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[ サスペンス ]
生ける死者に眠りを
フィリップ・マクドナルド 出版月: 2016年10月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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論創社
2016年10月

No.1 7点 人並由真 2017/01/07 10:39
(ネタバレなし~ただしクリスティーの主要作品を先に読むことは推奨)
 1930年代の初頭。40歳の美女ヴェリティ・デストリアの孤絶した屋敷に、ジョージ・ウォルシンカム・クレシー少将とノーマン・ベラミー大佐が集う。彼ら3人は1918年の戦時中に起きたある大規模な悲劇に際してひそかに多大な責任があった。そんな3人のもとにその件で無為に失われた兵士700人の命について、自分たちの死をもって償えという主旨の殺人予告状が届く。それは当時の悲劇に関わる復讐者ルドルフ・パスティオンのものと思われたが、3人は誰もその素顔を知らない。過去の醜聞の露見を恐れ、警察の介入を躊躇する3人。屋敷にはヴェリティの姪アンとその恋人ヒューゴが来訪中だったが、クレシーは屋敷内に人間が増えれば復讐者も行動しにくいはずだと、さらに客を呼ぶことを提案。こうしてクレシーの甥プレスディル大尉とその連れ3人が屋敷にやってくるが…。

 1933年の作品。ゲスリン大佐ものでないせいかwebでの反響などもいまひとつのようだが、期待以上に面白かった。雷雨の中のクローズドサークルものだが、物語の場面転換の緩慢さと、会話を主体に流れるように進んでいく叙述は、どことなくクリスティーの戯曲を思わせる。やがて殺人が生じるのと前後して電話線が切られ、屋敷から出入りするための乗用車が使い物にならなくされるあたりの展開は定石だが、同時にそれでは屋敷にいる人間たちのなかに謎の復讐者パスティオンは正体を秘めている存在するのか、それとも…と緊張が高まり、サスペンス豊かなフーダニットとしても面白い。

 特におおっ! と思ったのは第10章で、屋敷にいる人間全員+パスティオンそのそれぞれの内面が順々に叙述されるくだり。解説で法月綸太郎も語る通り、クリスティーの『そして誰もいなくなった』(1939年)のかのギミックの先駆で、この辺は 若島正の叙述トリックについての評論「明るい館の秘密-クリスティ「そして誰もいなくなった」を読む」(ベスト・ミステリ論18―ミステリよりおもしろい:宝島社新書)などに触れておくと、なお興味深い。
 若島はくだんの評論のなかで『そして』はかのクリスティー自身の著作(1926年作品)への当人による更なる踏み込みではないかと仮説を語るが、そこに至るまでのミッシングリンクとして33年の本書『生ける死者に眠りを』を挙げることも可能となった。整理するなら、クリスティーの気負い込んだ(?)新たな発想は、意図的なものか偶然か判然としないが、先にフィリップ・マクドナルドが同じ道筋で思いついていた可能性もある。正に陽の下に新しいもの無し、の感も強い。
(まあ、ミステリファンとしてそう言いきっていいのか? という思いもあるが)。

 真犯人の露見については大きな意外性は無いが、その辺は盛り上げに盛り上げた末に話が萎んでいく弱さを作者自身がしっかり承知だったようで、具体的な戦争犯罪の実態を最後の最後までの興味としたり、登場人物の複雑な内面の暗示を小説的な味付けにしたりで、好感を抱かせる。


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フィリップ・マクドナルド
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