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[ 本格 ]

改題『鑢 名探偵ゲスリン登場』/ゲスリン大佐
フィリップ・マクドナルド 出版月: 1956年04月 平均: 6.20点 書評数: 5件

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早川書房
1956年04月

東京創元社
1983年10月

No.5 6点 斎藤警部 2022/12/10 23:00
時の財務大臣が自宅にて殺害さる。 適量のユーモアに支えられ物語のステディな滑り出しは心地良し。 序盤から手早く違和感摘出だの推理だのを繰り出して来る、退屈排除の頼もしさ。

人間臭い恋愛要素、三つの内二つはちょっと煩いかな、とも見えたが。。 物語〆の台詞はなかなか粋だ。

さて大きく構えた真相解明演説。犯行現場偽造の機微、アリバイ潜在意識の妙味など良し。●●●解決の熱さも効いた! 心理的物理アリバイトリックは、シンプルなのは良いが、ちょいとギャフンかも。。肝腎の「鑢」を巡っての考察は、もう一押し欲しかったかね。

英国上流階級を舞台に、本格ミステリ黄金時代、フェアプレイを重んじる長篇推理黎明期の作品です。

No.4 6点 弾十六 2022/02/05 17:01
1924年出版。創元文庫(1983初版)で読了。
冒頭は新聞編集室の生き生きとした描写。でも全体的にセリフまわしや文章が下手。構成も洗練されてない。『トレント最後の事件』(1913)のような導入。新聞の編集長と有能な女の部下とのやりとり、現場で古い知り合いに会い、担当刑事が旧知の仲、というのも『トレント』そっくり。そして探偵の初めての恋心も『トレント』風。ここまで構造を似せてるんだから、その発展系かと期待したら全然ダメでむしろ感覚的には逆走。センスが古臭い(なぜヘイクラフトなど評論家たちの評価が高いのかさっぱり判らない)。
大金持ちで軽薄なゲスリン。有閑スーパーマンの探偵なんて何が面白いんだろう。(英国のファイロ・ヴァンスですね) 本格探偵小説としては隠し事が多すぎる気がする。どっちかと言うと冒険小説っぽいタッチ。文庫の帯の文句「マザー・グースの調べにのせて繰り広げられる殺人劇」はミスリードを誘う。(本文中にメロディが流れるのは間違いないので許容範囲?)
私は作者が『トレント』に感銘を受けたものの、その後の映画化(1920年、サイレント、未見)に失望し、それで、映像化しやすい脚本のつもり(ぼくの考えたさいきょうのトレント)で書きはじめたのでは?と妄想している。書いてるうちに出来上がったものは別物になっちゃった、という感じだろうか。本作の構成要素が全てフォトジェニックなのと、フィル・マクは後年映画界で脚本家として活躍してるから、映像映えに敏感だったのでは、というのが朧げな根拠。
もともと『トレント』をサイレント映画で、ってのはかなりの難題だったのでは、と思う。1952年の映像化(オーソン・ウエルズ怪演だが、付け鼻が気になった)を見たが、セリフが豊富に無いと処理が難しいのでは、と感じた。
以下トリビア。ほとんど項目だけの計上です。
p9 木曜の夜♠️事件が発見された日、この日は8月19日(p276)なので1920年が該当。だがp23と矛盾する。
p10 定価は2ペンス(The price was twopence)♠️新聞の特別号の値段。英国消費者物価指数基準1920/2022(47.62倍)で£1=7430円。
p11 サイフォン
p16 クラレンドン体(Clarendon)♠️活字の種類。
p21 詩集… 百五十ポンド
p21 おじの遺産
p29 五ポンド紙幣
p22 年収二、三百ポンドの遺産
p23 一九二一年の七月(in July of 1921)♠️ここから少なくとも1年が経過している。ということは作中年代は1922年8月以降。
p23 年収九千乃至一万ポンド(nine or ten thousand a year)♠️遺産
p25 コック・ロビン♠️名前がJohn Hoodeだから、[Cock] Robin Hood(フッド)という連想なのか。
p27 五ポンド♠️情報提供の謝礼。
p31「ホークショーと申す者です、探偵でしてね」(I am Hawkshaw, the detective!)♠️『トレント』でもHawkshawへの言及あり。舞台劇The Ticket-of-Leave Man(1863)のロンドン随一の切れ者刑事Hawkshaw(なお劇中に、このようなセリフは無い)、あるいはシャーロック・パロディの米国新聞漫画“Hawkshaw the Detective”(1913-2-23〜1922-11-1)のこと。こちらではこのセリフが定番。なので後者のイメージだろう。
p36 探偵小説への言及は黄金時代の特徴。
p49 検死(インクエスト)… あすの午後、この邸で
p52 半クラウン銀貨大♠️これは訳注で処理して欲しい。当時の半クラウン貨はジョージ五世の肖像。1920-1936のものは.500 Silver, 14.1g, 直径32m。
p55 ガボリオ… ルコック… シャーロック・ホームズ
p57 時計の打ち方♠️ミニ講座あり。
p64 六ペンス銀貨大♠️これは訳注で処理して欲しい。当時の六ペンス貨はジョージ五世の肖像。1920-1936のものは.500 Silver, 2.88g, 直径19mm。
p70 ベンジャミン(Benjamin)♠️ゲスリンが愛用のパイプにつけている名前のようだ。変な奴!
p91 全部十ポンド紙幣で… 銀行に問い合わせて紙幣番号も確認
p93『私は眠っているのだろうか…』(Do I sleep, do I dream, or is Visions about?)♠️何かの引用か。調べつかず。(2022-2-13追記: Bret Harteの詩Further Language From Truthful James(NYE’S FORD, STANISLAUS, 1870)の冒頭)
p100 探偵小説… 傑作… たとえばガボリオ…『小説こそ真理なり』(Fiction is Truth)♠️ゲスリンの考え。こいつは困ったちゃんだ…
p125 いわゆる「改造家屋」♠️一つの屋敷をフラットに分割したやつか。
p128 ずっしりした自動拳銃
p129 英国一敏捷なスリー・クォーター
p137 子供がいちばん最初に出くわす探偵小説
p144 『のっぽの駝鳥のおばさんに…』(And his tall aunt the ostrich spanked him with her hard, hard claw)♠️キプリング“Just So Stories” The Elephant's Childから。
p145 『刃物を握っていた卑劣な手…』(But whose the dastard hand that held the knife I know not; nor the reason for the strife)♠️調べつかず。
p145 デュパン、ルコック、フォーチュン、ホームズ、ルルタビーユ♠️順番が面白いが、普通の女性に、このセリフ。相手はポカンだろうなあ。
p146 検死審問(インクエスト)
p153 『言うなればこれで出そろった』(So there, in a manner of speaking, they all are)♠️調べつかず。
p155 指紋♠️ファイロ・ヴァンスと同様、指紋を軽視するゲスリン。
p156 マギーなんて呼ばないで♠️嫌いらしい。
p156 ベイカー・ストリートかハーリー・ストリートで開業♠️探偵か医者
p158 大型の赤塗りの自動車: 4ドア。後段(p204)で「メルセデス」との記載あり。
p162 コック・ロビンの物悲しい調べを口笛で♠️定番のメロディがあるのかな?調べてません。
p166 アンデルセンの童話
p171 卑劣… 私立探偵めいた真似
p176 陳腐なフランスの諺♠️訳注「犯罪の陰に女あり」
p181 探偵協会の規約に反します(it’s against the rules of the Detectives’ Union)♠️ここは「組合」だろう。
p182「ああ、すばらしきかな、この日!キャルウ!キャレイ!」♠️『鏡の国のアリス』ジャヴァーウォッキーの詩より。河合祥一郎訳(2010)では「ああ、すべらしき日よ!かろー!かっれえ!」全然締まりませんね…
p189 最近のフランスの騒動♠️何を指してるのか。調べてません。
p201 『空の鳥ども』(the Birds of the Air)♠️童謡『コック・ロビン』から
p204 チェスタトン… 『奇跡の最もすばらしい点は、それがときたま起こるということだ』(The most incredible thing about miracles is that they happen)♠️ブラウン神父「青い十字架」からの引用。
p209『熱意、あらん限りの熱意!』(Zeal, all zeal, Mr Easy!)♠️Captain Frederick Marryat著の小説"Mr. Midshipman Easy"(1836)から。
p220 リージェンシー劇場
p220 五ポンド紙幣
p240 年に250ポンド… いとこが死ねば年3000ポンドほど入ってくる
p241 十シリング紙幣… 至急(ウナ)電で打ってくれ
p245 二百五十ポンド♠️貴重な情報に対する対価。
p246 一ポンド紙幣♠️番人への駄賃。
p270 精神異常犯罪者収容所(ブロードムア)
p276 一九二x年八月二十日♠️事件の翌日
p276 私の推理、推論---何と呼ばれようと結構だが
p294 年収600ポンド♠️大蔵大臣の秘書の給料。
p297 経歴表
p298 私立探偵という下劣きわまる仕事

No.3 8点 人並由真 2021/09/29 15:56
(ネタバレなし)
 第一次世界大戦を経た1920年台の英国。時の大蔵大臣で50歳代のジョン・フード卿が、自宅の邸宅「アボッツホール」で、何者かに殺害された。凶器とその手段は木工用の棒鑢(ぼうやすり)で撲殺という、ちょっと変わったもの。新聞「梟(オウル)」紙の発行人兼編集長のスペンサー・ヘイスティングスは、秘書マーガレット・ウォンが早速、聞きつけてきた事件の情報を入手。さらに詳しい事件の調査記事を書かせようと思い、「梟」新聞の出資者で嘱託の執筆者でもある友人アントニイ・ゲスリン大佐を、アボッツホールに向かわせる。すでにアマチュア探偵として幅広い才能の一端を発揮していたゲスリンは現場で再会した知己の面々とも旧交を温めながら捜査にかかるが、そんな彼には邸宅の近所に住む魅力的な未亡人ルーシア・ルメジュラーとの出会いが待っていた。

 1924年の英国作品。
 作者フィリップ・マクドナルドのミステリ処女作で、もちろんゲスリン大佐シリーズの第一作。
 
 評者は少年時代に、当時まだ稀覯本のポケミス版の古書を入手。自分で読みもしないうちにSRの会の会員仲間に貸してやったりしていたが、なんとなく興味が湧いて読むのは、これが初めて。
 当然のこと(?)今回は創元文庫の新訳版で読んだが、これは買ってあるかどうか記憶になく蔵書も見つからないので、古書をAmazon経由で安めに購入した。
 小林晋さんの長大で精緻な巻末の解説によると、もともとマクドナルドは本作のみでミステリ執筆を打ち止めにする気もあったそうで、そんな作品に主人公探偵の恋愛ドラマがからむので『トレント最後の事件』(1913年)を連想したりする。(こう書いても双方のミステリとしてのネタバレにはなっていないハズ。)

 黄金時代全盛期の<大邸宅で起きた殺人もの>だが、ほどよいバランスでかき分けられた登場人物の配置、主人公ゲスリン大佐やほかのキャラクターたちのどこかラブコメチックな恋愛模様などが功を奏して、サクサク楽しめる。ミステリファンとして、自分をデュパン、ルコック、ホームズ、フォーチュン氏(おお!)、ルルタビーユになぞらえる青年探偵ゲスリンの口上などもイカす。

 予想以上にハイテンポな作劇と楽しい登場人物たちの描写に惹きつけられていっきに一晩で読んだが、ある部分のホワイダニットなどは予想がついたものの(大体あたった)、犯人に関してはこちらが推理を組み立てる前に先にゲスリンに暴かれてしまった。しかしその段取りが、なかなかのエンターテインメント! 名探偵キャラの劇中での大技としては、1960年台のある後進の英国作家に継承されているような感じがある。いやゲスリンの作戦はかなりトンデモなんだけど、そのあとの展開が……(中略)。
 
 あとは犯人のキャラクターの鮮烈さ。小林さんの解説では動機に説得力が……とやや批判的だが、これはこれでまた別の60年台の英国作家のアレの先駆ではないだろうか。そういう意味では、かなり攻めの姿勢を感じたりした。
 真犯人の発覚後のゲスリンの解説はかなり長いが、ロジックを整理するボリューム感と、笑っちゃうようなコワイような(中略)トリックの実態がそれぞれなかなか強烈。

 トータルとしての結論は、文句なしに、予想以上に面白かった! 
 先行のミステリ分野の諸作を踏まえた、そういう意味での処女作ゆえの勢いがプラスになった、という意味ではジェイムズの『女の顔を覆え』に似た手ごたえも感じたりする。

 しかしP・マクドナルド、気が付くと翻訳されたものはいつの間にかほとんど読んでしまったな。まだまだ未訳があるみたいだから、どんどん出してほしい。多少の凡作でもたぶんそれなりに楽しめる自信はあるぞ(本作は秀作だと思うが)。

No.2 5点 nukkam 2016/05/16 17:11
(ネタバレなしです) 英国を代表するファンタジー小説家ジョージ・マクドナルドを祖父に持つフィリップ・マクドナルド(1899-1981)が1924年に発表したミステリーデビュー作です。読者に対して手がかりを隠さず、フェアプレーを意識した本格派推理小説の先駆的作品であるという歴史的意義はあります。しかしトリックやプロット自体はそれほど特筆するものはなく、E・C・ベントリーの「トレント最後の事件」(1913年)と同じく、現代読者にとっては何がよいのかよくわからない作品になってしまったかもしれません。本書で私の印象に残ったのは、ゲスリンが犯人を混乱させて自白に追い込むきっかけになった偽の解決です。これが実に大胆で衝撃的な解決で、それに比べると真相の方は陳腐で魅力ありません。もしも偽の解決を真相にするような工夫ができていたら、この作品の価値はもっともっと高くなっていたと思います。

No.1 6点 こう 2008/05/07 00:35
 設定は古めかしく主人公の魅力は乏しいですがクイーンばりのロジックが楽しめます。ただ個人的には解決部分が長くだらだらした印象があります。個人的には迷路の方が好きですがロジックの整合性としてはこちらの評価が断然高いようです。ただヒロインとの絡みはいらないです。


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