海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2755件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.15 6点 終りなき夜に生れつく- アガサ・クリスティー 2015/10/17 08:48
(ネタバレなしです) 1967年に発表された、シリーズ探偵の登場しない本格派推理小説でマイケル・ロジャースの1人称形式で物語が語られます。クリスティー作品の1人称形式といえばエルキュール・ポアロシリーズのワトソン役のヘイスティグス大尉が登場する初期作品が有名だと思いますが、それと比べると何と人物描写の奥行きが深くなったことか。謎解きとしては過去作品に類似していて(二番煎じと言われても仕方ないと思います)、それを読んだ読者には真相が予想しやすいのが弱点ではありますけど、全体を覆う暗い雰囲気(ゴシック・ロマン風?)がこの作品を独特なものに仕上げています。余談ですが私の読んだハヤカワ文庫版の裏表紙解説では誰が死ぬのかを紹介していましたが、事件が発生するのは物語が半分以上進んでからなのでこれはフライングではないかとちょっと不満に思いました。

No.14 6点 予告殺人- アガサ・クリスティー 2015/08/22 05:56
(ネタバレなしです) 1950年発表のミス・マープルシリーズ第4作はマージェリー・アリンガムが誉め、クリスティー自身もお気に入りだった本格派推理小説です。犯人の小細工が多少やり過ぎ気味ではありますが伏線の張り方は丁寧で、しかもそれを読者に気づかせないカモフラージュの仕方が実に巧妙、まさに巨匠のテクニックを堪能できます。予告殺人という派手な演出に目が行きがちですがしっかり考え抜かれた動機も印象的です。クリスティ再読さんのご講評でお気に入りとされている、「みんな出かける、殺人に!」には私も思わずにんまりです。書かれた時代はもはや本格派黄金時代ではなく、当時であっても古めかしい作品だったと思いますがクリスティーはそれでいいのだと言いたいです。

No.13 8点 死との約束- アガサ・クリスティー 2015/08/11 08:07
(ネタバレなしです) 1938年発表エルキュール・ポアロシリーズ第16作の本書は、前年の「ナイルに死す」と同じく中東を舞台にした本格派推理小説です。「ナイルに死す」に比べるとプロットが地味で損していますが、内容的には勝るとも劣らぬ傑作だと思います。殺人は中盤まで発生しませんが、ボイントン家を中心にした人間ドラマが緊張感を生み出して読み手を退屈させません。もちろん謎づくりの方も手抜きなし、今回は注射器が重要な手掛かりのようでもありレッド・ヘリング(偽の手掛かり)のようでもあり、読者を翻弄します。ちょっとした小道具を使って謎を膨らませる手腕はさすが巨匠ならではです。そして白眉なのがポアロによる、関係者を一堂に集めての事件解明の場面です。めくるめくようなどんでん返しの連続には本格派ファンならしびれること請け合いです。

No.12 8点 ヘラクレスの冒険- アガサ・クリスティー 2015/07/25 04:42
(ネタバレなしです) 1947年に出版されたエルキュール・ポアロシリーズの短編集で、何とポアロが探偵からの引退を決意してギリシャ神話のヘラクレスの冒険にちんだ12の事件を解決して探偵活動に幕を引こうとします。ペットの誘拐、指名手配犯の追跡、失踪人探し、怪しげな宗教団体調査、盗難品の回収など多彩な事件が扱われているのは短編ミステリーならではです。ポアロが口コミの噂という難題に挑む「レルネーのヒドラ」、怪奇色の濃い「クレタ島の雄牛」(クリスティーとしては異例の動機が扱われている)、靴の手掛かりが印象的な「ヒッポリトスの帯」、余韻の残るエンディングの「ヘスペリスたちのリンゴ」などが私のお気に入りです。ちなみにポアロは本書の最後の事件を解決した後も引退はしません。まだまだ活躍は続きますのでご安心を。引退はどうした、と作者やポアロを責めたりはしないで下さいね(笑)。

No.11 6点 死人の鏡- アガサ・クリスティー 2015/06/22 00:29
(ネタバレなしです) 1937年出版のポアロシリーズの中短編集です(中編3作と短編1作)。中編は3作とも過去に発表された短編をリメイクしたものです。オリジナル短編は純然たる犯人当てミステリーですが、中編化によって登場人物の描写を充実させています。それが最も成功したのが「厩舎街(ミューズ)の殺人」でしょう。「謎の盗難事件」と「死人の鏡」は対照的な作品ですね。前者は中編化する必要性を感じない軽いテーマだし、後者は長編ネタでもおかしくないぐらい複雑なプロットです。唯一の短編「砂にかかれた三角形」は短編らしく小ぢんまりとまとまっていますがポアロの警告はなかなか印象的です。

No.10 7点 死が最後にやってくる- アガサ・クリスティー 2015/03/20 11:38
(ネタバレなしです) 歴史ミステリーを語る時にクリスティーが引き合いに出されることはまずないと思いますが、1945年発表の本書は古代エジプトを舞台にした唯一の歴史ミステリーです(非ミステリー作品には「アクナーテン」(1973年)という戯曲もありますが(私は未読です))。注目すべきは発表時期の早さで、歴史ミステリーの先駆的作品では他にジョン・ディクスン・カーの「エドマンド・ゴドフリー卿殺害事件」(1936年)やリリアン・デ・ラ・トーレの「消えたエリザベス」(1945年)が知られていますがこの2作は実際に起こった事件の研究論文的な作品で、小説として楽しめる内容ではありません。その点本書は謎解きと家族ドラマが融合された堂々たる本格派推理小説です。外面的な時代描写もありますが、登場人物が生と死についていろいろ考えている場面にこそ古代エジプトを舞台に選んだ意義があるように思います。考古学者の夫の助言を得られたから完成できたのでしょうね。前半は地味でゆったりした展開ですが後半はサスペンスに富む急展開が待っています。弱点とまでは言いませんが、意外と死ぬ人が多くて犯人当てが容易になってしまったようなところがあります。

No.9 7点 マギンティ夫人は死んだ- アガサ・クリスティー 2015/03/05 16:54
(ネタバレなしです) 1952年出版のポアロシリーズ第24作の本格派推理小説で、「ひらいたトランプ」(1936年)以来となる推理小説家アリアドニ・オリヴァが登場する作品でもあります。クリスティー自身をモデルにしたともされるオリヴァ夫人を気に入ったのか、彼女は本書以降の作品で何度もワトソン役として登場するようになります(その推理力はまるで当てになりませんが)。さて本書は既に有罪判決の出た事件の再調査という点で名作「五匹の子豚」(1943年)と共通しています。さすがに作品完成度では「五匹の子豚」に一歩譲るし、死刑執行前に解決しなければいけないというタイムリミットものにしては切迫感に乏しいですが、1950年代の作品の中では上位に属すると思います。どんでん返しの謎解きが鮮やかです。でも一番の謎はロマンスの行く末だったかも(笑)。

No.8 6点 シタフォードの秘密- アガサ・クリスティー 2014/12/01 00:20
(ネタバレなしです) 1931年発表のシリーズ探偵の登場しない本格派推理小説です。使われているトリックが有名ですが、使われ方があまりにもシンプルなので現代ミステリーの複雑なトリックに馴染んだ読者にはさすがに古臭く感じるかもしれません。もっともトリックだけに依存した作品でもないので今でもそれなりの面白さはあります。登場人物が多いのですが後年の名作「ナイルに死す」(1937年)などに比べると人物描写がまだ不十分なのは仕方ないとはいえ惜しまれます。

No.7 6点 ねじれた家- アガサ・クリスティー 2014/10/20 10:00
(ネタバレなしです) 1949年発表の、シリーズ探偵が登場しない本格派推理小説です。クリスティーのミステリーでは常に会話が重要な役割を果たしていますが特に本書では会話場面の占める割合が非常に高く、行動場面は少なくなっています。そのためか捜査が進展しない前半はサスペンスに乏しいですが、後半の劇的な盛り上げ方は(派手ではないけど)重い余韻を残します。このプロットなら人物描写をもっと深堀りして重厚な心理ドラマ路線を追求することも可能だったでしょうけど、作者としても読みやすさとの両立に苦心したのではないでしょうか。

No.6 8点 エッジウェア卿の死- アガサ・クリスティー 2014/08/29 15:38
(ネタバレなしです) クリスティーはプライヴェートの問題(謎の失踪事件)の後、精彩を欠いていたともいわれますが1933年に発表されたエルキュール・ポアロシリーズ第7作の本書では完全に復調していると思います。どんでん返しの連続で容疑が転々とするスリリングな謎解きを堪能できます。ちょっとなじみにくい手掛かりもありますが全体の中では大きな問題ではありません。なお米国版(創元推理文庫版)は「晩餐会の13人」というタイトルで出版され、こちらの方が魅力的なタイトルではありますが13人をきっちり描き分けていないので地味ながら英国版の「エッジウェア卿の死」の方が適切なタイトルかと思います。

No.5 10点 五匹の子豚- アガサ・クリスティー 2012/06/17 11:25
(ネタバレなしです) 1942年発表のエルキュール・ポアロシリーズ第21作の本格派推理小説です。既に有罪判決まで出た16年前の事件の再調査という難題にポアロが挑みます。ポアロはそれぞれの事件関係者(容疑者でもある)に事件の再構成をさせているのですが、ある意味繰り返しの連続です。しかしこれが全く退屈しないのですからすごい筆力です。味気のない証言ではなく、登場人物の心理状態もたっぷり織り込まれた物語となっているので読者が感情移入しやすくなっているのが成功の理由の一つでしょう。プロット、人物描写、謎解きと三拍子が揃った完成度の高い大傑作で、最後の一行も何とも言えぬ余韻を残して印象的でした。

No.4 10点 そして誰もいなくなった- アガサ・クリスティー 2011/08/23 17:41
(ネタバレなしです) 1939年発表のクリスティーの傑作中の傑作。何度も映画化されています。孤島ミステリーの先駆としてはアントニイ・バークリーの「パニック・パーティ」(1934年)よりも後発ですけどそんなことは本書の評価に影響しません。全員が探偵で、全員が容疑者で、全員が被害者(になるかも)という大胆極まりない設定を見事に描いています。推理物としては伏線が十分でないとか粗(あら)もいくつかありますが完成度を超越した面白さがあります。後世への影響も大きく、まさに古典的名作です。

No.3 8点 オリエント急行の殺人- アガサ・クリスティー 2011/01/25 16:57
(ネタバレなしです) 世界で最も有名な国際列車オリエント急行を舞台にした1934年発表のエルキュール・ポアロシリーズ第8作はアンフェアと批判されても仕方のない仕掛けの本格派推理小説です。しかしやはりこのアイデアの衝撃度は半端でなく、フェアかアンフェアかという問題さえどうでもよくなってしまいそう。好き嫌いはもちろんあるでしょうが、本書を推理史に残る傑作(或いは問題作)と位置づけられのに異議ありません。事情聴取場面が単調な繰り返しになって中盤まで読みにくいのはつらく、そこがちょっと減点理由です。

No.2 4点 象は忘れない- アガサ・クリスティー 2011/01/25 11:39
(ネタバレなしです) 1972年発表のポアロシリーズ第32作となる本格派推理小説です。この後シリーズ最終作として「カーテン」(1975年)が出版されましたがそれは死後発表用として(結果的には存命中に発表しましたが)ずっと以前に書かれており、執筆順としては本書が最後に書かれたシリーズ作品です。後期の作者が得意とする「回想の殺人」を扱っていますが沢山の容疑者の中から犯人を探す通常タイプのミステリーではありません。12年前に崖の上で撃たれた死体となって発見された夫婦のどちらが相手を殺したのかという風変わりな謎解きになっています。謎解きに関しては不満点が多く、特にコナン・ドイルの某作品のネタをそっくりそのまま使っているのはいかがなものかと。とはいえ本書で作者が試みたのは人間ドラマとしてどう決着させるかであり、そのために真相がご都合主義的になったのも納得できました。ルース・レンデルの「死が二人を別つまで」(1967年)をちょっと連想しました。

No.1 10点 アクロイド殺し- アガサ・クリスティー 2009/01/09 14:36
(ネテバレなしです) 1926年発表のポアロシリーズ第3作の本格派推理小説で、もはや伝説的な作品ですね。トリックの是非を巡って散々議論されています(そして結論は永久に出ないでしょう)。トリック以外はつまらないという意見もありますが、ポアロが登場人物全員が嘘をついていると宣言して1人ずつその嘘を暴いていく謎解きプロットも十分面白いと思います。麻雀(英国で人気ゲームだったのでしょうか?)しながらの謎解きディシュカッションも私のお気に入り場面です。幸いにして私はトリックを前もって知ることなく新鮮な状態で本書を読めました。クリスティー自身はこのトリックを考案したことをちょっと自慢しているようですが、実は他作家による前例があります。もしそれを先に知っていたら評価も変わったかもしれませんが、私は本書が初体験ですのでその時の感動で10点満点を与えます。

キーワードから探す
nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2755件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(78)
アガサ・クリスティー(55)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(41)
F・W・クロフツ(30)
A・A・フェア(27)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)