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メルカトルさん
平均点: 6.02点 書評数: 1767件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1707 5点 爆発的 七つの箱の死- 鳥飼否宇 2023/11/17 22:09
綾鹿市の大物実業家・日暮百人は、引退生活を送るにあたり、奇妙な私設美術館を建てさせた。
館内に気鋭の現代芸術家六人がそれぞれのアトリエを構え、その美術館に展示する作品を創作する。
日暮と、その友人であり美術評論家の樒木侃だけが作品を鑑賞できるのだ。
しかし、最先端をいくあまり、狂気すら漂わす彼らの芸術に触発されたのか、美術館では、奇想天外な殺人が次々と起こる。
Amazon内容紹介より。

美術館に集められた奇矯な芸術家達が巻き起こす奇妙な殺人事件と、その先鋭的な芸術論に裏打ちされた不可思議な言動と作品。綾鹿市の刑事コンビと普通の探偵星野万太郎がそれらの謎に挑む連作短編集。
ですが、はっきり言って芸術やその制作に関する記述は全く面白味がありません。文章があまり上手くないせいなのか、私がそうしたものに対して興味がないせいか分かりませんが、判りづらく退屈です。

そんな中にあって第三話の、捻りの効いた双子トリックが光りますし、短編で終わらせるのが勿体ない様な逸品だと感じました。
他は全体的に事件が起こるまで、いや事件が起こってもそれ程面白くありませんが、何故か真相が明らかになるシーンだけは生き生きしていますね。そこまで奇を衒ったトリックがある訳でもなく、動機も説得力がありませんけれど、終わってみれば何となく納得させられるのが癪に障ります。まあまあですね、それ以外に感想はありません。

No.1706 6点 堕天使拷問刑- 飛鳥部勝則 2023/11/15 22:13
両親を事故で亡くした中学1年生の如月タクマは、母方の実家に引き取られるが、そこでは魔術崇拝者の祖父が密室の蔵で怪死していた。さらに数年前、祖父と町長の座をめぐり争っていた一族の女三人を襲った斬首事件。二つの異常な死は、祖父が召喚した悪魔の仕業だと囁かれていた。そんな呪われた町で、タクマは「月へ行きたい」と呟く少女、江留美麗に惹かれた。残虐な斬首事件が再び起こるとも知らず…。
『BOOK』データベースより。

期待度が高かった分やや厳しい採点となりました。ボーイミーツガール?そんな生易しいものではありません。兎に角色々起こり過ぎて、様々な要素を詰め込み過ぎて。その中に埋もれた伏線を見破る事は至難の業と言えるでしょう。勿論犯人の見当も付きません。しかし、猥雑とも取れるパーツの数々を取り除いてみれば、意外にも単純な事件の様相が見えてきます。

だから、1000枚を超える大作の割に謎解きのページ数はあまりに短く、呆気なく感じられました。諸々の出来事に隠れた殺人事件の真相は貧弱で、動機も突飛なものではありません。ただ偶然性の強いアリバイの中には目を瞠るものも含まれており、油断なりません。
ラストは作者らしく一捻りしてあり、個人的には成程と思わざるを得ませんでした。
何故飛鳥部勝則の作品の中で他に比べて本作が突出して人気があるのか、それはタイトルと表紙画によるところが大きいのだと思います。でも一つ言わせてもらえれば、表紙の少女は長身に見受けられますが、実際は小柄なはずです。お間違えの無いように。

No.1705 5点 マゾヒストたち 究極の変態18人の肖像- 松沢呉一 2023/11/11 22:37
女王様の責め苦を受け、随喜の涙を流す男たち。マゾヒストである。彼らの悦びの源泉は何か。何がM性に火をつけたのか。燃えたぎるマゾ精神が今、語られる。日本のSMを黎明期から見続け2億円を使った重鎮、馬になりたい男、ヤプーズマーケットのエリート奴隷、身体改造マニア、盲目のマゾ…。十人寄れば倒錯も十色。貴方の知的好奇心と性的探究心を刺激する、奇想天外な当世マゾヒスト列伝!
『BOOK』データベースより。

『ぐろぐろ』で世間を震撼させた、かも知れない松沢呉一の四年前の作品。M男たちへのインタビューと著者の感想の合間にコラムを挟んだ構成になっています。所謂S&Mの世界に生きるマゾたちの実態が手に取る様に分かります。一般人が思うよりずっとその幅は広く、例えばマントフェチ、レインコートフェチなども取り上げられています。
衝撃的とまではいかないものの多分に刺激的ではあると思います。自分がある意味変態であるとの自覚のある方は必読と言えるでしょう。ただ、道を踏み外しても責任は負えませんが。

印象に残るのは『堂々と屁ができる社会を夢見るおならフェチ』。おならフェチの石原氏によると、裸ではなく衣服を着用でして欲しいとの事。又聖水や黄金等には興味がなく、ひたすら女性の大きなおならを欲しているのだと言う。
『肛門ブカブカ陰茎斬り』は身体改造の究極の形を示しています。グロいというより痛すぎる、しかしゴン太氏は何ら深い考えもなく、自分の局部を自身で改造していきます。完全に一線を越えてしまったM男の姿がここにあります。
コラムでは多くの場合、女王様の実態を描いており、それだけこの世界では女王様の存在が絶対的だという事を実感させられます。又、『死に至るプレイ』で紹介される「小口末吉事件」はミステリの題材としても十分通用する悲惨な事件です。興味のある方は検索してみて下さい。

No.1704 7点 兇人邸の殺人- 今村昌弘 2023/11/08 22:33
『魔眼の匣の殺人』から数ヶ月後――。神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と剣崎比留子が突然の依頼で連れて行かれた先は、“生ける廃墟"として人気を博す地方テーマパークだった。園内にそびえる異様な建物「兇人邸」に、比留子たちが追う班目機関の研究成果が隠されているという。深夜、依頼主たちとともに兇人邸に潜入した二人を、“異形の存在"による無慈悲な殺戮が待ち受けていた。待望のシリーズ第3弾、ついに刊行!
Amazon内容紹介より。

頭の悪い読者代表として言わせてもらうなら、ゴチャゴチャし過ぎ。この全容を完全に把握するのは到底無理です。頭の弱い私には、ドタバタ劇の合間にミステリの側面を覗かせている様にしか思えません。しかし、比留子の推理のキレは鋭く、どんな状況にあっても冷静で的確です。其処は認めなければなりません。まあその辺りを含めて考えると、本格ミステリの出来としては高水準であるのは間違いないとは思います。

もう少し整理してくれたらなあと、そう考えるのは贅沢と云うものでしょうか。みなさんは怒涛の展開と怪異の習性、ワトソン役の活躍、探偵の窮地、首切りの謎、人体実験等々に惹かれて平均点を押し上げたのだと私は解釈しています。それだけレベルの高い読者諸氏が集まった結果だと。
私でさえ7点を付けたのですから当然かも知れません、特に終盤の謎解きとラストのあれは凄かったと思いますよ、素直に。

No.1703 7点 レオナルドの沈黙- 飛鳥部勝則 2023/11/05 22:31
「私は遠隔のこの地にいたまま、目的の人物を思念によって殺してみせる」降霊会の夜、霊媒師によって宣言された殺人予告と、その恐るべき達成。すべての家具が外に運び出された状態の家の中で首を吊って死んでいた男。密室状態の現場。踏み台にされたレオナルド・ダ・ヴィンチの手稿本と鏡文字の考察。第二の不可能犯罪の勃発。そして読者への挑戦―。本当に犯人は霊媒師なのか、違うとすれば果たして犯人は誰なのか?“さかさま”尽くしの大胆不敵な事件に挑む美形の芸術家探偵・妹尾悠二の活躍を描いた、鮎川哲也賞受賞作家の鮮やかな本格探偵小説。
『BOOK』データベースより。

これは確かに超能力を疑いたくもなる様な、不可解過ぎる事件の連続です。関係者全員にアリバイのある遠隔殺人とも言える、家具の何もかもが家の外に出された密室状態での首吊り死体。それを霊媒師が予告していたとは、流石にやり過ぎの感があります。そんなのアリかと疑心暗鬼な心持で読み進めるも、更に起こる逆立ち殺人。こちらも全員にアリバイがあるという不可思議さ。

この強烈な謎をどう収めるのか、好奇心と不安とが絡み合い、真相に辿り着いた時は偶然に頼った感はあるものの、確かな手応えを感じました。
第十六章の途中で「読者への挑戦」が挟まれ、これは挑戦しない訳にはいかないと無い知恵を絞りました。第一の事件に関しては、結果的に予想が当たってしまいました。まあそれしかないだろう位の気持ちでしたが。ただ家具一式全てが放り出された理由はとても想像出来るものではありませんでした。第二の事件はまさかの真相に唖然。伏線の回収も見事なフーダニットとして完成された逸品だと思いました。又、終章で二度吃驚、やられたなあ。

No.1702 6点 華氏451度- レイ・ブラッドベリ 2023/11/04 22:36
華氏451度―この温度で書物の紙は引火し、そして燃える。451と刻印されたヘルメットをかぶり、昇火器の炎で隠匿されていた書物を焼き尽くす男たち。モンターグも自らの仕事に誇りを持つ、そうした昇火士のひとりだった。だがある晩、風変わりな少女とであってから、彼の人生は劇的に変わってゆく…。本が忌むべき禁制品となった未来を舞台に、SF界きっての抒情詩人が現代文明を鋭く風刺した不朽の名作、新訳で登場!
『BOOK』データベースより。

今回は虫暮部さんが「棺に入れて欲しい・・・」で紹介して下さった作品です。実はこれ随分前に中古を購入していまして、いつか読もうと思いながらもなかなか踏ん切りが付かなかった、半分忘れていたものでした。読む切っ掛けを作って下さりありがとうございました、虫暮部さん。

なるほど、おっしゃる通り、「最期のジョーク」ですね。
本作はかなり詩的に書かれており、行間を読むのが苦手な私は、おそらくその魅力の全てを体感する事は叶わなかったと思います。ですので、あらゆる書物を燃やし尽くす焚書官という仕事に就いているモンターグが、何故書籍に興味を惹かれていったのかという、心境の変化がいまひとつ理解出来ませんでした。それ程少女との出会いが劇的だったのかと云うと、そうでもなく、自分でも知らずのうちに焼き尽くす仕事に疑問を持ち始めたような気がします。その辺りをもう少し掘り下げても良かったのではないかと思いましたね。
それにしても、その少女が序盤で呆気なく退場してしまったのは、例えば日本の小説などにはあまり見られないものでした。どう考えても、キーパーソンの一人のはずなのに、そんなに簡単に切り捨てて良いものかと、私などは勿体ないなと感じました。

その後、二人の重要人物との邂逅で更に目覚めた彼は、どのような道を辿ろうとするのか、大変興味が持てます。自分では括目して読んだつもりです。終盤俄かに盛り上がって来て、増々面白くなってきて・・・。後は読んで下さい。先の評者のお二人が8点という高得点を付けておられるのは伊達ではないと思いますので、一読の価値はあるはずです。しかし読者を選ぶ作品であろう事は想像に難くないですね。

No.1701 5点 江川蘭子- リレー長編 2023/11/01 22:34
モボ・モガを父母として生まれてきた江川蘭子は、まだ物心もつかない二歳のとき、その両親を殺人事件の被害者として突如として失い、しかもその血みどろの惨劇の現場に放置されるという異常な状況の中に置かれたことから、その精神構造への影響が心配された…。世間はこの乱脈を極めた生活者である被害者に同情を寄せず、また犯人を挙げられない警察の無能を罵る者もなかった。が、蘭子は後年、みずから父母の仇討ちを目論んだ。『新青年』昭和五年九月号から六年二月号まで、江戸川乱歩の発端から横溝正史・甲賀三郎・大下宇陀児・夢野久作・森下雨村と書き継がれた合作探偵小説第二弾「江川蘭子」。妖艶江川蘭子の魔性の生涯に、血みどろの夢はいかに叶えられるか…。
『BOOK』データベースより。

ミステリマニアなら一度は耳にした事があると思われる、「江川蘭子」。しかし、その正体となる原本を読んだ人は意外と少ないでしょう。三津田信三の代表作や他の本格ミステリにもその名を刻んだ蘭子とは?これらの作品には推理作家として登場しています。それはつまり、江戸川乱歩その人の化身として機能しているのではないでしょうか。本書を読んでそう思いました。ここでは江川蘭子を推理作家として成長させている訳ではないからです。

この物語は江川蘭子の血塗られた生い立ちを描きながら、紆余曲折を経て様々な人物との邂逅などの人間模様を中心に進められています。よって本格ミステリとは言い難く、何ですかね、一種の犯罪小説でしょうか。それぞれの作家がある程度自己完結させており、これは最後を担当した森下雨村も書きやすかったのではないかと思います。粋な締めくくりも本作を後味の良いものにしていますね。

No.1700 5点 五階の窓- リレー長編 2023/10/31 22:29
1990年代春陽文庫で反響を巻き起こし、復刊が望まれていたリレー式ミステリ・合作探偵小説がついに新版で復活! 昭和のミステリ黄金期を彩った豪華執筆陣・約80名による全64作品、全8巻。 1巻には江戸川乱歩が参加した初期4作品を収録。 「春陽文庫から出た計十冊の〈合作探偵小説シリーズ〉によって、江戸川乱歩が参加した「合作」「連作」の全貌に、容易に接することが出来るようになったのは、日本ミステリ界にとって大きな事件だったといっていい」
Amazon内容紹介より。

リレーミステリの正解って何だろうと考えると、そんなものはないのではないかと思ってしまいます。事前にある程度ストーリーやプロットを決めて、ルールを作って、協議の下スタートしたものであれば問題ないでしょうけれど。打ち合わせ無しに自分の書きたいものを書いてしまえば、後々収拾が付かなくなってしまう危険性が高いので、あまり例がないのでしょうね。

本作ではまず江戸川乱歩が、事故か事件か分からない墜落死を扱っていますが、イマイチ謎成分が不足している気がしてなりません。その分後続の作家の自由度が高くなるのは間違いではないと思いますが、結果それぞれの方向性が統一せず、纏まりに欠けてしまった感は否めません。
個人的には二話を書いた名前も知らなかった平林初之輔が最も本格らしいものと書いたと思います。その後は話を広げ過ぎたり、いきなり知らない人物が登場してきたりと、バラバラな印象を受けます。結局は細かい謎などはスルーして、事件の背景と動機、当然ながら犯人の正体を明らかにしただけで終わります。最後を受け持った小酒井不木はやり難かったでしょうが、意外とそうでもなかったと本人はエッセイで書いてますね。本当かなあ。

No.1699 6点 アムステルダム運河殺人事件- 松本清張 2023/10/30 22:04
アムステルダムの運河に浮かぶトランクから死体が見つかった。首、両脚、両手首が切断された死体は日本人商社マンのものと判明するが、捜査は進まず迷宮入りに。そこで記者である「私」は友人の医者と共に調査に乗り出す。一九六五年に起きた実際の事件を著者が謎解く表題作。ゴルフの聖地を舞台とした日本人変死事件「セント・アンドリュースの事件」も併載。
『BOOK』データベースより。

空さん、先回はお世話になりました。今回も貴重な作品のご紹介、恐れ入ります。

社会派の巨匠だけに、飽くまでリアリズムを追求し、無駄のない文章と隙のない作品に仕上がっていると思います。あの松本清張がこの様なガチガチの本格ミステリを書いていたとは全くもって知りませんでした。やれば出来るじゃん、なんでもっとこういうのを書かなかったんだ、というか、書いていたのか他にも?

表題作はトランク詰めにされた、首と手首から先と下肢を切断された胴体だけの死体が、アムステルダム運河に浮かんでいたという、かなりショッキングなシーンから始まります。余計な前置きがないのが良いですね、早く事件が起きて欲しいタイプなので。現実味を増すために、探偵役さえも個性を抑えた作者の意気込みが伝わって来るようです。
そのクイーンばりの端正なロジックは繊細かつ大胆で、警察すら見落としていた一つの謎から論理を繰り広げ、犯人にまで辿り着く様はなかなかのカタルシスを与えてくれます。
併録の『セント・アンドリュースの事件』は、雰囲気ではなくプロットが横溝正史を思わせる作品で、トリックも小振り乍ら気が利いています。清張としては小品でしょうが、結構楽しめました。

No.1698 6点 四神金赤館銀青館不可能殺人- 倉阪鬼一郎 2023/10/28 22:46
花輪家が所有する銀青館に招待されたミステリー作家屋形。嵐の夜、館主の部屋で起きた密室殺人、さらに連鎖する不可能殺人。対岸の四神家の金赤館では、女の「殺して!」という絶叫を合図に凄惨な連続殺人の幕が切って落される。両家の忌まわしい因縁が呼ぶ新たなる悲劇!鬼才が送る、驚天動地のトリック。
『BOOK』データベースより。

さて、これはSUさんに「衝撃のトリック!!」でお薦めされた作品です。ありがとうございます。

途中までは何となく既視感のある館ミステリでありました。そして何らかの仕掛けがあるのは想定の範囲内で、それはあからさまにヒントが与えられているおかげで容易に見破る事が可能です。「不可能殺人」と云う言葉はそれ自体自己矛盾していると常々思っていましたが、本作ではそれを論証してくれました。不可能ならば殺人できないはずで、殺人が起きた時点で不可能ではないという訳。そんなミステリならではの会話なども楽しめます。

結局事件は追い込まれた犯人の自白で解決します。しかし、どうしても理解不能な謎が、大きな謎が残されたままです。それが最後の最後で開示された時・・・笑いが暫く止まりませんでした。これがバカミス、これぞバカミスだ!間違いない。その後の仕掛けは、まあオマケ程度と考えましょう。その方が己の為だと思いますので。尚、メイントリックの伏線は意外な形で張られているのをここに示しておきます、作者の為に。

No.1697 7点 ジェゼベルの死- クリスチアナ・ブランド 2023/10/27 22:38
tider-tigerさん、見てますかー?今回は『みんな教えて』の「切断の理由」でtider-tigerさんに御紹介いただいた作品です。

何人かの方が書かれていますが、正直読み難い、と言うか一人の人物をファーストネーム、ファミリーネーム、ニックネームで書き分けるのは、非常に混乱します。何度も登場人物一覧を見直して、ああそうだったと、やっと納得したりしました。特に私の様に細切れで読む場合はそうなる可能性が高いのではないかと思いますね。しかし、それらの欠点を補って余りある魅力が本作にはあります。当時新本格と呼ばれた外連味ある事件の描写、カーを思わせる様な不可能犯罪に首なし死体の謎、送り届けられる生首等、どれもミステリマニアを惹きつけて離さないガジェットばかりです。

二つの事件の後に繰り返される検証から後半次第に盛り上がりを見せて、いよいよ本作の本領を発揮します。容疑者の告白、多重推理からの真相開示は正に圧巻でした。メイントリックがちょっと無理筋だなと感じましたが、そこを差し引いても十分楽しめる一冊だと思います。
流石に本サイトで高得点を得ているだけはあるなと。でもね、今どきの国産ミステリに慣れたファンの目にはどう映っているのか、やや疑問ではありますけど。

No.1696 6点 鸚鵡楼の惨劇- 真梨幸子 2023/10/24 22:15
一九六二年、西新宿。十二社の花街に建つ洋館「鸚鵡楼」で惨殺事件が発生する。しかし、その記録は闇に葬られた。時は流れて、バブル全盛の一九九一年。鸚鵡楼の跡地に建った高級マンションでセレブライフを送る人気エッセイストの蜂塚沙保里は、強い恐怖にとらわれていた。「私は将来、息子に殺される」―それは、沙保里の人生唯一の汚点とも言える男の呪縛だった。二〇一三年まで半世にわたり、因縁の地で繰り返し起きる忌まわしき事件。その全貌が明らかになる時、驚愕と戦慄に襲われる!!
『BOOK』データベースより。

色々詰め込み過ぎて煩雑になるかと思いきや、年代順に追う様に構成されているので、混乱せずに済みました。勿論、作者のリーダビリティの高さもあるでしょう。これを本格と定義して良いのか、やや疑問に思いますが、混沌としながらも最後は関係者を集めて犯人を指摘するスタイルは、確かに本格です。

とにかく一言で語るのが難しい作品です。女性作家でありながら、ここまで踏み込んだ内容になっている辺りは流石イヤミスの女王の面目躍如と云ったところですね。
読後は何だかモヤモヤします。まだ終わり切っていない様な、もっとこの何とも言いようのないカオスに浸りたい様な、そんな感じがしました。

No.1695 5点 ドールハウスの惨劇- 遠坂八重 2023/10/22 22:30
第25回ボイルドエッグズ新人賞受賞、衝撃のミステリー!
正義感の強い秀才×美麗の変人、ふたりの高校生探偵が驚愕の事件に挑む!

カルシウム摂取量全国トップ・滝 蓮司 × 眉目秀麗の超変人・卯月麗一
高2の夏、僕らはとてつもない惨劇に遭う!
Amazon内容紹介より。

ナントカ賞を受賞したらしいですが、まだまだプロの域には達していない印象です。しかも衝撃でも何でもなくて、単なる青春ミステリだと思いますよ。まあどちらかと言えば本格寄りですけどね。第一章から第六章まで惨劇と言う文字が並びます。その割には実際の事件は密室での自殺に見せかけた殺人というだけで、惨劇でも何でもありません。これは、詐欺紛いの平凡な作品とは言いすぎでしょうかね、あながち間違ってはいないと思いますよ。惨劇より酷いのは母親の娘に対する躾けと言うか、縛り付けで最早虐待と呼んでも差し支えないですね。

こんなだから、誰が殺されるかは早々に分かってしまいます。密室トリックも使い古されたものですし、昨今の手の込んだ、凝りに凝った本格ミステリと比較すると随分劣るのは誰の目から見ても明らかでしょう。ただ、一章と二章の青春を謳歌する高校生達の生き生きとした姿と、対照的な主役級の女子高生の苦悩と一瞬の輝きはリアルに描かれています。その辺りを鑑みてこの点数ですから、ミステリとしては及第点に達していない訳ですよ。期待外れでした。

No.1694 6点 狩久探偵小説選- 狩久 2023/10/20 22:49
才気あふるる奇才による異色の本格ミステリ集。「虎よ、虎よ、爛爛と―」ほか全13編。
『BOOK』データベースより。

短編にプラスして随筆、評論がおまけで付いている狩久作品集。
正直少々疲弊しました。昨今流行のソフトカバーの普通サイズと比べると、倍くらいの重さがあります。何しろサイズが一回り大きいですからね。で、ページ数が490ページで後半会話文と改行が極端に少なく・・・これは疲れますわ。最初の四編は瀬折研吉、風呂出亜久子の事件簿は軽妙なタッチで、二人のやり取りが楽しめる本格度の高い探偵小説と言えるでしょう。特に密室に拘りがあるようだし、自らの名前を出して来たりとメタな部分も見せています。ここまでは比較的読みやすく疲れませんでした。

その後、代表作であろう『落石』以降、やや私小説風ミステリが多くなっている気がします。事前の予想通り、『落石』を超える作品は残念ながら見当たりませんでした。しかし、この作品の裏話的でまるでノンフィクションかの様な『訣別――第二のラヴ・レター』を読めたのは大きな収穫だったと思います。自身のペンネームを捩った暗号に秘められたメッセージなど読んでいて、心が痛みました。
尚、作者は長編を生涯一篇しか書いていませんが、それはあまり書くと持病のため熱が出る為と自身で語っています。この人も早逝の悲劇の作家だったのかも知れません。

No.1693 5点 劇場版 呪術廻戦0 ノベライズ- 北國ばらっど 2023/10/16 22:33
高校生の乙骨憂太は、「呪い」となった幼なじみ・祈本里香に憑かれ苦しんでいた。

そこに最強の呪術師・五条悟が現れ、憂太を“東京都立呪術高等専門学校”へと導く。「呪い」を祓うために「呪い」を学ぶその場所で、憂太は里香の呪いを解くことを決意し、同級生の禪院真希・狗巻棘・パンダとともに呪術師として歩みだすのだった!
Amazon内容紹介より。

漫画が原作の映画ノベライズ作品です。読んでみる限りラノベの様なものと断じても良いと思います。ですから、当然キャラの描き分けはキッチリ出来てはいます。中身はほぼ全編バトルで、短いページ数という制限がある中、基本だけは押さえているところは評価されるべき部分だと思います。

映像を観た方が当然臨場感があって良いのでしょう。わざわざ映画館まで足を運ぶとか、漫画を読む気にはなれませんが、多分文章で読むよりは面白いであろう事は想像に難くありません。Amazonでの評価も高いですしね。
前半はイマイチ乗れなかったですが、後半の呪術師と呪詛師の最高レベルのバトルはかなりのめり込めました。ただ、憂太と里香のエピソードのひとつも欲しかったところではありますね。そうすれば、もっと白熱したバトルを楽しめた気がします。

No.1692 8点 誰のための綾織- 飛鳥部勝則 2023/10/15 22:23
あの日、あの新潟の大地震の夜、私たちは拉致され、ある小さな島に監禁された。誘拐者たちは「おまえたちに、あの罪を認めさせるため」に連れてきたのだという。復讐だった。今にも私たちを殺してしまいそうな怒りだった。その夜、ひとりが木の枝で刺されて死んだ。しかし、私たちの誰も気づかずに、彼女を殺せたはずがないのだ。犯人はどうやって「そこ」に入ったのか。そして次のひとりが死んだ…。誰が生き残ったのか、そして誰が殺したのか。作中作に秘められた「愛」がすべての鍵。
『BOOK』データベースより。

これが盗作騒動を起こしていたのは知りませんでした。まあ別にプロットやストーリーを、という訳ではなかった様なので、そんなの関係ないとそれには目を瞑りこの点数。最後まで7点か迷いましたが、こういうの好きなんで。
しかし、細かな疵もあると思います。些細な事ですが例えば、事件の発端となった出来事(と言うにはあまりに悲惨)に関しての、加害者の心情が個人的にあまり理解出来なかった点。何となく誤魔化されている様な感覚でした。あと、終盤のある二人の会話がイマイチ噛み合っていなかった気がするところも、若干モヤモヤしました。

しかし、プロローグとエピローグは凄く良いんです。これがなければ小説として破綻していたのではないかと思うくらいです。作中作だけだとあまり評価できないのは確か。ただ蛭女に関しての記述は生理的に嫌悪感を催し、蛭が大嫌いな私には結構グッとくるものがありました。蛭自体の存在をクローズアップしている嫌らしさも不気味です。又、意外性のある和室のトリックも評価します。
まあね、怪作だと思いますよ。良い意味でね。やられた感も半端ないですし。

No.1691 5点 計画書- コウイチ 2023/10/13 22:27
舞台は平凡でどこにでもありそうな名もなき町。
しかしある時から、その町では起こりそうもないような物騒な事件が頻発するようになる。
一方、二人の警察官は「100万円の家」と呼ばれる廃墟で一冊の本を発見する。表紙に「計画書」とだけ書かれた本には、その町で実際に起きた事件と同じ内容が綴られていた。しかしそれらの物語は「結末」の部分が少しずつ違っていて……。
Amazon内容紹介より。

うーむ、こういうのをメタフィクションと言うのでしょうか。
小さな町の警察官は何を思ったか、橋の上から川に飛び込む。すると気付いた時には町の様相が変わっており、自分の家も廃墟と化していた。そこで「計画書」という私家版らしき本を発見すると云ったのが大筋で、その中に書かれた「小説」がちょっと風変わりだったのです。

その物語は外からしか開けられないサウナに閉じ込められたり、おばさん三人組の食い逃げの模様だったり、懐中電灯で猫に変身したり、爆破される橋の一人称だったりしますが、どれもあまりパッとしません。かなり期待外れでした。この幾つかの短編小説の合間に二人の警察官の会話が挿入されているのですが、ここでもう一歩踏み込んだ内容であれば、少しは読み物として楽しめたかもしれませんが。
オチも奇を衒ったものでもなく、拍子抜けのエンディングでした。

No.1690 7点 三幕の殺人- アガサ・クリスティー 2023/10/12 22:25
引退した俳優が主催するパーティで、老牧師が不可解な死を遂げた。数カ月後、あるパーティの席上、俳優の友人の医師が同じ状況下で死亡した。俳優、美貌の娘、演劇パトロンの男らが事件に挑み、名探偵ポアロが彼らを真相へと導く。ポアロが心憎いまでの「助演ぶり」をみせる、三幕仕立ての推理劇場。新訳で登場。
『BOOK』データベースより。

はい、これですね。「動機の問題」にて、私の愚問に回答いただいた、他ならぬ空さんの一推しとあっては読まない訳にいかないですよね。あ、大丈夫ですよ、みなさんに紹介していただいた作品も既読を除いて、いずれ読むつもり(入手困難などで例外あり)ですので安心して下さい。

流石クリスティーと言いますか、ポアロをさし置いて探偵気取りの三人が容疑者を尋問して、犯人を絞り込むというちょっと地味な展開ではありますが、すんなり読む事が出来ます。全く退屈さを感じさせません。
はっきり言って犯人については比較的簡単に予測が付くかも知れません。しかし、特に第一の殺人に関しての動機は、これは見当が付かないと思いますね。言わば「動機なき殺人」に対する動機ですからね、況してや事件かどうかも分からない状況ですし、これは難問でしょう。この年代の作品と考えると、なかなかこう云った発想は出来ないんじゃないですかね。だからクリスティーの考えるアイディアは先駆者的なものが多いんだと思います。
それにしてもポアロは美味しい所を掻っ攫いますね。それまで鳴りを潜めていたのに、最後の最後に出てきたと思ったら、惚れ惚れする推理、これはズルいですよ。

No.1689 6点 蠅の女- 牧野修 2023/10/10 22:16
暗闇に包まれた廃墟。地中から、光り輝く男を掘り起こす異様な女たち。城島洋介とオカルト部の仲間は、救世主復活を標榜するカルト教団の秘密儀式を目撃してしまった。それが悪夢の始まりだった。一人、また一人と姿を消してゆく仲間たち…。そして、城島の前にもあの女たちが―「見つけたよ」。恐怖が奔流のように襲いかかるアクション・ホラーの傑作。
『BOOK』データベースより。

出だしはSNSのオフ会で、夜の廃墟を探検するという、如何にもなホラー小説風でごく普通な感じです。そこから死者が出たり行方不明者が出たりと、サスペンスフルな展開に。そして徐々に廃墟で目撃した怪しげな女二人の影がチラつき始め、恐怖を煽ってきます。

ところが後半、ベルゼブル(ベルゼブブ)が召喚されてから一気にヒートアップし、アクションへと移行します。スプラッターと言うほどではないにしても、ある程度のグロは作者の持ち味なのでやむを得ないところ。
短いながらもそれなりに物語の広がりは感じられ、前半後半で全く別の小説を読んでいる様な感覚を覚えました。まあ面白かったですよ、牧野修だからこんなもんでしょう。過度の期待は禁物です。

No.1688 7点 ダンデライオン- 河合莞爾 2023/10/08 22:17
東京の山間部、タンポポの咲き誇る廃牧場のサイロで、空中で刺殺されたとしか思えない異様な死体が発見された。被害者は16年前に行方不明になった女子大生・日向咲。捜査第一課の警部補・鏑木鉄生は、部下・姫野広海の口から「空を飛ぶ娘」という昔話の存在を知る。翌週、今度は都心の高層ホテル屋上で殺人事件が発生。だが犯人は空を飛んで逃げたかのように姿を消していた。やがて二つの事件の接点として、咲が大学時代に所属していた「タンポポの会」というサークルが浮上する―。
『BOOK』データベースより。

目茶苦茶読みやすく面白かったですね。これぞストレスフリーの読書って感じでした。それにしても、この作者はやはり島荘を標榜しているのでしょうか。何から何までそっくりです。
文庫本の帯にある解説者の大矢博子の「ミステリとして1ミリの無駄もない」という惹句はまさにその通りで、無駄な描写が全くありません。ただ、特に第一の殺人には図解が欲しかったところですね。まあこれは私の勝手な言い分なので言っても詮無い事だとは分かっていますけど。あと、解説は先に読まない方が賢明だと思います。

空を飛べる人という壮大な与太話を、真剣にいい大人が語っているのは可笑しいですが、そのあり得ない状況、つまり広義での密室をトリックと言うより人情物の様な語りで補完している点はまあ良しとしましょう。そこには作者も重きを置いていないのだと思います。それよりもその後に襲い来る衝撃の方が何倍も驚かされますよ。気持ちよく騙されました、完敗です。
デビュー作はそれ程でもなかったので、遠ざかっていました。しかし、今回長年積読しておいた本作を手に取ってみる気になったのは、幸運と言うべきか、遅すぎたと言うべきか・・・でも期待以上の出来に満足はしています。もっと世間に知られていい作品でありシリーズじゃないでしょうかね。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 他多数
採点傾向
平均点: 6.02点   採点数: 1767件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
島田荘司(25)
西尾維新(25)
アンソロジー(出版社編)(23)
京極夏彦(22)
綾辻行人(22)
折原一(19)
中山七里(19)
日日日(18)
森博嗣(17)