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嫉妬
アラン・ロブ=グリエ 出版月: 不明 平均: 7.00点 書評数: 1件

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集英社
1977年01月

No.1 7点 クリスティ再読 2022/05/06 18:25
叙述トリック小説の元祖の一つみたいな小説。ミステリじゃないけどもね。

屋根の南西部の角を支えている柱の影が、いま、露台の同位角を二つの等しい部分にわけている。この露台は屋根のある広い廻廊で、家を三方からとり囲んでいる。中央の部分も両翼も広さは変わらないので、柱によってつくられる影の線は、正確に、家の角に達している。だが影はそれ以上に伸びない。太陽はまだ空高く、露台の敷石だけを照らしているからだ。

こんな微に入り細に入った、幾何学への偏愛を示すような描写が延々続く小説。その中で、「A」という頭文字で表記される女性と、「フランク」と呼ばれる男性が登場する。Aは熱帯のバナナ・プランテーション経営者、フランクはその隣の農場の経営者で、たびたびAの農場を訪問しては、食事を供にする。Aはフランクの港町行きのトラックに便乗して港町へ向かうが、トラックの故障でその日の裡には帰れなくて、帰ってきたのは翌日だった....

いや本当にこんな内容だけの小説。Aの日常的な振る舞いや、訪問してきたフランクとの交友などが、微を穿つように、かつ同じ場面を何度も何度も繰り返し偏執的なカメラアイで描写される。それこそカメラ位置がわかるくらいに。時系列は頻繁に組み替えられて、前後に脈絡もなく移動する。


(ネタばれ)
まあ、ミステリじゃないからね、バレてもいいでしょう。実際読んでいると、予備知識なくても徐々にわかってくるものだし。完全な客観描写オンリーの小説なんだけども、実は表面に登場しない「Aの夫」が話者の一人称小説なのだ。「私」とか皆無で、描写の背後に話者が隠れる叙述トリックを使っている。だからこれは、Aの夫の目からみた二人の関係、しかもタイトル通りにAとフランクの関係への疑惑の視点での描写、なのである。この偏執的な描写も、まさに嫉妬に狂った夫だからこその、執拗な描写だ、というのが狙いの小説なのだ。

でもね、ロブ=グリエが脚本した映画「去年、マリエンバートで」とか見た後だと、同じ世界だな~なんて感じる。文章が微に入り細に入りのカメラアイだからこそ、まさに「映画的」なのだ。引用部分の「柱の影」なんて、本当に映画だったら「夫の主観が触手のように伸びていく」視覚的にスリリングな描写になるに決まってる。だから「映画をそのまま文章にしたような」そんな小説なのだ。そういう世界には心理描写は不要。そうしてみると、三人称ハードボイルドに極めて近い世界、読者がしっかりと心理の綾を読み込んでいかないと理解できない世界に近いと思う。

今回そんな読み方をしたので、無味乾燥というわけではなくて、実は結構面白く読めた。まあ、叙述トリック作品だと思って「ネタ」で読むよりも、そっちのが楽しいと思う。


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アラン・ロブ=グリエ
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