皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2865件 |
No.165 | 6点 | キリオン・スレイの生活と推理- 都筑道夫 | 2010/09/27 21:47 |
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(ネタバレなしです) 長編1作と短編集3作で活躍するキリオン・スレイシリーズの1972年発表の第1短編集です。発表時にはちゃんとタイトル付きの短編だったのを、短編集を編集した際にはタイトルを削除して「なぜ」で始まるサブタイトルのみが残りました。「なぜ密室から凶器だけが消えたのか」(原題は「溶けたナイフ」です)のような不可能犯罪風な事件さえも、「どうやって」よりも「なぜ」を謎の主眼に置いています。トリックにはあまり多くを期待しない方がいいと思います。ユーモア本格派推理小説に属しますが謎解きはしっかりしており、理詰めというよりはちょっとした伏線から推理をどんどん飛躍させているような感じを受けましたが、作品の質は均一です。 |
No.164 | 7点 | つきまとう死- アントニー・ギルバート | 2010/09/10 11:10 |
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(ネタバレなしです) ギルバートが1956年に発表したクルック弁護士シリーズ第30作にあたる本格派推理小説です。わがままで大金持ちの家長、それに振り回される家族、謎めいた過去を持つ女性とミステリーネタとしてよくあるネタを使っていますがそれらをうまく組み合わせて新鮮な驚きとサスペンスを提供することに成功しています。クルックも登場場面が少ないながらしっかり存在感を示しており、謎解き伏線の張り方も巧妙です。 |
No.163 | 6点 | 水の迷宮- 石持浅海 | 2010/09/10 10:26 |
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(ネタバレなしです) 水族館に何者から脅迫じみたメールが届き、水槽に悪質な悪戯が仕掛けられ、ついには殺人事件が起きてしまう2004年発表の本格派推理小説です。光文社文庫版の(辻真先による)巻末解説の通り、これは「甘い」です。賛否両論あるでしょうが、否定派は「感動の押し売り」を感じてしまうかもしれません。甘口なのでこの種の結末を何冊も読まされれば辟易してしまいますが、たまに読む分にはメロドラマもいいのではと思います。事件の真相は偶然頼みの部分もありますが本格派推理小説としての謎解きはしっかりしています。 |
No.162 | 7点 | 眠れるスフィンクス- ジョン・ディクスン・カー | 2010/09/07 19:01 |
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(ネタバレなしです) 1947年発表のフェル博士シリーズ第17作で、カーの作品の中ではそれほど有名ではないようですがなかなかの出来栄えの本格派推理小説だと思います。納骨堂のトリックなどはトリックのためのトリックで終わったような感もありますが、本書の成功要因はTechyさんのご講評で指摘されているように物語性だと思います。大切に思う人が犯人ではないかという疑惑がどんどん増していく展開とどんでん返しの推理が生み出すサスペンスが出色の傑作です。皮肉たっぷりのエンディングも印象的です。それから本筋とは関係ありませんが、過去にフェル博士がもみ消した事件のことが紹介されています。あのもみ消しはしっかりばれていたんですね。フェル博士、立場がやばいんじゃないですか(笑)? |
No.161 | 4点 | びっくり館の殺人- 綾辻行人 | 2010/09/07 16:29 |
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(ネタバレなしです) 館シリーズ前作の「暗黒館の殺人」(2004年)の圧倒的ボリュームに読者の多くは驚いたでしょうが、2006年発表のシリーズ第8作の本書が子供向けミステリーだったことにはもっと驚いたのではないでしょうか。もっとも子供向けとしては雰囲気が重苦し過ぎるように思えますし、結末は(ハッピーエンドかどうかは別にしても)はっきりと決着させてほしかったです。また、一部の部屋ばかりに焦点が当たっていて、「館全体が持つオーラのようなもの」が感じられなかったのも残念でした。 |
No.160 | 5点 | もう生きてはいまい- ハーバート・ブリーン | 2010/08/30 21:31 |
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(ネタバレなしです) 「ワイルダー一家の失踪」(1948年)の後日談的な1950年発表のレイノルド・フレイムシリーズ第3作の本格派推理小説で、前作のネタバレはしていませんができればあちらを先に読むことを勧めます。独立戦争時代に負傷した英国将校が死亡した部屋で、寝る時にはなかったランプが出現したり英国軍の行進する音が聞こえるといった謎にはオカルト要素もありますが雰囲気としてはあっさり目です。とはいえこれはある意味正解で、風呂敷を広げ過ぎない分、(予想通りの)B級トリックが使われていてもあまり失望しませんでした。シンプルなプロットと(意外と)複雑な真相の対比が楽しめますが、ハヤカワポケットブック版の訳がさすがに古くて読みづらいのが残念です。 |
No.159 | 6点 | ドーヴァー6/逆襲- ジョイス・ポーター | 2010/08/30 21:11 |
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(ネタバレなしです) 1970年発表のドーヴァーシリーズ第6作は大地震でパニックの最中の殺人というアイデアが秀逸な本格派推理小説です(イギリスって地震とはあまり縁がなさそうなイメージがあります)。巧妙な手掛かりによる推理も光ります。(トイレネタが多いですが)ユーモアも好調です。ところが...。それまでの雰囲気が大きく変わるような最後の一行には愕然としました。確かにインパクトは強烈ですが、これはなかった方がよかったのでは?悩みながらの採点となりました。 |
No.158 | 6点 | 拷問- ロバート・バーナード | 2010/08/30 21:01 |
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(ネタバレなしです) 1981年発表のペリー・トリソワンシリーズ第1作で、変人揃いの一族と縁を切っていたぺりー・トリソワン警部が父レオの怪死事件を調べます。しかしこのタイトルでは敬遠する読者も多いのではないでしょうか。拷問による肉体的苦痛とトリソワン警部の精神的苦痛を暗示するタイトル(英語原題は「Sheer Torture」)に嘘偽りはありませんけど。直接的な暴力描写やエログロ描写はなく、すっきりした文章で読みやすい作品です。すっきりし過ぎて登場人物のエキセントリックさまでがうまく伝わっていないところもありますが、それでいて謎解きは本格派黄金時代の作品と遜色ないほどしっかり考え抜かれています。 |
No.157 | 5点 | 死の周辺- ヒラリー・ウォー | 2010/08/30 20:33 |
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(ネタバレなしです) 1963年発表のフェローズ署長シリーズ第6作ですが、犯罪小説が3分の2、警察小説が3分の1という構成のシリーズ異色作です。「事件当夜は雨」(1961年)や「冷え切った週末」(1965年)のような地道な謎解き要素はほとんどなく、代わりに脱獄囚の心理描写や段段とエスカレートしていく悪事でサスペンスを盛り上げています。読みやすさは抜群だし決して悪い出来ばえではないのですが、このシリーズならではの作品かというと微妙な違和感を覚えます。 |
No.156 | 6点 | スウェーデン館の謎- 有栖川有栖 | 2010/08/30 16:16 |
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(ネタバレなしです) 1995年発表の火村英生シリーズ第4作の本格派推理小説で、雪の上の足跡の謎と論理的推理の組み合わせに事件の背景にある悲劇性の演出にまで取り組んだ意欲作です。磯田和一との共著「有栖川有栖の密室大図鑑」(1999年)で自作代表として紹介しているだけあってトリックはなかなかのもの。既存トリックの応用ですがよく練り上げられており、しかも論理的解決と有機的に結び付けてあってトリックだけ浮き上っていないのが素晴らしいです。悲劇性の演出はもう一工夫ほしいところですが、謎解きが充実しているので個人的には十分満足です。犯人を当てられなかったのはまあよくあることとあきらめもつくのですが、川とバケツのパズルが解けなかったのが悔しい...(笑)。 |
No.155 | 3点 | 死の笑話集- レジナルド・ヒル | 2010/08/17 22:06 |
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(ネタバレなしです) 2002年発表のダルジールシリーズ第18作で、軽そうなタイトルとは裏腹に650ページ近い分量で読者を圧倒する巨大な作品です。厚さだけではなく作者得意の複数のエピソードを並行して絡ませる複雑な構成をとっており、更には過去作品の「武器と女たち」(2000年)や「殺人のすすめ」(1971年)と密接なつながりを持っているプロットの奥深さは凄いんですけど、凡庸な頭脳の持ち主である私にはとてもついていけない世界でした。また前作の「死者との対話」(2001年)の後日談にもなっていて、曖昧なままだった物語にある種の決着をつけています。というかこれでは前作は中途半端に未完だったように感じてしまいます。本格派推理小説としての推理の楽しみもなく、探偵役(ダルジールにしろパスコーにしろ)が特に活躍することもありません。最後はちょっと感動的な場面がありますが、私はあまりの難解さにぐったりでした。 |
No.154 | 6点 | 密室の鍵貸します- 東川篤哉 | 2010/08/06 11:40 |
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(ネタバレなしです) 有栖川有栖が「ユーモア本格派のエース」と激賞した東川篤哉(ひがしがわとくや)(1968年生まれの)の2002年発表のデビュー作です。派手な爆笑よりもくすくす笑いを誘うようなユーモアを特徴とし、すれ違いや勘違いを随所にばら撒いて読者を混乱させながら謎解き伏線を巧妙に配置する手腕は確かなものです。もっとも探偵役に「僕らはヴァン・ダインとは違うのだし」と言わせるほど珍しい真相の捻り方はアンフェアだと感じる読者がいるかもしれません(横溝正史の某作品にもこの真相パターンがあったような記憶が...)。それさえも軽妙な文体のおかげで、まっいいかと思わせてしまうのですが。 |
No.153 | 5点 | 変調二人羽織- 連城三紀彦 | 2010/07/22 18:29 |
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(ネタバレなしです) 1981年発表の第2短編集ですが収容されている作品はデビュー作の表題作など初期作品ばかりです。父親の「どれを読んでもすぐ犯人がわかってしまうので退屈だ」という不満がミステリーを書くきっかけというだけあって結末の意外性を追求した作品が多いです。もっとも普通に犯人当てをしている作品は表題作ぐらいで、本格派系の作品でも読者が推理に参加しにくいプロットの作品が多いのですが。個人的に1番意外性を演出できたと感じたのは犯罪小説の「依子の日記」でした。 |
No.152 | 6点 | 人それを情死と呼ぶ- 鮎川哲也 | 2010/07/15 20:11 |
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(ネタバレなしです) 松本清張の大ヒット作「点と線」(1958年)を強く意識して書かれた1961年発表の本格派推理小説です。鬼貫警部シリーズ第5作でありますが彼が登場するのは後半からだし、真相に限りなく近づきながらも事件の締めくくりには出番がありません。この作者は読者の感情に訴えるような文章を書くのは得意でないと思っていましたが、本書の哀愁溢れるエンディングには驚かされました。何度か映像化されたというのも納得できます。 |
No.151 | 3点 | ハートの4- エラリイ・クイーン | 2010/07/09 10:54 |
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(ネタバレなしです) 1938年発表のエラリー・クイーンシリーズ第13作では「悪魔の報酬」(1938年)の続編にあたる作品で(前作ネタバレはありません)、ハリウッドを舞台にしたユーモア本格派推理小説です。前作以上にどたばたやロマンスが派手になっており、なるほど私のイメージするハリウッドらしさも十分に堪能できました。しかし「悪魔の報酬」では論理的推理による謎解きもしっかりできていたのに本書はどたばた描写ばかりが目立ちすぎて推理の説得力が弱く感じられます。 |
No.150 | 6点 | 悪魔パズル- パトリック・クェンティン | 2010/06/16 19:14 |
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(ネタバレなしです) 後年(ウエッブが引退してホイーラー単独執筆時代)にはサスペンス小説路線へと切り替わる作者ですが、1946年発表のダルース夫妻シリーズ第5作(といっても実質はピーターのみの登場作品)の本書においても本格派推理小説よりサスペンス小説の要素が色濃く表れています。前半は陰謀に巻き込まれた(らしい)主人公がたっぷりと描かれ、中盤からは犯罪小説風な展開になり退屈させませんが謎解きの醍醐味は希薄です。最後は推理も披露されて謎解き伏線も回収されますが犯人の正体が判明してからの後出し気味の感があります。よくできた作品ですが個人的な好みの点では「俳優パズル」(1938年)や「悪女パズル」(1945年)の方に軍配を上げます。 |
No.149 | 4点 | 4000年のアリバイ回廊- 柄刀一 | 2010/06/01 11:43 |
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(ネタバレなしです) 「3000年の密室」(1998年)の姉妹作的な1999年発表の本格派推理小説です(前作ネタバレはありません)。光文社文庫版の巻末に紹介されている参考文献の多さにびっくり。1冊書くのにここまで下調べしていることに感心しました。ただ小説としての面白さという点では残念ながら満足できませんでした。地の文も会話も抑揚に乏しく展開も地味過ぎます。過去(4000年前)の謎はユニークですがDNA鑑定の結果から生じた謎なので芦辺拓の「十三番目の陪審員」(1998年)のような作品を読んだ読者には「そもそも鑑定方法に問題はないのか」という疑惑が先立って、推理の楽しみが減ってしまうと思います(ちなみに芦辺作品のネタバレにはなってません。念のため)。 |
No.148 | 5点 | 原罪の庭- 篠田真由美 | 2010/04/29 13:44 |
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(ネタバレなしです) 1997年発表の桜井京介シリーズ第5作にして作者が「本書をもって第一部を終了する」と宣言した本格派推理小説です。この第1部、5作品中3作品が回想の殺人を扱っており、出版順と作中時代順がずれています。それでいながらシリーズとしての統一感が強固なのは回想を通じてシリーズキャラクター同士の関係を構築することに成功しているからだと思います。本書は作中時代的には早期の事件簿にあたり、京介とあるシリーズキャラクターの出会いが描かれていますが本書からシリーズ作品を読み始めるのは勧めません。人間関係が安定した第1作「未明の家」(1994年)から先に読む方が作品世界になじみ易いと思います。読み応えのある作品ではありますが本格派推理小説としては自白で明らかになる真相が多くて推理に関しては物足りないです。また色々な意味で「心の傷」描写が多いのも好き嫌いが分かれるかもしれません。 |
No.147 | 6点 | ユリ迷宮- 二階堂黎人 | 2010/04/22 11:55 |
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(ネタバレなしです) 1つの大きな城館がたった半日の間に建っていた場所から跡形もなく消え失せる「ロシア館の謎」、三重の密室で起こった殺人事件の「密室のユリ」、そして死を予告する手紙が次々と舞い込む「劇薬」、二階堂蘭子の活躍する3つの中短編を収めた1995年出版の第1短編集です。200ページを超すので長編といってもよさそうな「劇薬」(講談社文庫版では中編と紹介されています)はどうやって毒を飲ませたのかというハウダニット要素の強い作品で、丁寧に謎解き伏線を張っていますが小粒で地味な作品です。デビュー作の「地獄の奇術師」(1992年)やそれより先に完成された「吸血の家」(1992年)よりも更に早く書かれたらしいのでまだ作風に余裕がないとも言えそうです。「ロシア館の謎」はロマンの香りと大トリックの絡ませ方が素晴らしい逸品で、これだけなら8点評価に値します。「密室のユリ」は自信満々の犯人が案外と他愛もなく逮捕されているのが拍子抜けでした(それだけ名探偵が優秀といえますが)。 |
No.146 | 5点 | ゴールド1 密室- ハーバート・レズニコウ | 2010/04/09 15:56 |
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(ネタバレなしです) 米国のハーバート・レズニコウ(1920-1997)は建築技師のライセンスを持ち建築会社を設立していましたが、財政上の問題と健康上の問題(心臓発作)から作家業に手を染めるようになったそうです。ゴールド夫妻シリーズ第1作となる1983年発表の本書がそのデビュー作です。内容的にはプロットのしっかりした本格派推理小説で、密室トリック自体はそれほど印象に残るものではありませんが丁寧に謎解き伏線を張ってあり、犯行現場の緻密な描写は建築家出身の作家ならではのものがあります(見取り図を付けてほしかったですが)。建築業界という一般的にはなじみにくい舞台背景が気にならなければ読みやすい作品です。ただ問題は探偵役のアレックス・ゴールドが非常に共感しにくい人物に描かれていることでしょう。彼の発言は毒舌を通り越して言葉の暴力に近いように思えます。弱い人間に対してはそうでないとフォローが入っていますがそういう場面がほとんど描かれず、妻のノーマや容疑者に対する非難や挑発まがいの言動がしつこく描かれているのに正直げんなりしました。第12章では容疑者の1人に巧く反撃されていますが、どちらかいうと容疑者の方に肩入れしてしまいましたよ(笑)。 |