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空さん
平均点: 6.12点 書評数: 1505件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.50 6点 メグレと田舎教師- ジョルジュ・シムノン 2011/04/11 22:53
冒頭でメグレに助けを求めて来る田舎教師は、村で起こった意地悪ばあさん殺人事件の容疑者として逮捕されてしまいますが、その地方の憲兵隊長も、実際には教師の有罪を信じているわけではありません。よそ者であって、しかも町でなら普通な厳格さを持ち込もうとする教師は、村人たちからは白い目で見られています。そういったフランス田舎の排他性が捉えられた作品です。あとがきではメグレは明らかに田舎嫌いだと書かれていますが、メグレ自身が田舎育ちなので、微妙なところです。
メグレは名物の牡蠣が食べたいこともあって、数日休暇をとって出かけていくというのが笑えますが、小学校あたりをうろついて子どもたちに尋ねて回り、真相をつかみます。最後には、大したものではないにせよとりあえずどんでん返しも用意されていて、全体的にきれいにまとまった佳作という感じです。

No.49 6点 Les rescapés du Télémaque- ジョルジュ・シムノン 2011/03/26 23:35
河出書房の言うところの「本格小説」として1938年に書かれた作品ではありますが、むしろ地方(特に港町)を舞台にした初期メグレものを思わせます。主要舞台はメグレの『港の酒場で』と同じ北フランスのフェカン、謎解き度も並のメグレものより高いとさえ言えるほどです。違うのは、探偵役がメグレではなく素人だということ。素人だからこそ、特に最後の追跡劇など私立探偵小説的なサスペンスもあります。
フェカンの港にニシン漁から帰ってきた船長ピエール・カニュは、殺人罪で逮捕されてしまいます。殺された老人は、カニュ家も絡んだ過去のテレマック号遭難事件の生存者でした。ピエールを救うため、彼とは双子の鉄道員シャルルは、不器用ながら独自に捜査を始めます。
最後、シャルルがディエップでの犯人逮捕に決定的な役割を果たした後フェカンに帰って来て、釈放されたピエールを囲むみんなと合流するところは、不思議な高揚感があります。

No.48 6点 メグレ間違う- ジョルジュ・シムノン 2011/03/06 08:31
タイトルにもかかわらず、メグレが特に重要な点で推理を間違えるわけではありません。途中で、自分の捜査方法が間違っているのではないかと気にするところはありますけれど。
本作では、事件の中心人物である有名な外科医のキャラクターが独特です。メグレもこの外科医を新聞などで知っていたという設定ですが、この人物になかなか会おうとせず、周囲の人物からいろいろ聞き出して攻めていっているところがおもしろいというか。作中でも述べられているように、この外科医がメグレ自身の「等価値の反対」的な存在であるため、そのような捜査の仕方になったということです。たぶん、本書を読んでこの人物に好印象を抱く人はめったにいないでしょうが、それでも奇妙なインパクトのある人物です。

No.47 5点 メグレの途中下車- ジョルジュ・シムノン 2011/02/21 21:45
メグレが出張の帰り、西フランスの田舎町で予審判事をしている旧友を訪ねていったところ、ちょうど連続殺人事件が起こっていて、メグレも首を突っ込むことになるという筋立ての作品です。こういった地方舞台タイプは初期には多いのですが、本作が書かれた時期では珍しいでしょう。
ミステリとしては、一応ごく簡単な心理的トリックが仕込まれているという程度。それより、田舎町の住人たちの階級に対する意識が、メグレの旧友を通して描かれ、息苦しい感じが出ています。犯人の最後の行動は、そこまでやるかと思えるほどで、救いようのない事件を徹底させてくれています。
なお、原題を英語に直訳すれば "Maigret is afraid" で、第6章の最後あたりで「おれはおそろしい」というメグレの台詞が出てくるのですが、これはむしろ「おれは心配だ」ぐらいに訳した方がよさそうです。

No.46 6点 死んだギャレ氏- ジョルジュ・シムノン 2011/02/04 22:05
シリーズ第2作ですが、初期メグレもののパターンが確立された作品と言っていいでしょう。11~13章ぐらいに分かれていて、分量的にもほぼ一定。メグレが地方で起こった事件の捜査に赴くという構成です。第1期の19冊中、パリ市内が中心舞台と言えるのは3作だけです。まあ今回はパリと地方を行ったり来たりしますが。メグレ警視についての風貌描写もほとんどなく、おなじみの名警視といった扱いになっています。
しかし、一方でミステリのスタイルという点では、まだ迷っていたのかもしれません。メグレものとしては非常に珍しい(たぶん唯一)タイプのトリックが使われています。さらに真相解明直前に、こんな手も考えられていたのだと指摘されるのは、ホームズ中の有名トリックです。
それでも、メグレによって最後に明らかにされていく死んだギャレ氏の人物像、それともう一人の人物との関係は、やはりシムノンらしい味があります。

No.45 7点 メグレ警視と生死不明の男- ジョルジュ・シムノン 2011/01/20 21:27
メグレものの中でも、今回は相手がアメリカの殺し屋たちということで、解説にもいつにないスピードとアクションのことが書かれています。確かにそうなのですが、それでも作者の独特な語り口のせいでしょうか、やはりいかにもメグレらしいところが感じられます。
メグレが何人もの人から、アメリカの殺し屋に比べるとフランスの犯罪者はアマチュアに過ぎないと言われ、不機嫌にぶつくさ言っているようなところも楽しめます。「無愛想な刑事」ロニョンの活躍と愚痴もいい感じです。
ただし後から考えてみると、プロの殺し屋にしては、基本的なところに不手際があるのが少々気になりました。また最後は完全にすっきり解決とまでならないのが、このシリーズでは時々あることなので特に不満というわけでもないのですが、今回のような派手なタイプの場合にはどうなのかな、と思えます。
なお、メグレがアメリカに行ったことがある話を『メグレ、ニューヨークへ行く』だと注釈してありますが(p.60)、これは間違いで、メグレがアメリカに研修旅行に行くのは『メグレ保安官になる』です。

No.44 7点 ブーベ氏の埋葬- ジョルジュ・シムノン 2011/01/07 21:35
メグレものではありませんし、冒頭でのブーベ氏の死は単なる病死です。
しかし、そのブーベ氏の隠された過去の秘密を少しずつ明らかにしていくストーリーということでは、かなりミステリ的な作品です。しかも最後には犯罪がらみになってきます。メグレの部下たちの中でも最古参のリュカ刑事は、メグレもの以外にも『汽車を見送る男』等にちょい役で出演していますが、本作ではほとんど主役の一人と言っていいくらいの活躍ぶりです。ブーベ氏の過去を探るもう一人は、地道な聞き込みに歩き回る冴えないボーペール刑事(彼はたぶん新顔)。
以前『自由酒場』評で、セレブな生活からの逃避という主題は作者の純文学系作品にも出てくることを書きましたが、その時意識していた作品の一つが本作です。
ブーベ氏の過去が明らかになった後、短い最終章で描かれる埋葬が、しみじみとした余韻を残します。

No.43 6点 メグレとベンチの男- ジョルジュ・シムノン 2010/12/14 21:21
パリの薄暗い路地で起こった殺人事件。被害者が黄色い靴(当時は派手目なおしゃれと言えばまずこれだったらしいです)をはいていた点が注目されます。
ストーリーはごく普通の警察小説といった感じです。しかし、警察小説風ではあっても、ミステリ度はメグレものの中でも低い作品と言えるでしょう。
本作のテーマは被害者とその家族や友人の姿を描くことにあると思われます。働いていた会社が解散した後も、そのことを家族に知らせず昼間広場のベンチに座って過ごしていた被害者は、どうやって金を手に入れていたのか。どうにもやりきれないような家族の状況が明らかになってしまえば、それでもう小説としてはほとんど終わりで、犯人は誰かということなど付け足しに過ぎません。
メグレ自身第8章の最後でコニャックでも飲まないとやってられないという関係者たちの状況に対してどう感じるかで、評価も変わってきそうな作品ですが、ちゃんといやな気分にさせてくれるということで個人的にはこの点数。

[追記]↑江守さんの疑問へ:フランス語のinspecteurは英語と違い、私服刑事の意味なんです。聞き込みなんかは、ま、フィクションですからね。

No.42 6点 メグレの拳銃- ジョルジュ・シムノン 2010/11/29 20:58
タイトルの拳銃は、メグレがアメリカに行った時に贈られたものだということです。その拳銃に刻印されたイニシャルに関連して、メグレの名前がジュール・ジョゼフだという説明もありますが、これは本作より前に書かれた『メグレの初捜査』とは矛盾しているところです。
一方『メグレ式捜査法』でフランスに研修に来ていたスコットランド・ヤードのパイク刑事が再登場するのは、作品相互間の整合性がとれています。今回はメグレの方がロンドンに行くのですが。
ロンドンのホテルのロビーでメグレがビール等を飲みながら張り込みを続けるところがかなり長々と書かれますが、その間のメグレの感情描写がおもしろいのは、この作者らしいところです。ただし謎解きとは無関係なので、全く評価しない人もいるでしょう。
これも殺人犯が誰かというのではなく、その殺人の裏にどんな事情が隠されていたのかを探っていくタイプの話で、そういうものとしての評価はこれくらいです。

No.41 7点 メグレと消えた死体- ジョルジュ・シムノン 2010/11/10 21:21
メグレものについては、例外はもちろんあるにしても、フーダニット系より最初からほとんど犯人がわかっているようなものの方が合うように思われます。で、本作も怪しい人物というか家族は決まってしまっていて、彼等をいかにして追い詰めていくかというところに、興味は絞られます。捜査、尋問を進めていく中で、容疑者たちの人物象が明確な形をとっていくところが、見所ということになります。
さらに、事件の通報をしてくる「のっぽの女」(原題直訳は「メグレとのっぽ」です)もなかなか魅力的に描かれています。彼女が最後の方でも再度十分な登場機会を与えられる構成もいいですね。
メグレが容疑者を拘引してしまうきっかけは、いくら何でも無茶じゃないかと思えますが、それで事件の核心を探り当てていく手際は、さすがです。その上ちょっとした意外性まであり、なかなかよくできた作品です。

No.40 5点 メグレ夫人のいない夜- ジョルジュ・シムノン 2010/10/26 20:57
奥さんが妹の看病のため留守の間、メグレ警視が家に帰ることに居心地の悪さを感じるのが、微笑ましいような冒頭です。さて、それでも帰宅したとたん呼び出し。お気に入りの部下の一人ジャンヴィエ刑事が路上で撃たれて重傷を負うという事件です。奥さんがいないのをいいことに、警視はジャンヴィエが張り込んでいた家具つきアパートに数日住み込んで、捜査を行うことになります。
二つの別個の事件が偶然重なっているところ、否定意見もありそうですし、個人的にもこういうタイプはあまり好きではないのですが、本作に限って言えば、かなりうまくまとまっていると思えます。このシリーズの中でも謎解き要素は少ない方であるのも、構成のバランスとして悪くありません。
各章に長ったらしい見出しというか内容説明がついているのが、変な作品でもあります。

No.39 6点 メグレ夫人と公園の女- ジョルジュ・シムノン 2010/10/14 21:51
メグレ夫人が事件の捜査をする、なんていうところが楽しい作品です。
彼女が公園で出会った女に関連してちょっとした災難に会うのが発端です。そのことが、警視が担当していた事件とどうやら繋がりがあるらしいということがわかってきて、メグレ夫人も一人で聞きこみ調査を行って、夫をびっくりさせます。そんなに高齢ではありませんが、なんとなくミス・マープルをも思わせるセリフも口にしたりして。
死体のない殺人事件とメグレ夫人の災難との結びつきは最後に明かされますが、それなりに意外性もありうまく考えられています。
全体的に軽快な感じがする作品になっています。殺人事件捜査のきっかけとなった匿名の手紙の筆者は、最後の1文で明かされますが、この書き方もなかなか気がきいています。

No.38 6点 メグレ保安官になる- ジョルジュ・シムノン 2010/09/27 23:06
1940年台後半は、シムノンがまたメグレものに取り組み始めた(一般的には以降がメグレ第3期とされています)時期ですが、この第3期初期は、作者が様々な変化をメグレものに取り込もうとした時期と言えます。ニューヨークへ行ったり、南仏で休暇中だったり、若い頃の事件だったり。本作では思い切って西部劇の世界にメグレを放り込んでいます。舞台はアリゾナ州の砂漠の中の町。
タイトルにも関わらず、メグレが保安官として活躍するわけではありません。司法警察警視として名誉副保安官みたいなバッジはもらっていますが。若い女が汽車に轢かれた事件の検死審問をメグレが傍聴する話で、ほとんど全編法廷ものといった展開です。
メグレが慣れない検死審問のやり方に戸惑いながらも自分なりに出した結論が、事件担当副保安官の解決と一致していたということですが、結末の意外性はメグレものの中でも特に希薄です。しかしアメリカ南西部の空気が非常に感じられるのが魅力になっています。

No.37 6点 サン・フィアクル殺人事件- ジョルジュ・シムノン 2010/09/12 10:32
サン・フィアクルはメグレが生まれた村。地方警察に届けられた犯罪予告状が警視庁に回ってきたのを目にとめたメグレが、故郷での事件を捜査に出かけます。冒頭はその村で冬の早朝、彼が目覚めるところから始まり、いきさつは後から説明されます。この田舎の雰囲気がいいのです。
殺人方法は松本清張の短編にも似たアイディアがあったなあと思わせるトリックです。これは早い段階で明かされますが、怪しい登場人物が何人かいて、真犯人が誰か迷わされます。最初の犯罪予告状については途中から無視されてしまっていますが、後から考えてみるとまあ筋道はとおっているかな。
そんなわけでかなり謎解き度が高い作品ですが、意外なことにメグレは最後まで傍観者という感じで、ほとんど事件を解決してしまうのは他のある登場人物なのです。様々な仮説を立てながらクライマックスに向かう夕食の場面は、かなり緊迫感がありました。

No.36 6点 13の秘密- ジョルジュ・シムノン 2010/08/29 22:49
同じ頃書かれた、それぞれ13のショート・ショートを収めた3冊「秘密」「謎」「罪人」のうちの1つです。本作は基本的にパズラー的要素が強い安楽椅子探偵のタイプになっています。
今回読み返してみて、一人称の語り手については名前も職業も出てこないことに気づきました。シムノン自身と考えてもいいのでしょうが、名無しのオプならぬ名無しのワトソン役です。
1編が10ページもないぐらいで、解決もものたらないのが多いのですが、最も気に入ったのはかなりな大技の『三枚のレンブラント』。また最後の『金の煙草入れ』は例外作で、シムノンらしい心理的な味わいがあります。
創元推理文庫に一緒に収められているメグレものの長編『第1号水門』は、最初に起こるのが傷害事件で、全体的には非常に地味な話です。この負傷した河川運輸業者デュクローが完全に事件の中心人物で、彼の人物造形が印象に残る作品です。メグレではなくデュクローの視点から書かれてもよかったように思えるほどです。
なお、メグレのファースト・ネームがジュールであることはいくつかの作品に書かれていますが、本作ではなぜだかジョゼフとされています。

No.35 7点 倫敦から来た男- ジョルジュ・シムノン 2010/08/16 20:40
50年以上前に雑誌掲載されて以来絶版のままだったのが、昨年たしか3度目の映画化にあわせて、やっと新訳が出たシムノンの「本格小説」初期を代表する作品です。
港で起こった殺人事件を目撃した男、というとメグレもの『港の酒場で』との共通点も感じますが、本作はその目撃者の立場から描かれます。この目撃者マロワンが夜勤の港湾線路切替手であるという設定が、うまくできています。殺人と言っても、殺意があったかどうか明確ではありませんが。争いの動機となった鞄からマロワンが見つけたものは大金…それをどうするか決断のつかないままに、大金を持っているという意識だけ奇妙にふくらんでくるあたり、シムノンらしいタッチです。
警察が見張りを続ける港町で、目撃者と殺人者どちらもお互い疑心暗鬼、その状況が破局に向かっていくさまが描かれます。
20年ぶりぐらいに再読してみて、最後の事件が起こった後のエピローグとも言える最終章がこんなに長かったっけ、という感じでした。

No.34 6点 メグレの初捜査- ジョルジュ・シムノン 2010/07/30 21:15
シリーズ開始から20年近く経ってやっと語られる、メグレが警察に入ってまだ4年目という若い頃の話です。
メグレについての批評で言われる「運命の修繕人」という言葉は、本作の中で出てきます。警察に入る前、医者の勉強をしていたメグレが目指していたのは、結局「運命の修繕人」だったのだという説明がされているのです。また、ジュール・アメデ・フランソワ・メグレという彼のフル・ネームが明かされるのも本作です。というより、本作を書いてる途中で2つのミドル・ネームも入れることにしたんだろ、と思えます。
1910年代の事件。警視になってからのメグレものに登場する新米刑事たちの視点から書かれたような感じもする本作。上司に辞表を叩きつけてやろうと思いつめる若いメグレに同情を感じたりもして、いつもとは違う雰囲気が楽しめました。

No.33 6点 カルディノーの息子- ジョルジュ・シムノン 2010/07/16 21:11
ハヤカワ・ミステリのシリーズから出ている作品。最初に起こる事件は、主人公の妻の家出、それも明らかに昔の男と一緒にというものです。日曜日のミサから帰ってきてみると、消えていた妻。さてカルディノーの息子(ジュニアと訳した方がよさそうです)と呼ばれる主人公はどうするのか。
要するに失踪人探しの話ということになるわけで、その意味ではそれなりにミステリ的です。さらに最後には殺人まで起こります。
全体的には、後の『リコ兄弟』と共通する筋立てですが、それほどずっしりした深みは感じられません。それでも、「妻を寝取られた男」がその事件をきっかけにして自分や周囲の人々を再認識していくところはやはり読ませてくれます。解説で都筑道夫がシムノンを「主観的な作品」と評しているのもなるほどと思えます。

No.32 5点 メグレ式捜査法- ジョルジュ・シムノン 2010/06/30 22:39
原題直訳だと『わが友メグレ』。メグレ警視は自分の友だちだと酒場で吹聴した男がその夜殺されたという事件です。舞台となる南仏のポルクロール島は、現在観光名所になっているそうです。その島へ、メグレはちょうどメグレ式捜査法を研修に来ていたスコットランド・ヤードのパイク刑事と一緒に出かけていくことになります。
メグレものにしては登場人物がかなり多く、ちょっとごたついた印象があります。最後に事件が解決されてみると、結局不要ではなかったかと思われる人物が何人もいるのです。容疑者をちりばめるフーダニットでないだけに、少々不満なところです。
今回再読して、第8章で教会の鐘の音が輪のように広がっていく描写は、後にシムノンが書いた純文学の傑作『ビセートルの環』の冒頭につながるものであることに気づきました。

No.31 8点 汽車を見送る男- ジョルジュ・シムノン 2010/06/14 21:44
シムノンの数多い犯罪者の側から描かれた小説の中でも、この犯罪者はチェスが得意で、警察を出し抜こうといろいろ策を廻らしたりするという意味では、ミステリ的な味わいのある作品です。メグレもの『オランダの犯罪』でも舞台となった港町デルフザイルで話は始まりますが、すぐにアムステルダムを経由して舞台はパリに移ります。
新潮社の翻訳では、主人公の犯罪者が敵役として意識する警視はルーカスとなっていますが、これはメグレものでおなじみリュカ(Lucas)のことでしょう。この英語風な人名読みから考えても、またフランス語の原題ではなく英語題名が記載されていることからしても、翻訳はどうやら英語版を元にしていると思われます。
その翻訳は、主人公が時々書き記すメモで自分のことを「余」と訳す(将軍様じゃあるまいし)など、あまりに古くさい言い回しです。しかしその点を差し引いても、犯罪心理小説の傑作だと思います。

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空さん
ひとこと
ハンドルネームの読みはとりあえず「くう」です。
好きな作家
E・クイーン、G・シムノン
採点傾向
平均点: 6.12点   採点数: 1505件
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