皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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E-BANKERさん |
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平均点: 6.00点 | 書評数: 1842件 |
No.1842 | 8点 | ヴァンプドッグは叫ばない- 市川憂人 | 2025/05/17 13:03 |
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大好評の「マリア&漣シリーズ」も重ねて五作目。作品集を挟んだ第五弾は、シリーズ正調の本格ミステリ。
ヴァンプドックと呼ばれる吸血鬼をめぐる大事件に挑むのは、マリア&漣。そして、お馴染みとなったメンバーたち。 単行本は2023年の発表。 ~U国MD州で現金輸送車襲撃事件が発生。襲撃犯一味のワゴン車が乗り捨てられていたのは、遠く離れたA州だった。応援要請を受け、マリアと漣は州都フェニックス市へ向かう。警察と軍の検問や空からの監視が行われる市内。だがその真の理由は、研究所から脱走した、二十年以上前に連続殺人を犯した男『ヴァンプドッグ』を捕らえるためだった。しかし、『ヴァンプドッグ』の過去の手口と同様の殺人が次々と起きてしまう。一方、フェニックス市内の隠れ家に潜伏していた襲撃犯五人は、厳重な警戒態勢のため身動きが取れずにいたが、仲間の一人が邸内で殺されて…!? 厳戒態勢が敷かれた都市と、密室状態の隠れ家で起こる連続殺人の謎。マリアと漣が挑む史上最大の難事件!~ これは・・・今まで以上にスゴイ作品に仕上がってる。スケールの大きさでいえば、シリーズNO.1だろう。 紹介文のとおり、同じフェニックス市内で発生するふたつの連続殺人事件。1つは市内を舞台とした広域で、もうひとつは一軒家というCCという狭い空間で発生する。いずれにも見え隠れするのが「吸血鬼」=ヴァンプドックという存在。 連続殺人はごく短い時間帯で次々と起こっていて、それこそ人知を超えた存在でないと、物理的に無理だろ!というレベル。そこまで大きく広げてしまった風呂敷を、どのように作者は回収するのか? そこに興味の焦点が当てられることになる。 で、今回の解決編がかなりのボリューム。真犯人指摘の時点で、まだかなりのページを余していたので、どんでん返しが繰り返されるのかと予想したけど、その中身の大半は、この現実性を超越した物語を、いかにして現実的なレベルの解法に着地させるのかに費やされている。 正直、ここは相当に我慢のいる読書になった。(ネタバレかもしれんが)本作の裏のキーワードとなる「狂犬病」について、本作中のフィクションでの変異株の話など、これは相当に作りこまないと、読者の納得感は得られないだろう。 では私自身納得したのか?と問われると・・・ そこは微妙・・・ではある。 「あとがき」は真犯人の動機面を補強するためにはマストだったのだろうが、確かにこれがなかったら、少なくとも襲撃犯事件の筋は納得できなかったに違いない。 で、最後の最後で語られる、もうひとつの裏のストーリー。恐らくこんなことじゃないかと想像していたけれど、次作以降どのように関わってくるか? 興味は尽きない。 いずれにしてもスゴイ作家だったんだなあと再認識させられた本作。五作目でパワーアップというのがスゴイこと。 |
No.1841 | 7点 | あと十五秒で死ぬ- 榊林銘 | 2025/05/17 13:01 |
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またまた旧帝大出身の高学歴ミステリ作家が贈る実に企みに満ちた作品集。
タイトルにもあるとおり、「十五秒」というのが全ての作品でキーワードとなっている。 単行本は2021年の発表。 ①「十五秒」=第12回ミステリーズ新人賞の佳作受賞作(佳作・・・中途半端だな)。猟銃で撃たれ、あと十五秒で死ぬ!という、かなり特異な設定。そんな限界ギリギリの場面にもかかわらず、ふたりの女性(加害者と被害者のこと)が知恵比べを行う・・・って、よくまあこんな設定考えたよな・・・ ②「この後衝撃の結末が」=なかなか面白かった。地上波の番組のテロップなんかでよく見るタイトルなのだが、舞台となっているミステリドラマの形をとりながら、まるで「作中作」のようなプロット。更には「タイムトラベル」というSF要素も加えている。読者を煙に巻きつつ、ラストもよく決まっている。①よりもレベルが高い。 ③「不眠症」=全体的によく分からん。現実と夢の中を行ったり来たりしたうえで、それが途中からどうも二人の人物と気付く。で、いったい何が真実だったのか? まあそんなの関係ねえようなお話ではあるが・・・。好きな方には刺さりそうな作品ではある。 ④「首が取れても死なない僕らの首無殺人事件」=これは・・・もう「あっぱれ!」である。久々にメガトン級の衝撃を受けてしまった。加えて、ミステリの読書史上、最大級のバカバカしさである。これは細かな解説など不要。とにかく「読むべし! いやいや読まないほうがよいか?」人によっては、本作をブン投げる方もいそうだ。 以上4編。 とにかく、こんなの久しぶり。すげぇわ、この作家。 特に④である。これを映像化できたらスゲェだろうな・・・滅茶苦茶シュールな絵になるのは間違いないだろうけど。 いやいや、かなり興奮しております。いやいや、いやいや・・・ あと、これを発表させた出版社にも敬意を表します。 (特殊設定にも程があるだろ!) |
No.1840 | 5点 | 悪魔のひじの家- ジョン・ディクスン・カー | 2025/05/17 12:59 |
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「雷鳴の中でも」(1960年)以来、久々に発表された、フェル博士の探偵譚。
まさにミステリの大家であるJ.Dカーにとって、最後の煌めきという頃の作品(かもしれない)。 1965年の発表。原題は“The house of Satan's elbow”(そのまんまだな)。今回は新樹社版で読了。 ~偏屈者の前当主の死後落ち着きを見せていた緑樹館に、新たな遺言状という火種が投げ込まれた。相続人は孫のニコラスとされ、現当主ペニントンの立場は大きく揺らぐ。事態の収拾にニコラスが来訪した折も折、ペニントンは一夜にして二度の銃撃を受けて重態に陥る。犯人は密室状況からいかにして脱出したのか。三度の食事より奇怪な事件を好むフェル博士の眼光が射貫く真相とは?~ 単行本の巻末解説者・森英俊によれば、本作はカーの代表作を彷彿させる雰囲気がふんだんに盛り込まれている、とのこと。「曲がった蝶番」然り、「火刑法廷」然り、「三つの棺」然り・・・。確かに、それはそのとおりなんだけど、「随分と劣化したなあー」という間隔は拭えない。 本作のメインテーマとなるのも、やはりカーといえば「密室」というイメージどおりに「密室」なのだが、この密室の解法も「うーん」である。はっきりいうと、これはトリックというレベルのものではない。 〇〇者が(密室のために)こうした、という経緯は一応納得したとしても、あの密室の大家たるカーがこんな密室トリック?を平気で出してくるなんて!って思うんじゃないかな。 そして、もうひとつのカギとなる「幽霊騒動」にしたって、雰囲気づくりにはなっていても、それ以上でもそれ以下でもないという感じだ。 あの人物が空砲で焦げたコートに再度着替えるという理由も必然性がないと思った。 などなどひたすら辛口の評価を書いてしまってますが、本作はミステリ要素以外の方が読み所かもしれん。 老いて盛んなフェル博士や、えらくなったエリオット。いかにもカーらしい、古臭い恋愛要素などなど、カーの不器用さを楽しめる(?)。 まあ代表作と比べること自体が間違ってると言えそう。これはこれで、まずまずまとまってるし、何となくだけど、ミステリとしての骨格が、「横溝正史を欧米風すると」こんな感じになりそうだなと。 (クレイトン・ロースンは本作を贈られて、どんな反応だったのか。気になるところ) |
No.1839 | 7点 | 煽動者- ジェフリー・ディーヴァー | 2025/05/03 16:48 |
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ついこの前、石持浅海の同名タイトル作を読んだので、その連想から本作を手に取ってしまった。
キネティックの天才「キャサリン・ダンス」シリーズの四作目。 2015年の発表。今回も単行本で500ページの長尺。 ~”人間嘘発見器”キャサリン・ダンス捜査官が「無実」と太鼓判を押した男が、実は麻薬組織の殺し屋だとする情報が入った。殺し屋を取り逃がしたということで、ダンスは麻薬組織合同捜査班から外され、民間のトラブルを担当する民事部へ異動させられる。その彼女に割り当てられたのは、満員のライブ会場で観客がパニックを起こして将棋倒しとなり、多数の死傷者が出た事件だった。だが、現場には不可解なことが多すぎた。この惨事は仕組まれたものではないか?独自の捜査を開始したダンスだったが、犯人はまたもや死の煽動工作を実行した・・・~ 本作は、複数の事件が交錯しながら展開していく。 その分、読みごたえは大きくなるが、やや分かりにくくはなってしまう。そんな感覚だった。 タイトルのとおり、メインは「煽動者」の事件。作中では本シリーズらしく「未詳」と犯人を呼びならわす。この「未詳」は作者の数多の魅力的な「敵キャラ」と同様、なかなかの個性を発揮してくる。 そして、「未詳」が狙いをつけたのが、よもやの「キャサリン・ダンス」その人。ダンスそのものをターゲットとして、自宅前にまでやってくるほどの執拗さを示す。 このあたりは、映像化すれば最もサスペンスフルなシーンだろうな。 それでもダンスらの奮闘により、「未詳」の捕獲に成功するわけなのだが、「いや、待て! まだページ数が余っているではないか??」という疑問を抱いているところにやってくるのが、次の衝撃波。 なるほど。だから最初から複数の筋立てにしてたのね・・・ まさか冒頭から読者に罠を仕掛けていたとは・・・さすがのディーヴァーである。 今回は、今まで以上に「裏の裏」を使っていたのではないか。敵を欺く前に味方から、というわけではないのだろうけど、読者に見せていた角度が急に変わり、違う角度から見せる手際の良さはさすがというしかない。 今回、いつにもましてダンスの「家族」の問題にも焦点が当てられる。小さい子を持つ母親としての悩み、不安、喜びetc。そして、ふたりの男の間で迷うダンスの姿も・・・ とにかくサイドストーリーもふんだんに詰め込まれた本作。読みごたえは十分と言える。 ただし、もちろん辛口評価をすべきところもある。ひとつは先ほども書いた「分かりにくさ」。脇筋が多い分、登場人物も増え、頭がついていけなくなるところもあった。後は、犯人側のサプライズ感が今一つだったこと。「まさかアイツが・・・」という感覚がどうしても欲しいのだ、ファンは。 それでも高いレベルにはあったと思うし、次作にももちろん期待! |
No.1838 | 6点 | 世界の望む静謐- 倉知淳 | 2025/05/03 16:47 |
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死神そのものの風貌を持つ「乙姫警部」と、信じられないほどのイケメン「鈴木刑事」。
殺人事件が起きた場所に必ず出没する(?)迷コンビが贈る、倒叙シリーズの第二弾。 単行本の発表は2022年。 ①「愚者の選択」=大人気漫画「探偵少女アガサ」シリーズを手掛ける漫画の大家を勢いで殺害してしまった担当編集者。これはもう、その時点で切腹ものだよな、普通。ただ、本人は悪あがきをしてしまうことに・・・で、当然乙姫警部に目を付けられる。 ②「一等星かく輝けり」=往年の大スターが今回の犯人役。もう一花咲かせようと、プロモーターに売り出しの依頼をしたのだが、コイツが悪かった・・・。その結果、殺害に至ってしまう。今回の肝は、犯人の顔が世間一般に知られていること。これが(犯人にとって)悪い結果をもたらすことに。有名人もツラいね。 ③正義のための闘争=今度の犯人役も著名人。意識高い系の女性(←嫌いだ)どもに人気の芸能・文化人というやつ。だが、遊び人である夫の浮気を許すことができず(→プライドが高いからね)、浮気相手を殺害することに。今回は乙姫警部が執拗な罠を仕掛けていく。 ④「世界の望む静謐」=なんだか意味深なタイトルの最終編。舞台は美術専門の予備校。被害者は事務員で、加害者は講師。しかもイケメンの。いつも最初から犯人の目星をつけて行動する乙姫警部なのだが、今回はその理由がちょっと弱いような気がするが・・・ 以上4編。 シリーズ二作目となり、ますます安定感が増したように思う。レベルは高位安定。 とにかく、「乙姫警部」である。(作者としても「猫丸先輩」以来、手応えのあるキャラを得たのではないか?) 毎度毎度、話を聞かれる事件関係者から、さまざまな言葉でその「死神っぷり」を表現させられるところなど、作者の遊び心が伺えて良い。 それともうひとつ大事なポイントが、犯人役のキャラ立ちの良さ。前作に比べてもここがパワーアップしたと思う。 ただ、倒叙ものは「ワンパターン化のしやすさ」が宿命となる。これは二作目でかなり強くなってしまっている。次作があるなら、そろそろ変化球パターンを持ってこないと、さすがに・・・という要らぬ心配をしてしまう。 倒叙ものの人気シリーズも多いだけに差別化は難しいのだろうけど、ぜひ今後も続けてほしいシリーズとなった。 (それにしても、ますます古畑っぽくなってきたような気が・・・。地上波への布石?) |
No.1837 | 6点 | 時限感染- 岩木一麻 | 2025/05/03 16:46 |
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「がん消滅の罠~完全寛解の謎」でこのミス大賞を受賞した作者。
今度は「バイオ・テロ」がテーマとなるスケールの大きなミステリを上梓することに・・・ 単行本は2019年の発表。 ~ヘルペスウイルスの研究をしていた大学教授の首なし死体が発見された。 現場には引きずり出された内臓のほかに、寒天状の謎の物質と、バイオテロを予告する犯行声明が残されていた。 猟奇殺人にいきり立つ捜査陣であったが、彼らを嘲笑うように犯人からの声明文はテレビ局にも届けられる。 事件に挑むのは、警視庁捜査一課のキレ者変人刑事・鎌木。 首都圏全域が生物兵器の脅威に晒される中、早期解決を図るべく、鎌木は下谷署の女性刑事・桐生とともに犯人の手がかりを追いかける。しかしテロは水面下で静かに進行していて――。標的は三千万人! 果たして、史上最悪のバイオテロを止められるか?~ なかなかの力作、だと感じた。ミステリ作家である前に「医師」でもある作者。(最近はこういうスゴイ属性の作家が増えたなあー) その特性を十二分に活かした作品に仕上がっている。 日本中を恐怖に陥れる犯人に立ち向かう刑事もまた、刑事としては異色、日本最高学府出身、生物学を専攻したという変わり種。そしてコンビを組むのは、空手の達人にして、難病に罹患している若き女性刑事。 なかなかに魅力的だ。 事件の始まりもかなり衝撃。大学の研究所内で、首なし死体が発見されるところから始まる。 そして、中盤からは一転。共犯者が視点人物として登場し、これはもう本格ミステリではなくなった?という気になる。 ただ、そこが作者の仕掛けた欺瞞。 終盤以降は、この「欺瞞」をふたりのコンビが解き明かすこととなる。 で、こんなバイオ・テロを扱っている事件にしては、かなり「普通」の動機が明らかとなる。 ここが問題。 確かにリアリティというか、現実的な解決を重視するならこれもアリだが、うーん。あまりにも矮小化されすぎなのでは? 最後の手記の人物なんて、終盤まで登場すらしなかった人物なのだから・・・ ここがどうしても気になるところだ。 で、本作を読んでると、どうしても頭に浮かぶのが「コロナ禍」のことだ。 本作で犯人が仕掛けた「バイオ・テロ」は、そのままコロナ出現の裏の構図に当てはまらないのか? もちろんさまざまな事情は異なるし、単なるフィクションと現実は比べるべくもないが、素人の私にはどうしても気になってしまった。 知ってる人は知っている、のかもしれないけどね・・・(「知らぬが仏」とも言いますが) |
No.1836 | 6点 | 魔偶の如き齎すもの- 三津田信三 | 2025/04/19 14:06 |
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大好評?の刀城言耶シリーズの短編集第三弾。
今回もホラーと本格のハイブリッドが読みどころとなるのだろうか。 単行本は2019年の発表。 ①「妖服の如き切るもの」=一風変わった「交換殺人」という趣のふたつの殺人事件。問題は、いわば「凶器のアリバイ」(同じ凶器が同じ時刻に違う場所で使われた?)。時代設定からして、電話線を使ったトリックが有力視されるが、真相はかなり腰砕け。怪奇風味も薄味です。 ②「巫死の如き甦るもの」=これはかなり変わったお話。途中まで真のテーマはなんなのか、よく分からなかった。見た目は「人間消失」がテーマだと思わせておいて、最後にアレを持ってくるなんて、さすがにホラー作家だこと・・・。 ③「獣家の如き吸うもの」=これは佳作。三人の男が、年代を越え、それぞれ別々に訪れた一軒の屋敷。見るからに「禍々しい」屋敷で、無人のはずの家の中からは異音が聞こえてくる・・・。で、最後には言耶によって現実的な解法が成されるわけなのだけれど、やっぱりそこはホラー風味をまぶしてある。 ④「魔偶の如き齎すもの」=コレのみ書き下ろし作品。最終章までは、まあ普通の短編と思われていたのだが、言耶の「行ったり来たり」の推理を重ねるうちに、思いもよらぬ真相が浮かび上がる! で、コレって連作短編だったのね?と思わせておいて、更なる三番底が明かされる。いやいや、これはまいった。 以上4編。 毎度毎度、高いレベルを維持し続ける刀城言耶シリーズ。 短編になってもやはりホラー風味の効いた本格ミステリである。まあ長編と比べると、どうしても作品の深みは落ちるけれど、そこはいろいろな仕掛けが用意されているのだから。 やっぱ達者だわ! (個人的ベストは・・・やっぱり④) |
No.1835 | 3点 | 三つの道- ロス・マクドナルド | 2025/04/19 14:05 |
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ロス・マクの長編四作目がコレ。別名義での発表作品。
はっきり言って、かなり読みにくかった。もしかして訳のせいかな? 1948年の発表。 ~沖縄沖で神風機に乗艦を轟沈され、移送されて我が家に帰ってみると、妻は裸身で銃殺されていた。重なる衝撃によって完全に記憶を喪失し、生ける屍となったテイラー大尉の精神の闇に、やがて微かな光明を与えてくれた、ハリウッドの女流シナリオライターの愛情。それは果たして真の愛情か。それとも大尉を騙すための共犯者の詐術か。妻の殺人犯人を発見して、自己を取り返そうとする必死の奮闘の前に次から次へと湧き上がる疑問・・・~ いつものリュウ・アーチャーもの、と思って読むと痛い目にあうよ!と書いておきます。 正直なところ、途中で何度も読むのをやめようかと思わせるほど。とにかく、あまりに内省的で主人公の心の中でああでもない、こうでもない、というような内容が繰り返される。 いったい本筋は何なのだろうか? もちろん、紹介文でも触れたとおり、妻の殺害に関する謎なのだけれど、途中でもうどうでも良くなった感があった。 こんな風な感想を持たれる時点で、ミステリとしては失格なんじゃないかな? 最後まで結局盛り上がれぬまま終了した感じだ。 最近のトランプ関税問題然り、やっぱりアメリカ人の考えは本質的に理解できないのかもね (あまり関係ないかもしれんが・・・) |
No.1834 | 6点 | 煽動者- 石持浅海 | 2025/04/19 14:04 |
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タイトルだけ見ると、折原の「~者」シリーズのようにも思えるが、もちろん全然関係ありません。
もともと「V」というタイトルだったものを改題して刊行したもの。 単行本は2012年の発表。 ~そのテロ組織の名は「V(ブイ)」。目的は、流血によらず現政府への不信感を国民に抱かせ、その転覆をめざすこと。メンバーは平日、一般人を装い、週末だけミッションを実行。各人はコードネームを用い、お互いに本名も素性も知らない。僕――片桐も組織の一員で、平日は30代前半の会社員、週末はコードネーム「春日」として活動している。この週末、兵器製造のため軽井沢の施設に招集されたのは僕を含め八人。見た目は60代から20代まで、やはり週末テロリストの男女が召集された。施設は表向き企業の研修所となっており、外部からの侵入は不可能。出入りの際は、八人のメンバーの掌紋認証が記録される仕組み・・・~ プロットはかなり凝っている。(緩い)反政府組織のメンバーとして集まる八人の男女。年齢もバラバラ。 組織の大きな目標?に向かってミッションを達成するために集まったわけなのだが、ある日ひとりの女性の扼殺死体が発見される。 冒頭には”これ見よがしに”建物の部屋割り図なんかが挿入されてたりして・・・そそられる 本作における謎は大きく分けて、①殺人犯は誰なのか?と、②組織の正体は?、の2つ。 ①はまあ当然といえば当然の謎なのだが、これについては生き残ったメンバーで、ああでもないこうでもないという推理が繰り広げられる。よく言えば、ロジックによる推理だけれど、かなりあやふやな前提条件なんかもあって、読者には推理不可能に思えた。 で、読者としては、読み進めていくうちに②の方が気になってくる。 その解答は・・・。うーん。逆説的ではあるけれど、そこまでビックリするようなものではなかったな。 CC設定の本格ミステリの体裁をとりながら、作者お得意の心理戦をベースとしたミステリ、という表現が適切だろうか。 まあ、まずまず面白いという評価。 そして、ラストの一行には「ニヤリ」とさせられる。 |
No.1833 | 6点 | Blue- 葉真中顕 | 2025/03/15 13:52 |
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「絶叫」(2014年)に続く、「女性刑事・奥貫綾乃」シリーズの二作目。
本作は、まさに「平成」という時代を総括するかのごとく、平成が始まった年から、終わった年までが舞台となる作品。 単行本は2019年の発表、 ~平成15年に発生した一家殺人事件。最有力容疑者である次女は、薬物の過剰摂取のため浴室で死亡。事件は迷宮入りとなった。時は流れ、平成31年4月、桜ヶ丘署の奥貫綾乃は、「多摩ニュータウン男女二人殺害事件」の捜査に加わることに。ふたつの事件にはつながりがあるのか・・・? 平成という時代を描きながら、さまざまな社会問題にも切り込んだ社会派ミステリの傑作~ もはや言うまでもなく「力作」である。いつもながら、作者の物語を紡ぐエネルギー、思いには頭が下がる。 今回も単行本で450頁を超える長尺の物語。目くるめく作品世界に翻弄されながらの読書となった。 特に本作は、他の方も書かれているとおり、「平成」という時代のさまざまな政治、文化の流行や社会の変遷、エポックメイクな事件を織り交ぜ、自分自身の過去にも思いを馳せることになった。 確かに、「平成」とはよく言ったもので、世界情勢はさておき、日本はとにかく「平和」な時代だったのは間違いない。ただし、「平和」という仮の姿のそこかしこで、さまざまな「ひずみ」が露見してきた時代でもあったんだろうなーと再認識した。 話を本筋に戻して。 前作では事件に真摯に立ち向かう、クールで切れ者キャラという印象だった刑事・奥貫綾乃。本作では殺人事件の真犯人を追いながら、自分の子供を愛せなかったという拭い難い後悔と、自身への絶望と闘うこととなる。 そして、もうひとりの主人公が「青」こと「Blue」。無戸籍児として生まれ、劣悪な家庭環境で育てられた少年。彼の半生についても、二人称という形式で語られていく。 「親子の愛」。それは普遍的で当たり前のものだと思ってきた。しかし、平成の時代のうねりのなか、その普遍的な「価値観」を持てない親がいた。悲しいのは、子供を愛せない親に育てられた子供は、親になったとき、自身もまた子供をうまく愛せない親となってしまうことなのだろう。生きていくなかで、血縁のない「家族のようなもの」を得たBlueだったのだが、まるで昔の自分のような子供に接したとき、新たな展開が・・・。 ふたりをはじめ、さまざまな関係者があるひとつの場所に集結を始めた終章、悲しく切ないラストを迎えることとなる。ただ、綾乃の心は、今回相棒となった若き女性刑事・藤崎司の言葉で、救われることとなる・・・(良かった) ただ、いつもなら重厚な物語のなかに、ミステリ作家たる矜持を示すように、ミステリらしいギミックが仕掛けられてきたのだが、本作はそれがかなり薄味だったのがちょっと残念。 悪くいうなら、「想定の範囲内」のまま進んでいったという面はあった。 ということで評価としては、前作(「絶叫」)の方が上になるなあ。 まあ、次作では前向きになった奥貫綾乃に会えることを期待したいところ。 |
No.1832 | 5点 | ネロ・ウルフの災難 外出編- レックス・スタウト | 2025/03/15 13:49 |
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「ネロ・ウルフの災難~外出編」と名付けられた作品集。別に「(同)災難~女性編」という姉妹編(?)もあります。
どちらもネロ・ウルフが“苦手なもの”というくくりで集められたという次第。まあ、それだけ作品数が多いということなんでしょうね。 本作は2021年に刊行されたもの。 ①「死への扉」=洋蘭をこよなく愛するネロ・ウルフ。洋蘭の飼育係が病欠するに至り、後任候補をスカウトするために外出。で、なんだかんだやってるうちに、温室内で女性の死体に出くわすことに・・・。現地の警官の妨害に遭いながらも一家の面々を集めて真犯人を指摘!って書くとカッコいいけれど、これってもしかして「偶然」? ②「次の証人」=ある殺人事件の裁判に証人として出廷したネロ・ウルフ。しかし、事件に疑念を抱いた彼は、裁判所から逃げ出し、事件の究明をすることに。電話交換業界というこの時代ならではの舞台設定。ただ、多数が出てくる交換手の女性の書き分けが甘いような・・・ ③「ロデオ殺人事件」=NYの真ん中でまさかのロデオ大会を開催するという剛毅な舞台設定。大勢の人間が集うなか、姿が見えなくなっていたカウボーイが死体で見つかる。そう聞くと面白そうな舞台設定なのだが、途中がとっ散らかっていて、うまくのみこめなかった部分あり。ネロ・ウルフの真犯人特定のロジックもあやふや。 以上3編+ボーナストラックあり。 相変わらずウルフとアーチーのコンビは安定している。 今回は外出しているためか、いつもよりもウルフの覇気がない気はしたが・・・ うーーん。いいんだけどね。どうもね。 いつも高評価にならないんだけど、本作もそうなってしまった。 いい意味でも、悪い意味でも安定感は十分。 (個人的には①が一番いいかな) |
No.1831 | 6点 | 罪の声- 塩田武士 | 2025/03/15 13:47 |
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今さら「グリコ・森永事件」である。一応私は幼い頃の記憶が多少残っていますが、多くの方は、もはやこんな事件があったことさえ知らないという時代なんだろうと思います。
ただ、作中に書かれているとおり、ここまでの「劇場型」犯罪はこれ以前もこれ以降もないようには思えます。 2016年の発表。 ~京都でテーラーを営む曽根俊也。自宅で見つけた古いカセットテープを再生すると、幼い頃の自分の声が。それは、日本中を震撼させた脅迫事件に使われた男児の声と、まったく同じものだった。一方、大日新聞の記者、阿久津英士も、この未解決事件を追い始め・・・。圧倒的なリアリティで衝撃の真実をとらえた傑作~ こういう手のミステリ。決して個人的に嫌いではない。 ただ、よくこの「グリコ・森永事件」を題材に取り組もうと考えたなあーという、まずはその志の大きさに敬意を表したい。 冒頭にも書いたように、自分自身がこの事件を報道等で見たときは幼い子供だったので、本当に表面的なものでしかなく、今回、本作に触れることで、より深いところまで改めて知ることができた。 そういう意味では感謝したいくらいの作品&作者。 実際、本作で書かれたことが真実にどれだけ近づいているのかは不明だけど、株価操作という側面なんかは「さもありなん」という気にはなった。 劇場型であればあるほど、本当の狙いはきっとこういう「手堅い」というか「現実的な」動機があるのだろうと思う まあこういう推理は当時から割とよくあったのかもしれないし、本作が格別真相に迫ったという訳でもないのだろうなあ。 そこはあくまでもフィクション、エンタメ作品なのだから、それで良い。 で、作者が書きたかったのは、新聞やテレビでさかんに書かれていた事件の「表の部分」ではなく、事件の裏、いや事件の「陰」にあった部分、ということに違いない。 事件の大筋に片が付いたと思われた後の「第七章」。ついに、その「陰」が明らかとなる。 ただ、ここが多くの読者が不満に思うところなのかもしれない。確かに、事件に「陰」はつきものだし、こういう見えないドラマもあるに違いない。 ただし、それが面白いかどうか、響くかどうかは別物。私もここはちょっと「今さら」というか、陳腐には感じた。 作者自身、元新聞社勤務という略歴であり、主人公のひとりである阿久津は、おそらく作者自身が投影されたキャラ。自身の願望や考え方を作中の彼に託しながら、畢竟の大作となった本作を作り上げたのだろう。 それに対しては素直に賞賛。ただ、高評価できるかといわれると、「そこまでは・・・」という感覚がある。 でも読んで良かったのは事実。 (キツネ目の男の人は当時いろいろと言われたことでしょう…) |
No.1830 | 4点 | ずっとお城で暮らしてる- シャーリイ・ジャクスン | 2025/03/02 13:43 |
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これって、「ホラー」という分類だったんだね。知らなかった・・・
どちらかというと「ファンタジー」に近い作品のように思うのだけれど、まあ変わった作品なのは間違いない。 1962年の発表。 ~わたしはメアリ・キャサリン・ブラックウッド。ほかの家族が殺されたこの屋敷で、姉のコニーと暮らしている・・・。悪意に満ちた外界に背を向け、空想が彩る閉じた世界で過ごす幸せな日々。しかし従兄のチャールズの来訪が、美しく病んだ世界に大きな変化をもたらそうとしていた。「魔女」と呼ばれた女流作家が、超自然的要素を排し、少女の視線から人間心理に潜む邪悪を描いた傑作~ うーん。本作をどのように評するのが適切なのかな? そもそもコテコテの本格ミステリ好きがコレを読んではいけなかったのかもしれない。 テーマというか、本作の底流にあるのは、“人間の持つ悪意”とのことである。 確かにチャールズなどは、悪意の固まりのような人物として描かれていると思う。ただ、この程度の「悪意」って、それこそそこかしこに溢れているのではないか? もう、昨今のSNSなんて悪意の権化、いや、「スーパー悪意くん」みたいなもの。 ホント、世の中生きにくくなったものです。ちょっとしたことで、すぐにコンプライアンス、コンプライアンス違反・・・ いやいや、愚痴はこれくらいにして・・・ なので、もちろん時代背景が違うとはいえ、どうにもノリきれないというか、価値観の相違のような感覚が消えずに終わってしまった、というのが本音。 まっ、所詮は、浅はかな読者ですから。 (自虐) |
No.1829 | 5点 | 告解- 薬丸岳 | 2025/03/02 13:42 |
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久々の薬丸岳である。社会派風味の重厚なミステリ書き、という印象の強い作者。
本作もそのような作品なのだろうか? 単行本は2020年の発表。 ~罰が償いでないならば、加害者はどう生きていけばいいのだろう? 飲酒運転中、なにかに乗り上げた衝撃を受けるも、恐怖のあまりそのまま走り去ってしまった大学生の籬(まがき)翔太。翌日、ひとりの老女の命を奪ってしまったことを知る。自分の未来、家族の幸せ、恋人の笑顔・・・。失うものの大きさに、罪から目をそらし続ける翔太にくだされたのは、懲役4年をこえる実刑だった。一方、被害者の夫である法輪二三久は、「ある思い」を胸に翔太の出所を待ち続けていた~ 正直、もっともっと重い話かと予想していた。 飲酒運転でひとりの老婆を轢き殺した男。刑期を終えて、世間から隔絶された暮らしを始めた男と、その原因の一端をつくった元恋人の女性。そして、轢き殺された老婆の夫。 この三人を軸に物語は進み、動いていく。 紹介文のとおり、本作の一番のポイントとなる謎は、夫・二三久が命を賭してまで、何を加害者の男に伝えたかったのか。ほぼ、この一点に尽きる。 話の流れからすると、恐らくこういうことではないかと考えていたものと、結果として、あまり違いはなかった。 そういう意味でも、本作のキーポイントで今ひとつノレなかったなあーという感覚になってしまった感はある。 認知症を発症して、自分の子供にさえ「どちらさまですか?」という老人が、死ぬ間際に、そこまで明瞭に自らの思いを伝えられるというところにも、どうにも違和感は感じる。(認知症のふりをしていたというような表現はないしね) ハッピーエンド風のラストも、ややチープかと・・・ 尺の問題かもしれないけれど、ここは“もうひと山”“もうひと掘り”が必要だったんじゃあないかな・・・ もちろん、よくまとまってるんだけどね。 個人的には、そのまとまり具合が、今回は高評価にはつながらなかった感じ。 |
No.1828 | 6点 | 入れ子細工の夜- 阿津川辰海 | 2025/03/02 13:41 |
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いろいろなタイプの本格ミステリを量産していく作者の短編集。
昨今目に付く日本の最高学府出身の作者は“スキのない”ミステリ書きという印象なのだが、それは本作にも当てはまるのだろうか? 単行本は2022年の発表。 ①「危険な賭け~私立探偵・若槻晴海~」=若竹七海の「葉村晶シリーズ」にインスパイアされた一編(と思われる)。ラスト前のひっくり返しで驚かされたせいか、オーラスの仕掛けではあまり驚けず。いずれにしても、最初の一編らしく軽いノリの作品。 ②「二〇二一年度入試という題の推理小説」=さすが、最高学府出身者!とでも言えばよいか。「なんだこりゃ?」「オフザケ?」という気がしないでもない。でも、面白い試み(かも)。作者のミステリ遍歴も垣間見えて興味深い。(けっこう私と似ているかも・・・) ③「入れ子細工の夜」=まさに「入れ子」構造で、マトリョーシカのごとく、真相が何重構造になっているのか見えてこない仕掛け。ただ、だからといって、最終的に判明する真相が特別面白いということでもなかったのが・・・ちょっと残念。「裏の裏」なのか「裏の裏の裏」なのか・・・ ④「六人の激昂するマスクマン」=学生プロレスも一時期流行ったよなー。棚橋とか(あっ、彼は本物だが)。で、六人のマスクを被った学生が会議を開くというシュールな設定。で、欠席していたマスクマンが殺されたというニュースが飛び込んできて、さあ・・・、という流れ。ラストに参考文献として多くのプロレス関連書籍が書かれているのが興味深い・・・。(そこかよ!) 以上4編。 まあ、まあ。まあまあ。まあまあまあ・・・ てな感想かな。別に悪くないです。というか、よくできますし、器用だと思います。設定もひと工夫あって面白いし。特段不満点もありません。 本作では作者のミステリ好き具合も知れることができて良かったし。プロレス好きが知れることができて良かったし 葉村晶シリーズは私も大好きだし、入試は・・・うん別に・・・ ということで、良き短編集でした。 (個人的には②が好きです) |
No.1827 | 5点 | 緋文字- エラリイ・クイーン | 2025/02/15 14:23 |
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久々のクイーン長編の読書となったのが本作。一般的なクイーンのイメージとはかなり風合いの異なる作品のようだ。
ライツヴィルシリーズがちょうど終わったころに書かれたというのが興味深いところだが・・・ 1953年の発表。 ~本作は、赤いインクで「A」と一字タイプされた手紙を受け取ったヒロイン、マーサの「姦通物語」として進展していくが、なかなか犯罪が起こらない。殺人事件が起きるのは、殆ど終わりに近づいてからである。また登場人物も非常に限定されている。これまで、E.クイーンの国名シリーズなどに親しんできた読者にとっては、かなり意外な印象を受けるだろう・・・~ 本作は、ホーソーンの名作「緋文字」(未読)で同名作品が下敷きになっている。 両作とも「姦通」事件を扱っていることや、本作の章題にもなっているアルファベットが(まるでABC事件のように)絡んでくるのが共通している。 それで、本題なのだが、正直なところ終章までは「なんじゃこりゃ?」というのが偽らざる感想。 物語もオーラスを迎えようとしているまさにそのとき、エラリーの頭の中に、突然の稲妻のように天啓が舞い落ちてくる。その刹那・・・ 最後には物語の構図が一変させられる。これが本作の大技。柔道で言うなら、”ブサーの前の内また一本! これを見事ととるかはやや微妙。もちろん真犯人の意図は分かるが、なにもこんなに回りくどいことをしなくても・・・どうしてもそう思ってしまう。 ただ、テーマは「姦通」である。もともと下敷き作品があるという縛りのあるプロットなわけで、これはこれで作者の苦労が偲ばれるということかも。 個人的には世評ほど面白くないわけでもない、と感じた。 あとはニッキー・ポーターだね。他の方もいろいろと書かれているので付け加えることはあまりないけれど、うん健気だね。 割と映像向きな作品かもしれない。 |
No.1826 | 5点 | 犬神館の殺人- 月原渉 | 2025/02/15 14:21 |
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「使用人探偵シズカ」シリーズの三作目。
タイトルだけみると、「犬神家の一族」のオマージュかと想像してしまうけれど、特に関連性はないと思われます。 文庫書下ろしで2019年の発表。 ~その死体は、三重の密室の最奥に立っていた。異様な形で凍り付いたまま・・・。そのとき犬神館では、奇怪な「犬の儀式」が行われていた。密室のすべての戸に、ギロチンが仕込まれ、儀式の参加者は自分の首を賭けて、「人間鍵」となる。鍵を開けるには、殺さねばならない。究極の密室論理。これは三年前に発生した事件の再現なのか? 犯人からの不敵な挑戦状なのか?~ 相変わらず、よく言えば「無駄がない」、悪く言えば「あっさりしすぎ」な作品。 冒頭からたいした説明もなく、いきなり本筋に突入していく。しかも、それがとびきりの不可能趣味満載の殺人事件・・・ かの島荘あたりなら、それこそたっぷりもったいつけて序盤だけで100ページ以上稼ぐだろうになど、いらぬことを考えたりする・・・ これは、もう本レーベルの「尺」の問題で、作者としても致し方ないということなのだろう。 で、肝心の本筋。 こんな突拍子もない特殊設定。よく考えるよねぇ・・・ いろんな特殊設定にお目にかかってきたけど、ぶっ飛び具合ではかなり上位にあると思われます。 いったい何時代の設定なんだろう? 警察の介入など、ほとんどお構いなし(警察も「尺」の壁に跳ね返されたか?)。 しかも、三年前の事件と現在進行形の事件の二重構造。ふたつは一見相似だが、実は相似では〇〇、いや〇〇 密室の方は三重構造だ。しかも、誰も犯人足りえないとしか思えない状況。 ただ、どうもしっくりこないというか、作者のいいたいことが頭の中に落ちてこないというか、例えると出来のあまり良くないプレゼンを見せられているような感じが・・・ もちろんベクトルとしては好みなのだけど、装飾がゴテゴテし過ぎて美しくないのかもしれない。 「作り物感」が強すぎて(→当たり前といえば当たり前だが)、ノレなかったというのが本音。 限られた分量でこれだけ詰め込める作者の努力と苦労には、やはり敬意は表してしまう。 読者としては、「せめてもう少しの尺を作者に与えてください!」と願うばかりです。 |
No.1825 | 6点 | 神津恭介の回想- 高木彬光 | 2025/02/15 14:20 |
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出版芸術社が編んだ”名探偵”神津恭介登場の短編集。
いやいや、もう、油ギトギトという感じ(表現が適当でないかもしれませんが)の作品が並んでいた印象。 単行本は1996年に発表されたもの。 ①「死せるものよみがえれ」=まずは初っ端の作品としては妥当なセレクションだろう。つまりは”ジャブ”的な作品。小市民が犯罪を犯すとこのようになってしまう、ということなのだが、最終的には名探偵・神津恭介が颯爽と登場して、主人公を窮地から救い出す。そして指摘される意外な犯人。まっ、意外でもないか・・・ ②「緑衣の女」=乱歩の「緑衣の鬼」を意識した作品なのだろうか。こちらは緑ずくめの恰好をした「女」が登場する。しかも「四本指」である。序盤から、それこそ、もう、これでもかというほどに、作者は「緑衣」「緑衣」とあおってくる。さぞかし、ものすごいトリックかと思いきや、うん。この時期のミステリにはありがちな着地点ではある。短編だと登場人物が少ないから、どうしても役割をそれぞれに振らなければならなくなる。そういう感が強い。 ③「白魔の歌」=戦前に活躍した名探偵なる人物のもとに届く「白魔」を名乗る者からの脅迫状。過去の名探偵は、「現代の」名探偵である神津恭介の出馬を強く要請する。そして、連続殺人事件が発生するなか、海外出張から戻った神津は、アッという間に真相解明・・・。でもこの動機は・・・ ④「四次元の目撃者」=これはなかなか面白かった。まるで四次元の世界のごとく空中に向かって開ける扉。そんな扉がある部屋で起こった密室殺人事件。魅力的な謎ではないか! ただし、密室の解法は、どこかで見たやつだな・・・(もしかしてこれが初なのか?) ⑤「火車立ちぬ」=熊本地方に伝わる言い伝え、それが「鴉」「猫」「狐」の三匹の動物が出てくる不吉な言い伝え。そして、現実に発生した殺人事件にも「鴉」、次の事件には「猫」の幻影が。神津は冷静に推理を行うが、真相はかなりご都合主義でこじつけ感が強い気がする・・・ 以上5編。 うん。まずまず面白い作品が並んでいた印象。もちろん時代がかりすぎて、「なんじゃこりゃ?」的な感想のものもありはしたけど、さすがは作者。どこか光るポイントがあるように思った。 短編から長編化したものや、改題したものなど、作品ごとの経緯はさまざま。 ただ、神津恭介の魅力は時代を超えてミステリファンの心に確実に響いている(であろう・・・) (個人的ベストは④) |
No.1824 | 6点 | スリーピング・マーダー- アガサ・クリスティー | 2025/01/26 13:39 |
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ミス・マープルシリーズの12作目であり、シリーズの掉尾を飾る作品でもある。
同じくポワロシリーズ最終作である「カーテン」と並び称されることも多いであろう。 発表は1976年だが、実際の執筆はかなり早い段階で行っていたと推察される。 ~若き妻グエンダは、ヴィクトリア朝風の旧家で新生活を始めた。だが、奇妙なことに初めて見るはずの家の中に既視感を抱く。ある日、観劇に出かけたグエンダは、芝居の終幕近くの台詞を聞いて、突如失神した。彼女は家の中で殺人が行われた記憶をふいに思い出したというのだが・・・。ミス・マープルが回想の殺人に挑む~ 紹介文にもあるとおり、本作は「回想の殺人」。つまり、かなり昔に発生した殺人事件を解き明かそうというプロット。 だからであるけど、特に序盤から中盤にかけては、実に曖昧模糊とした形で進行する。 序盤から事件に関わることとなるミス・マープルも、示唆的な言葉は発するが、具体的なことは何も語らず・・・ まあ、こういうプロットの常套手段として、そのときの関係者たちに面会を求め、過去の記憶を取り出そうとする。 そんなやり取りが相応に続いていく。 これを「冗長で退屈」ととるか、「情緒的で優美」ととるかで本作の見方は変わってくる。 で、当然ではあるけど、徐々に過去の事件の姿かたちが明確になっていくわけ、だと思っていたが、いろいろな推測は生まれながらも、どれが真実なのかはなかなか鮮明にならない、展開。 ただ、終章近くになり、ようやく容疑者が三人に絞られるところまでは進んでいく。 そして、唐突に取り戻される記憶、いきなり判明する真犯人。 うーん。この段階での第二の殺人というのは美しくなかったよなあー。あまりにもラスト前すぎて、口封じ以外あり得ない。 で、この真犯人。もう、いかにも、クリスティらしい「真犯人」だ。 意外性はあるのだが、あまりに「クリスティ的真犯人」すぎるのが、読者にとってはどう映るか? などなど、つらつら、割とネガティブな感想を書き連ねてきましたが、ここまで多くのミステリを生み出した作者ですから、ネタのストックは多いとはいえ、切れ味抜群のネタが湧いて出ることはなかったでしょう。 ただし、さすがに読者を惹きつける手練手管は見事。最後までそれほど飽きることなく読ませていただいた。 マープルも当初の「おしゃべり好きのおせっかい婆さん」という下世話な印象から、英国風でちょっとおしゃべりな貴婦人という印象になった。その分、もったいぶった言い方になってるので、ポワロとの重複感はある。 いずれにしても、まだ未読作は多いので、引き続き手に取っていきたい。 |
No.1823 | 4点 | 誰のための綾織- 飛鳥部勝則 | 2025/01/26 13:37 |
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作者の記念すべき(?)十作目の長編となるはずだった本作。
いやー、ついに読んじゃいました。ある意味、ミステリーの禁じ手に挑戦するという意欲的な作品になるはずだったのに・・・まさかの盗作疑惑が(もはや「疑惑」ではないのだろうな) 単行本の発表は2005年。 ※本作についてはもはや紹介文さえみつからず・・・ということでいきなり本筋へ いやー、クセが強い! 今さらちょっと前のはやりのフレーズを使いたくなる、そんな独特の読後感だ。 全体としては、作中作を利用しながら、ラストには爆弾級の大仕掛けが発動される。その辺りは実に作者らしいといえる。(てっきりこの仕掛けそのものが盗作に当たるのかと想像していたのだが・・・) この大仕掛けは・・・まあアリなのかもしれないけれど、最初から明らかにおかしかったからね。 あの状況で誰も「真犯人足りえない」し、それぞれのアリバイも終始曖昧なまま進行。 伏線だと指摘された部分も、「その程度で?」というほどのレベルである。 例の「館」の密室問題にしても、構造が分かった段階でほぼ察しがついてしまう状況、っていうことは捨て筋だなと・・・ という具合に最後まで何とも言えない「粗さ」、極論すれば「雑さ」が目立つ。 もしかして「ワザと」?という気がしないでもなかったけれど、前作に当たる「レオナルドの沈黙」はブッ飛んだなかにもマトモな作品だったからなー 10作目ともなれば、ど真ん中のストレートなんて投げてられないのは分かるけど、アイデア一発勝負だし、ここまで雑さが出るとちょっと評価はしにくい。当時の出版社もよく出したね・・・ まあ挑戦的な作品でしたということなのだと考えることにしよう。 でも盗作は実に残念で勿体なかったなあー。ミステリーとしてのプロット部分とはあまり関係ないしなあ。 とにかく新春から問題作をひとつ片づけた感じだ。 (「蛭女」については、とにかくコワー! 想像したくない・・・) |