皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1871件 |
No.1811 | 7点 | バラバラ屋敷の怪談- 大島清昭 | 2024/08/31 22:19 |
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民俗学のフィードワークの手法を用いて、取材を元に怪談を執筆してる呻木叶子が遭遇する四つの事件。八人の女性が犠牲になったバラバラ殺人の現場周辺で目撃される四体の幽霊の謎と、現場の屋敷で新たに発生した密室殺人を呻木が解き明す表題作ほか、博物館で目撃される少女の霊の来歴を探るうちに、思わぬ不可能犯罪に行き当たる「青いワンピースの怪談」など、第17回ミステリーズ!新人賞受賞作『影踏亭の怪談』の新鋭による恐怖と驚愕の連作集。
Amazon内容紹介より。 最初の表題作を読み終えた時点では8点かも、と思いました。まず、怪談と本格ミステリとの融合が素晴らしく、そのバランスも絶妙で思わず唸らされました。何しろ終盤では衝撃の連続に打ちのめされましたからね。 しかし、二作目のトリックはなかなか目の付け所が良かったものの、全体的には一作目には到底及ばないし、三作目は少し目先を変えているがトリックはショボい。私のテンションは次第に下がっていったのでした。 それを最も異色の最終話で盛り返し、何とか7点を確保した感じです。それぞれの短編にはある共通点があり、連作短編集の良さを引き出しています。勿論各作品の出来不出来の差は何ともしようがありませんが。 読むごとに作者の顔が変わって見える様な、一体この人の本当の実力はどの辺りにあるのか、どれが本物なのかとの疑問が湧き上がってくる私なのでした。 |
No.1810 | 7点 | 禁じられたジュリエット- 古野まほろ | 2024/08/27 22:41 |
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退廃文学として禁書となっている「ミステリ小説」に触れてしまった女子高生六人。
彼女ら「囚人」役と同級生二人の「看守」役は思想更生プログラムを強いられる。八人は協力して「監獄ごっこ」を乗り切るはずだったが、「囚人」と「看守」の対立は激化し、ついに悲劇が! 「書」の力を謳(うた)い上げたミステリ愛読者必読の書。 Amazon内容紹介より。 個人的に後半より前半の方が良かったです。最初は所詮ごっこだろうと高を括っていましたが、思った以上に看守の囚人に対するいじめが酷く、大変面白く読めました。 ミステリが退廃と捉えられた世界が一体どんな物なのか、ミステリを愛するがために故なく迫害されるのかと思うとやりきれないですね。 そんな中殺人が起こり、後半の多重推理が始まるのですが、どれも犯人を一人に絞るものではなく、犯人候補をふるいに掛けて、残った複数の人物の中に犯人がいるというものなので、一刀両断とはいきません。だから、其処にカタルシスは生まれません。 よって、多重推理ものとしてはやや物足りないと感じました。しかしそれを差し引いても、面白かったのは間違いなく、この作者にしては読み易さも相まって評価としては高レベルで良いと思います。 |
No.1809 | 7点 | 明智恭介の奔走- 今村昌弘 | 2024/08/22 22:30 |
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神紅大学ミステリ愛好会会長・明智恭介。小説に登場する探偵に憧れ、事件を求めて名刺を配り歩く彼は、はたしてミステリ小説のような謎に出合えるのか――大学のサークル棟で起きた不可解な盗難騒ぎ、商店街で噂される日常の謎、夏休み直前に起きた試験問題漏洩事件など、書き下ろしを含む全五編を収録。『屍人荘の殺人』以前、助手であり唯一の会員・葉村譲とともに挑んだ知られざる事件を描く、待望の〈明智恭介〉シリーズ第一短編集!
Amazon内容紹介より。 第一話から全てワトソン役の葉村の一人称で綴られるかと思いきや、全く別人の一人称であったりするのが意外でした。それがどうという訳ではありませんが。 様々な日常の謎に挑む明智恭介ですが、完璧と思われたロジックも空振りに終わったり、愛嬌のあるところを見せています。又、葉村も助手にしては鋭い考察を見せる辺りは、単なる名探偵と助手の関係とは若干異なります。 『とある日常の謎について』と『宗教学試験問題漏洩事件』が双璧でこれらは捻りと意外性があって、最も好感が持てました。伏線の回収も見事で、そう繋がるのかと思わず唸ってしまう出来です。 他はどちらかと言えば平凡。特に最後の書下ろしは要らなかったかな。まあファンにとっては嬉しい一編かも知れませんけどね。 |
No.1808 | 5点 | 死蝋の匣 - 櫛木理宇 | 2024/08/19 22:03 |
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茨城県で滅多刺しの男女の死体と死蝋のかけらが発見される。翌日、白昼のコンビニで女子中学生たちが襲撃される第二の事件が発生。現場の指紋から捜査線上に椎野千草という女性が浮かび上がる。彼女は、十三年前に起きた史上最悪の無理心中事件の生き残りだった――。千草の足取りが掴めぬまま、増えてゆく死体。止まらぬ猟奇殺人犯を元家裁調査官・白石と県警捜査第一課・和井田コンビが追う!
Amazon内容紹介より。 ジャンルはサスペンスよりもイヤミスに近いかも知れません。警察小説と呼ぶにはそちらのパートが少なすぎるので、違う気がします。 暗い話は嫌いではありませんが、これはあまり刺さりませんでした。テーマとしては家族、それも父親像の色が強く、その意味では社会派と捉える事も出来ます。 プロローグを読んだ段階では期待出来ると思いました。しかし、余りにも事件が起こり過ぎて話が広がり、どう収束させるのか不安になる程です。尚死蝋に関してはあまり期待しない方が賢明かと思います。 最後にちょっとだけサプライズがあるものの、ストーリーの抑揚はあまりなく、白石が警察でもないのに只管聞き込みに終始し、その中で少しづつ事件を解いて行こうとするのですが、なかなか解決の糸口が掴めないので、ストレスが溜まります。一向に見えて来ない事件の真相は思いの外単純で、複雑に見えた人間関係も分かってみれば、驚くようなものではありません。 こういうのが好きな人もいるのでしょうが、あまり一般読者にはお薦め出来ませんね。 |
No.1807 | 7点 | ミステリー・オーバードーズ- 白井智之 | 2024/08/15 22:14 |
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探偵たちの集まった館で殺人事件が起きた。その晩、探偵たちの口にしたワインに幻覚剤が混入していたことで、事件は思わぬ方向へ転がっていく……。(ディテクティブ・オーバ―ドーズ)ほか“食”をテーマにした全5篇を収録。異世界転生からエログロ、本格ミステリーまで、唯一無二のミステリー作家・白井智之が美味しく調理した短編集。
Amazon内容紹介より。 これにて全ての白井作品をコンプリートした事になりました。今まで温めていた甲斐があったというか、やはり白井智之は白井智之だと感じました。中でもエログロ全開の『げろはげり、げりはげろ』『ちびまんとジャンボ』は流石だと思いました。特に前者は並行世界を扱ったSFとしても秀逸で、伏線回収も細かい所まで行き届いており好印象。意外な展開とオチにも拍手。 最後の表題作は探偵たちが残した手記という名の自分なりの解決編が、それぞれ異色で特徴的なのが印象深いです。結局それだけでは事件が解決とはならず、その後に表れた真打ちの「探偵」がそれらを紐解いていく過程が真骨頂ですが、私の頭ではなかなか付いて行けないものがあり、もう少し己の頭脳をフル回転させながら読まないといけないと反省させられました。最も本格度が高い館ミステリに仕上がっています。 いずれにせよ、上記の作品と合わせて本短編集のツートップとさせていただきます。これだけ盛り沢山の内容ではお腹一杯にならざるを得ません。 |
No.1806 | 7点 | 難問の多い料理店- 結城真一郎 | 2024/08/12 22:22 |
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ビーバーイーツ配達員として日銭を稼ぐ大学生の僕は、注文を受けて向かった怪しげなレストランで、オーナーシェフと出会う。
彼は虚空のような暗い瞳で、「お願いがあるんだけど。報酬は1万円」と、噓みたいな儲け話を提案し、あろうことか僕はそれに乗ってしまった。 そうして多額の報酬を貰っているうちに、僕はあることに気づく。 どうやらこの店は「ある手法」で探偵業も担っているらしいと。 Amazon内容紹介より。 第一話がやや低空飛行で第二話で上昇し、又下降するの繰り返しで評価が難しいです。つまり奇数話はまずまずで、偶数話はかなり面白いという感じ。 それにしても探偵役、というか裏稼業で探偵をしているシェフが謎過ぎて内面が窺い知れません。外見のディテールははっきしりているのですが、何を考えているのか分からない不気味さがあり、得体の知れなさが浮き彫りになっています。名前さえ与えられていない探偵というのはどうなんでしょうねえ。 採点はやや甘めで、どうしようか迷った末最終話が結構盛り上がったので、この点数にしました。何となく期待していなかったのですが、その期待は上回ったと思います。 真相自体は何でもない様に思えても、それを解明する過程が面白いので、その意味では高評価です。最終話>第四話>第二話>>>>その他。意表を突かれる様な結末もあったりして楽しめます。 |
No.1805 | 6点 | カニバリストの告白- デヴィッド・マドセン | 2024/08/08 22:28 |
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殺人容疑で逮捕された天才シェフが挑んだ、食欲、性欲、支配欲、あらゆる欲望の泥濘を突き抜ける至高の一皿とは? 昨今のミシュラン騒動を予見し皮肉るかのような、人間最大のタブーに挑む怪作にして清々しい快作。
Amazon内容紹介より。 タイトルの通りの内容。自分自身が殺害した被害者の肉を食するだけでなく、シェフとして客に提供する。それも飛び切りのレシピで。グルメを唸らせる腕を、主人公であり記述者のオランド―は持っています。それは天才としての矜持と人間の肉を食べるという禁忌を冒す悦楽を満足させる訳で、それらの犯行と告白者オランド―の心情が克明に記されています。ただ、人肉の解体の模様や調理の詳細は描かれていません。敢えて避けたのか、作風に合わなかったせいなのか分かりませんが、そこは想像とは少し違ったものでした。 真面目に書かれた変態小説とでも言うべきなのか、誰も彼もが普通の感覚では捉え切れない変人揃いです。同性愛好者ばかりで辟易とします。それでもエログロは控えめで、飽くまで文学として読める作品に仕上がっています。 翻訳も上手いです。とにかく読んでいて飽きが来ないのは、別に私の嗜好どうこうではなく、普遍性の問題だと思います。皮肉の効いたオチも決まっていました。 |
No.1804 | 7点 | ウナギの罠- ヤーン・エクストレム | 2024/08/05 22:31 |
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1960年代のスウェーデンに、こんな不可解な密室殺人が眠っていたとは……。
ウナギのように「つかみどころ」がなく、解決不可能に見える奇怪な現場の状況。 ディクスン・カーも青ざめるほどの「つなわたり」のトリックに啞然、そして呆然。 ――折原一氏(作家) Amazon内容紹介より。 本サイト現役最強の二大巨頭と今最も勢いのある気鋭の書評家お三方が、揃って8点を付けているならば、これは読むしかありませんね。 しかし、全体的に冗長で、この内容ならば半分の量で十分書けたと思います。事件が起こるまでの約100ページ、少々退屈でした。事件に関係ありそうな事柄は少なく、関係ない事ばかり書かれている気がしましたし、ミステリ云々ではなく読み物として面白くなかったですね。 その後も事件の調査に乗り出すドゥレル警部ですが、あまり鋭いところを見せず、推理しているのかどうかも判然としません。後半、自分自身に問いかけ、真相を掴もうとする描写は良かったですが。 解決編で、犯人の決め手になった切っ掛け、理由や動機が説明されていないのは、かなり不親切だと思います。それまでに説明されているから省略、では私の様なん読解力の無い読者に対して優しくないと感じざるを得ませんでした。 しかし、密室の作り上げ方は見事なもので、このトリックだけでプラス1点を献上します。 |
No.1803 | 5点 | 夜廻(よまわり)- 保坂歩 | 2024/07/31 22:07 |
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真夜中の世界には、ときどき妙なものがいる。
静かな通学路、仄暗い電柱の陰、シャッターが閉まった商店街、月明かりだけが頼りの畦道、鬱蒼とした森の中に佇む神社、山道の先にあるトンネル。 彷徨うもの、恐ろしいもの――そして、――が現れる不気味な夜の町で「大切なもの」を探し求め続ける二人の姉妹は、再び朝を迎えることができるのか Amazon内容紹介より。 これは大の大人の読む本ではありませんね。せいぜい中学生くらいが喜びそうなホラーです。全然怖くはありません。雰囲気を楽しめれば御の字で、過度な期待は禁物です。Amazonの評価は不当に高すぎると思います。 母を亡くし、父親は仕事でほとんど家を留守にしている幼い姉妹の心の拠り所は飼い犬のポロ。そのポロが散歩中に消えたという妹を残して、夜の町をポロを探しに出た姉を待ち受けていたものは何か?後を追う様に妹も勇気をもって姉と飼い犬を探しに家を出る。そして妹も様々な怪異と遭遇し・・・。 という話です。インディゲームのノベライズ作品で、迫力はないですが情緒的なムードを作り出しているのは評価できると思います。まずまずとしか言いようがありませんね。 |
No.1802 | 6点 | あなたに聞いて貰いたい七つの殺人- 信国遥 | 2024/07/28 22:16 |
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若い女性ばかりを惨い手口で殺害し、その様子をインターネットラジオで実況するラジオマーダー・ヴェノム。その正体を突きとめてほしいと、しがない探偵・鶴舞に依頼してきたジャーナリストのライラは、ヴェノムに対抗してラジオディテクティブを始めることを提案する。ささいな音やヴェノムの語り口を頼りに、少しずつ真相に近づきはじめる鶴舞とライラ。しかしあと一歩まで追い詰めたとき、最悪の事態がふたりを襲う――
これは何を書いてもネタバレになりそうで、ちょっと難しいですね。 と言いながら書きますが、あまりに伏線が安易過ぎて・・・先の展開が読めてしまうと云うか、誰がどんな役割をしているのかがミエミエなので、興を削がれてしまうんですね。 探偵対連続殺人鬼に警察が絡むプロットはなかなかよく考えられています。しかしそれは必然であり、そこに無駄は一切ありません。 特に後半楽しめました。途中、えっ?まさか、と思わず声を出しそうになりました。ところが、後になってその理由に必然性がないのが解り、残念な気持ちになりました。 評価はちょっと厳しいかと思いますが、7点付けるには何かが足りなかった感が強いです。 |
No.1801 | 5点 | アデスタを吹く冷たい風- トマス・フラナガン | 2024/07/25 22:23 |
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風が吹き荒さぶ中、闇を裂いてトラックがやってきた。運転する商人は葡萄酒を運んでいると主張する。だが職業軍人にして警察官のテナント少佐は、商人が銃の密輸人だと直感した。強制的に荷台を調べるが、銃は見つからずトラックは通過してゆく。次は必ず見つけて、武器の密輸入者は射殺する……謹厳実直の士、テナントがくだした結論は?「復刊希望アンケート」で二度No1に輝いた7篇収録の名短篇集、ついに初文庫化。
Amazon内容紹介より。 まず原文が多分下手。途中何を書いているのかよく解らず、心に響くものが一つもなかったというのが本音。そして最後の真相に、あーそうなのか(棒読み)と何の感慨もなく終了って感じで、どの短編もそんな調子でしたね。 そして訳も上手くない。難読漢字が続々、せめてルビを打って欲しかったです。長身痩躯を痩躯長身と書いてあるしなあ、内容がちっとも頭に入ってこない、この人こんな下手だったかなと思いました。『エクソシスト』を高校生位に読んだ時は普通に読めましたけどねえ。 評判の良い表題作を取り上げてみても、ショボいトリックに驚きを隠せません。現在なら絶対通用しないでしょう、こういうの。他にもパッとした意外性のあるトリックは見当たらず、ちょっとだけ読んだ事を後悔しました。というか、私には合わなかったのでしょう。年代を鑑みて5点としましたが、本来なら4点相当だと思います。 |
No.1800 | 6点 | わらの女- カトリーヌ・アルレー | 2024/07/23 22:26 |
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大資産家の妻を目指して、知性と打算の見事な結晶の手紙を送ったドイツ人女性ヒルデガルト。手紙が功を奏してカンヌに呼ばれた彼女は、資産家の妻の座を前に秘書の男から、ある申し出を受ける。そこには、思いも寄らぬ企みが隠されていた。これ以上ないほど精緻に仕組まれた完全犯罪小説。これからこの一冊に出会う皆さんは幸せです。素晴らしい楽しみが待っています。ミステリ史上に燦然と輝くフランス発の傑作ミステリを新訳で。
Amazon内容紹介より。 冒頭の新聞記事を探すところから惹き込まれ、そのまますんなりとストレスなく読み終えました。しかし、解説でシンポ教授が言っているような傑作とは、私は思いません。「致命的というに近い欠陥をかかえてはいるが、それを補って余りある興趣に満ちた作品」との佐野洋の意見には頷けます。 物語としては文句なしに面白いのは確か、ですが、あまりにもストレート過ぎて捻りが無いのがかなり弱点ではないかと。それと個人的意見ですが、そんなに上手く事が運ぶのか、警察の捜査を見くびり過ぎているのではないかとの疑問点がどうしても拭い去れません。 結局昨今の手の込んだ国内産のミステリやサスペンスに慣れてしまった身には、いささか物足りなさを覚えてしまうのです。シンプルなのは悪くないですが、シンプル過ぎるのは良くないです。最後まで読んで、えっもう終わり?と感じてしまった私は少数派なのかも知れませんが、それが正直な感想でした。 |
No.1799 | 7点 | ルパンの消息- 横山秀夫 | 2024/07/20 22:26 |
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15年前、自殺とされた女性教師の墜落死は実は殺人――。警視庁に入った一本のタレ込みで事件が息を吹き返す。当時、期末テスト奪取を計画した高校生3人が校舎内に忍び込んでいた。捜査陣が二つの事件の結び付きを辿っていくと、戦後最大の謎である三億円事件までもが絡んでくるのだった。時効まで24時間、事件は解明できるのか!?
Amazon内容紹介より。 三人の男子高校生によるルパン作戦。この描写が延々続き、抑揚があまりない上、その期末テストの奪取計画という地味な事件の記述は少々退屈ではあります。そこには別のある事件が絡んでくるのですが、そちらの方がややおざなりになってしまって、余計に興味が半減します。三人組の行動が詳細に語られる割には、それぞれの個性が感じられず、警察が動き出すパートに比べてかなり劣ると言わざるを得ません。 一方、刑事達の描写に関しては、後の横山秀夫の諸作の片鱗が伺われ、もう少しこちらのパートに重点を置いた方が面白くなったのではないかと思いました。 しかし、終盤ある刑事の一言から物語は一気にヒートアップし、疾走感を伴って怒涛の展開を見せます。そこからは目くるめく様な体験ができ、素晴らしいの一言に尽きます。特に意外な人物の過去には驚きました。そうだったのかと、感心する事しきり、それとは別に時効成立間際にこんなドラマが待っているとは予想も付きませんでした。この最終局面で採点は大きく加算されたと言っても良いでしょう。 |
No.1798 | 6点 | 雀荘迎賓館最後の夜- 大慈多聞 | 2024/07/16 22:53 |
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雀荘「迎賓館」には並外れた技量の打ち手が集まる。枯淡の老経営者、飲食チェーン取締役、広告会社局長代理、記憶システムが異様な高校教師。仲間内のゲームに飽き足らず、敢えて鉄火場に挑んだ国立大生・結城は、強者達の雀卓を凌げるのか。勝負の果てに、彼らは何を失い、何を得るのか。ギャンブル小説の新たなる金字塔。
Amazon内容紹介より。 麻雀小説なんですけど、闘牌シーンが少な過ぎるし、逆に迎賓館の常連たちの生活ぶりや仕事関係の描写が多すぎて、非常にバランスが悪いです。しかも興味を惹かれるのは釘宮のパートくらいで、他はなくても良い程度のエピソードばかりで、その辺り余計だったと思います。 ただ流石に闘牌シーンだけは凄い迫力です。これだけの迫真の文章が書けるのに、その他がはっきり言って面白くないのは致命的ですね。 主要登場人物の五人のキャラが描き切れていないのも残念です。もう少し何とかならなかったものか、書くべき人が書いていたら間違いなく傑作になっていたと思うんですけどね。 |
No.1797 | 7点 | ぼくらは回収しない- 真門浩平 | 2024/07/13 22:19 |
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数十年に一度の日食が起きた日、名門大学の学生寮で女子学生が亡くなった。密室状態の現場から自殺と考えられたが、小説家としても活躍し、才気溢れた彼女が死を選ぶだろうか?
三年間をともに過ごしながら、孤高の存在だった彼女と理解し合えないまま二度と会えなくなったことに思い至った寮生たちは、独自に事件を調べ始める――。第十九回ミステリーズ!新人賞受賞作「ルナティック・レトリーバー」を含む五編を収録。大胆なトリックと繊細な心理描写で注目を集め、新人賞二冠を達成した新鋭による、鮮烈な独立作品集。 Amazon内容紹介より。 本格ミステリでもあり青春ミステリでもあるノンシリーズの短編集。 個人的なベストは『街頭インタビュー』です。探偵役の一方通行では終わらない、その後の意外な展開に驚きを隠せませんでした。正にぼくらは回収しないって事なんですね。それは最終話『ルナティック・レトリーバー』にもよく表れています。こちらも負けず劣らず伏線を見事に回収したかに見せて、実は・・・という逆転の構造が光っています。 とは言え、事件のスケールの大きさやトリックの斬新さには欠けます。その分気の利いた皮肉な結末が訪れるのはほぼ全てに共通しています。『カエル殺し』の動機は過去に読んだある作品に近いものがありました。しかし、それはお前が考える事ではないだろうとの思いが強く、やや説得力に欠けるのが残念です。 あと、気になったのが『速水士郎を追いかけて』に出て来るHSPのことですね。何となく自分にも当て嵌まるところがある気がして、もしかしてと思ったりしてちょっと不安になりました。私には探偵の素質はありませんけどね、勿論。 |
No.1796 | 6点 | あなたの子供が生みたかった- 水木三甫 | 2024/07/10 22:20 |
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新婚で妊娠中だった美春は、夫を事故で失い、そのショックで流産してしまう。どうにかうつ病から回復し、会社に復帰した美春の前に、一台の奇妙なバスが現れる。バスの終点となる、潰れたはずの旧市立病院で美春を待ち構えていたのは―。(あなたの子供が生みたかった)表題作ほか、「明るい葬式」「湖の記憶」「連続無差別殺人事件」「終着駅」「背徳の精算」「トモちゃん」「クレヨンで描いた町(大人のための童話)」全8編を収録。
前作と比べるとブラック度が上がった代わりに、奇想天外な話が少なくなった印象です。ちょっと期待し過ぎたかも知れません。それでも異色の短編集であるのは間違いないです。最もミステリ度が高いのは『連続無別殺人事件』で、これが私の好みとしてはトップですね。よくあるパターンかと思わせておいて、更に捻りを加えるという離れ業を短編でやる手腕は認められるべきでしょう。次点は表題作。 もう一息で7点だったと思います。この人は今後もこの路線で行くのだとしたら、どこかで壁にぶつかる気がします。似た様な短編集二作だけではやはり世間に認知されるのは難しいと思いますので、一度スイッチを入れ替えて長編でも描いてみてはどうでしょうかねえ。このままでは知らない間に消え去ってしまう事もあり得る訳で、思い切って他の出版社から長編を出して欲しいです。 |
No.1795 | 7点 | 乱歩殺人事件――「悪霊」ふたたび- 芦辺拓 | 2024/07/08 21:44 |
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1923年(大正12年)に「二銭銅貨」でデビューし、探偵小説という最先端の文学を日本の風土と言語空間に着地させた江戸川乱歩。満を持して1933年(昭和8年)に鳴り物入りで連載スタートした「悪霊」は、これまでの彼の作品と同様、傑作となるはずだった。
謎めいた犯罪記録の手紙を著者らしき人物が手に入れ、そこで語られるのは、美しき未亡人が不可思議な血痕をまとった凄惨な遺体となって蔵の2階で発見された密室殺人、現場で見つかった不可解な記号、怪しげな人物ばかりの降霊会の集い、そして新たに「又一人美しい人が死ぬ」という予告……。 期待満載で幕を開けたこの作品はしかし、連載3回ののち2度の休載を挟み、乱歩の「作者としての無力を告白」したお手上げ宣言で途絶した。 Amazon内容紹介より。 前半は乱歩が描いた、畢生の傑作となる筈だった『悪霊』がそのまま掲載されています。これが驚くことに一々漢字にルビが振られている。その為余計な神経を使わされて、却って読み難くなってしまっています。しかし、これは本当に乱歩が描いたものなのかと途中で何度も疑ってしまいました。何故なら、全然乱歩らしくないから。異論はあると思いますが、感覚としては現代の作家がそれらしく書いた様な印象を私は受けました。怪しげな雰囲気に反する、意外なほどの本格度の高さで、確かに完成していれば代表的な傑作となる筈だったのは疑いようがありません。 だからこれを書き継いで完成させたい欲求を覚えるのは、ミステリ作家としては真面な感覚だと思いますね。今回見事にそれを達成した芦辺拓、見直しました。作者が描いた解決編を読みながら、何度もほぉーと感心した私は変でしょうか。いやそんな事はありません。乱歩が途中で言葉は悪いけれど、放り出してしまったものを、良くぞここまで仕上げたものだと称賛を送りたい気持ちで一杯です。 |
No.1794 | 6点 | 黒と愛- 飛鳥部勝則 | 2024/07/06 22:12 |
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奇妙に傾く狂気の城、奇傾城――血と内臓と腐肉が主題の絵画が集う一室に幽霊が出没する噂がたち、「探偵」亜久は心霊特番に協力して城を訪れる。遅れて「霊能リポーター」役の女子高生、全身黒服の少女・黒が現れ、亜久にそっと囁いた。「あなたは、鋏が好きですか」……やがて密室状況で、黒と親しい男がくだんの部屋で首を切断された。これは幽霊の凶行か? 呪わしく美しい純愛(変愛)本格ミステリ
Amazon内容紹介より。 力作であることは間違いないと思いますが、力の入れる方向があらぬ方へ行ってしまって、異形の作品になってしまっている、というのは作者の意図した事なのかどうか。私には判断できません。取り敢えず序章で私の心が鷲掴みにされたのは確かです。その後はとても真面な本格ミステリとは思えない程様々な要素が入り混じり、何がどう絡んでくるのか見当も付きません。 密室のトリックは最初の方がやられた感がありましたね。二つ目はなんだかよく理解出来ませんでしたが、一応そうなのかとは思えました。あまり感心はしませんけど。 まあ、愛と憎悪と怪奇と意表を突くトリックと血の濃い臭いと奇形と狂気と夢現などがカオスの如く脈動する、怪作と呼んで差し支えないと思います。好き嫌いがはっきり分かれる類の小説でしょう。 |
No.1793 | 6点 | どちらかが彼女を殺した- 東野圭吾 | 2024/07/02 22:29 |
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「お兄ちゃん以外、信じられなくなっちゃった」
電話は切れ、妹は殺された。 愛知県交通課の兄・和泉は、 犯人への復讐を決意し、現場の証拠を隠蔽する。 容疑者は元恋人の男と親友の女。 決め手が見つからないなか、 練馬署の加賀刑事だけは兄の工作を嗅ぎ取る。 Amazon内容紹介より。 本作をノベルズ版で読んだ人はさぞかしモヤモヤしたでしょうね。何しろ犯人がどちらか書かれていない訳ですから。頼れるのは自身の推理のみ、自信のある人はどれだけいたんでしょうか。クレームの電話が殺到したのも已む無しですね。幸い私は文庫本で読んだので袋綴じである巻末の「推理の手引き」があった為、モヤモヤは回避出来たんですが、それでも犯人を断定するのに一抹の不安が残りました。全くどこまでも意地の悪い・・・。 最初から分かっていた事ですが、自分で推理せねばならないという命題を背負って読みました。解説そのままの引用にはなってしまいますが、読書中に思った事なので敢えて書きます、あまりに多くの手掛かりがばら撒かれて、どれが決め手なのか見当が付きませんでした。しかしそれは複雑なものではなく、至ってシンプルなものでした。残念ながらカタルシスは生まれませんでしたが。「手引き」がなかったらマイナス1点は堅かったと思います。それとは別に、自分がどれだけレベルの低い読者であるかを嫌でも自覚させられました。 |
No.1792 | 6点 | 赤い右手- ジョエル・タウンズリー・ロジャーズ | 2024/06/29 22:03 |
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ハネムーン途上のカップルとヒッチハイカーが出会ったとき、運命の歯車が異常な回転を始めた。悪夢の一夜に起こった連続殺人、その真相は? 独特の味わいを持つ狂気の本格ミステリ。
Amazon内容紹介より。 面白いのは最初と最後だけ。乱暴に言ってしまえば、途中飛ばしても問題なさそうだと思います。むしろ中盤は章立てがしていない為もあって、時系列がバラバラで把握しきれませんでした。私の集中力が足りなかったのかも知れませんけどね。訳者あとがきではその辺りを詳しく書かれているので、成程なと思いながら読んでいました。一部では刊行当時バカミスならぬヘタミスと呼ばれていたとか。私にとってはメチャミスです。もう少し構成を直して確りと章立てしてもらえたらプラス1点は付けたかもしれません。兎に角途中混乱させられて、どうにもすんなりと読み進められませんでした。 唐突に始まる推理のトリックに関してはオッと思わせるものがありました。しかし、全く現実的ではなく、警察を舐め過ぎではないかと感じました。例えば物理トリックなんかはリアリティがなくても理論的に可能(机上の空論だとしても)であれば納得出来ます。それに対して本作のトリックは別に探偵がいなくても、いずれ真相が発覚するのは理の当然で、読者を馬鹿にしているのではないかとさえ思えます。確かにトリックとして発想は悪くないと思いますけどね。期待が大きかっただけに私としては残念な結果となりました。 |