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[ 本格/新本格 ]
死化粧する女
甲賀三郎 出版月: 1955年01月 平均: 7.00点 書評数: 2件

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No.2 7点 蟷螂の斧 2013/01/16 22:45
(タイトル・女⑦)犯行現場に、短時間のうちに夫々思惑のある6人の人物が登場する。現場では、それぞれの人物は鉢合わせはしていない。このプロットは良くできており、また伏線や意外性もあり面白いと思いました。昭和11年の作品ですが、古さは感じません。(ただし、旧かなづかい、円タク=タクシーなどありますが・・・)古い作品でも良いものがあるんだなあと感心しました。

No.1 7点 おっさん 2012/08/25 23:10
日本図書センターの<甲賀三郎全集>、最終第10巻は、

『乳のない女』(昭7、やまと新聞)
『死化粧する女』(昭11、黒白書房<かきおろし探偵傑作叢書3>)

の二長編を収めます。

前者は、連載開始時点で、獅子内俊次ものの第一作だったわけですが、単行本化されたのが、『姿なき怪盗』(昭7)、『犯罪発明者』(昭8)のあとの昭和9年ということもあってか、本文中には、それら二作への言及――おそらく連載終了後の加筆――があります。
じつは筆者が今回、本<全集>を読み返すにあたって、いちばん楽しみにしていたのが、この『乳のない女』でした。
といっても、学生時代、ミステリ読みの先輩から拝借した、元版の湊書房版<全集>を通読したさいには、まるで印象に残らなかった作品です。
気になりだしたのは、『このミステリーがすごい!』2000年版の色物企画「世界バカミス全集」(架空叢書。編者は霞流一、四谷中葉、小山正、杉江松恋)のラインナップに、そのタイトルを発見してからです。編者のコメンタリーにいわく。「謎のダイイングメッセージ、驚くべき凶器、意外なる犯人と三拍子そろったド本格ながら、長らく絶版状態にあった幻バカミス、禁を破ってここに登場!?」
え~っ、そんな面白本だったっけ???
こんなお話。

「乳のない女――神林――高円寺」。夜の銀座の街角で、昭和日報の記者・獅子内の腕に倒れかかってきた男装の麗人は、謎の言葉を残して息絶えた。獅子内もまた、背後から何者かに殴り倒され・・・
気がつくと、遺産相続をめぐる連続殺人に巻き込まれ、ついには重要容疑者として警察から追われる羽目になった獅子内。逃走中の彼が、真相究明のため訪れる先々で待ち受けるのは、しかし新たな死だった!

読み返してみて。どこが“ド本格”やねんw
「ダイイング・メッセージ」は、毒に犯された被害者のうわ言だし(とってつけたような“乳のない女”の種明かしも、そんなのは、乱歩や正史にまかせておけばよろしい)、「驚くべき凶器」も、最初の事件のアレだとすれば、使うことのデメリットのほうが、大きすぎ(被害者が犯人のそばで昏倒したら、どうするの?)。「意外な犯人」は、まあミスディレクションの工夫は認めるとしても、最終的に(身元証明のできない“架空人物”では)遺産相続なんて無理じゃないかなあ。
おおらかなヒーロー(「チョッ、警察に追い廻されながら、探偵をするのは、随分、骨が折れらァ」)による、逃亡者型サスペンス――さながら元祖『金田一少年の殺人』w――と割り切って、随所に突っ込みを入れながら、そのジェットコースター的ノリを楽しむのが吉でしょう。

むしろ今回、積極的に推したい気分になったのは、密告状を受け取った弱小新聞の記者が、空家で発生した、奇妙な女優射殺事件(被害者は、なぜか死化粧のように、顔を蒼白く塗っていた)の渦中に飛び込んでいく、併録の表題作のほうでした。
原稿枚数500枚台の『乳のない女』にくらべると、その半分に満たない分量(なので、この『死化粧する女』は、いまなら中編にカテゴライズされるか?)ですが、書き下ろしの単行本とあって作者も気合を入れたのか、いたずらにスリラー調に流れることなく、捜査小説としてまとまっています。
犯行時刻前後、現場付近に、思惑の異なる複数の人間が集まっていたという、人工的なプロットも、キャラクターの動機づけの主軸に愛(男女の、あるいは肉親への)を置くことで、心情的な説得力を持たせていますし、そこから二転、三転してのサプライズ・エンディングには、まぎれもない本格スピリットを感じます。ヒューマンな読後感も良し。
あれ、もしかしてコレ、甲賀のベスト長編候補か?(今回の再読まで、気づかなかったw)。

せっかくですから、この<全集>を読み返してみての、筆者的、甲賀三郎お薦め作品をまとめておきましょう。
スタンダード・ナンバーの「琥珀のパイプ」、『姿なき怪盗』を別格とすれば――

短編では「四次元の断面」(第6巻)
中編なら「二川家殺人事件」(第8巻)
そして長編が『死化粧する女』(第10巻)ですね。

後期の作に集中したのは、我ながら意外。でもこのへんの甲賀は、本当にうまいと思います、ハイ。
もちろん、<全集>未収録作品にも、大物『支倉事件』や、「妖光殺人事件」「血液型殺人事件」といった、要注目のナンバーがあるわけですが・・・そこらはまた、別な機会にレヴューすることにいたしましょう。

(付記)表題長編を対象として、「本格」に登録しました(2012・11・13)。


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