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いいちこさん
平均点: 5.69点 書評数: 526件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.506 6点 死が招く- ポール・アルテ 2023/05/24 18:43
真犯人の意外性は掛け値なしに認めるのだが、少ない紙幅に多くの要素を盛り込みすぎたことによる副作用が強い。
とりわけ犯人解明の決定打となった犯人の行動は、あまりにも唐突で、かつ内容が非常に不自然であり、伏線としてはあまりにも上手くない。
本作のプロットはよくできているだけに、残念な印象が残る作品

No.505 4点 ノースライト- 横山秀夫 2023/05/15 13:59
重厚長大な作品のようでいて、ミステリとしての本作の眼目は、結局のところ施主が3,000万円もの大金を払いながら、建築士に設計内容を一任した点と、当該施主がその家屋に居住せず、連絡もとれなくなっている点のみにある。
しかし、そもそも3,000万円もの高額な契約を締結しておきながら、受託側が施主の住所・家族構成等を把握していないということがあり得るのか。
仮に連絡がとれなくなっているとしても、警察に連絡することなく、東京から長野に何度も足を運んで、その行方を捜すものなのか。
最終盤に明かされる真相は、きわめてチープであり、まるでリアリティが感じられない。
このプロットの骨格に魅力が感じられないから、著者の高い筆力が却って冗長・水増しと映るし、さまざまな脇道を経由し、拡散していく話が夾雑物・水増しにしか見えてこない。
まあ、「ノースライト」というタイトルで明らかなとおり、本作の眼目は以上の点にはないのであろう。
すなわち、本作はミステリではなく、主人公に投影・仮託されたバブルからの再生物語ということなのであろうが、そうだとしても、その目論見が成功しているようには感じられない

No.504 6点 名もなき星の哀歌- 結城真一郎 2023/05/15 13:58
人間のアイデンティティは記憶にこそ存在するという着眼点は鋭い。
ただ、記憶を保管・分離・削除・共有・移植することが可能という設定では、どれほど荒唐無稽な話でも成立してしまうから、却ってサプライズを演出しようがない。
いや、それ以前に、そもそも本作の各描写が現実に発生している出来事なのか、誰かの記憶なのかさえ、区別が付かないという強烈な副作用を生じてしまっている。
ファンタジー・ライトノベルとしては水準を超える作品であり、6点の最下層と評価する。
ただ、本作はミステリとしては評価できないし、そもそもミステリとはいえないのではないか

No.503 4点 メルカトル悪人狩り- 麻耶雄嵩 2023/04/11 16:07
著者の作品を散々読んできた者として、執筆意図は理解できるし、それに意味がないとも思わないが、作品として面白いかどうかは別の話。
同工異曲と比べれば、相当に、非常に強く、見劣りすると言わざるを得ない

No.502 4点 R.P.G.- 宮部みゆき 2023/04/06 13:54
本作に底流する、現代社会における家族のあり方に対する問題認識は鋭く、十分に共感性があるのだが、プロットそのもの、犯行動機のリアリティが乏しく、1個の作品として昇華されていない。
また、ミステリとしての基本的なお作法を破ってまで仕掛けた割には、真犯人と、その解明プロセスの双方に意外性がない。
著者の作品としては相当に凡庸なデキで、4点の最下層

No.501 4点 乱鴉の島- 有栖川有栖 2023/03/28 18:48
まず、相応の紙幅を割いているにもかかわらず、その造形がまるで描けていない登場人物が多く、そうした人物が犯人と指摘されても、何らの感慨も呼び起こされない。
次に、登場人物たちが本島に集まっている理由は、端的に言ってリアリティに欠けるが、それをカバーするような雰囲気づくり、舞台装置の準備が不十分であり、まして、それが犯行動機とは無関係という点に至っては脱力モノと言わざるを得ない。
最後に、犯行プロセスは一貫して偶然の産物であり、真相解明プロセスにも見るべき点が乏しい。
プロット・叙述の双方において、著者の作品としては最低クラスの出来栄えであり、4点の最下層と評価

No.500 5点 ZOO- 乙一 2023/03/23 08:35
独創的・トリッキーな舞台設定・作風の短編ばかりであるが、いずれの作品も水準に達しており、著者の力量の高さは疑い得ない。
ただ一方で、突き抜けるものがないのも事実で、上手さは感じるが、それ以上ではない
5点の上位

No.499 4点 十三角関係- 山田風太郎 2023/03/23 08:35
プロットそのものに若干の無理を感じる。
本件真相であれば、実証的な捜査を丹念に続ければ、必ずや解明できるであろうし、犯行動機のリアリティが弱い点でも不満が残る。
全体として平凡な印象

No.498 5点 invert 城塚翡翠倒叙集- 相沢沙呼 2023/03/07 16:32
第1話は、地味な印象は拭えないものの、全体として堅牢な造りの佳作であると感じた。
第2話は、それより落ちるものの、やはり同様の印象。
第3話は、プロットそのものが荒唐無稽であり、かつそれが読物としての面白さにもつながっておらず、率直に言って論外。
これらを全体として5点の最下層と評価。
第3話がなければ、異なる評価を下していたのは間違いないが、倒叙形式であることの難しさを割り引くとしても、前作の水準には遠く及んでいない

No.497 6点 山魔の如き嗤うもの- 三津田信三 2023/02/27 12:55
導入部をはじめ、著者の確かな力量を感じさせる力作ではあるが、アラも相当に目に付いた。
まず、舞台装置としての超常現象があまりにも多すぎる。
それらの一つひとつをことごとく、極度の恐慌状態に陥っていた登場人物の誤認と認定していくのだが、かなり無理も感じられ、読者の納得感は得にくい。
ここまで丁寧に説明するアプローチをとるのであれば、これほど大量に設定する必要はなく、却って逆効果になっている。
また、最終盤に二転三転の展開にもっていくのであれば、ここまで皆殺しにするのは得策ではなかったように感じる。
残された容疑者が非常に少なくなり、いずれの真相も予測の範囲を出ないうえ、真相解明プロセスに論理性が乏しく、説得力にも欠けた。
以上、世評が高い点も理解できるものの、やや批判的な立場から6点の下位

No.496 4点 ボトルネック- 米澤穂信 2023/02/06 19:13
本作のタイトルとエンディングから大きな違和感を受け、それゆえに本作の主題がよくわからない。
「ボトルネック」といえば、そのとおりだが、それが何なのか。
そのように感じる必要はないと言いたいのか。
ただ、このエンディングを提示されてしまうと、そのようには解釈しにくい。
結局のところ、著者がこの物語を通じて、読者に伝えたかったメッセージが何なのかが非常に見えにくくなっている。
これは私の読解力不足かもしれないが、書評を拝見する限り、同じように感じている人も多い。
パラレル・ワールドという思い切った飛び道具まで使うからには、もう少し明確なメッセージがほしかったところ。
4点の上位

No.495 6点 巡礼者パズル- パトリック・クェンティン 2023/01/23 11:30
著者と翻訳者の、いずれの力量に負うのかは定かではないが、闘牛・カーニバルといったメキシコの異国情緒満載のガジェットを活かしつつ、登場人物の息遣いさえ聞こえてくるような描写は、ミステリとしては出色のデキであり、とにかくよく描けている。
探偵が足下のトラブル解決に振り回され、真相解明が後回しになっていくのだが、そうした展開を通じて、登場人物の造形を掘り下げつつ、その複雑な人間関係がどのように収拾されるのかという興味で引っ張っていく。
多重解決風の趣向は、登場人物が非常に少ないがゆえに、難易度が高かったことと推察するが、読み応えが感じられた。
明かされた真相はサプライズに欠けるものの、十分な納得感を演出しており、また最後にもたらされた人間関係の清算も非常に印象深い。
一読の価値のある佳作であり、6点の上位と評価

No.494 6点 氷菓- 米澤穂信 2023/01/18 13:05
タイトルに秘められた謎だけは拍子抜けであるものの、主要登場人物4人の人物造形、各短編の造り、連作短編集としての構成等、デビュー作としては出色のデキといえるのではないか。
いかにも小品であるゆえに、6点の最下層と評価するが、好感がもてる作品

No.493 4点 謎のクィン氏- アガサ・クリスティー 2023/01/18 13:04
非常に世評が高い作品であるが、真相解明プロセスに論理性がまるでなく、ファンタジーのような印象を受ける。
読者をかなり選ぶだろう

No.492 6点 ミステリー・アリーナ- 深水黎一郎 2023/01/04 15:40
きわめて個性的なプロット・着想から、「最後のトリック」と同様に、本格ミステリへの深い愛情と、その本質的な限界へのチャレンジング・スピリットを強く感じ取れる作品。
上記作は構想そのものに無理も感じたところ、本作はミステリの従来のありようを、容赦なく、徹底的に考え抜いた先に辿り着いた、そんな印象を受ける。
「伏線だらけ」と銘打っているとおり、これだけの解決を成立させるべく、叙述が周到に、計算し尽くされており、一見して脱線としか思えない蘊蓄までもが伏線になっている。
にもかかわらず、それを感じさせない、よい意味で緊迫感のない筆致も見事であり、完成度の点でもはるかに上と評価。
エンターテインメントとしてみたときには、一定の限界があり、6点の最上位と評価するものの、一読の価値はある佳作

No.491 6点 骨と髪- レオ・ブルース 2023/01/04 15:37
ムダのない叙述で、サスペンスとユーモアを両立させる作品世界を演出しており、ストーリー・テリングの腕は確かであるものの、真相が非常に見えやすくなっている点は、大きな難点。
トリックの独創性の高さや、真相解明プロセスの論理性で勝負する作品でもないだけに、本格ミステリとしてのスケールの小ささは否定しがたい。
好意的に捉えている作品ではあるが、6点の最下層というところ

No.490 4点 アリバイ崩し承ります- 大山誠一郎 2022/12/22 15:16
そもそもアリバイトリックは、言わばネタが出尽くしている状況にあり、ジャンルそのものが行き詰っているとはいうものの、既視感の強い既存トリックの応用や、他のミステリジャンルとのあわせ技ばかりで、独創性が感じられない。
そして何より、示された真相に合理性やフィージビリティがまるで感じられない。
各話ともに探偵が瞬殺で真相に到達するのだが、その解明プロセスは論理性が皆無で、「このように考えることもできる」というインスピレーションでしかないにもかかわらず、それを指摘された犯人が例外なく自白して事件が解決するという枠組みそのものにも納得性がない。
本作をライトノベルと位置付けるなら、そうしたありようもある程度是認できるのだが、探偵を筆頭に、各登場人物の造形もまるで掘り下げがない。
本作の本質は「アリバイトリック問題集」とでもいうべきものであるが、そのように位置付けても凡庸なデキと言わざるを得ない
4点の下位

No.489 7点 スナーク狩り- 宮部みゆき 2022/12/13 17:56
まるで映像を見ているかのような優れた叙述に加え、私的正義の是非を問うプロットの組み立てが見事。
全体としては、やや軽量コンパクトな印象を受けるものの、著者の充実した力量が発揮された佳作

No.488 6点 逃げる幻- ヘレン・マクロイ 2022/11/28 20:14
まず事件の発端そのものが、真犯人を大胆かつ巧妙に隠蔽している。
人間の消失と密室殺人の真相そのものには見るべき点がないが、残されたノート、ダイイング・メッセージ(欧米人以外には通じないのが難点であるが)、数式等、数々の手がかりと、巧みなミス・ディレクションは見事で、真相解明に至るプロセスはよくできている。
明かされた真相、そして読後に浮き彫りになるテーマも十分な説得力をもっている。
作品全体としてインパクトには欠けるものの、細部に至るまで確かな構築力を感じさせる作品

No.487 7点 黒牢城- 米澤穂信 2022/11/17 12:27
まず、信長に叛旗を翻し、有岡城に立て籠もる荒木村重を助手、そして村重に幽閉された官兵衛を安楽椅子探偵とした舞台設定そのものが傑出している。
通説との間で違和感が全く感じられず、日本史に造詣がある人ほど抜群の奇想と評価するのではないか。
そのうえで、本作を連作短編集として歴史の流れを追っていくという構成が実に巧み。
村重の息遣い、戦場に立ち込める血の匂いまでも、再現するような筆致は、円熟の極みに達している。
各短編のミステリとしての底の浅さゆえに、評価はこの程度にとどめたが、各賞を総ナメするのも当然で、一読の価値のある佳作

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いいちこさん
ひとこと
評価にあたっては真相とトリックの意外性・納得性を最重視しつつ、プロットの構想力・完成度、犯行のフィージビリティ・合理性に重点を置いています。
採点結果が平均6.0点前後となるよう意識して採点するととも...
好きな作家
東野圭吾、麻耶雄嵩、京極夏彦、倉知淳、奥田英朗。次点として島田荘司、有栖川有栖、法...
採点傾向
平均点: 5.69点   採点数: 526件
採点の多い作家(TOP10)
東野圭吾(30)
麻耶雄嵩(20)
島田荘司(20)
宮部みゆき(15)
倉知淳(15)
奥田英朗(15)
京極夏彦(14)
有栖川有栖(13)
アガサ・クリスティー(13)
貴志祐介(11)