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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
快傑ゾロ
ジョンストン・マッカレー 出版月: 1969年12月 平均: 7.00点 書評数: 2件

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東京創元社
1969年12月

角川書店
1998年08月

東京創元社
2005年12月

No.2 7点 クリスティ再読 2022/09/01 22:11
中学生の頃、女子の間で本書が回し読みされてて、評者も読んだよ。うん「アラン・ドロンのゾロ」が公開されたからねえ。なので懐かしいっす。

まだカリフォルニアの開拓がスペイン人中心だった頃の話。本国から送り込まれた総督と軍隊は、土豪となった土着した開拓者・開拓と伝道に尽くした修道士たちと軋轢が生じていた。横暴な総督の軍隊を嘲笑うかのように挑戦する仮面の紳士は、ゾロ(狐)と名乗った....総督に睨まれて没落させられた一家の娘ロリータはゾロに恋するが、ロリータに言い寄る地元の有力者の息子ドン・ディエゴがいた。ドン・ディエゴは美男だが、争いが嫌いで、およそ「男らしい」ことは全部ダメな情けない男だった

と、そりゃ美男で鳴らしたアラン・ドロンにしてみりゃ、おいしいよねという話。改めて読んでみて、アクションよりもロマンチックな方面に力が入っているのが面白いあたり。アクションものとしては、スピード感はあるし読みやすいが、それほどでもない。有名な「額にZの傷」は、砦の隊長で卑劣なレイモンとの決闘でしか出ないから、あまりウェイトが高いわけでもない。でもね、ロリータの乙女のピンチとそれを救出するゾロ、という構図がベタだけどいいんだなぁ。こっちにヤられる。

小鷹信光だったと思うけど、ゾロをはじめとするマッカレーの「マスクト・ヒーロー」というのが、ハードボイルド登場前のパルプ・マガジンのヒーローであり、ハードボイルド・ヒーローの原型でもある、というような論旨の記事を読んだ記憶がある。としてみると、サム・スペードやマーロウというのも、ローン・レンジャーやらバットマンとはイトコ同志みたいな関係にあるわけだ。そんな風に捉えてみるのも一興。

No.1 7点 人並由真 2021/09/22 16:02
(ネタバレなし)
 19世紀初頭。スペイン統治下にある当時のカリフォルニアの一角、サンファン・カピストラノ。そこはスペインの総督のいい加減な治世のもと、悪徳役人や不良軍人が一般市民や原住民を泣かせていた。だがそんな悪徳の地に、謎の仮面の義賊「ゾロ」が出没。ゾロは殺生を嫌うが、卑劣な権力者や金持ちには容赦なく処罰を下し、悪人の財産を奪っていた。そんななか、政争に巻き込まれて没落した大農園主ドン・カルロス・プリドは、美しい18歳の娘ロリータを、別の権勢を誇る大農園主ドン・アレハンドロ・ベガの一人息子で24歳のドン・ディエゴ・ベガと婚姻させて、ベガ家の財産と権力を頼りに家の立て直しを図る。だが肝心のロリータは、自分に想いを寄せる若者ドン・ディエゴの、人は悪くないのだろうがまるで男らしくない態度に業を煮やしていた。そんなロリータそしてプリド家の前に、あの仮面の青年ゾロが登場。ロリータは毅然とした言動で紳士的な義賊に、瞬く間に心惹かれてしまうが。

 1920年(1919年説もあり)のアメリカ作品。
 先日、本サイトに投稿された同じ作者マッカレーの『仮面の住人』レビュー(空さんがご執筆された)を拝見。評者もそちらは数年前に新刊刊行時に読んでいたが、そういえばこの作者の一番の代表作をまだ読んでなかったと思い、ネットで古書を注文して一読してみる。
 
 評者が読んだのは、角川文庫の平成10年の改版初版。当時の新作映画『マスク・オブ・ゾロ』の公開に合わせたもので、訳者が『ファイヤフォックス』(早川の新訳の方)の広瀬順弘だから、1990年台後半の新訳かと思ったら、1975年の元版の訳文がベースだった。広瀬サンって古かったのね。おかげで21世紀になりかかった時代の改版初版ながら平気で「インディアン」なんて言葉がポンポン飛び出してくる。手を入れないのかい。2000年前後当時の角川の編集部。
 
 内容の方は<謎の仮面ヒーロー>の大きなひとつの源流となる名作活劇だから、さすがに面白い。21世紀の今読めば、もちろん旧作として時代のズレもあるのだが、逆に「この頃からもうこんなことを!」的に感心・感銘ずるところも多々ある。

 ポイントは謎の仮面ヒーロー「ゾロ」の正体(もちろん読む前から知ってるが)がどのように小説(広義のミステリ)の技法として隠されているか。そしてゾロ、ドン・ディエゴ、ロリータの<お約束のあの種の三角関係>はどうなるか、だ。
 前者に関しては主要キャラクターの内面描写の抑制、噓を書かないが省略法は活用する技法など、ある種の叙述トリックに接近するような趣が面白い。後年のミステリ作家たちも少なからず影響を受けた連中はいるのではないか、と。
 
 ついでに言えば、ゾロの設定は言うまでもなくのちのクラーク・ケントやブルース・ウェイン、さらには中村主水あたりにまで影響を与えて、彼らの先駆かつ広義の生みの親になっているともいえるのだが、ヒロインのロリータのラブコメチックな苦悩っぷりもまんまロイス・レーンのソレだ。
 ゾロ以前にさらに、この謎のヒーローの系譜の原型キャラクターがいなかったわけでもないだろうが、ゾロ以前と以降の活劇&ミステリフイクションのありようの変化などいつか何らかの形で確認してみたい。
(なお「必殺シリーズ」ファンには有名な話だが、1990年代に日本の朝日放送と松竹映画のテレビ部は当時のアラン・ドロンを招き、同じ「二つの顔を持つヒーロー」同士として中村主水と何らかの舞台装置のなかで共演させるスペシャル編の企画を進めていたが、ボツになっている。返す返すもこのとんでもない企画の頓挫が惜しまれる。)

 閑話休題。
 改めて本作のこのメイントリックといえる(?)文芸設定は、もちろん一世紀も前の旧作、ロマン活劇だから許せる、という面も多いのだが、ミステリの叙述的な技法の面から読んでもちょっと興味深いものではあった。
 お話そのものの旧作ロマン活劇、そのあっけらかんとした楽しさを存分に味わうと同時に、そういう当時の小説テクニックの辺りにもちょっと意識を向けて読んでみてもいいかとも思う。


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