皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
空さん |
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平均点: 6.12点 | 書評数: 1505件 |
No.30 | 7点 | メグレ、ニューヨークへ行く- ジョルジュ・シムノン | 2010/05/31 23:22 |
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タイトルどおりの発端から始まる作品。シムノン自身アメリカに移住してすぐ、1946年に書かれた作品ですから、ニューヨークに対するメグレの感想は、シムノン自身の意見とも重なるのでしょう。英語があまりできないというだけでなく、習慣の違いなどにいらいらさせられる様子が鮮やかに伝わってきます。
事件は、ニューヨークに住む父親が心配なので、メグレに一緒についてきてくれと依頼した青年が、アメリカに入国するなり姿を消してしまう、というあいまいなものです。さらに轢き逃げによる老人殺しが起こり、どうやら事件の裏はジュークボックスの製造販売で大成功した父親の過去にありそうだ、ということになりますが、真相自体はシムノンにしてもまあまあといったところです。しかしその結末まで持って行く過程、登場人物たちの造形描写がさすがにうまく、かなり楽しめました。 |
No.29 | 6点 | メグレと老婦人- ジョルジュ・シムノン | 2010/05/19 21:38 |
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『メグレと老婦人の謎』評で臣さんも書かれてるようにまぎらわしいタイトルですが、先に出版された本作の邦題は原題直訳です。
最初読んだ時には、おもしろいと思わなかったのですが、それはたぶん初期作品のような雰囲気を求めていたせいだったのでしょう。久々に再読してみたらなかなか楽しめました。 シムノンにしては謎解きの度合いがそれなりに高い作品で、ちょっとした秘密と犯人の企みが隠されていて、伏線もしっかり張ってあります。終わりに近づくにしたがって登場人物たちの醜さが暴かれていき、嫌な話という感じがだんだん強まってくるところ、個人的には今回の再読では気に入りました。 訳者は日影丈吉。特に会話など、メグレが「会いたいッてのかね?」とか「それは、あなた次第でさ、部長」とか言っていたりして、いつものシムノン調を崩すような言葉遣いですが、独特な味はあります。 |
No.28 | 7点 | メグレのバカンス- ジョルジュ・シムノン | 2010/05/05 15:18 |
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8月、港町にバカンスにやってきたメグレ夫妻でしたが、メグレ夫人は虫垂炎で入院という破目に。
修道院がやっているクリニックに夫人を見舞うシーンから本作は始まります。シスターたちが行きかうその独特な雰囲気に、聖歌隊の少年だった頃を思い出すメグレ。あまりミステリらしくない書き出しですが、事件が起こってメグレが独自の捜査を始めると、このシリーズ中でもかなりサスペンスのある話になってきます。 容疑者はほとんど最初から1人に絞られているのですが、動機がわからず事件の全体像がなかなか見えてきません。その上、さらに殺人が起こり、しかも事件はまだ続きそうだという展開は、アイリッシュ等に比べるとのんびりしているようでいて、妙に緊迫感があります。 |
No.27 | 5点 | メグレ再出馬- ジョルジュ・シムノン | 2010/04/17 12:24 |
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メグレ・シリーズの中でも、ちょうど転換期にあたる作品です。本作発表後、シムノンは一時メグレものを中断し、『倫敦からきた男』や『仕立て屋の恋』等犯罪を絡めた純文学を書くようになります。
内容的にも、シリーズ中断作(終了のつもりだった?)らしく、メグレ退職後の事件となっています。刑事になったものの、悪賢い悪党どもの罠にかかって殺人の罪を着せられそうになった甥のために、田舎暮らしをしていたメグレが再出馬することになります。 最初から事件の黒幕はわかっていて、その人物をどうやって追い詰めていくかということでは、『男の首』にも似たところがあると言えるでしょうが、悪役は犯罪のプロ、一方のメグレは警察を引退してしまっているというところが、大きな違いを生んでいます。悪役の人物像を最後の対決で見せていくところが、うーん、採点としてはこんなものかなというところ。 |
No.26 | 7点 | 可愛い悪魔- ジョルジュ・シムノン | 2010/04/02 21:37 |
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本作もハヤカワ・ミステリのシリーズから出ていたので評価対象にしていますが、ミステリ度は非常に希薄です。それでもあえて評価対象とした以上、ミステリ度がどうであれひとつの作品そのもの(エンタテインメントあるいは芸術)として評価すれば、この点数になります。
主人公悪徳辣腕弁護士(ペリー・メイスンのような意味で)の一人称覚書スタイルで書かれた作品です。しかし裁判でのスリリングなかけひきもありませんし、最後に起こる殺人にしても、その結末に向かっての伏線を張った収束感はありません。それでも、弁護士の独白の味わいには、何とも言えないうまみがあるのです。 発表2年後の1958年に映画化され、本のタイトルも映画邦題のままです。原題は「もしもの場合」「緊急時のために」といったような意味合い。 映画版は見ていないのですが、可愛い悪魔という言葉が似合うブリジット・バルドーとは、原作から受けるイヴェットの印象はかなり違い、むしろみすぼらしい感じがします。弁護士も自分でガマガエルみたいだと言うのですから、ジャン・ギャバンのかっこよさはありません。しかし、そこが味なんですねぇ。 |
No.25 | 5点 | メグレと優雅な泥棒- ジョルジュ・シムノン | 2010/03/17 21:52 |
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パリ郊外、ブローニュの森で発見された優雅な泥棒(原題によれば怠惰な泥棒ですが)キュアンデの死体。メグレは連続強盗事件の捜査指揮を執っている最中だった、という導入部です。
こういう書き出しだと、普通その2つの事件がどうつながってくるかというところが興味の中心になりますが、そのような展開を期待していると肩すかしを食います。本作では結局2つの事件は交わることなく、それぞれの決着を見ることになるのです。 一方は殺人者が司法の手間をはぶいてくれたと言われんばかりの扱いをされる泥棒殺し、もう片方はマスコミで大きく取り上げられる強盗事件、その両極とも言える2つの事件を対比させ、泥棒殺しにおける被害者の風変わりな性格や人情味の方により興味を引かれるメグレ警視の視点を描くのが、作者の狙いです。 その狙いはわかりますし、地味(滋味)と派手の描き分けもさすがの手際ではありますが、後は好みの問題で、この点数ということで… |
No.24 | 6点 | オランダの犯罪- ジョルジュ・シムノン | 2010/03/04 20:51 |
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今回の舞台であるオランダの東北部海沿いの町デルフザイルは、シムノンがヨーロッパを周遊していた船上で最初のメグレものを書き始めた場所でもあります。オランダらしく運河が町中を流れ、船乗りたちがたむろする、初期メグレものらしい土地です。ただし季節は5月で穏やかな陽気なので、これもおなじみの霧雨や吹雪はありません。メグレを通して語られる町の第一印象は静けさです。
異国でフランス人の犯罪学者が殺人事件の容疑者になってしまい、司法警察に誰かの派遣が要請され、メグレが出かけていくことになるのです。 メグレが心理的なことではなく具体的な証拠によって捜査を進めるべきだと語るところがあるのですが、皮肉まじりではあるにせよ、メグレがこんなことを言うなんて珍しいことです。珍しいと言えば、最後に彼が関係者たちの前でクイーンみたいに厳密ではないにしても消去法推理を披露するのもそうですね。 |
No.23 | 4点 | メグレを射った男- ジョルジュ・シムノン | 2010/02/15 22:13 |
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原題直訳は『ベルジュラックの狂人』、その地の近くに気楽な出張に行ったメグレが撃たれて、大けがを負ってしまうところから始まる事件です。
メグレが連続殺人の犯人と誤解されてしまったり、ホテルのベッドに寝たままのメグレが、退職してその地に住んでいる元同僚やメグレ夫人をこきつかって事件の情報を収集したりと、普段の落ち着いたメグレとは一味違う皮肉めいたユーモアがある作品です。訳文のせいもあるでしょうが、同時期の他の作品より文章も軽い感じがします。 軽いのはいいのですが、最後の解決まで普段の落ち着きを欠いているように思われるところは不満です。メグレの推理は裏づけにとぼしく、説得力があまりありません。1979年に河出書房から出版されるまで、初期メグレものの中では唯一翻訳が出ていなかった理由も理解できる失敗作だと思います。 |
No.22 | 6点 | 霧の港のメグレ- ジョルジュ・シムノン | 2010/01/30 21:01 |
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初期メグレものの中では長めの作品で、章立てもいつもより少し多めの13章になっています。
タイトルどおりというか、より正確には夜霧、それも濃霧に包まれた港が舞台です。港のあるのは北フランスで時期は10月末。 その霧の中、メグレは自ら一晩中張り込みを続けたり、手足を縛られて波止場に放置されてしまったりと、今回の事件ではかなり散々な目にあいます。おまけにパリから助っ人に呼び寄せたリュカ刑事まで出し抜かれて。 事件に何らかの関係がありそうな人物たちは半ばあたりまでで出揃います(一人正体不明の人物がいますが)。パズラーではないので、単なるレッド・へリング人物はいません。ところがみんな嘘をついたり黙秘したり、リュカが途中で弱気になるほどです。舞台や事件の裏の扱いなど、全体的に『黄色い犬』との共通点を感じさせる作品でもあります。 |
No.21 | 6点 | メグレと深夜の十字路- ジョルジュ・シムノン | 2010/01/14 21:04 |
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初期メグレものといえば、雰囲気重視の落着いた人情話という印象が強いと思います。しかし、本作の事件はコメリオ予審判事が解決できるかどうか心配するほど奇妙なもので、さらにその後の展開もシムノンにしては驚くほど派手なのです。メグレが拳銃を撃ちまくったり容疑者を何度も殴りつけるなんて、中期以降のより警察小説っぽくなった作品を含めても、めったにないことです。アクション、ハードボイルド系が好きな人に受けそうなぐらいのテンポの良さで、快適に読ませてくれます。
まあ、本作の真相はそういった荒っぽいものであったわけですが、、そのような事件でもやはり印象的な人物たちが登場し、ラスト2ページほどで描かれる事件解決約3ヵ月後の後日談にはしみじみさせるところがあるのは、あいかわらずです。 |
No.20 | 7点 | 家の中の見知らぬ者たち- ジョルジュ・シムノン | 2009/12/25 20:37 |
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酔いどれ弁護士が、自分の家で起こった殺人事件の容疑で逮捕された男の弁護を引き受け、法廷でペリー・メイスンばりの活躍をする(もちろんガードナーみたいなトリックがあるわけではありませんが)という、メグレもの並みにミステリ的な色合いの濃い作品です。
と言っても、自分から他人との関係を断ち、毎日朝からワインのビンをかかえこんで過ごし、自宅(邸宅と呼べるような大きな建物ではありますが)の中でさえごく一部以外には足を踏み入れなくなってしまった老弁護士が、事件をきっかけにして、それまで接したことのなかった町の人々の中に飛び込んで調査をしていく、その意識の変化が繊細に描かれているところは、やはり普通のミステリとは違う感動を与えてくれます。 早川から出版された版を古本で持っているのですが、これがなんと小説家デビュー前の遠藤周作による翻訳なのです。しかし、会話の部分はかなり不自然なところもあったり、誤字なども目につきました。 |
No.19 | 6点 | 黄色い犬- ジョルジュ・シムノン | 2009/12/11 22:25 |
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港町の風吹きすさぶ晩秋の夜に事件が始まるという冒頭だけで、もういかにもシムノンらしい雰囲気が感じられます。しかし終ってみると、意外にもメグレものにしては謎解き度がまあまあ高い作品でした。事件の顛末は最後メグレに説明されるとなるほどという感じですし、犯人の意外性もそれなりにあります。一般的なミステリ・ファンからは受け入れられやすい作品でしょうが、逆にシムノンには意外性など求めない、という人向きではないかもしれません。
タイトルの犬(実際の毛色は黄褐色といったところでしょうか)は、最初の事件の時から事件現場付近をうろついています。容疑者と見なされる大男が飼っているわけで、町の人々を不安にさせるのですが、もちろんバスカーヴィル家の犬みたいな役割ではありません。 |
No.18 | 6点 | メグレと死者の影- ジョルジュ・シムノン | 2009/11/26 00:09 |
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いろいろな地方を舞台にした作品が多い初期メグレものの中で、本作はメグレ警視の自宅からもかなり近い建物で事件が起き、ほとんどパリの街中だけで話は片付いてしまいます。まあ、最後近く国境を越える列車がちょっと出てきますが。
数少ない主要登場人物たちが個性的にじっくり描かれていて(その中にもちろん犯人もいるわけです)、なかなか味わい深い作品になっています。被害者の愛人だったニーヌに対するメグレ警視の優しい感情も印象に残ります。 ただ、いくらパズラーでないとは言え、銃声が聞こえたかどうかという捜査の基本が全く問題にされていないのだけは、ちょっとねえ。 |
No.17 | 5点 | メグレと運河の殺人- ジョルジュ・シムノン | 2009/11/11 22:37 |
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フランス1930年ごろ、運河での荷物運搬に従事する船上生活者たちや運河沿いの居酒屋、それに水門管理者たちの様子が生き生きと描かれているという点では、さすがです。シムノン自身、本作を含む初期メグレものを書いたのは船で暮らしながらだったそうで、そのことも作品にリアリティーを与えているのでしょう。
しかしミステリとしてみると、複雑な謎解きは最初から期待していないにしても、どうも今ひとつ冴えません。中盤ごろまでの段階で犯人の描写がごく少ないせいか、最後で一気にその犯人と被害者の悲しい過去が明らかになっても、感動を盛り上げるための前段階が欠けていて効果が充分に出ていないように思えるのです。 メグレ警視が何十キロもの距離を自転車で走っているところはちょっとユーモラスな感じもありました。 |
No.16 | 8点 | 男の首- ジョルジュ・シムノン | 2009/10/27 21:01 |
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半分も読まないうちに、誰でも真犯人と大まかな犯行計画はわかります。しかし犯行計画はともかく、犯人の正体については、作者は最初から全然隠そうなどという気がないのです。本作で読者をだましてくれるのは、実は犯人ではなくむしろメグレ警視です。
ドストエフスキーの『罪と罰』からの影響が大きい作品で、犯人はラスコーリニコフを極端化したような性格設定になっています。メグレ警視が犯人をつけまわすクライマックスの心理戦は読みごたえがあり、本作だけから判断すれば、シムノンの作風は心理サスペンスということになるでしょう。 逮捕後、死刑執行のごく短い最終章もこの作者らしい後味を残す評判どおりの傑作です。 |
No.15 | 6点 | 怪盗レトン- ジョルジュ・シムノン | 2009/10/13 21:40 |
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このメグレ・シリーズ第1作は、やはり後の作品とは微妙に違うところが感じられます。
まず目につくのは章立て。次作からは初期にはたいてい11章、その後は8~10章ぐらいなのですが、本作では19章と細かく分かれています。メグレの風貌が特に詳しく書かれているのも、最初の作品だからこそでしょう。部下のレギュラーメンバーの内では、リュカがちらっと登場するだけです。途中で殺し屋に殺される刑事はトランスという名前ですが、後の作品でも登場する同名の刑事は別人(親族?)と言うより、クイーンのニッキー・ボーターみたいに作品相互間の矛盾を気にしていないだけのように思えます。説明的な文章が所々あるのも、後の作品には見られない特徴です。 違いばかり強調しましたが、台風の中、港町での張り込みの描写など、やはりいかにもシムノンです。 |
No.14 | 8点 | メグレ罠を張る- ジョルジュ・シムノン | 2009/09/29 21:24 |
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『殺人鬼に罠をかけろ』のタイトルでジャン・ギャバンがメグレを演じた映画が話題になったこともある作品です。切り裂きジャックをも思わせる連続殺人の犯人に対して大がかりな罠をしかけるということで、直属部下の刑事たちだけではなく、いつもは単独行動が多い所轄の違う「無愛想な刑事」ことロニョンも、珍しくメグレの指示の下はりきっています。
罠が功を奏し、容疑者が逮捕されますが(この段階ですぐ連行しちゃうのかなとも思えますが)、さらにその後一波乱待っています。 最終章でメグレが犯人に語って聞かせる内容は、通常のミステリでは推理と呼べるようなものではありませんが、それでもこれこそがメグレ式推理であるとしか言いようがない説得力で迫ってきます。事件解決後のラスト1段落もいいですねえ。 |
No.13 | 7点 | モンマルトルのメグレ- ジョルジュ・シムノン | 2009/09/15 20:45 |
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原題を直訳すれば『「ピクラッツ」のメグレ』。モンマルトルにあるピクラッツというキャバレーから事件は始まり、クライマックスではメグレ警視がこの店に陣取って、刑事たちからの電話報告を受け、指示を与えていきます。
しかし、個人的には『メグレとラポワント』というタイトルにしてもいいのではないかと思ったりもします。若いラポワント刑事はこのシリーズでは常連の一人ですが、本作では最初から最後まで特に重要な役割を果たすのです。 最初の被害者アルレットやおかまのフィリップなど妙に印象的な登場人物たち、スリリングな最終章の展開、最後1ページのシムノンらしいシンプルな筆致による味わい深さ。伏線を張ったフーダニットとは全く違うタイプですが、なかなかおもしろく読ませてくれる秀作です。 |
No.12 | 8点 | リコ兄弟- ジョルジュ・シムノン | 2009/09/01 19:52 |
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メグレ以外のシムノン作品中、初めて読んだのが本作です。この人、こんな小説も書いていたのかと驚いたことを覚えています。
いや、作者の純文学系作品をかなり読んだ現在でも、代表作の一つと言われる本作を改めて読み返してみると、やはりかなり珍しいタイプではないかと思います。シムノンがアメリカに住んでいた時期の作品で、小説の舞台もアメリカ。ギャングの世界の中で肉親を裏切らなければならなくなった男の話です。そのような背景の中で行方をくらました弟を探し出そうとする兄といえば、失踪に始まるハード・ボイルドを思わせるでしょう。 しかし、書き方はいかにもシムノン。主人公エディーの行動と内面描写を巧みに配して、子供のころの記憶から現在の状況までが読者に的確に伝わるよう描いていきます。辛いラストはずっしりと重みを感じさせてくれます。 |
No.11 | 7点 | メグレと殺人者たち- ジョルジュ・シムノン | 2009/08/17 22:14 |
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パリ警視庁(司法警察と訳されることもあります)のメグレ警視が、国家警察総局の同僚と協力して、無軌道な犯罪者グループを追いつめていく話です。フランスの2つの警察組織については、小説を読んだだけでもなんとなくわかるようには書かれていますが、訳者あとがきにくわしく説明されています(少なくとも河出のポケットブック版では)。
謎の人物からの数回の電話に始まり、国家警察総局が扱っていた重大事件へとつながっていく本作は、このシリーズ中でも特にサスペンス豊かで派手な展開で、おもしろく読ませてくれます。メグレが新聞を利用してオフィスではなく自宅に重要な証人を呼ぶというシーンもあったりする等、いろいろな意味でメグレものの中でも意外な感じのする作品です。 |