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[ サスペンス ]
急行十三時間
甲賀三郎 出版月: 2001年12月 平均: 4.00点 書評数: 1件

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日本図書センター
2001年12月

No.1 4点 おっさん 2012/03/30 14:49
<甲賀三郎全集>第3巻(日本図書センター)、その収録作は――

①公園の殺人 ②急行十三時間 ③女を捜せ ④荒野 ⑤黒衣を纏う人 ⑥暗号研究家

大正十五年/昭和元年(1926)に『新青年』に発表された、私立探偵・木村清ものの短編②が、表題作になっています。
とりたてて傑出した出来でもないのに・・・と思っていましたが、読み返してみると、全体に低調なこの巻のなかでは、なるほど光っています。
いわくつきの“身代金”を携行し夜行列車に乗り込んだ青年の、東京~大阪間の緊迫した“急行十三時間”が描かれ、待ち構える、落差のあるオチが効果的。

本書にはもうひとつ、木村清ものが収められています。
新婚旅行にあたって、なぜか片田舎の淋しい“荒野”を訪れることを要求した新婦が、同地で失踪する、その④(昭和二年の『新青年』掲載)は、プロットの批判的な吟味には耐えられませんが、前段の過剰な、しかし引き込まれるムードづくりといい、後段の木村探偵の、面白い役どころ(これは②にも共通する長所)といい、印象に残ります。

ノン・シリーズ短編の③⑤⑥あたりは、そうした見どころもなく(するとプロットの不自然さばかりが目について・・・)冗長。
甲賀三郎研究家のアイナット氏によると、⑥で本名が伏せられている探偵役は、シリーズ・キャラクターの“あの人”の可能性が高いということですが、その怪盗・葛城春雄が主役をはるのが①です。

この『公園の殺人』は、甲賀が専業作家になった昭和三年に、『講談倶楽部』に連載された長編(ちなみに翌四年に同誌に連載されるのが、江戸川乱歩の『蜘蛛男』)。
タクシーの衝突事故の現場から、乗客の青年紳士が姿をくらまし、連れの婦人の変死体が発見される――という奇妙な発端から、巨額の財産をめぐる三つ巴の争い(その一翼を担うのが、怪盗・葛城)が展開されていく、ルパンもの顔負けの冒険ロマンです。
近過去の、関東大震災をプロットに組み込んで(のちのミステリ作家が、第二次世界大戦を利用するように)複雑な犯罪メロドラマを紡ぎだした、その構想力は買えます。
しかし、ミステリとしては失格。
不意に息苦しくなり、目まいを感じ昏倒し(絶命し)ていく被害者たち――というハウダニットの謎を中軸にしながら、その種明かしがあまりに安易なのです。
「○○はどうして手に入れたのか、最近に発明された恐るべき×××を持っていました」ですませるのかい。
それに、周囲に第三者がいても特定の人間だけをピンポイントで倒せるのはなぜなの? 教えて、葛城さん。
“理化学トリック”の第一人者、甲賀三郎ともあろう人が、こんなエセ科学に逃げてはいけませんよ。

あと、これは『幽霊犯人』や『池水荘綺譚』もそうでしたが、長編のタイトルがピンボケ気味。このへんの“商品名”のセンスを考えると、ライヴァルだった乱歩の大きさがよくわかりますw

(付記)表題短編を対象として、「サスペンス」に登録しました(2012・11・13)。


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