるようだ.... イギリスは階級対立がそのまま宗教的な対立になりかねないややこしさがあるから、戦功と結婚によってようやく上流に潜り込めたスマイリーも、それから被害者の夫妻も、こういう「上流社会」ではマージナルな立場の悲哀を感じざるを得ないのである。 スマイリー・サーガって、そもそもそういう話なのである。「ティンカー・テイラー」で、スマイリーがいかに有能で上司の「コントロール」の信頼が絶大だったとしても、次代のアレリン派からは排除されることになるのも、スマイリーの立場の周辺性にも原因があるのだろうしね。 評者はというと、どうもイギリス人のそういった「偏屈な狷介さ」、屈折と開きなおりに妙に肩入れしたがるヘンなところがあるせいか、市民的な批判派であるル・カレと肌が合わないのは....まあ、仕方がないことだ。 |
No.926 | 7点 | ドリアン・グレイの肖像- オスカー・ワイルド | 2022/01/31 16:51 |
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本作だと1890年出版だから、まさにホームズのデビューと同時代。やや先立つスティーブンスンの「ジキル博士とハイド氏」や少し後の「ドラキュラ」とイギリス世紀末の豊饒さを象徴する作だから、やらないとね。ここらと同様にオハナシの中身自体はきわめて有名。
いやね、そういう読み方をすると、ドリアン・グレイという人物は作中で殺人も犯すしね、稀代の名犯人だ。それに対して、ヘンリー卿の迷探偵っぷりが本作を「探偵小説」にできなかった理由だ(苦笑)。ワイルドが自身を投影したとみられるヘンリー卿は、口を開けば逆説を垂れて、うっとおしいにもほどがある。逆説大好きはそれこそチェスタートンで例を見ているわけだけども、やはり「ここぞ!」で使うから逆説というものも生きるのだ。ご挨拶のように逆説を捏ねていると....こと志に反してバカみたいに見えるのが相場。ドリアンはヘンリー卿に影響を受けて背徳の生活に足を踏み入れたのだけど、寡黙なダンディーとしての生きざまは、口先だけのヘンリー卿を軽く凌駕しているわけである。だからこそ、ドリアンの犯罪にヘンリー卿は露ほども気が付かない! まさに迷探偵、である。 実のところラストは至極あっさりしている。このラストは「出来心」だと評者は解釈したいのだ。因果応報ではなくて、あくまでもケダモノのように軽率であったために、道徳に回収されることなくドリアンは背徳の人生を全うできた....そういう読みによってこそ、ドリアンも以て瞑すべきではなかろうか。 いやいや、評者も逆説が大好きだからね。ヘンリー卿の浅薄さは他山の石としたい。 |
No.925 | 6点 | ジュネーヴのドクター・フィッシャー あるいは爆弾パーティ- グレアム・グリーン | 2022/01/27 08:53 |
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本作が「ヒューマン・ファクター」の次の作品になるわけで、陰鬱な前作とはうって変わったシニカルなコメディ。でも神学的な寓意がいろいろあって、ややこしい作品なんだけども....いやいや、逆に構えずに「ややこしくなく」読んだ方がずっと有益なんじゃないのかな。
たとえば「負けたものがみな貰う」もそうだが、グリーンって「陰鬱」「重厚」ばっかりの作家でもなくて、軽妙な筆致で辛辣なアイロニーをぶちかます意地悪作家の側面があるわけだ。どっちかいうとこっちの面が「モダンなチェスタートン」という持ち味を感じる。本作だと「木曜日の男」に近いような作品と見てもいいんじゃないかな。 主人公はスイスでチョコレート会社の翻訳業務に携わる初老バツイチの一介のサラリーマン。偶然出会った若い女性とロマンスが芽生えて結婚するのだが、妻の父ドクター・フィッシャーは歯磨き粉で財を築いた大金持ち。しかし、娘に関心がないが、金に飽かせて主宰するパーティで小金持ちどもを辱めることに生きがいを感じている奇人だった。富に関心のない主人公は一度招待されたパーティに辟易する。しかし妻の突然の死によって痛手を受けた主人公の元に、再度のパーティへの招待状が届いた.... まあだから、妻が死んで生き甲斐をなくした主人公が、ロシアン・ルーレットを模した「爆弾パーティ」に際会して、自らの死を求めつつも「神」と対決するような....と読んじゃうと、妙に実存小説になってしまう。その手に乗らずにもう少し「軽薄」に読んでみたいものだ。「神はどうして、人類を辱めたがる?」 聖書によると、神は自分の姿に象って人類を創ったそうだ。ところが、出来あがったものを見て、神はおそらく、自分の不手際に失望したのだな。出来損ないの品は、ごみ箱に捨てられる運命なんだ。きみも、あの連中の様子を見たら、笑わずにおれんだろう。笑わぬのは、ユーモアを解しない者だけだ。 確かにユーモアは悪魔的になりうる。憐れみがそれに対抗する感情なのかもしれないのだが、神が示す「悪魔的なユーモア」を、被造物が「憐れん」で笑殺する場合には、神はどうするんだろうね? 前作にひっかけて言えば「ヒューマン・ファクター」ってそういうものなのかもね。ユーモアを巡るメタなユーモアが奏でるアイロニーとして読むのがいいのかな。 |
No.924 | 6点 | 壊れた偶像- ジョン・ブラックバーン | 2022/01/26 11:40 |
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ブラックバーンに恐れをなした方が多いのか(苦笑)、一番「まっとうなミステリ」に近い本作の初の書評になるようだ。いやホント、本作はSF&超常設定はとくにないから、「ブラックバーンにしては地味」と言われる作品。この評価はあくまで「当社比」だからね(苦笑)。十分にヘンではある。
イギリスのさびれた運河の街で、惨殺された女性の死体が運河から上がった...当初売春婦と見られた被害者に、東ドイツから亡命した経歴があることが割れて、外務省情報局長カーク将軍との因縁も分かった。カーク将軍は男女の部下とともに、この事件に介入することにした というイントロなんだから、スパイ小説?とはなるんだけど、そうは問屋が卸さないのがブラックバーン。警察小説的な地道な捜査が続くから、ル・カレのスマイリー物をずっと陰鬱にした雰囲気。結構タイトなタイムスケジュールによるアリバイ調査もあったりして、ミステリ度は高いといえば、高いし、どうというほどでもないけども「トリック」めいたものも、ある。 次第に高まる鬱度。いやそこらへんを愉しむ小説だと思うんだ。処女の売春婦、盗作しかできない小説家志望の青年、両手が萎縮する障がいを抱えながらピアニストデビューを自動ピアノで夢見る少年....極めつけは、関節が逆側に折れ曲がった奇怪な偶像。黒人女性の精神科医がカーク将軍にマダガスカルの女王の奇怪な歴史を語るが... と、「不能」な話からオカルト側に流れていく。そこがブラックバーン。超常現象はないけど、哀しく鬱でブルブルな真相。 というかね、誰が言い始めたのかよくわからないが、「ブラックバーン=ジャンル混成」論なんだけども、いやこういう「ジャンル小説」に対して作家が「忠誠心」がないのって、イギリスのスリラーの伝統だと評者は思っているんだよ。日本の読者と作家が妙に「ジャンルへの忠誠心」を誇示したがるから、奇妙に感じるのでは?と評者は思ってるくらい。カーヴだってそうじゃない? (ちなみに、オカルトに流れる警察小説って、コリン・ウィルソンの「スクールガール殺人事件」があったね) |
No.923 | 8点 | 球形の荒野- 松本清張 | 2022/01/25 08:37 |
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たとえば井伏鱒二の「黒い雨」が原爆を扱いながらもホームドラマに徹したことを、日本文学の「志」のように捉えるのならば、本作は清張のホームドラマだと思うのだ。だからミステリ要素はつけたりで、一家庭の「歴史」の中に、第二次大戦の悲劇が影を落としている小説である。
実際この作品で良さを感じるのは、昭和中期の上層市民の生活の豊かさと、文化の継承からうかがわれる「歴史」というものなのだ。古寺巡礼もそうだし、歌舞伎観劇、さらには米芾の書に学んだ書体が姪にピンとくるとか、この一家の「家族の歴史」の上に、豊かな文化の伝統と、大文字の「歴史」が重なってくるさまが、やはり清張の「歴史センス」というものなのだと感じる。いやいや、こういう生活に根付いた「歴史センス」が、実のところ今では希少価値なのだしね。 まあでも、意外にもいい人たちなんだ(苦笑)。ラストは本当に泣ける話。 (京都旅行のお泊りは都ホテルだし、食事は平野屋でいもぼう。いいな~~清張は「顔」でのいもぼうが印象的だけど、本作にも登場。清張で知って母にごちそうしたことがある。また行きたい!) |
No.922 | 7点 | 爬虫類館の殺人- カーター・ディクスン | 2022/01/23 18:33 |
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シンプルでそこそこ面白い作品だと思う。空襲下のロンドンで「非常時」の危機に陥った動物園(爬虫類館)という設定が、やはりナイスだと思う。舞台設定が生きている。
密室トリックへのミスディレクションになるものが、空襲と関係があるあたりうまいものだと感じる(評者は空襲を知ってるわけじゃないがねえ)。何となく犯人・トリック憶えてたから何だけど、犯人特定は意外に分かりやすい? いや、メタな推理をした場合でも、この人以外には真犯人はないよね.... だから面白く読めたのはそうなんだけど、難点はケアリ&マッジの奇術師のロメジェリに好感が持てないこと。ここらへん、何とかしてよ~~というのが、読者の叫び(苦笑)。中盤のマッジのピンチをすっ飛ばして中編だったら大名作だったかしら? 密室はトリック自体よりも、「目張り密室」という「趣向の発明」の方を評価すべきだと思う。具体的な解法よりも「問題」を見つけだす方のがずっと偉いことだと評者は思うんだよ。最後の拷問(!)、HM卿らしさが全開で極めて印象に残る(しっかり覚えてた...)。絶対にカー、これがやりたくって仕方のない話だったと思う。必要がないかもしれないけども、お話なんだもん。詩的正義というものですよ。 |
No.921 | 5点 | 赤い館の秘密- A・A・ミルン | 2022/01/22 17:42 |
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そろそろ赤とか黄とかやらなきゃね、とも思うんだ。やっぱりここらへんに手が伸びにくいのは、子供の頃にジュブナイルで読んでいて、その後大人向けで読み直したかどうか今一つはっきりしないし、退屈だった印象があることにも原因がある気がする。大人向けで読み直したことがないならば、それなりに「昔と今とどう反応が違うか?」と割り切って楽しみにはなるんだけどね。
だから読む前から犯人もトリックも先刻承知、という前提。本作だとさらにチャンドラーの「簡単な殺人芸術」がネタバレして批判しているのも当然、読んでいる。さらに予備知識がなくても当然で推理できるくらいの内容。...なかなか読む条件としては、キビシい。でも頑張ろう(苦笑) としてみると、要するに本作、コージーの先駆的な作品、でもいいんじゃないかしら、ギリンガム君、鋭いというよりもイイ奴じゃん。全体的な雰囲気がほんわかしていて、ファンタジックなオモムキもある。ペヴリー君ともナイスなコンビで、二人で一生懸命「ホームズごっこ」しているのが微笑ましい。地下トンネルの話とか、サスペンス出そうという気がないみたいだしね。モールス信号だってマンガみたいな話だし。 で、一種の巻き込まれ型みたいな話なのが、ミステリとしてはちょっとキモかもしれない。実際、パズラーとしてはややアンフェアなのが、逆に味になっているとも感じるんだ。というのは、探偵自身に「直観像」の特殊能力がある件。稀だけどいるんだよね、写真的にシーンを映像記憶できる人。これがうまく推理に噛み合っていて、ちょっとした名場面になっているようにも感じる...「フェア」は全然気にしてないのが20年代。 まあだけどね...全体に冗長。のんびり読むにはいいかもしれないが、だったらコージーに徹して「余計な」描写をガンガン入れた方のが楽しめたかもしれない。似た立場にある作品と比較したら「トレント」の方がおすすめ。 |
No.920 | 7点 | 絆回廊 新宿鮫Ⅹ- 大沢在昌 | 2022/01/19 21:52 |
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さて一応本作でシリーズ区切り。評者も鮫の旦那はとりあえず区切りにしようかとも思う。「暗約領域」と短編集は気が向いたら、にしたい。
本作だと晶とも別れることになるし、ちょっとショッキングな...もある。その結果、今まで桃井と藪を別にすれば孤立無援だった鮫島を擁護するように、新宿署内の世論が変化してきた、ということで、やはりシリーズ区切りらしいことにはなっている。それでも宮本遺書の話などに決着がつくわけでもなくて、シリーズ継続の含みを持たせているわけだから、不完全燃焼感は、ある。 そういうあたりもあって、「仕掛け」ではなくて「ドラマ」側で押し切ろう、というのがこの作品。「風化水脈」に近いテイストだと感じる。結構似てるといえばそうかな。 樫原の造型はいうまでもなく大鹿マロイがベースで、意図しないトラブルメーカー。でも不器用な乱暴者というよりも、復讐心でバランスを崩した人、という印象だから、マロイの妙な人の良さとは別。女に狂うとかじゃない。 逆に樫原の出所を待つバー「松毬」のママの造型が印象的。でも湿っぽいな...過去の因縁は何となく見当がつきそうだから、全体的な湿度は高い。 すまん、いろいろ決着がつくかと、やや期待し過ぎたかもしれない。力作ではあるんだが。 まあ、例の要素は...うんやはりそうだった。でも、真壁ほどには樫原に「色気」のようなものがないと感じる。「長いお別れ」は特にそうだが、チャンドラーに同性愛を読み込むというのもアリだと思うけども、「狼花」と違って本作だと鮫島を巡ってはそういうケを感じない。まあ晶との問題が大きいからそれどころじゃないんだろうが。 シリーズ全体を通してだと、評者はやはり奇数番が好き。奇数番が実験的で、偶数番がオーソドックス、という傾向があるとやはり感じる。ベストスリーは「炎蛹」「屍蘭」「灰夜」かなあ。 |