皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
斎藤警部さん |
|
---|---|
平均点: 6.69点 | 書評数: 1357件 |
No.1097 | 6点 | 象牙色の嘲笑- ロス・マクドナルド | 2021/10/15 11:04 |
---|---|---|---|
いいですね、事件全貌の一部だけチラ見せ続けて誤誘導するトリック。そこに時間の経過が被さるもんだから。まるで「群盲象を評す」の四次元版のよう。このパズル興味を輝かせるものこそ、物騒で手の早いそれなりのHB的魅力、そして明暗の人間ドラマ。なかなか小気味良い(?)屍体消失トリックも鮮やかでした。 |
No.1096 | 9点 | 造花の蜜- 連城三紀彦 | 2021/10/11 13:40 |
---|---|---|---|
やべ、俺もう死ぬかも。。 誘拐事件らシきモのをモチーフに、妖異で濃厚なスクリュー展開が緊張緩めず延々と味わえた奇蹟の作品。余裕で大きくうねる二重螺旋ストーリー、容赦無いターン、裏を抜けるパス連打の躍動に、いつしか時系列までうねり始めた。。 疑惑妄想の乱反射も凄まじく、結果、ゴージャス過ぎる死にネタの数々を置き去りに。。!! すると半分も行ってないのに早くもドンデン返し、の連続、と言うよりむしろ。。。ですよ!?(当然のように大小いくつもの謎を引き摺ったまま)。 連城は読者を誘拐しようと、或いはむしろ読者に誘拐されようとしたのではないか。 被害者、加害者(この線引きが凄まじい)の思惑、行動に加え警察稼働の部分も冷静ながら熱く、読みどころには事欠かない。 おっと、何なんだよその言葉のぶつけ合いトリック。。。。さて、いつの間にか(?)一部、二部の罠なのか何なのか。。 最終章(かどうかも分からない地平)に読み進むのが怖い!! かへり見すれば、モーツァルトの交響曲第40番(出だしが超有名なやつ)を髣髴とさせる、途中まで緻密に張り詰めまくっていたのを、最終楽章だけ一気に力を抜いて、でも充分キャッチーではあって、全体のバランス取るような、そんな構成だったかも。 しかしこれ地方新聞の連載でやられたら、参りますな。 連城の犯罪ファンタジーに宿る、謎のリアリティ押し切り感覚は凄いです。それを長篇でやり切ったのが本作。 |
No.1095 | 8点 | ねじれた家- アガサ・クリスティー | 2021/10/05 20:50 |
---|---|---|---|
短い最終章、最後の台詞に大真相のほのめかしが宿る。そう、真犯人意外性より大真相の異様さで圧倒する小説。真犯人がものすごーーーい後になってやーっと暴露される構成も、この真相あってこその必然性、並びに演出有効性。まるでコンクリート打ちっぱなしの店のように露骨に晒された伏線ならぬ大ヒントの数々。探偵役不要(?!)の物語ながら、ある種の探偵役は主人公父親の警視庁副総監か。⚫️⚫️⚫️な真犯人が⚫️⚫️⚫️される結末も衝撃的。ちょっとアンチミステリな趣向も見え隠れ。なーんか探偵役らしき人物がずーっとふわふわしててピリッとしない筋運びだなー(そのくせ面白い!)、マザーグース感、館モノ感まるで無いし、と思ってたら、、そういう真相に繋がったってわけですか。。!! そこんとこ、真相分かってみればもはや不要だったんじゃないかと錯覚する大きなミスディレクションとしても充分成立していたんですね。際立って特殊な物語構造が魅惑の源泉です。本作もまた、アガサらしい堂々の企画一本勝負と言えましょう。(若い頃ほど露骨でないのも味がある) |
No.1094 | 7点 | ミイラ志願- 高木彬光 | 2021/09/30 22:00 |
---|---|---|---|
こりゃあいい。サスペンスに滋味溢れる歴史/時代娯楽九連作です。
ミイラ志願■兇賊は死罪を免れようと仏門を叩き、即身仏となる難行を志願する。和尚はあっさりと受け入れる。痩せ細っても俗気が滅しない兇賊。怖ろしい結末。 偽首志願■影武者と信長公の唯一の違いはある食物の嗜好。トリックにトリックを重ね、トリックに溺れる武将たち! 乞食志願■蹴鞠芸人として生を全うしたい、義元の嫡男。ミステリ性はほぼ無いが人生の良い話。しかし脇役が中心に来る終結は、あまりに重い。 妖怪志願■関ケ原前夜、武将たちに家康を滅ぼすべく次々とアドバイスを送る謎の者。この大オチは異色作と言えましょう。 不義士志願■複雑な事情で、吉良邸討入りから外され、事後も不如意な目に遭う赤穂の義士。ところが。。。。 この結末は眩しい。 飲醤志願■太平の世、頑健無比の大男を抹殺するにはどうしたらよいか。 バカサスペンスに剛毛が生えた様な話。 首斬り志願■明治の首斬り役人に強力な跡取りが現れた! 和やかな導入からまさかの反転、ミステリ性の高さは随一。 女賊志願■幕末から明治、刺青に纏わる歴史の謎を解き明かしてみると。。。 或る人生に纏わる心の謎が赤々と現れた。。 渡海志願■会話のミスディレクションがニクい。。幕末、密航を企てた動機は、そこか。。。。歴史に深く軸足挿したハウダニットが最後に炸裂! 一方の主役、長崎奉行の英明が限りなく尊い。 |
No.1093 | 7点 | 九人と死で十人だ- カーター・ディクスン | 2021/09/27 22:01 |
---|---|---|---|
ある物質の『過ぎたるは何とやら』に着目した鮮やかな逆転(!)物理トリック、の実行失敗(!!)が作り出した不可能状況の魅惑、あまつさえもう一つの大トリックが不可分に結んでいたとは。。(アレが盲点になってた、チェックもされなかったというのは、、人数を考えると無理も無いのか..??)まあ、この物理トリックは実践云々より、想像上でこそ価値のある事象ですかね。(だがもう一つの方のチェック機能が働かなかった件は、若干無理があるような。。いや、この特殊状況下だからこそ逆に見逃され易かったのか??) あまりに鮮やかな犯人指摘シーンは、たとえソレがアレだとしても、この一瞬の眩暈は珍重したい! 適度なユーモアに戦時ならではの緊張もアシストし、撓み無用の良い雰囲気。HM卿もしっくりはまる。 動機は、それなりに深くも見えたが、ミステリ軸で検討すると、どうってもんでもないかな。。 まあ、クリスティとはまた違う、ちょっとした人間関係トリックというかナニにはやられましたかね。 目を引くタイトルだけど、計算違わない。。? なんてね。何気な●●●●●●●●●になってるからいい、のかな? |
No.1092 | 7点 | 真珠郎- 横溝正史 | 2021/09/22 21:14 |
---|---|---|---|
告白書の書かれたタイミングに妙味あり! 犯人意外性より、真相意外性とその騙し絵の奥深さ。首無し屍体を取り囲むミスディレクションは秀逸。前半は、天変地異のさなか敢行された残虐殺人を巡るパニック冒険譚。ゆりりんも登場する後半は、主人公の周囲でばかり起きる連続殺人を巡るサスペンスフルな推理劇。この構成もコントラスト鮮やか。探偵役の比重が妙に軽いのも味のうち。戦後の本格横溝黄金期にそれぞれの作品内へと巣立って行く諸要素が詰まった、戦前横溝の力作と言えましょう。
角川文庫併録の「孔雀屛風」 悲恋と◯◯◯◯心、この一見合い馴染まない様な二つの心理が百年以上の時を超えて。。、。日常の謎めいたスタートから、あっと言う間に犯罪の暗雲が立ち込める。古文書や文語調手紙の緊張感も巧みにはまり、締まり良くもロマンスに心温まる好短篇。「真珠郎」の後には良い清涼剤。 しかし、罪な恋人たちだ。。 |
No.1091 | 6点 | 殺人症候群- リチャード・ニーリィ | 2021/09/18 14:38 |
---|---|---|---|
最終章には心ふき飛ばされたなあ。。。(一瞬、■■かと思った。。) そして、否応なく考えさせられました。
このような真相を巡って、周りが如何に目星を付け捜査を進めて犯人捕獲に至るか、の一挙手一投足が興味の中心に来ましたね。 そこに至る前の"犯人やりっぱなし"の部分にもっと硬質のサスペンスがあればなあ。。 でも充分、詰まらなかァない代物。 本作を「妻に」捧げる作者、ちょっと怖いです。 本作一番のポイントは、実はそこかも知れません。 |
No.1090 | 9点 | 冤罪者- 折原一 | 2021/09/15 05:46 |
---|---|---|---|
いやー諸君、どいつも人間臭くて大いに結構!! 一くん、やったね! Gの重みでグリグリ来るジェットコースターサスペンスは、乱反射を止めないイヤミス魂の遍路。 これやばい。ビッチリやで。。。。 何らかの怪しさを持つ重要人物群(どいつも癖ツヨ)の重要度がだんだん均等になって来る切迫感が気持ち悪いんだよなあ、最高に。てかそのお蔭で色々見えにくくしてるんだね、凄いねえ。。。 「幕間」の効果もそれぞれ堅調、時に爆発、カッコツケのギミックに終わりようが無え。 叙述トリックではない、は言い過ぎかも知れんが、それに立脚しきってない、飽くまで目眩しの一つとして逞しく消化している、このぶっとい頼もしさたるや。 強烈なのが何度も襲うエピローグも圧巻。(ク●フ●の「●に●●●●く●●い」を思わせるシーンがあった..) 面白すぎ読み易すぎてあっと言う間だったのが、内容のあまりの充実具合に、二週間半くらい掛けて読んだような錯覚が起きています。時間は伸び縮みする、ってのはこれですね。 一くん、話題の森●一くんにも爪のアカ、テキーラに混ぜて呑ませてやって!! |
No.1089 | 7点 | 罪への誘い- ミシェル・ルブラン | 2021/09/10 02:41 |
---|---|---|---|
ロックンロール革命以前(発刊は’59だが..)と思しきレコード会社を舞台とした、謎と疑惑の乱反射も眩しい素敵なクライム・ストーリー。老いた初代社長には腹違いの二人の息子。共に同社社員であり、微妙な対立関係にある二人が揃って食指を動かすのは録音技術主任のハクいスケ。三十路にもなって軟派の不良で麻薬中毒、未成年暴行であわや新聞沙汰になりかけ巨額の口止め料を無心に来るようなグズグズの弟に、十も年上で小心者の兄(販売部長)は、、とうとう何かがプツリと切れた。。。。
「どうやらあなたにはアリバイ必要なようですな。それもうんとしっかりしたアリバイが。アリバイは何ですか?」 いやはや、二百頁ほどアッと言う間に読んでしまう爽快痛快やばいお話でした。結末を待たず中盤早くから激しく腰振るように二転三転するストーリーの動体エネルギーは大したもので、通底するカラフルなユーモアもそこに上手く融合。あれ、そこでいきなりまた90度旋回するの??。。とか何とか振り回されていると、、ようやくそこにトゥッサンが乗り出してからのカットバック畳み掛けが尊い!! と、思った矢先に、アレ、何だこれトボケてらあ! ところがさ、勝負は始まったばかりなんだなあ。仮に見え透いた結末に雪崩れ込もうとも、これだけ楽しませてくれたなら大いに満足さ、って殊勝にも思ったもんだが、果たして。。。。 そっか、ささやかな叙述トリックがあったのだね! と振り返ったのも束の間、そこ随分大胆にやったもんだなーと。でも叙述トリックより叙述ギミックの方が光ってるね。大伏線の大胆な置き場も、完全に目眩しされてました。 ほんのちょっぴり、イニシエーションなんとかを折り目つけるとこ変えて折りなおしてみたような、そんな感じもしました。(適当に言ってます) ちょっとした自作カメオ出演も面白い。 弁護士流エジプト文字、いいね! そんでもって、いっやー、最終盤に至っての、この、真犯人と探偵役のタイミング最高の攻防! 何より、突如発熱するエンディングと、深みに響くラストセンテンス。。。。人間の哀しみ。。。。 このコントラストにヤラれるのよ。 しかしだな、よりによって、まさかそんな所に、笑うほどの致命的証拠が!! |
No.1088 | 7点 | 夜の終る時- 結城昌治 | 2021/09/08 00:41 |
---|---|---|---|
誰が漏洩(もら)したか、誰が殺したか、二つのフーダニット。当初、恐喝犯に逮捕予定をリークしたのは殺された刑事で、刑事を殺したのが恐喝犯と目された。要は仲間割れだ。ところが、その恐喝犯は拘束中の警察内部で謀殺され、更にはそのトボけた実行犯(?)も屍体で発見される。これで複雑になったフーダニットのフーは、かえって全四件とも一人に絞られたのか、それとも。。。。
簡素で情感滲む、可読性高いハードボイルド文体で書き捌いた昭和の警察群像劇です。いくつかの新機軸を意識して書いた作品の様ですが、その意気込みが前のめりにならず、豊かな内容が堂々と、着地すべき場所に着地しています。筆力ですね。 後半と呼ぶには短すぎる第二部をもっと膨らませて、途中まで真犯人を明かさず進む倒叙形式で(第一部の最後でも真犯人を明示/暗示せず)行ったら、もっとガツーーンと来たんじゃないかな、などとも思いました。 まあでも、真犯人とその背景を知ってから第一部を読み直すと、はぁーーコイツそうだったのかよ… って見事な大胆伏線や裏ストーリーが哀感帯びて次々と浮かび上がって来るのですね。 やはり、ここは構成の妙と言うべきでしょう。 そうか、アンタの「夜」ってのは。。。 終わるのか。。。。 読んだら、赤羽に行きたくなりました。 |
No.1087 | 7点 | 小人たちがこわいので- ジョン・ブラックバーン | 2021/09/06 15:09 |
---|---|---|---|
ほー?これ本格ミステリなんだ。。徐々に島荘っぽくなるし。。本格映えするフックがいくつもあるし。。って思って読んでたんですけどね。大型物理トリックの予感もなかなかで、飛行機のエンジン音微調整に異様にこだわるとか。。 ジャンルミックス × 素材ミックス(伝説の遺跡発掘、公害の犯人捜し、東西冷戦、ナチスの亡霊、ヒッピーnotビート族、バイオテロ。。)の限界詰め込み小説なんですかね。ホラーラーでない自分にはその旧モダン・ホラーの終局だか新モダンホラーの黎明だかのスリルが殆ど感じ取れず、専ら本格ミステリと政治絡みサスペンスの熱い併走、に何だかよく分からない面白要素が闖入して来たぞ、てぇなもんでした。結果的に前述の飛行機エンジンの件こそ本作のメインバカトリックとして自分は認識することになります。んでやっぱり島荘のような熱さでぶち抜く最終コーナー。。。最後は、島荘、とうとう裏切るw みたいな〆。 当初の憶測で期待した本格ミステリ寄りの結末ではなかったけれど、なんだか混乱したけど(エピローグはもやもやしただけ)、要は全体の面白さが勝ったのですね。 小説技法的には、古い文庫解説にもあったけど、会話の捌きが上手いです。
むかし職場の先輩が「この本だけは本っ当に怖かった..」と語っていたのが今も記憶に鮮やかな一冊です。(すみません、自分は怖がれなくて..) それと、昔の創元推理文庫巻末目録でフレドリック・ブラウンの次に並んでいたせいか、本作もブラウンの作品だとしばらく思い込んでいたものです。「三人のこびと」に引っ張られたのもあるかも。あとチェイスの一連の邦題ともちょっとイメージかぶってましたね。 |
No.1086 | 7点 | 疾風ロンド- 東野圭吾 | 2021/08/31 19:30 |
---|---|---|---|
やっぱ夏は雪だな! 全力で書き飛ばした様な一筆書きハイクオリティには参った! このツイストだらけの豪速リーダビリティは、ターンを交えて高速直滑降(スノボ群と共存しつつ)の隠喩そのものではないか?! 物語の幹は、或る超危険物質の争奪戦、舞台はスキー場、やわらかい人達が軽い会話と行動を繰り返すくせにやたらサスペンスは熱い!! Tetchyさんもご指摘の、スタート間もないトコでいきなり大型ツイストが捻じ込まれる展開はシビれます。 こんだけヤバいブツを相手にお気楽過ぎねえかと思う場面もたくさんありますが、それはもういいです。 斬新で滑稽で絵になる雪上のアクションシーン、忘れるものか! ホワイトなんだかブラックなんだかターコイズなんだか、誰が狡くて誰が哀れか、誰がしっかりしてんだか無用心なんだか、心と頭が空中に迷う凄いエンド!! こんだけエンタメに振っといて、ダークなしこりもそれなりに残す。やっぱビールは苦くないとな。フウー。
(コロナ禍で罹患等被害に遭われた方には、辛い側面のある小説かも知れません) |
No.1085 | 9点 | 首無の如き祟るもの- 三津田信三 | 2021/08/30 18:30 |
---|---|---|---|
「でも、これは●●じゃありませんか」
「………」 連続殺人の被害者に何気な意外性。こいつが何気に、ぶっといミステリ信頼感の柱を成している(だけでなく、大化けするぞ!)。 見せつけるように晒されるメタ要素も、すんなり馴染むから厄介だ。 生首●●ン●●ン●とでも呼びたい仰天心理/物理トリックの横暴な正面突破! こんなに、このレベルまで、肌理が細かく大胆不敵で、隅の隅までびーっちりと、夥しいこと目が眩むほどの伏線群ユビキタス配置。。。。普通だったら不興を買っておかしくないご都合要素も、瞬間粉砕されて風の中。。 たった一つの盲点大疑惑から、スルスルと全ての欺瞞が暴かれるに至る、凝縮度合も甚だしいスリルの突き上げよ!! 更に、これだけ心を揺り動かしておいて実は●●ー●●●作だという、灼熱の大どんでん返し!! いやいや、本当にやばい作品。 やたらな高評価も納得しかありません。 色んな意味で、最後は虹が掛かったか、掛からなかったか。。。。。。。 それにしても、シリーズ先行二作に較べて、文章が格段に良くなっている! 時代の空気も今度こそは嗅げた。場違いな平成感ほぼ無し!(作品そのものは、やっぱり平成の新本格だなあ、って感心します) 文章でズッコケた先行二作もミステリの内容は半端でなく充実してると思ったし、こりゃシリーズ次作以降も楽しみですな。 |
No.1084 | 7点 | 突然の明日- 笹沢左保 | 2021/08/25 00:00 |
---|---|---|---|
“義久は寂しかった。彼はしばらく、その場にたたずんでいた。新橋駅へ向かったのは、五分ほどたってからであった。”
家族の悲劇から突如、ゲーム性の高い世界へジャンプイン、強い思い込みを道連れに。。それも悪くない、現実世界が実はそんなもんだろう。だがやはり社会派ならぬ人生派らしい空気は琴線に触れる。ちょっくら理屈のエセーがうるさいのも許せる。タイトルワードの置き方が説教くさい所もあるが、いいでしょう。それにしてもこの小説には何やらケミカルの匂いが、、それともうひとつ、”アレ”の匂いがどうにも漂うのだが。。。 探偵役を買って出た被害者の父親と妹それぞれによる、頼もしき実地検分シーン、振り返れば泣ける。人造の筈のアリバイに、自然発生(?)の大火災がどう関わって来るのか興味津々。。と言ってアリバイトリックは腰を抜かすようなものでもないが、その、偶発事から身を守る要素も入った複雑な忙しなさと、ちょっとした心理トリック取り込みの妙、これはいい。主舞台は東京と宮崎。控え目な旅情が愛おしい。たまらなく鎮魂焼酎を呷りたくなる場面にも遭遇する。これだけ人間ドラマで煽っておきながら、靄の中で見えない、いかにも業の深そうな殺人動機はいったい何なんだ! ところが。。。。 いや、この動機そのものはともかく、その発端となった事象を軽く見ることなど、まともな人間に出来るものか! もうひとつの大きな謎、交差点での人間消失トリック、文字通りの物理心理トリック(かの「トリック・ゲーム」でも紹介!)のほうを最後の最後に解明して終わるのも、破格の味がある。 それと、目次では明かされないサブ章タイトルが普通にいい。 寂しいお父さん、まだまだ希望は残ったじゃないか。。!! |
No.1083 | 7点 | 11の物語- パトリシア・ハイスミス | 2021/08/23 11:11 |
---|---|---|---|
かたつむり観察者
かたつむり単体は動きが遅い。これは数学的想像力を発揮して玩読せねば!! 但し、割とグロ注意だぞ!! 恋盗人 甘い期待をかっさらって歩き去るストーリー。他人の手紙を盗み見て、返事まで出してしまった主人公は。。ベタに展開しても良かったとは思うが、、最後の涙は光ったな。 すっぽん シングル毒母に苛まれる幼い息子が脱出を試みる。庶民が生活に失敗した物語。最後はいきなりの事にびっくりするのだが、、残念ながらさほど響かず。 モビールに艦隊が入港したとき これは好きなディープ短篇だなあ。。話が次々と深掘りされて行く構造に旨味あり。冒頭いきなり、就眠中の夫を窒息させた不幸な女が当て所ない逃避行に出る。。シャーリィ・ジャクスンを思わす側面も光る一篇。もやっとしたエンドに雪崩れ込むのかと思っていたら。。 クレイヴァリング教授の新発見 これも分厚くて好きな短篇。面倒は抜きにしてひたすら熱いスリルに拮抗しよう。しかし教授、悔しいよな!! 愛の叫び ソフトきちがいばばあ二人の仲良し復讐合戦。考え落ちならぬ想像落ちがなんとも、痛ましい。まずまず。 アフトン夫人の優雅な生活 何故だかにこやかな心持ちになる日常の反転劇。そういうこともあるさ。。本短篇集の中ではミステリ度高と言ってよいかな。 ヒロイン 心の病とはどこまで罪深くなれるものなのか。。この、いきなりこれから始まる、暴力的オープンエンディング。。。。。。。。 もうひとつの橋 起伏の多い人生ドラマを淡々と歩み渡ってじんわり来た。本短篇集の中では際立って、前向きな力強さがあるね。 (まさか、主人公もいずれは。。というオープン考え落ちじゃないといいが。。) 野蛮人たち 軽犯罪?絡みの日常のサスペンス。しかし何なんだこの野球好きの不良オヤジ達は(笑)。絵がヴィヴィッドに浮かんで愉しいが、最後ちょっとクニャッとなって終わるのが、惜しいかね。 からっぽの巣箱 心のしこりが、偶然の出来事に因縁を植えつけて現れる。。可愛い(?)動物が走り回る話。 途中退屈だったが、最後はなかなかズンと来た。 |
No.1082 | 7点 | 大暗室- 江戸川乱歩 | 2021/08/19 12:15 |
---|---|---|---|
大通俗な内容に説得力ある文章。がっつり掴まれてハイテンションなリーダビリティは恐るべきレベル。 後半の後半、大暗室紹介シーンの目に余る机上の楼閣ぶりが心に響かず、そのフィージビリティの枯渇(冗談です)にはちょっとだけ醒めた。だがある種の集大成らしき風格も伴い、この際立ったメクルメク面白さはちょっと看過できない。久留須と花菱の魅力には参った。この世には「善と悪」なるものが在るとする大ファンタジー前提の痛快力作。 |
No.1081 | 5点 | 死にいたる火星人の扉- フレドリック・ブラウン | 2021/08/17 20:50 |
---|---|---|---|
登場人物表の”出落ち”でこんなに笑わせるのも珍しい! 本職のSF領域にちょっぴり触れた展開だけに(?)面白さもそこそこ保証されてるよな微妙な期待感でスタート。やがておそろしく魅力的な変人が登場、一瞬めちゃ上がったが、そのあとちょっと退屈に。。だが予想外の激しい展開も覆い被さり、ユーモアは常に携行しつつ、ヴィヴィッドな女の子達も出入りしつつ、まず愉しく進行。依頼人捜し趣向の興味深さ、それが事件解決ないし紛糾にどう絡んで行くのかへの期待。しかし事件の背景こそ予想外に壮大で驚いたが、それがミステリとしての大きさにさっぱり寄与していないという何とも残念な、カスった感。。何なんでしょうか、この微妙極まりない、収まりの悪さは。エンディングも、気を利かせたようでなんか外してるような。。イカした邦題負けしてるとしか思えませんが、色々愉しいシーンもあってそう悪いもんではないです。特に勘違いボクシングで結果オーライの場面は最高にハイボール日和です。 だがなあ、おそろしく魅力的な変人、レイのカラフルなオーラがもっと、物語を席巻してくれてたらなあ..!! |
No.1080 | 7点 | 飛田ホテル- 黒岩重吾 | 2021/08/15 13:14 |
---|---|---|---|
表題作について。 大阪は西成区、飛田新地「月光アパート」の通称「飛田ホテル」は、この安アパートの半分が実質売春宿として機能している所に由来。作者が人生ドン底時代に (経緯は色々だが、金持ち証券マンが美食から悪食趣味に走り、腐肉を喰ったら三十路前に急性小児麻痺を発症、三年間入院って話は怖るべし。。。) 鬱々と暮らした、隣町は釜ヶ崎のアパートがモデルと言う。
最初の二篇が強烈に沁みます。 「飛田ホテル」・・・・ アパートの部屋の前には、昔は無かった、自分の苗字を冠した名札が。。刑期短縮で出所した主人公の男が、以前妻と住んでいた「飛田ホテル」に戻って来た。猥雑な住民達の和やかな歓迎。ところが、妻は数日前から行方知れずと言う。家財一切、管理人のもとに移して。アルサロ勤めだった妻につきまとっていた陰湿な青年の影がちらつくが。。 このたまらん情緒の中に心が迷い込むのを、そうはさせじと更にたまらん謎の力が牽引する、綱引き構造の嬉しさ、たまらんよなあ。。。 澱んだ下層社会を背景に、夫と妻の情愛がどこまでも沁み渡るお話です。 「口なしの女たち」・・・・ 妻を交通事故で無くした保険外交員の父親と、幼少時の怪我で脚に障碍を負う息子。大阪に住む二人だったが、優秀な息子が神戸の大学に通うため下宿住まいを始め、別々に暮らすようになった。 或る日、不良外国人が跋扈し治安の悪い湾岸地区の路地裏で、撲殺屍体として発見された息子。 現場の近くには”聾唖の娼婦”が集まる料理店があると言う。 警察の捜査に見切りを付け、単身調査に乗り出す主人公は問題の料理店に通い始める。そこに一人、何かが引っ掛かる、飛び抜けて品の良い女がいた。。 父から息子への情愛がどこまでも沁み渡る、ラストシーンが響く一篇。 中の二篇は、先の二篇ほど冥く深くは刺さらないが、もう少しだけ明るい舞台での人の心の働きに揺さぶられる、素晴らしい作品たちです。 「隠花の露」・・・・ パチンコ屋で真面目な男と初めて知り合った、って.. 腐れ縁姉妹(?)の人情話。早くから一人暮らしを始めた姉と、金持ちでもない”旦那”を週二で迎える無教養な母親と同居する妹は、どちらも幸せな暮らし求めてもがくコールガール稼業(頭に「高級」は付かない)。”どもり”を抱える妹の方が堅気な暮らしへの憧れは強く、工場勤めをしたりもする。悲惨な境遇が飄々と仄明るく描かれるのは、のうのうと暮らす事の出来ない下層社会が舞台であるからこそか。話が進んでもなかなか気配を見せない(それが不満にもならない)ミステリ要素は、最後の最後にやっと小さく破裂。本当は悲惨の上に悲惨を重ねる結末の筈だが、あっけらかんと、むしろほんわりした、未来のある空気感で締める。 「虹の十字架」・・・・戦災孤児として拾われた美しい娘と、夢の中に時折現れる母親らしき美しい女性、の絆を主軸に置いた物語(と私は思う)。男狂いの義母とその粗野な男たちから漸く逃れた娘は、町工場の熟練印刷工だった義父の現役時代の伝手で、中堅印刷会社社長とその息子、娘に紹介される。。。。 冷徹な空気の中で進捗する激しい心理劇。 結末はちょっと、、開いた口が塞がりません。 そこに虹は掛かったのか。。十字架は建っていたのか。。 最後の二篇は、先行作ほどはじんわり来ない代わりに、普通の推理小説として楽しめる、ように見えるが。。 「夜を旅した女」・・・・ 工場の女子更衣室で発生した盗難事件を契機に接近した、地味な男と女の話。やがて女は行方知れずとなり、ある日溺死体で発見される。男は工場を休んで単身地道な調査を続ける。この調査行の叙述、描写に実に滋味が溢れる。 解決では見得など切らないが、ラスト一瞬には肝が冷えた! 「女蛭」・・・・ 最もミステリ側に振った作品。 好きでもない重役の娘と結婚した、身持ちの堅い宣伝部長が、うっかり浮気した相手からの真昼の緊急電話でマンションに駆けつけると、彼女は死んでいた。。警察に通報もせず何とか現場から逃げ出た所へ、結婚前にうっかり手を出した地味な女子社員が現れて 。。。 短篇らしいヒネリが強烈に効いたサスペンス好篇。業の深過ぎる暗黒のエンディングに、首根っこ締められる思いです。 |
No.1079 | 7点 | 山口線"貴婦人号(エレガンス・トレイン)"- 草野唯雄 | 2021/08/13 14:44 |
---|---|---|---|
大胆なトリック再現シーン(熱い)! 大胆過ぎる■■■捜査(でも、やるよね)。。 そしてあの、素晴らしき中規模物理トリック(て言うたらネタバレやないか。。?)!! 。。。 の全てを卓袱台返しして、尚且つこの最後の、気を持たせるおセンチなオープンエンディング..!! 折り返しあたりから(なんなら●●から)メインプロットは見切れてしまうという読者もおいでなさろうが、気品と俗っぽさが綱引きする文章力大いに含む全体力で、こりゃ現代に於いて評価が高めでも訝しからぬ事でしょうな。物語がかなり進むまで、□□が誰なのかまだ靄の中(強力無比な候補はいるが、決め打ち出来ず..)という興味牽引の工夫は素晴らしい。 で、その人が実はダミーで真□□が別にいたら、、なんて妄想はしたけれど。・。・ (そういうのは某氏とか某氏の決め技なわけで。。) ところで、この大見得を切る中規模物理トリックですが、過去の或る事件と相似形の全く同じ原理を当事者本人が使っているわけだから、そこに生まれる苦しい葛藤など、もう少し熱く叙述されてもよかったのでは? サラっと触れる事で察してくれという書き様かも知れないが。 で、どことなく『永遠の◯◯』を思わせなくもない結末に、結果的になった、とも言えましょう。 ところで、例の五百万円はどこへ行っただね ?!
アリバイトリックに、昭和後期の復刻版(?)蒸気機関車が登場するという大胆な作品です。 中堅建設会社の跡取りの話が出ますが、会社派でもまして社会派でもない、本格推理小説である事は読んですぐに窺い知れます。 それから、時刻表アレルギーの方は、気にする必要無いです。 って言うとネタバレになりそで怖い。 |
No.1078 | 7点 | 射撃の報酬5万ドル- ハドリー・チェイス | 2021/08/11 08:54 |
---|---|---|---|
何度も寄り添っては突き放し合う、意外ながら凄まじい友情の渦中で、まさかの主人公入れ替わりが?! 。。。 なんて最後の最後まで分からない愕然たる感慨に直結するハイパーテンションサスペンスと冒険の顛末は、この一冊の本から少しばかりはみ出してもいよう!!
「きみの煙草を一本いただきたくなった。医者はわしが煙草をすうのを喜ばないのだが、わしは、無性にすいたくなることが時たまある。そのような時の一服は、気持ちを鎮めるのに、たいへん役にたつのだ」 腰抜けヘタレ野郎の俺の息子を、事情あって、9日間で一級の狙撃手に仕立て上げてくれ(下ネタではない)、というあまりにも疑惑を唆る南米大富豪からの依頼を受けた元米軍狙撃手(ベトナムでは全陸軍中銀メダルの腕前!)の主人公は、新婚の妻と一緒に射撃学校をなんとか経営している所。 チェイスは流石のストーリーテリングで、序盤はじっくりとスリリングに、中盤前から一気にフルスロットルで幾度のカーブも平然と飛ばしまくり。あっと言う間のハイ過ぎるリーダビリティで、むしろ計画的に一息いれながら読んだ方が面白いかも、なんて心配もしてしまう。 それにしてもですな、ある種の手掛かりとばかり思い込んで安心していた■■■が、まさかの大伏線だったとはな。。。。 最後の考え落ち&オープンエンディングで恐怖が沁み渡りましたよ。 空さん仰る通り、レプスキ刑事がもう少し喰い込んで来るかと思いましたが。。(最後に少し余韻を残してはくれました..) 更に贅沢を言えば、射撃学校の前の持ち主がもう少しいやらしくストーリーに絡んで来たらなあ。。なんて妄想します。 |