皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
|
---|---|
平均点: 6.21点 | 書評数: 2015件 |
No.60 | 6点 | ハロウィーン・パーティ- アガサ・クリスティー | 2024/01/11 12:50 |
---|---|---|---|
Trick or treat! じゃないの? アレは米国の風習? 日本人的な理解だと “こんなのがハロウィーン?” と疑問にも思うが、英国人による英国舞台の話だから嘘八百でもなかろう。
犯人のキャラクターは気持悪くて魅力的。あと最後に殺され損ねた彼女も。 但し、ストーリーや舞台の空気感とは合っていない。が、全編耽美世界にしないその齟齬、あんな思いも日常の言葉に回帰して行くあたりがクリスティっぽいとも思う。 (現在の)第二の殺人は成り行きも描写も雑だ。“殺人は癖になる” って奴か。それとも作者は犯罪の低年齢化に対する警鐘を意図したのか。 |
No.59 | 5点 | 死人の鏡- アガサ・クリスティー | 2023/12/14 13:28 |
---|---|---|---|
「厩舎街の殺人」はシンプルにまとめたことが良い効果を発揮していると思う。このタイトルはアンフェアに見せかけてポアロの台詞に注目するとフェア?
表題作の真相は意味が判らない。計画的犯行なのに、開けたまま撃って、その後で慌てて偽装工作。そもそも、犯意が有ろうと無かろうと、開けたドアは閉めるのが普通だと思う。つまり、偽装自体は面白いが、それが必然性を持つ状況設定が出来ていない。 |
No.58 | 5点 | 七つの時計- アガサ・クリスティー | 2023/12/07 13:54 |
---|---|---|---|
冒険ごっこ、って感じ。死者が出ているにもかかわらずふわふわした若人達の言動。退屈のあまりロシアン・ルーレットが生まれた逸話を想起した。求婚が一番のサプライズ。この秘密結社の元ネタはGKC? とか勘繰り過ぎちゃいけないね。 |
No.57 | 4点 | 第三の女- アガサ・クリスティー | 2023/11/24 14:13 |
---|---|---|---|
どうしてもネタバレしちゃうなぁ。
犯行計画全体の構図としては良いんだけど、その真ん中に余計なトリックがドンと鎮座している、と思う。 金髪の鬘を使ってあんなことをする必要があるのだろうか? ポアロはアリバイ云々と言うが良く判らない。読後に振り返ると “犯人は多忙で疲労困憊したんじゃないかな” と言う印象ばかりが残っている。 |
No.56 | 9点 | 終りなき夜に生れつく- アガサ・クリスティー | 2023/11/18 12:31 |
---|---|---|---|
半ば過ぎまで普通の、と言うかミステリにならないロマンスを、自分が中だるみせずに読めたことがまず驚き。
全身全霊こめて作った女神像を自ら落として粉々に砕く、みたいで、そこまでやるか。でも先が見えててもやるしかないんだろうなぁ。そこに嘘は無いんだよね。もうほぼ悲しみと安堵が綯い交ぜになった自殺者の心情なんじゃないかと思った。 |
No.55 | 7点 | 茶色の服の男- アガサ・クリスティー | 2023/11/10 15:55 |
---|---|---|---|
作者がノって書いている雰囲気に好感が持てる。でも気分のままに引き伸ばし過ぎ。気が付いたら一ヶ月経過していた、とは随分長い。何かのトリックかと思った。 |
No.54 | 3点 | 複数の時計- アガサ・クリスティー | 2023/10/28 13:52 |
---|---|---|---|
これはバーナビー・ロスのパロディ(盲人も登場するし)?
わざわざ死体を運び指定の時間に発見させるメリットが判らないが、それも原本に書かれていたのだろうか。主犯は “発見者の知人” と言う立場なのだから、そんなことしなければそもそも捜査陣の視界に入らなかったのに。 犯人と被害者をつなぐ糸はごく細い。自動車を使えるなら、遠くに捨てて来れば “余所の事件” として無関係でいられたのではないか。 身許を偽装しても、そのごく細い糸を辿られる僅かなリスクは変わらない。偽装で共犯者を増やすデメリットの方が大きそう。 もっと上手に書ければ “不可解な小道具が残された犯行現場” そして “余計なことをして自滅する犯人” パターンに対する批評になったかもしれないが……。 |
No.53 | 6点 | 復讐の女神- アガサ・クリスティー | 2023/10/20 12:45 |
---|---|---|---|
何が起きているのか良く判らず、水面から顔を出した岩の頭を見て岩場の全体像を想像せよ、との命題。現れた深層/真相は人の思いが絡まり合った、なかなか読み応えのあるもの。
しかし、これは犯人サイドを掘り下げて書けば、もっと深みを出せたのではないか。例えば犯人が某に注いだ思いの深さ等が、単に言葉による説明にしかなっていない。 と考えると、“ミス・マープルに謎のミッション” と言う間接話法みたいな設定に使うにはちょっと勿体無いかな。 過去をほじくり返したせいで新たな死者が出たことについて、もう少し何か言及があっても良い。 また、“丘の斜面に丸石を転落させて歩行者にぶつける”――これに関して作中では “故意にやったのでなければ成功するわけがない” とされているが、私は逆に、狙ってもそうそう命中するものではないだろうと思う。 |
No.52 | 6点 | カリブ海の秘密- アガサ・クリスティー | 2023/10/06 13:05 |
---|---|---|---|
ことミステリの場合、ネタの使い回しに対しては視線が厳しくなりがちだが、私はACの手癖と言うか “良くやるパターン” に関して目くじらを立て過ぎていたかと少々反省している。
作中に於ける犯人や手掛かりの配置が旧作に幾らか似ていると、そのマイナス評価ばかりに囚われて他の楽しめる部分を逃していたかもしれない。そういう部分は作者の得意技だから多用されるってことでいいのかもしれない。本作も、読む順番が違ったらもっと高評価だった気がする。 西インド諸島のどこかの国と言う舞台設定にはあまり効果を感じず。ミス・マープルが翁にあしらわれる場面は新鮮。人違い殺人は余計なエピソード、もしくは発生が遅過ぎるのでは。 かつてエスターの夫が事故死しているとの話に、“あ、実はこれが殺人で伏線か。見え見えだぜ” と思ったんだけどなぁ。 |
No.51 | 6点 | バートラム・ホテルにて- アガサ・クリスティー | 2023/10/06 13:05 |
---|---|---|---|
組織犯罪と殺人事件を強引に混ぜるのはともかく、そこにミス・マープルを絡ませるのは食い合わせが悪い。
作者は敢えてその変なミックスを試したかったのだろうか。“ミス・マープルなんだから聡明な筈” との思い込みも相俟って、作者が動かし方に苦労しているような、ぎくしゃくした印象を受けた。 “壮大な与太話” であるこのプロット、ノン・シリーズにして、事態を判っているんだかいないんだか判然としないお婆ちゃんがウロウロしているうちに巨悪と対決、みたいにすれば面白いのでは? あと、殺人犯に目を瞑ったのはまずいんじゃない? だって自分の金銭的利益の為の、結構短絡的な犯行だ。条件が揃えばまた繰り返す危険があると思う。 |
No.50 | 8点 | 蒼ざめた馬- アガサ・クリスティー | 2023/09/30 12:52 |
---|---|---|---|
件の “商売” のシステムを良く見ると、契約担当・調査担当・実行担当、がいれば基本は成立してしまう。死者はさまざまな病気だと診断されているのだから、オカルティズムによる対外的な隠蔽は実は不要だ。
降霊儀式の主な役割は、依頼人の心理的抵抗の軽減である。事実を隠蔽して “殺しではなく呪いだ” と思い込ませたい相手は、世間の人々ではなく、あくまで依頼人なのである。解決編でそのへんの位置付けが若干曖昧だと思う。読者を勘違いさせる書き方になってない? 出しゃばり首謀者の行動原理は判るような判らないような。但し、病死である筈の一連の死者が一つのリストにまとめられて関連付けられることは非常にまずいから、慌てて神父を撲殺と言う雑な行動に出たのは理解出来る。 おまえ誰が本命だと突っ込みつつ、中弛みも感じず、面白く読み通せた。もっともそれは、私が新しい書き方のオカルトものをあまり読んでいないからかもしれないけれど。 |
No.49 | 6点 | 鏡は横にひび割れて- アガサ・クリスティー | 2023/09/14 13:28 |
---|---|---|---|
これはACの良くあるパターンじゃない? しかもタイトルが大胆に “ハイここ注目!” と告げていて、サーヴィスし過ぎ。
私は推理などしていない。単に、AC作品を或る程度読んだ経験上、諸々の要素の配置が判っただけ。 “あ、これが動機か” と気付いた時点で未だ半分以上ページが残っており、第二の殺人が起きるような話じゃないし、作者がそれをどのように埋めたのかと言う興味で読み進む。 うーむ、成程そうやってカムフラージュするか。愛だなぁ。暴走だなぁ。どこまで結託していたのかは藪の中だけど、そんなグレーな結末もいいんじゃない。どっちにせよ一蓮托生なんだから。 |
No.48 | 5点 | ヒッコリー・ロードの殺人- アガサ・クリスティー | 2023/08/31 12:19 |
---|---|---|---|
ネタバレするけれども、結局、盗難騒動って何?
はっきり書かれていないが、リュックサック破壊事件と言う “木の葉” を隠す為の “森” を、無関係な者を唆して作り上げた、と言うことなのか。 しかしあれは実行犯が露見して気を引くところまで計画に含まれていて、すると “リュック事件は別” と言うことも明らかになるわけで、最終的にあまり意味が無いと思う。 それとも、裏で進行中の違法行為とは無関係に、あんな行動を唆したと言うこと? (それは何かズルい……) あと、最後に従犯者が色々話しているが、あれが全て正しい保証は無いよね。要約すると “主犯と或る程度の情報共有はしてたけど、私はそんなに悪くはありません” と言っている。 自分の罪状を軽くする為に犯行の主導権を相手に押し付けようとしているのかも。そのへんの曖昧さ、私は面白く感じたので、作者にはもっと意図的に突っ込んで(主犯にも供述させて)欲しかった。 最後の事件のトリックは、単純だけど鮮やかで見事に引っ掛かった。 |
No.47 | 5点 | 鳩のなかの猫- アガサ・クリスティー | 2023/08/26 13:12 |
---|---|---|---|
まず中東の革命騒ぎで、この話の軸は宝石の取り合いだと示される。そりゃまぁこの件を後出しにしたら御都合主義だって言われるよね。
だから読者にそういうイメージを植え付けるのは良いけれど、作者もうっかりそれに囚われちゃってる気がするのだ。 学校内で連続する事件の描き方が妙にカラッとしてない? まるで教師も生徒も4章までを読んでいて、こういう背景があるんだと、だから自分がいきなり襲われることはないんだと、安心して “事件関係者” を演じているような感じ。作者も “本題は宝石だから、閉鎖社会のドロドロはあまり書かなくていいよね” との意識(無意識?)を反映した書き方になっている感じ。 いや、でもそれが一部の動機についてはミスディレクションになっているから、全て作者の掌の上なのだろうか。 |
No.46 | 7点 | パディントン発4時50分- アガサ・クリスティー | 2023/08/10 12:24 |
---|---|---|---|
これはそんなに巧妙な案なのだろうか。最初の事件をクラッケンソープ家と結び付ける犯人のメリットって何? 死体をあそこに永遠に隠せるとは流石に期待してないよね?
記述が曖昧な為、二件目以降がどの段階で計画されたのか不明だが、わざわざ警察をこの家に注目させた上で決行するのはリスキー。 それにしても、婚約はおろかカップルになってさえいない相手の将来の収入目当てに殺人。随分と自信家な犯人ですこと。 サプライジングな目撃劇、ぶちぶち言いつつ適度な距離感(だと私は思う)の一家、モテモテのルーシー、探偵活動にはしゃぐキッズ、と読みどころ多数。あの子達が余計なものを見付けて襲われたら嫌だな~と本気で心配だった。 つまり真相以外は面白い困惑作。 |
No.45 | 5点 | ポケットにライ麦を- アガサ・クリスティー | 2023/08/03 13:01 |
---|---|---|---|
マザー・グース云々と騒いでいるのはミス・マープルだけ。直接の関係者は誰も気付いていない。もっと目立たせないと捜査陣に対するミスリードにならないよ。
犯人と探偵役だけが共通言語を持ち、判り合っている。この状況をもう少し強調すれば、見立てテーマに対するユーモラスな批評になったかも知れない。ACは “名探偵のジレンマ” とかには縁が無さそうだが、無自覚に(?)踏み込みかけているような作品も幾つか見受けられるしね。 |
No.44 | 6点 | 忘られぬ死- アガサ・クリスティー | 2023/06/30 14:56 |
---|---|---|---|
昔むかし短編集を読んだ時、“「×××」を長編化したものが『忘られぬ死』である” とネタバレを食らっていたので、消化試合みたいな読み方しか出来なかった。肌理細かい日本版解説の弊害。それでも楽しめたのだから流石クリスティ。覚えていたのはメインのトリックだけなのでまだフーダニットがあるし、人間関係の綾は読み甲斐があった。
ところで、最後のページの会話が良い――実は本作はホラーで、ローズマリーの幽霊は本当に居たのかもしれない。あのミスを彼女が誘発した(方法は訊くな)のだとしたら? それはつまり、“妹を救う為に夫を犠牲にした” と言う怖い話である。 |
No.43 | 6点 | 魔術の殺人- アガサ・クリスティー | 2023/05/19 13:07 |
---|---|---|---|
事件発生前から現場に滞在しているミス・マープルも当事者の一人であって、彼女の心が揺れ動いている感じが興味深い。いつもは “途中から首を突っ込んでくる部外者” じゃない? 彼女が来た途端に事件が発生したようにも見えるので、視点が違えば容疑者の一人かも。
しかし事件の真相を踏まえて顧みると、何だか不条理な設定である。“妹の様子が心配” と言うのは、物語開始の時点では未だ為されていない偽装工作だよね。 それに事前に言及している姉が実は共犯者で、ミス・マープルを送り込んだのは現場を攪乱する側面的な支援だったのかも(笑)。存在しない毒殺計画を暴いてしまったミス・マープルは無自覚なまま工作の手助けしているわけだから、あとで自分のマッチポンプに気付いて頭を抱えたんじゃないだろうか。この間違え方が面白い。 「どうして、先生は島に呼ばれたのでしょう?」 「メタな話はやめなさい」 (森博嗣「ゲームの国」) |
No.42 | 8点 | 無実はさいなむ- アガサ・クリスティー | 2023/03/24 12:41 |
---|---|---|---|
はっきりと伏線が示されていたのに何故気付かなかったのだろう。
それぞれ方向性の違う子供達のキャラクター、その更に異分子である車椅子のフィリップの存在感も良い。心情描写が交錯して、こんなに書いちゃって矛盾しない真相に着地出来るのか? と心配になったが、この視点の変遷が面白く、シリーズ探偵を起用しなかったのは正解。 以下ネタバレ。 クリスティー文庫版解説で指摘されている、“犯人は真相を暴露して自分の罪状を軽くしようとするのではないか” と言う件について。 これは状況が或る種のチキン・レースになっているんだね。 暴露してしまうと、罪状は軽くなっても、家族の中の元のポジションに戻って遺産を受け取ることはまぁ出来ない。一方、アリバイ自体は本物なのだから、自分が頑張っているうちに証人が出頭すれば晴れて無罪放免でポジション復帰が出来る。何故か未だ証人は見付からないが、それは明日かもしれない……。 なかなか難しい判断だろう。六ヶ月程度では思い切れなかったのも不自然ではない、と私は思う。獄死は結果論であって、当人にしてみれば命まで賭けていた心算はないのでは。 但し、あくまで故人の心情なので、作者としてはこの苦悩を描く視点を確保出来なかったのかもしれない。 |
No.41 | 7点 | 動く指- アガサ・クリスティー | 2022/12/08 13:06 |
---|---|---|---|
静かな田舎の村、にしては情緒不安定な人が沢山住んでいるな(妹だって随分だ)。台詞の端々に危うさが感じられるのだが、語り手はシレッと流し、それがまた可笑しみを増幅する。事件の謎よりも、その語り口で大いに楽しめた。メタ・ユーモア・ミステリ? まぁ曲解は読者の権利である。ラストは冒険し過ぎで、ジェリーの憤りも当然だろう。 |