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E-BANKERさん
平均点: 6.00点 書評数: 1845件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.765 6点 喜劇悲奇劇- 泡坂妻夫 2012/10/10 22:14
1982年発表。作者の第6長編に当たる作品。
処女長編「十一枚のトランプ」、2作目「乱れからくり」に連なる作風を久々に復活させたのが本作。

~アルコール浸りの落ちぶれ奇術師・七郎は、動く一大娯楽場「ウコン号」の処女航海で冴えない腕前を披露することになった。紹介された助手を伴い埠頭に着いたところが、出航前から船内は何やら不穏なムードに満ちている。案の定というべきか初日直前の船内で連続殺人の騒動が持ち上がり、犠牲者には奇妙な共通項が見いだされ・・・。章題はすべて回文、奇妙な謎とぺてんの楽しさてんこ盛りの本格長編ミステリー~

作者得意の手練手管にすっかり騙された。
とにかく「回文、回文、また回文」に彩られたのが本作。
冒頭の一文に始まり、章題も回文、そして被害者たちもすべて回文の名前を持つ人々。
他の作品でも作者の「遊び心」に満ちた企みに触れてきたが、本作はその極みとも言えるのではないか。
一見、軽い調子の文章も相俟って、何だかいつの間にか作者のペースに乗せられてしまっていた。

でも、本作は「正統派本格ミステリー」そのもの。
フーダニットについては、確かに分かりやすいのかもしれないが、伏線がそこかしこに効果的に撒かれているのは「さすが」だろう。
分かりやすいとはいえ、「真犯人」の隠し方は個人的にも好きなトリック。
世間的な評価は高くないようだが、十分に見どころありだと思う。

奇術シーンが少なかったり、妙に虎に拘ったり、好感度大のヒロイン・真(まこと)の扱いが中途半端だったり、ミステリー要素以外は首を傾げるところがあるのと、「回文」が結局プロット&トリックとの直接のリンクが薄いなど、もう少し煮詰めた方がよかったかなぁというところがやや残念。

No.764 7点 15のわけあり小説- ジェフリー・アーチャー 2012/10/10 22:12
ストーリーテラー、J・アーチャーが贈る珠玉の短編集。
どの作品もラストの捻り、いわゆる「ツイストの効いた」小気味いい読後感を味わえる。

①「きみに首ったけ」=要は詐欺師の美女にいいようにあしらわれる男の話。軽いテイストでまずは読者を惹きこむ。
②「女王陛下からの祝電」=これはラスト1行のための作品。
③「ハイ・ヒール」=これはミステリー風味の作品。事故による火事とみせかけた放火なのだが、主人公がそれを見破るきっかけとなったある「小物」が効いている。
④「ブラインド・デート」=これも実に良いツイスト感。こんなセンスのいい短編って他にない。
⑤「遺書と意志があるところに」=英語では「遺書」も「意志」も“will”。一人の女性の奸計が見事。
⑥「裏切り」=これもラストの捻りが見事、としか言いようがない。
⑦「私は生き延びる」=これも①や⑥と同ベクトルのストーリーだが・・・
⑧「並外れた鑑識眼」=一人のダメ人間が一級の鑑識眼を持つパトロンの支援により一流の画家になる。時代は下って・・・ていう展開。
⑨「メンバーズ・オンリー」=本編のみ結構な分量のある作品。それだけ読み応えのある好編。一人の男の数奇な(?)人生って感じ。
⑩「外交手腕のない外交官」=このオチは予想がついた。どっかで聞いたことのある話。
⑪「アイルランド人ならではの幸運」=アイルランド人に対する他の欧米人の見方が分かる。「小話」。
⑫「人はみかけによらず」=これもラスト1行のためのストーリーだが、非常に想定内。
⑬「迂闊な取引」=これはブラック風味のオチが効いている好編。伊坂幸太郎「死神の精度」を思い出した。
⑭「満室?」=ふーん。
⑮「カーストを捨てて」=タイトルどおり舞台はインド。感想は「へーえ」。

以上15編。
さすがです。うまいです。
まぁ、作品ごとのレベル差はありますが、トータルで評価すれば十分に評価できる作品集だと思います。
ミステリーの範疇に入らないものが多いので、評点はこの程度で。
(①~⑩プラス⑬は水準以上だろう。とにかく作者のテクニックを堪能しよう。)

No.763 4点 ヴェサリウスの柩- 麻見和史 2012/10/10 22:09
第16回の鮎川哲也賞受賞の作者処女長編。
大学医学部を舞台にした医療ミステリー。因みに「ヴェサリウス」とは16世紀に活躍したベルギーの解剖学者の名前。

~医学部での解剖実習中、遺体の腹から摘出された一本のチューブ。その中には研究室の園部教授を脅迫する不気味な四行詩が封じられていた。動揺を隠せない園部。彼を慕う助手・千紗都は調査を申し出るが許されなかった。しかし、今度は千紗都自身が標本室で第二の脅迫状を発見してしまう。禍々しい“黒い絨毯”とともに・・・事務員の梶井とともに犯人の正体を調査し始めたが、その後思いもよらない事実が判明した!~

個人的な好みとはやや外れた、という感じ。
鮎川賞というよりは乱歩賞作品を髣髴させるプロットで、ある専門職(本作では解剖医)の主人公が、ある事件や陰謀に巻き込まれていき、ついには殺人事件までもが発生してしまう・・・事件の裏には過去の哀しい事件が・・・というような既視感たっぷりの展開なのだ。
しかも、終盤、事件は大筋解決するのだが、さらに二重構造の真相が発覚してしまう。
この辺りになると、予定調和の一言なのだが、こういったプロットをどれだけ読者に魅力的に見せるかというところが作者の手腕またはセンスなのだろう。

そういう意味では、処女作品とはいえ成功しているとは言い難い。
個人的に「医療ミステリー」は好物なのだが、例えば海堂尊や川田弥一郎などと比べるとかなり落ちる。
このジャンルって、例えば病院だったり医学部の研究室内のドロドロした人間関係や何らかの医療トピックが「ツボ」だったりするのだが、その辺もどうもピンとこなかったなぁ。
今まで鮎川賞作品は他の受賞作よりも面白いという評価だっただけにちょっと残念。
(作者の経歴を見ると文学部卒なんだねぇ・・・。取材力には敬意を表するけど、その辺りが今一歩感の原因かも)

No.762 5点 邪悪の家- アガサ・クリスティー 2012/10/03 23:16
エルキュール・ポワロ物の第6長編。
創元版だと「エンドハウスの怪事件」だが、今回は早川のクリスティ文庫で読了。

~名探偵ポワロは保養地の高級ホテルで、若き美女ニックと出会った。近くに建つエンド・ハウスの所有者である彼女は、最近3回も命の危険にさらされたのだとポワロに語る。まさにその会話の最中、一発の銃弾が・・・ニックを守るべく屋敷に赴いたポワロだが、五里霧中のままついにある夜悲劇は起きてしまった!~

いい意味でも悪い意味でもクリスティらしさの見える作品ではないか?
他の方の書評を見てると、評価が二分しているようだが・・・
要はラストに明かされる「意外な真犯人」が「意外」に思えるかどうか、という点に評価の良し悪しがかかっているという印象。

こういうプロットはクリスティの作品ではかなり既視感を覚えるのは確かだろう。
メイントリックは平たく言えば「人物誤認」なわけで、これが如何に無理なく読者を騙せるのかがカギになる。
でもって、これはレベル的には分かりやすい・・・かも。
主人公と誤認されて起きた殺人事件という部分が、ミステリー好きにとっては十分結末を予想させるものに留まっている。

まぁでも、うまいといえばうまいよなぁ・・・(どっちだ?)
初心者であれば、十分サプライズ感を味わえる作品だろうと思うし、トータルで評価すれば平均レベルというところに落ち着く。
(不振に悩むポワロの姿が見もの。でも、ラストの小芝居はいるのか?)

No.761 6点 見えない女- 島田荘司 2012/10/03 23:14
作者初期のノンシリーズ短編集。
いずれも外国を舞台に、いつものガチガチの本格ミステリーとは違ってライトなミステリーを味わえる。

①「インドネシアの恋唄」=これは何だが甘くせつない青春ミステリー的作品。舞台はインドネシアのジョグジャカルタ~バリ島。早見優にそっくりのインドネシア人というところで時代を感じてしまうが、20代前半にこういう体験をしてみたかったなぁとしみじみ思う。ミステリー的には非常に小粒。(インドネシアの女性って上品でキレイだよね)
②「見えない女」=舞台はパリ。誰もが目を見張る美人で、フランス演劇界に顔の広い女性・・・。本人は多くの映画に出演しているというのだが、誰もその姿をスクリーンで見たことがない・・・。こういう職業って、この頃はあまり知られてなかったのか? 途中で十分察しのつく真相。
③「一人で食事をする女性」=舞台はドイツ。バイエルンの狂王・ルードビッヒ2世と彼の建てた城(ノイシュバンシュタイン城ほか)がストーリーの背景に見え隠れする。そしてまたしても登場する謎の美女。今度の謎の鍵は「ベルリンの壁」。でもまぁ、若い世代にはもう歴史の教科書で知る話なんだろうな。

以上3編。
『作品の舞台は3編とも外国で、それぞれに魅力的なヒロインが登場。ロマンあふれるシャレたミステリーに仕上がっており、改めて島田荘司という稀有な作家の才能の豊かさと、センスの良さに敬服してしまった』(文庫版巻末解説より)
まさにこのとおりです。

今回、久々の再読なのだが、①は初読時にも印象に残った作品。本作はミステリー云々ではなく、島田荘司という作家の懐の深さを味わう作品なのだろう。

No.760 6点 不連続殺人事件- 坂口安吾 2012/10/03 23:12
「堕落論」などで戦後文学界に足跡を残す作家・坂口安吾。ミステリー好きが高じて発表されたのが本作。
昭和24年、高木彬光の傑作「刺青殺人事件」を抑えて探偵作家クラブ賞を受賞した作品。

~戦後間もないある夏、詩人・歌川一馬の招待で山奥の豪邸に集まったさまざまな男女。作家、詩人、画家、劇作家、女優などいずれ劣らぬ変人・奇人ぞろい。邸内に異常な愛と憎しみが交錯するうちに、世にも恐るべき8つもの殺人が生まれた。不連続殺人の裏に秘められた悪魔の意図は何か? 鬼才安吾が読者に挑んだ不滅のトリック。多くのミステリー作家が絶賛する日本推理小説史に輝く傑作~

瑕疵も多いが、個人的には評価して(あげたい)作品、っていう読後感。
「瑕疵」については敢えて言うまでもない気はするが・・・
登場人物の多さ&未整理は気になるところ。名前を覚えるという基本的なことの他に、登場人物同士の相関関係がなかなか呑み込めないので、できればメモ帳でも横にして読むのがベターなのだろう。
読みにくさは想像したほどではなかったが、時代背景的なエログロ的頽廃感はちょっと鼻につく。

そう長くもない分量のなかで、合計8名もの人間が次々に殺されるという本作。
メインテーマはずばり「ミッシングリンク」ということなのだろう。
ただし、「九尾の猫」のような“開かれた”世界でのミッシングリンクではなく、一軒の邸宅の中という“閉じた”空間のなかでのミッシングリンクというのが興味深い。
当然「動機」が推理の遡上に上げられるのだが、前例として踏まえているがA・クリスティの某有名作。
あまり書くと思い切りネタバレになりそうだが、「不連続」というタイトルは、8名の殺された「動機」に起因している。
(ただ、最初に殺された人物についての動機は今一つ理解できなかったが・・・)

そして、探偵役の巨勢博士が指摘した真犯人当てのキーポイントが「心理の足跡」。
これは確かにトリックというか、本作のプロットのキーポイントだろう。
アリバイの証明役が全く別の立場に反転するというプロットと、それを不自然なく行わせるための伏線の撒き方には唸らされた。

名声ほど評判はよろしくないようですが、個人的には十分楽しめる作品ではないかと思います。
(角川文庫版の法月綸太郎氏の巻末解説も一読の価値あり。)

No.759 7点 ブラックペアン1988- 海堂尊 2012/09/28 22:28
「チームバチスタの栄光」から続く田口&白鳥シリーズ、或いは桜宮・東城大学をめぐるシリーズに連なる作品。
ただし、タイトルどおり時系列的には最も昔の「東城大学医学部付属病院」が描かれる。

~1988年、世はバブル景気の頂点を謳歌する時代。「神の手」を持つ佐伯教授が君臨する東城大学総合外科学教室に、帝華大のビックマウス」高階講師が新兵器を手土産に送り込まれてきた。「スナイプAZ1988」を使えば、困難な食道癌の手術が簡単に行えるという。腕は立つが曲者の外科医・渡海がこの挑戦を受けて立つ。現役医師も熱狂する超医学ミステリー~

かなり面白い。
ただし、本シリーズの愛好者にとってはだが・・・
バチスタシリーズの主要登場人物である高階講師(現在では病院長)、藤原・猫田・花房の看護婦トリオ、何より速水・島津・田口(もちろん本シリーズの主役である)の3人までもがインターンとして登場するのが何とも心憎い配慮。
その他にも、現在のシリーズにつながる「伏線」がそこかしこに配置されるなどサービス精神も十分。
(田口が手術立会で血を見て、外科医をあきらめるというエピソードまでも披露される)

他の方の書評にもありましたが、ストーリーは「白い巨頭」を髣髴させるように、「人の命」や「医者の間のライバル心」そして「外科医としての矜持」などが魅力的な登場人物をとおして語られていく。
憎まれ役(?)として登場する佐伯教授や渡海医師の振る舞いも最後には意味あるものとして「カッコいい」印象を残していく・・・
特に高階の姿は、現在の姿と比較すると何とも印象的。患者をより多く助けるため、医療の質向上に奔走していた高階が、どこか政治的にも見える現在の姿にどうしてなったのか。20年余りの間に彼に何が起こったのかが気になるところだ。

まぁ、ミステリーという冠はどうかと思うが、良質な医療エンタメ小説という評価は実に正しいと思う。
とにかく、作者の「世界観」には賞賛&敬意を表します。
(因みに、「ペアン」とは手術の際に用いる止血用の鉗子(かんし)の代表格的医療用具)

No.758 5点 帝王死す- エラリイ・クイーン 2012/09/28 22:25
1952年発表。後期クイーンの有名作。
ライツヴィル・シリーズではないが、架空の都市「ライツヴィル」が作品世界に影を落とす一作。

~第二次世界大戦当時の機密島を買い取り、私設の陸海空軍を持つペンディゴ帝国に君臨する軍需工業界の怪物キング・ペンディゴ。彼のもとに舞い込んだ脅迫状の調査を求められ、クイーン父子は突然ニューヨークから拉致された。その強引なやり方と島の奇妙な雰囲気にとまどいながらも、エラリイはついに意外な犯人を突き止めた。しかし次の瞬間、父子の眼前で不可解な密室殺人が起こる。冒険小説風に展開する奇抜な不可能犯罪の謎~

魅力的な舞台設定と腰砕けの真相。
本作の「密室」は他のどの作品にも負けないほど「超堅牢な」密室。
どこにも隙間のない特別製の部屋が完全に密閉されたうえ、ドアの前にはクイーン警視ほか1名の目が光る。しかも、犯人と目される人物の前にはエラリイがいる・・・という状況。
にもかかわらず、犯人と目される人物が持つ拳銃から放たれた銃弾で殺人が起こってしまうのだ!
これはJ.Dカーや島田荘司もびっくりの超抜トリックか! と思いきや、なんとも小粒なトリックが開陳されてしまう・・・

派手な設定が目立つ本作なのだが、作者の狙いはそんなところにないのだろう。
国家をも凌駕する軍需産業を率いるキング・ペンディゴという人物を通し、そんな人物ですら(そんな人物だからこそとも言えるが)出自や弱点から逃げられないという人間の弱さというかはかなさを示してくれる。
三兄弟の名前に込められた暗喩とともに、何とも言えない読後感が残った。

ただ、ロジック全開の初期作品を志向する読者にとっては(私もそうだが)、実に物足りない作品という評価になるのはしょうがないかな。
(正しくは、ライツヴィルシリーズを先に読むべきなんだろうなぁ・・・)

No.757 5点 T型フォード殺人事件- 広瀬正 2012/09/28 22:23
集英社が新たに編んだ作者の小説全集第5弾。
本書は表題作のほか、短編2編を含む作品集という体裁。

①「T型フォード殺人事件」=昭和モダン華やかなりし頃、その惨劇は起きた。関西のハイカラな医師邸に納車された最先端の自動車「T型フォード」。しかし、ある日完全にロックされたその車内から他殺死体が発見されたのだ。そして46年後、その車を買取った富豪宅に男女7人が集まり、密室殺人の謎に迫ろうとするが・・・。

「隠れた名作」という評価の作品と認識しているが、他の方の書評通り「まぁそれ程でもない」というのが正直な感想。
紹介文によると密室トリックがメインの作品のように映るが、密室はたいしたことない。
っていうか、T型フォード(せめてクラシックカー)の「車体」についての知識がないと「よく分からない」トリックなのだ。
本作のプロットの肝はそれではなく、東野圭吾の作品で有名な「劇場型トリック」(勝手に名付けてしまいました・・・)。
ただ、“鮮やかな”というよりは“唐突に”という印象。
時代性を勘案すれば、そう低評価しなくてもという気はするが、かと言って高評価もしにくい。

②「殺そうとした」=ショート・ショートのような味わいのある作品。よくある「手」と言えばそうなのだが、個人的には好み。ラストのブラックさも良い。
③「立体交差」=ミステリー作家というよりはSF作家というべき作者らしい作品だろう。要はタイムトラベル系のストーリーなのだが、オチに捻りがあり、そこを楽しめるかどうかで好みが分かれるかも。私は最初よく理解できなかったが・・・

以上3編。
①は評判ほどではないが、駄作というほどでもない。
それよりも②③が拾い物。

No.756 6点 タイトルマッチ- 岡嶋二人 2012/09/21 22:02
1984年発表の作者4作目の長編。
「人さらいの岡嶋」の異名どおり、本作も奇妙な「誘拐事件」についての謎。

~元世界ジュニア・ウェルター級のチャンピオン・最上永吉の息子が誘拐された。彼を破ったジャクソンに義弟・琴川三郎が挑むタイトルマッチ二日前の出来事だった。犯人の要求は、“相手をノックアウトで倒せ。さもなくば子供の命はない・・・”。犯人の狙いは何か? 意想外の脅迫に翻弄される捜査陣。ラストまで一気のノンストップ長編推理~

プロットは面白いが、やや腰砕け気味。
「犯人の要求の意外さ(金ではない)」が本作の肝だろうなという想定で読み始めたのだが、これに対する解答は割と早い段階であっさり明らかになってしまう。
フーダニットについてもなぁ・・・ダミーの犯人をちょっと引っ張りすぎだし、真犯人に意外感はない。

まぁ、本作はそういった「謎解き」要素よりは、リミットである二日間で子供が見つからず、意に沿わないタイトルマッチに挑まざるを得なくなった最上や彼を取り巻く人物をめぐるサスぺンスとして捉えた方が楽しめる。
特に、終盤はタイトルマッチと誘拐犯を徐々に追い詰める捜査陣の姿が交互に描かれ、緊張感のある展開で非常に良い。
(ボクシングの描写が秀逸!)

作者の「誘拐もの」は結構読んだが、本作はちょうど真ん中くらいの出来かな。
(個人的には「どんなに上手に隠れても」がベストだろうと思っているのだが・・・)

No.755 6点 怪盗紳士ルパン- モーリス・ルブラン 2012/09/21 21:59
世界に冠たる大泥棒(怪盗という方がカッコイイかな)アルセーヌ・ルパンを世に生み出した第一作品集。
今回は創元文庫版にて読了。

①「アルセーヌ・リュパンの逮捕」=大西洋を渡る客船に広まるA・ルパン出没の噂・・・。乗客たちはザワつくが、仏警察きっての大立者ガニマール警部にルパンは逮捕されてしまう。確かに初っ端から衝撃の展開。
②「獄中のアルセーヌ・リュパン」=①で独房に入れられたルパンだが、おとなしく囚われているわけないよなぁ・・・。警察の方がキリキリ舞させられることに。
③「アルセーヌ・リュパンの脱走」=これはなかなかの良作。獄中からの脱走&裁判を受けないことを宣言するルパン。そして運命の裁判の日、なんとリュパンの正体が・・・しかしこれもリュパンの罠だった。右往左往させられるガニマールが不憫。
④「奇怪な旅行者」=ラスト、新聞記事で語られるオチが何とも心憎い・・・
⑤「女王の首飾り」=これはある種「準密室からの盗難事件」を扱ったもの。真相は灯台下暗し的なものだが・・・
⑥「ハートの7」=殺人現場に残される穴の開けられた「ハートの7」のトランプ。それがお宝発掘への鍵となるのだが・・・。今回もルパンは神出鬼没だ。
⑦「彷徨する死霊」=本作はホームズものにもありそうな探偵譚という風味の作品。実にシンプル。
⑧「遅かりしシャーロック・ホームズ」=ルイ16世ゆかりのお宝をルパンから守るため請われたシャーロック・ホームズ。くだんの家へ向かう途中に両雄が相見えたのだが・・・最後はやはりルパンに軍配が上がるような結果になる。

以上8編。
①~③は続きもので、ルパンの逮捕から脱獄までが書かれる。④以降はルパンの神出鬼没ぶりがとにかく印象的。
謎解きもの或いはミステリーとしては微妙だが、読者としてはどいつがルパンかちょっとドキドキしながら読み進めるというのが本作の正しい楽しみ方なのだろう。

個人的には短編よりも長編作品の方が面白いという印象を受けたが、これはこれで楽しめるのは間違いない。
ジュブナイル版で読んだ方も多いかもしれないが、未読の方は名作として一度は触れておくのもいいのではないか。
(③が一番面白い。⑤⑥もなかなか。)

No.754 5点 夏と冬の奏鳴曲- 麻耶雄嵩 2012/09/21 21:56
1993年発表。デビュー作「翼ある闇」に続く長編2作目。
文庫版で700頁を超える大作、かつ様々な物議を醸す問題作。

~首なし死体が発見されたのは、雪が降り積もった夏の朝だった。20年前に死んだはずの美少女・和音の影がすべてを支配する不思議な和音島。なにもかもがミステリアスな孤島で起きた惨劇の真相とは? メルカトル鮎の一言がすべてを解決する。新本格長編ミステリーの世界に驚愕の名作誕生!~

これはミステリーなのか? それともファンタジーなのか?
ここまで大量のストーリーを読まされた後に残ったのは、多くの「?」というのが正直な感想。
確か、本作出版時にノベルズ版を読もうとして、途中で挫折したような記憶のある本作。ミステリー読者として多少なりとも習熟した今なら多少なりとも理解できるのではと考えたのが・・・甘かった。
孤島で起きる連続殺人事件、雪密室、首なし死体、事件のバックボーンとなる「キュビズム」などなど、いわゆる「新本格」らしいギミックは満載であり、最後には一応ケリがつくのかなぁと思っていたのだが・・・甘かった。

紹介文にはメルカトル鮎がすべての謎を解き明かすように書かれてあるが、メルカトルが登場するのは何と700頁を超えて本編が終了したほんのワンシーンだけ。
しかもメルカトルが残したたった一つの台詞がまた読者にとっては「?」なのだ。
あとは、「春と秋の奏鳴曲」についての謎・・・
なぜ烏有と桐璃の姿や出会いをなぞるような内容となっているのか??
・・・正直分からん!

これはやっぱり普通の読み方をしてはいけないのだろうなぁ・・・
一応ネタバレサイトを見て少しは謎が解けたのだが、それでもスッキリしないことこの上ない。
まぁ、本作について書き出したら止まらなくなりそうなので、この辺でやめとこう。評点は難しいが、本作を評価すること自体あまり意味がないように感じる。
(当時、本作を出版した講談社編集部に敬意を表したい)

No.753 6点 嫁洗い池- 芦原すなお 2012/09/14 23:56
前作「ミミズクとオリーブ」に続くシリーズ第2弾。
今回はすべて主人公の悪友である河田刑事(警部?)が持ち込む事件を奥さんが見事に解き明かすというスタイル。

①「娘たち」=父ひとり・娘ひとりという関係なら、当然父親は娘のことを「しつこい」くらいに心配する・・・っていうのが普通だよな。そして、主人公の成人式にまつわる過去の事件(?)も無事解決される。
②「まだらの猫」=これは当然「まだらの紐」のもじり、というわけで本作は何と「密室殺人事件」。こんな謎を一介の主婦が話を聞いただけで解き明かすというのもスゴイが、密室トリック自体はちょっとショボイ。
③「九寸五分」=これはいわゆる「匕首」を意味する隠語らしい。ヤクザの親分が殺され、犯人はすぐに逮捕されるのだが、それに疑問を持ったのが名探偵の奥さん。現場のちょっとした状況に「違和感」を持つというプロットが短編らしくてよい。
④「ホームカミング」=最愛の奥さんが大学の同窓会で家を離れることに・・・。そして、今回は河田からの電話を聞くだけで事件を解決してしまう・・・(まるで御手洗潔のようだ)。
⑤「シンデレラの花」=火葬場で起こった人間消失というのが今回の事件。主人公がなぜか見たシンデレラもどきの夢が事件解決につながるのだが、「シンデレラ」ってそういう意味だったんだよね。(日本人は大いに誤解してるよな・・・)
⑥「嫁洗い池」=「興奮すると自分が何をするか分からなくなる」と思い込んでる人が起こした(とされる)殺人事件。事件の関係者には精神科医などいかにも怪しげな人物が・・・。ところで「嫁洗い池」の謎はどうなったんだ?

以上6編。
とにかく、出てくる料理のうまそうなこと。
(今回は特に「関東煮」と「サンマの塩焼き」がたまらない・・・)
主人公と奥さん、そしていつもいがみ合ってるが実は仲のいい悪友・河田・・・3人が織り成す光景も実に味わい深い。
さすがに「直木賞」作家と評価すべき作品だと思う。
えっ!ミステリーとしてはどうなんだって?
まぁ、いいじゃないですか・・・そんなことを評価すべき作品じゃないってことですよ。
(②③が良い。あとは⑤)

No.752 5点 リチャード三世「殺人」事件- エリザベス・ピーターズ 2012/09/14 23:52
図書館司書ジャクリーン・カービーを探偵役とするシリーズの1つ。
英国史上の伝説的人物である「リチャード三世」をめぐる歴史論争が事件の背景となる。

~幼王を殺害し、王位を簒奪した英国史の極悪人リチャード三世。だが、彼の無実を証明する新たな史料が発見された! そのお披露目会が開かれる屋敷には、愛好家がリチャード三世にまつわる歴史上の人物に扮して大集合。ところが、参加者に次々と災難が降りかかる。しかも各人が扮した人物の実際の死にざまを想起させるような形で・・・。何者かがリチャード三世の殺人を再現しようとしているのか?~

趣向としては面白いが、ミステリーという観点からするとやや疑問。
というのが正直な評価だろうか。
本作が、ジョセフィン・テイの名作「時の娘」のオマージュとして書かれているのは有名(?)のようだが、シェークスピアの描いた“極悪人”としてのリチャード三世を復権させることをテーマとして書かれた、完全な「歴史ミステリー」である「時の娘」と比べて、本作の位置付けはかなり曖昧。
「歴史ミステリーと見せかけたライトなミステリー」とでも言うのが本作の特徴か。

紹介文を読むと、いかにも本格ミステリーっぽいギミックを備えているように見えるのだが、プロットの根幹は実にシンプル。
終盤で探偵役のジャクリーンが、A・クリスティの某有名作を引き合いに出すのだが、それを地でいくようなプロットなのだ。
でもなぁー、これだけのことにリチャード三世にまつわる様々な薀蓄や歴史的背景をわざわざ持ち出さなくてもいいんじゃない、っていう気にはさせられた。

まぁ読みやすい作品なのは間違いないし、決して面白くないわけではないので、こういう手の作品が好きな方なら一読の価値はある。
(結局、リチャード三世は「極悪人」ではなく、むしろ「賢王」ということでよいのだろうか?)

No.751 5点 真夜中のマーチ- 奥田英朗 2012/09/14 23:49
2003年発表のノンシリーズ長編作品。
それぞれに悩みを抱える3人の若者を主人公としたクライム・ノベル。

~自称青年実業家のヨコケンこと横山健司は、仕込んだパーティーで三田総一郎と出会う。財閥の御曹司かと思いきや、単なる商社のダメ社員だったミタゾウとヨコケンは、わけありの現金強奪をもくろむが謎の美女・クロチェに邪魔されてしまう。それぞれの思惑を抱えて手を組んだ3人は、美術詐欺のアガリ10億円をターゲットに完全犯罪を目指すことに。直木賞作家が放つ痛快クライムノベル!~

作者の力量から考えれば、ちょっと安直な作品という感じ。
まぁ、プロットとしては「よくある手」という奴で、紹介文のとおり、社会からドロップアウトしかかっている若者たちの群像を描きながら、大人たちの巨悪に立ち向かっていくという構図。
読み手(男性)としては、当然「美人でタカビーな」クロチェが気になるのだが、2人の「仲間」を得て、徐々に閉じた心を開いていく彼女の姿にちょっとホロッとさせられる。

ただ、肝心の「クライム」の方はちょっといただけない。
ヤクザや謎の中国人など、「いかにも」という登場人物が「いかにも」という動きをしてしまう。
要はすべてが予想の範疇で、サプライズ感が全くないのだ。
ラスト(ミタゾウの「その後」)も何となく物足りない。

他の作品で見事なストーリーテラー振りを発揮している作者にしては「やっつけ感」の残る作品というのが正当な評価だろう。
(ミタゾウの父親の豹変ぶりっていうのは、よく分かるねぇ・・・)

No.750 8点 ジャッカルの日- フレデリック・フォーサイス 2012/09/08 22:34
750冊目の書評は、国際謀略小説の金字塔とも言える本作で。
実在の仏元大統領、シャルル・ドゴールを暗殺せんとする「殺し屋」ジャッカルと仏警察との息詰まる攻防が印象的。

~フランスの秘密軍事組織OSAは、6回にわたってドゴール暗殺を企てた。だが、失敗に次ぐ失敗で窮地に追い込まれ、最後の切り札として凄腕のイギリス人「殺し屋」を起用した。暗号名ジャッカル・・・ブロンド、長身、射撃の腕は超一流。ジャッカルとは誰か? 暗殺決行の日は? 潜入地点はどこか? 正体不明の暗殺者を狙うルベル警視の捜査が始まる・・・。全世界を沸かせた傑作ドキュメント・スリラー~

分量を感じさせない面白さがある。
文庫版で500頁を超える大作なのだが、さすがに「読ませる」力は並じゃない。
三部構成で、ジャッカルが殺しを請け負い、その準備に奔走する第一部はやや冗長なのだが、第二部に入り仏警察きっての切れ者・ルベル警視が捜査を開始する辺りから急展開、頁をめくる手が止まらなくなる。
勤勉実直を絵に描いたように、一刑事らしいやり方でジャッカルに迫るルベル警視。変装や意表を突く凶器の隠し方など、殺し屋としての才能を存分に発揮し捜査の手をかいくぐるジャッカル・・・
まさに息詰まる攻防戦が二人の視点を通して順に語られていく。

パリに攻防の舞台が移るのが第三部。
ルベル警視の捜査はジャッカルの狡知をもってしても、徐々に追い詰め、万事休すかと思わせるなか・・・
ついに「その日」がやってくる。
ラストシーンは実に「映画的」とでも言うべきか。
こんな劇的なラストが待ち受けるなんて・・・

やはり評判に違わぬ力作というのが正統な評価でしょう。
これからの秋の夜長にはもってこいの一冊ではないかと・・・

No.749 5点 「死霊」殺人事件- 今邑彩 2012/09/08 22:32
警視庁捜査第一課・貴島柊志シリーズの3作目。
今回は相棒としてトリッキーな女性刑事が登場。これって何か意味あったんだろうか?

~家に送り届けた後、「金を取ってくる」と言ったまま戻らない男性客。しびれを切らしたタクシー運転手が家の中で目撃したのは、2人の男の死体だった。さらに2階からは泥まみれの女の死体までも発見されて・・・。密室状態で起きた不可解な殺人に貴島刑事が挑む本格推理+怪奇の傑作、貴島シリーズ第三弾~

ちょっと「策に溺れすぎ」とでも言いたくなる。
作者が「不可解な状況」をどうしても演出したいのは分かるが、ここまで偶然の連続というか、後出しの要素が多くなるとちょっとげんなりしてしまう。
もともと事件関係者の数はかなり限定されており、要は役割(犯人または被害者)をどのように割り振っていくかということなのだが、アリバイはともかく、現場の不可解さというのが、想定外の人物の作為のためというのは、どうにも首肯し難いのだ。(ネタバレ?)

それ以外は作者らしく丁寧で好感の持てるプロットではある。
事件の大筋が解決した後で、もう一つ裏の事件の謎までも解決する、という作者得意の展開も良い。

ただ、せっかく主人公である「貴島刑事」をニヒルで陰のある、謎めいた存在として温めてきたのに、本作ではそのキャラクターをまったく深掘りできないまま、女性刑事に振り回されるちょっとお茶目な刑事、という中途半端な存在にしてしまっている。
これも残念なポイント。

ということで、それ程高い評価はできないかな。
(TVの2時間もののドラマとかに嵌りそうな作品・・・)

No.748 6点 要介護探偵の事件簿- 中山七里 2012/09/08 22:30
デビュー作「さよならドビュッシー」に登場する玄太郎じいちゃんを探偵役とする連作短編集。
「安楽椅子型探偵」ならぬ、「車椅子型探偵」としてハチャメチャな探偵振り・・・

①「要介護探偵の冒険」=相手は最初から何と「密室殺人事件」。販売前の建売住宅という舞台設定らしいトリックではあるが、真犯人もサプライズ感あり。
②「要介護探偵の生還」=話は前後するが、本作が①の前で「玄太郎最初の事件」とでもいうべきもの。リハビリ施設で繰り広げられる美談が実は・・・という展開。脳梗塞を患いながら奇跡の復活を遂げた玄太郎じいさんの不屈の精神に拍手!
③「要介護探偵の快走」=これはもちろん「回想」のもじりだろう。高齢者を次々に襲う暴力犯に対峙する玄太郎だが、実は正体は意外な人物・・・っていうのは分かりやすい展開かな。
④「要介護探偵と四つの署名」=今回は何と銀行強盗に巻き込まれ、人質になってしまう玄太郎。でも、そこは「人生の経験値」が違う、というわけで、逆に犯人たちを最後には懐柔してしまう。たった1つの事象から意外な黒幕の存在をほのめかすプロットは良い。
⑤「要介護探偵最後の挨拶」=これが本当に「最後の事件」になってしまう・・・(「さよならドビュッシー」を読まれた方なら分かるが)。そして、「さよなら・・・」で探偵役を務める天才ピアニスト・岬洋介が玄太郎とタッグを組み、難事件を解決する。このトリックは今まであまりお目にかかったことない斬新なもの(飲むんじゃないからね・・・)。

以上5編。
出来の良い作品集。
何より「玄太郎じいさん」のキャラクターが秀逸。本作だけでは実にもったいない。
自身の経験値を背景に、些細な事象から事件を紐解くという見せ方もなかなかで、作者の「うまさ」を感じさせる。
トリックは既視感のあるものもあるが、⑤などは使い古された毒物をうまい具合に処理している。
読んで損のない作品という評価でいいんじゃない。

No.747 3点 セカンド・ラブ- 乾くるみ 2012/09/01 19:18
大ヒット作「イニシエーション・ラブ」の続編的位置付けの作品(直接の関係はありませんが)。
今回はどのように騙してくれるか、期待を込めて読み始めた訳ですが・・・

~1983年元旦、僕は会社の先輩から誘われたスキー旅行で、春香と出会った。やがて付き合い始めた僕たちはとても幸せだった。春香とそっくりな女性、美奈子が現れるまでは・・・。清楚な春香と大胆な美奈子。対照的な2人の間で揺れる心。「イニシエーション・ラブ」に続く二度読み必至の恋愛ミステリー~

ひとことで言えば『期待はずれ』。
叙述トリックがどうだとか、作者の「仕掛け」がどうだった、と評する前に・・・
一冊の「小説」として全く面白くなかった、というのが正直な感想。

トリックについては、確かに「凝ってる」といえば凝ってる。
あの序章があっての終章だから、最初は「エッ!なぜ?」という感覚になるが、ラスト2行の意味が分かると「あーそういうこと」とのことで納得がいく。(伏線もきっちり張られてたしね)
名前のアナグラムや中森明菜・宇多田ヒカルの曲名をもじった各章のタイトルもまぁお遊びとしては面白いだろう。
でも、ほぼそれだけのことではないか?
恋愛に不器用な男を巡るストーリーという点では「イニシーエーション・ラブ」と同様だが、主人公の言動があまりにイタすぎて、前作ほどラブストーリーとしても楽しめなかった。

とにかく「誉める点」が見当たらない、というのが本作に対する評価。
(続編はせめて前作くらいの「仕掛け」が欲しいところ。)

No.746 6点 鬼蟻村マジック- 二階堂黎人 2012/09/01 19:16
名探偵(?)・水乃サトルシリーズ。
因みに「・・・マジック」は社会人・サトルが活躍するシリーズで、大学生のサトルが活躍するのは「・・・の不思議」。

~会社の先輩・臼田竹美に、実家で婚約者のふりをして欲しいと頼まれた水乃サトルは、長野県の北端にある寒村・鬼蟻村を訪れ、連続殺人事件に巻き込まれる。村に残る鬼伝説と昭和13年に起きた不可思議な密室からの犯人消失事件の謎を含め、すべての真相を明らかにすべく、サトルの頭脳はフル回転を始める!~

本格ミステリー好きならいかにも「そそられる」展開、道具立て。
プロットのベースは横溝「犬神家の一族」そのもので、信州の旧家に巻き起こった相続争い、いがみ合う腹違いの3人姉妹、突然登場する新たな相続人、などなどかなり露骨になぞっている。
そして、メインとなる謎が密室からの「人間消失事件」。
これは、昔の事件にも現在の事件にも共通した謎として登場し、まずまず魅力的な謎としては機能している。

ただ、これは本格好きにとっては「かなりやさしい」レベルの問題ではないか?
(ネタばれかもしれないが)・・・ある登場人物がかなり特徴的に書かれ、それがモロにトリックに直結しているのがいただけない。
個人的にも、前半だけでトリックの骨格はおおよそ分かってしまった。

もう一つ。これだけの道具立てを揃えたのだから、もう少しストーリー的な深みというか、スゴ味があってもいいのになぁ・・・
初期の蘭子シリーズには、好き嫌いは別にして作品中に何とも言えない「世界観」があったのに、最近の作品は小説として薄っぺらいように思えてならないのだ。(これもないものねだりのファン心理かな)

本作も別に駄作ではないのだが、そういう意味での「物足りなさ」は残った。
(今回はサトルのおふざけも控えめで、マトモな名探偵として振る舞っている。)

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