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E-BANKERさん |
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平均点: 6.01点 | 書評数: 1809件 |
No.31 | 6点 | 沈黙のパレード- 東野圭吾 | 2024/04/17 17:38 |
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(今のところ)「ガリレオ」シリーズの最新作となる本作。
「加賀恭一郎」と「湯川」。作者が生み出した2大名探偵。どっかで共演してくれないものか。そういう気もしてしまう。 単行本は2018年の発表。 ~突然行方不明になった町の人気娘・佐織が、数年後遺体となって発見された。容疑者はかつて草薙が担当した少女殺害事件で無罪となった男。だが、今回も証拠不十分で釈放されてしまう。さらに、その男が堂々と遺族たちの前に現れたことで、町全体を「憎悪と義憤」の空気が覆う。かつて佐織が町中を熱狂させた秋祭りの季節がやってきた。パレード当日、復讐劇は如何にして遂げられたか。殺害方法は?アリバイトリックは?超難問に突き当たった草薙は、アメリカ帰りの湯川に助けを求める~ 本シリーズでは、今までもフーダニットに関しては自明という場合も多かったけれど、今回のメインテーマは「仇討ち」である。ということは、元々の事件の犯人は明確で、「仇討ち」なのだから、その加害者も明確、ということになる。 ただし、そこは東野圭吾。簡単に終わらせるはずはない。 最終章に至るまで、二番底、三番底の真相が待ち構えている。この当りは、実に老練になったなあーという感想。序盤から精緻に組み上げられた仕掛けや伏線が最後になって効いてくる。 でも、ガリレオシリーズといえば、当然、「ハウダニット」の興趣も忘れてはいけない。 今回のHowもかなりのものだ。化学の知識があれば簡単なのかもしれんが、門外漢の私にとっては、「こんなトリックもできるのね!」っていう驚きがある。 いずれにしても、湯川もだいぶ変わってきた。推理マシーンから人の心の機微を理解できる血の通った名探偵へとシフトチェンジした印象。 ただ、こうなると加賀恭一郎との差があまりなくなってしまう懸念もありそう。まあ求められるものを書こうとしている作者にとっては悩ましい問題なのかもしれない。 まあでも、結局、続編を期待している自分がいるわけで、ぜひよろしくお願いします! (途中の、湯川と内海の競演シーン。これは、映像化の場面を狙いすぎでしょ・・・) |
No.30 | 6点 | 希望の糸- 東野圭吾 | 2022/10/02 13:45 |
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「祈りの幕が下りる時」に続く、加賀恭一郎シリーズ作品。当シリーズも数えて十作目に突入。随分と長いシリーズとなったものだ。
それだけ作者の思い入れも強いシリーズだろうし、「ガリレオ」シリーズと並ぶ作者の代表的シリーズとなった。 2019年発表。 ~小さな喫茶店を営む女性が殺された。警視庁捜査一課の加賀警部補と松宮が捜査しても、被害者に関する手掛かりは「善い人」というだけ。彼女の不可解な行動を調べるうち、ある少女の存在が浮かび上がる。一方、金沢の地でひとりの男性が息を引き取ろうとしていた・・・。彼の遺言書には意外な人物の名前があった。彼女や彼が追い求めた「希望」とは何だったのか?~ 前作で、追い続けていた家族の問題に一応のケリをつけた加賀に代わり、本作では松宮が自身の「家族」の問題に直面するとともに、「家族」そして「血」にまつわる殺人事件に深くのめり込むこととなる。 本作、本格ミステリーとしては語るところは少なく、特に見るべき個所もない。真犯人は中盤から終盤に差し掛かる辺りで確定してしまうし、何かしらのトリックや仕掛けがあるわけでもない。 なので、他の方も書かれているとおり、そこら辺に期待してはダメだ。 本作のキーワードはやはり「親子」ということになるのだろう。特に、「親」が「子」にかける想い。 世の中には「子」を追い求めても叶わない人もいる。苦労して手に入れた「親子関係」に苦悩し、傷つけあい、壊れていく「親子」もある。 それは人それぞれ、様々なケースがあると言ってしまえばそれまでなのだが、作者は「親子の絆」こそ永遠であり、特別なものなのだと言いたいに違いない。 私も2人の子を持つ親なのだが、同時に「子」でもある。そんなの当たり前だろっ!って思っていたのだが、それは決して当たり前ではなく、決して得難い存在であり、ある意味「奇跡」なのだ。物語の終盤、金沢で息を引き取る寸前の男「芳原真次」が、かつて1度しか話したことのない息子に対して「それでも、長くても、切れさえしなければ糸がつながっている。」と話していたという場面がある。まさに本作のタイトルにつながるシーンなのだが、うーん「糸」かぁ・・・ そうなんだろうな。われわれは親から子へ、そして子が親となり、親から子へと、切れない糸をつないでいるということなんだろう。 ラストシーンを迎え、本作の登場人物たちは殺人事件という荒波を潜り抜け、「希望の光」「希望の糸」を見つける。捜査にのめり込んでいた松宮もまた、「希望の糸」の存在に気付くのだ。 東野圭吾氏も60歳をこえ、作家として円熟期を迎えたということじゃないかな。もはや、トリックメーカーや斬新なプロットではなく、「人間」というものを深く洞察していく、心の琴線に訴える作品を紡ぐ、そんな年齢になったということと感じる。 「新参者」から第二シーズンに入った本シリーズも本作で何となくすべての片がついたような雰囲気。次作からは新たなシーズン、新展開が待っている予感もしてきた。(違うかな?) |
No.29 | 6点 | 虚像の道化師- 東野圭吾 | 2020/09/27 19:31 |
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長編を挟んで、「探偵ガリレオ」「予知夢」、「ガリレオの苦悩」に続く、人気シリーズの短編集第四弾。
今回も福山雅治、いや湯浅学博士の名推理が炸裂・・・するか? 単行本は2012年の発表。 ①「幻惑す」(まどわす)=新興宗教と本格ミステリーって相性が良いのだろうか? そこかしこで新興宗教舞台のミステリーを読んでる気がする。ガリレオシリーズのアプローチとしては、やはりこういう方向性だろうなという真相。 ②「透視す」(みとおす)=犯人捜しは主題ではなく。被害者の特技=「透視術」がどのような方法で行われたのかというのがテーマ。うーん。実に面白い!ではなくって、「実にシリーズっぽい」一編。 ③「心聴る」(きこえる)=今回のテーマは「幻聴」。幻聴に悩まされる男女が暴れて・・・ということなのだが、このトリックはまさに「理系ミステリー」そのもの。こんな装置がありますよ、って言われても文系人間には分かりませーん。 ④「曲球る」(まがる)=これはミステリーではない。変化球を武器とするひとりのプロ野球のピッチャー再生の物語・・・。確かに変化球は科学的に解明できるんだろうけどね。 ⑤「念波る」(おくる)=実にガリレオシリーズらしい一編。テレパシーは科学的に信じられないはずのガリレオ先生がテレパシーの解明に乗り出すことに。これは科学的ではなく、実に「人間的」なトリック。 ⑥「偽装う」(よそおう)=大学時代の友人の結婚式で郊外のリゾートホテルへ向かうこととなった湯川と草薙。折からの大雨で帰路の道路が寸断された中で起こる殺人事件・・・というわけで、いかにもな設定の本編。事件現場は最初から偽装の匂いがプンプンしていたわけだが真相は意外な着地へ。 ⑦「演技る」(えんじる)=劇団内の男女の鞘当てが背後にある殺人事件。まさにタイトルどおりに「演技」がテーマとなる。どこが演技でどこが事実なのか、さて? 以上7編。 本作、文庫版は「虚像の道化師」と「禁断の魔術」の両方が楽しめるというお得な設定。 というわけでもないけど、シリーズの原点に戻ったかのような作品集に仕上がっている。「聖女の救済」や「真夏の方程式」がシビアで辛口な長編だっただけに、ある意味能天気に楽しめた作品ではあったかな。 ただ、うーん。やはり悪い意味での「馴れ」というか、新鮮味に欠けるような作品が多いようには感じた。 もちろん平均点はクリアしてるんだけど、どうしても水準以上の期待をしてしまうからねぇ・・・。 湯川のキャラクターも今回はかなり抑え目。長編三作では人間=湯川学の面を出しすぎたからか、今回は物理学者らしい言動が目立っている。まぁそれもシリーズを続けていくのならいいんじゃないか。 あまりド派手な展開が続くと、終わりも早いような気がするから。(ベストは・・・⑥かな) |
No.28 | 8点 | 聖女の救済- 東野圭吾 | 2019/12/30 23:46 |
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ガリレオシリーズの長編としては「容疑者Xの献身」に続いて発表された作品。
「オール読物」誌に連載後、2008年に単行本として発表。 ~資産家の男が自宅で毒殺された。毒物混入方法は全く不明。男から一方的に離婚を切り出されていた妻には鉄壁のアリバイがあった。難航する捜査のさなか、草薙刑事が美貌の妻に惹かれていることを察した内海刑事は、独断でガリレオこと湯川学に協力を依頼するが・・・。驚愕のトリックで世界を揺るがせた東野ミステリー屈指の傑作~ うーん。すごい作品だ。やはり並みの作家ではない、東野圭吾は。 そんな思いを強くした作品だった。 まずはこのタイトルに脱帽。てっきり『聖女』が『救済』される話だと思っていたよ・・・ まさか真逆だとは思っていなかった。 そして「虚数解」の話・・・。「理論的には考えられるが、現実的にはありえない」トリック。 個人的に、このトリックが非現実的だとか、無理があるというのはやや筋違いのように思える。 そもそも作者自身が「ありえない」と断じているのだから。 本来なら無理筋であるはずのトリックを成立させるための設定、人物造形、そして何より湯川学という比類なき探偵役。 作者が企図したすべてのプロットがこの「虚数解」を成立させたのだ。 これこそが作者の力量、作品の力と言わずして何というのか? こんな作品、なかなかお目にかかれないと思うのは私だけだろうか。 湯川、草薙、内海、そして聖女こと真柴綾音・・四人の織り成す物語も本作の読みどころ。 もしかしたら本作は読者がどの立ち位置で感情移入できるかで感想が違ってくるのかもしれない。 特に草薙刑事。綾音の魅力に取り憑かれながらも、最後には刑事としての矜持をしっかりと示してくれた。冷静な観察眼と女性特有の鋭い勘をもつ内海刑事とのコンビは地上波ドラマ以上に魅力的だ。 ということで改めて作者のスゴさを認識させられた作品だった。 でもちょっと褒めすぎかも。動機が後出しだとか、フーダニットの面白さが全くないというのは確か。 でもまぁ、年末にいいもの読ませていただきました。 (如雨露は絶対伏線だろうなというのはミエミエだったなー。内海刑事がi-potで福山雅治を聞いてたのは作者のサービスかな?) |
No.27 | 7点 | 真夏の方程式- 東野圭吾 | 2019/09/23 22:27 |
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ガリレオシリーズの長編としては「容疑者Xの献身」「聖女の救済」に続く三作目。
(しまった! 「聖女の救済」の前に本作を読んでしまった・・・まぁいいか) 2011年の発表。 ~夏休みを玻璃ケ浦にある伯母一家経営の旅館で過ごすことになった少年・柄崎恭平。一方、仕事でこの地を訪れた湯川も、その宿に宿泊することになった。翌朝、もうひとりの宿泊客が死体で見つかった。その客は元刑事で、かつて玻璃ケ浦に縁のある男を逮捕したことがあったという。これは事故か、殺人か? 湯川が気付いてしまった真相とは?~ うーん。やはり満足感は高い。 ミステリーというか、小説としての完成度は他のミステリー作家とは一枚も二枚も違うという感じだ。 ガリレオシリーズは、当初、湯川を推理マシーンのように描き、物理トリックによるハウダニットをメインとして始まったはず。 なのだが、「容疑者X」での悲しく、そして苦しい謎解きを経て、“人間”湯川として真の探偵役に昇華させてきた。 本作でも、その“人間”としての湯川が「気付いてしまった」真相に対し、どのように結末を付けるのかが焦点となる。 東野作品というと、加賀恭一郎シリーズにしろ、他の作品群にしろ、真相は読者に対しわざと察しやすくしている傾向が強い。 (そういう意味では本シリーズと加賀シリーズのテイストが被ってきた感はある) そして、その「察しやすい」真相とは、できればそうであって欲しくない、悲しい真相なのだ。 読者はその「悲しい真相」を薄々察しながらも、徐々に白日のもとに晒されていく真相を思い知ることになる・・・ 考えてみれば酷な作家である。 ただし、作者は最後に救いの手を差し伸べることを忘れない。それは読者にとっても「救い」になっているのだ。 これは当然計算なんだろうけど、日本人のメンタリティを十二分に把握したうえでのストーリーテリングに違いない。 本作の場合、プロットそのものはさんざん使い古されたものである。 それでも、湯川や草薙、内海といった魅力的なシリーズキャラクターを存分に使うことで、最後まで飽きることなく読み進められた(読み進まされた?)。 やっぱり、只者ではないね、作者は。 (Co中毒のトリックは、鑑識ならさすがに気付くだろ!とは思うけど・・・) |
No.26 | 7点 | 幻夜- 東野圭吾 | 2018/07/28 08:55 |
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あの名作「白夜行」が蘇る!!
文庫版で800頁を超える大作は、再び、ある男とある女の哀しい物語・・・ 2007年の発表。 ~阪神淡路大震災の混乱のなかで、衝動的に殺人を犯してしまった男。それを目撃した女。ふたりは手を組み、東京へ出る。女を愛しているがゆえに、彼女の指示のまま、悪事に手を染めてゆく男。やがて成功を極めた女の思いもかけない真の姿が浮かび上がってくる。彼女はいったい何者なのか? 名作「白夜行」の興奮が蘇る傑作長編~ いきなりネタバレで申し訳ないが、新海美冬=唐沢雪穂である。 作中では確かに明示されてはいない。明示されてはいないが、十二分に仄めかされている。 (ネタバレサイトでも確認したが、明らかにそれと分かるヒントが作者によってそこかしこに撒かれている) 物語はまさに「白夜行」と相似形のごとく進んでいく。 誰をも虜にする美女にして、稀代の悪女・・・それが新海美冬。そして、彼女の下僕にして「影」となり働く水原雅也。 これは「白夜行」での雪穂=亮司の関係と完全に被る。 ただ、「影」である亮司サイドからは一切描かれなかった前作に比べ、本作では「影」=雅也サイドからの描写がむしろメイン。 そこが大きく異なる点。 美冬のため徐々に悪事に手を染めていく過程やそれでも美冬を手放したくないという雅也の苦悩が読み手の心に嫌でも突き刺さる。 やっぱり只者ではない。東野圭吾という作家は! 中盤から終盤、章が進むごと、美冬の強烈な悪意が読者の頭の中で膨らんでいく仕掛け、そして、美冬という存在が、自然に雪穂と一体化していくように計算された仕掛け。 このプロットはもう「秀逸」のひとこと。 こんな大作を息もつかせず読了させるなんて、並みの作家にはできない芸当だ。 巻末解説には第三部を構想中とのコメントもあるが、是非とも実現させて欲しい。 いかん! これでは雅也と同じで、美冬の虜にされているようだ・・・ (ラストについては、評価の是否が分かれるだろうね・・・。呆気なさすぎと言えば、確かにそうだから・・・) |
No.25 | 6点 | ガリレオの苦悩- 東野圭吾 | 2017/09/22 21:51 |
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「探偵ガリレオ」「予知夢」、そして「容疑者xの献身」に続くガリレオ・シリーズの四作目。
「容疑者x」での悲しい結末を経て、湯川准教授にどのような変化が訪れたのか? 単行本は2008年の発表。 ①「落下る」(おちる)=ここから内海薫刑事が湯川のパートナーとして登場する。警察の捜査に対して非協力的になっている(=これも「容疑者x」が尾を引いている)湯川に対して、内海の真摯な姿勢が彼の心を開かせることに。ただし、結果は彼女にとってホロ苦いものになってしまう・・・ ②「操縦る」(あやつる)=今回は湯川の大学時代の恩師が登場。フーダニットについては最初から明々白々なだけに、どのような仕掛け(物理トリック)が使われたのかが鍵となる。ただし、それ以上に、湯川の恩師に対する心配りこそが本編の読みどころ。トリックについては正直よく分からなかったのだが、伏線がちょっとあからさますぎ(カヌーの件とか)。 ③「密室る」(とじる)=こちらは湯川のバトミントンサークルの同級生が登場。彼の依頼に応じて不可解な殺人事件の捜査(推理)に協力することとなる。「密室」とは銘打っているものの、斬新なトリックがあるわけではない。単純な錯誤を使ったトリックだし、本シリーズらしくない作品のように思えた。やはりテーマは湯川の心の中なんだろう。 ④「指標す」(しめす)=いわゆる“ダウジング”がテーマとなる作品で、本編のみが書き下ろしとのこと。これもトリック云々はあまり響かないんだけど、ダウジングに絡めた湯川の考察&推理過程がやや面白い。 ⑤「攪乱す」(みだす)=“悪魔の手”と名乗る人物から警視庁に送られた怪文書、そこには連続殺人の予告と湯川を名指しして挑発する文面が記されていた・・・という粗筋。これもトリック自体は全く予想の範疇(もちろん細かな科学的知識は別として)なのだが、歪んだ真犯人の精神&犯行動機が印象に残る。 以上5編。 他の方々も触れているとおり、最初の短篇集二作品では“推理マシーン”のように書かれていた湯川だったが、「容疑者x」を経て犯人や関係者の心の内までも推理対象とし、まさに真の探偵へと昇華していく姿が描かれている本作。 トリックそのものはあまり見るべきところはなかったけど、小説としては面白みが増しているという評価に同意。 相変わらず「動機には興味がない」旨の発言はあるのだが、それでも犯罪や悪を憎み、正義を貫こうとする人間・湯川学の姿に憧憬の念を抱いてしまう。 もちろん次作も手に取るつもり。 (どうしても福山の顔が頭にチラついてしまう・・・仕方ないかな) |
No.24 | 7点 | 祈りの幕が下りる時- 東野圭吾 | 2017/01/09 22:54 |
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遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。
恒例(?)となりましたが、どの作品を新年一発目にセレクトするかということで・・・2017年の“読み始め”はコレでした。 シリーズもついに十作目。加賀恭一郎シリーズの到達点ともいうべき本作。 2013年発表。吉川英治文学賞受賞作。 ~明治座に幼馴染みの演出家を訪ねた女性が、遺体で発見された。捜査を担当する松宮刑事は近くで発見された焼死体との関連を疑い、その遺品に日本橋を囲む十二の橋の名前が書き込まれていることに加賀恭一郎は激しく動揺する。それは孤独死した彼の母親につながっていた。シリーズ最大の謎が決着する!~ 七作目「赤い指」から明らかに変わってきた本シリーズ。 八作目の「新参者」で日本橋に異動した加賀ですが、本書の帯どおり、『加賀恭一郎はなぜ“新参者”になったのか?』が判明するのが本作というわけ。 加賀恭一郎というキャラクターに惹かれているシリーズ・ファンは多いと思うけど、今回、事件を追い、謎を解き明かすことで、彼の両親に纏る因縁や呪縛を解き放つことになるのがミソ。 「運命」というひとことだよなぁ。博美も綿部も苗村も、そして加賀も加賀の母親も・・・ みんな、「運命」という残酷な存在に縛られ、振り回され、支配されて生きている。一生懸命に生きよう、より良い明日を迎えようとしている人たちに残酷なまでに訪れる「運命」・・・ 何か、切なくなるような、ただひたすら悲しくなるようなストーリー。 日本橋を囲む十二の橋という存在が、まさに親と子を“つなぐ”存在になっているのが、何というか「旨い」。 こんなことを書いてると、『本作って一昔前のミステリーだよな』って再認識させられる。 そういう意味では、他の方も触れているとおり、「砂の器」っぽいというのも頷ける。 ただ、個人的には「容疑者X」との類似性の方が目に付いたかな。(ネタバレっぽいけど、アノ人物の行動なんて、まさに「容疑者X」のアノ男みたいだもんね) この「一昔前」が“敢えて”なのか、“予定どおり”なのか気になるところだが、こういう作品も書けるというのが作者の懐の深さだろう。 ただ、全体的には「もうひとつ」という評価も頷けるかな・・・。期待値が大きいだけに、作者としても辛いところかもしれない。 いずれにしても、“警視庁捜査一課・加賀刑事”の今後に期待したい! (一応2017年も、当面は三作セットで書評をアップしていきたいと思っております。) |
No.23 | 6点 | 予知夢- 東野圭吾 | 2016/08/29 23:55 |
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「探偵ガリレオ」に続く湯川学=ガリレオシリーズ第二弾。
今回も超常現象を科学的にロジカルに解明(?)できるのか? 単行本は2000年の発表。 ①「夢想る」=“ゆめみる”と読むらしい。幼い頃から自分の運命の人と思い続けてきた女性、森崎礼美。その女性が実在すると知った男性は夜部屋に押し入るのだが・・・。まぁ現実的な解決を付けるとしたらこうなるだろうなという真相。確かに猟銃については旨いなと思った。 ②「霊視る」=“みえる”と読むらしい。別の場所で殺されたはずの女性を、ほぼ同じ時刻に別の場所で見てしまう現象・・・。これも幾多の怪異現象をロジカルに解き明かせばこうなるよなという真相。逆説とも言える解法はやはりさすがだ。 ③「騒霊ぐ」=“さわぐ”と読むらしい。失踪した夫を探して欲しいという依頼を受けた草薙刑事。ある問題の一軒家を見張ることとなったふたりは思わぬ現象=ポルターガイストを体験することに! この解法が一番苦しいかな。科学的に正しいのかよく分かりませんが・・・(そういうこともあるということなんだろうな)。 ④「絞殺る」=“しめる”と読むらしい。これは実にガリレオシリーズらしいトリック。工場が出てきた時点でそういう系のトリックなんだろうなという予想はついたけど、門外漢の私には湯川の説明がよく分かりませんでした・・・。 ⑤「予知る」=“しる”と読むらしい(クドい?)。不倫相手が向かいの家で首吊り自殺を図った場面を目撃することになった男。実はその女性は三日前にも首吊り自殺をするところを別の人物から見られていた!?という強烈な謎。これもロジカルに解き明かせばこうなるよなという真相なのだが、とにかく旨いね。 以上5編。 今回は「オカルトとミステリーを融合すればこうなりました」というテーマで貫かれている。 一見すると超常現象なのだが、これとあれとなにかが組み合わさったため、こうなってしまったのです・・・ と、こういう展開なのだ。 こんなふうに書くと、単なる偶然の連続かと思われそうだが、そうではない。 割とあからさまに伏線やヒントが示されていて、読者が推理していくことは十分に可能な作りとなっている。 (何かしらの専門知識は出てくるけど・・・) 前作と比べてスケールという点では見劣るけど、ミステリー的な出来では一歩前進という感じかな。 とにかく読みやすくて、サクサク頁が進むこと請け合い! (個人的ベストは①or②かな。⑤も捨て難い) |
No.22 | 7点 | 探偵ガリレオ- 東野圭吾 | 2016/03/22 21:31 |
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1996年より「オール讀物」誌に断続的に発表され、1998年に単行本化された連作短篇集。
などという紹介はもはや不要だろう。 「実に面白い!」という台詞をカッコ良く決める福山雅治の姿がすぐに目に浮かぶ天下の「ガリレオシリーズ」の記念すべき第一作目。 今さらながら手にとってみた次第・・・ ①「燃える」=突然人間の頭が燃え上がる・・・そんな不可思議な現象を扱ったシリーズ第一作目(地上波でも第一話だったよね)。湯川と草薙の名コンビが生まれた瞬間でもあるわけで・・・。 ②「転写る(うつる)」=ゴミの浮かんだ汚れた池から上がった金属製のデスマスク。いったいどうやったらこんな精巧なデスマスクができるのか? 事件の真相自体は小粒なのだが・・・ ③「壊死る(くさる)」=どうやって死んだのか分からない死体が風呂場で発見される。事件の渦中にはある女性と、その女性を一心に慕う男性が・・・っていうと「容疑者X」のパイロット版だろうか、などと考えてしまう。 ④「爆ぜる(=はぜる)」=湘南の海で突如として上がった火柱と別の現場で起きた殺人事件が結びつくとき・・・。爆発の原因はある化学物質なのだが、事件の背景には理系の男たちの現実があった・・・ ⑤「離脱る(=ぬける)」=見えるはずのない赤い車を見た少年。夢うつつの状態だった少年は本当に幽体離脱したのか? 苦手とする子供を相手に奮闘するガリレオの姿っていうと「真夏の方程式」に通じるけど・・・ 以上5編。 もはや書評するに及ばないような超有名作となった本作。 理系云々ということは作中で草薙刑事が再三言っているけど、あまりそういうことは気にならなかった。 これもまた端正な本格ミステリーと称してよいだろう。 作者の作品についてはこれまで「加賀恭一郎シリーズ」を中心に読んできたのだが、人間臭さを前面に押し出した「加賀シリーズ」ととにかく“科学的・ロジカル”に拘った本シリーズは好対照という感じだ。 どちらのシリーズもそつなくうまい具合に処理してしまう東野圭吾! やはりさすが!としか言いようがない。 「天才」という評価に相応しい作品。 (個人的には④が好き。あとは①かな) |
No.21 | 8点 | 白夜行- 東野圭吾 | 2015/01/25 15:43 |
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1,100冊目の書評は東野圭吾の一大傑作とも言えるこの作品で。
文庫版で800頁超という分量であるが、それを感じさせない圧倒的なリーダビリティと目眩く展開。 すでに地上波ドラマ&映画化もされた名作。 ~1973年、大阪の廃墟ビルでひとりの質屋が殺された。容疑者は次々に浮かぶが、結局事件は迷宮入りする。被害者の息子・桐原亮司と、「容疑者」の娘・西本雪穂・・・暗い眼をした少年と並外れて美しい少女は、その後まったく別々の道を歩んでいく。ふたりの周囲に見え隠れする幾つもの恐るべき犯罪。だが、何も「確証」はない。そして十九年・・・。息詰まる精緻な構成と叙情詩的スケール。心を失った人間の悲劇を描く傑作長編ミステリー!~ うーん。久し振りに時間を忘れて読み耽ってしまった。 それだけ「面白かった」ということだろう。 ふたりの周りで起こる事件の数々・・・明言こそされないが、すべてふたりが引き起こし、特に雪穂は、その才覚と美貌で成功への階段をのし上がっていく。 亮司はともかく、雪穂の心中は決して作中では明らかにされない。 あくまでも第三者を通して、雪穂という人物が描かれるというスタイルが貫かれる。 でも分かるのだ! 読者は「雪穂」という女性がどれほど恐ろしい人間であるかを! しかもジワジワと・・・ 紹介文にもあるが、亮司と雪穂はまさしく「心を失った人間」として描かれている。 そして、読者は多くの関係者の証言や遭遇する事件を通じて、徐々にふたりの動機、更には「心を闇」を知ることになる。 巻末解説では、ノワール小説の第一人者(?)である馳星周氏が「人間の心の暗い側面、邪な断面を描くのが(ノワール小説だ)」と書かれているが、これほどに深淵としてダークな人間の内面を描いている作品は初めてかもしれない。 (しかも繰り返すが、雪穂本人の内面描写は一切なし、というのがスゴイところ) 確かに、本作のプロットそのものは決して目新しいものではないのかもしれない。 (こういう作品を書いてみたいという作家は多そうな気がするのだが・・・) ただ、作品としての構成力、そして読者を引き込む圧倒的なリーダビリティはやはり「東野圭吾」だと唸らされた。 並の作家ではこうはいかないに違いない。 未読の方は是非ご一読していただければと思う。それほどのパワーと魅力を備えた作品。 (ラストはあれでよかったのだろう。でも後日譚が是非読みたい気はするよなぁー) |
No.20 | 6点 | 白馬山荘殺人事件- 東野圭吾 | 2014/10/19 20:35 |
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"1986年発表のノンシリーズ長編。
江戸川乱歩賞受賞作「放課後」(1985年)でデビューした作者は、加賀恭一郎シリーズの一作目となる「卒業~雪月花ゲーム」を経て、長編三作目が本作に当たる。 ~一年前の冬、「マリア様はいつ帰るのか」という謎の言葉を残して自殺した兄・公一。その死に疑問を抱いた妹の女子大生・ナオコは、親友のマコトと兄が死んだ信州・白馬のペンション「まざあぐうす」を訪ねた。常連の宿泊客たちは、奇しくも一年前と同じ。各室に飾られたマザー・グースの歌に秘められた謎、ペンションの隠された過去とは? 暗号と密室の本格推理小説!~ 今ではすっかり大御所となった東野圭吾も、なかなか初々しい頃があったんだなぁーと思わされる一冊。 本作の特徴は、紹介文のとおり「暗号」と「密室」ということになる。 「暗号」についてはかなり難解。 ペンションの各部屋にある絵に書かれたマザー・グースの詩が解読の鍵となるのだが、最終的に導き出された解答はちょっと拍子抜け(?)と感じたのは私だけだろうか・・・ (この解では、結局アレとアレしか関係なかった、ってことか?) 「密室」についても他の方のご指摘どおり、あまり感心できるトリックではなかった。 初期作品にはよく「密室」が出てくるけど、前出の「放課後」でも「卒業」でも密室トリックは鮮やかというレベルからは程遠い。 (本作でも図解入りで種明かしされているけど、その割にはねぇ・・・) 序盤にいきなり明かされる「叙述トリック」めいたやり取りも結局??だし、フーダニットにも“切れ”が感じられない。 などなど・・・ ということで、やや辛口の評価になっているけど、では駄作かというと決してそういう訳ではないのだ。 何というか、本当はこんな作品を書きたいわけではないのだけれど、いわゆる「本格ミステリー」を書いてます・・・的な感覚なのだ。 事実、初期の作品群を経て、大作家・東野圭吾は鮮やかな変身を遂げるのだから。 それは決して突然の開花ではなくて、こういう試行錯誤を経て、徐々に成長していった結果なのだろうと思う。 本作にはそういう意味での「初々しさ」を感じてしまうのだ。 なんだか「上から目線」の書評になってしまったようで・・・ |
No.19 | 8点 | 麒麟の翼- 東野圭吾 | 2014/05/20 21:54 |
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「新参者」に続く加賀恭一郎シリーズの長編。
前作で日本橋署へ異動になった加賀が、構図が複雑に絡み合った殺人事件の謎を紐解いていく。 ~「わたしたち、お父さんのこと何も知らない」。胸を刺された男性が日本橋の上で息絶えた。瀕死の状態でそこまで移動した理由を探る加賀恭一郎は、被害者が「七福神めぐり」をしていたことを突き止める。家族はその目的に心当たりがない。だが刑事のひとことで、ある人物の心に変化が生まれる・・・。父の命懸けの決意とは?~ うーん。さすがだ。 読み終えて、そういう感想しか浮かばなかった。 本シリーズについては、「卒業~雪月花ゲーム」からのファンであるが、加賀恭一郎は作者が30年近くかけ熟成してきたキャラクターとして、今や作品中で圧倒的な存在感を放っている。(当たり前かもしれないが・・・) 本作のテーマは「父と子の絆」というものだろうし、これは前々作の「赤い指」辺りから繰り返し語られてきたテーマだ。 被害者親子、巻き添えをくい死亡してしまった男性と新たな命を宿したばかりの子供、そして加賀刑事と亡くなった父・・・本作にも複数の親子が登場し、テーマに相応しい人間ドラマを見せてくれるが、それよりも、やはり本作では何より加賀恭一郎の鋭すぎる観察眼と推理力に驚かされることになる。 前作(「新参者」)でも、日本橋・人形町という町に溶け込み、町の人々の証言と自身の慧眼を組み合わせていった加賀。本作でも日本橋界隈を縦横無尽に歩き回り、相棒・松宮刑事を呆れさせるような鋭さを発揮し続けることになる。 ここまでいくと、あまりにもスーパーマンすぎてどうかという気にもなったが、モラルが崩れ、人間関係がどんどん希薄になっていく現代において、加賀のようなヒーロー像を作者は求めているのかもしれない。 他の多くの方が指摘しているとおり、ミステリー的観点からすると、本作はやや食い足りないということになる。 事件の鍵となるある過去の事件が完全に後出しだし、ある人物の行動についても読者がそれを推理できる伏線は感じられなかった。 そこに焦点を当てれば、本格ミステリーとしては評価を下げざるを得ないのだろうけど、個人的にそこは気にならなかった。 作者が表現したかったのは、そのような瑣末なことではない。 心の襞、苦悩、運命・・・そして人としての“生き方”こそ、本作で表したかったことなのだろう。 やはりスゴイ作品、スゴイシリーズだ。最新作の方も楽しみ。 (昔、日本橋界隈で勤務してたことがあり、出てくる地名や建物をついつい懐かしく思い出してしまった。だいぶ変わってるけどね) |
No.18 | 6点 | 新参者- 東野圭吾 | 2013/10/08 21:14 |
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前作「赤い指」から数年、日本橋署へ異動となった加賀刑事が活躍するシリーズ作品。
東京・小伝馬町で起きたある殺人事件。その関係者ひとりひとりにスポットライトを当てていく連作短編集。 ①「煎餅屋の娘」=物語の始まりは人形町の煎餅屋さんから。実母を亡くし祖母を慕う娘と、その娘を大切に思う父親。ちょっとしたボタンのかけ違えのような謎をやさしく解き明かす加賀・・・。いい話系。 ②「料亭の小僧」=今どき珍しい存在だよ・・・“小僧さん”なんて。下町の老舗料亭を切り盛りする女将とだらしない主人。いかにもドラマのようなストーリー。 ③「瀬戸物屋の嫁」=まさに嫁姑問題を抱える家庭。一見いがみ合っている嫁姑だが、男にはよく分からない絆みたいなものがあるようで・・・ ④「時計屋の犬」=気難しい職人肌の時計屋。かせぎのない男性と駆け落ち同然に結婚した娘を勘当したのだが・・・やっぱり親娘の絆ってやつは強固なんだよね。 ⑤「洋菓子屋の店員」=これは本作のターニングポイントと言ってもいい一編。被害者となった女性が足繁く通っていた洋菓子店とお気に入りの店員。そこには当然理由があった・・・ ⑥「翻訳家の友」=殺された女性の友人で翻訳家。離婚して翻訳業の道に引き込んだはずが、その本人が結婚&海外移住することになり・・・ ⑦「清掃屋の社長」=今までの流れからやや離れたストーリーが展開される本編。新たに登場する人物たちが、実は殺人事件に大いに関係することになるのだが・・・。そろそろまとめに入ったな。 ⑧「民芸品屋の客」=最終段階になってなんでこんな話を盛り込んできたのか? まぁ「凶器」の問題なのは間違いないが。 ⑨「日本橋の刑事」=いよいよ解決編。加賀が殺人事件の謎を見事解き明かすわけだが、多分最初から分かってたんじゃないの? ラストもいい話に。 以上9編。 何だかとっても「いい話」です。日本橋・人形町という江戸情緒・江戸文化が生き残る街をまるで「ぶらり途中下車」のように加賀が歩き、人々と接していく・・・。 今まで割とシリアスな展開の多かった本シリーズとは明らかに一線を画した作品に仕上がってます。 まぁうまいよねぇ・・・。言うまでもないことですが、抜群のリーダビリテイです。 加賀のキャラってこんなだっけ? という気がしないでもないですが、読んで損のない作品でしょう。 ただ、今までのシリーズ作品より高評価はしにくいかな。 |
No.17 | 6点 | 十字屋敷のピエロ- 東野圭吾 | 2013/05/18 22:34 |
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1989年発表の長編。
東野圭吾が書いた「新本格ミステリー」とでも表現すればよいのだろうか? そんな作品。 ~「ぼくはピエロの人形だ。人形だから動けないし、しゃべることもできない。殺人者は安心してぼくの前で凶行を繰り返す。もし、ぼくが読者のあなたにだけ、目撃したことを語れるならば・・・しかもドンデン返しがあって真犯人がいる・・・」。前代未聞の仕掛けでミステリー読者に挑戦する新感覚ミステリー~ 軽いといえば軽いが、さすがは東野圭吾という片鱗は見える作品 ・・・っていう感じか。 「ピエロ視点」という発想というか企みは斬新。最後まで素直にとっていいのかどうか迷わされてしまった。 叙述トリックというほどのレベルではないが、「ピエロの人形」だからこそというプロットを絡めてある点は評価できる。 そして、本作のプロットのもうひとつの鍵が「十字屋敷」。 要は「館」ものである。それも生粋の。 このメイントリックは個人的には大好物なのだが、同系統のトリックに何度も出会っているせいか、さすがにサプライズ感はない。 手練のミステリーファンなら、冒頭にある「十字屋敷」の図を見ただけで、「こういうトリックじゃないか?」と気付いてしまうだろう。 (「8の字」、「卍」、「十字」ときて、つぎは何か・・・? 「田」とかどう?) こんなミステリーっぽいミステリーを大作家となった東野圭吾が書いていたということだけで、本作は価値がある。 ラストに事件の背景、構図が一気に明らかになり、さらにもう一段階、裏の構図を用意しているところなどは「策士」というべき手腕。 まぁ、それほど高評価はできないけど、それなりに楽しく読める作品には違いない。 (作者の「若さ」を感じる作品だな) |
No.16 | 7点 | むかし僕が死んだ家- 東野圭吾 | 2013/02/11 20:03 |
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1994年発表のノンシリーズ長編作品。
作者の多彩ぶりがよく分かる一冊と言っていいのではないか? ~「わたしには幼い頃の思い出が全然ないの・・・」。七年前に別れた恋人・沙也加の記憶を取り戻すため、私は彼女と「幻の家」を訪れた。それは、めったに人が来ることのない山の中にひっそりと建つ異国調の白い小さな家だった。そこで二人を待ち受ける恐るべき真実とは・・・? 人気作家が放つ長編ミステリー~ 派手さはないのだが、徐々に心に染みてくるような・・・そんな読後感。 紹介文のとおり、本作の舞台は山の中にひっそりと建つ別荘風の一軒家。物語のほとんどがこの家の中で、わずか二人の登場人物の間で展開される。 そして、過去が綴られた「日記」が本作のプロットの中心。 登場人物の二人が、この「日記」を紐解くたびに、謎が解け、そして謎が追加され或いは深まっていく・・・ それが憎らしいくらいに旨いのだ。 文庫版解説の黒川博行氏が、「この作品の伏線の張り方は尋常ではない」と書いているが、まさにそのとおり。 全ての謎が解決される「第四章」では、これまで埋め込まれた伏線の数々が鮮やかに回収され、収まるべきところに収まっていく。 まぁ、これは言うなれば「一流のマジシャンの手口」ということに尽きる。 しかも、それをさもたいしたことないようにやってのけるのが、大作家・東野圭吾の真骨頂なのだろう。 サプライズ或いはインパクトでいえば、正直なところ「小品」と言うべきなのかもしれないが、決して侮れないスゴイ作品だと思う。 ラストの切なさも個人的にはGood。 (リーダビリティも尋常じゃない・・・) |
No.15 | 6点 | ある閉ざされた雪の山荘で- 東野圭吾 | 2012/11/21 22:56 |
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1992年発表のノンシリーズ長編。
「仮面山荘殺人事件」との相似形が有名だが、ある意味非常に実験的な作品という気がする。 ~早春の乗鞍高原のペンションに集まったのは、オーディションに合格した男女7名。これから舞台稽古が始まる。演じるのは、豪雪に襲われ孤立した山荘での殺人劇だ。だが、一人また一人と現実に仲間が消えていくにつれ、彼らの間に疑惑が生まれてくる。果たしてこれは本当に芝居なのか? 驚愕の終幕が読者を待つ本格ミステリー~ 重厚な本格ミステリーではないが、「さすが」と思わせるプロット。 本作については未読だったとはいえ、作者の他作品の解説や何かの書評で大まかなプロットは知っていた。 ということで、「芝居」か「本当の殺人」かという部分については特に迷いなく読み進めたのだが・・・ まぁ、そんなことより、本作の肝は第四章(第四日目)で明かされる「あのこと」だろう。 ひとことで言うなら「典型的な叙述トリック」なのだが、叙述系作品を読み慣れた読者ならば「やっぱりそうきたか!」という感想になるかもしれない。 (「視点」についてはもはやミステリーファンの常識だもんなぁー) でも、この大トリックを徹底的に生かすべく、考え抜かれたプロットであるのは確か。 伏線の張り方にも「さすが」と感心。 ただ、テクニカルな面では高評価なのだが、小説としてはやや陳腐な作品と感じは否めないと思う。 そのため、評点としてはこんなものかな。 (本作の解説も法月綸太郎氏。よく解説書いてるよなぁ、っていうか他の作家の作品よく読んでるよなぁ・・・) |
No.14 | 5点 | 天使の耳- 東野圭吾 | 2012/07/26 22:15 |
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1992年に「交通警察の夜」として刊行された作品を改題。
改題前のタイトルのとおり、全編が交通事故をベースにしたミステリーという連作短編集。 ①「天使の耳」=とある交差点で発生した2台の車の衝突事故。双方とも自分は青信号で進行したと主張するのだが、同乗していた全盲少女の「超絶的な聴力」のおかげで事件は解明する。それだけで終わらせないのがさすが東野圭吾・・・。 ②「分離帯」=突然右折し逆レーンで衝突事故を起こしたトラック。問題は「なぜ急にトラックが右折したのか?」なのだが・・・。交通事故に絡む法制度の不備を皮肉るラストが尾を引く。 ③「危険な若葉」=若葉はもちろん「若葉マーク」のこと。前をノロノロ進む「若葉マーク」にイライラさせられた経験は誰しもあるはずだが、こんなしっぺ返しを食うのはキツイねぇ・・・。まっ因果応報ではあるが。 ④「通りゃんせ」=本編の問題は不法駐車。本人は何でもないこと、のように思っているが、一歩間違えるとこんなことになるリスクを孕んでいるということ。こういう計画的な「仕返し」は怖い。 ⑤「捨てないで」=本編は「ポイ捨て」がメーンアイデア。ポイ捨てされた空き缶でこんなことが起こるのは予想外だが・・・これもやっぱり因果応報的なラストを迎える。 ⑥「鏡の中で」=車とバイクの衝突というとよくある事故っていう感じだが、関係者がオリンピックを目指す女子マラソンチームのコーチというのが異色なポイント。担当の警察官は事故にある違和感を抱くのだが、真相は分かりやすいかな。 以上6編。 「交通事故」というのが共通のテーマだが、登場人物は全て異なっている。交通事故特有かもしれないが、何とかして事故を隠そうとする当事者や、隠せない場合は何とかして自身の罪を軽くしようとする当事者など、人間のエゴがむき出しになるという特徴が窺える。 さすがに東野圭吾だけあって、全編うまくまとめてあるし、サラサラと読めてしまう。 ただ、どれも小品という感じは拭えないかな・・・ (③④あたりが皮肉が効いててよい。①もマズマズ) |
No.13 | 5点 | 同級生- 東野圭吾 | 2012/05/27 21:41 |
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1993年発表のノンシリーズ長編。
処女作である「放課後」の流れを汲む学園ミステリー、または青春ミステリー。 ~修文館高校3年の宮前由希子が交通事故で死亡した。彼女は同級生・西原荘一の子供を身ごもっていた。それを知った荘一は、自分が父親だと周囲に告白し、疑問が残る事故の真相を探る。事故当時、現場に居合わせたと思われる女性教師が浮上するが、彼女は教室で絞殺されてしまう。作者のターニングポイントとなった青春ミステリー~ それほど面白いとは思えなかった。 最初の交通事故はともかく、事件の一番の鍵は女性教師殺しの真相だろう。 ただ、それがこの真相では、かなりあからさまなのではないだろうか? トリックの細かい部分まではさすがに分からなかったが、ちょっと頭を捻れば大筋の真相は十分に看破できるレベル。 また、冒頭、事件の「奥行き」を示唆するかのようなパートがあるので、てっきりプロットに深くかかわってくるのかと思ってましたが、そこもちょっと拍子抜け。 (この程度の関係性なら、ここまでもったいぶって書かなきゃいいのに・・・) ただ、「学園ミステリー」という部分にスポットを当てるなら、まずまず面白いのかもしれない。 瑞々しいラブストーリーっぽいところや、教師対生徒という図式なんかも「らしく」て何だか昔を思い出してしまった。 まぁ、女性の心の中こそがミステリーなのかもしれない。 (男にゃよく分からん!) 純粋なミステリーとしては弱いが、相変わらずリーダビリティーは十分でサクサク読めます。 (作者あとがきで、作者が本作の執筆についてかなり苦労した様子が書かれているのが新鮮。) |
No.12 | 7点 | 宿命- 東野圭吾 | 2012/02/20 22:38 |
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比較的初期のノンシリーズ作品。
ちょうどトリック重視の作品から脱皮を図っていた頃なのかなぁ・・・ ~高校時代の初恋の女性と心ならずも別れなければならなかった男は、苦闘の青春を過ごしたあと、警察官となった。男の前に10年ぶりに現れたのは学生時代ライバルだった男で、奇しくも初恋の女性の夫となっていた。刑事と容疑者、幼なじみの2人が宿命の対決を果たすとき、余りにも皮肉で感動的な結末が用意される・・・~ ある意味、実に東野圭吾らしい作品のような感じを受けた。 確かに地味と言えば「地味」な作品でしょう。 トリッキーな密室トリックや、精緻なアリバイトリックがあるわけではなく、フーダニットのサプライズ感も薄い。 それでも、ページをめくる手が止まらないリーダビリティはやっぱり作者ならではなのだろう。 出版当時の作者のことばによると、本作一番の読み所はラスト1行と断言してますが、確かにこの1行を書くためにそれまでの濃密なドラマはあるのでしょう。 中盤以降、瓜生家の過去が事件の背景として大きな意味を持つことが判明する。そして、主人公・勇作と元恋人・美佐子の過去そして運命が絡んでいく・・・ 何とも重いテーマなのに、読み終わった後には爽やかな感覚さえ残る・・・これこそが大作家・東野圭吾の真骨頂。 「脳波」の話はちょっと作りこみが足りず、リアリティが薄い点が惜しいが、トータルでは十分評価できる作品。 |