海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ 本格/新本格 ]
禁忌の子
山口未桜 出版月: 2024年10月 平均: 7.00点 書評数: 4件

書評を見る | 採点するジャンル投票


東京創元社
2024年10月

No.4 6点 HORNET 2024/12/29 19:52
 救急医・武田の元に搬送されてきた、一体の溺死体。その身元不明の遺体「キュウキュウ十二」は、なんと武田と瓜二つであった。彼はなぜ死んだのか、そして自身との関係は何なのか、武田は旧友で医師の城崎と共に調査を始める。しかし鍵を握る人物に会おうとした矢先、相手が密室内で死体となって発見されてしまう。自らのルーツを辿った先にある、思いもよらぬ真相とは――。第34回鮎川哲也賞受賞作。

<ネタバレ注意>
 搬送され、死亡した男性が自分と瓜二つだった、という不可解で衝撃的な冒頭は非常に魅力的。その後、不妊治療専門クリニックにたどり着き、「すべてを話す」と約束した院長がその約束の日に死んでいた…と、読ませる展開が続くのだが、一方で主人公・武田と「キュウキュウ十二」の関係はそこでうっすら見えてきてはしまう。その後は、その「答え合わせ」を進めていくようなところもあって、謎がどんどん深まっていくという展開とは違った。
 ただ最後にとんでもないどんでん返しがあり…さすがに予想外ではあったし、唸るものがあった。

No.3 7点 メルカトル 2024/12/08 22:14
救急医・武田の元に搬送されてきた、一体の溺死体。その身元不明の遺体「キュウキュウ十二」は、なんと武田と瓜二つであった。彼はなぜ死んだのか、そして自身との関係は何なのか、武田は旧友で医師の城崎と共に調査を始める。
Amazon内容紹介より。

確かに冒頭の謎は強烈なものがあります。しかし、これが医療ミステリである事を考えると自ずと先が読めてきます。その部分がもどかしいというか、予定調和的だったのが残念です。まあマジックではないのだから、自分と瓜二つの男の溺死体と言う時点で、真相は幾つかしかありえない事になりますね。しかし、本作の本領が発揮されるのはここからです。ミステリとしては密室の謎が最大の見せどころだと思います。この辺りのロジックはなかなか堂に入っており、新人とは思えないです。

それよりも、人間ドラマや先端医療の行き過ぎた結果の皮肉さに呆然とさせられます。ですから、本書は本格ミステリである前に医療ミステリなのです。本質はそこにあるので、不可能犯罪とかそういう要素は味付けの一つに過ぎません。
あとどうでも良い事ですが、気になったのは三人称の文章なのに、実質的には武田の一人称であるような書き方をしているところですね。何故終始武田の視点から描かれているのに一人称にしなかったのか、疑問に思います。どう考えても不自然でしょう。

No.2 7点 Rina 2024/12/04 10:59
ミステリにおける“謎”というのは、その作品の主役でなければならないと私は常々考えております。その観点から見れば、本作冒頭で提示される「主人公と瓜二つの溺死体」という謎は、本邦ミステリの中でも屈指の魅力的な主役であると言えるでしょう。
更に、本作が非常に優れている点は、その魅力的な謎を出発点としてスピーディーかつスリリングな展開を次々と連続させ、終盤では目を見張る程に華麗なロジックによる緻密な推理を繰り広げるというかなり詰め込んだ内容ながらも、常にリーダビリティの高い文章で読者を引っ張っているところにあると思います。
また、現役の医師でありながら子育て中の女性という作者だからこそ書けたテーマ・描写が作品の随所に見られた点も好印象でした。

No.1 8点 文生 2024/11/14 09:42
第34回鮎川哲也賞。
救急医の主人公が運び込まれた自分そっくりの溺死体を見て茫然するシーンは最高のオープニングでした。魅力的な冒頭の謎という点では申し分なしです。しかし、同時に、この謎がミステリのロジックで解明されるとは到底思えず、これは本当に本格なのかと疑問に思っていると、瓜二つの死体の真相は前半であっさりと明かされます。むしろ本番はここからで、第2の事件とそれに伴う探偵役の推理が読み応えありまくりです。真相も意表を突くもので本当に驚かされました。偶然が過ぎるという意見もありますが、偶然の連続で単純な事件が複雑になっていくといった類のものではなく、偶然は事件が起きる契機にすぎないのでその点は大きな疵ではないのではないでしょうか。運命のいたずらによって事件が起きるのは現実でもあることですし。個人的には、歴代鮎川哲也賞のなかでも屈指の傑作だと思います。特に気に入ったのは密室の扱い方です。トリックの解明には焦点を当てず、意外な真相を導くための手がかりとして密室を用いる発想に唸らされました。


キーワードから探す
山口未桜
2024年10月
禁忌の子
平均:7.00 / 書評数:4