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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2755件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.35 6点 葬儀を終えて- アガサ・クリスティー 2016/08/27 09:12
(ネタバレなしです) 1953年発表のポアロシリーズ第25作はポアロの出番を控え目にしてアバネシー家の人々が織り成すドラマを中心にしたプロットになっています。謎解きとしても凝っていて、メイントリックにはちょっと無理もあるかなとは思いますがこのトリックが成立することによってある前提条件が大きく変わってしまうのが見事なアイデアです。多くの方がご講評で賞賛されていますがまさにミスリーディングの見本と言えるでしょう。1950年代のクリスティー作品の中で高く評価されているのも納得できます。

No.34 5点 杉の柩- アガサ・クリスティー 2016/08/26 08:36
(ネタバレなしです) 1940年に発表されたエルキュール・ポアロシリーズ第18作ですがハヤカワ文庫版の「文学的探偵小説」という紹介がまさにぴったりの作品です。特に前半部はロマンス小説の香りが強く漂う展開です。ヒロイン役であるエリノアの内心をわざと表に出さないことによってかえって読者に印象づけることに成功していると思います。専門知識が必要な手掛かりがあるので本格派推理小説としての謎解きはあまり高く評価できませんが前年の「そして誰もいなくなった」(1939年)とはまるで異なる作風になっていて、クリスティーの作家としての懐の深さを実感しました。

No.33 7点 火曜クラブ- アガサ・クリスティー 2016/08/23 18:54
(ネタバレなしです) クリスティーのシリーズ名探偵でエルキュール・ポアロの次に有名なのがミス・マープルで、編み物好きの物静かな老婦人という、まるで名探偵らしくない名探偵です。長編12作と短編20作で活躍していますがシリーズ作品だけでまとめられた短編集は1927年から1931年にかけて発表された13作を収めて1932年に出版された本書のみです。未解決事件または真相が公表されていない事件の謎を火曜クラブに参加した面々が推理する作品が6作、同じ趣向でバントリー家に集まった面々が推理する作品が6作(バントリー夫人が実にいい味出しています)、1作だけは普通に捜査描写のある謎解きです。アイザック・アシモフの「黒後家蜘蛛の会」シリーズに影響を与えた作品としても有名な短編集です。初期の短編だけあって内容濃厚な作品が多く、私のお気に入りは神秘的なオカルト・ミステリーの「アスタルテの祠」、ごく普通の行動が謎解きの決め手になった「クリスマスの悲劇」、(推理をちゃんと披露していないのは残念ですが)ユニークきわまりない結末が印象的な「バンガロー事件」です。

No.32 5点 七つの時計- アガサ・クリスティー 2016/08/19 15:14
(ネタバレなしです) 1929年発表の本書は「チムニーズ館の秘密」(1925年)の続編にあたる作品で、バトル警視をはじめ何人かの登場人物が共通していますので(前作とは独立した物語ですが)できれば前作を読んでからこちらに取り掛かるのを勧めます。スパイ・スリラー小説に属する作品ですが本格派推理小説の要素も十分に持っており、謎の組織「セブン・ダイヤルズ」の実体解明と殺人犯探しの両方でクライマックスが用意されています。ケイタラム卿親子が実に楽しいキャラクターぶりを発揮しています。

No.31 7点 クリスマス・プディングの冒険- アガサ・クリスティー 2016/08/18 18:08
(ネタバレなしです) いつの頃からはわかりませんが本国(英国)では「クリスマスにクリスティーを」という洒落たキャッチフレーズでクリスティーの新作を販売促進していたそうですが1960年に発表された本書はまさにこの宣伝文句にふさわしい短編集です。1920年代から1940年代にかけて書かれた作品(一部はリメイクされてますが)を寄せ集めたに過ぎず、しかもポアロ作品5作とミス・マ-プル作品1作というのは短編集としてはバランスが微妙に悪いように思います。とはいえなかなか充実した作品が揃っており、特に「スペイン櫃の秘密」は短編とは思えぬ深みのある物語で作者が自画自賛したのも納得の名作だと思います。謎解きは他愛ないですが「クリスマス・プディングの冒険」はクリスマスの雰囲気描写が見事だし、ちょっとオカルト・ミステリー風な「夢」も面白かったです。

No.30 5点 ひらいたトランプ- アガサ・クリスティー 2016/08/16 14:58
(ネタバレなしです) 空さんのご講評でも紹介されているように、1936年発表のポアロシリーズ第13作の本書は「ABC殺人事件」(1935年)の中でポアロが「手掛けてみたい事件」と言った通りの事件を扱っているだけあってなかなかの意欲作となりました。4人の容疑者対4人の探偵という珍しい設定に過去の事件と現在の事件の謎解きを組み合わせた複雑な本格派推理小説です。もっともポアロ以外の探偵役はバトル警視、アリアドニ・オリヴァ、レイス大佐といかにもな脇役キャラクターばかり揃えたので探偵競争というよりは連携捜査の色合いが濃いです。犯人は1人ですから主役探偵もポアロ1人に絞った方がよいと判断したのでしょう。問題は4人の容疑者が関係した過去の4つの事件が相互関連が全くないため、同時に4つの推理小説を読んでいるような感じがして結構読みにくかったことです。

No.29 6点 ポアロのクリスマス- アガサ・クリスティー 2016/08/14 01:39
(ネタバレなしです) 1938年発表のポアロシリーズ第17作となる本格派推理小説です。献呈序文で作者は作品が洗練されすぎているという批判に応えて血まみれの凶暴な事件を扱いたかったと述べています。なるほど血まみれの死体を用意しているし、クリスマスなのに少年少女は登場せず祝祭的な場面も全くありません。どちらかといえば暗い雰囲気です。でもこの作者ならではの優雅さや洗練さもちゃんと残っていて過度に重苦しくはなっておらずバランスの取れた物語だと思います。使われているトリックがちょっとひどいと思いますが(そんな小道具で騙せるのか?)、登場人物の心理描写に優れていて読み応えは十分以上のものがあります。

No.28 6点 メソポタミヤの殺人- アガサ・クリスティー 2016/08/13 06:20
(ネタバレなしです) クリスティーは考古学者の夫の仕事の関係で中東旅行するようになり、「ナイルに死す」(1937年)や「死との約束」(1938年)など中東を舞台にした作品を書いていますがそれらが観光ミステリー風だったのに対して1936年発表のポアロシリーズ第12作の本書は遺跡発掘現場を描いているせいか「東洋の神秘」的な雰囲気が濃厚です。ややもすれば暗くて重苦しい作品になるところをレザラン看護婦を語り手役にすることによってそうならないようにしているのはいい工夫だと思います。謎解きもかなり凝っていてクリスティーには珍しい不可能犯罪に挑戦したり、(ネタバレ防止のため詳しく書けませんが)あまりにも大胆な犯人の秘密(普通すぐばれるのではと突っ込みたい)などなかなかの力作です。

No.27 5点 カーテン- アガサ・クリスティー 2016/08/12 11:05
(ネタバレなしです) 本書はもともと自分の死後発表用にと1940年前後に書いて保管していた作品らしいのですが、もはや新作を書く力を失ったクリスティーが読者を待たせてはいけないと考えたのか亡くなる前年の1975年に出版したポアロシリーズ第33作にしてシリーズ最終作となった作品です。大胆過ぎるぐらいの真相と物議をかもしそうな結末のつけ方は読者の好き嫌いも分かれるでしょうが、半世紀以上に渡って世界の読者を楽しませたポアロ物語もこれでラストかと思うとそれだけで感慨深いものがあります。

No.26 6点 殺人は容易だ- アガサ・クリスティー 2016/08/11 12:19
(ネタバレなしです) 1939年に発表されたバトル警視登場の本格派推理小説です。もっともバトル警視は脇役的存在ですが。本書と同年にあの「そして誰もいなくなった」が発表されているのが興味深いどころです。どちらも大量殺人を扱っているのですが雰囲気がまるで違いますね。本書は舞台を田舎の村にしているせいかどこかのんびりした雰囲気が漂っていていかにもクリスティーらしい作品と言えるでしょうし、裏を返せば孤島を舞台にした「そして誰もいなくなった」はクリスティー作品としては異色で孤高の存在だったと言えるでしょう。十分に面白い内容なのですが「そして誰もいなくなった」と同時期の作品だったのがある意味不幸、シリーズ探偵が登場しないこともあって知名度が低いのはやむなしでしょうか。

No.25 5点 ビッグ4- アガサ・クリスティー 2016/08/07 07:57
(ネタバレなしです) 1927年発表のポアロシリーズ第4作ですがポアロが国際的な犯罪組織ビッグ4と対決するというスパイ・スリラー小説系統の作品でシリーズ最大の異色作です。アリンガムの「ミステリー・マイル」(1930年)とかマイケル・イネスの「アララテのアプルビイ」(1941年)とかパトリシア・モイーズの「第三の犬」(1973年)とか、英国では名探偵が犯罪組織やスパイ組織と対峙するミステリーは決して珍しくはないんですね。組織との直接対決はかなり後半になってからで、それまではいくつかの事件を(それぞれは独立した事件ですがどれもビッグ4が絡んでいます)ポアロが本格派の探偵風に推理で解決し、同時にビッグ4の情報を少しずつ集めていくという連作単短編風な展開になっています。最後は派手なシーンで壮大に締め括られます。気軽に読める作品ですがシリーズのイメージにそぐわないためか人気が低いのは仕方ないところでしょう。

No.24 5点 書斎の死体- アガサ・クリスティー 2016/08/03 05:06
(ネタバレなしです) 「よく知られたテーマで斬新な変化」を求めて1942年に発表した本書はミス・マープルシリーズとしては「牧師館の殺人」(1930年)以来となる複雑なプロットの本格派推理小説です。ミス・マープルの友人であるバントリー夫妻の家の書斎に死体が出現することがタイトルにつながっていますが、捜査範囲はバントリー家どころかセント・メアリ・ミード村の外にまで拡大して後半は書斎の存在感はなくなってしまいます。本書の特徴は舞台描写よりもむしろミス・マープルやバントリー夫妻とは世代的に相容れないような現代的な若者たちを登場させていることではないでしょうか。

No.23 6点 ホロー荘の殺人- アガサ・クリスティー 2016/07/31 01:02
(ネタバレなしです) 人気作家ゆえに批判もまた数多く浴びせられるクリスティーですが特に文学的ミステリー作家の代表とされるセイヤーズなどと比較されて人物描写に深みがないことが指摘されているそうです。それに対してクリスティーにだって文学的なミステリーが書けるんだと擁護派がよく引き合いに出すのが1946年発表のポアロシリーズ第22作である本書です。登場人物の内面が一人一人丁寧に描かれ、ロマンス描写も単純な相思相愛ではなく時には一方的だったり時には自虐的だったりと複雑です。ポアロの出番は物語が三分の一を経過してからようやくですが作者はポアロの起用について必ずしも満足していたわけではなかったそうで、1951年に本書の戯曲版を作った際には何とポアロ抜きの作品にしたそうです。それだけ個々の登場人物の存在感が強くてポアロを活かしにくかったのでしょう。とはいえ少ない出番ながらもポアロにもしっかり花を持たせており、「罠にかかった犬」のたとえ話は名せりふだと思うし、第29章最後のせりふも実に印象的です。

No.22 5点 無実はさいなむ- アガサ・クリスティー 2016/07/13 14:19
(ネタバレなしです) 1958年発表のシリーズ探偵の登場しない本格派推理小説です。クリスティー文庫版の(濱中利信による)巻末解説でも指摘されている通り、登場人物の個性がないわけではないのですが主人公不在の物語のためかクリスティーにしてはだらだらしたプロットに感じられます(あくまでもクリスティーとしてはですが)。部分的には優れたところもありますけど謎解きも粗いです。

No.21 5点 なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?- アガサ・クリスティー 2016/07/04 08:38
(ネタバレなしです) 1934年発表の本書(シリーズ探偵は登場しません)は推理もあるし犯人を終盤まで伏せているプロットではありますが冒険スリラーに属する作品です。特にエヴァンズの正体に本格派推理小説の謎解きを期待するとがっかりするでしょう。江守森江さんのご講評の通り、そこについては読者が推理する余地がありませんので。とはいえアマチュア探偵コンビの活躍は楽しく、難しく考えずに気軽に楽しめる作品としてはよくできています。

No.20 6点 鏡は横にひび割れて- アガサ・クリスティー 2016/06/13 02:30
(ネタバレなしです) 1962年発表のミス・マープルシリーズ第8作で、1960年代のクリスティーを代表する作品とされています。ホワイダニットを重視した本格派推理小説と評価されることも多いですが、犯人の正体を最後まで隠したフーダニットでもあります。ただ被害者がなぜ殺されたのかが謎解きの中心となっているので、犯人当てを期待する読者は動機に比べて機会や手段についての探求が少ないと感じるかもしれません。また謎解きプロットとしては中盤まで盛り上りを欠き、ミス・マープルも日常生活描写の方が目立ってしまうほどです。しかし締めくくりはなかなか印象深いものがあり、事件の悲劇性の演出が見事です。推理物として弱くてもちゃんとアピールポイントがあるところはさすがに巨匠といったところでしょうか。

No.19 5点 蒼ざめた馬- アガサ・クリスティー 2016/05/26 14:37
(ネタバレなしです) 殺された神父が死の直前に書き記したメモには9人の名前が残されており、警察がその身元を調べていくと既に亡くなった人物が次々と浮かび上がって来るがいずれも病死としか思えなかったいうプロットの1961年発表の本格派推理小説です。シリーズ探偵は登場しませんがポアロシリーズ後期作に登場するアリアドニ・オリヴァ夫人が顔を見せているのが読者サービスになっています(但し本書では探偵活動はしません)。また「ひらいたトランプ」(1936年)や「動く指」(1943年)の登場人物も再登場しています。オカルト本格派のように紹介されることもあり、確かにそういう一面もあるのですがそれほど不気味な雰囲気はなく、案外淡々と物語は進みます。謎解きプロットはクリスティーとしては粗い出来で、かなりご都合主義的に解決へと進んでいくような感もあります。もっとも第7章で主人公のマークが「どうしてリストと蒼ざめた馬を結びつけたのだろう」と述懐しているように作者自身もそれは先刻ご承知のようですが。余談ですが冒頭に登場するバナナ・ベーコン・サンドイッチって食べてみたいような、みたくないような...。さすがサンドイッチの発祥地イギリスですね(笑)。

No.18 5点 ハロウィーン・パーティ- アガサ・クリスティー 2016/05/18 19:25
(ネタバレなしです) 1969年発表のエルキュール・ポアロシリーズ第31作の本格派推理小説でタイトル通りハロウィーン・パーティーの最中に殺人が起こります。「第三の女」(1966年)と同じく本書でも回想の殺人を扱っていますが、どの未解決事件を追わねばならないかをまず絞り込まねばならない展開にはもどかしさを感じます。それにポアロの謎解き説明を聞くと現在の殺人だけでも十分犯人を特定できたのではという疑問もあり、いやに遠回りして解決しているような気がしました。ところどころではっとするような美しい描写があり、幻想的な雰囲気を醸し出しているのが印象的です。

No.17 8点 スタイルズ荘の怪事件- アガサ・クリスティー 2016/05/12 18:07
(ネタバレなしです) 問答無用のミステリーの女王、英国のアガサ・クリスティー(1880-1976)の1920年発表のデビュー作がエルキュール・ポアロシリーズ第1作の本書です。実は1916年には既にほぼ完成されていてあちこちの出版社に送ったけど全く陽の目を見ず、ようやく1920年になって出版されたそうです。粗削りな部分がないわけではありませんが、時代を考えるとかなりハイレベルな本格派推理小説だと思います。登場人物の間を容疑が転々としていく展開が見事で、謎づくりの巧妙さと謎解きの面白さが早くも発揮されており、E-BANKERさんが「デビュー作とは思えないほどのクオリティ」、miniさんが「クリスティーはデビュー時からクリスティーだった」とご講評されているのに私も賛成です。本格派黄金時代の幕開けを飾る作品と評価されるにふさわしい作品です。

No.16 5点 鳩のなかの猫- アガサ・クリスティー 2016/01/16 23:27
(ネタバレなしです) 1959年発表のエルキュール・ポアロシリーズ第28作です。本格派推理小説としての出来栄えですが、空さんがご講評で「ずうずうしい」とコメントされているのに私も賛同で、あの真相は読者に対してアンフェアな謎解きだと思います。国内本格派の作家でも似たようなことをやっているのを何度か読みましたが何度読んでも失望させられます。それでも誘拐事件の大胆なトリックは(過去の短編に似たようなアイデアがありますが)なかなか印象的だし、冷酷な犯罪物語に冒険スリラー色を加えて独特の味わいを出しています。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2755件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(78)
アガサ・クリスティー(55)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(41)
F・W・クロフツ(30)
A・A・フェア(27)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)