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[ 短編集(分類不能) ]
十二人の手紙
井上ひさし 出版月: 1978年06月 平均: 6.88点 書評数: 16件

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中央公論社
1978年06月

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1980年04月

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1980年04月

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2009年01月

No.16 6点 zuso 2023/12/17 22:09
上京した少女が郷里の弟や親友などに宛てた便り、海外赴任している夫に隣家の異常を手紙で訴える妻など、ラブレター、礼状、文通にメモ、様々な形の手紙で構成される12の物語。
とりわけ、ある修道女の不幸な生涯を公式書類で描き出す「赤い手」に唸らされる。全ての話がエピローグにて結ぶつくのも心憎い。

No.15 8点 斎藤警部 2022/02/25 06:20
エピローグが有るのはいいとして、何故、他篇と同列の感じなのに、第一話だけ特別扱いでプロローグなんだ!? .. という強い違和感背負いつつも、あまりの読ませ力にずいずいドカドカ行って、気付けばもう読了、もったいない! 旨くて深くて軽くてもう最高のタパス群揃い踏みにはシェリーで乾杯するしかないね!!

プロローグ 悪魔/葬送歌/赤い手/ペンフレンド/第三十番善楽寺/隣からの声/鍵/桃/シンデレラの死/玉の輿/里親/泥と雪/エピローグ 人質

先行の皆さまも書いてらっしゃる通り、十二人の主人公が特定の人物に宛てた書簡、または特定人物との往復書簡でほとんど全てが占められた連作(?)短篇集(?)です。 この「ほとんど」に含まれない部分に、胸を衝くギミックなり膝を打つトリックなりが籠められているとかいないとか。。 放送作家出身の井上ひさしさん、流石の手練れっぷりを遺憾なく発揮してくださいました。 十三篇(えっ、十二篇じゃないの?!それにプロローグ/エピローグ除いたら十一篇しかないよ..)の懐中には悲劇あり謎あり、策略あり狡知あり、涙あり苦笑あり笑顔あり、すれ違いあり慈しみあり、叙述●リッ●当然あり(だが、そこで使うとは!!)、、 人に歴史あり、まさかの駄●●あり、暗●(?)あり、作中作あり、忘れ得ぬ大演説あり、虚を突く大胆企画あり(これには驚いた、見得切ってくれたわ)。。。。

ところで、あの「ガーヴ」の件は結局何だったのでしょうか。(鮎川さんに、共通要素光る短篇があったような..)

No.14 6点 E-BANKER 2021/11/20 10:50
日本で最も著名な戯曲作家(と言っていい?)作者が贈る連作短編集。
各編はすべて「手紙」形式ということが共通している。そして、ラストは・・・!
1978年発表。

①「プロローグ 悪魔」=ひと昔前、田舎から出てきた女性はこんなだったよなぁー。でもこの序章がラストに響いてくる。
②「葬送歌」=母と息子の「お涙頂戴」的な話が最後にひっくり返される。
③「赤い手」=ひとりの不幸な女性の人生が、「出生届」や「婚姻届」など様々な届出だけで詳らかにされる。そういう意味では斬新。
④「ペンフレンド」=まさに「手紙」がテーマなんだけど、こんなまだるっこしいことやらなくても・・・
⑤「第三十番善楽寺」=四国八十八か所の第30番札所に纏わる逸話と、一人の障害者の話がリンクしてくる。
⑥「隣からの声」=これはミステリーの短編によく出てくる趣向。隣家から怪しい声が聞こえてきて・・・
⑦「鍵」=結末だけみると、なかなか「粋」な話。でも、これもまだるっこしいな!
⑧「桃」=これは・・・ちょっとしようもない。
⑨「シンデレラの死」=これは面白かった。叙述トリック的な趣向だけど、手紙形式が効いているところが良い。
⑩「玉の輿」=これも一人の女性が運命の波に揉まれまくるお話。
⑪「里親」=まさか、最後のオチが「ダジャレ」とは・・・作者らしいのか?
⑫「泥と雪」=これは企みに満ちたお話だなー。こんなうまい具合にいくのかは疑問だが・・・
(ボーナストラック?)「エピローグ 人質」=なんとこれまでの①~⑫の登場人物(一部だけど)が山形県の温泉ホテルに集結するという最終編。なぜかというと・・・ここで序章が効いてくる。

以上12編+α
今どき「手紙」書くことなんてなくなったねぇー、という意味ではなかなか貴重な作品。
発表当時はおそらく斬新な趣向だったんだろうけど、現代の目線でいうと、やや手垢のついたプロットなのが惜しい感じ。でもまぁ、なかなか気が利いてるし、さすが数々の受賞を受けてきた作者だけあって、リーダビリティも半端なく高い。そういう意味でも一読の価値はありだろう。
(ベストは⑨かな。割と似たようなベクトルの作品が多いのが気になった)

No.13 5点 パメル 2021/06/21 08:57
企みに満ちた人間模様が味わえる短編集。すべて手紙文で綴られるという趣向にとりたてて新しさはない。
「プロローグ悪魔」どこにもある田舎娘の悲哀を悲劇に高めるプロローグ。
「葬送歌」偏屈な売れっ子小説家に送り付けられた戯曲への痛快逆転劇。
「赤い手」出生届から死亡届まで、届け出の中に薄幸な尼僧の生涯が浮かび上がる残酷信仰物語。
「ペンフレンド」北海道旅行を楽しみにする孤独なOLがペンフレンドに選んだ男の正体を巡る推理譚。真相は誰でも見破るだろう。
「第三十番善楽寺」身障者の共同体の波乱が一人の男の誓いを破らされるまでの魂の遍路。
「隣からの声」隣家の財産騒動に巻き込まれた新妻の心の闇に迫る。
「鍵」山籠もりした天才画家に届けられた妻と弟子の陰謀の記録。
「桃」人生をかけて押し売りされる善意の倣慢を裁く。
「シンデレラの死」芸能界の階段を駆け上がる娘を襲う欺瞞。
「玉の輿」酒飲みの父を持った女子高生の純愛と「家」制度の形通りの葛藤。
「里親」推理作家の卵が師匠に奪われた最も大切なものは?
「泥と雪」冷え切った夫婦仲を青春の憧憬が柔らかく引き裂いていく。
「エピローグ人質」オールキャストで描く悲喜劇のエピローグ。名探偵は筆談で語る。
日本という国の貧しさをしみじみと読者に突き付けてくる。しかし決して貧乏臭くはない。洒落っ気と遊び心に富み、ツイストに唸らされる。ただミステリとしては弱い作品が多いか。

No.12 6点 メルカトル 2017/05/30 21:48
再読です。
書簡、ほとんどが手紙で一篇のみ様々な公文書で構成された短編集。一応連作短編集という形を取ってはいますが、これは短編集と言ったほうが正しいのではないかと思います。
あらゆるテクニックを駆使して手紙のやり取りを巧みに反転させたり、どんでん返しを成立させたりして、涙ぐましいまでの作者の苦労が心に沁みます。しかし、あっと驚くようなオチも中にはありますが、大抵は唸るほどのものではないですね。アイディアとしては良かったものの、見事に大成功というわけにはいかなかったようです。
一番の読みどころはやはりエピローグ。それまでの主な登場人物18人が一堂に会します。しかも特殊な状況下で。さらに最後の後日談がいわゆる解決編になっており、これはなかなか気が利いていると思います。まあ複雑なものではありませんが。
なんだかんだ言ってもそれなりに楽しめましたが、7点をつけるのには躊躇せざるを得ない感じですかねえ。

No.11 4点 2015/02/25 10:07
評判がよいので読んでみました。
12編には手紙スタイルという共通点はあるものの、それぞれにいろいろと工夫が施してありました。

にもかかわらず、途中で嫌気がさしてしまい、なんども中断しました。
決して面白くないというわけではありません。むしろ面白いものもありました。
みな2,30ページの短さで個人的には短編小説として好みの分量だし、途中で飽きるような要素もないので、問題ないはずなのですが・・・。

「赤い手」は、届出書(公的文書)ばかりで完結する斬新なアイデアが使ってあり、それなりに感心もし、最後には納得もしました。でもこれをミステリー小説といっていいのでしょうか。読みやすすぎますが、楽しめたというほどではありません。
「エピローグ 人質」は、それまでの作品からのつながりがあり、面白い趣向だと思います。一風変わった連作スタイルの完結編と言えるでしょう。

ということで、全体としての満足度は中程度以下ですが、いろんなアイデアが組み込まれている点は十分に評価できます。

書簡形式の小説(非ミステリーですが)は、いままでに何作か読んでいて、けっこう好きな分野ですが、本書に関してはやや落ちるかなというところです。

No.10 7点 まさむね 2014/02/01 22:36
 手紙のみ(公文書もあったりしますが)で構成される短編集。
 短編自体の仕掛けは勿論ですが,人間に対する哀しさと愛おしさが,決して説教臭くなく,じんわりと伝わってきました。この微妙なさじ加減は難しいと思う。さすがは井上ひさし先生だと感じ入った次第です。

No.9 7点 蟷螂の斧 2014/01/31 14:40
騙しのテクニック・・・『葬送歌』ある高名な作家に送られてきた下手くそな戯曲、その意図は?『ペンフレンド』ペンフレンドを募集したところ、返信が。その相手は囚人なのか?『鍵』山へこもった画家へ、妻から自宅で殺人事件が起こったので至急帰れとの手紙。画家のとった行動は?『里親』有名作家のアシスタントとその恋人。先生に自分の作品が盗作されたのではと疑い『泥と雪』高校時代の片思いへの女性(今は人妻)へのラブレターとプレゼント攻勢、その結果は。サイコ系・・・『隣からの声』新婚早々の夫が海外出張。妻は隣家の異変に気付く。『シンデレラの死』演劇学校に通う娘がオーディションに合格し、主役を獲得するが・・・以上、おもわずニヤリとしてしまいました。6点か7点か迷いましたが、全体のアイデアに敬意を表しました。

No.8 8点 isurrender 2014/01/21 19:44
手紙という同じ形式で12もの異なるストーリを、しかもそれぞれに上質なミステリ要素を加えて編み出す点がさすが井上ひさし。

No.7 8点 itokin 2013/09/11 11:00
アイディアが面白い、井上氏もこんなミステリーが書けるんだ氏の才能を再認識しました。12の物語の登場者の行く末をエピローグでまとめるのも落ちが効いていいですね。

No.6 9点 take5 2011/11/05 18:06
採点するのを忘れていました。
何年も前に読んだのですが、はやり井上ひさしのような技巧に走らない方が技巧を用いると大衆にうったえる文学になるのでしょう。そこらへんのミステリ世界のみに生きる作品よりよっぽど深く人間が描かれていると思いました。

No.5 6点 シーマスター 2011/06/20 22:06
全て書簡形式で進行する短編集。タイトルどおり殆どが手紙だが中には公的文書だけで進むストーリーもあったりして面白い。
書簡形式の短編はさほど珍しくないが、一冊丸々というのは稀有ではないかな?(折原一とかであったっけ?)

今時のミステリーで「手紙」とくれば慣れた読者なら当然「叙述」シフトで構えるわけだが・・・・
本作でもその類の仕掛けがないわけではなく、ミステリー的に面白いと思えるものもいくつかあるが、何と言っても30年以上前の作品だから、新鮮味のある驚きを期待するのは酷というものだろう。

本短編集はミステリ要素以上に、時代背景に即して描かれている人生の機微や悲哀などが何とも味わい深い。(全体的にちょっとバカっぽい印象は拭えないが)
そして最終章での「まとめ」も悪くない。最後のトリック、結末はともかく、「アレとアレがつながっていたんだ・・気がつかなかったよ」「あの人たちはああなったんだ・・よかったね」・・・・・そう、悪くない。

No.4 4点 makomako 2010/05/24 22:08
この作品の書評がよいので読んでみたのだがこれは私にはあいませんでした。最初の手紙でまずがっかり。なんだこれだけ?あまりに安易ではないかと次を読む気がしなかったのだが、きっと面白くなるのだと我慢して読んだ。ひとつの話が短すぎる。しかも「なあんだ」という話ばかり。最後の話も途中まで読んだら結論は読めてしまった。推理小説のほとんどで犯人が分からず読者への挑戦などで勝ったためしがないというのに、これはまたどうしたことだろう。

No.3 7点 江守森江 2009/10/04 04:07
大衆文学の巨匠が紡いだ"仕掛け"の書簡小説十二編にエピローグを加えた短編集。
現在の本格ミステリの主流とも言える一般小説にミステリの技法を溶け込ませた作品集でバラエティーに富む。
しかも、さり気なさ・仕掛け・切れ味と三拍子揃う精緻な技巧を堪能できる逸品。
各編を繋いで最後に堂々とミステリを主張するエピローグも秀逸。
惜しむらくは、書かれた時代が早過ぎミステリ読者に浸透せず埋もれた感がある事と“大きな驚き”を齎さない事だろう。

No.2 10点 yoshi 2008/12/24 23:33
すごいの一言。作者はミステリ作家ではないが、ミステリ的手法を完全に自家薬籠中にしている。迷わずに人に薦められる一冊。

No.1 9点 こう 2008/05/26 00:54
 作者は井上ひさしですが内容は明らかなミステリでしかも最上級の短編集に仕上がっています。
 各短編が手紙のみで構成されその作品中で起きた事件を発端から結末まで説明付けるのがすごいです。短編によっては相互にリンクしているのもあります。
 そして最後のエピローグで各章の登場人物が(必ずしも手紙を書いた本人ではありませんが)ホテルに監禁され、味のある結末まで用意されています。この作品だけ手紙形式ではありません。エピローグはなくても良いという感想もあるかも知れませんがそれまでの雰囲気を壊すものでもありません。最高の一冊でした。


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