皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.22点 | 書評数: 1893件 |
No.50 | 8点 | 蒼ざめた馬- アガサ・クリスティー | 2023/09/30 12:52 |
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件の “商売” のシステムを良く見ると、契約担当・調査担当・実行担当、がいれば基本は成立してしまう。死者はさまざまな病気だと診断されているのだから、オカルティズムによる対外的な隠蔽は実は不要だ。
降霊儀式の主な役割は、依頼人の心理的抵抗の軽減である。事実を隠蔽して “殺しではなく呪いだ” と思い込ませたい相手は、世間の人々ではなく、あくまで依頼人なのである。解決編でそのへんの位置付けが若干曖昧だと思う。読者を勘違いさせる書き方になってない? 出しゃばり首謀者の行動原理は判るような判らないような。但し、病死である筈の一連の死者が一つのリストにまとめられて関連付けられることは非常にまずいから、慌てて神父を撲殺と言う雑な行動に出たのは理解出来る。 おまえ誰が本命だと突っ込みつつ、中弛みも感じず、面白く読み通せた。もっともそれは、私が新しい書き方のオカルトものをあまり読んでいないからかもしれないけれど。 |
No.49 | 6点 | 鏡は横にひび割れて- アガサ・クリスティー | 2023/09/14 13:28 |
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これはACの良くあるパターンじゃない? しかもタイトルが大胆に “ハイここ注目!” と告げていて、サーヴィスし過ぎ。
私は推理などしていない。単に、AC作品を或る程度読んだ経験上、諸々の要素の配置が判っただけ。 “あ、これが動機か” と気付いた時点で未だ半分以上ページが残っており、第二の殺人が起きるような話じゃないし、作者がそれをどのように埋めたのかと言う興味で読み進む。 うーむ、成程そうやってカムフラージュするか。愛だなぁ。暴走だなぁ。どこまで結託していたのかは藪の中だけど、そんなグレーな結末もいいんじゃない。どっちにせよ一蓮托生なんだから。 |
No.48 | 5点 | ヒッコリー・ロードの殺人- アガサ・クリスティー | 2023/08/31 12:19 |
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ネタバレするけれども、結局、盗難騒動って何?
はっきり書かれていないが、リュックサック破壊事件と言う “木の葉” を隠す為の “森” を、無関係な者を唆して作り上げた、と言うことなのか。 しかしあれは実行犯が露見して気を引くところまで計画に含まれていて、すると “リュック事件は別” と言うことも明らかになるわけで、最終的にあまり意味が無いと思う。 それとも、裏で進行中の違法行為とは無関係に、あんな行動を唆したと言うこと? (それは何かズルい……) あと、最後に従犯者が色々話しているが、あれが全て正しい保証は無いよね。要約すると “主犯と或る程度の情報共有はしてたけど、私はそんなに悪くはありません” と言っている。 自分の罪状を軽くする為に犯行の主導権を相手に押し付けようとしているのかも。そのへんの曖昧さ、私は面白く感じたので、作者にはもっと意図的に突っ込んで(主犯にも供述させて)欲しかった。 最後の事件のトリックは、単純だけど鮮やかで見事に引っ掛かった。 |
No.47 | 5点 | 鳩のなかの猫- アガサ・クリスティー | 2023/08/26 13:12 |
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まず中東の革命騒ぎで、この話の軸は宝石の取り合いだと示される。そりゃまぁこの件を後出しにしたら御都合主義だって言われるよね。
だから読者にそういうイメージを植え付けるのは良いけれど、作者もうっかりそれに囚われちゃってる気がするのだ。 学校内で連続する事件の描き方が妙にカラッとしてない? まるで教師も生徒も4章までを読んでいて、こういう背景があるんだと、だから自分がいきなり襲われることはないんだと、安心して “事件関係者” を演じているような感じ。作者も “本題は宝石だから、閉鎖社会のドロドロはあまり書かなくていいよね” との意識(無意識?)を反映した書き方になっている感じ。 いや、でもそれが一部の動機についてはミスディレクションになっているから、全て作者の掌の上なのだろうか。 |
No.46 | 7点 | パディントン発4時50分- アガサ・クリスティー | 2023/08/10 12:24 |
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これはそんなに巧妙な案なのだろうか。最初の事件をクラッケンソープ家と結び付ける犯人のメリットって何? 死体をあそこに永遠に隠せるとは流石に期待してないよね?
記述が曖昧な為、二件目以降がどの段階で計画されたのか不明だが、わざわざ警察をこの家に注目させた上で決行するのはリスキー。 それにしても、婚約はおろかカップルになってさえいない相手の将来の収入目当てに殺人。随分と自信家な犯人ですこと。 サプライジングな目撃劇、ぶちぶち言いつつ適度な距離感(だと私は思う)の一家、モテモテのルーシー、探偵活動にはしゃぐキッズ、と読みどころ多数。あの子達が余計なものを見付けて襲われたら嫌だな~と本気で心配だった。 つまり真相以外は面白い困惑作。 |
No.45 | 5点 | ポケットにライ麦を- アガサ・クリスティー | 2023/08/03 13:01 |
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マザー・グース云々と騒いでいるのはミス・マープルだけ。直接の関係者は誰も気付いていない。もっと目立たせないと捜査陣に対するミスリードにならないよ。
犯人と探偵役だけが共通言語を持ち、判り合っている。この状況をもう少し強調すれば、見立てテーマに対するユーモラスな批評になったかも知れない。ACは “名探偵のジレンマ” とかには縁が無さそうだが、無自覚に(?)踏み込みかけているような作品も幾つか見受けられるしね。 |
No.44 | 6点 | 忘られぬ死- アガサ・クリスティー | 2023/06/30 14:56 |
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昔むかし短編集を読んだ時、“「×××」を長編化したものが『忘られぬ死』である” とネタバレを食らっていたので、消化試合みたいな読み方しか出来なかった。肌理細かい日本版解説の弊害。それでも楽しめたのだから流石クリスティ。覚えていたのはメインのトリックだけなのでまだフーダニットがあるし、人間関係の綾は読み甲斐があった。
ところで、最後のページの会話が良い――実は本作はホラーで、ローズマリーの幽霊は本当に居たのかもしれない。あのミスを彼女が誘発した(方法は訊くな)のだとしたら? それはつまり、“妹を救う為に夫を犠牲にした” と言う怖い話である。 |
No.43 | 6点 | 魔術の殺人- アガサ・クリスティー | 2023/05/19 13:07 |
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事件発生前から現場に滞在しているミス・マープルも当事者の一人であって、彼女の心が揺れ動いている感じが興味深い。いつもは “途中から首を突っ込んでくる部外者” じゃない? 彼女が来た途端に事件が発生したようにも見えるので、視点が違えば容疑者の一人かも。
しかし事件の真相を踏まえて顧みると、何だか不条理な設定である。“妹の様子が心配” と言うのは、物語開始の時点では未だ為されていない偽装工作だよね。 それに事前に言及している姉が実は共犯者で、ミス・マープルを送り込んだのは現場を攪乱する側面的な支援だったのかも(笑)。存在しない毒殺計画を暴いてしまったミス・マープルは無自覚なまま工作の手助けしているわけだから、あとで自分のマッチポンプに気付いて頭を抱えたんじゃないだろうか。この間違え方が面白い。 「どうして、先生は島に呼ばれたのでしょう?」 「メタな話はやめなさい」 (森博嗣「ゲームの国」) |
No.42 | 8点 | 無実はさいなむ- アガサ・クリスティー | 2023/03/24 12:41 |
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はっきりと伏線が示されていたのに何故気付かなかったのだろう。
それぞれ方向性の違う子供達のキャラクター、その更に異分子である車椅子のフィリップの存在感も良い。心情描写が交錯して、こんなに書いちゃって矛盾しない真相に着地出来るのか? と心配になったが、この視点の変遷が面白く、シリーズ探偵を起用しなかったのは正解。 以下ネタバレ。 クリスティー文庫版解説で指摘されている、“犯人は真相を暴露して自分の罪状を軽くしようとするのではないか” と言う件について。 これは状況が或る種のチキン・レースになっているんだね。 暴露してしまうと、罪状は軽くなっても、家族の中の元のポジションに戻って遺産を受け取ることはまぁ出来ない。一方、アリバイ自体は本物なのだから、自分が頑張っているうちに証人が出頭すれば晴れて無罪放免でポジション復帰が出来る。何故か未だ証人は見付からないが、それは明日かもしれない……。 なかなか難しい判断だろう。六ヶ月程度では思い切れなかったのも不自然ではない、と私は思う。獄死は結果論であって、当人にしてみれば命まで賭けていた心算はないのでは。 但し、あくまで故人の心情なので、作者としてはこの苦悩を描く視点を確保出来なかったのかもしれない。 |
No.41 | 7点 | 動く指- アガサ・クリスティー | 2022/12/08 13:06 |
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静かな田舎の村、にしては情緒不安定な人が沢山住んでいるな(妹だって随分だ)。台詞の端々に危うさが感じられるのだが、語り手はシレッと流し、それがまた可笑しみを増幅する。事件の謎よりも、その語り口で大いに楽しめた。メタ・ユーモア・ミステリ? まぁ曲解は読者の権利である。ラストは冒険し過ぎで、ジェリーの憤りも当然だろう。 |
No.40 | 5点 | 葬儀を終えて- アガサ・クリスティー | 2022/09/21 12:31 |
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メインのトリックは面白いし、アレに誰一人気付かないこともあり得ると思う。しかし犯人の心理や行動が今一つ不自然で、作者は相応しい状況を設定し切れていないのではないか。
トリックを使ったせいで → ポアロが召喚され → 真相が暴かれた。皮肉な因果関係が本作は特に際立っている。 |
No.39 | 6点 | マギンティ夫人は死んだ- アガサ・クリスティー | 2022/09/08 13:52 |
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ちょっと入り組んでいるが、真相は面白いと思った。“そんな程度で殺すか?” と言う動機に対して、“犯人にとっては【そんな程度】じゃ済まないんだ” と外堀を埋めてあるところが良い。
ポアロとベントリイ容疑者の一度目の会見が省略されている。書き忘れ? マギンティ夫人の、写真の件に対するスタンスが曖昧。秘密にしてちょっとした恩恵に与ろうとしたのか、ゴシップのスピーカーなのか、ポアロが矛盾した説明をしている。 使用人が何人も登場するのにほぼ “背景” 扱いで、事件の捜査対象は雇う側の人ばかり。ACの保守的な階級意識はいつものことだが、被害者が使用人だと目立つな。 |
No.38 | 5点 | パーカー・パイン登場- アガサ・クリスティー | 2022/08/09 12:24 |
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前半、お悩み相談編。ヴァリエーションに乏しい。これから色々搦め手を考えるんでしょ、ってところで投げ出しちゃったか。
後半、トラベル・ミステリ編。使い回しのプロットでも、探偵役を変えれば趣向も変わる。良くも悪くも。 差別化を考えるなら、前半をもっと発展させるべきだったか。後半の探偵譚で、パーカー・パインをどっちつかずのキャラクターにしてまでこのシリーズに組み込む必然性のある話は、辛うじて最終話くらい。 固有名詞の片仮名表記の基準には意見が多々あるだろう。「困りはてた婦人の事件」。ダンサーの名前 Juanita は “ジュアニータ” でなく “ファニータ” が良いのでは。スペイン系。翻訳は不便。 「ナイル河の殺人」。Death on the Nile だから、実はあの長編と同題だ。翻訳は便利。 |
No.37 | 5点 | 予告殺人- アガサ・クリスティー | 2022/07/26 16:54 |
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ACの割とよくあるパターン、しかも私があまり好きじゃないタイプ。
こんな広告がシレッと掲載されちゃう。00年代日本の某作では、公序良俗に反する広告の為に社員を抱きこみ、彼が馘首される前提でその後の生活費として大金を投じていたものだが。 三人目が殺される場面で、被害者はこの人が怪しいと気付いていたのに何の警戒もしていない。この場面は不要では。 パトリック・シモンズといえばザ・ドゥービー・ブラザーズのギタリストと同姓同名。作者には何の責任も無いが、違和感ありまくり。 |
No.36 | 7点 | 満潮に乗って- アガサ・クリスティー | 2022/07/16 11:59 |
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基本設定が面白いし、状況の変化に応じた各人の対応も説得力がある。確かに題名通りの潮汐の流れ。もう少しロザリーン寄りで描いて欲しかったところ。お金の氾濫に飲み込まれても、人生に求めるものは人それぞれ。でもラスト、あの男でいいのかな~?
第二篇の6章。“医学的検証というのが~まちがいだらけなんです”――謎解き用のデータとして、検死結果にミスは無いのが御約束なんだから、ミステリでソレを言うのは危険だよアガサさん。 |
No.35 | 5点 | 死が最後にやってくる- アガサ・クリスティー | 2022/07/02 15:36 |
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もっと変な話を期待していたんだけどなぁ。
その意味で “死者への歎願文” は素敵なガジェット。なのにその後の展開には絡まず勿体無い。 使い慣れた駒に目新しい背景を切り貼りしたところ、ギャップが悪目立ちしてしまった。違和感は最後まで消えず、不器用だなぁと思った(褒めてない)。 |
No.34 | 5点 | ホロー荘の殺人- アガサ・クリスティー | 2022/06/04 13:45 |
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殺人以前は流れに乗り切れなかった。この手の作品は、そこでキャラクターを把握しておかないと、後半の機微も読み取れないんだよね……。
要するに、犯人としてはしっかり考えたつもりでも、実際は隙のある計画だったと。そういう設定は作者の匙加減でどうにでもなり、私は好きではない。しかし本作、キャラクター的にソレをやりかねない犯人だと言う気はする。 原題は The Hollow だから“うつろな人々”。うむ、確かにそういう話だ。“わたしたちはみんな、ジョンに比べれば影なんです”。 5章(クリスティー文庫版81ページ)。“二叉路”とあるのは誤訳、と言うより日本語のミス。 6章。“小さな田舎の駅だが、前もって車掌に言っておけば急行を停めてくれる”。牧歌的で素敵なシステム! |
No.33 | 7点 | ゼロ時間へ- アガサ・クリスティー | 2022/04/26 13:19 |
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レディ・トレシリアンなる古い考え方の石頭キャラが、ACの手に掛かるとそこそこの好感度と共に読めてしまうのが不思議。
3章の8。トマス・ロイドがバトル警視に仄めかす “考えられる唯一の人物には、あの殺人を実行するのは不可能だった” って誰のこと? そしてその後、警視がテッド・ラティマーについて語るが、いつ彼のことをそんな風に知った? 計画の概要とか偽の手掛かりとかEQみたい。 |
No.32 | 7点 | NかMか- アガサ・クリスティー | 2022/04/23 12:48 |
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誘拐事件の真相が判ってみれば、知らなかったとはいえ残酷な成り行きに皆で手を貸してしまったんだな~、と言う点が最大のインパクト。
主にタペンスのせいでふわふわした漫画的なイメージ(悪い意味ではない)。背景の政治的設定とかよく判らないがどうでもいい。登場人物は多いけど意外に混乱せず読めた。 |
No.31 | 6点 | 五匹の子豚- アガサ・クリスティー | 2022/03/16 12:06 |
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ミスリードには引っ掛かってたので最後の最後で驚いた。
しかし「藪の中」な構成のせいで話がくどい。手記があるなら対話はいらないな~。 曖昧な記述ながら “被害者の遺産を自動的に妻と子供が相続” とあるが、妻は欠格では。英国の法律では違うの? 十五歳にしては彼女が幼稚だと思うのは偏見だろうか? 飲食物絡みの悪戯は洒落にならない度合いが高い、と言うことは弁える年齢だと思うのだが。真相に関わる要素だから、作者の都合で変なキャラクターにされちゃったような印象も……。 |