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[ パスティーシュ/パロディ/ユーモア ] 法王庁の抜け穴 別題「法王庁の抜穴」 |
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アンドレ・ジッド | 出版月: 1928年10月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
岩波書店 1928年10月 |
角川書店 1952年01月 |
新潮社 1952年09月 |
光文社 2022年01月 |
No.1 | 7点 | クリスティ再読 | 2022/05/06 10:10 |
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いやジッドなんて登録していいのか?なんて遠慮してしてなかったのだが、斎藤警部さんが「田園交響楽」を登録されたからには、まあ、いいか(苦笑)。でもジッドで「ミステリの祭典」だったら本作でしょ。
うん、悪漢小説。ジッドの中でもマジメなタイプのレシじゃなくて、コミカルなソチ(茶番劇)になる作品。ローマ法王が実は替え玉で、幽閉された本当の法王を救出する十字軍...といった陰謀論をネタにした詐欺と、「理由なき殺人」をテーマにした小説である。主要人物は、私生児の美青年ラフカディオと、その腹違いの兄に当たる小説家のバラリウール伯爵、その縁につながる無神論の科学者アルマン=デュボア、田舎者のブルジョアのフルーリッソワールの二人の相婿。アルマン=デュボアは宗教反対!で凝り固まったフリーメイソンの科学者だが、ふとしたきっかけで回心しちゃって周囲からは「これみよがしで偽善的」なくらいの宗教心を誇示してうっとおしがられる奴。フルーリッソワールは手もなく「法王救出十字軍」の詐欺にひっかかって、よせばいいのにローマに馳せ参じてしまい、詐欺師側も大迷惑。この二人の相婿の突発的な行動に振り回されるバラリウール伯爵は、自分の小説のキャラが「論理」に従って行動することに嫌気がさしてきて、 わたしは犯罪の動機なんてほしくないんだよ。犯罪者を動機づければじゅうぶんなんだ。そう、わたしがしたいのは、犯罪者に無償で罪を犯すようにさせ、完全に動機のない犯罪を犯したい欲望を起こさせることなんだ。 と自由意志の問題から作品構想を語る。そんなジッド自身が反映したキャラだ。しかし、この異母兄の持説を謹聴するラフカディオは...実はまさにそのままの「動機なき殺人」を前日に犯していた! こんな皮肉きわまりない小説。美青年の私生児のラフカディオの「イキのいい」キャラが素敵。身を挺して火事の現場で子供を救出して、バラリウール伯爵の娘に惚れられるとか、ラフカディオは打算やら内面やらまったく関心のない「貴族的」な冒険家である。ルパン的犯罪紳士、といえばまさにそう。このラフカディオ、バラリウール伯爵一家とも縁があれば、さらに法王救出十字軍詐欺の一党とも縁がある.... そんなシャレのめした犯罪小説でもあるし、また「神の代理人たる法王が偽物」なカトリック信仰と、自由意志を巡るイジワルなアイロニー炸裂の戯作でもある。 「ジッド、ブンガクで真面目そう...」のパブリック・イメージが崩れる一作。単純に面白い。 |