海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ クライム/倒叙 ]
若者よ、きみは死ぬ
ジョーン・フレミング 出版月: 1972年06月 平均: 6.00点 書評数: 1件

書評を見る | 採点するジャンル投票


早川書房
1972年06月

No.1 6点 クリスティ再読 2022/05/22 09:00
評者は日本のミステリ・ファンの通例とはズレていて、CWA受賞作との相性が妙に、いい。ディキンスンとかデヴィッドスンとか大好き。ジョーン・フレミングというとゴールドダガーを2回受賞した作家....でもね、日本での知名度は皆無に近い。訳書はゴールドダガー受賞の本作と、昔の創元クライムクラブで「乙女の祈り」が出ただけ。ゴールドダガー受賞のもう1冊「When I grow rich」は未訳。このギャップの凄まじさと、タイトルの良さで、読んでみたかった作品。

原題の方がさらに痛烈。"Young Man, I think You're Dying"。物語に登場する女占い師のお託宣である。未来を述べているよりも、「今死につつある」わけだから、「お前はもう死んでいる!」にニュアンスが近い。で、内容は実はこれも評者LOVEなジョン・ビンガムの「第三の皮膚」に似た話。

ピザ屋の店員ジョーには幼馴染のスレッジという友人がいるが、このスレッジ、若くして犯罪の道に足を踏み入れた不良青年である。秘密犯罪倶楽部、といった名目でジョーたちに自分の犯罪の片棒を担がせる、トンでもない奴だったが、ジョーも平凡な日常からひととき脱出するような冒険心と腐れ縁から、危険なスレッジとの付き合いを拒めなかった...果たしてジョーが運転手を務めた空き巣狙いで、スレッジは老婦人を殺してしまった!
その晩、ジョーは自分の団地の屋上で、家出少女とであう。実はその少女フランシスは、スレッジにナンパされたのを振った因縁があった....フランシスを親の家にかくまうジョーと、ジョーの告白を聞いて困惑するジョーの両親、それにジョーの勤務先のピザ屋の店主サイラスが絡み、事態は意外な方向に転がっていく...

本作の面白味、というのは登場人物がすべて奇矯なこと。この話から想像されるような類型的なキャラクターではない。キャラ造形がオーソドックスな「第三の皮膚」と比較したら、かなりヘンテコな小説でもある。スレッジは人殺しを何とも思わないような凶悪な男だが、自己顕示欲と自惚れが強すぎて、小物臭というか何とも言えないイヤさとリアリティがある。でも特にフランシスとの関係では妙な軽率さみたいなものが出てしまい、フランシスに振り回される。家出娘のフランシスはといえば、世間知らずにも程があり、やることなすこと、どうもピント外れ。自ら危険を招いているにもかかわらず、それがなぜか身を守っている、という皮肉さ。そのフランシスに本当に惚れるのがジョーではなくて、その雇い主のサイラス。でもサイラスが恋心から事件が介入しようとしても、何も実を結ばない。
まあそれでも、ジョーとスレッジが育った高島平みたいな公団団地に特有な薄めの人間関係が背景にあって、そこらへんの面白味があったりする。

というわけで、歯車が全然かみ合わないヘンテコさを愉しむ、というやたらと高度なことを読者に要求する作品。イギリスのエンタメの底の深さ(というか業の深さか)を感じるといえばその通りなのだが、日本じゃウケるわけがない。


キーワードから探す
ジョーン・フレミング
1972年06月
若者よ、きみは死ぬ
平均:6.00 / 書評数:1
1958年01月
乙女の祈り
平均:6.00 / 書評数:1